トロン:レガシー

トロン:レガシー

金曜のレイトショーは川崎109のIMAXで

「トロン:レガシー」を見て来ました。

評価:(50/100点) – 嫌いじゃないけどかなり単調。


【あらすじ】

デリンジャーからスペースパラノイドの権利を奪還し出世街道にのったケヴィン・フリンはエンコム社のCEOとなった。しかしその数年後、ケヴィンは息子のサムに「明日ゲームセンターへ行こう。」と約束して仕事へ向かったのを最後に消息を絶ってしまう。
それから20年後、エンコム社の大株主でありながら自堕落に過ごすサムの元に父の盟友アランが顔をだす。アランはケヴィンから預かったポケベルに着信があったことを告げ、サムにケヴィンがかつて経営していたゲームセンターに行くよう説得する。サムがゲームセンターへ行くと、そこには隠し通路があった、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> エンコム社への侵入
 ※第1ターニングポイント -> サムがグリッドへ行く。
第2幕 -> サム達の旅。
 ※第2ターニングポイント -> サムがケヴィンのディスクを奪い返す。
第3幕 -> 結末


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【感想】

今秋の金曜新作レイトショーは往年の珍作SF映画「トロン」の続編、「トロン:レガシー」です。ロビン・フッドと並ぶお正月大作映画ということもあって、レイトにも関わらず川崎IMAXはチケット完売でした。久々に完全に埋まった劇場です。

前作「トロン」とその影響

本当にいまさらなんですが、一応のおさらいということでさらっと書いてしまいます。1982年に公開された「トロン」は興行的にはコケました。偶然コンピュータの中に入ってしまったフリンが、その世界の独裁者を倒し”ある証拠”を探すために、盟友トロンと共に戦います。かなり一本調子な話なので面白いかと言われると微妙ですが、特筆すべきはそのアイデアです。それは「コンピュータの中に入る」という部分と「コンピュータ内のデジタル世界を擬人化する」という部分です。透過光エフェクトのような蛍光灯のような独特なレトロSFテイストのアニメで合成された服は、まさに「センス・オブ・ワンダー」という名前がぴったりなワクワクを誘います。今見ると非常にショボいCG風景も、コンピューター内部の表現としては大変刺激的です。そしてなによりテンションが上がるのがライトサイクル戦です。コンピューターゲームをそのまま映像化したシーンは、まさにCG映画かくあるべしという素晴らしい物でした。
そしてこの2つのアイデアはその後「ニューロマンサー(1984)」、「攻殻機動隊(原作1991年)」と受け継がれ、さらにその影響下で「マトリックス(1999年)」が誕生し、それがさらに影響して今年の「インセプション」まで繋がります。「何かに入ってしまう」という類の作品は「ネバーエンディング・ストーリー(原作1979年)」や「ナルニア国物語(原作1950年)」のようなファンタジー色の強いものが多かったのですが、「トロン」のガジェット的な格好良さと相まって、一気にSFのトレンドの一つとなりました。もちろんアシモフの「ミクロの決死圏(1966)」のようなSFもあるにはありましたが、SFでありながらもファンタジーよりの描画になっています。コテコテのSFとして「トロン」は間違いなくエポックメイキングな作品でした。面白さは別にしてですけれど(苦笑)。ちなみに私は作品としてはともかくガジェットや世界観だけはかなり好きです。始めて見てから20年近く経っていますが、今でもちょくちょく見直しています。

本作のお祭り感とがっかりポイント

ここからが本題です。「トロン」という作品はCG表現のエポックメイキングとして確固たるブランド力を持っています。その続編を今作ると聞いた時点で、やはりSFファンとしては「3D表現のエポックメイキング」を期待するわけです。予告で見せる電脳世界や光るディスクはそれだけで十分にワクワクさせるものでした。
しかし、、、結果としてはまったくエポックメイキングが出来ていません。それどころか、3Dの意味すらほとんどないような演出が散見します。
本作で最も3Dを演出として利用しているのは、サムがグリッドに入る話の展開点です。そこまでの現実世界は2Dで描かれているのに対して、グリッドに入ると急に世界が3Dで広がります。これは「オズの魔法使い(1939)」でオズの国に行くとそれまで白黒だった画面がカラフルになるのと同じです。古典的な演出ではありますが、3D映画としては至極まっとうな使い方だと思います。事実、開始から1時間ぐらいは大いに楽しめます。ディスク戦、ライトサイクル戦、そして父との再会。旧作のファンならば燃えないわけがありません。
ところが、ここから先、驚くほど単調な世界と単調なストーリーになります。ただひたすら黒に蛍光白・蛍光赤が入るだけの世界。そして出口を目指すという一本調子なストーリー。ケヴィンはただの「オビワンっぽい賢者(=メンター)」として万能感を見せつけ、敵のボス・クルーはボスとは思えぬ軽さで最前線に飛び出し続けます。途中これでもかと言うほど他作品のパロディを入れ続け、あげくラストでは「そんな力があるなら最初から使えよ!!」というチート行為でもって難局を打破します。そして極めつけは前作の準主役・トロンの扱いの軽さです。本当に誰得としか言えないほどひどい扱いです。

【まとめ】

全体的には、前半の最高に楽しい60分を後半の酷いとしかいいようが無い60分で帳消しにしてしまった感じです。つまりフラットな50点というよりは、前半100点と後半0点で相殺の50点ですw そう考えると東京国際映画祭で本作の前半30分だけを先行上映したのは大正解です。
ちなみに、IMAXには本作は大変よく合っています。重低音で本当に椅子が揺れますから、グリッドに入った直後に陸橋みたいな輸送機が降りてくるシーンは迫力満点です。
また、ダフト・パンクのBGMもかなり良く出来ています。本人達もちゃっかりカメオ出演していますので、そういった見せ場も楽しみに劇場に足を運ぶのは手だと思います。ヒロインもオリエンタル感があって本当可愛いですし。
諸々の条件が揃っていただけに「惜しい」という言葉がどうしても頭から離れません。

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エクスペリメント

エクスペリメント

12月に入ってようやく初映画です。
今日は

エクスペリメント」を観て来ました。

評価:(25/100点) – 何故リメイクしたか分からないほどes[エス]にほど遠い。


【あらすじ】

老人ホームで働いていたトラヴィスはある日リストラされてしまう。若くして職にあぶれた彼は反戦デモの最中に知り合った女性と恋に落ちるが、彼女は理想を求めてインドで暮らすと言い出してしまう。インドへ行く資金を稼ぐため、彼は新聞広告にのっていた高額なアルバイトに募集する。それは一週間「心理的実験」の被験者となるものであった、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> トラヴィスとベイの出会い。
 ※第1ターニングポイント -> 心理実験が始まる。
第2幕 -> バリスの暴走とトラヴィスの反抗。
 ※第2ターニングポイント -> トラヴィスがカメラに実験終了をアピールする。
第3幕 -> 囚人役の決起。


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【感想】

ようやっと仕事に一段落つきまして、本日は「エクスペリメント」を見て来ました。公開から少し経っているからか、お客さんはほとんど入っていませんでした。

本作の作品位置と概要

本作は1971年のスタンフォード監獄実験を元にした作品です。とかいうと分かりにくいですが、早い話が2001年のドイツ映画「es[エス]」のハリウッドリメイク作品です。es[エス]のオリジナルタイトルも「Das Experiment(The Experiment)」でしたから、完全に同一タイトルでのリメイクとなります。

概要はほぼ同じですが、作品のタッチはかなり変更が加えられています。

オリジナルの「es」はどちらかというとサスペンスよりの作品でした。主人公のタレクはあらかじめ何が行われるかを知った上で取材と好奇心で実験に参加します。ところが本作のトラヴィスはまったく知らない状態でお金を手っ取り早く稼ぐために参加します。そのため、本作では一幕目を丸々使ってかなりどうでもいいトラヴィスのラブロマンスが展開されます。もちろん「反戦活動をしていた男が最後にはみずから戦争を始める」という痛烈な揶揄にはなっているんですが、作品を始めるにあたっての非常に事務的な説明パートですのでかなり退屈はしてしまいます。この退屈な部分を乗り切ると、ようやく本題となる監獄実験が始まります。始まるんですが、、、、はっきりいいますと、この監獄実験がかなり変な味付けになってしまっているように感じました。
というのも、実験開始早々のフラッシュバックで、ウィテカー演じるバリスがかなり母親に虐げられていて且つ厳格なキリスト教義に抑圧されているという描写が入ってくるためです。彼は看守という「支配者」を演じることで、そういった抑圧されたストレスフルな状態から現実逃避して自己実現を果たしていきます。

ちょっとここでそもそもの「スタンフォード監獄実験」に立ち返りましょう。スタンフォード監獄実験は心理学者のフィリップ・ジンバルドーが一般人21人を看守役と囚人役に分けてスタンフォード大学の地下に作った摸擬監獄に隔離したものです。結果、看守役による囚人役への暴行がはじまり、囚人役も被害妄想や精神的な錯乱を見せるようになっていきます。人道的にかなり無茶苦茶な実験ですが、この実験の肝は「普通の人でも特殊な環境下に入れられると”かくあるべし”というロールプレイを始める」ということです。

本作におけるバリスは「特殊な環境下だからロールプレイを始めた」のでは無く、日常の抑圧から解放されたために暴走していきます。なのでエンターテイメントのモンスターとしては申し分ないのですが、そもそものソリッドシチュエーションからは大分はずれてしまっています。それはトラヴィスも同じです。彼が囚人側のリーダーになっていく課程が全く描かれないため、「主人公だから」という理由以外に彼のカリスマ性を裏付ける根拠がありません。囚人側のキャラクターがほとんど立っていないという部分と相まって、かなり残念な感じになっています。またそれとは別に、そもそもソリッドシチュエーションなのに最低限のルールが守られていないという致命的な問題があります。

本作では厳密に規定されたルールが3つあります。一つは暴力行為の禁止。もう一つは囚人側への「相応の罰則」の行使。最後に、一人でも離脱意志がある場合の即時中止です。
そしてこの3つはまったく守られません。ですから「実はルールが存在しない(=実は監視者側のブラフであり実験の一貫)」というのが本当のルールなんです。
ところが、、、、恐ろしい事にこの3つのルールは最後の最後に中途半端に守られます。「人が死んでも止めないのに馬乗りで殴ると止める」というのがまったく意味不明です。この最後の赤ランプですべてが台無しです。しかも赤ランプがついているのに本作では報酬がきちんとでています。

この手のゲーム型ソリッドシチュエーションの場合、最初に決めたルールを守るのは大前提です。もちろんどんでん返しとしてルールをひっくり返すのは有りですが、いきなり最初から無視したあげくに中途半端に適用するというのはいくらなんでも酷すぎます。最後の赤ランプがついた瞬間にそこまで比較的楽しめていた時間が一気に冷めました。

【まとめ】

たしかにこの手の映画を映画館で見るのは楽しいんですが、さすがにこれですとDVDで「es[エス]」を見た方が良いと思います。アメリカでは9月にDVDが出ているタイトルですので、日本でも少しまでばすぐに出るかと思います。ジャンル好きな方は止めませんが、ふらっと入って見るには少々厳しい内容だと感じました。DVDを待って、エスと本作を2本立てで見比べてみるのも面白いかも知れません。
余談として、日本の宣伝はかなり「インシテミル」を意識しているようですが、さすがに「インシテミル」と比べれば本作の方が5億倍マシですw

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デイブレイカー

デイブレイカー

日曜の二本目は

デイブレイカー」です。

評価:(55/100点) – ジャンル映画としては相当良い感じ。


【あらすじ】

世界の大半をヴァンパイアが占めた世界。人間の絶滅が危惧され、ヴァンパイア達は血に飢えていた。代替血液の研究を行うエドワードはある日帰宅途中に逃走する人間達をかばったことから一転、反ヴァンパイアのレジスタンスに引き入れられる。レジスタンスの頭領・コーマックはヴァンパイアから人間に戻ったと言い、その再現方法を研究していた、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> エドワードと会社と弟。
 ※第1ターニングポイント -> エドワードがレジスタンスに引き入れられる。
第2幕 -> ブロムリー・マークス社の人間狩り。
 ※第2ターニングポイント -> エドワードが人間に戻る
第3幕 -> ブロムリー・マークス社への潜入


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【感想】

11月28日の二本目はデイブレイカーです。こちらも東京国際映画祭で先行上映していましたが、TIFFでは未見でした。夕方の回で見たのですが、結構お客さんが入っていて驚きました。大抵こういう作品はおじさんと好き者ばっかりなんですが、以外とカップル客も来ていました。
実は12月に入ってから仕事で徹夜が続いていまして、すでにあんまり良く覚えていませんw なのでメモを頼りにさっくりと書きたいと思います。
本作は、ジャンルムービー的なお約束もまぜつつ新しいアイデアも盛り込みつつ、バランスが結構良いなという印象です。最近よくあるヴァンパイアものですと、「ヴァンパイアが人間とのギャップと怪物性に苦悩する」というタイプの作品が多く見られます。「ぼくのエリ」しかり、「渇き」しかり。本作の場合、極端な事をいってしまえば、作品内でヴァンパイアがヴァンパイアである必然はありません。というか、作品全体が「搾取する側・される側」の構造になっていて、非常に意図的に社会問題をつっこんできています。あくまでもヴァンパイアは体制側の暗喩として使われています。
というと退屈そうに聞こえますが、実際に見てみるとこれが結構乗れます。というのも、所々に挟まれるゴア描写によってジャンルムービーとしてのサービスをきっちり入れてくるからです。共同監督のスピエリッグ兄弟はかなり演出が上手いです。間の引っ張り方や長回しのアクションシーンで、そこまでエキサイティングな内容では無いシーンでも十分に引きつけてきます。
もちろん役者陣に演技派を揃えているからでもあるのですが、ジャンルムービーとしてはかなりの出来だと思います。
アイデアをテンコ盛りにしたディストピア・ヴァンパイアムービーという変なジャンルの作品として、結構画期的ではないでしょうか? この手のやり方は今後定番化していくような気もします。ということで、まぁDVDでも十分かなとは思いつつ、そこそこオススメな作品でした。
余談ですが、ポスターのいかにも近未来SFっぽいデザインに反して中身は結構ゴアです。あんまりデートでは行かない方が良いと思いますw

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怪盗グルーの月泥棒 3D

怪盗グルーの月泥棒 3D

日曜日は2本。1本目は

怪盗グルーの月泥棒 3D」をみました。

評価:(50/100点) – 安心して見れる幼児向け3Dアニメ


【あらすじ】

怪盗グルーは年齢とともに落ち目を迎えていた。そんなある日、彼はTVニュースでピラミッドが盗まれたと知る。グルーはこの偉業に遅れをとるまいとして、史上最大の大泥棒を計画する。彼のターゲットは宇宙に浮かぶ月だった、、、。


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【感想】

先週の日曜は「怪盗グルーの月泥棒 3D」を見て来ました。公開から結構たっていましたので、お客さんの入りも少なく、子供連れもいませんでした。
本作はユニバーサル初の3Dアニメと銘打っています。いますが、、、、正直に言うと、3Dという部分についてはかなりありきたりな使い方しかしていません。予告でジェットコースターの場面がありますが、まさにその場面が最も3D効果を感じます。逆に言えばそれ以外はあまり3Dの意味はありません。
本作はドリームワークス的な毒っ気もなければピクサー的な完成度もありません。非常にベタで教育的な内容の「大人が見せたい子供向けアニメ」です。ですので、決して手放しで褒めるような作品では無いと思います。序盤のピラミッドのシーンから、この作品ではどんなに酷い事がおきても人が傷つかないのはあきらかですし、なにより真の意味での「悪人」は出てきません。ベクターもあくまでコメディ内での「嫌な奴」であり、ナードで嫌味な男以上ではありません。原題は「Despicable Me」=「どうしようもない僕」ですが、グルー自身はそこまで卑劣漢という感じでは無く、むしろ若い才能に突き上げられる中年男の悲哀がメインに描かれます。
ですので、本作は非常に安心して見ることが出来ます。ワクワクできないと言っても良いんですが(苦笑)、ベタな展開を無難にこなしているという印象が強いです。もう公開規模もかなり小さくなっていますが、もし時間が空いていれば見てみても良いかも知れません。アメリカでは夏休み映画として5億ドルを越えるものすごいヒットを記録していますが、あんまりそこまで騒ぐほどでは無いように思いました。

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REDLINE

REDLINE

今日の2本目は

「REDLINE」です。

評価:(20/100点) – 頑張ったのは分かるけど、、、。


【あらすじ】

宇宙を巻き込んだ超人気グランプリ・カーレース「RED LINE」。その予選最終戦「YELLOW LINE」でJPは愛機・トランザムを駆使して優勝を狙っていた。しかし最終の直線にトップで入ったトランザムは、ターボエンジンの酷使により車体が瓦解してしまい、優勝をソノシー・マクラーレンに奪われてしまう。車体はバラバラになり自身も大怪我を負ったJPだったが、入院先の病院で突如決勝戦への補欠出場が告げられる。決勝戦「RED LINE」の舞台はTV視聴者によりロボワールドに決定した。しかしロボワールドは軍事政権の荒廃した国家で、「RED LINE」の受け入れを拒否する、、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> YELLOW LINE。
 ※第1ターニングポイント -> JPの補欠出場が決定する。
第2幕 -> JPとソノシー。
 ※第2ターニングポイント -> RED LINEがスタートする。
第3幕 -> RED LINE。


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【感想】

本日の二本目は「RED LINE」です。木村拓哉と蒼井優をメインに起用して一般受けをアピールしていましたが、観客は非常に少なく、しかも一人で見に来ているアニメオタク風の客しかいませんでした。完全に芸能人起用が失敗しています。
本作は制作7年をかけており文化庁の助成金まで出ています。所謂「輸出産業としてのアニメ」を狙って作られた意欲作です。その割にというとあれですが、キャラクターデザインはもろにアメコミ調ですし、影を黒ベタでつぶしたりするのもアメコミの特徴です。
こういったレースもののアニメ作品は過去にも相当数あります。ただ、直接的に連想されるのは近年の「マッハGoGoGo」実写版とゲームの「マリオカート」です。
本作には話の軸が二本あります。一つは「REDLINE」のレースとそれに伴うJPとソノシーのロマンスで、もう一つはREDLINE運営委員会とロボワールド政府の対決です。実際に見てみると、本作は実は後者のボリュームが大きくなってしまっています。話としては「かつて一目惚れした少女に再会した純情男の奮起」が軸になっていますが、こちらのボリュームと積み重ねが圧倒的に足りません。一応、JPとソノシーが決定的にくっつくシーンが一目惚れの回想と同じ構図になっていたり丁寧に作ってはいますが、サイドストーリーのはずのロボワールド政治がらみが五月蠅すぎて全然集中出来ません。
実は本作で一番がっかりする部分というのはまさにメインであるべきレース部分です。つまり、せっかくの「カーレース・アニメ」なのに「カーレース」自体になんの説得力もカタルシスも無いんです。みんな怖い顔して「うぉ~~~!!!!!!」とか唸ってるだけで、テクニカルな描写が一切出てきません。カーレースっていうよりも「しかめっつら根性大会」です。だから、何故JPが速いのかという一番重要な部分が抜けているんです。もちろん特殊エンジンの描写等はありますが、でもそれは鉄仁だって似たようなものなわけで決定打にはなりません。もちろん動画の「溜め」だけは効果的に使っていますから、見ていて手に力が入るのは間違いないです。ただ、本作にはそれしかありません。ダサい絵面と繰り返される「車体が伸びるほどの溜め」を使った根性描写だけです。
純粋にアニメの動画という意味では本当にすばらしく高レベルだとは思いますが、作品としては非常に低空飛行です。また、せっかくの動画もカット割りが細かすぎるため、空間把握(位置関係の想像)がとても困難です。イマジナリーラインもじゃんじゃん越えてきますw
ということで、動画の技術論が大好きな方にはうってつけの教材ですが、映画としてはかなりどうかと思う出来でした。
余談ですが、業界にいますとマッドハウスのヤバい話は結構頻繁に聞こえてきます。20点は頑張って欲しいなという個人的な思いを入れてのご祝儀点ですw

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七瀬ふたたび

七瀬ふたたび

今日は注目作二本です。1本目は

七瀬ふたたび」を見ました。

評価:(80/100点) – ラストの賛否が分かれそうだが、これはこれで。


【あらすじ】

火田七瀬は他人の心の中を読むテレパスである。七瀬はマカオからの帰りに空港で狙撃される。さらにホテルで岩淵からのコンタクトを受けた七瀬は、忠告に従って行動するも、友人の瑠璃を目の前で謎の男に殺されてしまう。命からがら北海道の隠れ家に戻った七瀬だったが、そこにも追っ手が迫ってきていた、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 七瀬と瑠璃。
 ※第1ターニングポイント -> 瑠璃が殺される。
第2幕 -> 隠れ家での生活と追っ手。
 ※第2ターニングポイント -> ノリオが連れ去られる。
第3幕 -> 狩谷との対決。


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【感想】

本日の1本目は、ご存じ筒井康隆の七瀬三部作の二作目「七瀬ふたたび」です。中年男性を中心にそこそこお客さんは入っていました。どうせなら「家族八景」からやって欲しいのですが、三部作の中では一番派手でエンタメよりな本作は映像化しやすいということだと思います。「家族八景」を知らない人には何が「ふたたび」なのか分からない気もするんですが、まぁ「七瀬~」を見に来てる時点で「どうせ原作ファン」という割り切りでしょうか。
監督はホラー・特撮で有名な小中和哉さん。脚本は平成ガメラや劇場版のパトレイバーでお馴染みの伊藤和典さんです。二人ともその筋では完全な大御所でして、70年代SFの映画化にはこれ以上ない人選です。

おさらいと役者陣のハマりっぷり。

「七瀬ふたたび」は過去にも数回映像化されています。私はあいにくと多岐川裕美版(NHK少年ドラマ)と一昨年の蓮佛美沙子版(NHKドラマ8)しか見ていないのですが、どちらも原作からはかなり変えられていました。
一応三部作のおさらいです。一作目「家族八景」で七瀬は18歳にして家政婦として住み込みで働いています。そして色々な家庭を転々としながら、様々に「表面を取り繕った家族」達を観察していきます。ここで七瀬は人間の汚い部分を嫌と言うほど見ることになります。そして二作目の「七瀬ふたたび」で、嫌気がさした七瀬は家政婦を辞め、人目を避けて田舎へ行こうとします。その途中で自分と似たような超能力者達と出会いますが、謎の組織によって仲間もろとも殺されてしまいます。三作目の「エディプスの恋人」では何故か殺されたはずの七瀬は学校の事務のお姉さんとして登場します。そして謎の少年・智広と出会い、彼女は遂に超常的な存在へとなっていきます。
というように、この七瀬三部作は「表面的に取り繕った家族」→「超能力アクション」→「精神世界」と舞台をガラっと変えていくわけです。なんでこんなに全然違う話なのにシリーズになっているかと言えば、それはもう間違いなく「火田七瀬」という強烈なヒロインの魅力故に他なりません。
そして特に「七瀬ふたたび」を映像化するには、七瀬のカリスマ性と圧倒的な絶望/達観の表現が絶対に必要です。
もう長いこと愛されてきた原作シリーズですので、当然ファンの方々の中にはそれぞれの「七瀬像」が出来てしまっていると思います。「家族八景」が好きな人はおっちょこちょいでミーハーだけど気の強い彼女を想像するでしょうし、「七瀬ふたたび」が好きな人は苦悩するクールビューティーを想像するでしょう。こればっかりは古典である以上は仕方が無いです。
で、肝心の本作ですが、私は芦名星さんは相当はまっていると思いました。ちょっとタラコ唇で困った感じの顔だったり、印象が悪くならない程度に無愛想な感じがすごく七瀬の印象と合っていました。すごい良い感じです。「KING GAME」の時とは大違いw そして岩淵役の田中圭さんも不器用でヘタレな田舎者っぽさが上手く出ていました。岩淵の妄想を七瀬がのぞいてしまうシーンが無いのは噴飯ものですが、それが無くても「こいつムッツリスケベだぞ」という雰囲気が十二分にでていましたので合格ですw ノリオ役の今井悠貴くんはきちんと「ませガキ」に見えていましたし、刑事役の平泉さんも類型的ではありますがサスペンスものの刑事として十分好演していました。正直ダンテ・カーヴァーは演技以前の問題ですし、佐藤江梨子さんもちょっと役に対してギャルっぽい軽さが目立ちましたが、役者陣は概ね良い感じにハマっていました。

ストーリー部分の上手いまとめ方。

本作はかなり原作に忠実ですが、一方で変えるところは結構思い切って変えています。
一番変更して成功だと思うのは、超能力者達が集まる部分を回想で済ませてしまう所です。本作は原作そのままで映像化すると、仲間集めの課程が前半を占め、後半から組織との戦いになります。でも本作の場合、いきなり狙撃されるところから始まり、それをフックにして組織から逃げる部分が大半を占めます。この構成変更はかなり成功しているとおもいます。おかげで中だるみが少なく、高いテンションのままで最後まで突っ走ることが出来ます。そのぶん七瀬と岩淵の関係がかなりばっさりと省略されているのですが、本作だけを見ればそこが「超能力者ゆえの一瞬の邂逅・同調」という「アムロとララァ」に通じるような話に見えますので、それはそれでOKです。
ただ、、、、ただ、、、やはり賛否が分かれそうなのはラストの扱いだと思います。原作ファンにとっては蛇足ともとられかねないラスト5分の展開は、どうにも陳腐に見えてしまいます。ですがニコラス・ケイジの「NEXT」ほど唐突な感じではなく、きっちり伏線を張ってはいますから映画単体としてみればこれはこれで良いかなとは思います。ただ、この展開にすると当然「エディプスの恋人」は同一キャストで映画化出来ません。そこがちょっと引っ掛かるというか、もっと芦名星の七瀬を見たかったというのが率直な感想です。それぐらいハマリ役だったのに、、、。
それとこれはもう邦画のお約束ですが、やっぱり本作もCGがショボイ事になっています。特に七瀬が空を飛ぶシーンのなんともいえない合成感はかなりキテます。とはいえ原作が古いので、これも80年代風のブルーバック合成だと思えばそこまで引っかかりはしません。ちょっと好意的に見すぎでしょうかw
また同じCGを使った場面でも、七瀬が心を読むシーンの表現は結構上手く乗り切ったと思います。

【まとめ】

原作が好きすぎて甘くなっている部分も多々ありますが、かなり良い作品だったと思います。細かい粗はあるものの、それを気にする暇もないくらいテンション高く畳みかけてきますので、それほど気にはなりません。十分にオススメできる作品だと思います。
一応、本編前に流れる中川翔子・初監督の短編にも触れておきましょう。カメラフレームが変な部分はあったのですが(とくに神社のシーン)、全体的には結構そつなくこなしたように思います。とはいえ、ポーカー中に心を読むシーンは「カイジ」ばりにダサい演出でした。こういう漫画的な感じが好きなのは凄く良くわかるのですが、これを見たときにすっごい本編が不安になったのも事実ですw にごり水に色水を垂らすイメージ映像など、ちょっと雰囲気だけの危ない方向に流れそうな傾向が見えましたので、もし次に監督をすることがあれば気を付けてもらえるともっとフェティッシュが全面にでてくるかなと思います。。

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インセプション(超ネタバレ)

インセプション(超ネタバレ)

式公開から1週間経ってるわけですが、インセプションが「良く分からん」という声が随所から聞こえてきます。そこで、えいやと思い立って超ネタバレなタイムラインを書きましたw
下記の画像が後半というか第3幕の目玉「インセプション作戦」のタイムラインになります。2回見たのでたぶんあってると思うんですが、間違ってたらすみません。
特に3層~4層は本作で一番ツッコミ所が多くかつ混乱する所ですので、人それぞれで解釈が違う可能性があります
※「インセプション」はギミックだけの映画で内容はあまりありません。そしてノーランの演出が下手なためこのような混乱が起きていますw ネタバレは著しく作品の価値を損ないますので、鑑賞後にご覧いただくか、絶対映画館で見る気が無い人だけご覧ください。
クリックすると拡大します。
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レポゼッション・メン

レポゼッション・メン

2本目は

「レポゼッション・メン」です。

評価:(65/100点) – フィリップ・K・ディック風の未来世紀ブラジル


【あらすじ】

2025年、人々はユニオン社の人工臓器によって、もはや臓器移植の順番待ちをする必要がなくなっていた。その一方で、ユニオン社は高額な人工臓器をローンで購入させ、返済を滞納した者から、回収人(レポ・メン)を使って人工臓器の没収をしていた。
ユニオンに務めるやり手回収人のレミーは、ある日回収の途中で除細動器が暴発し心臓を焼き切られてしまう。目覚めたレミーにはユニオン社の人工心臓を移植する以外生きる道が残されていなかった。人工臓器を使う側になって初めて、レミーは回収人の仕事が人殺しであると気付き、足を洗おうとする。しかし、人工心臓のローンが払えずに回収人に負われる立場となってしまう、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> レミーの回収
 ※第1ターニングポイント -> レミーが人工心臓を移植する。
第2幕 -> 追われるレミー
 ※第2ターニングポイント -> レミーがジェイクに襲撃される。
第3幕 -> ユニオン社本部への潜入


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【感想】

今日の2本目は「レポゼッション・メン」です。近未来を舞台に、ある企業のプロフェッショナルが自ら企業と対立する立場になって結局は、、、というそのまんまフィリップ・K・ディックが書きそうなディストピアSFの小品です。
この手のプロフェッショナルがアイデンティティクライシスを起こす話は、SFでは定番中の定番です。そんでもってミステリアスな美女と出会って協力関係になるのもお約束です。余談ですが、この美女・ベス役のアリシー・ブラガは先週見たザ・プレデターズでもヒロインを好演しており、アクションSFでは今後大いに活躍が期待される女優さんです。是非名前を覚えておきましょう。
なんかあんまり詳しく書くとネタバレになりそうなんですが、要は「未来世紀ブラジル」のオリジナル版と話は一緒です。主要登場人物はわずかに4人だけですし、別に凝った話でもありません。ただ、いまさら感よりは「未来世紀ブラジル」をポップに焼き直した佳作という印象です。決して手放しで褒められる作品ではないですしオリジナリティもありませんが、ジャンルムービーとしてはかなり上手く纏まっていると思います。あとはジュード・ロウvsサラリーマン軍団という爆笑必至の名アクションシーンを楽しむだけの映画ですw
特に後半は話が適当過ぎてアラが目立つんですが、それもわざとで済ませられる都合の良いオチが待っていますので、腑に落ちないものの諦めがつきます。
決して一般受けするような作品ではありませんが、SF好きならとりあえず押さえておいて損はない作品でした。でもレンタルDVDで十分な気もしますw

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