ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う

ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う

土曜の三本目は

「ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う」を見て来ました。

(35 /100点) – 石井隆的というよりは普通のエログロ単館映画。


【あらすじ】

あゆみ、桃、れんの親子は場末でバーを営みながら、保険金殺人を繰り返していた。ある日、いつものように死体を富士山麓に捨てた後、桃はロレックスが無いことに気付く。死体と共に見つかっては製造番号から足が付くと恐れ、桃はれんにロレックスを探してくるよう命令する。森の中から小さなロレックスを探すことなど不可能だと考えたれんは、なんでも代行屋・紅次郎に依頼をする、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> ロレックスと紅次郎。
 ※第1ターニングポイント -> れんが紅次郎に人捜しを依頼する。
第2幕 -> 次郎の人捜し。
 ※第2ターニングポイント -> れんが次郎の元へ行く。
第3幕 -> 石切場。


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【感想】

土曜の三本目は「ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う」を見てきました。意外にもお客さんの半分ぐらいは女性でした。
終盤の雨の中でれんが非常階段に座り込む場面や、次郎の部屋の中でネオンを光らせる場面など、石井隆的なモチーフは随所に散りばめられています。ただ、ここ15年ぐらいの間にこういった表現がもう既に陳腐化してしまっている感が否めません。というのも、それこそ銀座シネパトスのレイトショーにいけば、こういう類のエログロな準ピンク映画はもはや定番になってしまっているからです。
ただし、かならずしも石井隆監督がそういった有象無象に埋没したとは思いません。やはり石切場でのクライマックスのテンションはさすがですし、そこまでの話運びも平凡ながら丁寧に積み重ねていきます。ですが、特にれんのキャラクターがあまりにも浅かったり、紅次郎が本当にただの良い人になってしまっていたり、もったいない箇所が多々あります。石井組とも言うべき大竹しのぶ・井上晴美はいつも通りの棒読みですし、佐藤寛子も慣れないからかキャラクターの掘り下げ不足がかなり酷い事になっています。
話の部分はそこそこまとまってはいるだけに、こういった所でグダグダに見えてしまうのは非常にもったいないという印象でした。位置付けとしては石井隆監督が復活するためのステップという所でしょうか? 良くも悪くもこぢんまりとまとまった佳作だと思います。

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雷桜

雷桜

本日も3本です。1本目は

雷桜」です。

評価:(9 /100点) – TAJOMARU級のコスプレ現代劇。


【あらすじ】

将軍の息子、清水斉道は癇癪持ちの問題児である。扱いに困りかねた側用人の榎戸角之進は斉道に瀬田村での静養を勧める。斉道はそこで山中に暮らすライという少女と出会う。彼女は側付・瀬田助次郎の行方不明になった妹だった、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 斉道の奇行。
 ※第1ターニングポイント -> 山中でライと出会う。
第2幕 -> 遊の帰郷と斉道との交流。
 ※第2ターニングポイント -> 斉道が再び瀬田村へ行く。
第3幕 -> 結末


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【感想】

本日の1本目は「雷桜」です。若い女性が多いのかなと思っていたら、老夫婦ばっかりでしかもガラガラというちょっと不思議な客層でした。監督は廣木隆一。ピンク映画出身で、5年に一本ぐらいちゃんとした映画を撮る以外は適当に仕事をさばく職人タイプの監督です。
正直酷評する必要も無いくらい誰の目から見ても失敗してますので、さらっと流したいと思いますw
私は本作が始まって3分くらいで心が折れたんですが(苦笑)、その理由は簡単です。登場人物の格好だけは時代劇っぽい感じにはなっているんですが、言葉遣いが完全にその辺にいるアンちゃんなんですw しかも中途半端に歴史物っぽい単語をつかったアンちゃんです。なのでものすっごい違和感があり、ハッキリ言ってふざけているようにしか見えません。これは全編通してです。恐ろしい事に、柄本明や坂東三津五郎といった普段ちゃんとした時代劇に出ている俳優さんも同じです。あきらかに脚本・監督の指定なんですが、これがリアリティラインを大幅に下げています。きっと時代劇を期待していたであろう年配のお客さんもズッコケたことと思います。
とはいえ、もし本筋のラブロマンスがまともであったならまだまだ良かったと思います。問題はこの部分でして、簡単に言えば雰囲気だけで勝手に惚れて勝手に暴走します。この恋愛周りの描写はお粗末の一言に尽きます。とにかく脈絡も常識も無く、ただ悶え合っているだけです。そもそも江戸時代に個人主義のような概念はありませんし、斉道は非嫡子とはいえ仮にも将軍の子なわけで、それが単独行動で山の中をうろつけている時点で変です。
本作では時代劇という部分がただの雰囲気でしか使われていません。殺陣のシーンでも岡田将生が片手で振り回している(←どんだけマッチョなんでしょうw)刀がすごい勢いで”たわんで”いたり、描写が学芸会レベルです。ロクに血しぶきも出ませんし、なんと終盤には介錯しないのに簡単に死ぬ切腹シーンまで出てきます。「13人の刺客」の間宮図書の切腹を見習って欲しいです。介錯なしの切腹はあまりにも苦しく惨いからこそ、それだけ必死さが伝わるんです。
このように、残念ながらいつものあんまり深く考えない人向けのラブストーリー以上のものではありません。ただ、TBS、電通、東宝、角川、IMJエンタ、というお馴染みの制作委員会の豪華メンツもメインターゲットであるはずの若い女性を集客するには至らなかったようです。残念!
まったくオススメはしませんが、岡田将生か蒼井優の大ファンであれば楽しめると思います。

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桜田門外の変

桜田門外の変

日曜日は1本、

桜田門外の変」を見ました。

評価:(29/100点) – また出た! 教育テレビ風ドキュメンタリーもどき劇映画


【あらすじ】

安政七年(1860年)一月、大老・井伊直弼と前水戸藩主・徳川斉昭の権力争いに端を発した抗争は一触即発となっていた。強硬過激派の水戸藩士達は、脱藩した上で独自に井伊直弼を襲撃する計画を立てる。首謀者である水戸藩南郡奉行・金子孫二郎に薩摩藩士・有村次左衛門も加わり、事は水戸・薩摩両藩の大規模なクーデターの様相を見せていた。水戸藩士・関鉄之介はスポンサー探しの功績が認められ、襲撃の現場責任者の大役を受ける。決起は3月3日早朝。季節外れの大雪舞う中でのテロであった、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 桜田門外の変。
 ※第1ターニングポイント -> 井伊直弼を殺す。
第2幕 -> 関鉄之介の回想と同士達の捕縛。
 ※第2ターニングポイント ->関鉄之介が袋田村の桜岡源次衛門邸にかくまわれる。
第3幕 -> 関鉄之介の最期。


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【感想】

日曜日は「桜田門外の変」を見て来ました。ここのところ毎週のように時代物が公開されてうれしい限りですが、やはり本作も高齢の方ばかりで若者・中年は皆無でした。しかも結構ガラガラです。
本作は、吉村昭の小説「桜田門外の変」を元に映画化されています。とはいえ大枠は史実通りですので、創作は各キャラクターのキャラ付けぐらいです。
あんまり長く書く気がしないくらいのテンションなのでざっくり言ってしまいます。本作でも春先の「てぃだかんかん~海とサンゴと小さな奇跡~」の時にあったような問題に直面しています。つまり、あくまでも「史実」を優先させて教育的な内容(=NHKの「その時歴史が動いた」)にするか、それとも「劇映画」として脚色をしてストーリーの面白さを優先させるかの選択です。
本作はここが非常に中途半端です。前半はキャラものかと見せておいて、後半はほとんどがナレーションだけで進行する台詞劇になってしまいます。
しかも驚くことに、第一幕でいきなり「桜田門外の変」をやってしまうので、開始30分目がクライマックスという本末転倒な構成になっています。その後はひたすら鉄之介が逃げる所と、回想でスポンサーを探す場面が流れるだけです。必然的にそれらは「会話劇」になってしまいますから盛り上がりません。150分もある作品の中で、開始30分までが一番盛り上がります。これによって、ただひたすら、だらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだらだら、大沢たかおのしかめっ面がスクリーンに映されます(苦笑)。
ということで、とてもじゃないですが、大沢たかおが好きで好きで仕方がないような人にしかお勧め出来ませんw
しかし、今の世間的な風潮のなかで、テロリストを英雄視する映画がつくれるというのは大変素晴らしいことだと思います。こういう危ない内容は下手すればポリティカル・コレクトネス的に企画をつぶされかねないですから。
「父親達の脱藩状」と「江戸屋敷からの手紙」みたいに井伊直弼側の視点と関鉄之介側の視点で2本立てにすれば面白かったかも知れません。もちろん1本60分ぐらいの中編であればですけどw
結局本作では関鉄之介の英雄視もイマイチできていませんし(っていうか活躍してない)、かといって逃げる鉄之介を刺客たちが襲ってくるというアクション映画でもありません。なので、本来これはNHKで45分番組ぐらいにしてさっくり語るレベルの内容です。たかおの顔だけで100分ぐらい水増ししているわけですから(苦笑)、これはもう「たかおフリーク」は必見です!!!
もちろん私は綾瀬はるかとヤリやがった恨みがありますのでたかお映画で毎回痛い目をあっていますのであんまり乗れませんでしたw

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インシテミル 7日間のデス・ゲーム

インシテミル 7日間のデス・ゲーム

今日の二本目は

インシテミル 7日間のデス・ゲーム」です。

評価:(4/100点) – 秋だ! 一番! ホリプロ祭り!!!


【あらすじ】

フリーターの結城はコンビニで求人雑誌を立ち読みしている最中に女性に声を掛けられバイトを紹介される。それは「ある心理的な実験」に7日間参加するだけで時給11万2000円という高額な賃金を得られるというものであった。参加者10名を乗せたリムジンは山奥の建物へと着く。そこには10体のインディアン人形と豪華な夕食が用意されていた、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 10名の紹介と暗鬼館。
 ※第1ターニングポイント -> 西野が殺される。
第2幕 -> ゲーム。
 ※第2ターニングポイント -> 残り三人になる。
第3幕 -> 結末。


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【感想】

本日の2本目は「インシテミル 7日間のデス・ゲーム」です。若年層とカップルを中心にかなり混雑していました。400人規模の箱でほとんど満席状態は久しぶりです。本作は藤原竜也、綾瀬はるか、石原さとみというホリプロの主力3名を皮切りに、役者は全てホリプロ所属となっています。そして開始早々に「日テレ」のロゴマークに続いてズッコケる「ホリプロ50周年記念作品」の文字。
そう、本作はテレビ屋映画ならぬ「事務所屋映画」です!!!!
ま、原作が事務所と関係ないだけ「瞬 またたき」よりはマシかもしれませんけど(苦笑)、、、。
え~~~いつもの事ですが、ミステリーとはいえツッコミ所が有り余っているため、今回もネタバレを多数含みます。未見の方で見るつもりがある方は今すぐブラウザを閉じて映画館へ行って地獄を見て下さいw 既にご覧の方、未見だけど見る気が無い方のみ、少々お付き合い下さいますようお願いいたします。

概要とルールのおさらい。

本作はまたまた日本産のソリッドシチュエーションスリラーです。監督は中田秀夫。Jホラーの名監督ですが、近年はキャリアプランを考えてなのかテレビ屋映画にシフトして行っています。

ストーリー自体はソリッドシチュエーションスリラーの典型です。訳ありの数名が密閉空間に閉じ込められ、そこでゲームを通じてサバイバルしていきます。当ブログでは耳タコで書いていますが、ソリッドシチュエーションスリラーはゲームの面白さが全てです。では、本作のゲームのルールは何でしょう?
1) 勝利条件は「1週間生き残る事」または「最後の2人になる事」。
2) 夜になったら部屋に籠もる事。廊下にはガードが巡回し、見つかると殺される。
3) 部屋にはミステリーの名作にちなんだ凶器が一個づつ準備され、使用は自由。
4) 部屋には鍵がかからない。
5) 「事件」がおきたら「解決」をすること。「解決者」は推理を皆の前で発表し、推理は多数決で真贋が決定される。
6) 推理が肯定された探偵にはボーナスが付き、報酬2倍。
7) 推理と多数決により犯人に指名された人間は隔離部屋に投獄される。
8) 殺人を犯した者は報酬2倍。殺人の被害者も報酬2倍。
9) 報酬のベースは1881万6000円。
とりあえず以上でしょうか? かなり原作から変更・削除をされています。

本作のまったく駄目な所。

さて、上記のルールを見てこのジャンルに詳しいかたは嫌な予感がすると思いますw そしてその予感は当たっているでしょう。
つまり、「殺人に抑止力が無い」。これが本作の一番がっかりする所です。本作では一人殺す度に報酬が2倍になります。そして推理は多数決で決まります。なので、開始早々に8人を殺せば終わりです。そうすると報酬48億になりますw
しかし、本作では殺人に抑止力が無いにも関わらず、殺人がたったの3件しか起こりません。驚くべきモラリティの水準ですw ソリッドシチュエーションに必須の「人間の本質としての暴力性の暴露」が一切ありません。なので、まずはスリラーとしてのワクワクがありません。これが致命的です。

そしてがっかりポイントその2は多数決のゲーム性です。これまた驚くべき事に、今回多数決はたったの2回しか行われず、なんと派閥に別れることもありません。しかも後半は多数決が行われること無しに、藤原竜也に勝手に探偵ボーナスがじゃんじゃん付きます。もはやルールすら無視w 意図は分かりませんが、本来この”多数決”をルールに盛り込んだという事は、つまり恣意的に誰かをハメることが出来るということなんです。なので、このルールが説明された時には、私は当然「これは派閥に別れて多数決を奪い合うゲームだ」と思ったんです。だって派閥を作れば「敵対組の一人を殺して」「多数決で敵対組の一人を監獄に送れ」ば、一気に脱落させられるんです。でもそうはなりません。それどころかまともな推理は一回もありません。全部感情論だけの多数決です。なんじゃそれ。

そしてこれがダメ押しですが、そもそも本作のゲームの運営事情が酷すぎます。このゲームは安東の推理によると約2000万人の視聴者がいる会員制のwebコンテンツです。つまり日本人の5人に1人、世界中と考えてもビートルズの「赤盤」「青盤」やマドンナの「LIKE A VIRGIN」レベルのスマッシュヒットです。すっげぇwww
作中の描写でも、渋谷TSUTAYA2階のスタバで携帯を使って見ている若者・サラリーマンが映ります。そもそもスナッフフィルムがそんなメジャーになるわけないですし、よしんばこの世界では日本が「ヒャッハー!!!!」な無法地帯だったとしても、それを参加者達が一人も知らないのは明らかに変です。それこそイギリスのバラエティ番組「サバイバー」以上にメジャーなコンテンツのはずです。

また、これはカイジでも思ったことですが、そもそもこういう「人死に上等」なゲームの主催者が、生き残った人間にお金を渡して帰すんでしょうか? 殺して終わりじゃないかって気がすごいします。
本作も駄目なソリッドシチュエーションスリラーのご多分に漏れず、結局最後は参加者の一人が凶暴化して襲ってくる安い展開に落ち着きます。そしてその襲い方も驚異的なヌルさです。なにせ建物内には、「釘打ち機」「拳銃」「ボウガン」「斧」「ナイフ」と殺傷力抜群なアイテムが転がっています。しかしラスボスが使うのはアイスピックw なぜそのチョイスなのか首をひねらずには居られません。

結局、本作はソリッドシチュエーションの見た目だけを持ってきただけです。「なぜソリッドシチュエーションスリラーが面白いのか」という根本的な分析が全く出来ていません。結果として、「ホリプロ大感謝祭」という単語が透けて見えるようなお遊戯大会になってしまっています。しかも特にメイン級の役者陣が北大路欣也以外はほぼ全滅で、ホリプロのプロモーションとしても失敗しています。
これを見た後だと、ホリプロは50周年を迎えてもうダメなんじゃないかとすら思えますw まぁ伊集院光さんが居る限りは支持し続けますけど(苦笑)。

【まとめ】

またもや日本産のソリッドシチュエーションスリラーの駄目な面が全部凝縮された凄い作品が出てきてしまいました。俳優ファンの方にもオススメしづらいレベルになっていますが、片平なぎさのファンであればかろうじて楽しめるかも知れません。おそらく本作で得をしているのは片平さんだけです。

綾瀬はるかを見ているだけで乗り切れないこともないですが、それでもあまりに酷すぎる話のずさんさが気になって全然乗れませんでした。開始40分目くらいの最初の多数決で心がぼっきり逝きましたw
まったく心がこもりませんが(苦笑)、でもきっと楽しめる人もいると思うので確かめる意味でもオススメです(棒読み)。

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乱暴と待機

乱暴と待機

今日は一本、

乱暴と待機」を見て来ました。

評価:(45/100点) – 音楽と役者は良かった。主題歌だけはiPodでヘビーローテーション。


【あらすじ】

番上貴男とあずさの夫婦は妊娠をきっかけに府中の片田舎へ引っ越してきた。同じ長屋に挨拶回りをしていた貴男は異常なほど挙動不審な奈々瀬という女性に出会う。兄と二人で暮らしているという彼女は、偶然にもあずさの高校の同級生だった。いかにも訳ありで突っかかるあずさは、奈々瀬の兄を見て驚愕する。「あいつら、兄妹なんかじゃないよ」、、、。


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【感想】

本日は一本、「乱暴と待機」です。予告で若干エロ要素をアピールしているせいか、一瞬「ヌードの夜」かと思うほど客席はおじさんばかりでした。原作は「劇団、本谷有希子」の舞台です。

概要

本作は登場人物がわずか4人のこじんまりとした話です。舞台ならではのミニマムさで、これまた舞台特有の入り組んだ人間模様を展開してきます。原作者の本谷有希子さんというと私はどうしても「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」を思い出してしまいます。「腑抜けども~」ではおとなしいけど策略家の清深を中心に、勘違い馬鹿女の姉とその姉を異常なほど溺愛する兄を配して、頭のイかれた男女の妄想・策謀入り乱れる様子をブラックコメディとして描ききりました。「パーマネント野ばら」の時にも書きましたが、この本谷有希子の人物配置と吉田大八監督の資質が完全にマッチして恐ろしいほどの化学反応を見せたヘンテコで魅力的な映画になりました。
さて、では本作はどうかと言いますと、「腑抜けども~」における清深の位置には今回は奈々瀬が着きます。表面上はおどおどしていても裏では超腹黒で自分だけが楽しめる事を探しているという屈折したパーソナリティです。そしてそこにいかにも駄目人間を絵に描いたようなニートの”番上君(貴男)”とこれまたオタクを絵に描いたような”山根さん”が絡んできます。
本作では本谷有希子のブラックジョーク・センスが演出によって直接的に表面に出てきます。ですので、悪く言えばコントのように見えてしまう場面も多々有り、映画としてはいささかどうかと思うほど安っぽく見えてしまいます。ただその一方で、やはりイかれたキャラクターを作り出すことにかけては天才なのは間違いありませんので、100分間なんか引っ掛かりながらも雰囲気で持って行かれてしまうのは事実です。
とはいえ、結局本作でもやっていること自体は「腑抜けども~」の焼き直しレベルでして、「表面を取り繕った腹黒女が内面を暴露した瞬間に本当の愛が生まれてしまう」というクライマックスはまったく同じです。「腑抜けども~」では姉妹愛だったのが、本作では男女愛になっただけです。
そして、本作が「腑抜けども~」と決定的に違うのはこれはもう監督の真面目さというか”まともさ”としか言いようがありません。良くも悪くも吉田大八監督はマッドな世界を自身で批評しながら世界観に入って撮れるのに対して、今作の冨永昌敬監督は真面目に客観視して構築しようとしてきます。その冨永監督の生真面目さが、本作を妙に普通な感じの映画のルックにしてしまっています。だから結果としてマッドな登場人物達を突き放し過ぎていて、何考えているか分からない本当に頭のおかしな人たちに見えてしまうんです。番上君と奈々瀬がいままさに事に及ぼうとするときにカメラがパンしてあずさが映るシーンは本作でも屈指の爆笑ポイントですが、一方で画面内では妙に登場人物達が冷静過ぎるんです。「真剣に酷い目にあっているほど端から見て面白い」というのはコメディの基本ですが、本作の場合はあまりにも演出が冷静すぎて逆に戸惑ってしまいます。

【まとめ】

どうしても同じ作家で同じプロットの原作ということで比較してしまうのですが、個人的にはちょっとハードルを上げ過ぎてしまったかなと思う次第です。ですが、役者は四人とも本当に面白い演技を見せてくれますし、本作も決してつまらないということはありません。公開館が非常に少ないですが、お近くで上映している方は行って損はないと思います。
冨永監督については、本作で劇伴を担当している大谷能生さんのイベントで対談した様子が「大谷能生のフランス革命」に収録されています。僕自身、菊池成孔・大谷能生コンビの一連の共同仕事(東大講義→TOKYO FM水曜Wanted!→東京大学のアルバートアイラー→M/D マイルス・デューイ・デイヴィスIII世研究→アフロ・ディズニー)に大分影響されていますので、興味のあるかたは是非本屋さんで探してみてください。本当は本よりもトークの方が圧倒的に面白い方達ですので、ネット上を探してラジオ音源があればそちらもオススメです。

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REDLINE

REDLINE

今日の2本目は

「REDLINE」です。

評価:(20/100点) – 頑張ったのは分かるけど、、、。


【あらすじ】

宇宙を巻き込んだ超人気グランプリ・カーレース「RED LINE」。その予選最終戦「YELLOW LINE」でJPは愛機・トランザムを駆使して優勝を狙っていた。しかし最終の直線にトップで入ったトランザムは、ターボエンジンの酷使により車体が瓦解してしまい、優勝をソノシー・マクラーレンに奪われてしまう。車体はバラバラになり自身も大怪我を負ったJPだったが、入院先の病院で突如決勝戦への補欠出場が告げられる。決勝戦「RED LINE」の舞台はTV視聴者によりロボワールドに決定した。しかしロボワールドは軍事政権の荒廃した国家で、「RED LINE」の受け入れを拒否する、、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> YELLOW LINE。
 ※第1ターニングポイント -> JPの補欠出場が決定する。
第2幕 -> JPとソノシー。
 ※第2ターニングポイント -> RED LINEがスタートする。
第3幕 -> RED LINE。


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【感想】

本日の二本目は「RED LINE」です。木村拓哉と蒼井優をメインに起用して一般受けをアピールしていましたが、観客は非常に少なく、しかも一人で見に来ているアニメオタク風の客しかいませんでした。完全に芸能人起用が失敗しています。
本作は制作7年をかけており文化庁の助成金まで出ています。所謂「輸出産業としてのアニメ」を狙って作られた意欲作です。その割にというとあれですが、キャラクターデザインはもろにアメコミ調ですし、影を黒ベタでつぶしたりするのもアメコミの特徴です。
こういったレースもののアニメ作品は過去にも相当数あります。ただ、直接的に連想されるのは近年の「マッハGoGoGo」実写版とゲームの「マリオカート」です。
本作には話の軸が二本あります。一つは「REDLINE」のレースとそれに伴うJPとソノシーのロマンスで、もう一つはREDLINE運営委員会とロボワールド政府の対決です。実際に見てみると、本作は実は後者のボリュームが大きくなってしまっています。話としては「かつて一目惚れした少女に再会した純情男の奮起」が軸になっていますが、こちらのボリュームと積み重ねが圧倒的に足りません。一応、JPとソノシーが決定的にくっつくシーンが一目惚れの回想と同じ構図になっていたり丁寧に作ってはいますが、サイドストーリーのはずのロボワールド政治がらみが五月蠅すぎて全然集中出来ません。
実は本作で一番がっかりする部分というのはまさにメインであるべきレース部分です。つまり、せっかくの「カーレース・アニメ」なのに「カーレース」自体になんの説得力もカタルシスも無いんです。みんな怖い顔して「うぉ~~~!!!!!!」とか唸ってるだけで、テクニカルな描写が一切出てきません。カーレースっていうよりも「しかめっつら根性大会」です。だから、何故JPが速いのかという一番重要な部分が抜けているんです。もちろん特殊エンジンの描写等はありますが、でもそれは鉄仁だって似たようなものなわけで決定打にはなりません。もちろん動画の「溜め」だけは効果的に使っていますから、見ていて手に力が入るのは間違いないです。ただ、本作にはそれしかありません。ダサい絵面と繰り返される「車体が伸びるほどの溜め」を使った根性描写だけです。
純粋にアニメの動画という意味では本当にすばらしく高レベルだとは思いますが、作品としては非常に低空飛行です。また、せっかくの動画もカット割りが細かすぎるため、空間把握(位置関係の想像)がとても困難です。イマジナリーラインもじゃんじゃん越えてきますw
ということで、動画の技術論が大好きな方にはうってつけの教材ですが、映画としてはかなりどうかと思う出来でした。
余談ですが、業界にいますとマッドハウスのヤバい話は結構頻繁に聞こえてきます。20点は頑張って欲しいなという個人的な思いを入れてのご祝儀点ですw

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七瀬ふたたび

七瀬ふたたび

今日は注目作二本です。1本目は

七瀬ふたたび」を見ました。

評価:(80/100点) – ラストの賛否が分かれそうだが、これはこれで。


【あらすじ】

火田七瀬は他人の心の中を読むテレパスである。七瀬はマカオからの帰りに空港で狙撃される。さらにホテルで岩淵からのコンタクトを受けた七瀬は、忠告に従って行動するも、友人の瑠璃を目の前で謎の男に殺されてしまう。命からがら北海道の隠れ家に戻った七瀬だったが、そこにも追っ手が迫ってきていた、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 七瀬と瑠璃。
 ※第1ターニングポイント -> 瑠璃が殺される。
第2幕 -> 隠れ家での生活と追っ手。
 ※第2ターニングポイント -> ノリオが連れ去られる。
第3幕 -> 狩谷との対決。


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【感想】

本日の1本目は、ご存じ筒井康隆の七瀬三部作の二作目「七瀬ふたたび」です。中年男性を中心にそこそこお客さんは入っていました。どうせなら「家族八景」からやって欲しいのですが、三部作の中では一番派手でエンタメよりな本作は映像化しやすいということだと思います。「家族八景」を知らない人には何が「ふたたび」なのか分からない気もするんですが、まぁ「七瀬~」を見に来てる時点で「どうせ原作ファン」という割り切りでしょうか。
監督はホラー・特撮で有名な小中和哉さん。脚本は平成ガメラや劇場版のパトレイバーでお馴染みの伊藤和典さんです。二人ともその筋では完全な大御所でして、70年代SFの映画化にはこれ以上ない人選です。

おさらいと役者陣のハマりっぷり。

「七瀬ふたたび」は過去にも数回映像化されています。私はあいにくと多岐川裕美版(NHK少年ドラマ)と一昨年の蓮佛美沙子版(NHKドラマ8)しか見ていないのですが、どちらも原作からはかなり変えられていました。
一応三部作のおさらいです。一作目「家族八景」で七瀬は18歳にして家政婦として住み込みで働いています。そして色々な家庭を転々としながら、様々に「表面を取り繕った家族」達を観察していきます。ここで七瀬は人間の汚い部分を嫌と言うほど見ることになります。そして二作目の「七瀬ふたたび」で、嫌気がさした七瀬は家政婦を辞め、人目を避けて田舎へ行こうとします。その途中で自分と似たような超能力者達と出会いますが、謎の組織によって仲間もろとも殺されてしまいます。三作目の「エディプスの恋人」では何故か殺されたはずの七瀬は学校の事務のお姉さんとして登場します。そして謎の少年・智広と出会い、彼女は遂に超常的な存在へとなっていきます。
というように、この七瀬三部作は「表面的に取り繕った家族」→「超能力アクション」→「精神世界」と舞台をガラっと変えていくわけです。なんでこんなに全然違う話なのにシリーズになっているかと言えば、それはもう間違いなく「火田七瀬」という強烈なヒロインの魅力故に他なりません。
そして特に「七瀬ふたたび」を映像化するには、七瀬のカリスマ性と圧倒的な絶望/達観の表現が絶対に必要です。
もう長いこと愛されてきた原作シリーズですので、当然ファンの方々の中にはそれぞれの「七瀬像」が出来てしまっていると思います。「家族八景」が好きな人はおっちょこちょいでミーハーだけど気の強い彼女を想像するでしょうし、「七瀬ふたたび」が好きな人は苦悩するクールビューティーを想像するでしょう。こればっかりは古典である以上は仕方が無いです。
で、肝心の本作ですが、私は芦名星さんは相当はまっていると思いました。ちょっとタラコ唇で困った感じの顔だったり、印象が悪くならない程度に無愛想な感じがすごく七瀬の印象と合っていました。すごい良い感じです。「KING GAME」の時とは大違いw そして岩淵役の田中圭さんも不器用でヘタレな田舎者っぽさが上手く出ていました。岩淵の妄想を七瀬がのぞいてしまうシーンが無いのは噴飯ものですが、それが無くても「こいつムッツリスケベだぞ」という雰囲気が十二分にでていましたので合格ですw ノリオ役の今井悠貴くんはきちんと「ませガキ」に見えていましたし、刑事役の平泉さんも類型的ではありますがサスペンスものの刑事として十分好演していました。正直ダンテ・カーヴァーは演技以前の問題ですし、佐藤江梨子さんもちょっと役に対してギャルっぽい軽さが目立ちましたが、役者陣は概ね良い感じにハマっていました。

ストーリー部分の上手いまとめ方。

本作はかなり原作に忠実ですが、一方で変えるところは結構思い切って変えています。
一番変更して成功だと思うのは、超能力者達が集まる部分を回想で済ませてしまう所です。本作は原作そのままで映像化すると、仲間集めの課程が前半を占め、後半から組織との戦いになります。でも本作の場合、いきなり狙撃されるところから始まり、それをフックにして組織から逃げる部分が大半を占めます。この構成変更はかなり成功しているとおもいます。おかげで中だるみが少なく、高いテンションのままで最後まで突っ走ることが出来ます。そのぶん七瀬と岩淵の関係がかなりばっさりと省略されているのですが、本作だけを見ればそこが「超能力者ゆえの一瞬の邂逅・同調」という「アムロとララァ」に通じるような話に見えますので、それはそれでOKです。
ただ、、、、ただ、、、やはり賛否が分かれそうなのはラストの扱いだと思います。原作ファンにとっては蛇足ともとられかねないラスト5分の展開は、どうにも陳腐に見えてしまいます。ですがニコラス・ケイジの「NEXT」ほど唐突な感じではなく、きっちり伏線を張ってはいますから映画単体としてみればこれはこれで良いかなとは思います。ただ、この展開にすると当然「エディプスの恋人」は同一キャストで映画化出来ません。そこがちょっと引っ掛かるというか、もっと芦名星の七瀬を見たかったというのが率直な感想です。それぐらいハマリ役だったのに、、、。
それとこれはもう邦画のお約束ですが、やっぱり本作もCGがショボイ事になっています。特に七瀬が空を飛ぶシーンのなんともいえない合成感はかなりキテます。とはいえ原作が古いので、これも80年代風のブルーバック合成だと思えばそこまで引っかかりはしません。ちょっと好意的に見すぎでしょうかw
また同じCGを使った場面でも、七瀬が心を読むシーンの表現は結構上手く乗り切ったと思います。

【まとめ】

原作が好きすぎて甘くなっている部分も多々ありますが、かなり良い作品だったと思います。細かい粗はあるものの、それを気にする暇もないくらいテンション高く畳みかけてきますので、それほど気にはなりません。十分にオススメできる作品だと思います。
一応、本編前に流れる中川翔子・初監督の短編にも触れておきましょう。カメラフレームが変な部分はあったのですが(とくに神社のシーン)、全体的には結構そつなくこなしたように思います。とはいえ、ポーカー中に心を読むシーンは「カイジ」ばりにダサい演出でした。こういう漫画的な感じが好きなのは凄く良くわかるのですが、これを見たときにすっごい本編が不安になったのも事実ですw にごり水に色水を垂らすイメージ映像など、ちょっと雰囲気だけの危ない方向に流れそうな傾向が見えましたので、もし次に監督をすることがあれば気を付けてもらえるともっとフェティッシュが全面にでてくるかなと思います。。

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十三人の刺客

十三人の刺客

2本目は

「十三人の刺客」です。

評価:(96/100点) – お帰り、我らの三池崇史! 悪趣味節全開の18番暴力映画。


【あらすじ】

江戸の中期、暴君・松平斉韶によって世は乱れていた。江戸家老・間宮図書の命を掛けた嘆願をも無視する斉韶の暴虐ぶりに、老中・土井利位は暗殺を決意する。暗殺者に選ばれたのは御目付役の島田新左衛門。彼は御徒目付組頭・倉永左平太を参謀に迎え、十人の有志と共に暗殺計画を練っていく、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 斉韶の暴虐ぶり
 ※第1ターニングポイント -> 新左衛門が暗殺を引き受ける
第2幕 -> 仲間集めと暗殺計画。
 ※第2ターニングポイント -> 落合宿に斉韶一行が来る。
第3幕 -> 戦闘。


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【感想】

さてさて、土曜の2本目は大本命「十三人の刺客」です。意外というか当然というか、若めのキャストが出ている割には観客の年齢層はかなり高めでした。
最近はアニメやマンガの実写化ですっかり毒気が抜けて「滑るギャグの人」みたいな扱いになっている三池監督ですが、新作はクローズシリーズ以来のホームグラウンドである暴力映画です。オリジナルは1963年の工藤栄一監督作「十三人の刺客」。13人で50数人と戦う集団戦で有名になった作品です。
宣伝でも「ラスト50分の戦闘」をことさら強調しているように、本作の見所は間違いなくラストの落合宿での決戦です。いうなればそれまでの90分は前振りのようなものです。しかし、決してネタフリだけで終わっているわけではありません。限られた時間の中で13人中5人に絞ってキャラクターを描写していきますし、特に敵役・斉韶についてはこれ以上ない悪として三池印全開の演出を見せてくれます。もっとも、本作は監督が得意とした往年のVシネマでは無いですから、直接的な残酷描写はほとんどありません。その意味では非常にポップな描写になっていますので、心臓の弱い方でもご安心下さいw

本作の難点

今回は絶賛しますので、先に難点だけ片付けてしまいます。とはいえ本作の難点はあんまりありません。140分という長丁場を高いテンションのままで職人的にきっちり見せてくれます。
ただ、前半実質60分程度で刺客のキャラクターを見せなければいけないため、どうしても描写は足りなくなってしまいます。もちろん松方弘樹に説明は不要なんですが(笑)、やはり松方が最初に連れてくる5人がデブの大竹以外最後まで誰が誰やらさっぱり分かりません。なので、最後の豪快に散っていくシーンでもあんまり感慨が浮かびにくくなってしまいます。
もう一つは三池崇史お得意の悪ふざけです。特に最終盤に出てくるある苦笑の展開で、どこまで本気で見ていいか良く分からなくなってしまいます。
最後にCGのショボさです。落合宿での戦闘ではかなりCGが使われているのですが、背中に火の付いた牛だったり、崩れ落ちる家屋だったり、かなり合成感の強い浮いたCGになっています。去年のカムイ外伝よりはマシですが、どうしても気にはなってしまいます。特に本作の場合は実際に大がかりなセットを組み立てて撮影しているわけですから、そこはCGを使わなくても良かったのかなとは思います。とはいえ、この過剰なサービス精神が三池監督のモットーですので、それほど嫌いではありません。ただ作品のトーンからはずれてしまっているように感じます。

本作の最高な点

とまぁツッコミはこれぐらいにしてべた褒めにいきましょう。本作で何がすごいかと言えば当然ラストの殺陣のクオリティなわけです。本作ではどちらかというと集団戦というよりは一対多数の殺陣を複数箇所で同時に行うような形になっています。志士達の絡みはそれほどありません。なので、実はこれ時代劇の集団戦というよりは、コーエーのTVゲーム「無双」シリーズのフォーマットなんです。一人で雑魚相手なら何十人でも余裕で倒せる強い名前付きキャラが、バッサバッサとその他大勢をなぎ倒しつつ、ボスと護衛を目指して突き進んでいきます。なので、本来であれば前半のキャラクター描写があればあるほど面白く見えるシーンではあります。
前述のように、本作では13人のキャラクターを全員描く事を最初から捨て、そのかわり主要人物に絞ってエピソードを挟んでいきます。ここはかなり思い切っていまして、松方弘樹と伊原剛志に関しては俳優の佇まいだけで説明無用と割り切り、そこに準主役の新六郎、槍使いの佐原平蔵、野人・木賀小弥太、若手の小倉庄次郎に絞ってエピソードを入れてきます。ですので、実際には13人というよりは7人+おまけで6人といった体裁になっています。
この殺陣につきましては、本当に素晴らしいです。特に松方弘樹。もう名人芸というか職人芸というか、松方さんのシーンは見ている間中テンションが上がりっぱなしでした。とにかく目線や歩き方一つでそのキャラクターの体力や精神の状況が一発で分かるんです。そして貫禄溢れる流れるような太刀捌き。本当に感動いたしました。斉韶を追い詰めるシーンの松方さんでちょっと涙出ましたもの。
そして刀の墓場での伊原剛志の見事な八相の構えからの二刀流。伊原さんと言えばご存じ千葉真一の門下でJACに所属、影の軍団シリーズの後半で二刀鎌の使い手・善九を演じていたわけですが、まさに当時を彷彿とさせるような二刀捌きでした。感涙です。
この”動ける2人”を筆頭に、山田孝之や伊勢谷友介も細かいカメラワークでのごまかしはあるものの、素晴らしいクオリティのアクションを披露してくれました。どれぐらい素晴らしいかと言いますと、主役の役所広司が一番もっさり見えたくらいのクオリティですw もちろん私も「三匹が斬る」は小学生の時から見ている大好きなシリーズなので、役所さんの示現流も大好物なんですが、今回はアクションシーンが少なく、良くも悪くも性格俳優的な立ち位置でした。
冷静に見ているとどう考えても明石藩勢は数百人単位で斬られているんですが(笑)、それもこれも監督のサービス精神と思えば気にもなりません。そりゃ千石と遠山の金さんと善九と芹沢軍団長を相手に200人足らずでは失礼というものですw 無双大いに結構じゃないですか。

薄いストーリーの中の芯

というように本作は殺陣が大変素晴らしいのですが、ではストーリーはと言いますとどうしても薄いと言わざるを得ません。そりゃ暴君を待ち伏せしてぶっ殺すだけの話ですから仕方が無いです。
しかし、本作では薄いながらもきちんと一本の芯が通っています。それは「平和な時代に生まれてしまった武士とはどうあるべきか」という問いです。
斉韶は暴君で頭が逝っちゃってますが、しかし彼は「平和な時代の武士」としてスリルジャンキーになってしまっているだけにも見えます。とにかく人を殺したり暴虐に振る舞うことで、日々の渇望を満たそうとしてどんどんエスカレートしていきます。
そして「武士」として活躍できないことに鬱屈を感じ、死に場所を求める島田新左衛門。彼もまた武士に相応しい死に場所を求めて勝ち目の薄い暗殺計画に積極的に参加していきます。もちろん民百姓のためという題目はあるものの、しかし彼を決定的に動かしているのはその「ヒーロー幻想」であり武士としての誇りです。だからこそ、最後である行動に出て自らの運命を決めるわけです。
一方で敵役として出てくる御用人・鬼頭半兵衛も武士として「主君を守る」事を貫くために、良心を殺して新左衛門に立ちはだかります。この半兵衛も、短い時間の中で「コンプレックスを持った苦労人」として描いてきます。
こうしてみてみると、悪役は斉韶一人だけで、そのほかは皆なにかしら筋の通った考えを持っているわけです。ストーリーを語る上で最小かつ的確なこのキャラ配置こそ、邦画黄金期の時代劇のレベルの高さを如実に表しています。
冒頭では合戦シーンまでを「前振り」と表現しましたが、決してネタフリでは無く、きちんと長編映画として合戦を魅せるための土台をきっちり積み上げる、価値ある濃縮された90分です。

【まとめ】

断言します。今年のシネコン上映の邦画ではダントツで面白いです。今年のベストテンに推す人がいても何ら不思議ではありません。何が良いって、落合宿での決戦の日の朝に志士達が横一列に勢揃いしてカメラに向かってくるシーンがあるんです。それだけで涙腺が刺激されまくりですw
悪い事はいいません。怖い描写が苦手だったり、血が出るのが苦手だったりしても全然問題ありません。とにかく、劇場でやっている今、大スクリーンでやっている今、この作品を見逃して映画ファンとは金輪際呼べません!!! 理屈はいいからとにかく家の近くで、なるべく大きな箱で上映している映画館を探してすぐ行ってください!!! 大プッシュでオススメします!!!

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