THE WAVE

THE WAVE

2008年のドイツNo.1ヒット映画「THE WAVE (Die Welle)」を見てきました。
評価:(75/100点) -簡潔にまとめた「集団の隆盛」


<あらすじ>
短大出の体育教師ライナー・ヴェンゲルは、社会科の一週間実習で「独裁」のクラスを受け持つことになる。彼は一週間を使って生徒たちに自分への敬意とクラスの連帯感を持つよう洗脳を施していく。しかし、この「ヴェルレ(波)」と名付けられたクラスは、授業の枠を飛び越えて組織的な行動を起こすようになっていった、、、。
<三幕構成>
第1幕 -> 生徒の日常とヴェンゲルの鬱屈。
 ※第1ターニングポイント -> 独裁の授業にて実習を開始する。
第2幕 -> 「ヴェルレ」の成立とエスカレートする行動
 ※第2ターニングポイント -> 金曜の水球大会での乱闘騒ぎ
第3幕 -> 土曜日の「ヴェルレ」最後の集会


<感想>
非常にスリリングで非常に楽しめるすばらしい作品です。わずか100分で、ある無邪気な集団が誕生してからそれが拡大して危険性を帯びるまでを描ききっています。
■ 本作の概要
本作はドイツ映画で独裁を扱うというチャレンジを行っています。世界中の人がドイツと独裁という単語でナチスを思い浮かべるでしょう。本作はその起こりから栄えるまでを非常に簡潔に描いています。
冒頭、同じ学年という以外ろくに接点の無い子供たちが、「ハイル・ヴェンゲル」という忠誠の言葉と「行進(=行動の一体化)」や「制服(=衣装の統一)」を通じて、連帯意識を高めていきます。そしてその「裏切らない仲間」は人間関係に悩みを持つ子供たちにとってかけがえの無い存在になっていきます。いつしかその組織自体にアイデンティティを求めるようになり、それを誇示し、それを維持するために躍起になり、行動はどんどんエスカレートしていきます。そして解散を告げられた日、ついにはそのアイデンティティ・クライシスに耐えきれずに自殺する人間が出てきます。
■ 「ヴェルレ」という組織
「独裁(Autocracy)」という単語を使用していますが、この「ヴェルレ」においては指導者としてのヴェンゲル先生とは無関係に生徒たちが自発的に暴走していきます。その意味では「カルト宗教」や「秘密結社」と思って見た方がわかりやすいかもしれません。「仲間はずれになりたくない」というごく自然な心理が次第に強烈なアイデンティティと行動力を伴って暴走していく点に本作の怖さがあります。さくっと100分にまとめるためにだいぶ省略はされていますが、おそらく誰しもが「どこからヴェルレが危険集団になったのか?」と聞かれると戸惑うと思います。理論的な段階を踏んで、単なるお遊びクラスが危険集団にゆっくりとモーフィングされていくからです。ですから、本作でヴェルレ内部から問題提起は起こりません。唯一最終盤でマルコから異論が出ますが、彼も「恋人・カロを殴ってしまったことでふと目が覚めた」という描写がなされます。活動が短期間ということもありますが、いわゆる内ゲバのような内部抗争はおこらずに一枚岩の組織を貫きます。そしてこの集団に率先して心酔していくのがティムです。
ティムは家庭の事情とその性格から、友達がほとんどいない「クラスで浮いた存在」として描かれます。そしてだからこそ、最も集団に心酔し、自主的に取り込まれ、そして解散の際に発狂します。これはまったく特殊なことではありません。こういった集団では当たり前に起こりうることです。本作のおもしろさは、突拍子もない展開を混ぜながらも、しかし根底の流れはまったく自然であることです。実際にあってもおかしくないと思えるだけの理詰めがきちんとなされています。それがより一層、人間の理性や価値観の脆さを際立たせています。
■ Autocracy(独裁or専制)について
金曜日の授業で、ヴェンゲルは生徒たちにヴェルレについての意見レポートを書かせます。そこには画一的であることの安心と連帯と、そして強い帰属意識が記されています。すなわちこの危険集団に所属する子供たちは、確実に幸せを感じているんです。これが本作の鍵となる部分です。彼らのコミュニティは少なくとも内部に居る限り居心地がよく安全です。だから、彼らにとってAutocracyは全く悪ではありません。おそらく一般論としても「Autocracyは悪か?」という問いは皆さん困ると思います。「周りに迷惑をかけなければ、本人が幸せなら別に良いのでは?」と思わせられます。落書き等の犯罪行為を行いながらも、本作でヴェルレは悪としては描かれていません。とても怖い話です。
<まとめ>
とてもよく練られている構成で文句のつけようもありません。独裁・選民集団というテーマをものすごく簡略化してわかりやすくまとめています。
是非、皆さんも劇場で見てください。可能であれば高校の倫理の授業か何かで流すと大変おもしろいと思います。果たして日本の学生は集団にアイデンティティを求めるんでしょうか?引きこもりが多い点からも集団に帰属しない気もしますが(笑)、反応はとても興味深いです。
ということで、オススメです。良作なので公開館数増やしてください!

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