【ドラマ】11/22/63

【ドラマ】11/22/63

おはこんばんにちは。きゅうべいです。明けましておめでとうございます。皆さん、正月休みはゆっくりできたでしょうか? 私はひたすら喫茶店に入り浸って本ばっかり読んでました^^;

新年一発目の今日はちょっといままでと趣向を変えまして、海外ドラマの面白いやつを紹介したいと思います。やっぱね、まとまった時間があるときってついツタヤでDVD借りてきちゃうじゃないですか^^; そんな時海外ドラマってとっても使い勝手がいいんですよね。この「おすすめ海外ドラマ」シリーズではできるだけ新しいものを紹介していこうと思います。あくまでも紹介なのでネタバレは極力しません。さらっと読んでいただいて、もし気に入ったら是非是非、レンタル店に駆け込んでください。

ということで「おすすめ海外ドラマ」シリーズの1発目はこちら。

「11/22/63(全9話)」です。

評価:(95/100点) – 超ロマンティックなタイムスリップSF


【あらすじ】

時は2016年。国語教師をしているジェイクは、自身の離婚調停に辟易していた。ジェイクはある日、行きつけのダイナーのオヤジ・アルから不思議なことを聞かされる。彼のダイナーの倉庫に入ると1960年にタイムスリップできるというのだ。ガンに侵されていたアルは、ジェイクに最後の頼みとしてタイムスリップをして”あることをしてきて欲しい”と依頼する。それは1963年11月22日に起きた「ケネディ大統領暗殺事件」を阻止し、アメリカをより良い国にすることだった。ジェイクはしぶしぶながら1960年に飛び、そして3年間の独自調査を開始する。それはケネディ暗殺の最有力容疑者・オズワルドの尾行と、別容疑者の可能性の調査だった、、、。


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【感想】

さてさて、そんなこんなで趣向を変えました海外ドラマ紹介シリーズの第一弾は「11/22/63」です。原作はスティーブン・キング。キングと聞いて皆さんがすぐイメージするように、本作はロマンティック・SFサスペンスです。主役は「サム・ライミ版スパイダーマン」ハリー役のジェームズ・フランコ。ヒロインは「複製された男」で怖い奥さん役をやっていたサラ・ガドンです。最近は映画俳優もあたりまえのようにドラマに出てきて、とっても豪華になりました。

このドラマは2011年から1960年へタイムスリップしてそこで右往左往する男の話です。いたるところに名作映画ギャグが散りばめられており、それだけでも結構ニンマリできます。タイムスリップ・コメディみたいな要素はほとんど無く、どちらかというと「丁寧に作られた巻き込まれ型サスペンス」といった様相です。

話は過去に戻ったジェイクがそこで仲良くなった相棒のビルと共に、ひたすらオズワルドを尾行・盗聴して犯行の手がかりを探す展開です。なかなか尻尾を出さないオズワルド。そしてだんだん過去の世界に溶け込んで愛着を持ち始めるジェイク。そんな中で過去の世界にもかかわらずジェイクは恋人を作ってしまいます。いよいよ過去と離れがたくなっていく。だけれでも使命は果たさなければいけない。悶々とする中、ジェイクはある究極的な「答え」を選択します。

そう、本作はいわゆる「過去改変SF」です。このジャンルの金字塔「バック・トゥ・ザ・フューチャー」しかり、「バタフライ・エフェクト」しかり、そして昨年の「君の名は」。これらに一貫する「タイムスリップとロマンス」の最新版がこのドラマです。

本作は全9話と比較的短いドラマなのですが、実をいうと軽く中だるみします(笑)。するんですが、もし4~5話目で「ちょっとつまんないな~」とか思ってもそこで止めてはいけません。絶対最後まで見るべきです。というか、本作は最終話の第9話がもうそれだけで10,000点あげてもいいくらい滅茶苦茶面白いんです。もし上に挙げたような映画が好きな方がいたら、絶対見たほうがいいです。過去改変SF史上で最上級のロマンスを見ることが出来ます。甘ったるいご都合主義じゃなくて、これぞキングっていうすごーく苦くて、大人で、それでいて最高に泣ける展開がまっています。

必見の出来です。

ちょっとした補足

ちなみになんですが、、、、アメリカ人の感覚では「ケネディ大統領暗殺事件」というのは、まさに「アメリカ近代史のターニングポイント」なんですね。もちろんケネディ自身がアイドル的な人気があったというのもあります。ですがそれ以上に、後任のジョンソン大統領の始めたベトナム戦争、そして続くニクソンの経済政策失敗(1971年の第2次ニクソン・ショック)によるインフレ・高失業率・大不況、さらに繋ぎでグダったフォード、さらにその後のカーター政権で起きたイラン・アメリカ大使館人質事件を始めとする中東への弱腰外交。まさにケネディ暗殺からロナルド・レーガンのレーガノミクスまで約25年近くアメリカは暗黒期に突入します。その後も人によっては「湾岸戦争」「中東介入」「ITバブル」「リーマンショック」「格差拡大」などなど、挙げればキリがないでしょう。だから本作のように「もしケネディ暗殺が阻止されていたら、きっとアメリカはもっと良い国になっていたに違いない」というアイデアは凄く共感されるんですね。アメリカで本作が大絶賛されたのも、多分にこのバイアスはあると思います。

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記事の評価
ジェイソン・ボーン

ジェイソン・ボーン

今日はボーンシリーズ第5作

「ジェイソン・ボーン」を見ました。

評価:(55/100点) – ここに来てまさかの作品リセット


【あらすじ】

ジェイソン・ボーンは元CIAの特殊工作員である。かつてCIAの極秘プロジェクト「トレッド・ストーン計画」によって記憶を完全に無くした殺人マシーンとなった。時は経ち、ボーンは記憶を取り戻しCIAの追っ手達を撒きながら、各地を転々としていた。ある日、かつての仲間ニッキー・パーソンズからコンタクトがある。彼に関係する追加の極秘資料を入手したというのだ。ギリシャのアテネで落ち合った二人のもとに、CIAの特殊部隊が襲いかかる、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> ニッキーのハッキングとボーンとのコンタクト
※第1ターニングポイント -> ボーンがUSBメモリを手に入れる
第2幕 -> ボーンの父を巡る調査
※第2ターニングポイント -> ボーンとヘザー・リーが接触する
第3幕 -> ラスベガスへの殴り込み


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【感想】

さてさて、今日は1本、待ちに待ったボーンシリーズ最新作の「ジェイソン・ボーン」です。一応5作目ですが、ターミネーターと同じく新章を狙った4作目がコケたのを受けて実質3作目の続編となっています。やっぱりこういうファンがガッツリついててかつ作品性も固まっちゃってるものは外伝的な新作は厳しいですね、、、。かくいう私も「ボーン・レガシー(2012)」についてはちょっとアレかなと思ってまして(笑)、この正統派続編は本当に嬉しい限りです。監督はもちろんポール・グリーングラス。相変わらずの細かいカット割りと手持ちグラグラのリアリティ表現は健在です。本作が旧作と決定的に違うのは、やはり脚本のトニー・ギルロイの離脱でしょう。ボーンシリーズは一貫してトニー・ギルロイが脚本を書いていましたが、「ボーン・レガシー」で監督をやってコケたのが影響したのか、今回は完全離脱で代わりにボール・グリーングラス本人がメインで書いてます。これが吉と出るのか凶とでるのか、、、。

ということで毎度のお約束です。いままでのボーンシリーズはどちらかというと巻き込まれ型サスペンスアクションでしたが、本作はいわゆる探偵ものになっています。ですので、ネタバレは楽しみを削いでしまう可能性があります。以降、多大なるネタバレを含みますので、未見の方はご容赦ください。また、本作は完全にキャラもの続編ですので、そもそもシリーズを一回も見たことがないかたはちんぷんかんぷんになります。最低でも、1~3作目までは見てから本作をご覧ください。全てが超高水準ですが、特に3作目はアクション映画史に残る大傑作ですので、本作云々を脇においても絶対見たほうが良いです。

ボーン・イズ・バック!

前作「ボーン・レガシー」では新しい「アウト・カム計画」というのが登場しましたが、本作ではそこには一切触れられず(笑)、3作目「ボーン・アルティメイタム(2007)」から続く「トレッド・ストーン計画」の真相を暴く件が再びフィーチャーされます。とは言え、前作までで「トレッド・ストーン計画」はある程度企みが見えており、かつボーンも過去を思い出しています。ですから話を転がすためには新情報が必要なわけで、今作では皆勤賞のニッキーがそれを持ってきてくれます。曰く、どうも父親がトレッド・ストーン計画に一枚噛んでいたらしいと。ボーンは、テロで死んだと思い込んでいた父親が何かの陰謀に巻き込まれたのではないかという疑念を持ち、独自捜査を開始します。そう、今回のボーンはかなり淡々と情報を辿っていき、淡々と障害を排除していきます。旧三部作であった「とっぽい見た目なのに実は超強いスパイ」というギャップは影を潜め、完全にムキムキなスーパーヒーローとしてボーンは帰ってきます。この辺はもうシリーズものの宿命なので仕方ないでしょう。基本的にシリーズものは回を重ねるほどアイドルムービー化していきますから、これは続編としてとても真っ当です。

お約束はちゃんと入ってるよ!

となれば、ボーンをアイドルたらしめている要素がちゃんと入ってるのかというのが重要になるわけです。今回は2作目からのポール・グリーングラスが監督ということで、ちゃんといつものボーンの見た目をしています。細かいカット割りで勢いをつけ、手持ちカメラで迫力を出し、そしてボーンはジャッキー・チェン直系の「その辺のものを使ったアクション」をきっちり見せてくれます。ちなみになんですが、1作目「ボーン・アイデンティティ(2002)」は今見るとすごく真っ当なカメラワークをしています(笑)。ちゃんと固定カメラでロングショットを使い、レールも使ってます。アクションシーンだけは手持ちグラグラですが、それ以外は極々ノーマルな撮り方です。作品全部が「手持ちグラグラ/カット割細々」はあくまでも2作目「ボーン・スプレマシー(2004)」からです。

ただですね、、、やっぱちょっと今回はお約束に引っ張られすぎちゃった感じがします。「その辺のものを上手く使わせなきゃ!」というのが前面に出てしまってまして、あまりあっと驚くクリエイティビティがないんですね。あからさまに変なところにダンベルがあったり、そこにはないだろってところに椅子が捨ててあったり、使うこと前提で無理やり変な小道具が配置されてます(笑)。旧シリーズなんかだとその辺にある文房具とか、キッチン用品とか、凄いスムーズにうまく使ってたのに今回はちょっと無理やり過ぎるかなと思います。

いま、いま、ここでそれを変えるかね、、、

今回、一番の不満は作品のどんでん返し部分です。3作目の肝って「こんなに一生懸命過去を探していたのに、その過去っていうのが、実はボーンは自分から志願してトレッド・ストーン計画に参加していた」という部分なんですね。それまで延々と巻き込まれ型サスペンスをやって一貫して「被害者」であったボーンが、実は被害者じゃなくて自分から自主的に悪の計画に参加していたのだというのがこのシリーズの「記憶喪失」の大どんでん返しでした。ところが、本作で、その自主的な参加が実は嵌められた結果だったのだというのが明らかになってしまいます。お、おぉ、、、、。つまり旧三部作の余韻台無し(笑)。いや確かにここからシリーズを重ねようと思ったら、ボーンに大きくわかりやすい動機が必要なんですが、いくらなんでもそれはちょいとダメじゃないかと。

でもカーチェイスは良かったよ!

とまぁストーリー自体に大いに不満はあるんですが、でも三幕目のラスベガスは本当に良かったです。これぞ真骨頂!って言う感じで、銃撃戦あり、カーチェイスあり、肉弾戦ありとアクション要素てんこ盛りの大サービスシーンです。特に、たぶん見た方は一番思うであろうSWAT装甲車のカーチェイスですね。おまえバットモービルかっていうぐらい車をなぎ倒していく装甲車に、ボーンが乗用車で立ち向かうという、これぞヒーロー映画の真骨頂です。

【まとめ】

勢いはあってとっても楽しいんですが、良くも悪くもキャラものの域をでない作品でした。ボーン・シリーズは1~3作目が凄すぎるので、新しくシリーズを作り直す上で本作は産みの苦しみかなと思います。ストーリーを転がすにあたりやらなきゃいけないけどどうしても微妙になってしまう「汚れ仕事」みたいな部分を一気にやっつけた作品でした(笑)。ということで、何時になるかわかりませんが、また6作目を期待しつつ、本作もちょくちょくリピートしたいです。惜しむらくは、ちょっとでいいんでジェレミー・レナーにも触れてあげて欲しかったなと思います。完全になかったことにするのはちょいと可哀想すぎますから、、、。

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記事の評価
怒り

怒り

今日は一本

「怒り」を見ました。

評価:(80/100点) – “信頼”を巡るオムニバス・横溝正史もの


【あらすじ】

八王子で夏の白昼に起きた夫婦殺人事件。現場には被害者の血で「怒」という文字が残されていた。それから1年。千葉、東京、沖縄に、それぞれ不詳の怪しい流れ者が現れる。犯人は誰か? そして流れ者と周りとの関係性は?

【三幕構成】

第1幕 -> 3組の流れ者
※第1ターニングポイント -> しばらく平穏な時間が過ぎる
第2幕前半 -> 3人が各々の懐に飛び込む(親父と話す/母紹介/那覇で飲む)
※ミッドターニングポイント -> 田代と愛子の同棲/優馬の母が死ぬ/泉が襲われる
第2幕後半 -> 過去捜索/浮気窃盗疑惑/旅館住み込み
※第2ターニングポイント -> 通報/警察から連絡/田中の苛立ち
第3幕 -> 結末


【感想】

本日は李相日監督の「怒り」を見てきました。3連休最終日だからなのか劇場はかなり空いていてちょっと寂しかったです。また、結構1人で来ている女性が多くいて驚きました。俳優目当てでしょうか?(※)まさかBL絡みの需要ってことはないとは思いますが、、、といいつつ結構ツイッター上ではそっちのコミュニティに受けており、よく分かりません(笑)。本作は原作者と監督の絡みから「悪人(2010)ふたたび」と宣伝されています。正直な所、私個人的には「悪人」を全く評価していないので(←ファンの方すみません)、結構ハードルを下げて見に行きました。結果、かなり面白かったです。一部ひっかかったものの、全体としてみれば十分楽しめました。

これ以降、直接的に犯人に言及することはいたしませんが、なんとなく雰囲気でわかってしまう可能性があります。未見の方はご注意ください。

※2016年10月4日追記:
「結構1人で来ている女性が多くいて」→「俳優目当てでしょうか」という私の連想が差別的であると受け取られる方がいたようです。謹んでお詫び申し上げます。
こういう予告で猟奇殺人を前面にだしている作品はふつう女性客がほとんどおらず、いても夫婦連れ合いが多いので、女性一人客ばっかりというのが珍しかったという記述でした。純粋に「猟奇殺人ものが好き」な女性が増える分には大歓迎です。是非「高慢と偏見とゾンビ」もよろしくお願いします。、、、とか書いといて単に「文芸好き」って可能性もありますね。亡き「銀座テアトル」も女性客が多かったですし。その場合は正にぴったりですので、是非、文芸超大作が原作の「高慢と偏見とゾンビ」も一つよろしくお願いします。(←猛プッシュ中)

全体像。韓流逆輸入サスペンスとテーマ

この映画は、”信頼”をキーワードとした3つの話からなるオムニバス映画であり、その根底には「横溝正史もの」のサスペンスが流れています。

本作は千葉(勝浦?)、東京(目黒)、沖縄(郊外のどこか)を舞台に、それぞれ素性の分からない訳あり男3人を巡りストーリーが展開していきます。このストーリーは交わることがなく全て独立しており、そして三幕構成に忠実に同期して進行します。このあたり、作りがとても真面目です。

どのあたりが「横溝正史もの」かといいますと、これは「田舎/狭いコミュニティの閉塞感」とそこに乗る「サイコパス的な猟奇殺人事件」という点です。作品全体を通して、八王子郊外での夫婦猟奇惨殺事件の凄惨さ・不穏さが根底にあり、そこにゲイ/性労働経験/レイプ被害という3つの性的な”ハードル”要素が追加され、さらに母の介護/親の借金苦/日雇い労働/軽度知的障害/沖縄米兵問題というオプションが追加されます。ハードル扱い云々の倫理的な面や政治的な主義を脇に置いとくと、たぶんこれが監督の考える現代日本の問題なんでしょう。登場人物たちはこれでもかという「現代日本というコミュニティの生きづらさ」によって追い詰められていき、その中で「信じるもの」「信じたいもの」を選択していきます。

この「現代の生きづらさ」を「横溝正史もの」のフォーマットにテンコ盛りするというのは、それこそ、ここ最近韓国映画が圧倒的に得意としていた分野です。当ブログでいうと「黒く濁る村(2010)」や「母なる証明(2009)」とかですね。もうちょっと前だと「ほえる犬は噛まない(2000)」とか「殺人の追憶(2003)」みたいな一連のポン・ジュノ作品もそうです。「韓国人が見せたくない韓国人の嫌な所」みたいなものを全面にだして、それを「不穏な空気」の表現として使うという手法です。監督の出自云々は置いといて、李相日監督がこのジャンルをもう一回日本に逆輸入してきたというのは大正解だと思います。

本作ではこの「生きづらさ」によって人々がすれ違っていきます。肝心のことをきちんと話さなかったために誤解をしたままになってしまう男、「自分が幸せになるチャンスはこれしかないという焦りで信じて”しまった”」と思い込んで逆に信じられなくなってしまう女、そして一度相手を素直に受け入れ信じてしまったが故に客観的になり切れない少年。こういったそれぞれの思惑を通して、「信じる」ということの不安定さと不確実さが描かれていきます。

それぞれのストーリーラインに「怒り」の描写は出てくるのですが、直接的に「怒り/感情爆発」によってどうこうなるというより、生きづらさ→鬱屈/現状に対する怒り→猜疑心・嫉妬・弱みという流れで、これによって信頼の強度が変わっていくというのが本作の肝です。

静かな描写と熱演する俳優陣

上記のように、この映画は3つの物語が直接的には結びつきません。あくまでも群像劇ではなくオムニバスです。そうすると、当然、中だるみは避けられません。本作が素晴らしかったのは、特に2幕目までの俳優陣含めた描写というか「画作り」の部分です。極力直接描写を避けて、きちんと映画的な表現で間接的に見せるようになってます。沖縄の公園とピアノの女の子とか、ちょっと対位法を使いすぎかなっていうシーンも多かったんですが、これぐらいなら全然問題ありません。PFF出身監督特有の手癖です(笑)。昔、深川栄洋監督の「洋菓子店コアンドル(2011)」のときにちょっと書いた、「演出さえできていれば話がつまらなくても画面は持つ」っていうやつです。特に東京パートと千葉パートはほとんどイベントがないですから、だいぶ演出力に助けられていると思います。

その分というとアレですが、3幕目、特にエピローグはみんなウェットに喚き始めて急に画面が安っぽくなりました。ここだけは本当にもったいなかったです。せっかく「無音で指紋の鑑定結果を聞かされる」っていう演出をやってるのに、わざわざ音声つきでもう一回やりますからね。セリフ無くても見りゃわかるのにっていう。広瀬すずだって海に向かって叫ぶ必要まったくないですから。壁の文字を見つけて呆然とするとこでやめときゃいいのに。2幕目までが本当にすばらしかったので、「終わりよければ全て良し」の逆で最後がもったいなかったです。

また、俳優陣はみんなとてもいいです。今回は特に佐久本宝ですね。この子は本当に新人かっていうくらい佇まいがよくできてました。ぶっちゃけ広瀬すずの存在感を完全に食ってます。千葉パートはベテランが多くて安定しすぎて逆に面白くないってぐらいで(笑)、その分東京パートの妻夫木さんが光りました。私なんかが勝手に想像する”ゲイ像”と妻夫木さんのちょっとわざとらしい演技がちょうどマッチしていて、すごい実在感があってよかったです。個人的にはあんまゲイシーンって見たくないんですが(笑)、汚くなりすぎないギリギリかなっていうところで良い具合でした。

【まとめ】

こういう文芸作品って「空気感」を表現するジャンルなので大変文字に起こしづらいのです(笑)。この映画を私がすんなり見られたのは、たぶん画作りが客観的にできていてちゃんと解釈の幅があったからだと思います。「悪人」は監督の誘導が多すぎ&作品内矛盾で「いやいや、それおかしいでしょ」という反発心が強かったのですが、今作はまったくそんなことありません。本作の方が明らかに映画的な懐の深さがあります。是非是非映画館でご鑑賞ください。「他人を信用しよう」「だけど信用し過ぎもよくない」というモヤモヤした感じがとても文芸作品っぽくていい感じにイヤな気分になれます(笑)。

そんなわけで、あんまり終わった後で他人と会話をするようなタイプの作品じゃないんですね。エグみが云々というよりも、あくまで「空気感」でシンミリする作品ですから、知人と見に行くよりは一人レイトショーでこっそり見る感じが正解だと思います。個人的には、李相日監督のこのテイストでゴリゴリのサスペンス・スリラーが見てみたいと思いました。かなりオススメいたします。

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セルフレス 覚醒した記憶

セルフレス 覚醒した記憶

​今日は二本です。一本目はシャンテで

「セルフレス 覚醒した記憶」を見てきました。

評価:(75/100点) – 古き良きB級午後ロー映画


【あらすじ】

“ニューヨークを作った男”建築王のダミアンは、ガンに蝕まれ余命半年を宣告されていた。まだまだ若いもんには負けんという心意気はあるが、確実に死が近づいている。そんな折、彼の家にオルブライト博士の名刺が届く。博士は「人間の脱皮」として、魂を別の”器”へ移す研究を行っていた。人生最後の賭けとして、ダミアンは博士に依頼し、若い肉体への”脱皮”手術を行う、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> ガンとオルブライト博士
※第1ターニングポイント -> ダミアンがキドナーとして生まれ変わる
第2幕 -> キドナーの生活と手術の秘密
※第2ターニングポイント -> マデリンとアナが誘拐される
第3幕 -> ラボへの潜入


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【感想】

今日はお休みをとって二本見てきました。一本目はターセム・シン監督の「セルフレス 覚醒した記憶」です。平日昼の回なのに意外と年配の方で埋まっており、ライアン・レイノルズ人気を感じました。

良きB級アクションSF

私、何が好きってB級SFアクションほど好きなものはありません(笑)。ターセム・シン監督といえばスローモーションの面白映像と気持ち悪い変なアーティスティック映像加工が特徴なわけで、それがSFアクションとくっついたら面白く無いはずがありません!

そんなこんなでかなり鼻息荒く見てきたんですが、これですね、すごい午後のロードショーっぽいんですね(笑)。面白映像はエッセンス程度に留まっていて、全体はこれでもかっていうミニマムかつバカっぽいアクション映画。肉弾戦と1:2カーチェイスが一番お金かかってるんじゃないかってくらいの節約っぷりで、前作「インモータルズ-神々の戦い-(2011)」とは180度違います。あっちはCGバリバリ、ケレン味たっぷり、話は一直線って言う王道の大作アクションエンタメ映画でした。対する今作は、もうユーロッパコープが作ってるんじゃないかっていうくらいアホっぽい体を張ったアクションです(笑)。

話はいたってシンプル。初代「仮面ライダー」と一緒です。主人公が改造人間になって、自分を改造した(=生みの親)悪の博士をぶっ殺しに行くっていう王道のエディプスコンプレックスもの。そこにさらに父と娘の確執と修復みたいなものも混ぜ、「親殺しかつ娘との仲直り」という世のお父様の不満を綺麗さっぱり解消する作品となっております。しかも、「まさかこのまんまなんてことないだろうな、、、」と不安だった私の懸念点も、最後にきっちり落とし前つけてくれました。ターセム!あんた、わかってる!わかってるよ!(サムズアップ)
作品のテーマとターゲティングが一致しすぎていて、あざとすぎるんじゃないかと思いつつ、泣いてしまいました(笑)。

いいキャラが勢ぞろい!

本作は、正直に言うと話は全部どっかで見たようなよくある内容です。それなのにめちゃくちゃ楽しく見られるっていうのは、やっぱり俳優さんたちの強度が素晴らしいからなんですね。

特にライアン・レイノルズ。ものすごいイケメンでガタイも良いのに、場面によってはタレ目かつ寄り目でちょっととぼけて見えたり、微妙に頼りなさそうに見えるんですね。この場面場面でガラッっと変わる顔の印象が、本作のような「巻き込まれ型」のサスペンスにはとってもハマってます。困ったな〜って言いながら危なげなく敵をなぎ倒していく感じが最高です。正当なリーアム・ニーソンの後継者です(笑)。

後は敵のマシュー・グードですね。「ウォッチメン(2009)」のオジマンディアスにしても、「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密(2014)」のアレグザンダーにしても、こう何考えてるかよくわからん天才というか、淡々とモノ凄いことをやらかす雰囲気が100点満点です。無表情で目の焦点が合ってない感じですね。
もうね、この主人公と敵をキャスティングしてアクション物やろうっていう企画の時点で8割型勝ってると思います(笑)。

【まとめ】

B級アクションのお約束をちゃんと踏襲した上で安定して見せ場を供給してくれるとっても良い作品でした。大作感は全くないですから1800円出すにはちょっと、、、と思われてしまうかもしれませんが、見て損はありません。レンタルでも午後ロー待ち(※やるよね!絶対)でも良いので、ぜひ見て欲しい作品です。結構本気でオススメします!

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記事の評価
秘密 THE TOP SECRET

秘密 THE TOP SECRET

気を取り直して今日の2本めは

「秘密 THE TOP SECRET」です。

評価:(46/100点) – アイデアは良い。超惜しい!


【あらすじ】

警察官・青木は「第九」へ転属となった。「第九」は、死者と捜査官の脳をつなぐことで死者の記憶を覗き見ることができる「MRI捜査」を行う特殊チームである。しかしあくまでも「記憶」であるため、死者や捜査官の主観や妄想が入り混じってしまい、法的な証拠能力は認められていなかった。
「第九」のトップ捜査官であるであるマキは、第九の正式捜査機関への昇格のための最終試験を、よりによって新人の青木に託す。それは、娘を含む家族を皆殺しにした「露口一家殺人事件」の犯人・露口浩一死刑囚の記憶を覗き、唯一見つかっていない長女・絹子の遺体を探しだすというものだった、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 青木の転属と露口浩一の記憶
 ※第1ターニングポイント -> 一家殺人事件の犯人が判明する
第2幕 -> 絹子の秘密と、同時多発自殺事件
 ※第2ターニングポイント -> マキが鈴木の記憶を覗く
第3幕 -> 結末


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【感想】

今日の2本目は松竹映画「秘密 THE TOP SECRET」です。公開から2週間立っており、もうそろそろ打ち切りも始まっているかと思います。私の見た夜の回は女性の一人客ばかりでしたので、原作ファンか生田斗真/岡田将生を目当てにした客層でしょうか? 漫画が原作で一度アニメにもなっているとのことですが、私はノーチェクで完全に初見です。なので、先入観もなにもない状態です。ポスターを見ただけで勝手に「攻殻機動隊の公安9課のパロディかな?」と思ってたんですが、実際見てみると当たらずとも遠からずでした。

ここでお約束です。
本作は、ジャンルとしてはSFサイコサスペンスです。以降ネタバレを多数含みますので、未見の方はご注意ください。先に感想を書きますと、本作はとても良く出来た作品です。アラもありますがそれ以上に好感が持てる部分が多く、とても楽しめました。ゴーストバスターズと違って見て損はありませんので、是非、劇場で御覧ください。

本作のいいところ:語り口はかなりスマート

本作は「るろうに剣心」の大友啓史が監督をしています。そこが結構売りになっているようですが、思い出してください。確かに「るろうに剣心(2012)」「るろうに剣心-京都大火編-(2014)」は面白かったです。面白かったですが、あれは別に演出や話運びが上手かったわけではなく、カンフー映画としてきちんとアクションが撮れていたから面白かったんです。実際、「るろうに剣心-伝説の最期編-(2014)」はストーリーが酷すぎて、よかったアクションをすべて台無しにした上でお釣りが来るぐらい遥か地面の底までめり込むレベルの出来でした。その前の「プラチナデータ(2013)」は言わずもがな。そんなこんなで、個人的には結構不安がありました。

それでもって本作はどうかというと、これとても良く出来ています。今回は「MRI捜査」というギミックが重要になってくるわけですが、この概要を一幕目の冒頭で一気に説明するんですね。そして文字・セリフだけの説明ではなく実際どんなもんかというのも、やはり一幕目に「露口浩一の脳を覗く」ことで見せてくれます。「インセプション(2010)」もそうですが、こういうギミックSFについては、ベースとなるギミックのルールをいかに素早くかつ分かりやすく説明するかが肝心です。この映画はそこが大変スマートにできています。これ満点。とても良いです。

俺達の大好物=悪魔型サスペンス

本作は悪魔型サスペンスであり、そして悪魔が2人登場します。

1人は「貝沼清孝」。「28人連続殺人事件」の犯人で、すでに自殺していますが、彼の脳を覗いた第九捜査官がマキ以外全員発狂したという曰くつきのサイコ野郎です。この貝沼は捜査中にちょいちょい名前が出てきまして、ラスボス感を漂わせてきます。
もう1人は本作の中心人物「露口 絹子」。家族を殺害した嫌疑がかけられているものの物証が無く、やりたい放題の色仕掛けで捜査を撹乱します。

貝沼は文字通り亡霊として事件に関与してきて結果的にマキを苦しめ、一方の絹子はイカレた警官の眞鍋を翻弄し青木にもちょっかいを出します。

この2人を巡る捜査が本作のメインストーリーとなります。

悪魔が正しく機能できているのか問題

でですね、上記2人の悪魔が機能しているかというと、実はあんまり機能してないんですね(笑)。なので、劇中のトーンと事件がちょっと空回っちゃっています。

貝沼は、大昔に財布をネコババするところをマキに見つかり、でも見逃してもらった上に1万円もらったことがきっかけでマキに執着します。なんでそんなことで執着するかはよくわからんのですが(笑)、そういうことにしときましょう。その後、マキへの「捧げ物」として28人を殺すんですね。しかも殺した子達をマキと錯視する描写まであります。要は「マキを殺したくて殺したくて仕方ないので代わりに28人殺した」みたいな感じです。しかもワザワザ自分の脳内にマキへの遺言を残してきたりもします。別にマキ自身は悪くないんですが、すごいイヤ~な気分にさせる嫌がらせをやるド変態ストーカーです。ただこれが全てなので、あんまり悪魔になってないです(笑)。価値観を揺るがすような悪魔ではなく、ただの変態サイコパス。遊びで子どもたちを催眠にかけて将来自殺するようにしたりとかね。まぁド変態殺人28連チャンを追体験させられたと思えば、覗いた捜査官が全滅しちゃうという話は無くは無さそうです。

絹子の方は、すごく直情的なコントロール・フリーク・サイコパスです。男を次々に誘惑し、支配下に置いて気に入らないと殺しちゃうような。こっちのほうがまだ悪魔としては機能しているんですが、肝心の翻弄される眞鍋が元から頭がおかしいので翻弄された結果なのかどうかよくわかんないんですね(笑)。この眞鍋というキチ◯イ警官が本作の一番のノイズです。証拠もないのに勝手に逮捕してきたり(※本当に逮捕状をとってるのかも怪しい)、一人で絹子のところにいって癇癪起こしたり、捜査もストーリーも邪魔してきます。最後の最後に「死後に脳を覗かれることの気持ち悪さ=死後にだって秘密にしたいことは誰にでもある」みたいなメッセージを伝えるためだけの存在なんですが、あまりにそこに至るまでの行動が滅茶苦茶なので、説得力に欠けます。意図としては「眞鍋が絹子に翻弄されて一線を超える→青木と対立→究極の選択」みたいなことをやりたいんだと思います。惜しいです。たぶん「眞鍋が誤認逮捕で責められる/警察内で孤立する」みたいな描写がもうちょいあれば良かったと思います。「最初真面目だった眞鍋が絹子をぶっ殺したくなるくらい追い詰められる」描写が欲しかったですし、それがないと話が上手くつながりません。

【まとめ】

とまぁ全体としては今一歩といったところなのですが、間違いなく題材はいいですし、もうちょい整理できれば滅茶苦茶面白くなったんじゃないかな~という予感は随所に感じました。専門のちゃんとした人に脚本を頼めばいいのに、、、と思ってスタッフリストをみたらまさかの高橋泉。ランウェイ☆ビートの人(笑)。ちょっと目が泳ぎました、、、。
ちなみに映画の尺が長いですが、「頑張って捜査してるのに悪魔に翻弄されてウンザリ」という表現としての長さなので、そこはいいと思います。「ゾディアック(2007)」だって2時間半あるし、悪魔型ってどうしても長くなるんですよね。劇中の捜査がグダグダ=その間は画面もグダグダっていうシンクロです。

そうそう、最後に一個だけグチっておきたいんですが(笑)、最後のオチだけは絶対無い。あれはオカシイ。動物から見る人間の世界=理想的=みんな幸せそうっていうのは酷いプロパガンダです。本作を見終わった後で、是非連続で「ペット(2016)」を見て欲しいです。そうすると動物だって大変だぞってのがわかると思います(笑)。

制作側の志は十分に伝わるし、そこかしこに面白くなりそうな要素はいっぱいある映画なので、是非劇場で御覧ください。こういう映画は途中で逃げられない劇場で見るに限ります。テレビだと、途中でトイレに行ったり続きは明日でいいやって寝ちゃったりしますから(笑)。結構おすすめです。

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記事の評価
ズートピア

ズートピア

本日はレイトショーでディズニーアニメ最新作の

「ズートピア」を見ました。

評価:(79/100点) – 「普通に面白い」という贅沢さと物足りなさ


【あらすじ】

動物たちが理性をもって生活する世界。うさぎのジュディは「うさぎ界初の警察官」の夢を叶え、大都市「ズートピア」へとやってきた。ズートピアでは最近失踪事件が多発しており警察署内は大騒ぎになっていたが、しかしジュディが配置されたのは駐禁係。なかなか警察らしい仕事をさせてもらえない不満から、ジュディはついうっかり失踪者の一人=カワウソのオッタートンの捜索を勝手に買って出てしまう。タイムリミットは48時間。それをすぎると、ジュディは事実上解雇されてしまう。はたしてジュディは無事事件を解決することができるのか、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> ジュディの上京とニックとの出会い
 ※第1ターニングポイント -> オッタートンの捜索を買って出る
第2幕 -> オッタートンの足取り調査と発見
 ※第2ターニングポイント -> ジュディが田舎へ帰る
第3幕 -> 事件の解決と真相。


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【感想】

さてさて、今週2本めの新作映画は、ディズニー最新作「ズートピア」です。ディズニーアニメのお家芸といえば白雪姫/眠れる森の美女から脈々とつながる「かわいらしくデフォルメされた動物」です。本作・ズートピアは人間の登場人物が一人もおらず、この「かわいらしくデフォルメされた動物」が所狭しと登場します。
見る前から本作が某Rotten Tomatoで98% Freshを記録したというニュースは見ていましたから、さてこれはどれだけ傑作なのかと結構ハードルが上がっていました。
そして実際に見てみて、、、というところですが、これはRottenの仕組み上仕方ないといいますか、、、「大傑作!」というよりは「これは皆がそれなりに満足して帰る内容だな」という感想です。100点満点中の100点というよりは、「良いか悪いかで二択にしたとき”良い”が限りなく100%になる」という類の作品です。

本作は王道どまんなかのバディ・ムービー/ファミリー映画です。ですから極力ネタバレはしないようにいたしますが、少々感づいてしまう恐れもあるため、映画未見の方はできるだけご注意ください。

果たして優等生は魅力的なのか?

まずざっくりと語るならば、本作は大変良く出来たバディ・ムービーです。女性(メス)でか弱く体格的にも小さいが頭脳と工夫で乗り越えるウサギのジュディと、ひねくれ者だけど優しくて頭がキレるキツネのニックのデコボコ・コンビが手がかりを追って事件を解決していく、、、という教科書にでてくるような非常に理想的・類型的なフォーマットです。

そうなんです。先に書いちゃいますと、私の不満点はまさにここ。この一点だけです。「教科書にでてくるような非常に類型的な」よくできた映画。なんというか、毒にも薬にもならない「普通の良い映画」なんです。これは物凄い贅沢な話でして、「飽食の時代ここに極まれり」ってことなんですが(笑)、なんかこう「これっ」っていうチャームポイントがあんまないんですよね。「どうしてもズートピアがまた見たい!」ってなるような魅力的なポイントが、ですね。

全体を通じて凄く良く出来ていて、文句の付け所はほとんどないです。お話的には伏線はちゃんと回収されますし、きちんと「他者を属性で判断するな!」「善人は必ず報われる」という道徳的なテーマになっています。キツネのニックは全然言うほどひねくれても無ければ悪人でもないですし、悪役だってひねくれるだけのきちんとした事情があります。そして、ジュディの性別や体格が原因で捜査が行き詰まるようなこともないです。凄く優しい世界の中で物事が進んでいきます。テーマ自体は人種差別というか「マイノリティvsマジョリティ」という重い民族問題を扱っているわけですが、しかしテイストはどこまでも軽く、そしてとても誠実です。そういった意味で、本作は間違いなく良質なファミリームービーです。

なので、本作を減点式にした場合、まず間違いなくそんな貶す人はいないと思います。大幅にマイナスなポイントって本当にないですから。
一方でこれを逆側から、つまり「良かった所集めの加点式」にするとですね、、、これどうなんでしょうか? 少なくとも私個人的には「70~80点ぐらいかな」というぐらいの温度感なんです。それでも十分に高いですよ。

変な言い方ですが、例えば「ナルニア国物語 第1章(2005)」と「ハリー・ポッターと賢者の石(2001)」のどっちが好き?って聞かれたとしましょう。個人的には、「ナルニア~」のほうが間違いなく映画として出来がいいと思いますが、もう一回みるなら「ハリー・ポッター~」なんですね。それはやっぱりあの3人の仲間うちのワイワイをもっと見たいからです。本作は「ナルニア~」と同じで、なんというか優等生すぎて癖がなさすぎるというか、それこそ何年経っても印象に残るようなシーンがあんまり無くてですね、、、「出来はいいけど、そんないうほど好きでもない」ってところです^^;あくまでも贅沢な無いものねだりです。

とはいえよく出来てるよ!

いきなり「そんな好きじゃない」とか書いといてなんですが(笑)、本作は凄いよく出来てます。これだけは再三再四書いても書きたりません。よく出来てます。劇中のズートピアには、エリアが何個もあって、エリアごとに「ジャングルっぽい」とか「南極っぽい」とか特徴があります。これって要はほとんどディズニーランドなんですね。ディズニーランドにおける「クリッターカントリー」「ファンタジーランド」「トゥモローランド」みたいなテーマエリアがあって。もっというと、ジオラマ的な「遊園地」です。ですから、この世界観の時点で、これはもう箱庭ファンタジーなんだというのをハッキリ表明しているわけです。

そしてこの「遊園地」を舞台に、かわいい動物たちが暴れまわり、しかもいろいろなパロディやギャグをかましてきます。実写だったら間違いなく腹が立つレベルの寒いギャグも、かわいいネズミキャラがやれば途端にキュートになります。そういった意味では、「動物が楽しく住んでいる楽園」っていう設定だけでもう勝ったも同然な作品です(笑)。

事件の解決はサラっとスマートに

本作は「ゾディアック(2007)」のような大真面目なサスペンスではなく、あくまでもコミカルアニメですから、事件はあっさりと解決します。とくに悩むこともなく、ジュデイとニックはほぼ最短距離で事件解決に向かっていくんです。
この作品の一番うまいところはまさにこの「コミカルアニメだからそこはそんな本気でやることないでしょ?」という言い訳を使ってくる部分です。そもそも動物がしゃべって二足歩行する世界なので、細かい部分は別に雑でもいいんです。
これのおかげで話の粗が目立たないというのは間違いないです。ニンジン型レコーダーの耐久性はどうなってんだとか、トイレの下水管が太すぎるだろとか、誰がこんな凄いズートピアを作ったんだとか、そういう所ですね。動物がしゃべって二足方向する世界なんだから、レコーダーの電池とか下水管の太さとかどうでもいいわけです(笑)。とても上手いです。

【まとめ】

表現が難しいんですが、「アニメの持ってる嘘やアラを隠してくれる懐の深さ」を最大限活用した良作だなと思いました。本作を実写でやったらかなりのトンデモ映画になるはずです。逆に言えば、アニメだからこそ出来ることをちゃんとやっているわけで、そりゃあ支持率が高いのは当たり前のことです。テーマが重くて子供向けじゃないんじゃないかという話もありますが、私はこれは大人も楽しめるバリバリの子供向けだと思います。
GW中の時間潰しやデートなら、ちょうどいい湯加減ではないでしょうか。

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記事の評価
ヘイトフル・エイト

ヘイトフル・エイト

復活2回めはこちら

ヘイトフル・エイト」です。

評価:(82/100点) – 超強化型ショ○ンKの感動作


【あらすじ】

舞台は冬のワイオミング、賞金稼ぎのウォーレンは吹雪に追われるなか、馬が倒れて立ち往生してしまう。そんな時、1台の馬車が通りかかる。乗っていたのは同じ賞金稼ぎの「首吊り人」ジョン・ルース。彼は1万ドルの賞金首である女殺人鬼・デイジーを連行中であった。道中、新任保安官として街に向かうクリスも同行し、4人と御者の珍道中が始まる。
しかし、猛吹雪に追いつかれてしまった一行は、道中の”道の駅”ミニーの店で足止めを余儀なくされる。あいにくミニーは留守中であったが、そこには4人の先客がいた、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> ウォーレンとクリスが馬車に乗り込む
 ※第1ターニングポイント -> ミニーの家に到着する
第2幕 -> ミニーの家での一夜と事件発生
 ※第2ターニングポイント -> ウォーレンが撃たれる
第3幕 -> 解決編


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【感想】

こんにちは。きゅうべいです。もうすでに2番館上映になってしまっていますがご容赦ください。本日はタランティーノ・最新作にしてアメカジファン垂涎のヘイトフル・エイトです。なんでアメカジファン垂涎かと申しますと、実はこの映画、ほぼ全編の衣装があの「RRL(ダブルアールエル)」なんですね。ご存知「ラルフローレン」のカントリー・トラディショナル・ラインでして、元も子もない言い方をすれば、西部劇のコスプレ服みたいなのを高く売ってるブランドです(笑)。その「コスプレ服」が本当の西部劇に使われて、しかもそれがボロ布のようにバンバン血糊やら酒やらで汚れていくという、、、とっても贅沢なひとときを楽しめますw

いきなり「楽しめます」と書いちゃいましたが、本作は無類に面白い「雪山サスペンス」です。正確にはサスペンスってほど謎のある事件ではないんですが、いうなれば超よく出来た最上級の「古畑任三郎」って感じです(笑)。タランティーノ作品を見たことがある方はピンと来てもらえると思います。タランティーノ監督を紹介する際には、よく「過去の名作」や「B級キワモノ映画」のマッシュアップ部分が取り挙げられますが、それ以上に彼の特徴というのは「ダラダラと続く登場人物のひとりがたり & 無駄話」にあります。武勇伝であったり、脅しであったり、はたまたガールズトークであったり、いろいろパターンはあるんですが、劇中でかならず「ダラダラとした無駄話」がはいります。これって、すごく雪山サスペンスと相性がいいと思いませんか? だって、雪山サスペンスってことは基本的には舞台や登場人物が狭いわけで、必然的にみんなでしゃべりまくるしか無いわけです。
ということで、本作は「タランティーノ meets ソリッドシチュエーション」ってだけでもう勝利が約束されたようなものなんです(笑)。

ということで、お約束です。
本作は、第2ターニングポイントをきっかけに、ストーリーがガラッと代わります。ネタバレは極力しないように書きますが、しかしこの「展開」については少々書きたいと思います。もし未見の方は是非劇場にいっていただいてご覧になってからにしてください。最近は劇場公開が終わってからDVDになるまでも3ヶ月ぐらいと早いですから、もしお近くに公開館がない場合でも、是非「これはは見るべし」リストに加えていただいて、是非ご鑑賞ください。いやね、マジで面白いですよ。

話の概要

本作のタイトル「ヘイトフル・エイト」はもちろん「ちょ~イヤ~な8人」を指しています。そしてタイトルどおり、本作に登場する人物は、御者の「O.B.(オービー)」を除いて、ものすごいクセモノがそろっています。南軍・北軍の対立あり、超差別主義者のオラオラ系あり、そして明らかに口だけがうまい曲者有り。役者の豪華さもさることながら、「こんだけ揃ってて殴り合いにならないほうがおかしいわ」というレベルで強烈なメンバーがそろっています。そしてお得意の「無駄話」の数々。映画自体は約3時間と強烈に長いのですが、その長さが「早く外に出たいな~」というまさに登場人物たちが吹雪の小屋で思っていることそのまんまの共感につながり、そして三幕目の血みどろのカタルシスに繋がるわけです。

事件という事件は「コーヒーポットに毒が入れられた件」という一点のみなのですが、これを巡った心理戦の数々に、かなりぐっと引き込まれます。

この映画では、本当に「語り」だけしか出てきません。なので、登場人物みんなが喋っていることに裏付けがまったく無いんですね。もしかしたら全部本当かもしれないし、全部ホラかもしれない。ただ挑発するだけの作り話かもしれないし、照れてて真実を喋っていないだけなのかもしれない。そんな疑心暗鬼が最高潮に達するのが、まさにラストなわけで、これはもうハッタリなのかマジなのか誰にもわかりません。

でも、そんな中で、ラストシーンに出てくるある「ウソ」が、それでも人を感動させ、奮い立たせてくれるわけです。ウソを利用してのし上がってきた彼は、しかしその「のし上がった過程」は真実なわけで、、、とか書くと某ショー○K氏になってしまいますが(笑)、図らずもこの映画はそれを拠り所にした意地を見せてくれます。この映画風にいうならば、例えばショ○ンKが日本代表としてTPP議論に乗り込んでいってアメリカとか東南アジアを丸め込んできてしまったら、やっぱり英雄になれるわけですよ。たとえその基盤がウソまみれの無茶苦茶だったとしてもです。まぁシ○ーンKにはさすがに荷が重いですけどね(笑)。

それでもって、これって、よく考えるとタランティーノそのものなんですね。タランティーノって「自らが好きな過去の作品」を切り貼りして作品を作るわけで、それって作家/クリエーターとしていうなれば「ウソの作品」なわけですよ。超高次元でサノってるというかね(笑)。それでも彼の作品は観客の心を打ちます。実際にキル・ビルやイングロリアス・バスターズはもう完全にオリジナルの感動もまるごと再現してしまったわけです。そう考えると、ラストシーンのとある手紙のシーンというのは、これまさにタランティーノの独白といっていもいいかと思います。そしてタランティーノの映画で感動するのとまったく同じ構図で、やはりその手紙にも感動してしまいます。
これだけでも十分に凄いのですが、タランティーノの真骨頂はここからさらに「でもそれ偽物じゃん」という自己ツッコミまでして、まったく嫌味なく自虐ネタにしてみせる点にあります。自分の立ち位置を完璧に把握して、その上でハイクオリティな作品を量産してみせる。これをやられては他は太刀打ちできません。しかもアイデアというか元ネタは映画史そのものであってほぼ無限ですから(笑。

【まとめ】

おそらく話の筋だけであれば90分ぐらいに収まってしまいます。それはそれで面白そうではありますが、しかしこの170分という長~い時間を通じると、意外とクリスやウォーレンが愛おしく思えてくるのです。衣装やギターなどの小物までひっくるめて徹底される「古き良き西部劇サスペンスのレプリカ」は、必見の出来です。猛プッシュいたします。

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ゴーストライター

ゴーストライター

今日は一本です。ロマン・ポランスキーの陰謀サスペンス、

ゴーストライター」でした。

評価:(90/100点) – ポランスキーの真骨頂!


【あらすじ】

主人公はエージェントのリックの紹介で元イギリス首相・アダム=ラングの自伝のゴーストライターを引き受ける。前任者が酔って船から転落死してしまってリライトが中断してしまっているという。
自伝を書くためにアダムの滞在するアメリカのマーサズ・ヴィニヤード島を訪れた主人公だったが、今度は着いて早々にアダムが違法にスパイを米国に引き渡した嫌疑で国際裁判所に告発つされてしまう。果たして自伝は無事に完成するのだろうか?そして前任者・マイクは本当に事故死なのだろうか?

【三幕構成】

第一幕 -> 主人公の抜擢とヴィニヤード島への到着
※第1ターニングポイント -> ラングが国際裁判所に告発される
第二幕 -> 主人公の調査
※第2ターニングポイント -> 主人公がライカートと出会う
第三幕 -> 解決編


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【感想】

今日は一本、ロマン・ポランスキーの「ゴーストライター」を見てきました。昨年の東京国際映画祭でも上映していましたし、さらに昨年度ベルリン国際映画祭で銀熊賞を獲っています。その評判からなのかポランスキーのネームバリューからなのか、かなりのお客さんが入っていました。テレビ映画からもどんどんサスペンス映画が減ってきていますが、やっぱり面白いサスペンスには需要があるんですね。大変嬉しい限りです。

わりと静かな陰謀サスペンス

本作はゴーストライターとして首相の近くで働くこととなった男が、前任者の謎の死を興味本位で調べて行くうちに恐るべき陰謀に巻き込まれてしまうという陰謀サスペンスです。あっけらかんとした元首相アダムにその愛人とおぼしき秘書のアメリア。それに不満で冷め切っているアダムの妻・ルース。そして政敵のライカート。たったこれだけの主要キャストながら、主人公が興味本位で首を突っ込んでしまったばっかりに発覚する事実はイングランドの政治に大きく関わる重要な陰謀です。
本作は起こることの重要性に反してとても静かに進んで行きます。主人公が実際にやることと言えば前任者の部屋で秘密の書類を見つけてしまうことと、そしてたまたま乗った前任者の車のカーナビでその足取りを追ってしまうことぐらいです。「介入型サスペンス」でありながらも 限りなく「巻こまれ型」に近い展開を見せます。
そうです。本作の素晴らしい所は、主人公はあくまでも一市民であり、終始ただのしがないゴーストライターなんです。何か驚異的な能力を発揮するわけでもなければ、特別な立場にあるわけでもありません。「たまたま」がどんどん重なっていって、 しまいには国家を揺るがす陰謀と向き合うこととなってしまいます。その過程の好奇心と戸惑いがあまりにも普通かつ下世話すぎて、どうしようもなく見ている人間の興味を惹きつけます。本当によくできたサスペンスです。

そもそもアダム・ラングってブレア元首相のパロディ、、、。

下世話という意味ではここを外すわけには行きません。本作のラングは実在のイギリス首相トニー・ブレアをパロっています。実際にブレアは「テロとの戦い」を前面に出して米国の完全追従を打ち出し当時は「ブッシュの飼い犬」とまで言われていました。イギリスの左翼に言わせればそれがロンドン同時爆破テロにつながって行くわけです。 ブレアの良し悪しは置いておくとしても、前首相のほとんど悪口に近いネタを 使って陰謀サスペンスを作れるというところが、イギリスの懐の深さというか、エンターテイメントのアコギなところです。まぁポランスキーは少女強姦罪で指名手配中で米国から34年間も逃亡してる身ですので、そりゃアメリカが嫌いなのは当然ですけど。

【まとめ】

大変愉快なサスペンス映画です。あくまでも無力な主人公を通じて、ちょっとした正義感と野次馬根性を出してしまったがばっかりに巻き込まれる大き過ぎる陰謀に終始ドキドキしっぱなしです。間違いなく映画界トップクラスのポランスキーの演出とユアン・マクレガーの良い人すぎる困り顔を是非是非劇場でご覧ください。万人に受ける必見の作品です。
オススメです!!!
いや~今週は超豊作です。

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