息もできない

息もできない

日曜日に渋谷のシネマライズで「息もできない」をみました。

評価:(90/100点) – 見てるだけでも本当に”息もできない”です。


【あらすじ】

ヤクザの下請けをして過ごすチンピラのサンフンは、ある日道端で勝ち気な女子高生・ヨニと出会う。一歩も引かない彼女に好意を感じたサンフンは、次第に甥っ子の遊び相手として、そして自身の話相手として、ヨニに心を開いていく。共に複雑な家庭環境を持っていたサンフンとヨニだったが、やがてヨニの弟ヨンジェがサンフンの部下になったことで運命が捻れていく、、、。


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【感想】

本日は、日曜日に見てきました「息もできない」です。公開から日が経ったこともあり感想はあらかたweb上に出そろっていますから、要点のみを書きたいと思います。
この作品は、暴力でしか自己表現が出来ないサンフンが、もがいて、嫌気がさして、感情を爆発させて、だけど女性によって少しポジティブになれて、けれど結局報いを受けるという、重たい話です。
作品内に出てくる人物で一般的な意味で幸せそうな人間は一人もいません。家庭内暴力もあり、娘を殺す親もあり、友人は殺され、親族が人殺しもやります。だけれども、ヨニとサンフンが一緒に居るときだけお互い馬鹿みたいにくだらない会話が出来るんです。そこでは家庭の事情や仕事の内容なんて関係無く、一対一の不器用で下品な言葉が飛び交う、けれども真に安心できる会話があります。
その一方で、なんと世界の殺伐としたことでしょうか。サンフンという男は報いを受けて当然の酷いことをやってきています。だけれども、その彼が本当に魅力的に描かれています。
作品内では、全員が奇妙にすれ違っていきます。「パレード」の時の話でも書きましたが、人間が全てをさらけ出して会話をすることはまずありません。必ず他人には言わない、他人には見えない部分があります。本作でも、そのすれ違いという部分が肝になってきます。各人が誰に対してどこを隠してどこをさらけ出すのか? それがおぼろげに見えたとき、この映画がとてつもない事を描ききっていることに気付くはずです。
それは暴力の連鎖であり、個々人の幸せの定義の仕方であり、そして感情の折り合いのつけ方です。
こんなとんでもない作品を単館にとどめるのはもってのほかだと思いますが、幸いにして今週末から拡大ロードショーらしいですので是非是非映画館でご鑑賞下さい。


なんか土日は「第9地区」「月に囚われた男」「息もできない」と良品3作しか見なかったので、ちょっと奇妙な罪悪感を感じています(笑)。アリスの前に自制も兼ねてあえて「ダーリンは外国人」を踏みに行こうかと思案してます、、、たぶん明日か明後日にでも。
あんまり良い映画ばっかり見てこれが当たり前になると良くないですから(笑)。
「良い映画を見て感動するには倍の糞映画を見よ!」というのがモットーですんで(苦笑)。

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記事の評価
月に囚われた男

月に囚われた男

2本目は「月に囚われた男」です。

評価:(90/100点) – レトロ感たっぷりの王道的SF傑作


【あらすじ】

サム・ベルはルナ産業に3年契約で雇われて月に単身赴任している。彼の仕事は自動削岩機4体が採取したヘリウム3を回収して地球に送出することである。任期満了まで2週間に迫ったある日、彼は削岩機へ月面車で乗り込むのに失敗し、削岩機のキャタピラに車ごと突っ込んで負傷してしまう。相棒のロボテック・ガーティに救われた彼だが、何故かガーティより月基地からの外出禁止例を出されてしまう。なんとか外に出たサムは、月面車にて事故現場へ向かう。そこにはキャタピラに突っ込んだままの車と負傷して昏睡している自分自身の姿があった、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> サム・ベルの仕事模様
 ※第1ターニングポイント -> サム2号がサム1号を救出する
第2幕 -> サム1号とサム2号の捜査
 ※第2ターニングポイント -> サムが過去のライブラリ映像を見て隠し部屋を発見する。
第3幕 -> 月からの脱出


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【感想】

本日の2作目は「月に囚われた男」です。監督のダンカン・ジョーンズにとっては長編映画の1作目です。関東では2館でしか上映していませんが、私の見た回は3~4割ぐらいの入りでした。あまり宣伝して居ないこともあるのでしょうが、映画の出来を考えればもっと入っていても良いように思えます。
長編第1作目とは思えないほどに良く出来た素晴らしい作品でした。

話のプロット

本作は一発もののアイデア勝負の作品です。サム・ベルが三年間の密閉空間かつ単独というストレスフルな労働環境の中で精神を病んでいくように見えて実は、、、という類のソリッドシチュエーションで、登場キャラクターはわずかに3人です。
サム・ベル1号とサム・ベル2号、そして相方のガーティのみで90分間のストーリーを転がし続けます。
この転がしかたがとても見事で、状況の変化やキャラの関係性の変化に併せてどんどん違った展開が表れます。サム1号とサム2号の視点が混乱しているように見えても、実際には彼らの手の甲を見ればどっちがどっちか分かるようになっていますし、その演出の仕方が大変見事です。
おそらく本作は「2001年宇宙の旅」と「惑星ソラリス(タルコフスキー版)」に多大な影響を受けています。サムとガーティの関係はモロにボーマン船長とHALのそれですし、幻覚の見方や家族との関係はクリスのそれと似ています。60年代~70年代初頭のレトロSFのテイストを上手く利用して低予算をカバーする手腕は、とても第1作目とは思えません。
そして、最後の最後、エンドテロップの最後に思いっきり控えめに凄い一文が表示されます。
「(C) LUNAR INDUSTRIES LTD.」



え、これルナ産業の広報映像だったの? ってことは裁判用のネタ?

【まとめ】

ミニマムな構成かつ低予算(5億)ながら、非常に良くできたSF作品です。特にアーサー・C・クラークやレイ・ブラッドベリの短編が好きな方であれば間違いなく気に入ると思います。
公開館が少ないのでなかなか劇場でみるのは難しいかも知れませんが、是非DVDが出てからでも見てみて下さい。間違いなくオススメです。

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第9地区

第9地区

本日はSF映画2本立てです。

1本目は「第9地区」です。

評価:(95/100点) – ヘタレ小役人よ、いまこそ立ち上がれ!!!


【あらすじ】

今から20年前、南アフリカのヨハネスブルグに宇宙船が飛来してきた。そのまま居着いてしまったエイリアンは、その容姿とゴミ漁りの意味を込めて「エビ」と呼ばれ第9地区に隔離されていた。そして現代、軍事組織MNU(マルチ・ナショナル・ユナイテッド=多国籍連合)はエビ達をヨハネスブルグの郊外に移住させる計画を発動する。計画の総指揮は、エイリアン課の真面目な職員・ヴィカスに任された。軍人達の暴走を横目に、ヴィカスは第9地区に向かい移住同意書へのサインを集めるが、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> UFOの出現からこれまでの概要。移住計画の発令。
 ※第1ターニングポイント -> ヴィカスの左腕がエビ化する。
第2幕 -> ヴィカスの逃走と黒い液体の奪還作戦。
 ※第2ターニングポイント -> 司令船が撃墜される。
第3幕 -> 第9地区での最終決戦。


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【感想】

やっと、、、やっと日本公開されました。昨年の夏休み映画にして全米で大ヒットした昨年のSF最高傑作、30億というCG映画にしては安い制作費ながら205億円の興収を叩きだしたモンスター映画、「District9」です。
すでにDVDが出てますので映画ファンならばチェック済みの方も多いと思いますが、ようやく9ヶ月遅れでの公開です。去年の秋頃はDVDスルーすら怪しかった冷遇のされ方でしたが、なんとかかんとか公開されたことに安堵しつつ、やっぱり日本の配給会社の方針に疑問を感じずにはおれません。
本作のストーリーは劇場でご堪能いただくとして、やはりずば抜けているのは観客感情の操り方です。
序盤はエビが完全に卑しい低脳なエイリアンにしか見えないんですが、あるポイントからエビ同士の会話シーンが入るようになります。そしてヴィカスがエビ化するにつれ徐々にエビの事情が見えてきて、観客もエビに親近感が湧くようになります。それと同時に、エビにだってインテリで良い奴がいるということが明らかになります。そして極めつけは地下ラボであるものを発見するシーンです。ここで完全に人間側が悪になります。そして人間どもの非道さが観客に浸透してフラストレーションがピークに達した所で、遂にヘタレのヴィカスが熱血ヒーローモードに入るわけです。それこそ「ガンダム大地に立つ!!」のようなロボットものの第1話よろしく、いままでヘタレだった男が意を決して強大な力を手に入れて己の正義のために立ち上がるわけです。これが嫌いな男の子は一人もいないと断言できます。熱血ってやっぱり万国共通なんですね。
とはいえ、プロットは結構雑だったりします。黒い液体でエビ化する原理が説明無しだったり、司令船から母艦をリモートコントロール出来る原理の制約事項の説明が無かったり(=制約無しなら司令船が飛ぶ必要がない。)、どうしてもチグハグな感じが否めません。しかしそれを差し引いても、キャラクターの追い込み方は本当に見事です。「こうなったら、こうするしかない」という追い込まれ型の行動原理が全編続いていて、物語の推進力は最後まで衰えることがありません。だから、2時間近くがあっという間に過ぎてしまいます。
もちろん、本作はご存じの通り「ケープタウン第6地区」と「居着いちゃった宇宙難民」のアイデアを混ぜたものです。ですから黒人のメタファーとしてエビを見ることは可能ですし、それこそアパルトヘイトに対する怒り(人間/白人共をぶっ殺せ)と捉えることも可能です。
しかし、そういった政治的な目線の好みを脇に置いても、第1級のすばらしいSF作品であることは間違いありません。
本作がコケでもした日には金輪際SFは輸入されないんじゃないかというぐらい危機感があったりしますので、是非是非、気になった方は劇場に足を運んでみて下さい。GAGAに儲けさせるのは癪ですが(苦笑)、映画ファンなら必見の作品です。
いや噂に違わぬ素晴らしい出来でした。

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シャッターアイランド

シャッターアイランド

本日はレイトで

シャッターアイランド」を見ました。

評価:(62/100点) – どうしたスコセッシ、、、。


【あらすじ】

連邦保安官のテディは相棒のチャックと孤島「シャッターアイランド」に捜査のためやってきた。犯罪者収容所のなかでも精神病患者に特化したシャッターアイランドで、レイチェルという女性が密室から忽然と姿を消したためである。捜査を続ける二人だったが、やがてテディは亡き妻の仇を探しにシャッターアイランドに入り込むチャンスをうかがっていたと語り始める、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> テディとチャックの出会い
 ※第1ターニングポイント -> シャッターアイランドに着く。
第2幕 -> レイチェルの捜索とレジェスの捜索
 ※第2ターニングポイント -> テディが島からの脱出を決意する。
第3幕 -> チャックの救出と真相


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【感想】

さてさて金曜恒例の新作レイトショーですが、今週はマーティン・スコセッシ監督の「シャッターアイランド」です。言わずと知れたハリウッド映画界・最重要監督の一人であり、なにより「ハスラー2」と「タクシードライバー」という巨魁を打ち立てた教科書に出てくるレベルの大巨星です。
で、その新作なんですが、、、公式サイトを見ていただくと分かるようにひたすら「謎」という名のどんでん返しを猛プッシュして来ていまして、ある意味では宣伝の失敗と言えるかも知れないんですが、、、、酷い。
一応サスペンスなんで多くは書きませんが、このどんでん返しを宣伝しすぎているために本末転倒になっています。どんでん返しっていうのは意表を突かれるから効果があるわけで、最初から「どんでん返しあります!」って言われたら何の意味も無いんです。
ネタバレギリギリをえぐると、要は「シャマラン問題」です。
これは、ご存じ「シックス・センス」以降のM・ナイト・シャマラン監督が、ひたすらラストの立場逆転や世界観どんでん返しにこだわり続けていることに関する議論の総称です。早い話が「ラストでひっくり返すための前振りを続けるって映画としてどうよ?」という論点で、面白ければ良いと思うか映画でやるなと思うかで意見が分かれるわけです。
ただ本作は、第2幕までの描写はそこそこ出来てはいます。だから見ている間はそこまで気になるほど酷いとは思いません。ただ、、、やっぱり10年遅いんです。いまさら「シックス・センス」のど直球なフォロワーを見せられても、アイデアに手垢が付きすぎていてまったく驚けません。
わかったのは、やっぱりデヴィッド・リンチの悪夢描写はずば抜けているという事と、シャマランも意外と映画力あるんだなって事です(笑
スコセッシ監督には、そろそろディカプリオをやめて昔のような男泣き必至の名作をまた作っていただきたいです。興行成績はともかく、作家としての彼のフィルモグラフィー上では間違いなく無かったことになる類の珍作でした。余韻の残し方なんかはこれぞスコセッシって感じの繊細さですから、まだまだ現役で撮っていただいて、もっともっと彼の作品が見たいです。
オススメはしづらいんですが、、、役者のファンならば間違いなく押さえておいた方が良いです。俳優や演出は全く問題無いですから。

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誘拐ラプソディー

誘拐ラプソディー

昨日の2本目は

誘拐ラプソディー」です。

評価:(12/100点) – コメディってなんで簡単だと思われてるんかね?


【あらすじ】

伊達秀吉は借金苦から自殺しようと訪れた公園で家出少年の伝助と出会う。伝助が金持ちだと気付いた秀吉は、彼の家出を手伝うと言いつつ誘拐、両親に5000万を要求する。しかし、伝助の父親は暴力団の一派、篠宮組の組長・篠宮智彦その人であった、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 秀吉が自殺しようとする。
 ※第1ターニングポイント -> 伝助の母に身代金を要求する。
第2幕 -> 身代金と逃亡。
 ※第2ターニングポイント -> 伝助を桜公園に捨てようとする
第3幕 -> 終幕。河原にて。


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【感想】

つまんね。



とか一言で終わらせるのもなんなんで、しっかり書きます(苦笑)。
本作は、間抜けな誘拐犯・秀吉を主役として、誘拐・ヤクザからの逃亡を巡るドタバタコメディです。構造的には良くある話でして、要は「秀吉と伝助のほのぼのした逃亡」と「追う篠宮組の殺伐さ」のギャップで笑わせようとしています。
ですが、ことごとく笑いが滑っています。というのも、この笑いの要素が全て一発ギャグだからです。レッドカーペット式と言いましょうか、面白げな動きだったり変な声で笑わせようとする程度の低いギャグなんです。せっかく哀川翔が変な声を出しても、全然笑えません。なぜなら、その場面のトーンはいたって真面目でシリアスだからです。公開二日目にして早くも観客が5~6人しか居ませんでしたが、上映中に愛想笑いすら起きませんでした。それもそのはず、結局ドタバタコメディをやりたいのかヒューマンドラマをやりたいのか、トーンがハッキリしないから、笑いようがないんです。
この作品を見ていて一番恐ろしいのは、「犯罪者に感情移入させる」というかなり難易度の高い事を目標にしながら、まったく秀吉の背景を描かないことです。
秀吉は前科持ちだっていうんですが、何して捕まったんでしょう?
借金まみれだって言うんですが、何をしてお金を擦ったんでしょう?
妻子が居ないっていうんですが、元から居ないのか離婚したのかどっちなんでしょう?
結局、この物語でハートウォーミングな感じに着地させるのであれば、秀吉がなぜ伝助を可愛がるのかをもっと丁寧に描かないと行けません。父に相手にされなかった自分を重ねているのであれば、きちんと父親との過去を描くべきです。そこが言葉で流されてしまうために、ただ単にバカなガキに流されているようにしか見えないんです。これでは秀吉に感情移入するのは無理です。
さらに輪を掛けて酷いのは物語の進め方です。この物語には確かな推進力が存在しているんです。誘拐前半は「身代金を手に入れる」こと。誘拐後半は「伝助をおばあちゃんの家に届ける」こと。ところが、前者はともかく後者にいたっては全く具体的な描写がありません。そもそもおばあちゃんの家を探しているように見えないんですよ。ただドライブしているだけなので全く緊張感も無く、物語が完全に止まってしまいます。しかもそれが一時間近く続くわけです。なんでこんな雑な事をするのかさっぱり理解出来ません。
極めつけはキャラの存在感のなさです。船越英一郎を刑事役にして哀川翔をヤクザ役にしてる時点で、このキャラは完全に記号なんです。ベタで意外性のカケラもないキャスティングをした以上は、当然過去に彼らが演じた船越刑事や哀川組長をスタート地点にしてさらにそこからもう一段積み重ねないといけません。それなのに、記号以上の存在にはならないんです。「みんなが知ってるこんな感じのキャラです」という放り投げ方をされても、面白くもなんともありません。

【まとめ】

おそらくきちんと演出力のある監督が撮れば、面白くなる素材だと思います。しかし本作に限って言えば、正直な所、褒める要素が見あたりません。強いて言えば菅田俊さんはやっぱりすごい役者だなって位です。
哀川さんのファンの方には、ゼブラーマン2は絶対見に行くんでこれは勘弁して下さいと



すんませんした!!!(`・ω・´)ゞ

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半分の月がのぼる空

半分の月がのぼる空

今日は

半分の月がのぼる空」です。

評価:(100/100点) - 単なるお涙頂戴では無い、難病ものの大傑作。


【あらすじ】

裕一は肝炎で入院している。ある日夜中に抜け出した罰として、看護婦の亜希子から一人の少女・里香の友達になるよう頼まれる。しぶしぶ了承した裕一だったが、次第に彼女に魅かれていく。彼女は心臓に穴が開く重病で病院を転々としており、生きる希望を失っていた。
一方、元心臓外科医の夏目はかつて妻を助けられなかったことに絶望し内科に転属していた。彼の元に院長から直接、心臓に穴の開いた少女の手術を行うよう依頼が来る。自身の体力を理由にこれを固辞する夏目だったが、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 裕一と里香の出会い。
 ※第1ターニングポイント -> 砲台山での告白。
第2幕 -> 裕一と里香の恋愛。
 ※第2ターニングポイント -> 裕一の退院。
第3幕 -> 終幕。


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【感想】

本日の1本目は「半分の月がのぼる空」です。まったく前知識を入れずに見に行ったので、ラノベの原作やアニメの存在はまったく知りませんでした。見終わってwebを見た限りだと原作ファンにはあまり好評では無いようですが、私は大傑作だと思います。
このブログでは去年の10月終わりから5ヶ月で104本の映画について色々書いてきました。その中で満点を付けたのはたったの1本、サム・ライミ監督の「スペル」のみです。今、私は再び満点をつけるに値する作品を紹介できる喜びを噛みしめつつ、そしてどこまでネタバレしていいのか怯えつつ(笑)、この大傑作を紹介させていただきます。断言しますが、「難病もの」というジャンルの中で本作を越える作品はしばらく期待できないでしょう。
文句なしの大傑作です。

作品のストーリーとテーマについて

本作はボンクラな高校生の裕一と、難病と闘うツンデレ美少女・里香の出会いから始まります。余談ですが、この”ツンデレ”という要素が非常に類型的な描かれ方をしているため、最初は正直ちょっとオタク臭い作品に見えました(←ラノベなんで仕方ないんですけどね)。里香は冷たい態度で裕一をパシリとして使い倒します。ある日、友達からの「好きな女の頼みなら何でも聞いてやれ」というアドバイスを真に受け、裕一は夜の病院を抜け出して里香を砲台山に連れて行きます。そこでの里香の独白と裕一からの告白を機に、二人の中は急接近、見ているこっちがニヤニヤしっぱなしになるような甘酸っぱい青春恋愛模様が展開されます。そしてここから「ツンデレ少女」と「難病もの」というアクの強いストーリーが、完全に類型的な形で展開していきます。はっきり言ってベタベタすぎる展開でちょっと中だるみしますが、忽那汐里のアイドルパワーで物語を持たせます。そして、第二幕の終了と同時に物語はあり得ない方向に急展開し、観客の目の前に本作の真のストーリーが放り出されます。
このストーリーが見えた途端、本作の脚本構成のあまりの見事さが浮き彫りになります。
私はこの瞬間、夏目がアパートである行動をする瞬間から、約20分間泣きっぱなしでした(笑)。仕方ねぇ~じゃんかよ!!!(逆ギレ)。こんなもん見せられたら泣くわ、普通(怒)。
ネタバレぎりぎりですが、本作は「絶望に沈む男が、亡き妻との思い出を胸に秘めて復活を果たす」話です。
おじさんはもうすぐ30歳なのでこういうのに弱いんですよ、、、。

演出と脚本の妙

開始してすぐに、私は画面のあまりのフィルムグレインの多さにちょっとびっくりしました。特に屋上で裕一と里香が初めて会うシーンや夕方のシーンは空がちょっとモアレを起こすほどのフィルムグレインの量です。そして、忽那さんの顔の輪郭がぼやけるほどソフトフォーカスを掛けています。ところが、ある場面以降、このソフトフォーカスが取れてフィルムグレインも減り、かなりシャープな画作りに変わります。観た方には分かると思いますが、コレが本作の叙述トリックを演出面からサポートしています。
そしてなんと言っても脚本面では2つのエピソードです。
1つは当然、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」です。「銀河鉄道の夜」は最初は里香と里香の母との関係性を象徴する物でした。それが段々と里香と裕一をつなぐ絆の象徴になっていきます。そして終盤、ついに裕一と里香との絆そのものに変わるわけです。この展開は本当に素晴らしいです。これこそが正しい伏線の張り方です。
もう1つは、夏目と裕一の関係性です。裕一は、院長が「体力的にもう長時間の手術は出来ない」という理由で里香の手術を断ったことで、離ればなれになる危機を迎えます。一方の夏目は、「精神的に手術はもう出来ない」という理由で手術を固辞します。この二つの境遇がシンクロした瞬間、彼らの目の前に真実が浮かび上がってきます。要はこのエピソードに気付いた時、夏目が自身を見つめ直すきっかけになるわけです。この構成は絶妙です。

子供の頃に嫌だった大人に自分自身がなってしまった事に気付いた瞬間、夏目は絶望から立ち上がる決意をするわけです。そしてかつての自分が一番必要とした大人になるために、思い出の場所で亡き妻に謝罪をします。先に進まないと行けないから悲しむのはこれ限りにする、ゴメンと。忘れるわけじゃないけど、自分は必要とされているからやらなくちゃと。

号泣に決まってるでしょうが!!!(笑)
しかもですね、本作はお涙頂戴ばかりではなくきちんとギャグも挟んでくるんです。文化祭の演劇なんてシチュエーションコメディとして面白いですし、悪友と部屋に集まって彼女自慢したり馬鹿話したりするのも凄く懐かしくって微笑ましいです。学生で時間もてあましてる時ってあんな感じです。
あと、これは少し余談ですが、忽那さんの顔にきちんとニキビの化粧(?)をしていた(orニキビを化粧で隠さなかった)のは正解だと思います。10代の上にロクに風呂も入れない入院患者なんですから、顔は多少不潔なんですよ。この辺りをきちんと描いているのは素晴らしいと思います。

【まとめ】

本作はあまりに第二ターニングポイントでの叙述トリックが凄すぎて、そこだけで全部持って行かれてしまうような部分があります。しかし、第二幕までの難病もの青春恋愛映画という部分も本当に良く出来ています。なにせ「甘酸っぱさ」のツボがよくわかっていますし、病気を小道具ではなく場面転換のリミッターとして描いています。青春映画では絶対必要な若い男女が力の限り走り回る描写ももちろんあります。青春映画としても、恋愛映画としても、そして男の復活劇としても、文句の無い完璧な出来です。
自信をもってオススメします。
劇場に行ってきんさい!!!必見やろ!!!

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誰かが私にキスをした

誰かが私にキスをした

本日のアイドル映画2本目は

「誰かが私にキスをした」です。

評価:(2/100点) – 「世界は私のためだけに存在する」という病。


【あらすじ】

ナオミは階段から落ちて直近四年分の記憶を失ってしまった。救急車を呼んで付き添ったユウジ、彼氏のエース、イヤーブック委員会の相方・ミライは、みんなナオミの事が大好きでちやほやしてくれる。そんな中でナオミは本当の自分を取り戻すことができるだろうか、、、。

【作品テーマ】

「本当の愛はすぐ近くにある。」


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【感想】

2本目は満を持して当たり屋をやってきました、「誰かが私にキスをした」です。とにかくまったく見る気がしないで先週はスルーしたんですが、土日のスケジュールを組んだ結果ちょうど時間の関係で見れそうだったので踏んでみました。しかしこれがまた、、、、地雷だとわかって踏んだのに予想以上に威力が高くて大ケガいたしました(笑)。
本作の感想は三文字で表せます。「気色悪!!!」(笑)。
いや、「(笑)」とか付けて誤魔化さないとやってられないくらい酷いんです。とにかく奇っ怪な構成と気色の悪いメッセージのオンパレードで、ハッキリ言って拷問そのものでした。
まず、第一に、本作が誰を狙って作っているかが全くわからないです。日本語と英語が中途半端に混ざり合っていて、しかも日本のアメリカンスクールだって言ってるのに無理して作った「アメリカ学園もの」みたいな空気をビンビン出してきます。セリフは全て直訳調の気持ち悪い言い回しですし、役者もエース役のアントン・イェルチンと父親の渡部篤郎以外はことごとく大根です。もうふざけてるのかと思うほどにダサい選曲や、とにかく舐めたストーリー展開に開いた口が開きっぱなしでちょっと喉が痛くなりました(笑)。
いいんですよ、別に。堀北真希がモテモテだろうが。でもですね、、、この「何をやっても許されるし、どんな酷い事を言っても皆私の事が大好き」っていう腐りきった根性が気にくわないんです。そのくせ「本当の自分」とかいう鼻持ちならない結論に着地するわけです。
結局、この女性は浮気してたわけですよ。そしてそんな自分を変えたくて、階段からダイブしたとか言うわけです。なんでダイブすると変わるの?という疑問は脇に置くにしても、本当に根性が腐ってます。
結局、この映画の中でのナオミは単に男を都合の良いように振り回してるだけの奴なんです。でも嫌われない。最低な振り方をしたエースはテニスのダブルスに誘ってくれますし、ユウジは卒業式でニコニコして握手してくれます。彼女が居るミライだって、一声掛ければ長野まで一緒に来てくれます。
結局、世界の全てが自分を中心に回ってるわけです。
ふ・ざ・け・る・な・!!!!

【まとめ】

この糞脚本書いた人間は「ボーイズ・オン・ザ・ラン」千本ノックの刑です。
青春ってのはうまくいかないから青春なんですよ。何でもかんでも誰かが助けてくれて、何でもかんでも都合の良い偶然が起きて、誰も彼もが自分を愛してくれるなんぞという腐りきった甘えた根性は通用しません。
この映画を見て泣いたとか良かったとか言ってる方は、もう少し現実を見るべきです。
え?映画はファンタジーだから何でも良いって? 現実逃避に文句つけるなって?
だったら何も言いません。
本作を見てハッキリするのは、堀北真希の株が大暴落するレベルのフィルムだということと、docomoは特に契約をいじらなくても国際電話が掛けられるって事だけです(笑)。
つまり、携帯電話はdocomoがオススメです!!!

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ソラニン

ソラニン

本日はアイドル映画2本立てです。

1本目は「ソラニン」です。

評価:(85/100点) – 堂々たる傑作青春映画。


【あらすじ】

井上芽衣子と種田成男は大学の軽音サークルで出会い同棲をしている。芽衣子はOLとして、成男はバンド活動の傍らでweb制作のバイトをして、それぞれ生活していた。ある日会社を辞めた芽衣子は、成男にプロミュージシャンを目指すよう説得する。それをプレッシャーに感じながらも、成男は相方で留年中の加藤と家業を継いだビリーに声を掛け、オリジナル曲「SOLANINE」のデモテープを作成するが、、、。

【作品テーマ】

「大人への成長には痛みが伴う。」

【三幕構成】

第1幕 -> 芽衣子が会社を辞めた後の日常
 ※第1ターニングポイント -> 成男が本気でバンド活動を始める
第2幕 -> デモテープの作成とその結果
 ※第2ターニングポイント ->成男が自殺する
第3幕 -> 芽衣子のバンド活動


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【感想】

今日はアイドル映画を2本見てきました。1本目は宮崎あおい主演のソラニンです。テーマとしては良くある青春映画ですが、とにかく描き方がとても上手く、特にキャラクターの配置が抜群です。
まずは話の流れを確認しつつ、キャラクターの配置を見てみましょう。

話の流れ

本作のストーリーはずばり「大人になること」です。
成男はフリーターをやりつつ、練習だけでステージをやらないバンド活動を続けています。一方の芽衣子も大人になりきれず、衝動的に会社を辞めてしまいます。グダグダしていた二人ですが、芽衣子からハッパを掛けられた成男は本気でバンド活動をやるためにバイトを辞めて音楽活動に専念します。ところが自信作だった「ソラニン」は全く認められず、あまつさえアイドルのバックバンドという屈辱的な仕事依頼のみがやってきます。そしてこの挫折を機に、成男は大人になる決意をします。しかし土壇場で魔が差し、自殺をしてしまいます。さらにこの事件をバネにして芽衣子が成長します。
本作は、「大人になりきれなかった彼氏の自殺を機に大人へと成長する女性を描いた青春映画」です。

キャラクター配置の妙

本作に出てくるバンド「ROTTI」のメンバーはまさにこのテーマのために作られたキャラクター達です。
・大人になりきれなかった(社会に適応しきれなかった)、成男。
・大人になって家業を継いだ、ビリー。
・まさに大人になろうとしている(おそらく社会に適応できる)、加藤。
本作では成男がメインですが、ここでビリーがメインになると「マイレージ、マイライフ」になるわけです。テーマである「大人になることの痛み」に対して、きちんと対比するキャラクターを交えつつ大変誠実に描いています。
「人生に不満の無い奴なんていない。でも今日(=趣味のバンドをやってる時)は最高に楽しい。」というビリーの言葉が全てを語っています。ちょっとこのセリフは余計かなと思う部分ではありますが、しかしこのテーマに対してロックバンドという安易になりがちな青春の記号を上手く使っていると思います。惜しむらくは後半出てくる鮎川と大橋があんまり話と関係無いことですが、原作付の作品なのでご愛敬と言うことで(笑)。

個人的に感じる問題点

本作を私は傑作だと思いますが、やはり若干気になる部分もあります。
まず第一に、世間的にはダメ人間の成男が格好良く描かれている点です。仕方がないんですが、いかにも夢も追い切れずに社会にも適応できない中途半端な男を肯定されるとちょっと微妙な気分になります。またそれと並行して、レコード会社の冴木を悪く描くのも少しどうかと思います。ある意味では彼こそがもっとも社会に適応した大人なわけで、それを「夢を忘れた冷たい大人」みたいに描かれると、社会人としては「ちょ、まてやこら」と思わずには居られません。
第二に、これは主題とは全く関係無いんですが、メガネロックを青春の代名詞にするのはもう止めませんか?
私はいわゆる「3大インディ・ロックバンド」と言われていた「スーパーカー」「くるり」「NUMBER GIRL」のど真ん中世代でして、メガネロックバンドのパイオニアにもろに影響を受けていました。「くるり」の岸田さんとは数回ですがお会いする機会がありまして、信者というほどでは無いですがそれでも大ファンではあります。あの音痴なのに体から絞り出すように歌う独特な歌唱は岸田さんがやることで初めて価値がでるわけで、それを安易にコピーされても全然「魂の声」に見えないですし、単なる劣化コピーにしかならないわけです。余談ですが、作中のROTTI練習風景で一番最初に演奏される曲は、そのまんま「くるり」の「東京」とコード進行が同じです。
本作における「ソラニン」は大人へ成長しようとする人間が子供時代の自分に向けて別れを宣言する歌です。だからこそ、最後に芽衣子が歌う意味が出るわけです。芽衣子は単純に死んだ彼氏へのオマージュとして歌っているだけでなく、自身の成長を宣言するために歌います。そしてこれがラストの引っ越しに繋がります。彼女は成男の死に折り合いをつけて次のステップへ成長するんです。
なので、「ソラニン」は「大人になりたくないけど、ならざるをえなくなった人間」の魂の叫びでなくてはいけません。それなのに、寄りによってメガネロックって、、、、しかも劣化コピーそのもののAJIAN KUNG-FU GENERATIONって、、、、バカなの?
せめてエンディングが宮崎あおいと高良健吾のデュエットないしどちらかのボーカルなら救われたと思うんですが、最後にアジカンを出した時点で作品としては割と台無しです。
第三に、これは本当にどうでもいいんですが、成男の父が無礼すぎます。財津和夫さんをキャスティングしてそれはないだろと。死んだ息子を世話してくれた女性に向かってお礼や謝罪の一つも無いってどういう事!?しかもふざけたタメ口ですし、とても60歳近い大人には見えません。

【まとめ】

本作はまったく危なげない堂々たる青春映画です。しかも宮崎あおいがどうかってぐらいに可愛いですし、サンボの近藤洋一もかなり良い存在感を見せています。
公開館もそこそこあるようなので、是非々々劇場で見て下さい。後半の無理にでも泣かせようとする展開に少し引きましたが、公開終了前にもう一回行くかも知れないくらいに好感が持てる映画でした。オススメです。

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