川の底からこんにちは

川の底からこんにちは

GWの中日となる今日は

川の底からこんにちは」です。

評価:(97/100点) – 頑張りますから!!!ってかもう頑張るしかないんですから!!!


【あらすじ】

木村佐和子はOLである。バツイチ子持ちの課長・健一と付き合い、何事にも無気力。東京に出てから5年で4人の男に捨てられた。
ある日、健一とのデート中に父が肝硬変で倒れたと連絡が入る。過去のしがらみから帰郷を拒否する佐和子だったが、丁度仕事の責任をとって退職したばかりの健一はノリノリであった。こうして、佐和子は健一と彼の連れ子の加代子を伴って帰郷する。佐和子は父が経営するしじみ工場「木村水産」を継ぐことになるのだが、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 佐和子の日常。
 ※第1ターニングポイント -> 佐和子が帰郷する。
第2幕 -> 佐和子と加代子としじみ工場。そして健一が出て行く。
 ※第2ターニングポイント -> 佐和子が朝礼で開き直り宣言。
第3幕 -> 父の死。


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【感想】

さて、GWも真ん中にさしかかった本日は「川の底からこんにちは」です。渋谷のユーロスペースでしか上映していないということもあってか、昼の回で立ち見まで出ていました。石井裕也監督の本格デビュー作であり、何より満島ひかりさんの主演作として(局所的に)話題の作品です。
いきなり結論から言いますと、私は大傑作だと思います。少なくとも今のところは今年見た中で一番面白かったです。テーマ自体はとても重たいんですが、それを軽妙なギャグとテンポの良い語り口でサクサクッと見せてくれます。監督もとてもメジャーデビュー作とは思えない手腕でして、堂々たる演出です。素晴らしかったです。

概要

本作のテーマをざっくりと言ってしまえば、「無気力だった女性がどん底から開き直り、それに周りも影響を受けてみんなで頑張る話。」です。
満島ひかり演じる木村佐和子は男に捨てられ続けて無気力そのものの「よくいる普通のOL」です。一方の健一は妻に逃げられたバツイチ子持ちで、しかも仕事もロクにできずに退職させられてしまいます。佐和子はこの自分と似て「中の下」「ロクなもんじゃない男」である健一のヘタレ全開で最低な行動を目の当たりにすることで、ついにキレて開き直るわけです。
満島さんの演技も、前半はローテンションで無気力な「いまどきの娘」像なんですが、一転して悲壮な程に「頑張ろう」とする後半にさしかかるとこれはもう本当に鬼気迫るというか素晴らしい演技を見せてくれます。昨年の「愛のむきだし」といいとても着実に女優としてのキャリアを積んでらして、とても素敵だと思います。
健一役の遠藤雅さんも良い存在感を見せてくれます。ちょっと間の抜けた(←失礼)顔といい、ちょっとおどおどした小者っぽい佇まいといい、完璧です。ナイスキャスト。
そしてはずしていけないのが加代子役の相原綺羅さんです。この子が出てくるコメディシーンは本当にとても良く出来ています。「両親の離婚でもの凄い速度で”ませ”てしまった子供」という役柄を完璧に見せてくれます。
総じて役者さんはどなたも素晴らしいです。木村水産のおばちゃん達の「田舎に居るオバタリアン」っぽい体型・仕草なんかは、出てきただけでちょっと笑いが起きる程です。

ストーリーについて

肝心の話ですが、これも大変良く出来ています。
本作にはいくつもの「相似形」が仕込まれています。
 1)  共に母親の居ない「佐和子(幼少で死別)」と「加代子(両親の離婚)」。
 2)  共に恋人を奪い合う「佐和子」と「友美」。
 3)  共に浮気をして出て行く「健一」と「敏子の旦那」。
 4)  共に浮気で駆け落ちして東京へ行く「佐和子」と「健一」。
 5)  「糞尿を撒く」行為と「父の遺灰を撒く」行為。
さらに良く出来ているのは、これらが全て「デ・ジャヴ」を意図して構成されていることです。演出上は「相似形ですよ!」と声高に見せずにしれっと流してくるんですが、これらは全て「前に起きたことと同じ事が後でも起きる」という連鎖になっているんです。だから例えば3)では、健一が目の前で敏子が旦那を叱るのを見ることで、自分も叱られる予感を感じます。
ここでもっとも大きいのは5)の「遺灰を撒く」行為です。前者は「糞尿を撒いた」結果として巨大スイカが取れるわけなので、当然「遺灰を撒いた結果」として何かポジティブな事が近未来に起こることが予感されます。だから本作は悲惨な状況の中でもハッピーエンドとして成立します。
また、どんなにシリアスな場面だったとしても、ウェットになりすぎそうになると細かいギャグで意図的に”泣きポイント”を外してきます。それは男女の修羅場だろうが、人が死ぬ場面だろうが、関係ありません。
この外し方がとても見事で、結果として凄く重たい話なのにコメディとして楽しく見られてしまうんです。笑わそうとして下らないギャグを詰めるのではなく、きちんと話を語る上で必要な時に的確にギャグを入れてくるんです。是非DVDが出ましたら、去年公開の「なくもんか」に関わったスタッフは全員繰り返し見ることをオススメします。これが正しい「映画としてのギャグ」です。

【まとめ】

とにかくですね、映画が好きな方はもう行ってるとは思いますが、それ以外の方も悪い事は言いませんので見に行っとくべきです。めちゃくちゃ面白い2時間を確約いたします。惜しむらくは、こういう映画をこそシネコンの全国公開プログラムに組み込んで欲しいものです。そりゃこんだけ面白い作品が150席しかないユーロスペースで1日4回じゃあ立ち見ぐらい出ますよ。
私も月末ぐらいにもう一回見に行こうと思っています。
あとavexさん!木村水産の社歌はCD化して下さい(笑)。絶対売れますから!

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てぃだかんかん~海とサンゴと小さな奇跡~

てぃだかんかん~海とサンゴと小さな奇跡~

本日は久々の当たり屋家業、、

「てぃだかんかん~海とサンゴと小さな奇跡~」です。

評価:(15/100点) – 別にどうでもいいかも、、、、。


【あらすじ】

沖縄出身の金城健司は何をやっても長続きせず借金150万円を作って故郷に戻ってくる。幼なじみの由莉との結婚のため仕事を真面目にすることを決意した健司は、友人・屋宜啓介のマリンスポーツ店の倉庫を借りてサンゴバーを始める。たちまち評判になって結婚・借金返済・子供誕生と幸せな日々を歩む健司は、しかし突然バーの閉店を宣言し、サンゴの養殖で海の浄化を志す、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 健司のバー
 ※第1ターニングポイント -> 健司が借金完済パーティでサンゴの養殖を宣言する。
第2幕 -> サンゴの養殖を巡るアレコレ。
 ※第2ターニングポイント -> 開発会社からの提携依頼を断る。
第3幕 -> 養殖サンゴが卵を産むかどうか。


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【感想】

昨日4月のまとめをつくっていたら良い映画ばっかりで無性に罪悪感に囚われてしまいまして(笑)、久々に正面から踏みにいってみました。やっぱ当ブログの本分はあからさまに危ない映画にいってキレてナンボだろうと思いまして(笑)。じゃあなんで「矢島美容室」に行かないんだって話もあるんですが、、、とりあえずリハビリってことで勘弁してください(笑)。
今日は夜19時からの回だったのですが、おじいさん・おばあさんや子供連れでかなり混んでいました。正直ビックリです。でもまぁシネコンで今上映中の作品という括りですと、「家族でお手軽に見られそう」と言う意味でベストチョイスかも知れません。
実際見てみると、正直そこまでどうこう言う事もない感じの普通につまらない凡作でした。リハビリに最適(笑)。
本作は金城浩二さんの自伝を元にした「実話脚色話」です。あくまでも劇映画ですが、あまり劇的なエピソードを入れずに”実話感”を上手く表現していると思います。ただですね、ここが本作がつまらない大きな原因だと思います。結局、実話をもとにしたとはいえ、あくまでも劇映画なわけですよ。だから、きちんとストーリーとして盛り上げるところは盛り上がるように嘘をついてもらわないと困っちゃうんです。
例えばクライマックス。クライマックスは、養殖したサンゴが産卵をする感動的なシーンなんですが、主人公の健司が「潜りすぎて鼓膜が破けた」っていう理由で産卵現場を直接見ないんですね。たとえ事実はそうだったとしても、それで盛り上がるわけが無いんですよ。そこは例えそうだったとしても、潜って肉眼できちんと見て、満面の笑みを浮かべてもらわないと困るんです。このシーンを観客はどういう顔して見れば良いんでしょうか? 微妙すぎます。っていうか嘘をつくつもりが無いなら、「プロジェクトX」にすれば良いだけなんです。
また、大前提として突っ込みを入れておけばですね、本作は「世界で初めてサンゴの養殖に成功した男の感動話」という体裁のはずなんですが、「サンゴの養殖」に関する技術的な苦労話が一切ありません。要は「なぜ世界中で健司だけが養殖に成功したのか」という説明が無いんです。本作における養殖の苦労っていうのが、ただ単に詐欺師に騙されて借金を負ったっていうだけなんです。この作品が言いたいのはそこじゃないはずなんですけど、、、あくまでも「海とサンゴと小さな奇跡」なはずでしょう? 本当に理屈も何もなく「たまたま」っていう描きかたなんです。それならそれで良いんですが、、、本当に良いんでしょうか? 特に原作者というか主人公本人の金城さんはOKなんでしょうか?
岡村さんの演技が酷いとか、そもそもこの金城夫婦は何して食ってるんだとか(←一応観光客にサンゴ売ってるらしいですが)色々突っ込みどころはあるんですが、そういうのを問い詰める気も起きないくらい脱力してしまいました。
薬にも毒にもならないつまらない凡作ですんで、是非、家族連れでゴールデンウィークにお楽しみ下さい!!!



これなら同じつまらなさでもアリス・イン・ワンダーランド見た方がマシでした、、、。

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ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲

ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲

ゴールデンウィークの初日は

「ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲」を見ました。

評価:(89/100点) – 仲里依紗すげぇ!!! 半端ねぇ!!! 、、、、、、でもそんだけ。


【あらすじ】

世界を救った英雄ゼブラーマンこと市川新市は新宿一丁目の路上で記憶喪失となって目覚めた。するとそこは2025年で、毎日朝晩5時になると無法地帯となるゼブラタイムが導入された東京改めゼブラシティであった。
襲われた新市は白装束の男達に救われ神奈川にある白馬の家に運び込まれる。
一方、かつての相原公蔵博士が都知事として君臨するなか、公蔵の娘・ユイはトップアイドル・ゼブラクイーンとして絶大な人気を誇っていた。ユイは側近の新実に、かつてゼブラーマンが退治し損ねたエイリアンが生き残っていると告げ、寄生した少女の捜索を命ずる。
果たしてエイリアンはどこに潜んでいるのか? そして新市は記憶を取り戻すことが出来るのか? ゼブラクイーン・ユイは何者か?
謎が謎を呼ぶ中、新市は白馬の家で幼い少女・すみれに触れ、突如として白いゼブラーマンに変身する、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 2010年の新市と、目覚め。
 ※第1ターニングポイント -> 新市が白馬の家で浅野さんに再会する。
第2幕 -> ユイの計画。そしてゼブラーマンとゼブラクイーンの覚醒。
 ※第2ターニングポイント -> ゼブラクイーンがすみれを誘拐する。
第3幕 -> 真ゼブラーマンvsエイリアン。


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【感想】

さてさて、GWの初日からいきなりですが今週大本命のゼブラーマンです。映画の日で1000円なわけですが、初日なのに全然お客さんが入っていませんでした。寂しい限りです。たしかにバイオレンスVシネマの帝王・三池崇史監督作品っていう時点で「女・子供は立ち入り禁止」なわけなので仕方がないですが(苦笑)、去年はヤッターマンみたいに気の抜けた映画を発表していたので結構ハードルは下がっているようにも思えます。正直GW公開では一番期待していた作品なので、ここまでのガラガラっぷりはちょっと想定していませんでした。
以下若干のネタバレ込みになりますので、先に要点だけ。本作はゼブラクイーンが全てです。ちょっと邦画では近年まれに見る魅力的な敵役かもしれません。ハッキリ言いますが、哀川翔が完全に食われていました。映画全編にわたってまるで仲里依紗の演技力を見せつけられているようなシーンの連続です。この作品の仲里依紗を見れば、彼女の能力がとてつもないレベルに突入しつつあるのが分かります。これでまだ20歳ですから、今後30年くらいは邦画の第一線で見られるかと思うとうれしい限りです。

ストーリーの流れ

前作のゼブラーマンは、そのメタ構造が大きなポイントでした。かつて放送していたマイナー特撮ドラマの「ゼブラーマン」に憧れた中年ヘタレ教師の新市が、やがてドラマの通りにゼブラーマンに変身して世界を救います。もともと仮面ライダーの新作を作るつもりが権利関係で頓挫したという経緯のあった作品でしたので、おもいっきりその「お約束としての特撮ヒーローもの」を逆手にとったストーリーは中々見応えがありました。
そして本作です。本作は前作のラストから繋がって始まります。ヒーローになった新市は、芸能リポーターやミーハーなファンに追いかけられ、妻子にも逃げられてしまいます。そして公蔵博士の治療を受けるわけですが、ここから白くなったり未来へ飛んだりというゴタゴタが始まります。
未来へ飛んで記憶を失った新市は、白馬の家で「すみれ」なる少女に出会い記憶を取り戻します。そしてゼブラクイーンやエイリアンの残党と対決するわけです。

キャラクターの配置

本作はキャラクターがかなり上手く配置されています。
まずはココリコ田中演じる市場純市です。市場は新市・ゼブラーマンの活躍を受けて作られた新シリーズの「ドラマ・ゼブラーマン」の主演俳優です。そして白馬の家では武闘派として皆を守ろうとします。彼の立ち位置は、そのまんま前作の新市です。自分自身は平凡な男でありながら、「かつてゼブラーマンを演じた」という自負から、正義のヒーローになろうとします。しかし現実とのギャップに打ちのめされ、無力感に囚われ、焦燥していきます。
次にユイと新実です。新実はユイを愛しており、彼女のために献身します。しかしユイは新実を利用するだけ利用し、しかしキモイと一蹴します。それでもなお、新実は彼女への愛を貫き通します。
本作のゼブラクイーン・ユイの魅力の大きな要因として、彼女が表面上は強気で凶暴でありながら実際には愛を求め続けているという点にあります。彼女がある計画を実行してヒーローになろうと画策するのも、人々に愛され賞賛されたいからです。そしてその愛を邪魔する美咲美香や公蔵は徹底的に排除します。そういった意味では、彼女と新実は非常に良く似ています。互いに愛を求める事に一生懸命なんです。だから最後に新実に愛されていることを理解したゼブラクイーンは、そこで初めて素直な感情を見せます。このゼブラクイーンと新実の立ち位置は絶妙です。

気になる点

本作の舞台はゼブラーマンが世界的なヒーローになった後の話です。ですから、全員がゼブラーマンを知っていますし、新市・ゼブラーマンをネタにしてTVドラマまでもが作られています。ですから本作でメタ構造を取ることは構成上不可能です。だから、最後にとってつけたように新ドラマ版を前作の預言のように利用するのは明らかに変です。明確な説明が出来ません。
また話の部分は結構適当です。そもそもエイリアンと反応して変身する意味がよくわかりませんし、タイムスリップした点については何の説明もありません。そういえば、戻れてませんしね(笑)。新市の奥さんとお子さんはさぞ心配していることでしょう。
さらに本作ではマスコミのモラル不足や政府の大本営放送を「嫌なこと」としてかなりハッキリと描いています。「TBS、オマエが言うな!」って喉元まで出かかってるんですが(笑)、この辺ももっと利用できたはずです。なにせ権力者vs抵抗コミューンという革命志向の団塊世代にはど真ん中の構造なのですから。
最後になりますが、やはり一番の引っかかりは宮藤官九郎の滑りまくる小ネタ・ボケです。かなり悪ふざけ的に畳みかけてくるんですが、全っ然面白くないですしはっきりセンスなさ過ぎです。せっかく魅力的なキャラが揃っているのに、変なB級感を増幅させてしまっています。

【まとめ】

本作は仲里依紗さんを見に行くだけでも十分に価値があります。とにかくとてつもない演技力で完全に目を奪われます。本作を見て仲里依紗のファンにならない人は居ないのではないでしょうか?
決して万人に勧められる出来ではないですが、男の子であれば燃える展開にグッと親指を立てること必至です。オススメです!!!

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プレシャス

プレシャス

本日のレイトは

「プレシャス」です。

評価:(65/100点) – 不幸を”詰め込まれた”巨体。


【あらすじ】

プレシャスは実の父親に性的虐待を受け、16歳にして2人目の子供を妊娠する。妊娠がバレて学校を退学処分にされたプレシャスは、校長の紹介でEOTO(Each One Teach One)の世話になる。ある日、母親からの暴力に耐えきれなくなったプレシャスは、我が子・アブドゥルと共に家出してEOTOに寝泊まりすることになる、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> プレシャスの日常描写とEOTOとの出会い。
 ※第1ターニングポイント -> プレシャスが家出する。
第2幕 -> EOTOでの交流。
 ※第2ターニングポイント -> 母と再会し、父親がAIDSで死んだと聞かされる。
第3幕 -> 母との対峙と決意。


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【感想】

ようやく「プレシャス」を見てきました。いろいろ見たい映画があって後回しにしていたんですが、さすがに端っことはいえアカデミー賞をスルーするのもアレなんで、とりあえずの鑑賞です。やはり劇場は「アリス・イン・ワンダーランド」一色でして、「プレシャス」はガラガラでした。
見終わっての率直な感想ですが、正直言ってあんまりグッと来ませんでした。というか、私はハッキリ言ってこういう作品があまり好きじゃありません。
本作で、16歳のプレシャスはおよそ少女が考えられる限りの不幸を背負わされます。父親から性的暴行を受け、母親からは肉体的暴力を浴び続け、AIDSのキャリアで、そして無収入なのに子供二人を抱えて、勉強も出来ません。夢(=妄想)以外は何にもないんです。
そんな彼女にEOTOのミズ・レインは親身になって対応してくれ、結果としてプレシャスは生きる希望を取り戻します。悲惨な状況の中でも懸命に生きようともがく少女の強さを描いた感動作、、、、、というフォーマットだと思うんです。
私がこの手の話を嫌いな一番の理由がまさにそこなんです。だって、誰がどう見たって彼女は可哀想なんですよ。太ってること以外は完全に不可抗力の被害者ですから。だから、この作品をつまんないとか言うと、あたかもDVやこの手の”美談”まで否定しているように思われかねないじゃないですか。私もブログだから嫌いとか書いてますが、リアルでは嫌いなんて言えないですよ。この「絶対肯定しろ」オーラをビンビン圧力として感じるんです。私が言いたいのは「テーマ自体は結構で正当なお題目だと思うけど、それを直球でやって美談に落としたら平凡でつまらんぞ」って事です。
全然ひねった演出が無いですし、ひたすら泣き落としで攻めてくる姿は、「世界の中心で愛をさけぶ」とかと同レベルだと思います。
追加で好きになれない理由を挙げるなら、原作者自身がレズビアンだからという理由で作中のレズビアンの先生が超いい人だという点です。自分を投影したキャラクターを天使のような慈悲深い女性に描くような59歳のおばちゃんは信用出来ません。無理っす。
前評判でハードルが上がりきっていた部分はありますが、それにしてもあまりにあんまりな印象を受けました。同じキャラに不幸を重ね過ぎてしまうと、それはそれでナンセンス・ギャグになってしまうってことです。

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恋する幼虫 / 中身刑事

恋する幼虫 / 中身刑事

昨日の2本目+短編1本は、
『戦闘少女 血の鉄仮面伝説』公開記念特集上映 「MUTANT MOVIES -SQUAD-」

「恋する幼虫」「中身刑事」二本立てです。

評価:(85/100点) – だって面白いんだも~~ん。井口ワールド全開!


【あらすじ】

●「恋する幼虫」
アスペルガーの気がある漫画家のフミオは、担当編集者のユキのふとした行動にキレて、Gペンで彼女の頬を刺してしまう。やがて出版社から連載打ち切りを告げられ仕事を無くしたフミオは、音信不通になったユキのアパートを訪ねる。するとそこには変わり果てて自暴自棄になるユキの姿があった。彼女の頬のアザは無残に膨れあがり、そこから食指が出て血を吸うようになってしまったのだ。吸血鬼となったユキは腹いせにフミオを扱き使うが、やがて二人の間には不思議な信頼が芽生え始める、、、。
●「中身刑事」
謎の感染症でゾンビが流行する世界。科学者のコージはゾンビ病を直す研究を進めていたがいっこうに成果が上がらない。ある日、恋人で婦警のサチエがゾンビに噛まれて感染してしまう。しかし、偶然にもサチエの同僚でストーカー気質の変態・ムラカミのゲロがサチエに掛かると、なんと病気が治ってしまった!ムラカミのゲロにはゾンビ病を治す不思議な効果があったのだ!次第にムラカミを頼りだすサチエと、それを快く思わないコージ。そして調子に乗り始めるド変態のムラカミ。こうして妙な三角関係が発生した、、、。


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【感想】

え~、今回は当ブログで初めてとなる非新作映画です。といっても名画座みたいなおしゃれな感じでは無く、完全に悪趣味(笑)。そう、5月末に公開される井口昇最新作「戦闘少女 血の鉄仮面伝説」にちなんだお祭り企画です。

恋する幼虫

「恋する幼虫」については今や局所的にメジャーな作品で、井口昇監督の出世作と言ってもいいでしょう。ちょっとアスペルガーっぽいフミオの描き方が秀逸ですし、ユキが徐々に心を開いていく姿も完璧です。
なにせ、このフミオのキャラクターというのが、出てきてものの数分で誰の目からも明らかなほど的確かつ簡潔に描写されます。突然気が狂ったように喚き・暴れたり、かと思うと次の瞬間には急にオドオドしたり、最低なクズだけれどもどこか憎みきれないような絶妙な位置です。この糞野郎が徐々にユキに惚れていくのにそれでもここ一番で根性が出ないというもどかしさ。そして溜めに溜めたところからのラストの開放感。もちろん画面で起きていることはかなり酷く惨いんですが、それでも本当に奇跡的なハッピーエンドなんです。
でまぁ一応指摘しておけば、本作の「吸血」というのは直接的にSEXのメタファーになっているわけです。だからこそ、フミオはユキが元恋人や自分の知人を吸血するのを見て嫉妬しますし、ユキは同じ女性のササキさんの血は吸わないんです。
これはかなり重要な井口昇監督の特徴ですが、エログロをメタファーとして使用するため、そこを元の意味に置き換えるととてもオーソドックスな話になるんです。本作で言えば、頬をGペンで刺すのは「深く傷つける事」のメタファーですし、「吸血」はSEXのメタファーです。
ですから、実は本作は
「ある男が気になっているおとなしい女性を傷つけてしまった結果、彼女は自暴自棄になって男遊びに走ってしまう。罪の意識から彼女の言うとおりに合コンをセッティングしていた男だが、やがて二人の間に奇妙な信頼が生まれ、互いに恋に気付き純愛に発展する。」
というストレートなラブストーリーなんです。
ちょっと肉体破損描写があったり、ちょっとゾンビっぽいのが出たりするだけで本質は完全に良質なラブストーリーです。
だから恋を燃え上がらせる要素でしかない点、すなわち「何故ユキが吸血鬼になったのか?」「吸血鬼が増殖していって世界は大丈夫か?」という点は完全にスルーされます(笑)。だってラブストーリーの小道具に理屈もへったくれもないですもん(笑)。
DVDがツタヤにも置いてありますので、よかったら是非お手にとって見てみて下さい。グロいって言ってもモロに安い作り物がちょっと出るぐらいなので、ちょっと苦手なぐらいでも大丈夫ですよ。

中身刑事

こちらはビデオやDVDにはなっていません。昔「刑事(デカ)まつり」というイベント企画がありまして、そのなかで井口昇監督が撮った一本です。完全に出オチの悪ふざけなんですがこの15分という尺の中にこれでもかと下らないギャグネタを詰め込んできて変なニヤニヤ笑いが止まりません(笑)。この作品を見ると、エログロに頼らない井口昇の基礎能力の高さが良く分かります。オススメと言いたいのですが、なにせソフト化していないお蔵入り作品なので、目にするのは難しいかも知れません。
悪い事言いませんから、渋谷の近くの方は5月2日のシアターNで21時からやる再上映に行っといた方が良いですよ。次にいつ上映するか分かりませんから。本当は「刑事まつり」のDVDボックスでも出して欲しいんですけど、、、、やっぱ権利上難しいですよね、、、残念です。

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スナイパー:

スナイパー:

本日は渋谷で二本+短編一本を見てきました。

一本目は「スナイパー:(神鎗手)」です。

評価:(85/100点) – 燃える漢の狙撃戦!


【あらすじ】

腕を見込まれて香港警察狙撃部隊に引き抜かれたOJはフォン隊長の下で一人前の狙撃手になるための訓練を受けていた。彼の部隊にはかつて狙撃大会で四連覇を達成し唯一500mのピンショットを可能にした天才リン・ジンが居たが、彼は過失致死で服役中であった。そんな天才リン・ジンは四年の刑期を満了した後、マフィアに手を貸して警察達を次々と射殺していく。果たして四年前に何があったのか?そしてリン・ジンの目的は?
四年前の真相が明らかになったとき、フォン隊長、リン・ジン、OJの三人の天才達が激突する。

【三幕構成】

第1幕 -> OJの特訓。
 ※第1ターニングポイント -> タオの脱走。
第2幕 -> リン・ジンとOJとフォン隊長
 ※第2ターニングポイント -> タオの銀行強盗開始。
第3幕 -> リン・ジンの復讐


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【感想】

本日の一本目は香港映画の「スナイパー:」です。アクション映画といいますか香港ノワールといいますか、男臭~い熱血映画です。関東ではシネマ・アンジェリカでしか上映していませんが、その割にはあまりお客さんが入っていませんでした。正直もったいないです。めちゃくちゃ面白いですよ。
また、例によって以下はネタバレを多く含みますので、未見の方はご注意下さい。

本作の構造

さて、本作には三人の魅力的な男が登場します。香港映画界の宝にして近年では「ダークナイト」にも出ていた、そしてハメ撮り流出で休んでいたエディソン・チャン。ちなみに本作はお休みする前の最後の作品です。それに台湾の90年代を代表するアイドル歌手リッチー・レン。最後に中国の近年最高のアイドル・ホアン=シャオミン。このイケイケな3人が、ある意味歪んだ三人の男達を熱演します。でまぁ演技もさることながら、この三人のキャラの立て方が抜群に上手いです。
フォン隊長は、リン・ジンに射撃の腕が叶わず、出世レースでもリン・ジンに先を越されさらには妻がうつ病で自殺未遂までしてしまい自分の能力・境遇に強烈なコンプレックスを持っています。そのため、リン・ジンをハメてまで掴んだ狙撃隊長の座を唯一「自分がトップを張れる場所」として自己実現の場にしており、自分の言うことをあまり聞かないOJに対して激烈な反応を示します。
OJは父親がケチな雀荘の店番(=小者)だということに猛烈な不満を持っています。そしてその父親への反抗心から強烈なエリート意識があり、自分の能力に絶対的な自身を持っています。時には過信や傲慢とも取れる態度で独断専行も辞しません。
リン・ジンは孤高の天才肌で、人付き合いがよくないものの、その絶対的な射撃能力でいち早く出世していきます。しかし新婚早々に起きた銀行強盗事件でフォンの偽証により懲役刑を食らい、さらには八つ当たりをしてしまった妻は謝罪する間もなく事故死してしまいます。それ故にフォン隊長に対して恨みを募らせており、マフィアに手を貸してフォン隊長をおびき出し復讐を行います。
この三人をパッと見れば分かるように、明らかに悪であるリン・ジンが一番まともです。ともすればヒーローに描かれても可笑しく無いキャラクターなんです。っていうかセガールがやっても可笑しく無い(笑)。しかし本作ではあくまでも狙撃隊の新人・OJをメインとし、先輩二人の確執からくる決闘を描いていきます。パッと見ると善悪の二項対立みたいに見えかねないんですが、構造的にはOJのメンター(=師匠)はフォンでもありリン・ジンでもあるわけです。OJは、フォンから射撃の基本と心得を習い、リン・ジンからは独特の呼吸法とロングショットのコツを習います。だからこそ、本作のラストショットの意味が出てくるんです。新人のOJは、フォンとリン・ジン、それぞれの教えを受けて成長するんです。この描き方が抜群です。まるで熱血スポ根映画のようです。

【まとめ】

本作はもの凄く面白いんですが、でも実はあんまり書くことがありません(笑)。というのも、上記の三人のキャラクターを立てた時点でもうこの作品は”勝ってる”んです。しかもそこを取り巻く描写もアクションもほとんど完璧です。決して上品な作品ではありませんが、しかし男の子が大好きな要素は全てきっちり詰まっています。自宅が渋谷まで電車で一時間ぐらいの距離でしたら、十分に行って元は取れます。超オススメです。
強いて言えばちょっと画質が良くなかったんですが(というかデジタルノイズが乗ってました)、もしかしてDVDかBDでの上映だったんでしょうか? 何にせよ、ミニシアターとはいえこういう面白い作品をきっちり上映してもらえるのはありがたいことです。渋谷はミニシアターがいっぱいあって、本当に面白い街です。行くのはいつも裏通りばっかですけど(笑)。

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久々に雑談

々に雑談です。
というのも、、、誉田哲也さんの「武士道シックスティーン」原作が面白すぎる!!!
どのくらい面白いかというと、10年くらい前に「マリア様がみてる」を初めて読んだときぐらい面白いです(笑)。あの頃は学生だったな~とか思い出しつつ、ここまでこそばゆい「男の妄想ド・ストライク」な女子校青春ラノベは久々です。
一晩で一気に読んじゃいました(笑)。
原作ファンの方は怒らないで欲しいんですが、これは別に貶しているわけではなく、この「武士道シックスティーン」は小説じゃなくライトノベルだと思います。理由は単純で、細かい描写が全然無くてほぼ全てが会話文と独り言で構成されているからです。これって小説では「出来が悪い」と言われてしまう典型です。でも、特に青春ドラマを群像劇スタイル(っていっても2人ですが)で描く場合、この「会話と独り言で延々転がす」っていう手法は”有り”だと思うんです。
そんでもって肝心の原作を読み終わった感想なんですが、映画よりも全っ然良く出来てると思います。間違いなく映画より面白い!
私自身、映画もかなり楽しんだんですが、原作を読んだ後だとなんで映画であんな変更の仕方をしたのか理解しかねる所が多々でてきました。そもそも磯山香織は原作のがよっぽど人間味溢れてて魅力的ですよ。西荻早苗もちゃんとお人好しで天然ボケの天才として描かれてますし。
話の展開自体は映画にする上で必要な省略なり変更だと思います。きちんと二幕でミッドポイントを作るためには、香織のケガはあのタイミングしかありませんから。でもそのせいで香織の悩みが原作とは別になっちゃってるんですね。
原作の香織も親子関係で悩んでるんですが、それは愛に飢えた子なわけで、父親も娘を影ながら応援している描写があります。だから別に険悪なわけではないし、父親もちゃんと人間なんです。
ところが映画版だと母親が死んだ後、父親が不器用に折檻スレスレの剣道教育をするのを「愛が故に耐える」のが香織なんですね。「もっと褒めて欲しい」「もっと笑って欲しい」という思いで、彼女は過酷な父の練習に耐えるんです。
これ、違い過ぎるでしょう。原作はまさに「反抗期の娘」そのものの一般論として通用する「ティーンエイジャー像」です。でも映画版は特殊な家庭状況で価値観が変に固定してしまった少女が他の「普通の子」とのギャップに苦悩しているように見えます。どちらも「親の愛」を欲しているんですが、本質的に別問題でしょう。
別にどっちが良いとかではないんですが、個人的には原作の等身大のティーンエイジャーの方が好きです。
映画が面白くて原作を読むと、たまにこういう事が起きます。原作の方がはるかに出来が良くて、昨日まで楽しいと思えた映画版の評価が崩落したり(苦笑)。
是非とも「武士道セブンティーン」と「武士道エイティーン」も映画化することを祈っています。早く撮らないと成海さんも北乃さんも年取っちゃうよ(笑)。アイドル映画は勢いと鮮度が大事だから!!!
ということで映画を観てない方は、原作を読むことを是非是非オススメします。めっちゃ面白いですよ、本当。

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ドン・ジョヴァンニ~天才劇作家とモーツァルトの出会い~

ドン・ジョヴァンニ~天才劇作家とモーツァルトの出会い~

昨日は

「ドン・ジョヴァンニ~天才劇作家とモーツァルトの出会い~」を見ました。

評価:(80/100点) – 雰囲気満点のイケメン・アイドル映画


【あらすじ】

ロレンツォはユダヤ教徒であったが、教会でダンテの「神曲」の挿絵にあるベアトリーチェに魅了されカトリックに改宗する。それから数年、成人して神父として働くロレンツォは、しかしその煽動的で前衛的な詩が異端審問会で問題視され、国外追放処分を受けてしまう。彼は師であるカサノヴァの紹介でウィーンのサリエリの元を頼る。その道中、彼は同じイタリア系のモーツァルトと出会う。やがてサリエリの紹介で神聖ローマ帝国皇帝の後ろ盾を受けたロレンツォは、「フィガロの結婚」を作詞、モーツァルトとのコンビで成功させる。そして満を持してロレンツォの悲願である「ドン・ジョバンニ」の制作をモーツァルトに持ちかける、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> ロレンツォのヴェネツィアでの生活
 ※第1ターニングポイント -> ロレンツォが国外追放される。
第2幕 -> ロレンツォとモーツァルト
 ※第2ターニングポイント -> ロレンツォがアンネッタと再会する
第3幕 -> 「ドン・ジョバンニ」の完成。


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【感想】

日曜日は「ドン・ジョヴァンニ~天才劇作家とモーツァルトの出会い~」を見てきました。銀座テアトルシネマで見ましたが、入りは3~4割強で、中年のおばさんとクラシック好きっぽい若い女性1人で見に来ている方が多かったように思えます。
それもそのはず。現在関東で上映しているのが「Bunkamuraル・シネマ」と「銀座テアトルシネマ」のみと完全に「オサレ映画」シフトです。男でいうならば「シアターN」単館とか「新宿シネマート」単館ってとこでしょうか?(苦笑)
本作は巨匠カルロス・サウラ監督の新作ですからそりゃ映画好きなら見ざるを得ないわけですが、、、にしても映画オタクっぽい観客は私以外皆無(笑)。
本気で化粧臭い劇場は久しぶりでちょっと気分が悪くなりました(笑)。「グッド・バッド・ウィアード」の韓流オバさん軍団以来かも、、、。

雰囲気作りの妙

さて、本作を語ろうと思うと真っ先に出さなければいけないのが、その雰囲気作りの巧さです。なにせロレンツォとモーツァルトが優男のイケメンっていうのもありますが、それ以上に背景の作り方が非常に独特です。というのも、いわゆる「書き割り」「緞帳」の要領で、平たい壁に絵を描いて背景にしてくるんです。一番目立つのは、ロレンツォが雪の中で放心状態で町中を歩くシーンと、カサノヴァの図書室です。全ての背景が平面的な壁に絵画として描かれており、それが写りの角度で微妙に立体的に錯視してくるんです。
さらに背景以外でも、静止した人々の中へロレンツォやアンネッタが入っていくと急に動き始めるシーンなぞは非常に幻想的な雰囲気を作っています。
要はこれらの演出をすることで、「絵画が動いている」ような感覚を表現しているんです。この表現は本当に見事で、きらびやかな衣装と相まって本作の雰囲気作りに多いに貢献しています。

ストーリーライン

そして、本作のストーリーもこれまた良く出来ています。
放蕩者のロレンツォは、アンネッタを食事に誘って口説くシーンで完全に最低な遊び人っぷりを観客に見せてきます。フェラレーゼという彼女が居るくせにアンネッタを情熱的に口説くのです。しかもそこをフェラレーゼに見られているわけですが、その言い訳がまた女々しいこと女々しいこと(笑)。本当最低。でもだからこそ、真剣に恋をしたアンネッタを思うあまり、どんどんジョバンニ(←ギャグじゃないよ。無いよ、、、たぶん。)に自己投影していくロレンツォがとても魅力的なダメ人間に見えるわけです。さらには、彼が遂に改心して遊び人から情熱の人に転身すると、その決意として遊び人たるドン・ジョバンニは地獄に堕ちざるを得なくなります。そこにさらに絡まってくる「もう一人のジョバンニ」としてのカサノヴァの存在。史実を活かしながらもかなり自由にアレンジして、物語にしていく所はきっちり創作する手腕はお見事の一言に尽きます。
ロレンツォにとって「過去の自分」であるドン・ジョバンニが地獄に堕ちて決別することで、彼は真の意味で改心し、愛の人に生まれ変わります。
一方、モーツァルトも「貧乏で変わりものだが良い人」というギミックを上手く活かした描かれ方をしていきます。記号のように逆立った白髪を振り乱す奇人のモーツァルトは、十分に魅力的な人間像です。仕事として作曲を続ける合間に金持ち令嬢のレッスンまでこなす妻思いのモーツァルトは、まさしく清貧の人であり、人徳の理想を体現するような好人物としてロレンツォと対比されます。

【まとめ】

決定的に価値観が違う者同士が少し疎ましく思いながらもやがて友情を結んでいく姿は、一種の青春映画やバディムービーのようですらあります。劇中劇としてのオペラ「ドン・ジョバンニ」がかなり長いのがズルい気もしますが、万人にオススメ出来る良い映画でした。
サリエリとモーツァルトの関係や「ドン・ジョバンニ」や「フィガロの結婚」の位置付けは語ってくれませんから、その辺りは事前に調べるなり見るなりしておいたほうが良いかもしれません。
基礎教養を要求してくるあたりもちょっとオシャレ映画っぽくて嫌な感じです(笑)。
順次拡大ロードショーですので、お近くで上映がある方は是非劇場で見てみて下さい。劇場の大音響で聴くドン・ジョバンニは最高です。オススメです。

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