今日は1本、
「ザ・ファイター」を見て来ました。
評価:
– 魅力的な駄目家族達のアンセム【あらすじ】
ミッキー・ウォードは8人の兄弟を持ち母親も再婚を繰り返す豪快な家庭に育った。彼はかつて「ローウェルの英雄」として知られた兄ディッキーの後を追ってプロボクサーとなる。しかしそんな兄も今やドラッグにおぼれ、姉妹達も自堕落に生活し、家計は全てミッキーの拳に掛かっていた、、、。
【四幕構成】
第1幕 -> ミッキーの練習とシャーリーン。
※第1ターニングポイント -> ミッキーvsリッキー・メイヤーズ。
第二幕前半 -> ミッキーの苦悩。
※ミッドポイント -> ディッキーが逮捕される。
第二幕後半 -> ミッキーの決意と再起。
※第2ターニングポイント -> ミッキーvsアルフォンソ・サンチェス。
第3幕 -> タイトル戦へ向けての練習とディッキーの出所。
※第三ターニングポイント -> タイトル戦開始。
第四幕 -> ミッキーvsシー・ニアリー。
【感想】
本日は1本、「ザ・ファイター」を見て来ました。先日のアカデミー賞でクリスチャン・ベールが助演男優賞、メリッサ・レオが助演女優賞を獲得しています。そのわりにというと何ですが、お客さんはあんまり入っていませんでした。こんな面白い映画がすぐに打ち切られるのは惜しいので、もし映画を見る余裕がある人は是非来週の映画の日にでも見てみて下さい。
さて、もういきなり「面白い」とか書いてしまいました。本作は実話ベースでありながら上手く脚色してハリウッド式物語に落とし込んでいます。そういった意味では最近でいうと「イップ・マン2」に近いかも知れません。
本作ではミッキーがしょうもない家族達に翻弄されながらも、家族愛と共にボクシングに邁進していきます。かつての栄光にしがみつくヤク中の兄、自己中心的で強権的(というか野村サ○ヨ)な母、そして何をするでもなく集団で騒ぐだけの姉妹達。こういった癖がありすぎる家族のノイズの一方で、彼は恋人や父親に助けられ頭角を現していきます。
本作の要素は「ダメ人間が努力と根性でのし上がる話し」+「癖のある家族達への愛」+「ボクシング」というロッキーそのものな内容です。ですのでつまらないワケがありません。ただそれ以上に、本作はとにかくクリスチャン・ベールの存在感が圧倒的です。完全にイっちゃってる見開いた目で終始ヘナヘナと動くベールは、とてもいつもの彼には見えません。相変わらずのメソッド演技で度を超した移入を見せてくれます。そしてそんなイちゃってる兄と対照的に、ミッキー役のマーク・ウォールバーグはとっちゃん坊や感を遺憾なく発揮しています。まぁ実際にプライベートではウォールバーグもベールもどちらもどっこいな暴れっぷりですが、、、だからこそこの役作りの仕方は素敵です。
実在という面で言いますと、本作におけるミッキーはテーマのためにかなりキャリアを省略しています。本作は最初と最後をテレビのインタビュー取材が挟んでおり、回想の形で語られます。回想の冒頭は1991年の10月で、物語のラストのタイトルマッチは2000年です。実際のミッキーはメイヤーズに負けた後で一時的に引退し3年後に復帰します。しかし本作の中では姉妹から「三週間姿を見ていない」とだけ語られ、その後は時間の経過については明示されません。当然兄の警察沙汰等があるのである程度時間が経っているのはわかりますが、かなり思い切った省略の仕方です。実話をもとにする時はどうしても日付表示を入れたくなるものですが、そういった部分をばっさり切ってテーマに対して最短距離でとても上手く描いています。
とはいえ、この省略によってたとえばミッキーとシャーリーンの関係が急展開すぎたり、ミッキーののし上がり方が早すぎたり見えてしまうかも知れません。この辺りは難しい部分です。かなり気を付けて描いてはいるものの、ミッキーが実は結構強いというのが戦績や勝ち方でチラチラ見え隠れしています。ですが、本作は家族愛がメインのテーマですのでこれは仕方がないと思います。ディッキーが出所してからの一連の流れはそれだけで御飯3杯いけるぐらい素晴らしい兄弟愛ものです。兄の影で生きてきた男が、ついに自分が主役になれるシチュエーションになって兄から認められるわけで、それはもう涙無しには見られません。
ロッキーのような熱血ものを期待していくと肩すかしをくらうかも知れませんが、イかれた兄と真面目な弟の兄弟愛映画としてはかなりの出来です。若干試合のシーンはアレな感じがしますが、「あしたのジョー」のように下手に格好を付けずに真面目で丁寧に取り組んでいるのが分かるので全然気になりません。かなりオススメな作品です。