2本目は
「時をかける少女」です。
評価:
– これこそアイドル映画。【あらすじ】
ある日、酒屋の吾郎が芳山和子に一枚の写真とラベンダーの花を手渡す。それを見た和子は放心状態で歩き車に轢かれてしまう。事故の昏睡から目覚めた和子は、かつて深町によって消された記憶を取り戻す。そして娘のあかりに自身の代わりに彼女が開発したタイムリープの薬を使って深町に会いに行くよう頼む。しかし、あかりはタイムリープする日付を間違えてしまった、、、。
【三幕構成】
第1幕 -> 和子が記憶を取り戻す。
※第1ターニングポイント -> あかりがタイムリープする。
第2幕 -> 深町を探す。
※第2ターニングポイント ->深町に出会う。
第3幕 -> 1974年、最後の一日。
【感想】
さて、二作目はもちろん「時をかける少女」です。夜の回で見てきましたが、すごい人の入り方でした。その後、つい今しがたまで「大林版・時をかける少女(1983)」と「細田アニメ版・時をかける少女(2006)」を見返してました。そうしないと本作を褒めるための理論武装が出来ません(笑)。
本作は「大林版・時をかける少女」の直接的な続編となっています。「大林版・時をかける少女」は原田知世の神懸かり的な可愛さと大林監督のカルトな表現技法が使われている、ものすごくイビつで変わった歴史的大傑作です。この大林版の時をかける少女への心酔度によって、おそらく本作の評価は180度変わります。私はこれから本作を絶賛いたしますが、ちょっと言い訳がましくなるのをご了承ください(笑)。
また前提として、私は大林版をリアルタイムでは見ていません。
時をかける少女に触れた順番は
「内田有紀版」→「筒井康隆小説」→「大林版」→「安倍なつみ版」→「アニメ版」→「本作」
となります。
なお、以後の文章では「大林版・時をかける少女(1983)」のことを「前作」と呼ばせていただきます。
ストーリーテーマについて
本作には二つのストーリーがあり、それが同時並行で進んでいきます。一方はおそらくほとんどの方が絶賛するであろうストーリーであり、もう一方は賛否が180度分かれるであろうストーリーです。まずは前者を見てみましょう。
□ ストーリー1:ラブストーリー
ストーリーの一つは、新キャラクターの芳山あかりがタイムリープした事で起こる過去人・涼太との恋愛話です。非常にオーソドックスでして、過去に影響を与えてはいけない未来人が過去の人間に惚れてしまうことから起こる悲恋話です。ここに若い頃の両親との出会いが合わさり、疎遠だった自分を捨てた父との関係にも影響を与えます。このパートでは仲里依紗の顔のアップショットが多用されます。これぞアイドル映画の醍醐味。とにかくいろいろな表情の仲里依紗がスクリーンに映し出され、それがものすごく魅力的に撮れています。
また未来人を”拾ってしまう”涼太の造形もオーソドックスで、ボンクラなダメ人間で映画や特撮に心酔しているオタクです。ですが彼が熱心に撮影する自主映画「光の惑星」の撮影を手伝ううちに、段々とあかりは涼太に惚れていきます。そして「ある事件を阻止しようとするが、過去を変えてはいけないために阻止できない」というお約束もあります。この全ての恋愛話の最後に、前作の和子と同様に記憶を消されて恋心も失われてしまいます。しかし、前作には無かった”救い”が本作には用意されています。安直に見えるかも知れませんが、私はこの救いのシーンで完全に号泣モードに入りました。
私はこちらのストーリーが本作のメインだと思います。
□ ストーリー2:大林版・時をかける少女の続報・回収
二つ目のストーリーは、芳山和子と深町一夫を巡る再会の話です。もう文字で書くだにセンシティブな話題です(笑)。本作では吾郎が持ってきた和子と一夫の2ショット写真と交通事故のショックで、和子が消された記憶を取り戻します。そしてそこから、和子と一夫の再会ストーリーが始まります。
あかりが過去に戻ると、和子はいきなり尾道(本作では東京?)から横浜に引っ越しています。そして新キャラ・長谷川政道に恋をしています。作品単体としては「娘が若い頃の母に出会いその恋愛観を見ることで、母も人間であることを少し理解する。」という比較的良い話です。ただですね、ここに前作の熱狂的なファンが拒絶反応をしめすであろう「引っかかり」が数点あります。
そもそも「原田知世 役」の石橋杏奈が原田知世と比べて可愛く無いというのが一点目です。2010年パートの和子は前作では出てきてませんから、安田成美については何の問題もありません。
おそらく石橋さんやスタッフは嫌だと思いますが、「時をかける少女」を制作し学生時代の芳山和子を演じる以上は、今後未来永劫、原田知世との比較は避けられません。そして前作の活発なショートヘアの芳山和子が、かなりおとなしめの長髪少女に変わっています。これは前作のファンとしてはわりとショックです。尾道という世界観が無くなったのもかなり大きいです。
二点目は深町君の未来描写です。前作では「緑の少なくなった未来からラベンダーを見つけるために来た」のが深町君です。本作の中盤で未来の深町君が映るんですが、なんというか、、、、SFとして致命的なまでに夢の無い手抜きな未来世界がCGで広がっています。これがセンスが皆無でダサ過ぎます。また石丸幹二というのもちょっと違和感があります。深町君はもっと無邪気で好青年なイメージがあったので、石丸さんはあんまり合ってないような気がします。
三点目は吾郎の扱いです。前作では吾郎と深町君と和子で仲良し3人組だったのに、本作では和子が引っ越した関係でほとんど出てきません。前作や原作をみて和子と吾郎がくっつくと思っていた人にとっては、いきなり新キャラが和子と結婚するのは納得が出来ません。
四点目が和子と深町君の再会です。前作は好きなのにすれ違うしか無いというシチュエーションが悲恋だったわけで、記憶を無くしてしまったのに偶然すれ違うことが肝だったと思います。再会させたら前作から27年にわたる余韻が台無しです。
そんなわけで、こちらのストーリーをどう評価するかはかなりパッカリ分かれると思います。いままで「時をかける少女」を見たことが無い人には普通に問題のないストーリーですが、大林版のファンであればあるほど、上記のようなノイズが猛烈に気になります。
そのほか。
本作で絶賛モードの私でもどうしても納得出来ないことがあります。
それは、エンディングを仲里依紗が歌っていないことです。
なんで「いきものがかり」なんじゃ!!!このタイアップで誰が得をするんだ!!!アイドル映画なんだから、最後は大林版のオマージュとして倒れてた仲里依紗がムクッと起き上がっておもむろに「時をかける少女」を歌うべきでしょ!!!
この点に関しては私は一切擁護の言葉を持ちません(笑)。完全に失策です。「なくもんか」を許した私でも、これでいきものがかりが嫌いになりました(笑)。
【まとめ】
前作との関連ではネガティブな部分ばかり取り上げましたが、もちろんポジティブな部分もあります。桜並木を歩くシーンや最後に深町とすれ違うシーンは明らかに大林版へのオマージュとして成功している部分です。
冒頭で85点としたのは、あくまでも仲里依紗のアイドル映画としての点数です。本編が100点で、エンディング曲無しなので-15点(笑)。ここに前作への心酔度が加わって、人によっては100点になったり-100点になったりします。
ですから、確かめる意味でも是非劇場で見てみてください。大林版を見たことが無い方は、まずレンタルDVDで大林版の鑑賞をオススメします。私も大林版が結構好きだったという意外な発見がありました。