土曜の2本目は
「SOMEWHERE」です。
評価:
– 完璧!!!【あらすじ】
ジョニー・マルコは映画俳優である。ハリウッドのサンセット通りにあるシャトー・マーモントに部屋を借り、新作映画のプロモーションをしながら自堕落な生活を送っていた。フェラーリを乗り回し、派手なパーティをし、女性と遊んでも、彼の気は晴れない。
ある日目が覚めると妻のレイラと娘のクレオが部屋に来ていた。レイラは一日クレオの世話を頼んでいく、、、。
【感想】
土曜の2本目はソフィア・コッポラの最新作「SOMEWHERE」です。昨年のヴェネチア国際映画祭の金獅子賞(グランプリ)作品です。ですが、、、あんまり観客は入っていませんでした。せっかく半年で日本公開されたっていうのに寂しいことです。
さて、本作は本当に心の底からオススメしたいすばらしい作品です。とにかく、演出も、シーンの繋ぎ方も、俳優も、文句の付けようがありません。ですから、いまから書くような細かい事ははっきり言ってどうでもいいので、とにかく見に行ってください。しかも特に小難しい作品ではありませんから誰でも理解出来るはずです。絶対に映画館で見るべきです。
物語の妙
本作のストーリーは大変シンプルです。自堕落に過ごしてきた男が娘と一緒に過ごさざるを得なくなったことで人生を見つめ直します。この物語は娘からすれば「自分の事を構ってくれない父親が反省する話し」であり、父親から見れば「愛する娘の存在を再確認して改心する話し」です。つまりはファザー・コンプレックスが炸裂しているわけで、これはどう考えてもソフィア・コッポラ自身の人生のテーマであるわけです。
偉大すぎる父親を持ち、その親馬鹿っぷりが発揮した「ゴッドファーザーPartIII」ではファンに猛バッシングを食らったソフィアだからこそ撮れるテーマです。しかも彼女はその後映像オタクでダメ人間のスパイク・ジョーンズと結婚・離婚し、同じく映画オタクで足フェチな変態のタランティーノと付き合ってたワケで、どう考えても根が深いファザコンです。しかも今度付き合ってるのは5歳年下のバンドマンです。居るんですよ、こういうファザコンを拗らせて変な母性に目覚めてダメ人間を保護し続けるタイプの女性ってw
本作の場合、この親子にスティーブン・ドーフとエル・ファニングというとてつもない実力派のコンビを送り込んでくるわけです。弁護のしようがない無いダメ人間ながらギリギリで嫌悪感を抱かれないレベルのドーフと、あまりの透明感にちょっと浮世離れしてさえ見えるエル・ファニング。その浮世離れした雰囲気があるからこそ、最終盤でクレオの人間らしさが見えた瞬間にどうしようもなく私達の心を動かしてきます。
私が本作を見ていて一番驚いたのは、クレオがフィギュアスケートを行うシーンまでの展開の巧さです。このシーンは直前のポールダンスのシーンと対応しています。共に「音楽をバックに女性が踊る(回る)」のですが、ポールダンスには彼はほとんど関心を示しません。1回目は寝てしまい、2回目はダンス自体ではなくその後の情事を目当てにしています。ところがスケートは違います。彼はやはり最初関心を示さず本を読んでいますが、次第に娘の踊りにのめりこんでいき、最後には力一杯の拍手を送ります。このシーンが作品内のジョニーの転機です。ここで彼は自堕落な女性遊びよりも娘の方を無意識に選んだわけです。ここから、ジョニーとクレオの幸せな親子の日常が始まります。
それでもなお、彼は娘の見ていないところで女性遊びを続けます。つまり彼は最終盤のあるシーンまで、やはり自分にとって女性遊びよりも娘の方が大事だということに無自覚なんです。スクリーンに映る表情を見ていれば明らかなんですが、彼自身はなかなか気付きません。
ですから妻にまで愛想を尽かされたジョニーが最後に見せる覚悟は、やっぱり美しいわけで涙をさそうんです。
その覚悟っていうのはジョニーの投了宣言なんです。それまで好き勝手に青春を謳歌していた男が、ついに大人の男になって家族と向き合う決意をするんです。その舞台がまた「シャトー・マーモント」っていうのも気が利いています。シャトー・マーモントはハリウッドセレブやロックスター達がどんちゃん騒ぎをして夢をみる場所なんです。ジョニーはそこから抜け出すんです。だからこれは「パーティーは終わり」ってことなんです。
【まとめ】
本作は非常にシンプルですが、間の取り方が絶妙です。おそらくアート系の映画やインディ映画を見慣れていなくても、その品の良さと圧倒的なスクリーンの雰囲気作りは伝わると思います。本作においてジョニーとクレオの過ごした時間は、ダメ人間のジョニーを改心させられるだけの魅力をもっていないと説得力がありません。そして実際に大変魅力的に撮れています。だから、本作に文句は1カ所もありません。全てが素晴らしく、全てが完璧です。
オススメとか緩い言い方ではなく、悪い事は言わないので絶対に見た方が良いです。間違いなくソフィア・コッポラの代表作であり、男の成長物語としてはある種の到達点にあると思います。