イップ・マン 葉問

イップ・マン 葉問

本日はアクション映画2本です。いぇ~~~い!!!
1本目は

イップ・マン2(葉問2/宗師傳奇)」です!

評価:(95/100点) -「ロッキー4/炎の友情」を再び!!!


【あらすじ】

日本兵から逃げ延びた葉問は、広東省から香港へと移り住んできた。独立系新聞の編集長である梁根を頼り場所を借りた葉問は、建物の屋上を利用して詠春拳の武館を開く。しかし弟子はまったく集まらない。
ある日、血気盛んに葉問に挑み掛かってきた黄梁を倒すと、彼は弟子入りを志願してくる。一番弟子となった黄梁は友人達を次々と紹介し、やがて葉問の武館はそれなりの規模になっていく。ところが香港の武館には組合があり、洪家拳武館の洪震南が全ての武館から上納金を集めて統治イギリス軍との仲介をおこなっていた、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 葉問が詠春拳武館を開く。
 ※第1ターニングポイント -> 黄梁の救出
第2幕 -> 葉問と洪震南とイギリス軍
 ※第2ターニングポイント -> 洪震南がツイスターと対決する。
第3幕 -> 葉問vsツイスター


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【感想】

本日の1本目は昨年大ヒットした香港映画「イップ・マン2」です。何故か日本では宣伝のリベロが「2」であることを微妙に隠していますが、歴とした「イップ・マン」の続編です。主演はご存じ香港アクション界2大スターの片割れドニー・イェンです。同級生のジェット・リーに比べて日本では不遇な扱いを受けていますが、間違いなく当代きってのスーパースターです。カンフー映画はあまりお客さんが入らない印象があるのですが今日は客席が7割方埋まっていました。とても素晴らしいことです。

私たちの目頭を熱くさせる漢同士の熱き友情

恥ずかしながら映画の後半は涙が止まらずに上手く見えていなかったのですが(苦笑)、本作は香港版「ロッキー4/炎の友情」といってもいいぐらい素晴らしい友情物語です。それはもちろんドニー・イェンとサモ・ハン・キンポーなわけです。方やジェントルマンとして知られ温和で頭も切れる詠春拳のイップ・マン。方や豪傑であり一見すると武館を仕切るヤクザのように見えながらも、実は誰よりも中国武術を愛するが故にイギリス軍の暴虐に耐え続ける洪家拳のハン・チュンナン。この二人が対立しながらも、そして決して表立って和解はしないながらも、お互いを認め合い静かに友情と信頼を深めていきます。その描写たるや本当にロッキーとアポロを彷彿とさせ、それだけで目頭が熱くなっていきますw
私達映画オタクの感覚からすれば(苦笑)、兄貴肌で傍若無人として知られるサモ・ハン・キンポーと、超ナルシストであるが故にジェントルマンなドニー・イェンという組み合わせが、そのまんまハン・チュンナンとイップ・マンに重なるわけです。それはつまり、香港アクション界の曲者スーパースター2人がきっと撮影中に幸せな時間を過ごしたのだろうという予感とともに、やっぱり目頭が熱くなりますw
そう。本作は完全に漢と書いて「おとこ」と読む漢人たちの繰り広げる、友情と誇りの物語です。本作に女・子供はイップとハンの家族以外はほとんど出てきません。その家族達も決戦の場には同席しません。漢達が自身と国家と民族の誇りを掛けて戦う場に、家族は不要です。あくまでも家族は「帰るべき場所」であり、誇りと尊厳は命をかけて守るべきものです。そのイップとハンの決意との対比として描かれるタイラー・ツイスターのなんとまぁ軽いことよ(苦笑)。
彼は絵に描いたような「調子コいてる嫌味な外人」像を存分に発揮し、同情の余地が無い完全なる悪として映画に華を添えます。前作で空手家・三浦将軍を演じた池内博之よりも明らかにマッチョなツイスターは、それだけで一目で分かるほど「細身vsマッチョ」「香港vsイギリス」「カンフーvsボクシング」「平和主義者vs荒くれ者」という対立構造を強調してきます。それがより一層、細身でちっちゃいドニー・イェンの凄みを引き出していきます。
本作において、ドニー・イェンは都合8回の対決で武術を披露します。最初の二回は素人相手のいわばデモンストレーション的な手合わせ。次の一度は本作内で唯一武器を使用する魚市場での2対多数の大乱闘。そして達人との三回の戦いと、ハンとの一騎打ち。最後に対ツイスター戦。最初から最後まで無敵の強さを見せながらも、ドニーの人間的な魅力と華麗さによって、ワクワクというよりは惚れ惚れとするアクションを披露してくれます。実は個人的な2010年ベスト10の隠れ4位がカンフー映画をパロディ的に脱構築した「ギャランツ~シニアドラゴン龍虎激闘」だったのですが、本作のようなド直球でハイレベルなカンフー映画を見せられると改めてその魅力というか凄みに恐れ入る気分です。やれアクション映画はもうタイの時代だなんだと言っていますが、私達にはまだドニー兄貴がいるんです!!!

【まとめ】

間違いなく香港アクション映画の歴史に残る名作です。五年後、十年後になっても間違いなくアクション映画の定番として長く見られることになるでしょう。こんな素晴らしい作品を映画館でやっているわけですから、これはもう行かないわけにはいきません。絶っっ対に損はしません。行っとくべきです。というか必須です。自信を持ってオススメできます。
カンフー最高!!!!!!!

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記事の評価
キック・アス

キック・アス

本日は満を持して

キック・アス」を見ました。

評価:(100/100点) – 男は思い立ち、調子に乗り、挫折し、決意を胸に真の英雄になる!!!


【あらすじ】

コミックオタクで冴えないデイヴ・リズースキーは思い立ち、ebayで買ったコスチュームと靴を身につけヒーロー・キックアスになった。彼はパトロール中に偶然遭遇した車上荒らし達を止めようとするが、返り討ちに会ったあげく、朦朧としたところを車に撥ねられて全身を骨折してしまう。しかしそんなことで彼のヒーロー熱は冷めなかった。神経麻痺により痛みを感じなくなった彼は、生まれ変わったヒーロー・キックアスver2としてギャング達に襲われた男を助け、一躍スターになる。
そんな彼はある日意中の彼女・ケイティからヤク中の男に付きまとわれていると相談を受ける。キックアスの衣装に身を包み、意気揚々と男のアジトへと向かうデイヴだったが、、、、。。

【三幕構成】

第1幕 -> キック・アスの誕生と挫折。
 ※第1ターニングポイント -> キック・アスが人気者になる。
第2幕 -> ビッグダディとヒットガール。
 ※第2ターニングポイント -> ビッグダディが殺される。
第3幕 -> 復讐。


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【感想】

本日のレイトショーは満を持して「キック・アス」です。マーヴェルのアイコン・レーベルから発売されたコミックスが原作ですが、連載当初から映画化を前提に作られていたため、どちらが原作というよりは同時制作のような形になっています。アメリカでの評判や9月の「第3回したまちコメディ映画祭in台東」での先行上映の大評判ぶりからか、連日TOHOシネマズ川崎ではソールドアウト状態でまったくチケットがとれなくなっています。今日もレイトショーだというのに一列目以外は完全に満席でした。

話の概略

本作は一応カテゴリとして「コメディ」となっていますが、笑える要素が多いというだけで内容自体はいたってシリアスかつ王道なヒーローものに仕上がっています。作中では何度もバットマンやスパイダーマンを意識した台詞が登場します。つまり、この作品内では現実の私たちと同じように「ヒーローもの」の映画やコミックがあって、そういった内容を前提とした上で「ヘタレなオタクが真のヒーローになるまで」を重たいテンションと残酷な描写と、そして時折混じる笑いによって手際よく描いて見せます。
本作の主人公・デイヴはごく平凡で冴えない学生です。彼は毎日オタク友達と漫画カフェに入り浸り、女友達もいなく、バカ話をして過ごしています。そんな彼がガッツだけでスーパーヒーローになっていくわけです。そこには当然血も流れますし、苦悩も経験します。悪者達を華麗で無邪気に殺すヒットガールを目の前にして、彼は恐怖し一度はヒーローになることを捨てようとします。しかし暴力の連鎖は止まらず、マフィアとビッグダディ達との抗争に嫌でも巻き込まれてしまい、ついには逃げられない状態にまで追い込まれます。当初気軽にヒーローを目指していた彼は、スパイダーマン・ピーター・パーカーの台詞である「力には責任が伴う」と言う言葉を引用し、「力が無くても責任はあるんだ」と考えるに至ります。そして平凡な彼は、精一杯の正義感と勇気でもって、ついには真の意味でスーパーヒロイン・ヒットガールの相棒になります。
この物語は、私たちと同じ平凡な人間が「ヒーローになりたい」という無邪気な夢から調子に乗ってしまったことで本物の復讐劇に巻き込まれ、やがては挫折や痛みを知って真のヒーローに生まれ変わるまでを軽やかで残虐で誠実に描きます。本作は英雄譚であり、そこにはマッチョもスーパーマンも超人も居ない、平凡な人間達のあがきと苦悩とそして最後に訪れる真のヒーローへのカタルシスが詰まった大傑作です。

原作グラフィックノベルについて

原作グラフィックノベルは小学館集英社プロダクションから邦訳版が出ています。2008年2月から2010年2月まで全8冊の小冊子で刊行されたコミックスをまとめたものです。実際にグラフィックノベルと映画を比較すると、プロットはほぼ一緒でもまったく内容・印象が異なる作りになっています。
グラフィックノベル版と映画版の決定的な違いは、デイヴの性格設定とビッグダディ達の動機付けの部分です。
グラフィックノベル版ではデイヴはギーク特有の嫌味で根暗な部分が前面に出てきます。グラフィックノベルにおけるデイヴは、正義のために立ち上がるというよりはむしろ名声や優越感のためにヒーローになりたがります。彼が明確に「正義」を意識して行動を起こす場面は、火事に遭遇する第5話の1カ所のみです。このため、全体を通して自虐的で選民的な、感じの悪いオタク少年の自己憐憫が中心になります。
そしてビッグダディの部分です。こちらは映画版とはまったく異なります。ビッグダディはただのコミックオタクであり、自身がヒーローになるために勝手にストーリーを妄想してギャングに突っかかっていきます。そしてその自分の夢に娘を巻き込みます。こちらの設定は本当に救いやカタルシスがありません。ビッグダディはダメ人間のままで死にますし、デイヴも流されるだけ流されて手ひどい目に遭います。ただ、唯一ヒットガールにとっては、「親の敵討ち」という父の妄想が現実になるわけで、そこでまさに漫画的なヒロインに”一瞬だけ”なります。しかしヒットガールは何を得るでもなく鬱屈した日常へと戻っていきます。
グラフィックノベル版におけるテーマを考えるとすれば、それは「ヒーローなんて居るはずがない」という現実と絶望であり、しかしその一方で時折奇跡的に「ヒーローになってしまう瞬間がある」という幻です。
一方、映画版においては作りがぐっとシンプルかつエンターテイメント寄りになっています。ビッグダディ達とフランク・ダミコ・ファミリーの抗争や因縁は本物ですし、その中でキックアスが右往左往して巻き込まれながらも真のヒーローへと成長するのも本当です。そしてヒーローもののお約束であるヒロインとのラブロマンスもあります。これは「整理した」というよりは「エンターテイメントとして再構成した」と言った方が近いかも知れません。原作ファンには「原作の鬱屈した感じが無い」と言われてしまうかも知れませんが、私は映画版のストーリーの方が好きです。

【まとめ】

全男子必見のヒーロー・ムービーです。冒頭のモノローグで「一度は考えたろう?スーパーヒーローになりたいって。」というデイヴのセリフがあります。そう、私たちは子供の頃には誰もがウルトラマンになりたかったし仮面ライダーになりたかったはずです。でも当然現実にはなれるわけもないですし、実際に悪党(※例えばヤクザ)を敵に回したらとんでもないことになるんです。本作の主人公は、ヒーローになるためにひたすら根性で歯を食いしばります。ヒーローが実在した場合に起こりうる「悪党を惨殺する」という恐怖に駆られ、そしてその責任の重さを実感し、しかし彼はそれでも正義を信じて立ち上がります。これは「もし現実にヒーローが存在したら」という私たちが一度は夢見たことのあるファンタジーに現実を突きつけた上で、それでももしかしたら居るかも知れないという希望を残す堂々たる「英雄誕生譚」です。
是非劇場の大きなスクリーンでご鑑賞下さい。タイツを着たヒーローが苦手な人でも絶対に見て損はありません。近年稀に見る少年の成長物語の大傑作です。オススメです!

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記事の評価
劇場版マリア様がみてる

劇場版マリア様がみてる

今日はレイトショーで

「マリア様がみてる」を見てきました。

評価:(85/100点) – ポスターを見て舐めてました。m(_ _)mペコリ


【あらすじ】

お嬢様学校・私立リリアン女学園に通う一年生の福沢祐巳は、ある日学園のアイドル・二年生の小笠原祥子に声を掛けられる。その場面を写真部の蔦子に撮られた事から一転、祐巳は生徒会演劇に巻き込まれていく。

【三幕構成】

第1幕 -> 祐巳と祥子の写真。
 ※第1ターニングポイント -> 祥子が薔薇様との賭を受ける。
第2幕 -> 演劇の練習と賭け。
 ※第2ターニングポイント -> 祥子が優との関係を祐巳に告白する。
第3幕 -> 結末


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【感想】

本日は「マリア様がみてる」を見て来ました。シネマート新宿は1,000円の日だったからか、公開から一週間経ちますがお客さんは10名ぐらい入っていました。でもほとんど男性ですw

おさらい

今更ですが、一応おさらいをしておきましょう。「マリア様がみてる」は雑誌「Cobalt」に連載されたライトノベルで、1998年開始です。当時はまだそこまでジャンルとして確立していなかった「同性同士だけの閉じた世界の甘やかし合い」の代表格でありブームの火付け役です。とはいえ間違ってはいけないのは、この「マリみて」以降氾濫することになった「ホモソーシャルの馴れ合い」だけを拡大コピーした作品とは違い、少なくとも初期の「マリみて」はきちんとクラシカル少女漫画的な悲壮感・愛憎を描いていたという点です。
舞台は「私立リリアン女学園」という完全に閉じた世界で、ファンタジックな階級社会が形成されています。学園のアイドルとしての生徒会長が3名「赤薔薇」「白薔薇」「黄薔薇」の肩書きと共に君臨し、その見習い2年生が3名、さらにその見習いの1年生が3名で「山百合会」というエリート組織が学園の最上部に構成されます。
そのエリート組織にひょんなことから入ることになる「一般民衆」の福沢祐巳を中心とした「身分ギャップ・コメディ」で物語が展開されます。
作品の中心となるのは「紅薔薇のつぼみ」小笠原祥子とその妹(=見習い)・福沢祐巳の関係性です。片や超お嬢様の優等生で浮世離れした存在。片やリリアンには不似合いなほど庶民的で俗世的な存在(=大半の読者と同じ)。この二人がそういった環境のギャップを越えて友情・信頼を深めるというホモソーシャルが「マリみて」の売りです。
一方作品の構造上、「マリみて」は「レギュラードラマ(=同じ時間を永遠に繰り返す作品。ドラえもん等)」ではなく「ストーリードラマ(=時間が進んでキャラが成長する。)」にならざるを得ません。ですので、いつかはこの「閉じた世界」は壊れてしまうんです。それは祐巳が成長しきった時(=祥子を必要としなくなった時)であり、祥子が卒業する時です。
この構造が限界に達したのが11巻の「マリア様がみてる パラソルをさして」です。この11巻によって、祥子と祐巳の関係性は一種の完成を迎えます。そしてこの時点で作品内での「祥子が卒業するまでの時間」が9ヶ月を切ります。ここに至って、作者・今野緒雪は作品の続きを書けなくなってしまいます。なぜなら、これ以上作品内時間を進めると、世界が壊れてしまうからです。苦し紛れとしてこれ以降は短編が増えていくことになります。短編であれば時間をそこまで進める必要はないですから、限りなく「レギュラードラマ」に近い展開ができるからです。
結局、祥子が卒業する「マリア様がみてる ハロー グッバイ」までに6年間も掛かってしまっています。
ファンとしては残念ですが、少なくとも「マリア様がみてる」の作品寿命は11巻までと考えるのが妥当だと思います。それ以降は、良く言えば「ファンサービス」であり、悪く言えば「蛇足」「延命処置」です。

そして実写版

ようやっと実写映画版の話に行きます。この実写版は原作一巻を元に、「祐巳と祥子」にのみ絞って物語を展開させます。元々が「学校」と「祐巳の家」ぐらいしか舞台の出て来ない話ですが、本作では完全に学園内で完結しています。祐巳の家族は出てきませんし、祐巳の友達もほぼ蔦子のみ。山百合会に至っては祥子と志摩子以外の誰一人、明確に台詞や紹介もありません。白薔薇の二人や令・由乃コンビは原作では相当なファンがついていますが、このあたりの要素は全てばっさりカットしています。あくまでも「祥子が祐巳をスールに出来るか否か」というストーリーのみで転がしています。
私はこの整理は大正解だと思います。というのも、90分程度で話をまとめるのであれば、、、そして映画として3幕構成に落とし込むのであれば、あきらかに祥子の成長をメインに据えるよりほかないからです。原作一巻の肝は、「庶民派の祐巳の影響で、お嬢様の祥子が成長する」という部分にあります。これにより、身分を越えた信頼関係が生まれるからです。最初は「シンデレラをやりたくない(=優と向き合いたくない)」から祐巳を構っていた祥子が、第二ターニングポイントで祐巳に相談することで「私はむしろシンデレラをやりたい(=優と向き合ってケリをつける)」と変化するところが一番大事です。
この実写版ではその肝を中心にして、見事に原作がシュリンクされています。映画化はこの時点で確実に大成功です。
もちろん細かい演出からもきちんと原作を噛み砕いているのが見て取れます。本作における原作からの最大の変更点はラストシーンです。ラストのクライマックスにおける祐巳と祥子の会話が変更され、祐巳の台詞が削られています。本作ではあくまでも祐巳は「自信の無い庶民」として描かれますから、クライマックスのシーンで「あまりのことに声も出ない」というのは映画演出としては正しいです。ここは非常に有名な掛け合いシーンですので変更には相当勇気がいたと思いますが、個人的には良い変更だと思います。
また、BECKの時に書いた「歌を誤魔化す」演出も本作では見事にクリアしています。本作の演劇シーンは「夕暮れ時の教室や生徒会室の風景」と「BGM」と「徐々にフェードアウトする台詞」で誤魔化されます。そしてそのシーンの直後に、蔦子と祐巳の会話で「夢のような日々が終わってしまった」という内容が語られます。つまり、演劇シーンの演出は「祐巳が感じたセンチメンタル/ノスタルジーの表現」になっているわけです。これによって、「誤魔化すため」の演出に作品内で必然性をもたせたることに成功しています。

【まとめ】

大枠では原作に忠実な流れでありながら、きちんと映画にするための整理を行った素晴らしい映画化だと思います。もちろん、キャラクター人気の高い作品ですから、キャストにあれこれ文句は絶対に出ると思います。個人的には鳥居江利子と柏木優のキャスティングは無しですw
冒頭にも書きましたが、ポスターを見るとものすごい地雷の香りがただよってきますw っていうかはっきり書きますと、未来穂香の顔と鼻が丸すぎます。でも本編を見て納得しました。本作では「祥子が祐巳を心より必要とした」のが大事なんです。だから外見がブサイクならブサイクなほど「内面に惚れた」という表現になるわけです。ストーリー上も、「志摩子には外見で判断してスールを申し込んだけれど、祐巳には内面に惚れてスールを申し込んだ」わけですから、志摩子と祐巳は絶妙な顔バランスでキャスティングしないといけないわけですw
もうすでに公開スクリーンが小さくなってきているようですが、お近くで上映している方は是非是非見てみて下さい。かなり意外な掘り出し物です。オススメします!

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エクリプス/トワイライトサーガ

エクリプス/トワイライトサーガ

久々に休日出勤から解放された今日は2本です。1本目は

エクリプス/トワイライトサーガ」を見て来ました。

評価:(30/100点) – 逆輸入的な「日本の少女漫画風アメリカンラノベ」


【あらすじ】

エドワードを取り戻したベラは高校卒業を控え幸せな日々を送っていた。ある日、エドワードの姉アリスがヴィクトリアの気配を予知する。
その頃、ニューブラッドと呼ばれる吸血鬼に成り立ての集団は暴虐の限りを尽くしていた。果たして彼らの黒幕は、ヴィクトリアか、それともヴォルトゥーリ一族か、、、。


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【感想】

本日の一作目は「エクリプス/トワイライトサーガ」です。世界的には大ヒットしているライトノベルですが、劇場はガラガラでした。
概要は前作と同様に「イケメン吸血鬼とイケメン狼男にモテモテ」というだけの物ですので、別にどうと言うことはありませんw ただ、そういった下らない内容であったとしても、さすがはハリウッドという画面のクオリティだけでそれなりに見えてしまうのが恐ろしい所です。本作では前作より一層、ベラが調子に乗っています。なにせ冒頭からエドワードとジェイコブに対して堂々と二股を掛けてきますw しかも2人ともわかっている上でそれでもベラを奪い合います。いいですね、モテモテでw
挙げ句の果てに「私もあなた(ジェイコブ)の事を愛しているけど、エドワードの方が好きなの」と来たもんです。おじさんには若い娘のモラリティは良く分かりません。
面白いと思うのは、こういった「花より男子」的なモテモテ話がキャストが外人になった途端に日本ではヒットしないと言うことです。もしこれで登場人物が日本人だったら、間違いなくこのガラガラっぷりはあり得ません。極端なことを言ってしまえば、こういう妄想系オトメゲー的な物は日本が本場だったりしますから、どうしても「日本のライトノベルっぽいアメリカの小説」という倒錯が日本の女性には中途半端に見えるのかも知れません。
少なくともテレビ局主導で作るマンガ原作邦画よりは確実によく出来ていますので、一見の価値はあるシリーズだと思います。

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雷桜

雷桜

本日も3本です。1本目は

雷桜」です。

評価:(9 /100点) – TAJOMARU級のコスプレ現代劇。


【あらすじ】

将軍の息子、清水斉道は癇癪持ちの問題児である。扱いに困りかねた側用人の榎戸角之進は斉道に瀬田村での静養を勧める。斉道はそこで山中に暮らすライという少女と出会う。彼女は側付・瀬田助次郎の行方不明になった妹だった、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 斉道の奇行。
 ※第1ターニングポイント -> 山中でライと出会う。
第2幕 -> 遊の帰郷と斉道との交流。
 ※第2ターニングポイント -> 斉道が再び瀬田村へ行く。
第3幕 -> 結末


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【感想】

本日の1本目は「雷桜」です。若い女性が多いのかなと思っていたら、老夫婦ばっかりでしかもガラガラというちょっと不思議な客層でした。監督は廣木隆一。ピンク映画出身で、5年に一本ぐらいちゃんとした映画を撮る以外は適当に仕事をさばく職人タイプの監督です。
正直酷評する必要も無いくらい誰の目から見ても失敗してますので、さらっと流したいと思いますw
私は本作が始まって3分くらいで心が折れたんですが(苦笑)、その理由は簡単です。登場人物の格好だけは時代劇っぽい感じにはなっているんですが、言葉遣いが完全にその辺にいるアンちゃんなんですw しかも中途半端に歴史物っぽい単語をつかったアンちゃんです。なのでものすっごい違和感があり、ハッキリ言ってふざけているようにしか見えません。これは全編通してです。恐ろしい事に、柄本明や坂東三津五郎といった普段ちゃんとした時代劇に出ている俳優さんも同じです。あきらかに脚本・監督の指定なんですが、これがリアリティラインを大幅に下げています。きっと時代劇を期待していたであろう年配のお客さんもズッコケたことと思います。
とはいえ、もし本筋のラブロマンスがまともであったならまだまだ良かったと思います。問題はこの部分でして、簡単に言えば雰囲気だけで勝手に惚れて勝手に暴走します。この恋愛周りの描写はお粗末の一言に尽きます。とにかく脈絡も常識も無く、ただ悶え合っているだけです。そもそも江戸時代に個人主義のような概念はありませんし、斉道は非嫡子とはいえ仮にも将軍の子なわけで、それが単独行動で山の中をうろつけている時点で変です。
本作では時代劇という部分がただの雰囲気でしか使われていません。殺陣のシーンでも岡田将生が片手で振り回している(←どんだけマッチョなんでしょうw)刀がすごい勢いで”たわんで”いたり、描写が学芸会レベルです。ロクに血しぶきも出ませんし、なんと終盤には介錯しないのに簡単に死ぬ切腹シーンまで出てきます。「13人の刺客」の間宮図書の切腹を見習って欲しいです。介錯なしの切腹はあまりにも苦しく惨いからこそ、それだけ必死さが伝わるんです。
このように、残念ながらいつものあんまり深く考えない人向けのラブストーリー以上のものではありません。ただ、TBS、電通、東宝、角川、IMJエンタ、というお馴染みの制作委員会の豪華メンツもメインターゲットであるはずの若い女性を集客するには至らなかったようです。残念!
まったくオススメはしませんが、岡田将生か蒼井優の大ファンであれば楽しめると思います。

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インシテミル 7日間のデス・ゲーム

インシテミル 7日間のデス・ゲーム

今日の二本目は

インシテミル 7日間のデス・ゲーム」です。

評価:(4/100点) – 秋だ! 一番! ホリプロ祭り!!!


【あらすじ】

フリーターの結城はコンビニで求人雑誌を立ち読みしている最中に女性に声を掛けられバイトを紹介される。それは「ある心理的な実験」に7日間参加するだけで時給11万2000円という高額な賃金を得られるというものであった。参加者10名を乗せたリムジンは山奥の建物へと着く。そこには10体のインディアン人形と豪華な夕食が用意されていた、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 10名の紹介と暗鬼館。
 ※第1ターニングポイント -> 西野が殺される。
第2幕 -> ゲーム。
 ※第2ターニングポイント -> 残り三人になる。
第3幕 -> 結末。


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【感想】

本日の2本目は「インシテミル 7日間のデス・ゲーム」です。若年層とカップルを中心にかなり混雑していました。400人規模の箱でほとんど満席状態は久しぶりです。本作は藤原竜也、綾瀬はるか、石原さとみというホリプロの主力3名を皮切りに、役者は全てホリプロ所属となっています。そして開始早々に「日テレ」のロゴマークに続いてズッコケる「ホリプロ50周年記念作品」の文字。
そう、本作はテレビ屋映画ならぬ「事務所屋映画」です!!!!
ま、原作が事務所と関係ないだけ「瞬 またたき」よりはマシかもしれませんけど(苦笑)、、、。
え~~~いつもの事ですが、ミステリーとはいえツッコミ所が有り余っているため、今回もネタバレを多数含みます。未見の方で見るつもりがある方は今すぐブラウザを閉じて映画館へ行って地獄を見て下さいw 既にご覧の方、未見だけど見る気が無い方のみ、少々お付き合い下さいますようお願いいたします。

概要とルールのおさらい。

本作はまたまた日本産のソリッドシチュエーションスリラーです。監督は中田秀夫。Jホラーの名監督ですが、近年はキャリアプランを考えてなのかテレビ屋映画にシフトして行っています。

ストーリー自体はソリッドシチュエーションスリラーの典型です。訳ありの数名が密閉空間に閉じ込められ、そこでゲームを通じてサバイバルしていきます。当ブログでは耳タコで書いていますが、ソリッドシチュエーションスリラーはゲームの面白さが全てです。では、本作のゲームのルールは何でしょう?
1) 勝利条件は「1週間生き残る事」または「最後の2人になる事」。
2) 夜になったら部屋に籠もる事。廊下にはガードが巡回し、見つかると殺される。
3) 部屋にはミステリーの名作にちなんだ凶器が一個づつ準備され、使用は自由。
4) 部屋には鍵がかからない。
5) 「事件」がおきたら「解決」をすること。「解決者」は推理を皆の前で発表し、推理は多数決で真贋が決定される。
6) 推理が肯定された探偵にはボーナスが付き、報酬2倍。
7) 推理と多数決により犯人に指名された人間は隔離部屋に投獄される。
8) 殺人を犯した者は報酬2倍。殺人の被害者も報酬2倍。
9) 報酬のベースは1881万6000円。
とりあえず以上でしょうか? かなり原作から変更・削除をされています。

本作のまったく駄目な所。

さて、上記のルールを見てこのジャンルに詳しいかたは嫌な予感がすると思いますw そしてその予感は当たっているでしょう。
つまり、「殺人に抑止力が無い」。これが本作の一番がっかりする所です。本作では一人殺す度に報酬が2倍になります。そして推理は多数決で決まります。なので、開始早々に8人を殺せば終わりです。そうすると報酬48億になりますw
しかし、本作では殺人に抑止力が無いにも関わらず、殺人がたったの3件しか起こりません。驚くべきモラリティの水準ですw ソリッドシチュエーションに必須の「人間の本質としての暴力性の暴露」が一切ありません。なので、まずはスリラーとしてのワクワクがありません。これが致命的です。

そしてがっかりポイントその2は多数決のゲーム性です。これまた驚くべき事に、今回多数決はたったの2回しか行われず、なんと派閥に別れることもありません。しかも後半は多数決が行われること無しに、藤原竜也に勝手に探偵ボーナスがじゃんじゃん付きます。もはやルールすら無視w 意図は分かりませんが、本来この”多数決”をルールに盛り込んだという事は、つまり恣意的に誰かをハメることが出来るということなんです。なので、このルールが説明された時には、私は当然「これは派閥に別れて多数決を奪い合うゲームだ」と思ったんです。だって派閥を作れば「敵対組の一人を殺して」「多数決で敵対組の一人を監獄に送れ」ば、一気に脱落させられるんです。でもそうはなりません。それどころかまともな推理は一回もありません。全部感情論だけの多数決です。なんじゃそれ。

そしてこれがダメ押しですが、そもそも本作のゲームの運営事情が酷すぎます。このゲームは安東の推理によると約2000万人の視聴者がいる会員制のwebコンテンツです。つまり日本人の5人に1人、世界中と考えてもビートルズの「赤盤」「青盤」やマドンナの「LIKE A VIRGIN」レベルのスマッシュヒットです。すっげぇwww
作中の描写でも、渋谷TSUTAYA2階のスタバで携帯を使って見ている若者・サラリーマンが映ります。そもそもスナッフフィルムがそんなメジャーになるわけないですし、よしんばこの世界では日本が「ヒャッハー!!!!」な無法地帯だったとしても、それを参加者達が一人も知らないのは明らかに変です。それこそイギリスのバラエティ番組「サバイバー」以上にメジャーなコンテンツのはずです。

また、これはカイジでも思ったことですが、そもそもこういう「人死に上等」なゲームの主催者が、生き残った人間にお金を渡して帰すんでしょうか? 殺して終わりじゃないかって気がすごいします。
本作も駄目なソリッドシチュエーションスリラーのご多分に漏れず、結局最後は参加者の一人が凶暴化して襲ってくる安い展開に落ち着きます。そしてその襲い方も驚異的なヌルさです。なにせ建物内には、「釘打ち機」「拳銃」「ボウガン」「斧」「ナイフ」と殺傷力抜群なアイテムが転がっています。しかしラスボスが使うのはアイスピックw なぜそのチョイスなのか首をひねらずには居られません。

結局、本作はソリッドシチュエーションの見た目だけを持ってきただけです。「なぜソリッドシチュエーションスリラーが面白いのか」という根本的な分析が全く出来ていません。結果として、「ホリプロ大感謝祭」という単語が透けて見えるようなお遊戯大会になってしまっています。しかも特にメイン級の役者陣が北大路欣也以外はほぼ全滅で、ホリプロのプロモーションとしても失敗しています。
これを見た後だと、ホリプロは50周年を迎えてもうダメなんじゃないかとすら思えますw まぁ伊集院光さんが居る限りは支持し続けますけど(苦笑)。

【まとめ】

またもや日本産のソリッドシチュエーションスリラーの駄目な面が全部凝縮された凄い作品が出てきてしまいました。俳優ファンの方にもオススメしづらいレベルになっていますが、片平なぎさのファンであればかろうじて楽しめるかも知れません。おそらく本作で得をしているのは片平さんだけです。

綾瀬はるかを見ているだけで乗り切れないこともないですが、それでもあまりに酷すぎる話のずさんさが気になって全然乗れませんでした。開始40分目くらいの最初の多数決で心がぼっきり逝きましたw
まったく心がこもりませんが(苦笑)、でもきっと楽しめる人もいると思うので確かめる意味でもオススメです(棒読み)。

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ナイト&デイ

ナイト&デイ

連休初日は2本です。1本目は

ナイト&デイ」を見ました。

評価:(40 /100点) – That’s ハリウッド娯楽映画。


【あらすじ】

自動車整備士のジューンはウィチタへパーツの買い出しに来ていた。地元ボストンへと帰るまさにそのとき、ウィチタ空港で彼女はロイと名乗る男と偶然同じ飛行機に乗り合わせる。彼女が手洗いに入ったタイミングを狙って、彼は乗客とパイロットを殺してしまう。畑に飛行機を不時着させたロイは、彼女に自分が組織に追われていることと彼女も追われる可能性があることを警告する。眠り薬を飲まされた彼女が目覚めると、そこはすでにボストンの自宅だった、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> ジューンとロイの出会い。
 ※第1ターニングポイント -> カーチェイス
第2幕 -> サイモンを探す旅。
 ※第2ターニングポイント -> ロイが撃たれる。
第3幕 -> 結末。


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【感想】

3連休初日は新作を2本見てきました。1本目は「ナイト&デイ」です。監督は去年「3時10分、決断のとき」で評価の高かったジェームズ・マンゴールド。トム・クルーズとキャメロン・ディアスの主演ということもあって、観客は中高年の夫婦を中心に結構入ってました。
実は今日見た二本ともあんまり書くことが無くって困ってるんですが(苦笑)、本作を無理矢理まとめるならば「これぞハリウッド。」って感じでしょうか。話の構造自体は「巻き込まれ型サスペンス」を非常にオーソドックスにやっています。「ゼフィー」という永久電池を巡ってロイとフィッツジェラルドとアントニオが奪い合いを展開します。もちろんゼフィーはマクガフィンですので、それ自体に意味はありませんし、なにか科学的根拠があるわけではありません。ここにロイとジューンのラブコメ的な展開が加わります。
決して高尚な事をやっているわけではありませんし、ツッコミ所も満載です。FBIがロクに調べもせずに街中でカーチェイスや銃撃戦を展開するとは考えられませんし、いまどきiPhoneでwebを使っておいて匿名性が維持できるわけがありません。ジューンはTVニュースで顔までバッチリ映って指名手配されているのに平気な顔して街中をうろつけますし、何食わぬ顔で結婚式にも出られています。ロイはロイでヘリコプターやら銃やら秘密の無人島やらやりたい放題ですし、そもそも絶対に隠れられる無人島があるなら最初からサイモンをそこに逃がせば良いわけで、、、、。とまぁ細部はボロボロですが、それでも美男美女が車やバイクで銃をぶっ放してそれっぽい感じを出していれば、これはもう十二分に「ハリウッド娯楽映画」です。
頭をカラッポにして見れば、そしていつもの「ハリウッド娯楽映画」を見るつもりであれば、「面白かった」で片付けてしまえる映画だと思います。正直に言うと、こういう映画は別に新作で映画館で見る必要は無いと思いますが、でもカップルや夫婦で当たり障りのない時間つぶしに見る分には十分な出来だと思います。ということで、オススメかと聞かれればオススメしないこともないくらいのテンションで、オススメDEATH!!!

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記事の評価
七瀬ふたたび

七瀬ふたたび

今日は注目作二本です。1本目は

七瀬ふたたび」を見ました。

評価:(80/100点) – ラストの賛否が分かれそうだが、これはこれで。


【あらすじ】

火田七瀬は他人の心の中を読むテレパスである。七瀬はマカオからの帰りに空港で狙撃される。さらにホテルで岩淵からのコンタクトを受けた七瀬は、忠告に従って行動するも、友人の瑠璃を目の前で謎の男に殺されてしまう。命からがら北海道の隠れ家に戻った七瀬だったが、そこにも追っ手が迫ってきていた、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 七瀬と瑠璃。
 ※第1ターニングポイント -> 瑠璃が殺される。
第2幕 -> 隠れ家での生活と追っ手。
 ※第2ターニングポイント -> ノリオが連れ去られる。
第3幕 -> 狩谷との対決。


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【感想】

本日の1本目は、ご存じ筒井康隆の七瀬三部作の二作目「七瀬ふたたび」です。中年男性を中心にそこそこお客さんは入っていました。どうせなら「家族八景」からやって欲しいのですが、三部作の中では一番派手でエンタメよりな本作は映像化しやすいということだと思います。「家族八景」を知らない人には何が「ふたたび」なのか分からない気もするんですが、まぁ「七瀬~」を見に来てる時点で「どうせ原作ファン」という割り切りでしょうか。
監督はホラー・特撮で有名な小中和哉さん。脚本は平成ガメラや劇場版のパトレイバーでお馴染みの伊藤和典さんです。二人ともその筋では完全な大御所でして、70年代SFの映画化にはこれ以上ない人選です。

おさらいと役者陣のハマりっぷり。

「七瀬ふたたび」は過去にも数回映像化されています。私はあいにくと多岐川裕美版(NHK少年ドラマ)と一昨年の蓮佛美沙子版(NHKドラマ8)しか見ていないのですが、どちらも原作からはかなり変えられていました。
一応三部作のおさらいです。一作目「家族八景」で七瀬は18歳にして家政婦として住み込みで働いています。そして色々な家庭を転々としながら、様々に「表面を取り繕った家族」達を観察していきます。ここで七瀬は人間の汚い部分を嫌と言うほど見ることになります。そして二作目の「七瀬ふたたび」で、嫌気がさした七瀬は家政婦を辞め、人目を避けて田舎へ行こうとします。その途中で自分と似たような超能力者達と出会いますが、謎の組織によって仲間もろとも殺されてしまいます。三作目の「エディプスの恋人」では何故か殺されたはずの七瀬は学校の事務のお姉さんとして登場します。そして謎の少年・智広と出会い、彼女は遂に超常的な存在へとなっていきます。
というように、この七瀬三部作は「表面的に取り繕った家族」→「超能力アクション」→「精神世界」と舞台をガラっと変えていくわけです。なんでこんなに全然違う話なのにシリーズになっているかと言えば、それはもう間違いなく「火田七瀬」という強烈なヒロインの魅力故に他なりません。
そして特に「七瀬ふたたび」を映像化するには、七瀬のカリスマ性と圧倒的な絶望/達観の表現が絶対に必要です。
もう長いこと愛されてきた原作シリーズですので、当然ファンの方々の中にはそれぞれの「七瀬像」が出来てしまっていると思います。「家族八景」が好きな人はおっちょこちょいでミーハーだけど気の強い彼女を想像するでしょうし、「七瀬ふたたび」が好きな人は苦悩するクールビューティーを想像するでしょう。こればっかりは古典である以上は仕方が無いです。
で、肝心の本作ですが、私は芦名星さんは相当はまっていると思いました。ちょっとタラコ唇で困った感じの顔だったり、印象が悪くならない程度に無愛想な感じがすごく七瀬の印象と合っていました。すごい良い感じです。「KING GAME」の時とは大違いw そして岩淵役の田中圭さんも不器用でヘタレな田舎者っぽさが上手く出ていました。岩淵の妄想を七瀬がのぞいてしまうシーンが無いのは噴飯ものですが、それが無くても「こいつムッツリスケベだぞ」という雰囲気が十二分にでていましたので合格ですw ノリオ役の今井悠貴くんはきちんと「ませガキ」に見えていましたし、刑事役の平泉さんも類型的ではありますがサスペンスものの刑事として十分好演していました。正直ダンテ・カーヴァーは演技以前の問題ですし、佐藤江梨子さんもちょっと役に対してギャルっぽい軽さが目立ちましたが、役者陣は概ね良い感じにハマっていました。

ストーリー部分の上手いまとめ方。

本作はかなり原作に忠実ですが、一方で変えるところは結構思い切って変えています。
一番変更して成功だと思うのは、超能力者達が集まる部分を回想で済ませてしまう所です。本作は原作そのままで映像化すると、仲間集めの課程が前半を占め、後半から組織との戦いになります。でも本作の場合、いきなり狙撃されるところから始まり、それをフックにして組織から逃げる部分が大半を占めます。この構成変更はかなり成功しているとおもいます。おかげで中だるみが少なく、高いテンションのままで最後まで突っ走ることが出来ます。そのぶん七瀬と岩淵の関係がかなりばっさりと省略されているのですが、本作だけを見ればそこが「超能力者ゆえの一瞬の邂逅・同調」という「アムロとララァ」に通じるような話に見えますので、それはそれでOKです。
ただ、、、、ただ、、、やはり賛否が分かれそうなのはラストの扱いだと思います。原作ファンにとっては蛇足ともとられかねないラスト5分の展開は、どうにも陳腐に見えてしまいます。ですがニコラス・ケイジの「NEXT」ほど唐突な感じではなく、きっちり伏線を張ってはいますから映画単体としてみればこれはこれで良いかなとは思います。ただ、この展開にすると当然「エディプスの恋人」は同一キャストで映画化出来ません。そこがちょっと引っ掛かるというか、もっと芦名星の七瀬を見たかったというのが率直な感想です。それぐらいハマリ役だったのに、、、。
それとこれはもう邦画のお約束ですが、やっぱり本作もCGがショボイ事になっています。特に七瀬が空を飛ぶシーンのなんともいえない合成感はかなりキテます。とはいえ原作が古いので、これも80年代風のブルーバック合成だと思えばそこまで引っかかりはしません。ちょっと好意的に見すぎでしょうかw
また同じCGを使った場面でも、七瀬が心を読むシーンの表現は結構上手く乗り切ったと思います。

【まとめ】

原作が好きすぎて甘くなっている部分も多々ありますが、かなり良い作品だったと思います。細かい粗はあるものの、それを気にする暇もないくらいテンション高く畳みかけてきますので、それほど気にはなりません。十分にオススメできる作品だと思います。
一応、本編前に流れる中川翔子・初監督の短編にも触れておきましょう。カメラフレームが変な部分はあったのですが(とくに神社のシーン)、全体的には結構そつなくこなしたように思います。とはいえ、ポーカー中に心を読むシーンは「カイジ」ばりにダサい演出でした。こういう漫画的な感じが好きなのは凄く良くわかるのですが、これを見たときにすっごい本編が不安になったのも事実ですw にごり水に色水を垂らすイメージ映像など、ちょっと雰囲気だけの危ない方向に流れそうな傾向が見えましたので、もし次に監督をすることがあれば気を付けてもらえるともっとフェティッシュが全面にでてくるかなと思います。。

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