七瀬ふたたび

七瀬ふたたび

今日は注目作二本です。1本目は

七瀬ふたたび」を見ました。

評価:(80/100点) – ラストの賛否が分かれそうだが、これはこれで。


【あらすじ】

火田七瀬は他人の心の中を読むテレパスである。七瀬はマカオからの帰りに空港で狙撃される。さらにホテルで岩淵からのコンタクトを受けた七瀬は、忠告に従って行動するも、友人の瑠璃を目の前で謎の男に殺されてしまう。命からがら北海道の隠れ家に戻った七瀬だったが、そこにも追っ手が迫ってきていた、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 七瀬と瑠璃。
 ※第1ターニングポイント -> 瑠璃が殺される。
第2幕 -> 隠れ家での生活と追っ手。
 ※第2ターニングポイント -> ノリオが連れ去られる。
第3幕 -> 狩谷との対決。


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【感想】

本日の1本目は、ご存じ筒井康隆の七瀬三部作の二作目「七瀬ふたたび」です。中年男性を中心にそこそこお客さんは入っていました。どうせなら「家族八景」からやって欲しいのですが、三部作の中では一番派手でエンタメよりな本作は映像化しやすいということだと思います。「家族八景」を知らない人には何が「ふたたび」なのか分からない気もするんですが、まぁ「七瀬~」を見に来てる時点で「どうせ原作ファン」という割り切りでしょうか。
監督はホラー・特撮で有名な小中和哉さん。脚本は平成ガメラや劇場版のパトレイバーでお馴染みの伊藤和典さんです。二人ともその筋では完全な大御所でして、70年代SFの映画化にはこれ以上ない人選です。

おさらいと役者陣のハマりっぷり。

「七瀬ふたたび」は過去にも数回映像化されています。私はあいにくと多岐川裕美版(NHK少年ドラマ)と一昨年の蓮佛美沙子版(NHKドラマ8)しか見ていないのですが、どちらも原作からはかなり変えられていました。
一応三部作のおさらいです。一作目「家族八景」で七瀬は18歳にして家政婦として住み込みで働いています。そして色々な家庭を転々としながら、様々に「表面を取り繕った家族」達を観察していきます。ここで七瀬は人間の汚い部分を嫌と言うほど見ることになります。そして二作目の「七瀬ふたたび」で、嫌気がさした七瀬は家政婦を辞め、人目を避けて田舎へ行こうとします。その途中で自分と似たような超能力者達と出会いますが、謎の組織によって仲間もろとも殺されてしまいます。三作目の「エディプスの恋人」では何故か殺されたはずの七瀬は学校の事務のお姉さんとして登場します。そして謎の少年・智広と出会い、彼女は遂に超常的な存在へとなっていきます。
というように、この七瀬三部作は「表面的に取り繕った家族」→「超能力アクション」→「精神世界」と舞台をガラっと変えていくわけです。なんでこんなに全然違う話なのにシリーズになっているかと言えば、それはもう間違いなく「火田七瀬」という強烈なヒロインの魅力故に他なりません。
そして特に「七瀬ふたたび」を映像化するには、七瀬のカリスマ性と圧倒的な絶望/達観の表現が絶対に必要です。
もう長いこと愛されてきた原作シリーズですので、当然ファンの方々の中にはそれぞれの「七瀬像」が出来てしまっていると思います。「家族八景」が好きな人はおっちょこちょいでミーハーだけど気の強い彼女を想像するでしょうし、「七瀬ふたたび」が好きな人は苦悩するクールビューティーを想像するでしょう。こればっかりは古典である以上は仕方が無いです。
で、肝心の本作ですが、私は芦名星さんは相当はまっていると思いました。ちょっとタラコ唇で困った感じの顔だったり、印象が悪くならない程度に無愛想な感じがすごく七瀬の印象と合っていました。すごい良い感じです。「KING GAME」の時とは大違いw そして岩淵役の田中圭さんも不器用でヘタレな田舎者っぽさが上手く出ていました。岩淵の妄想を七瀬がのぞいてしまうシーンが無いのは噴飯ものですが、それが無くても「こいつムッツリスケベだぞ」という雰囲気が十二分にでていましたので合格ですw ノリオ役の今井悠貴くんはきちんと「ませガキ」に見えていましたし、刑事役の平泉さんも類型的ではありますがサスペンスものの刑事として十分好演していました。正直ダンテ・カーヴァーは演技以前の問題ですし、佐藤江梨子さんもちょっと役に対してギャルっぽい軽さが目立ちましたが、役者陣は概ね良い感じにハマっていました。

ストーリー部分の上手いまとめ方。

本作はかなり原作に忠実ですが、一方で変えるところは結構思い切って変えています。
一番変更して成功だと思うのは、超能力者達が集まる部分を回想で済ませてしまう所です。本作は原作そのままで映像化すると、仲間集めの課程が前半を占め、後半から組織との戦いになります。でも本作の場合、いきなり狙撃されるところから始まり、それをフックにして組織から逃げる部分が大半を占めます。この構成変更はかなり成功しているとおもいます。おかげで中だるみが少なく、高いテンションのままで最後まで突っ走ることが出来ます。そのぶん七瀬と岩淵の関係がかなりばっさりと省略されているのですが、本作だけを見ればそこが「超能力者ゆえの一瞬の邂逅・同調」という「アムロとララァ」に通じるような話に見えますので、それはそれでOKです。
ただ、、、、ただ、、、やはり賛否が分かれそうなのはラストの扱いだと思います。原作ファンにとっては蛇足ともとられかねないラスト5分の展開は、どうにも陳腐に見えてしまいます。ですがニコラス・ケイジの「NEXT」ほど唐突な感じではなく、きっちり伏線を張ってはいますから映画単体としてみればこれはこれで良いかなとは思います。ただ、この展開にすると当然「エディプスの恋人」は同一キャストで映画化出来ません。そこがちょっと引っ掛かるというか、もっと芦名星の七瀬を見たかったというのが率直な感想です。それぐらいハマリ役だったのに、、、。
それとこれはもう邦画のお約束ですが、やっぱり本作もCGがショボイ事になっています。特に七瀬が空を飛ぶシーンのなんともいえない合成感はかなりキテます。とはいえ原作が古いので、これも80年代風のブルーバック合成だと思えばそこまで引っかかりはしません。ちょっと好意的に見すぎでしょうかw
また同じCGを使った場面でも、七瀬が心を読むシーンの表現は結構上手く乗り切ったと思います。

【まとめ】

原作が好きすぎて甘くなっている部分も多々ありますが、かなり良い作品だったと思います。細かい粗はあるものの、それを気にする暇もないくらいテンション高く畳みかけてきますので、それほど気にはなりません。十分にオススメできる作品だと思います。
一応、本編前に流れる中川翔子・初監督の短編にも触れておきましょう。カメラフレームが変な部分はあったのですが(とくに神社のシーン)、全体的には結構そつなくこなしたように思います。とはいえ、ポーカー中に心を読むシーンは「カイジ」ばりにダサい演出でした。こういう漫画的な感じが好きなのは凄く良くわかるのですが、これを見たときにすっごい本編が不安になったのも事実ですw にごり水に色水を垂らすイメージ映像など、ちょっと雰囲気だけの危ない方向に流れそうな傾向が見えましたので、もし次に監督をすることがあれば気を付けてもらえるともっとフェティッシュが全面にでてくるかなと思います。。

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