パーマネント野ばら

パーマネント野ばら

昨日見ましたのは

「パーマネント野ばら」です

評価:(80/100点) – クライマックスが不満だが、上質な雰囲気映画。


【あらすじ】

なおこはバツ一子持ちで故郷の宿毛に戻ってきた。母の「パーマネント野ばら」を手伝いながら、恋人のカシマや親友のみっちゃん・ともちゃん達と日々を過ごしていく、、、。


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【感想】

さて、昨日見てきましたのは、「パーマネント野ばら」です。観客は6名、雨の日のレイトショーにしては入っている方だと思います。気になって数えたら、本作が今年100本目の映画でした。節目の100本目が面白い映画でちょっとホっとしています(笑)。
本作は、一言でいってしまえば「閉じた田舎の社会で悲惨ながらも逞しく生きる女性達」を描いた映画です。本作には数えるほどしか男性が映りません。それも各キャラの父親と旦那ばかりで、なおこの恋人・カシマ以外は揃いも揃ってダメ人間です(笑)。そういった意味では、昨年映画化されました「女の子ものがたり」とほとんど同じ内容です。しかし、吉田大八という「アクの強さ」によって、本作は特殊な多幸感に包まれています。

今作に出てくるメインの三人、菅野美穂・小池栄子・池脇千鶴は揃ってすばらしい演技を見せてくれます。そしてみっちゃん・ともちゃんの超悲惨な現実をポジティブに見せてくれます。本作はある意味では吉田大八の大きな特徴--キ○ガイを特別視せずに描くことで歪んでるのに幸せな世界を描くという資質に適しています。フィルム内の世界そのものが躁状態と言いましょうか、何があってもオールOKな感じがとてもドラッギーで私は大好きです(笑)。

冷静に考えると、話として変だったり適当だったりする箇所は多々あります。例えば、みっちゃん・ともちゃんは悲惨な人生を逞しく生きているにも関わらず、実は主役のなおこは言うほど悲惨ではありません。途中で別れた旦那が出てきますが、子供も懐いていますし、フィルム上は礼儀正しい男性に見えます。っていうかフィルムを見る限りだと離婚の原因がなおこにあるんじゃないかと思えてなりません。少なくとも、離婚のショックでおかしくなったようには見えません。そしてラストの描写でどうも彼女がイかれたのはかなり昔だということが分かります。

実は原作未読で映画を見たんですが、どうもこの辺りって原作から設定を変えているようなんですね。映画の描き方ですと、ストーリーがなおこの独りよがりに思えてきてしまいます。なので、思い切って、ラストの出オチはあえて見せなくても良かったのではと思います。あそこを具体的に描写してしまうと、単に過去を引きずっているように見えてしまうんです。話の趣旨としては「別に本人が幸せならなんだっていいんじゃないの?」っていう方向なのですから、やはりその点はあくまでも具体的なエピソードではなくボカして欲しかったです。

【まとめ】

クライマックスに不満が一杯なんですが全体としてはとても良く出来た面白い作品だと思います。悲惨なのにどこかホンワカするというか、とっても満腹感のある作品でした。何にせよ、もっとお客さんが入ってもいいと思える良作ですので、是非お近くに上映館がある方は劇場へ足をお運びください。
だいぶ飛び道具な作品ではありますが、こういうのはツボです。原作も読んでみようかと思います。
余談ですが、吉田大八で言えば、去年の「クヒオ大佐」は全然ダメでしたが、「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」は大好きでいまでもちょくちょく見返しています。もしよろしければ、レンタルDVDででもご覧になってみてください。変な作品ばっかり撮る監督です(笑)。

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9~9番目の奇妙な人形~

9~9番目の奇妙な人形~

二本目は

「9<ナイン>~9番目の奇妙な人形~」を見ました。

評価:(15/100点) – あの短編が何故こんな無残に、、、。


【あらすじ】

布人形のナインが目覚めると、そこは荒廃した世界であった。そこで彼は自分とそっくりのツーと出会う。しかしツーは機械の獣に攫われてしまう。その後同じくウリ二つのファイブと出会った彼は、ツーの救出作戦を計画し実行に移すが、、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> ナインが目覚める。ツーとの出会い。
 ※第1ターニングポイント -> ナインがマシンを目覚めさせる。
第2幕 -> 打倒マシン。
 ※第2ターニングポイント -> ナインが目覚めた部屋で科学者のメッセージを見る。
第3幕 -> マシンとの決戦。


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【感想】

さて、本日の二本目はCGアニメ映画の「9<ナイン>~9番目の奇妙な人形~」です。原題は単に「9」ですが、セレブカラオケ大会の「NINE」と紛らわしいということで変な副題が一杯ついてしまったという、公開前から災難な映画です(苦笑)。
夜の回でしたが、客席は5~6割ぐらいは入っていたでしょうか? 感覚的にはCGアニメでSFっていうとガラガラな事が多いので、もしかしたら「ティム・バートン制作」が結構なネームバリューになっているかも知れません。
本作は2005年にシェーン・アッカーが作った短編アニメ「9」(以下原作)をティム・バートンが気に入って出資を募り長編映画化させたという経緯があります。
でまぁいきなり結論を言ってしまいますと、原作の方が1億倍面白いです。正確に言うならば、原作の良かった点が全部消えています(苦笑)。
原作は10分程度の無声・ディストピアSFです。そして世界観の作り方が絶品です。とにかく無声ならではのヒリヒリする緊張感と、説明が無いからこそ想像する無限の物語可能性。なぜ布の人形が?なぜ機械獣が? そもそも人間は?
ディストピア(=ユートピアの逆。絶望郷)SFというのは、荒廃した地上が舞台となります。無限の荒野や崩れた廃墟が舞台となりますので、このジャンルのキーワードは「孤独」「疎外」「暗闇」「テクノロジーの残骸」です。実は原作にはこの全ての要素が完璧に備わっています。ところが、、、



本作ではナインがそもそも孤独じゃないんです。ナインには動く仲間達が一杯いますし、ちょっと恋愛っぽいニュアンスすらあります。これでディストピアSFとしては20点マイナス(苦笑)。
それに加えて画面も暗く無いし、テクノロジーの残骸もぜんっぜん効果的に使われません。ディストピアSFなんだから、銃弾をそのまま銃弾として使っちゃ駄目なんですよ!!! 彼らには鉄砲の概念は無いのですから「見たことも無い尖ったもの」として使って下さいよ!!! これでさらに20点マイナス。
決定的なのは、ナイン達が作られた背景や、この世界が崩壊した理由をベラっベラとセリフで説明してしまう点です。そこは言わなくて良いから!!! 何でもかんでも説明するのがファンサービスじゃないですし、作品価値の向上にはなりません。本作ははっきりと想像の余地が無いんです。これで30点マイナス。
そして物語に対してそもそも尺が長すぎます。80分でも長い。この話って、要は一体の敵を倒すだけなんですよ。敵倒すだけで30分も40分もかけてもらっても困ります。しかも結構あっさり倒されてしまいますし、、、残念!!!
正直言って、申し訳ありませんが褒めるところが見当たりません。
話として破綻しているというわけでは無いんですが、ただただワクワクしないというかセンス・オブ・ワンダーを刺激されないんです。断言しますが、この映画を見るくらいなら原作の短編を8回見たほうがよほど面白いです。

【まとめ】

ちなみに原作はコチラのYOUTUBEにありますので、是非ゆっくりご鑑賞下さい。
「9 By Shane Acker」
もしこの短編に点数を付けるとしたら、これはもう90点代はかたいです。



なんでこんな大傑作が、あんなになってしまったんでしょう(涙)。
「作品は尺を増やしたり説明を増やせばいいってものでは無い」という良い例だと思います。

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川の底からこんにちは

川の底からこんにちは

GWの中日となる今日は

川の底からこんにちは」です。

評価:(97/100点) – 頑張りますから!!!ってかもう頑張るしかないんですから!!!


【あらすじ】

木村佐和子はOLである。バツイチ子持ちの課長・健一と付き合い、何事にも無気力。東京に出てから5年で4人の男に捨てられた。
ある日、健一とのデート中に父が肝硬変で倒れたと連絡が入る。過去のしがらみから帰郷を拒否する佐和子だったが、丁度仕事の責任をとって退職したばかりの健一はノリノリであった。こうして、佐和子は健一と彼の連れ子の加代子を伴って帰郷する。佐和子は父が経営するしじみ工場「木村水産」を継ぐことになるのだが、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 佐和子の日常。
 ※第1ターニングポイント -> 佐和子が帰郷する。
第2幕 -> 佐和子と加代子としじみ工場。そして健一が出て行く。
 ※第2ターニングポイント -> 佐和子が朝礼で開き直り宣言。
第3幕 -> 父の死。


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【感想】

さて、GWも真ん中にさしかかった本日は「川の底からこんにちは」です。渋谷のユーロスペースでしか上映していないということもあってか、昼の回で立ち見まで出ていました。石井裕也監督の本格デビュー作であり、何より満島ひかりさんの主演作として(局所的に)話題の作品です。
いきなり結論から言いますと、私は大傑作だと思います。少なくとも今のところは今年見た中で一番面白かったです。テーマ自体はとても重たいんですが、それを軽妙なギャグとテンポの良い語り口でサクサクッと見せてくれます。監督もとてもメジャーデビュー作とは思えない手腕でして、堂々たる演出です。素晴らしかったです。

概要

本作のテーマをざっくりと言ってしまえば、「無気力だった女性がどん底から開き直り、それに周りも影響を受けてみんなで頑張る話。」です。
満島ひかり演じる木村佐和子は男に捨てられ続けて無気力そのものの「よくいる普通のOL」です。一方の健一は妻に逃げられたバツイチ子持ちで、しかも仕事もロクにできずに退職させられてしまいます。佐和子はこの自分と似て「中の下」「ロクなもんじゃない男」である健一のヘタレ全開で最低な行動を目の当たりにすることで、ついにキレて開き直るわけです。
満島さんの演技も、前半はローテンションで無気力な「いまどきの娘」像なんですが、一転して悲壮な程に「頑張ろう」とする後半にさしかかるとこれはもう本当に鬼気迫るというか素晴らしい演技を見せてくれます。昨年の「愛のむきだし」といいとても着実に女優としてのキャリアを積んでらして、とても素敵だと思います。
健一役の遠藤雅さんも良い存在感を見せてくれます。ちょっと間の抜けた(←失礼)顔といい、ちょっとおどおどした小者っぽい佇まいといい、完璧です。ナイスキャスト。
そしてはずしていけないのが加代子役の相原綺羅さんです。この子が出てくるコメディシーンは本当にとても良く出来ています。「両親の離婚でもの凄い速度で”ませ”てしまった子供」という役柄を完璧に見せてくれます。
総じて役者さんはどなたも素晴らしいです。木村水産のおばちゃん達の「田舎に居るオバタリアン」っぽい体型・仕草なんかは、出てきただけでちょっと笑いが起きる程です。

ストーリーについて

肝心の話ですが、これも大変良く出来ています。
本作にはいくつもの「相似形」が仕込まれています。
 1)  共に母親の居ない「佐和子(幼少で死別)」と「加代子(両親の離婚)」。
 2)  共に恋人を奪い合う「佐和子」と「友美」。
 3)  共に浮気をして出て行く「健一」と「敏子の旦那」。
 4)  共に浮気で駆け落ちして東京へ行く「佐和子」と「健一」。
 5)  「糞尿を撒く」行為と「父の遺灰を撒く」行為。
さらに良く出来ているのは、これらが全て「デ・ジャヴ」を意図して構成されていることです。演出上は「相似形ですよ!」と声高に見せずにしれっと流してくるんですが、これらは全て「前に起きたことと同じ事が後でも起きる」という連鎖になっているんです。だから例えば3)では、健一が目の前で敏子が旦那を叱るのを見ることで、自分も叱られる予感を感じます。
ここでもっとも大きいのは5)の「遺灰を撒く」行為です。前者は「糞尿を撒いた」結果として巨大スイカが取れるわけなので、当然「遺灰を撒いた結果」として何かポジティブな事が近未来に起こることが予感されます。だから本作は悲惨な状況の中でもハッピーエンドとして成立します。
また、どんなにシリアスな場面だったとしても、ウェットになりすぎそうになると細かいギャグで意図的に”泣きポイント”を外してきます。それは男女の修羅場だろうが、人が死ぬ場面だろうが、関係ありません。
この外し方がとても見事で、結果として凄く重たい話なのにコメディとして楽しく見られてしまうんです。笑わそうとして下らないギャグを詰めるのではなく、きちんと話を語る上で必要な時に的確にギャグを入れてくるんです。是非DVDが出ましたら、去年公開の「なくもんか」に関わったスタッフは全員繰り返し見ることをオススメします。これが正しい「映画としてのギャグ」です。

【まとめ】

とにかくですね、映画が好きな方はもう行ってるとは思いますが、それ以外の方も悪い事は言いませんので見に行っとくべきです。めちゃくちゃ面白い2時間を確約いたします。惜しむらくは、こういう映画をこそシネコンの全国公開プログラムに組み込んで欲しいものです。そりゃこんだけ面白い作品が150席しかないユーロスペースで1日4回じゃあ立ち見ぐらい出ますよ。
私も月末ぐらいにもう一回見に行こうと思っています。
あとavexさん!木村水産の社歌はCD化して下さい(笑)。絶対売れますから!

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てぃだかんかん~海とサンゴと小さな奇跡~

てぃだかんかん~海とサンゴと小さな奇跡~

本日は久々の当たり屋家業、、

「てぃだかんかん~海とサンゴと小さな奇跡~」です。

評価:(15/100点) – 別にどうでもいいかも、、、、。


【あらすじ】

沖縄出身の金城健司は何をやっても長続きせず借金150万円を作って故郷に戻ってくる。幼なじみの由莉との結婚のため仕事を真面目にすることを決意した健司は、友人・屋宜啓介のマリンスポーツ店の倉庫を借りてサンゴバーを始める。たちまち評判になって結婚・借金返済・子供誕生と幸せな日々を歩む健司は、しかし突然バーの閉店を宣言し、サンゴの養殖で海の浄化を志す、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 健司のバー
 ※第1ターニングポイント -> 健司が借金完済パーティでサンゴの養殖を宣言する。
第2幕 -> サンゴの養殖を巡るアレコレ。
 ※第2ターニングポイント -> 開発会社からの提携依頼を断る。
第3幕 -> 養殖サンゴが卵を産むかどうか。


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【感想】

昨日4月のまとめをつくっていたら良い映画ばっかりで無性に罪悪感に囚われてしまいまして(笑)、久々に正面から踏みにいってみました。やっぱ当ブログの本分はあからさまに危ない映画にいってキレてナンボだろうと思いまして(笑)。じゃあなんで「矢島美容室」に行かないんだって話もあるんですが、、、とりあえずリハビリってことで勘弁してください(笑)。
今日は夜19時からの回だったのですが、おじいさん・おばあさんや子供連れでかなり混んでいました。正直ビックリです。でもまぁシネコンで今上映中の作品という括りですと、「家族でお手軽に見られそう」と言う意味でベストチョイスかも知れません。
実際見てみると、正直そこまでどうこう言う事もない感じの普通につまらない凡作でした。リハビリに最適(笑)。
本作は金城浩二さんの自伝を元にした「実話脚色話」です。あくまでも劇映画ですが、あまり劇的なエピソードを入れずに”実話感”を上手く表現していると思います。ただですね、ここが本作がつまらない大きな原因だと思います。結局、実話をもとにしたとはいえ、あくまでも劇映画なわけですよ。だから、きちんとストーリーとして盛り上げるところは盛り上がるように嘘をついてもらわないと困っちゃうんです。
例えばクライマックス。クライマックスは、養殖したサンゴが産卵をする感動的なシーンなんですが、主人公の健司が「潜りすぎて鼓膜が破けた」っていう理由で産卵現場を直接見ないんですね。たとえ事実はそうだったとしても、それで盛り上がるわけが無いんですよ。そこは例えそうだったとしても、潜って肉眼できちんと見て、満面の笑みを浮かべてもらわないと困るんです。このシーンを観客はどういう顔して見れば良いんでしょうか? 微妙すぎます。っていうか嘘をつくつもりが無いなら、「プロジェクトX」にすれば良いだけなんです。
また、大前提として突っ込みを入れておけばですね、本作は「世界で初めてサンゴの養殖に成功した男の感動話」という体裁のはずなんですが、「サンゴの養殖」に関する技術的な苦労話が一切ありません。要は「なぜ世界中で健司だけが養殖に成功したのか」という説明が無いんです。本作における養殖の苦労っていうのが、ただ単に詐欺師に騙されて借金を負ったっていうだけなんです。この作品が言いたいのはそこじゃないはずなんですけど、、、あくまでも「海とサンゴと小さな奇跡」なはずでしょう? 本当に理屈も何もなく「たまたま」っていう描きかたなんです。それならそれで良いんですが、、、本当に良いんでしょうか? 特に原作者というか主人公本人の金城さんはOKなんでしょうか?
岡村さんの演技が酷いとか、そもそもこの金城夫婦は何して食ってるんだとか(←一応観光客にサンゴ売ってるらしいですが)色々突っ込みどころはあるんですが、そういうのを問い詰める気も起きないくらい脱力してしまいました。
薬にも毒にもならないつまらない凡作ですんで、是非、家族連れでゴールデンウィークにお楽しみ下さい!!!



これなら同じつまらなさでもアリス・イン・ワンダーランド見た方がマシでした、、、。

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ドン・ジョヴァンニ~天才劇作家とモーツァルトの出会い~

ドン・ジョヴァンニ~天才劇作家とモーツァルトの出会い~

昨日は

「ドン・ジョヴァンニ~天才劇作家とモーツァルトの出会い~」を見ました。

評価:(80/100点) – 雰囲気満点のイケメン・アイドル映画


【あらすじ】

ロレンツォはユダヤ教徒であったが、教会でダンテの「神曲」の挿絵にあるベアトリーチェに魅了されカトリックに改宗する。それから数年、成人して神父として働くロレンツォは、しかしその煽動的で前衛的な詩が異端審問会で問題視され、国外追放処分を受けてしまう。彼は師であるカサノヴァの紹介でウィーンのサリエリの元を頼る。その道中、彼は同じイタリア系のモーツァルトと出会う。やがてサリエリの紹介で神聖ローマ帝国皇帝の後ろ盾を受けたロレンツォは、「フィガロの結婚」を作詞、モーツァルトとのコンビで成功させる。そして満を持してロレンツォの悲願である「ドン・ジョバンニ」の制作をモーツァルトに持ちかける、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> ロレンツォのヴェネツィアでの生活
 ※第1ターニングポイント -> ロレンツォが国外追放される。
第2幕 -> ロレンツォとモーツァルト
 ※第2ターニングポイント -> ロレンツォがアンネッタと再会する
第3幕 -> 「ドン・ジョバンニ」の完成。


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【感想】

日曜日は「ドン・ジョヴァンニ~天才劇作家とモーツァルトの出会い~」を見てきました。銀座テアトルシネマで見ましたが、入りは3~4割強で、中年のおばさんとクラシック好きっぽい若い女性1人で見に来ている方が多かったように思えます。
それもそのはず。現在関東で上映しているのが「Bunkamuraル・シネマ」と「銀座テアトルシネマ」のみと完全に「オサレ映画」シフトです。男でいうならば「シアターN」単館とか「新宿シネマート」単館ってとこでしょうか?(苦笑)
本作は巨匠カルロス・サウラ監督の新作ですからそりゃ映画好きなら見ざるを得ないわけですが、、、にしても映画オタクっぽい観客は私以外皆無(笑)。
本気で化粧臭い劇場は久しぶりでちょっと気分が悪くなりました(笑)。「グッド・バッド・ウィアード」の韓流オバさん軍団以来かも、、、。

雰囲気作りの妙

さて、本作を語ろうと思うと真っ先に出さなければいけないのが、その雰囲気作りの巧さです。なにせロレンツォとモーツァルトが優男のイケメンっていうのもありますが、それ以上に背景の作り方が非常に独特です。というのも、いわゆる「書き割り」「緞帳」の要領で、平たい壁に絵を描いて背景にしてくるんです。一番目立つのは、ロレンツォが雪の中で放心状態で町中を歩くシーンと、カサノヴァの図書室です。全ての背景が平面的な壁に絵画として描かれており、それが写りの角度で微妙に立体的に錯視してくるんです。
さらに背景以外でも、静止した人々の中へロレンツォやアンネッタが入っていくと急に動き始めるシーンなぞは非常に幻想的な雰囲気を作っています。
要はこれらの演出をすることで、「絵画が動いている」ような感覚を表現しているんです。この表現は本当に見事で、きらびやかな衣装と相まって本作の雰囲気作りに多いに貢献しています。

ストーリーライン

そして、本作のストーリーもこれまた良く出来ています。
放蕩者のロレンツォは、アンネッタを食事に誘って口説くシーンで完全に最低な遊び人っぷりを観客に見せてきます。フェラレーゼという彼女が居るくせにアンネッタを情熱的に口説くのです。しかもそこをフェラレーゼに見られているわけですが、その言い訳がまた女々しいこと女々しいこと(笑)。本当最低。でもだからこそ、真剣に恋をしたアンネッタを思うあまり、どんどんジョバンニ(←ギャグじゃないよ。無いよ、、、たぶん。)に自己投影していくロレンツォがとても魅力的なダメ人間に見えるわけです。さらには、彼が遂に改心して遊び人から情熱の人に転身すると、その決意として遊び人たるドン・ジョバンニは地獄に堕ちざるを得なくなります。そこにさらに絡まってくる「もう一人のジョバンニ」としてのカサノヴァの存在。史実を活かしながらもかなり自由にアレンジして、物語にしていく所はきっちり創作する手腕はお見事の一言に尽きます。
ロレンツォにとって「過去の自分」であるドン・ジョバンニが地獄に堕ちて決別することで、彼は真の意味で改心し、愛の人に生まれ変わります。
一方、モーツァルトも「貧乏で変わりものだが良い人」というギミックを上手く活かした描かれ方をしていきます。記号のように逆立った白髪を振り乱す奇人のモーツァルトは、十分に魅力的な人間像です。仕事として作曲を続ける合間に金持ち令嬢のレッスンまでこなす妻思いのモーツァルトは、まさしく清貧の人であり、人徳の理想を体現するような好人物としてロレンツォと対比されます。

【まとめ】

決定的に価値観が違う者同士が少し疎ましく思いながらもやがて友情を結んでいく姿は、一種の青春映画やバディムービーのようですらあります。劇中劇としてのオペラ「ドン・ジョバンニ」がかなり長いのがズルい気もしますが、万人にオススメ出来る良い映画でした。
サリエリとモーツァルトの関係や「ドン・ジョバンニ」や「フィガロの結婚」の位置付けは語ってくれませんから、その辺りは事前に調べるなり見るなりしておいたほうが良いかもしれません。
基礎教養を要求してくるあたりもちょっとオシャレ映画っぽくて嫌な感じです(笑)。
順次拡大ロードショーですので、お近くで上映がある方は是非劇場で見てみて下さい。劇場の大音響で聴くドン・ジョバンニは最高です。オススメです。

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オーケストラ!

オーケストラ!

昨日の二本目は

「オーケストラ!」です。

評価:(75/100点) – 役者と音楽の魅力で脚本をカバー。


【あらすじ】

ボリショイ管弦楽団の天才指揮者・アンドレイは、共産党のユダヤ人排訴運動から楽団員を守った結果、楽団の解散に追い込まれてしまう。それから30年、いまや新生ボリショイ管弦楽団の掃除係に落ちぶれたアンドレイは、オーナー室を掃除中に一枚のFAXを見つける。それはパリからのコンサート依頼であった。彼はそのFAXを盗み、かつての仲間と共にボリショイ管弦楽団に成りすましコンサートに向かおうとする、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> アンドレイの日常。
 ※第1ターニングポイント -> イヴァンが交渉役としてパリと連絡を取る
第2幕 -> 仲間集めとパリでの出来事。アンナ・マリー・ジャケとのあれこれ。
 ※第2ターニングポイント -> アンドレイとアンナの会食
第3幕 -> アンナがコンサートに出てくれるかどうか。そして本番。


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【感想】

昨日の二本目は「オーケストラ!」です。あんまり書くこともないくらい平凡な内容のヒューマンドラマなんですが、結構ズルい構成をしています。
話の内容は至ってシンプル。負け犬であり燻っているアンドレイ達が、唯一自信の持てる音楽でもって自己実現を果たす話です。いうなれば「少林サッカー」の音楽版です。ですから、少林サッカーが大好きな人にはたまらん物があると思います。特に、死んでしまった大事な仲間の穴埋めにその子供が合流するというベタベタな展開は、思わず親指を立てざるを得ません。
とはいえ、やはり使い古されたフォーマットであることには代わりがありません。その平凡な内容でありながら本作がとても良く纏まって見える”勝算”は間違いなくチャイコフスキーの音楽力です。そりゃ、チャイコフスキーを映画館の音響でフルに聞かせてもらえれば嫌でも気持ちよくなります。
もちろんストーリーはツッコミどころが満載です。でもそのツッコミどころですらコメディタッチなトーンに回収されてしまい、そこまで気になりません。そんなに文芸文芸している作品ではありませんが、軽いタッチで面白い映画が見られるということでは格別の物があります。
あまり公開館が多くは無いですが、是非是非、お近くで上映している方は観てみて下さい。「20世紀少年最終章」とは違った意味で、音楽の力を借りたフィルムの成功例を目の当たりにすることが出来ると思います。
負け犬万歳!!!

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半分の月がのぼる空

半分の月がのぼる空

今日は

半分の月がのぼる空」です。

評価:(100/100点) - 単なるお涙頂戴では無い、難病ものの大傑作。


【あらすじ】

裕一は肝炎で入院している。ある日夜中に抜け出した罰として、看護婦の亜希子から一人の少女・里香の友達になるよう頼まれる。しぶしぶ了承した裕一だったが、次第に彼女に魅かれていく。彼女は心臓に穴が開く重病で病院を転々としており、生きる希望を失っていた。
一方、元心臓外科医の夏目はかつて妻を助けられなかったことに絶望し内科に転属していた。彼の元に院長から直接、心臓に穴の開いた少女の手術を行うよう依頼が来る。自身の体力を理由にこれを固辞する夏目だったが、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 裕一と里香の出会い。
 ※第1ターニングポイント -> 砲台山での告白。
第2幕 -> 裕一と里香の恋愛。
 ※第2ターニングポイント -> 裕一の退院。
第3幕 -> 終幕。


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【感想】

本日の1本目は「半分の月がのぼる空」です。まったく前知識を入れずに見に行ったので、ラノベの原作やアニメの存在はまったく知りませんでした。見終わってwebを見た限りだと原作ファンにはあまり好評では無いようですが、私は大傑作だと思います。
このブログでは去年の10月終わりから5ヶ月で104本の映画について色々書いてきました。その中で満点を付けたのはたったの1本、サム・ライミ監督の「スペル」のみです。今、私は再び満点をつけるに値する作品を紹介できる喜びを噛みしめつつ、そしてどこまでネタバレしていいのか怯えつつ(笑)、この大傑作を紹介させていただきます。断言しますが、「難病もの」というジャンルの中で本作を越える作品はしばらく期待できないでしょう。
文句なしの大傑作です。

作品のストーリーとテーマについて

本作はボンクラな高校生の裕一と、難病と闘うツンデレ美少女・里香の出会いから始まります。余談ですが、この”ツンデレ”という要素が非常に類型的な描かれ方をしているため、最初は正直ちょっとオタク臭い作品に見えました(←ラノベなんで仕方ないんですけどね)。里香は冷たい態度で裕一をパシリとして使い倒します。ある日、友達からの「好きな女の頼みなら何でも聞いてやれ」というアドバイスを真に受け、裕一は夜の病院を抜け出して里香を砲台山に連れて行きます。そこでの里香の独白と裕一からの告白を機に、二人の中は急接近、見ているこっちがニヤニヤしっぱなしになるような甘酸っぱい青春恋愛模様が展開されます。そしてここから「ツンデレ少女」と「難病もの」というアクの強いストーリーが、完全に類型的な形で展開していきます。はっきり言ってベタベタすぎる展開でちょっと中だるみしますが、忽那汐里のアイドルパワーで物語を持たせます。そして、第二幕の終了と同時に物語はあり得ない方向に急展開し、観客の目の前に本作の真のストーリーが放り出されます。
このストーリーが見えた途端、本作の脚本構成のあまりの見事さが浮き彫りになります。
私はこの瞬間、夏目がアパートである行動をする瞬間から、約20分間泣きっぱなしでした(笑)。仕方ねぇ~じゃんかよ!!!(逆ギレ)。こんなもん見せられたら泣くわ、普通(怒)。
ネタバレぎりぎりですが、本作は「絶望に沈む男が、亡き妻との思い出を胸に秘めて復活を果たす」話です。
おじさんはもうすぐ30歳なのでこういうのに弱いんですよ、、、。

演出と脚本の妙

開始してすぐに、私は画面のあまりのフィルムグレインの多さにちょっとびっくりしました。特に屋上で裕一と里香が初めて会うシーンや夕方のシーンは空がちょっとモアレを起こすほどのフィルムグレインの量です。そして、忽那さんの顔の輪郭がぼやけるほどソフトフォーカスを掛けています。ところが、ある場面以降、このソフトフォーカスが取れてフィルムグレインも減り、かなりシャープな画作りに変わります。観た方には分かると思いますが、コレが本作の叙述トリックを演出面からサポートしています。
そしてなんと言っても脚本面では2つのエピソードです。
1つは当然、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」です。「銀河鉄道の夜」は最初は里香と里香の母との関係性を象徴する物でした。それが段々と里香と裕一をつなぐ絆の象徴になっていきます。そして終盤、ついに裕一と里香との絆そのものに変わるわけです。この展開は本当に素晴らしいです。これこそが正しい伏線の張り方です。
もう1つは、夏目と裕一の関係性です。裕一は、院長が「体力的にもう長時間の手術は出来ない」という理由で里香の手術を断ったことで、離ればなれになる危機を迎えます。一方の夏目は、「精神的に手術はもう出来ない」という理由で手術を固辞します。この二つの境遇がシンクロした瞬間、彼らの目の前に真実が浮かび上がってきます。要はこのエピソードに気付いた時、夏目が自身を見つめ直すきっかけになるわけです。この構成は絶妙です。

子供の頃に嫌だった大人に自分自身がなってしまった事に気付いた瞬間、夏目は絶望から立ち上がる決意をするわけです。そしてかつての自分が一番必要とした大人になるために、思い出の場所で亡き妻に謝罪をします。先に進まないと行けないから悲しむのはこれ限りにする、ゴメンと。忘れるわけじゃないけど、自分は必要とされているからやらなくちゃと。

号泣に決まってるでしょうが!!!(笑)
しかもですね、本作はお涙頂戴ばかりではなくきちんとギャグも挟んでくるんです。文化祭の演劇なんてシチュエーションコメディとして面白いですし、悪友と部屋に集まって彼女自慢したり馬鹿話したりするのも凄く懐かしくって微笑ましいです。学生で時間もてあましてる時ってあんな感じです。
あと、これは少し余談ですが、忽那さんの顔にきちんとニキビの化粧(?)をしていた(orニキビを化粧で隠さなかった)のは正解だと思います。10代の上にロクに風呂も入れない入院患者なんですから、顔は多少不潔なんですよ。この辺りをきちんと描いているのは素晴らしいと思います。

【まとめ】

本作はあまりに第二ターニングポイントでの叙述トリックが凄すぎて、そこだけで全部持って行かれてしまうような部分があります。しかし、第二幕までの難病もの青春恋愛映画という部分も本当に良く出来ています。なにせ「甘酸っぱさ」のツボがよくわかっていますし、病気を小道具ではなく場面転換のリミッターとして描いています。青春映画では絶対必要な若い男女が力の限り走り回る描写ももちろんあります。青春映画としても、恋愛映画としても、そして男の復活劇としても、文句の無い完璧な出来です。
自信をもってオススメします。
劇場に行ってきんさい!!!必見やろ!!!

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マイレージ、マイライフ

マイレージ、マイライフ

2本目は、ゴールデングローブの脚本賞を獲りました、

マイレージ、マイライフ」です。

評価:(90/100点) – 大人になるって、悲しいことなのかもね、、、。


【あらすじ】

ライアン・ビンガムはやり手の解雇通告人である。彼は依頼の来た会社に出向き人事担当に変わってリストラを穏便に通告していく。仕事で毎日のようにアメリカ中を横断する彼にとって、飛行機こそが「我が家」であった。ある日、新入社員のナタリーはビデオチャットで解雇を告げるシステムを会社に提案し、出張経費の削減を図ろうとする。これに反対したビンガムに、会社は彼女を実地研修のため出張に同行させるよう命じる。こうして、ビンガムとナタリーの解雇通告の長期出張が始まった、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> ビンガムの仕事風景とアレックスとの出会い。
 ※第1ターニングポイント -> ナタリーが出張に同行するようになる。
第2幕 -> ビンガムとナタリーの仕事。そしてビンガムとアレックスの恋愛。
 ※第2ターニングポイント -> ビンガムの妹の結婚式が終わる。
第3幕 -> 結末。


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【感想】

さて、残念ながらアカデミーは無冠に終わりましたが、ゴールデングローブ脚本賞を獲りましたマイレージ・マイライフです。監督は「ジュノ」のジェイソン・ライトマン。「ゴースト・バスターズ」で有名なアイヴァン・ライトマンの息子です。主演は大根役者ながら人の良さがにじみ出ているジョージ・クルーニー。ちなみに私はジョージ・クルーニーが大好きです。夜の早い回で見ましたが、かなり観客が入っていました。それでも大箱では無いのが残念です。
本作の原題は「Up In the Air」で、直訳しますと「空中を漂う」となります。ダブルミーニングになっていまして、「飛行機」そのものと「地に足が付いて無い男」の両方を表しています。すばらしいタイトルですので「マイレージ、マイライフ」よりも、これを意訳したタイトルをつけて欲しかったです。
また、以下の文章は例によって若干のネタバレを含みます。結末を知って見方が変わるたぐいのエンタメではありませんが、まっさらな状態で観たい方はご遠慮下さい。

本作のストーリー

本作の主人公ライアン・ビンガムは、独身で親戚や近所付き合いもほとんど無く、ほぼ一年中出張しています。夢は史上7人目の1000万マイレージを貯めて機長と会話をすること。時には「What’s In Your Backpack? (あなたは何を背負ってる?)」というテーマで「悠々自適な人生」の講演会まで引き受けたりします。彼にとっては家族は重荷であり、女性とも「カジュアルな関係」以上には踏み込みません。非常に合理的というか実利的に生きています。彼にとっては空港と飛行機がくつろげる唯一の場所であり、アテンダントの笑顔が癒しです。
ところが、彼が仕事として解雇通告をする際は非常に人間的で親身な対応をモットーとします。マニュアルに沿って事務的に解雇通告するのではなく、きちんと相手に納得させた上で生きる希望をもたせます。
そんな中で、彼は自分とは180℃考えの違うナタリーの面倒を見ることになります。プレイベートでの彼女は若くしての結婚を望み、高学歴ながら彼氏を追ってオマハまで来て解雇人のような泥臭い仕事に就きます。しかし仕事となると彼女は徹底した合理主義者になります。経費削減のためのビデオチャットを提案し、解雇通告もフローチャートでマニュアル化して誰でも出来るようにしようとします。
そんな全く別の存在・ナタリーがいる一方で、ビンガムは自分と同じく出張好きのアレックスに出会います。彼女との恋愛はあくまでも「カジュアルな関係」であり、お互いにショートメールをしたり落ち合って一晩だけ過ごしたりするだけの関係です。
この「似たもの同士」「正反対」という2人の女性を通じて、ビンガムは自身の価値観を徐々に変えていきます。

ビンガムの価値観

彼にとって家族は重荷です。女性とも真剣に付き合いません。そして飛行機が大好きです。要は「子供」なんです。たしかに仕事中にはとてつもない包容力を見せますが、プライベートは決定的に「子供」です。
彼は終盤、2人の女性を通じて真面目に恋愛しようと決意するに至ります。要は大人になろうという決意を固めたわけですね。まさにそのとき二つの悲劇が起こります。そしてこの悲劇によって彼は否応なく大人に”させられて”しまいます。彼は他人との関係をきちんと考えるようになります。それが如実に表れるのが最後に出てくる「ある手紙」です。
しかしその一方で、彼は夢が叶っても素直に喜べず、いままで好きだったはずの物を前にしてただ呆然としてしまいます。大人になったことで世界から喜びが消えてしまったんです。ビンガムは間違いなく「正しい大人」になったんですが、幸せそうには見えません。
本作における大人への成長は、責任の獲得であり、無邪気さの消失であり、そして夢に向かう情熱の喪失です。
本作が上手いのは、この流れが序盤でビンガムが解雇通告する際の話に通じるところです。ビンガムは自身を「ウェイクアップ・コール(目覚まし電話・価値観の転換を促す存在)」だとし、リストラ対象者に子供のころの夢をあきらめるなと言うんですね。ところが、いざ自分がウェイクアップコールを受けたら夢が消えちゃったんです。
だから、発着陸掲示板を前にしたビンガムの姿を見て、ちょっと泣いちゃうわけです。

【まとめ】

本作はかなりアクロバティックな変形の「少年の成長物語」です。たぶん社会人ならば、そして特に夢をあきらめざるを得なかったサラリーマンやOLなら、誰しも身につまされて心を揺さぶられるでしょう。ただのエンタメではありません。ある種のロマンでありファンタジーがこの作品には詰まっています。
大規模公開ではないですが見ておくべき良作です。間違いなくオススメします!!! 劇場で泣いてしまえ!!!

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記事の評価