GWの中日となる今日は
「川の底からこんにちは」です。
評価:
– 頑張りますから!!!ってかもう頑張るしかないんですから!!!【あらすじ】
木村佐和子はOLである。バツイチ子持ちの課長・健一と付き合い、何事にも無気力。東京に出てから5年で4人の男に捨てられた。
ある日、健一とのデート中に父が肝硬変で倒れたと連絡が入る。過去のしがらみから帰郷を拒否する佐和子だったが、丁度仕事の責任をとって退職したばかりの健一はノリノリであった。こうして、佐和子は健一と彼の連れ子の加代子を伴って帰郷する。佐和子は父が経営するしじみ工場「木村水産」を継ぐことになるのだが、、、。
【三幕構成】
第1幕 -> 佐和子の日常。
※第1ターニングポイント -> 佐和子が帰郷する。
第2幕 -> 佐和子と加代子としじみ工場。そして健一が出て行く。
※第2ターニングポイント -> 佐和子が朝礼で開き直り宣言。
第3幕 -> 父の死。
【感想】
さて、GWも真ん中にさしかかった本日は「川の底からこんにちは」です。渋谷のユーロスペースでしか上映していないということもあってか、昼の回で立ち見まで出ていました。石井裕也監督の本格デビュー作であり、何より満島ひかりさんの主演作として(局所的に)話題の作品です。
いきなり結論から言いますと、私は大傑作だと思います。少なくとも今のところは今年見た中で一番面白かったです。テーマ自体はとても重たいんですが、それを軽妙なギャグとテンポの良い語り口でサクサクッと見せてくれます。監督もとてもメジャーデビュー作とは思えない手腕でして、堂々たる演出です。素晴らしかったです。
概要
本作のテーマをざっくりと言ってしまえば、「無気力だった女性がどん底から開き直り、それに周りも影響を受けてみんなで頑張る話。」です。
満島ひかり演じる木村佐和子は男に捨てられ続けて無気力そのものの「よくいる普通のOL」です。一方の健一は妻に逃げられたバツイチ子持ちで、しかも仕事もロクにできずに退職させられてしまいます。佐和子はこの自分と似て「中の下」「ロクなもんじゃない男」である健一のヘタレ全開で最低な行動を目の当たりにすることで、ついにキレて開き直るわけです。
満島さんの演技も、前半はローテンションで無気力な「いまどきの娘」像なんですが、一転して悲壮な程に「頑張ろう」とする後半にさしかかるとこれはもう本当に鬼気迫るというか素晴らしい演技を見せてくれます。昨年の「愛のむきだし」といいとても着実に女優としてのキャリアを積んでらして、とても素敵だと思います。
健一役の遠藤雅さんも良い存在感を見せてくれます。ちょっと間の抜けた(←失礼)顔といい、ちょっとおどおどした小者っぽい佇まいといい、完璧です。ナイスキャスト。
そしてはずしていけないのが加代子役の相原綺羅さんです。この子が出てくるコメディシーンは本当にとても良く出来ています。「両親の離婚でもの凄い速度で”ませ”てしまった子供」という役柄を完璧に見せてくれます。
総じて役者さんはどなたも素晴らしいです。木村水産のおばちゃん達の「田舎に居るオバタリアン」っぽい体型・仕草なんかは、出てきただけでちょっと笑いが起きる程です。
ストーリーについて
肝心の話ですが、これも大変良く出来ています。
本作にはいくつもの「相似形」が仕込まれています。
1) 共に母親の居ない「佐和子(幼少で死別)」と「加代子(両親の離婚)」。
2) 共に恋人を奪い合う「佐和子」と「友美」。
3) 共に浮気をして出て行く「健一」と「敏子の旦那」。
4) 共に浮気で駆け落ちして東京へ行く「佐和子」と「健一」。
5) 「糞尿を撒く」行為と「父の遺灰を撒く」行為。
さらに良く出来ているのは、これらが全て「デ・ジャヴ」を意図して構成されていることです。演出上は「相似形ですよ!」と声高に見せずにしれっと流してくるんですが、これらは全て「前に起きたことと同じ事が後でも起きる」という連鎖になっているんです。だから例えば3)では、健一が目の前で敏子が旦那を叱るのを見ることで、自分も叱られる予感を感じます。
ここでもっとも大きいのは5)の「遺灰を撒く」行為です。前者は「糞尿を撒いた」結果として巨大スイカが取れるわけなので、当然「遺灰を撒いた結果」として何かポジティブな事が近未来に起こることが予感されます。だから本作は悲惨な状況の中でもハッピーエンドとして成立します。
また、どんなにシリアスな場面だったとしても、ウェットになりすぎそうになると細かいギャグで意図的に”泣きポイント”を外してきます。それは男女の修羅場だろうが、人が死ぬ場面だろうが、関係ありません。
この外し方がとても見事で、結果として凄く重たい話なのにコメディとして楽しく見られてしまうんです。笑わそうとして下らないギャグを詰めるのではなく、きちんと話を語る上で必要な時に的確にギャグを入れてくるんです。是非DVDが出ましたら、去年公開の「なくもんか」に関わったスタッフは全員繰り返し見ることをオススメします。これが正しい「映画としてのギャグ」です。
【まとめ】
とにかくですね、映画が好きな方はもう行ってるとは思いますが、それ以外の方も悪い事は言いませんので見に行っとくべきです。めちゃくちゃ面白い2時間を確約いたします。惜しむらくは、こういう映画をこそシネコンの全国公開プログラムに組み込んで欲しいものです。そりゃこんだけ面白い作品が150席しかないユーロスペースで1日4回じゃあ立ち見ぐらい出ますよ。
私も月末ぐらいにもう一回見に行こうと思っています。
あとavexさん!木村水産の社歌はCD化して下さい(笑)。絶対売れますから!