火曜は韓国漫画原作の映画、
「黒く濁る村」を見て来ました。
評価:
– 出来の良い古典的な「村社会サスペンス」【あらすじ】
ユ・ヘググは疎遠になっていた父が死んだという知らせを聞き、田舎の村を訪れる。絶対的な権力を持つチョン・ヨンドク村長とその取り巻きの3人はユ・ヘググを迷惑そうに扱い、一刻も早く追い返そうとする。不審に思ったヘググは父の死と村の秘密を探るため、暫く滞在することにする。隠し通路や不審なテープなど村の秘密が次々と明るみになる中、遂にヘググは村長の取り巻き達に襲われてしまう、、、。
【三幕構成】
第1幕 -> ユ・モッキョンの死とヘググの来訪。
※第1ターニングポイント ->ヘググが村への滞在を決める。
第2幕 -> ヘググと取り巻き達の対決。
※第2ターニングポイント -> キム・ドンチョンの死体が発見される。
第3幕 -> 直接対決。
【感想】
勤労感謝の日は韓国映画「黒く濁る村」を見ました。こちらも東京国際映画祭で先行上映していましたが未見で、今回が初めてになります。先週の土曜日に公開の作品ですが、あまりお客さんは入っていませんでした。個人的にはこういう陰惨な韓国映画は大好きなんですが(苦笑)、いわゆる韓流オバサンみたいな観客もほとんどいませんでしたので、あまりそっちの世界では話題になっていない作品なのかも知れません。
またサスペンスなので極力ネタバレはしないようにしますが、どうしても不満点を上げるとネタバレ風味になってしまうため、やんわりと輪郭で分かってしまうかも知れません。はっきりいって本作は良く言えば古典的、悪く言えば非常にありきたりなストーリーです。なのでネタバレされたとしても価値が落ちるとは思いませんが、ワクワクは半減すると思いますのでお気を付け下さい。
作品の概要
見る前にちょっとtwitterでも書きましたが、本作は非常に横溝正史的なサスペンスです。暗く、黒く、どんよりとして未来がなさそうな閉鎖村社会に、都会から「近代的価値観を持った」青年がやってきます。そしてカルチャーギャップを味わいつつ、村社会にある暗部を暴いていきます。当然暴かれる側の人間達は激しい抵抗をしますし、それが殺人事件に発展してサスペンス要素を生んでいきます。
本作が唯一オリジナリティを発揮しているとしたら、それは村社会における「古い価値観」がそのまま韓国人の嫌な部分の批評になっているという点です。汚職や警察・検察の買収は当たり前、レイプも当たり前、脅迫・恐喝も当たり前、ちょっと気に入らないことがあると泡を吹いてファビョりだす。そういう外の人間から見たときの「韓国人のここが嫌だ」と言う部分をガッツリいれていきます。
特に30代の韓国人監督には、90年代の反政府学生運動に参加していた人が多く、こういった「韓国人として韓国人の自己批評」というのを入れてくる傾向があります。しかしカン・ウソクの世代の監督は、どちらかというと「何でもかんでも日帝時代のせい」というフレーズが大好きで、あまりこういった自己批評を入れてきません。今回も途中で「今は日帝時代じゃない(から韓国人は清廉潔白だ)」という失笑物のセリフが出てきます。意図しているかどうかはともかく、「ヘググvsヨンドク」は「近代的韓国人vs旧世代的韓国人」として図式化されていますから、これはこれで非常に面白のは間違いありません。
近代的韓国人が盗みや不法侵入や逆ギレをしまくっているのもちょっと面白いですけどw
不満点
やはり全体の世界観として「閉鎖村社会サスペンス」+「嫌な韓国人」という組み合わせはとても愉快で面白いです。上映時間が160分もありますが(なんと踊る大捜査線3とほぼ一緒!)、まったく飽きずに見ることが出来ます。この推進力・演出力はさすがです。
しかし一方で、どうしても話の練り込み不足は否めません。基本的には「過去にあった事件を引きづった共犯関係の村」というフォーマットなんですが、実は取り巻き3人に共犯関係はありません。あくまでも悪はヨンドル村長だけです。後の3人は犯罪者ではありますがきちんと服役しています。そうすると、この3人が村長に縛られている理由がよく分かりません。
そして村長もリアルタイムで悪事を働いてはいますが、賄賂や脅迫など、いわゆるマフィアのやることです。なので、こちらもそこまで「村の暗部」という感じではありません。というか、パク検事の上司がヨンドルとおおっぴらに面会していることからもヨンドルのマフィアっぷりはかなり暗黙の了解です。ですので、ヨンドル村長はかなり公に認知されたマフィアです。
ということで、実際には「村の暗部を暴く」というフォーマット自体がかなり雑です。クライマックスで暴かれる「暗部」も、実際には30年前の出来事であり時効が成立しています(韓国での殺人事件の時効は25年)。すでに逃げ切ってるわけですね。しかも中盤にはこの暗部が示唆されてしまうため、まったく意外性がありません。
ラストもラスト、エピローグで示唆される「ある真相」も話のフォーマット上当たり前すぎて全然意外ではありません。金田一耕助シリーズでは何度も繰り返されてきた「真相」ですし、「金田一少年の事件簿」ですらオマージュとしてやっているほど典型的なお約束です。
【まとめ】
決して目新しい作品ではありませんし、傑作というほど凄い事をやっているわけでもありません。しかし、古典的なストーリーをきちんと飽きずに見せるという演出上のポイントは非常に上手にクリアしています。火曜サスペンスを見るような感覚で気軽に見に行くと、大変愉快な160分を過ごせると思います。大絶賛は難しいですが、十分にオススメできるサスペンス映画だと思いました。オススメです。