悪魔を見た

悪魔を見た

日曜の二本目は韓国映画の

悪魔を見た」を見たぞ見た!

評価:(30/100点) – これ、グロくもないし、ノリ軽いし、、、深遠か?


【あらすじ】

韓国国家情報員のエージェントを務めるスヒョンは、結婚間もない妻を殺されてしまう。女性を狙った似たような事件が頻発していることから警察は4人の容疑者に絞り込む。怒りに燃えるスヒョンは、義理の父親である退役警官のククァンを通じて捜査情報を入手し独自に復讐を始める。2人の容疑者を病院送りにした後、ついにスヒョンは3人目にして殺人犯を特定する。殺人犯のキョンチョルは連続快楽殺人鬼で今日もまた女子学生を攫っていた、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> サンファの死とスヒョンの捜査
 ※第1ターニングポイント -> スヒョンがキョンチョルに発信器を付ける
第2幕 -> スヒョンのいたぶり
 ※第2ターニングポイント -> キョンチョルが発信器をはずす
第3幕 -> キョンチョルの逆襲と結末


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【感想】

ちょっと日が開いてしまいましたが日曜の二本目は「悪魔を見た」を見ました。監督はグッド・バッド・ウィアードのキム・ジウン。結構な拡大ロードショーでしたが、日曜はガラガラでした。イ・ビョンホンのファンがもう少しくるかなと思っていたんですが、映画オタクみたいな方が多かったのが意外でした。
私も実はかなり期待していた作品だったんですが、正直あんまりピンと来ませんでした。ストーリー自体は「主人公が残酷な復讐をしようとするあまり調子に乗って手痛いしっぺ返しを食らうが、結局は復讐を果たす」というわりと良くある話です。本作の一番の期待所は当然R18+まで食らったゴア描写なわけですが、、、、実際には全然グロいところは映しません。生首とか肉体破損の間接描写が出てきますが、それこそ「冷たい熱帯魚」とか「ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う」のような直接描写が無いのでそこまで嫌な感じものこりません。この何とも言えない”ヌルい湯加減”が作品全体から伝わってきて、終始微妙な気分にさせられます。「ちょっと面白い」と「ちょっとつまらない」の間をメーターの針が高速で振れまくっているような感覚です。
本作のタイトルは「悪魔を見た/I saw the devil」です。この悪魔とはなんぞやと考えると、直接的には悪魔的な殺人鬼であるキョンチョルを指しています。それにプラスして、悪魔=モラルの破壊者ですから、これは「復讐」という行為そのものを指しているとも考えられます。作中で捜査官(=正義の行使者)であったスヒョンは、復讐心に取り付かれるあまり何度もキョンチョルを痛めつけては解放します。復讐だけを考えるならすぐにキョンチョルを殺せば映画は30分で終わりますw しかし彼はまさに悪魔(=復讐心)に魅入られて道理を忘れてキョンチョルをいたぶり、結果として大きな代償を払うことになります。作品のテーマを考えれば、間違いなく本作の肝はそのスヒョンの心理にあるわけです。この物語はスヒョンの妻が殺されるところで始まり、スヒョンが復讐することで終わるのですから。
おそらく本作がいまいちである大きな要因は、あまりにもスヒョンの格闘力が強すぎてまったく危なげがない点と、スヒョンの調子に乗り方(=悪魔に魅入られ方)が共感しづらい点です。つまりはイ・ビョンホンなわけですが(苦笑)、俳優が悪いというよりはキャラクターが立っていないという方向です。
本作では一番肝心なスヒョンの豹変振りがあまり描かれません。前述の通りこの物語は「真面目だったスヒョンが、我を忘れて”どんどん残忍になっていく(←劇中の台詞)”」のが重要です。つまりスヒョンの落差です。これがほとんど無いんですね。せっかく冒頭でスヒョンの仕事風景がチラッと映るのに、肝心の彼の態度が映りません。彼が冒頭で真面目なら真面目なほど、”どんどん残忍になっていく”過程が面白くなっていくんです。ここが抜けてしまったため、最初から最後までスヒョンは残忍なままですw 結果としてテーマがボケボケです。
そしてスヒョンが最初から強すぎることで、その対比として弱すぎるキョンチョルが全ての美味しいところをかっさらっていきます。キョンチョルは残忍で、小心者で、スケベで、小太りで、しかも弱くて卑怯という敵役キャラクターとしてはパーフェクトな殺人鬼ですw あまりにもキョンチョルのキャラが強すぎるため、これもやはりスヒョンの魅力を激減させています。
ですから見終わった後で印象に残るのは、あまりにも美味しすぎるキョンチョルと、結局適当に流されているだけに見えてしまうスヒョンのがっかり具合です。

【まとめ】

「チェ・ミンシク」「連続殺人鬼」「R18+」と聞いてかなり期待が高かったのですが、かなり消化不良でした。正直な話し、このレベルなら邦画でもゴロゴロ転がっていますのでわざわざ韓国映画を見るほどではないと思います。
「韓国2大名優であるイ・ビョンホン、チェ・ミンシクが初共演。映画史上最も強烈な比類なき復讐劇が観る者すべての心を鷲掴みにする深遠なる物語。」という宣伝文句は結構偽りありです。強烈でも無ければ深遠でもありません。
140分は長すぎますし、ジャンル映画としても物足りないです。ここのところ劇場はお祭り状態で話題作テンコ盛りですので、本作を見るのはとりあえず後回しでも良いと思います。

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シークレット

シークレット

本日の2本目は韓国映画

シークレット」です。

評価:(30/100点) – サスペンスとしてはどうかと思うほど適当。


【あらすじ】

キム・ソンヨルは刑事である。ある日の朝、ソンヨルの妻ジヨンは何時にもまして正装をして家を出て行く。深夜0時近くになって戻ってきたジヨンは、片耳のイヤリングを無くし、シャツには血痕がついていた。問いただすソンヨルにジヨンはなにも答えない。翌日、マフィアのボスの弟・ドンチョルが刺殺され発見される。現場にはジヨンのなくしたイヤリングとブレザーのボタンが落ち、ワイングラスにはジヨンの付けていた紫の口紅が付いていた。妻が殺したと判断したソンヨルは必死に証拠を隠そうとする。一方その頃、ドンチョルの兄・ジャッカルは怒り心頭で犯人の独自捜査を始めていた、、、。


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【感想】

本日の2本目は韓国映画の「シークレット」です。本日公開ですが、全く話題にもなっておらず映画館もガラガラでした。
本作はある意味「瞬 またたき」と同じフォーマットを持っています。ドンチョルが殺された瞬間が最後の最後まで明かされず、その空白の時間を巡ってソンヨルが右往左往していきます。いわゆる巻き込まれ型のサスペンスなんですが、本作で問題なのは、謎が謎じゃないという部分なんです。というのも、真相はジヨンが知っているわけで、単に喋らないっていうだけなんです。極端な話、重要参考人としてジヨンを警察に呼んで取り調べれば10分ぐらいで映画が終わります。
ですが本作ではそこを根底にして、脅迫者(ピエロ)とジャッカルとソンヨルと同僚チェの4者が独自の思惑で動き始めます。そしてストーリーはどんどん横滑りしていき、気付いたら殺人事件はどこかへいってしまい麻薬バイヤーの話になっていきます。
実は本作を見ていて、すごく伊坂幸太郎映画っぽいと思いました。気が利いてるようで実はグダグダな伏線の張り方だったり、メインストーリーであったはずの所からどんどん関係無い話にずれていく感じがすごく似ています。そして、物語で写る部分以外が雰囲気だけというのも共通しています。ネタバレになってしまいますが、劇中でもう一つ分かりやすい殺人事件があるのにそれが何の捜査もされていないんです。そちらは完全な衝動殺人で、それこそ指紋や目撃者が沢山いるような状況です。でも劇中では完全スルー。いいのかそれで、、、。
結局、本作がやろうとしているのはとても入り組んだ「パズル型サスペンス」なんです。でも全然出来ていない上に、そもそもの話すらとっちらかってしまいます。残念ですが、お世辞にも出来が良いとは言い難い映画でした。
本作で唯一良いところは、韓国の警官は汚職が当たり前という部分です。他の韓国映画でもよく出てくるんですが、こういう自国の汚点を普通に映画に入れてしまえるというのは韓国独特の感覚だと思います。恥だと思ってない感じw
オススメはしませんが、もし時間とお金が余っていて映画館の椅子に座ってのんびりしたい方には良いかも知れません。

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彼とわたしの漂流日記

彼とわたしの漂流日記

久々のレイトショーは

「彼とわたしの漂流日記(金氏漂流記)」を見てきました。

評価:(20/100点) – 「で、借金の件どうなった?」「シラネ(´・ω・`)」


【あらすじ】

2億ウォン(=1500万円)の借金を抱えて彼女にも捨てられたキムは、橋から漢江に身投げする。しかし彼は偶然助かり、パム島に打ち上げられてしまう。首を吊る根性もなく、泳げない彼は逃げることも出来ず、結局彼は無人島でのサバイバル生活を始める。
一方、学校を自主退学して引きこもりる”女”は、自室の窓からキムの姿を見て次第に共感を覚えていく、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> キムの身投げ。
 ※第1ターニングポイント -> キムが無人島で生きることを決意し、アヒルボートを寝床にする。
第2幕 -> キムと女とジャージャー麺
 ※第2ターニングポイント -> キムがジャージャー麺を食べる。
第3幕 -> 台風と結末。


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【感想】

今日は「彼とわたしの漂流日記」です。昨年の「韓国映画ショーケース2009」で上映していましたので、半年ぶりの日本公開となります。レディースデイもあってか、かなりおばさんを中心にお客さんが入っていました。
本作はジャンル的にはラブストーリー的な要素が強いコメディという括りになるかと思います。とはいえ非常にハリウッド的な構成をしていまして、ギャグは前半にまとめて叩き込んで置いて後半は比較的シリアスな展開になっていきます。ただ脚本は決して上手いわけではありません。
作中では2つのストーリーが並行して描かれます。一方は自殺しようとしたものの失敗したヘタレが開き直って自分の世界を作っていく話。もう一方は引きこもってネットで現実逃避していた女がサバイバルする男を見て他者とのコミュニケーションに意欲を出し始める話。
見ていて一番気になったのは、前者のキムが借金で自殺を決意しているのに、その件について最後まで解決せず「生きる意欲を取り戻す」というところまで行かないことです。キムは途中から「無人島での自分の城」に固執し始めるわけで、そういった意味では自殺願望はとっくに無くなってるんです。あの勢いなら、最後もやっぱり無人島になんとかして帰ろうとした方がしっくり来ます。ところが実際にはまた自殺願望がでてきて、女の事を気にするも別になにもしないという酷い状態です。本作の展開だと、結局キムはなんにも成長していないヘタレのまんまでしかないわけで、話としてはブレちゃってる様に思います。
女側についてもいわずもがなです。本作のタイトルである「金氏漂流記」というのは当然ダブルミーニングなわけで、話としては女が自分と同じく孤独なキムを見て「孤独な状況を楽しもうとしている逞しさ」に感化されていっているはずなんですが、なんか単に一目惚れしてストーキングしているようにしか見えませんw それというのも、かなり早い段階で女が外に出ちゃうからなんですね。それってクライマックス級にもっと引っ張ってもらわないと、、、。結局、最初っから別に引きこもってるように見えないんです。そもそも引きこもる理由も「顔の傷」以上の説明がないですし、ネット上で彼女がやってることはかなり悪質です。なので全然美談として乗れませんでした。
またこれは根本的な問題なのですが、全体を通してのギャグや起きている奇跡的なことがあまりにも漫画的であるため、リアリティレベルの問題が起きてしまって全体がまったく切迫した状況に思えません。だって台風が来ただけで警備隊が掃除にくるようなところで、夜中に焚き火してたら警察が来るでしょ?なんで三ヶ月もあんな無防備かつ悠々自適に無人島生活を満喫できたのでしょう? 全体が嘘っぽ過ぎます。なにせ、開始10分目くらいでアヒルボートをイカダみたいにして対岸に渡ればいいだけなんですから。

【まとめ】

前半のギャグは下品ながらそこそこ楽しめましたが、後半の携帯小説みたいなノリには正直ついて行けませんでした。とはいえあまり細かいことを気にせずに大枠だけざっくりと見ていればそれなりに楽しめるかも知れません。そこまで数は見ていませんが、日本に入ってくる韓国映画としては結構下の方だと思います。
よく思うんですが、日本映画の質がハリウッドや韓国映画より低いってことは無いです。すくなくとも上の方を見れば結構良い線行く映画はどこにもあります。ただ単に外国の糞映画は買い付けでふるいに掛けられて配給されないってだけです。そう考えると、ここまで微妙な韓国映画の日本配給っていうのも珍しいかも知れませんw

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スナイパー:

スナイパー:

本日は渋谷で二本+短編一本を見てきました。

一本目は「スナイパー:(神鎗手)」です。

評価:(85/100点) – 燃える漢の狙撃戦!


【あらすじ】

腕を見込まれて香港警察狙撃部隊に引き抜かれたOJはフォン隊長の下で一人前の狙撃手になるための訓練を受けていた。彼の部隊にはかつて狙撃大会で四連覇を達成し唯一500mのピンショットを可能にした天才リン・ジンが居たが、彼は過失致死で服役中であった。そんな天才リン・ジンは四年の刑期を満了した後、マフィアに手を貸して警察達を次々と射殺していく。果たして四年前に何があったのか?そしてリン・ジンの目的は?
四年前の真相が明らかになったとき、フォン隊長、リン・ジン、OJの三人の天才達が激突する。

【三幕構成】

第1幕 -> OJの特訓。
 ※第1ターニングポイント -> タオの脱走。
第2幕 -> リン・ジンとOJとフォン隊長
 ※第2ターニングポイント -> タオの銀行強盗開始。
第3幕 -> リン・ジンの復讐


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【感想】

本日の一本目は香港映画の「スナイパー:」です。アクション映画といいますか香港ノワールといいますか、男臭~い熱血映画です。関東ではシネマ・アンジェリカでしか上映していませんが、その割にはあまりお客さんが入っていませんでした。正直もったいないです。めちゃくちゃ面白いですよ。
また、例によって以下はネタバレを多く含みますので、未見の方はご注意下さい。

本作の構造

さて、本作には三人の魅力的な男が登場します。香港映画界の宝にして近年では「ダークナイト」にも出ていた、そしてハメ撮り流出で休んでいたエディソン・チャン。ちなみに本作はお休みする前の最後の作品です。それに台湾の90年代を代表するアイドル歌手リッチー・レン。最後に中国の近年最高のアイドル・ホアン=シャオミン。このイケイケな3人が、ある意味歪んだ三人の男達を熱演します。でまぁ演技もさることながら、この三人のキャラの立て方が抜群に上手いです。
フォン隊長は、リン・ジンに射撃の腕が叶わず、出世レースでもリン・ジンに先を越されさらには妻がうつ病で自殺未遂までしてしまい自分の能力・境遇に強烈なコンプレックスを持っています。そのため、リン・ジンをハメてまで掴んだ狙撃隊長の座を唯一「自分がトップを張れる場所」として自己実現の場にしており、自分の言うことをあまり聞かないOJに対して激烈な反応を示します。
OJは父親がケチな雀荘の店番(=小者)だということに猛烈な不満を持っています。そしてその父親への反抗心から強烈なエリート意識があり、自分の能力に絶対的な自身を持っています。時には過信や傲慢とも取れる態度で独断専行も辞しません。
リン・ジンは孤高の天才肌で、人付き合いがよくないものの、その絶対的な射撃能力でいち早く出世していきます。しかし新婚早々に起きた銀行強盗事件でフォンの偽証により懲役刑を食らい、さらには八つ当たりをしてしまった妻は謝罪する間もなく事故死してしまいます。それ故にフォン隊長に対して恨みを募らせており、マフィアに手を貸してフォン隊長をおびき出し復讐を行います。
この三人をパッと見れば分かるように、明らかに悪であるリン・ジンが一番まともです。ともすればヒーローに描かれても可笑しく無いキャラクターなんです。っていうかセガールがやっても可笑しく無い(笑)。しかし本作ではあくまでも狙撃隊の新人・OJをメインとし、先輩二人の確執からくる決闘を描いていきます。パッと見ると善悪の二項対立みたいに見えかねないんですが、構造的にはOJのメンター(=師匠)はフォンでもありリン・ジンでもあるわけです。OJは、フォンから射撃の基本と心得を習い、リン・ジンからは独特の呼吸法とロングショットのコツを習います。だからこそ、本作のラストショットの意味が出てくるんです。新人のOJは、フォンとリン・ジン、それぞれの教えを受けて成長するんです。この描き方が抜群です。まるで熱血スポ根映画のようです。

【まとめ】

本作はもの凄く面白いんですが、でも実はあんまり書くことがありません(笑)。というのも、上記の三人のキャラクターを立てた時点でもうこの作品は”勝ってる”んです。しかもそこを取り巻く描写もアクションもほとんど完璧です。決して上品な作品ではありませんが、しかし男の子が大好きな要素は全てきっちり詰まっています。自宅が渋谷まで電車で一時間ぐらいの距離でしたら、十分に行って元は取れます。超オススメです。
強いて言えばちょっと画質が良くなかったんですが(というかデジタルノイズが乗ってました)、もしかしてDVDかBDでの上映だったんでしょうか? 何にせよ、ミニシアターとはいえこういう面白い作品をきっちり上映してもらえるのはありがたいことです。渋谷はミニシアターがいっぱいあって、本当に面白い街です。行くのはいつも裏通りばっかですけど(笑)。

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息もできない

息もできない

日曜日に渋谷のシネマライズで「息もできない」をみました。

評価:(90/100点) – 見てるだけでも本当に”息もできない”です。


【あらすじ】

ヤクザの下請けをして過ごすチンピラのサンフンは、ある日道端で勝ち気な女子高生・ヨニと出会う。一歩も引かない彼女に好意を感じたサンフンは、次第に甥っ子の遊び相手として、そして自身の話相手として、ヨニに心を開いていく。共に複雑な家庭環境を持っていたサンフンとヨニだったが、やがてヨニの弟ヨンジェがサンフンの部下になったことで運命が捻れていく、、、。


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【感想】

本日は、日曜日に見てきました「息もできない」です。公開から日が経ったこともあり感想はあらかたweb上に出そろっていますから、要点のみを書きたいと思います。
この作品は、暴力でしか自己表現が出来ないサンフンが、もがいて、嫌気がさして、感情を爆発させて、だけど女性によって少しポジティブになれて、けれど結局報いを受けるという、重たい話です。
作品内に出てくる人物で一般的な意味で幸せそうな人間は一人もいません。家庭内暴力もあり、娘を殺す親もあり、友人は殺され、親族が人殺しもやります。だけれども、ヨニとサンフンが一緒に居るときだけお互い馬鹿みたいにくだらない会話が出来るんです。そこでは家庭の事情や仕事の内容なんて関係無く、一対一の不器用で下品な言葉が飛び交う、けれども真に安心できる会話があります。
その一方で、なんと世界の殺伐としたことでしょうか。サンフンという男は報いを受けて当然の酷いことをやってきています。だけれども、その彼が本当に魅力的に描かれています。
作品内では、全員が奇妙にすれ違っていきます。「パレード」の時の話でも書きましたが、人間が全てをさらけ出して会話をすることはまずありません。必ず他人には言わない、他人には見えない部分があります。本作でも、そのすれ違いという部分が肝になってきます。各人が誰に対してどこを隠してどこをさらけ出すのか? それがおぼろげに見えたとき、この映画がとてつもない事を描ききっていることに気付くはずです。
それは暴力の連鎖であり、個々人の幸せの定義の仕方であり、そして感情の折り合いのつけ方です。
こんなとんでもない作品を単館にとどめるのはもってのほかだと思いますが、幸いにして今週末から拡大ロードショーらしいですので是非是非映画館でご鑑賞下さい。


なんか土日は「第9地区」「月に囚われた男」「息もできない」と良品3作しか見なかったので、ちょっと奇妙な罪悪感を感じています(笑)。アリスの前に自制も兼ねてあえて「ダーリンは外国人」を踏みに行こうかと思案してます、、、たぶん明日か明後日にでも。
あんまり良い映画ばっかり見てこれが当たり前になると良くないですから(笑)。
「良い映画を見て感動するには倍の糞映画を見よ!」というのがモットーですんで(苦笑)。

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渇き

渇き

いまさらですが「渇き」を観てきました。

評価:(75/100点) – 変テコながらハイテンション。


【あらすじ】

神父のサンヒョンは己の無力感からエマニュエル・ウィルスの被験者となる。死亡率の高いEV実験の中で、サンヒョンは発症しながらも生き残った初めての被験者として奇跡の象徴となる。しかし彼が生き残ったのは、輸血を受けた謎の血液の効果だった、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> サンヒョンがEV実験の被験者となる。
 ※第1ターニングポイント -> サンヒョンがヴァンパイアになる
第2幕 -> サンヒョンとテジュの浮気
 ※第2ターニングポイント -> テジュがヴァンパイアになる。
第3幕 -> 結末


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【感想】

今日はパク・チャヌクの「渇き」を見てきました。観ようみようと思ったまま時間が合わず、気付いたら公開終了だったので滑り込みです。
とても変テコでハイテンションで、そして凄まじいフィルムでした。
大ざっばなジャンルとしてはモンスターホラーものです。神父であるサンヒョンがひょんなことからヴァンパイアとなり、聖職者としてのモラルとヴァンパイアとして生きるのに必要な血の獲得の間で揺れ動きます。そしてその均衡を崩す存在としてのテジュ。崩れるまでの苦悩と崩れた瞬間からの開き直り。まるで前半と後半で別の映画を見ているようで、それでも確実にサンヒョンの価値観だけがまっすぐに芯が通っています。分かりやすいモンスターとして描かずに、まるでヴァンパイアであることを病気か障害のように苦悩する人間像というのは結構珍しかったりします。
ヴァンパイアみたいな怪物は「十字架が嫌い」「神の敵」みたいな位置でキャラ付けをされることが大変多いのですが、本作ではむしろ神に忠実な人間くさい男です。このアイデアは中々です。
演出面ではかなりぎこちないカメラワークを使ってきまして、とても無骨で荒い印象を受けます。それは本作のトーンにばっちりです。
またソン・ガンホのすこしやつれた顔がまるで苦悩が張り付いているように見えてきてとても嵌っていますし、キムオクビンの終盤でがらっと変わる演技も本当に素晴らしいです。手放しで褒められるような脚本ではありませんが、しかし丁寧な人間描写と的確な伏線運びはさすがのパク・チャヌクです。
ゴア描写有りの怪奇映画でここまで人間ドラマを描かれてしまっては、正直そんじょそこらのジャンルムービーでは太刀打ちできません。そういった意味で、文句なくオススメできる良作です。ゴア描写が平気な人にだけですが(苦笑)。

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マッハ!弐

マッハ!弐

今日は「マッハ!弐」を見てきました。

評価:(45/100点) – やっぱりプラッチャヤー・ピンゲーオは偉大だった。

【三幕構成】

第1幕 -> ティンが奴隷商人に捕まる
 ※第1ターニングポイント -> ティンがガルーダの翼峰に拾われる
第2幕 -> ガルーダの翼峰での修行とティンの回想
 ※第2ターニングポイント -> ラーチャセーナの即位式に殴り込みを掛ける
第3幕 -> ラーチャセーナの即位式とガルーダの翼峰アジトでのアクション


【あらすじ】

アユタヤ王国が勢力を広めるタイ。その東にある王国ではクーデターが勃発していた。 ラーチャセーナの謀反より家臣によって救い出された王子・ティンは、道中家臣とはぐれ奴隷商人に捕らえられたところを山賊に助けられる。ガルーダの翼峰と名乗る山賊達の中でティンはあらゆる戦闘術を学び、やがて組織のトップへと成長する。
山賊のリーダー・チューナンよりリーダーの座を譲られたティンは、やり残した事があるとしてこれを固辞する。そして両親の仇であるラーチャセーナの即位式へと単身殴り込みを掛けるのだった、、、。


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【感想】

ついに日本で公開されました。 「Ong-Bak2」こと「マッハ!弐」です。アクション映画ファンならば言わずと知れた、タイの誇るスーパースター、トニー・ジャー主演の最新作です。ちなみに映画自体は2008年公開作品でして、すでに続編「Ong-Bak3」が来週・1月21日にタイで公開されます。つまり周回遅れ。
でもハリウッド以外の海外映画なんてそんなもんです。劇場公開されただけでもありがたいと思っておきましょう。

本作のストーリーについて

本作にとってストーリーはまったく問題ではありません。というか普段ハリウッド映画や日本映画を見慣れている人からすれば、ものすごく変テコな映画です。
例えば、いつの間にか回想シーンが始まっていてそれがなかなか終わらなかったり、場面転換したと思ったらいきなり10年近く経ってたり、おそらく戸惑うと思います。アクション映画ですのでストーリーは割とどうでも良いんですが、それにしても非常に分かりにくい構成をしています。とはいえ一度分かってしまうとものすごくシンプルな話だと気づきます。ある程度分からなくてもそういうものだと割り切ってしまいましょう(笑)。

スタッフと制作時のゴタゴタについて

知っている方は知っていると思いますので読み飛ばしてください。実は本作は制作時にとてもゴタゴタしました。これはタイ・アクション映画のそもそもを語らないと説明しづらいため、少々長くなります。
アクション映画というと皆さんご存じの通り香港のカンフー映画が有名です。実際、スティーブン・セガールやジャン・クロード・ヴァン・ダム、近年だとウェズリー・スナイプスあたりの生粋のアクションスターは欧米にも居ます。ですが、やはり香港が生身のアクションでは最先端を突っ走っていました。
ところが2003年にまったくノーマークだったタイからとんでもない作品が登場します。それが「マッハ!!!!!」です。ムエタイを駆使して細身のトニー・ジャーがアクロバティックなアクションをこなす姿は本当に衝撃的でした。この作品をきっかけに、監督のプラチャヤー・ピンゲーオとアクション監督のパンナー・リットグライの名前がアクション映画界に轟きます。この2人はどちらも監督が出来るゴールデンコンビとして、時には監督、時にはプロデューサーとしてアクション映画を量産しはじめます。
特にピンゲーオ監督はかなり本気でタイをアクション大国に育てようと苦心し、独自に若手の育成に着手し始めます。なにせトニー・ジャーがたまたま天才だった可能性が有りましたから、タイ映画を香港映画のようなブランドにするためには育成システムの用意が急務だったわけです。そしてピンゲーオが育て上げた第1号が「チョコレート・ファイター」で鮮烈なデビューを飾ったジージャー・ヤーニンです。彼女もデビュー作にして素晴らしいアクションとスター性を見せ、ピンゲーオとタイ・アクション大国計画が本物であることを証明しました。
さてそういった背景の中で、ピンゲーオを抱える映画会社サハモンコル・フィルムは「マッハ!!!!!2」を企画します。ところがトニー・ジャーが超問題児でして、映画は自分が居れば成立すると嘯いて自らメガホンを取ると言い出します。サハモンコル・フィルムはプロデューサー兼お目付役としてリットグライをブッキングしてトニー・ジャーに監督をやらせます。そしてトニー・ジャーが「マッハ!!!!!2」を撮っている間に、問題児トニーの後釜としてピンゲーオに若手育成を託します。それが見事成功しジージャーが誕生するわけです。
じゃあ「マッハ!!!!!2」を撮っている間はトニー・ジャーもおとなしかったかというと、そんなわけはありません。急に失踪したり、テレビで奇行を披露したり、自分のギャラを上げたあげく制作費を使い込んで勝手にボイコットしたりしてます。超問題児。性格最悪です。
そんなわけで、「マッハ!!!!!2」はまさにトニー・ジャーのトニー・ジャーによるトニー・ジャーのための「オレ様映画」になりました。
しかしあまりにも問題行動が多かったため、トニー・ジャーはもはや「マッハ!!!!!」をシリーズ化する以外に俳優として生きる術はありません。どこも使ってくれないですし、すでに自分の代わり(=ジージャー)が世界的な評価を得ています。ピンゲーオ監督とも喧嘩別れ同然です。一方的にトニーからピンゲーオは要らないとか言っちゃってますから。ということで、本作はかなりがっかりな内容でしたが、次作は俳優生命を賭けて死にもの狂いでくるはずです。

【まとめ】

本作はストーリーもさることながらアクションも相当がっかりな出来です。というのも、トニー・ジャーが自分でやりたいことを詰め込んだという印象が非常に強く、ティンのアクションに整合性が見られないためです。前作では古式ムエタイという核がありましたが、本作は本当に「何でもあり」になってしまっており、あまりにもティンが万能過ぎます。万能すぎるが故にハラハラ感も薄く、漫然と戦闘が続いてしまいます。
この点はトニー・ジャーの監督としての力量不足だと言わざるを得ません。やはり「トム・ヤム・クン!」や「マッハ!」で世界を驚愕させた一因である「テーマを持ったアクション・シーン」はピンゲーオ監督の力量でした。トニー・ジャーとピンゲーオにはフィルム構成力に圧倒的なまでの差があります。
トニー・ジャーには心を入れ替えてピンゲーオに謝罪していただいて、是非ともまたすばらしいアクション映画を作って欲しいです。
ま、可愛いくってアクションも凄まじいジージャーがいれば、トニーこそ要らないんですけど(笑)。
そういった意味でも、トニーにはピンゲーオに謝りに行く事をオススメします!
こんな映画作ってたら、本当に居場所なくなっちゃいますよ、、、。

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記事の評価
母なる証明

母なる証明

本日のハシゴ二本目は「母なる証明」です。
評価:(70/100点) – キレてるオバさんの観察記録

※今回はネタバレ全開です。公式の予告でも既に全部ネタバレしてますが、もしまっさらな気持ちで見たい人は読まないでください。


<あらすじ>
田舎町で女子高校生が殺害される。状況証拠から逮捕されたトジュン。母は息子の無実を信じ非合法な独自捜査を開始する。ついには事件の目撃者を発見するが、彼が見たのは、、、。
<三幕構成>
第1幕 -> トジュンのキャラ紹介。
 ※第1ターニングポイント -> トジュンが逮捕される。
第2幕 -> 母の独自捜査
 ※第2ターニングポイント -> アジュンの携帯電話を発見する
第3幕 -> 解決編。


<感想>
もし皆さんが映画が好きで多くのサスペンスを見ているならこの映画のオチは予告と映画の冒頭5分を見ただけで分かります。
ある人物が逮捕され、その無実を証明するために主人公が独自捜査を行うという話は過去にいくらでもあります。この場合オチは二通りです。すなわち「誰かにハメられた」か「実際に彼が犯人」かです。そして本作の冒頭でトジュンがいわゆる「知恵遅れ」であることが明らかになります。
ということで、誰がどう見ても実際にトジュンが殺したのにその事を覚えていないというのは明らかです。そしてポン・ジュノ監督も当然そういう見られ方をするのは分かっているはずです。
すなわち本作は、スクリーン上は「真犯人探し」が行われるものの、観客は真犯人なんて最初から分かっているという不思議な環境のもと上映されるわけです。ではそこで画面に浮かび上がってくるのは何でしょうか? それこそが本作のメインテーマでありタイトルにもある「母」の感情です。
思い切って断言しますが、キム・ヘギャ演じる母親に感情移入出来る人は殆どいないと思います。正確には「理解は出来るがさすがにやり過ぎ」という感想を抱くと思います。証拠もないのに被害者の葬式に殴り込んだり家宅侵入したりやりたい放題です。あげくジンテというチンピラを使って脅迫までやります。これは暴走というには余りに凄まじく、まさに狂気です。
第三幕の冒頭で、母親は事件に関わっていると見られる男を訪ねます。話を聞くと、彼がトジュンの殺人現場を目撃したのが明らかになります。しかも証言の具体性や「知らなければ創作できない」トジュンの癖などから、証言の信憑性は明らかです。そこで母親がとった行動は、、、この目撃者を殺害することです。もはや「トジュンの無実を証明する」事など問題ではなく、「トジュンを助けること」のみが目的になっていることが明示されます。
そして彼女は無実だと確信しているダウン症とおぼしき少年にすべての罪をかぶせ、トジュンの釈放を勝ち取ります。
この一連の狂気を「母は強い」と一般論でまとめてしまうのは少々微妙です。あきらかにこの母親は一般平均レベルではありません。最後の最後で、彼女は内股の「嫌なことを忘れるツボ」に自ら鍼を打って、すべてを幸福の内に閉じ込めようとします。しかし出来るはずもなく、ただただ取り憑かれた様に踊ることで全てを忘れようとします。この女の狂気は業が深く、ある種の一貫性と圧倒的な存在感を観客に叩きつけます。
すなわち本作は殺人事件を巡るサスペンスというよりは、そこで解放された一人の女の狂気に恐怖するスリラー映画です。疑いようもなくこのキム・ヘギャは怖いです。
<まとめ>
この作品はハリウッド式エンターテインメントの構成をとった「キレてるオバさんの観察記録」です。このオバさんは一筋縄ではいきません。是非皆さんも映画館で、このオバさんのキレっぷりを堪能してください。「羊たちの沈黙」のレクター博士を筆頭に、映画史には多くの「魅力的な重犯罪者」がいます。キム・ヘギャの母親は、間違いなくこの系譜に入ってくるキャラクターです。オススメです。

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