ズートピア

ズートピア

本日はレイトショーでディズニーアニメ最新作の

「ズートピア」を見ました。

評価:(79/100点) – 「普通に面白い」という贅沢さと物足りなさ


【あらすじ】

動物たちが理性をもって生活する世界。うさぎのジュディは「うさぎ界初の警察官」の夢を叶え、大都市「ズートピア」へとやってきた。ズートピアでは最近失踪事件が多発しており警察署内は大騒ぎになっていたが、しかしジュディが配置されたのは駐禁係。なかなか警察らしい仕事をさせてもらえない不満から、ジュディはついうっかり失踪者の一人=カワウソのオッタートンの捜索を勝手に買って出てしまう。タイムリミットは48時間。それをすぎると、ジュディは事実上解雇されてしまう。はたしてジュディは無事事件を解決することができるのか、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> ジュディの上京とニックとの出会い
 ※第1ターニングポイント -> オッタートンの捜索を買って出る
第2幕 -> オッタートンの足取り調査と発見
 ※第2ターニングポイント -> ジュディが田舎へ帰る
第3幕 -> 事件の解決と真相。


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【感想】

さてさて、今週2本めの新作映画は、ディズニー最新作「ズートピア」です。ディズニーアニメのお家芸といえば白雪姫/眠れる森の美女から脈々とつながる「かわいらしくデフォルメされた動物」です。本作・ズートピアは人間の登場人物が一人もおらず、この「かわいらしくデフォルメされた動物」が所狭しと登場します。
見る前から本作が某Rotten Tomatoで98% Freshを記録したというニュースは見ていましたから、さてこれはどれだけ傑作なのかと結構ハードルが上がっていました。
そして実際に見てみて、、、というところですが、これはRottenの仕組み上仕方ないといいますか、、、「大傑作!」というよりは「これは皆がそれなりに満足して帰る内容だな」という感想です。100点満点中の100点というよりは、「良いか悪いかで二択にしたとき”良い”が限りなく100%になる」という類の作品です。

本作は王道どまんなかのバディ・ムービー/ファミリー映画です。ですから極力ネタバレはしないようにいたしますが、少々感づいてしまう恐れもあるため、映画未見の方はできるだけご注意ください。

果たして優等生は魅力的なのか?

まずざっくりと語るならば、本作は大変良く出来たバディ・ムービーです。女性(メス)でか弱く体格的にも小さいが頭脳と工夫で乗り越えるウサギのジュディと、ひねくれ者だけど優しくて頭がキレるキツネのニックのデコボコ・コンビが手がかりを追って事件を解決していく、、、という教科書にでてくるような非常に理想的・類型的なフォーマットです。

そうなんです。先に書いちゃいますと、私の不満点はまさにここ。この一点だけです。「教科書にでてくるような非常に類型的な」よくできた映画。なんというか、毒にも薬にもならない「普通の良い映画」なんです。これは物凄い贅沢な話でして、「飽食の時代ここに極まれり」ってことなんですが(笑)、なんかこう「これっ」っていうチャームポイントがあんまないんですよね。「どうしてもズートピアがまた見たい!」ってなるような魅力的なポイントが、ですね。

全体を通じて凄く良く出来ていて、文句の付け所はほとんどないです。お話的には伏線はちゃんと回収されますし、きちんと「他者を属性で判断するな!」「善人は必ず報われる」という道徳的なテーマになっています。キツネのニックは全然言うほどひねくれても無ければ悪人でもないですし、悪役だってひねくれるだけのきちんとした事情があります。そして、ジュディの性別や体格が原因で捜査が行き詰まるようなこともないです。凄く優しい世界の中で物事が進んでいきます。テーマ自体は人種差別というか「マイノリティvsマジョリティ」という重い民族問題を扱っているわけですが、しかしテイストはどこまでも軽く、そしてとても誠実です。そういった意味で、本作は間違いなく良質なファミリームービーです。

なので、本作を減点式にした場合、まず間違いなくそんな貶す人はいないと思います。大幅にマイナスなポイントって本当にないですから。
一方でこれを逆側から、つまり「良かった所集めの加点式」にするとですね、、、これどうなんでしょうか? 少なくとも私個人的には「70~80点ぐらいかな」というぐらいの温度感なんです。それでも十分に高いですよ。

変な言い方ですが、例えば「ナルニア国物語 第1章(2005)」と「ハリー・ポッターと賢者の石(2001)」のどっちが好き?って聞かれたとしましょう。個人的には、「ナルニア~」のほうが間違いなく映画として出来がいいと思いますが、もう一回みるなら「ハリー・ポッター~」なんですね。それはやっぱりあの3人の仲間うちのワイワイをもっと見たいからです。本作は「ナルニア~」と同じで、なんというか優等生すぎて癖がなさすぎるというか、それこそ何年経っても印象に残るようなシーンがあんまり無くてですね、、、「出来はいいけど、そんないうほど好きでもない」ってところです^^;あくまでも贅沢な無いものねだりです。

とはいえよく出来てるよ!

いきなり「そんな好きじゃない」とか書いといてなんですが(笑)、本作は凄いよく出来てます。これだけは再三再四書いても書きたりません。よく出来てます。劇中のズートピアには、エリアが何個もあって、エリアごとに「ジャングルっぽい」とか「南極っぽい」とか特徴があります。これって要はほとんどディズニーランドなんですね。ディズニーランドにおける「クリッターカントリー」「ファンタジーランド」「トゥモローランド」みたいなテーマエリアがあって。もっというと、ジオラマ的な「遊園地」です。ですから、この世界観の時点で、これはもう箱庭ファンタジーなんだというのをハッキリ表明しているわけです。

そしてこの「遊園地」を舞台に、かわいい動物たちが暴れまわり、しかもいろいろなパロディやギャグをかましてきます。実写だったら間違いなく腹が立つレベルの寒いギャグも、かわいいネズミキャラがやれば途端にキュートになります。そういった意味では、「動物が楽しく住んでいる楽園」っていう設定だけでもう勝ったも同然な作品です(笑)。

事件の解決はサラっとスマートに

本作は「ゾディアック(2007)」のような大真面目なサスペンスではなく、あくまでもコミカルアニメですから、事件はあっさりと解決します。とくに悩むこともなく、ジュデイとニックはほぼ最短距離で事件解決に向かっていくんです。
この作品の一番うまいところはまさにこの「コミカルアニメだからそこはそんな本気でやることないでしょ?」という言い訳を使ってくる部分です。そもそも動物がしゃべって二足歩行する世界なので、細かい部分は別に雑でもいいんです。
これのおかげで話の粗が目立たないというのは間違いないです。ニンジン型レコーダーの耐久性はどうなってんだとか、トイレの下水管が太すぎるだろとか、誰がこんな凄いズートピアを作ったんだとか、そういう所ですね。動物がしゃべって二足方向する世界なんだから、レコーダーの電池とか下水管の太さとかどうでもいいわけです(笑)。とても上手いです。

【まとめ】

表現が難しいんですが、「アニメの持ってる嘘やアラを隠してくれる懐の深さ」を最大限活用した良作だなと思いました。本作を実写でやったらかなりのトンデモ映画になるはずです。逆に言えば、アニメだからこそ出来ることをちゃんとやっているわけで、そりゃあ支持率が高いのは当たり前のことです。テーマが重くて子供向けじゃないんじゃないかという話もありますが、私はこれは大人も楽しめるバリバリの子供向けだと思います。
GW中の時間潰しやデートなら、ちょうどいい湯加減ではないでしょうか。

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記事の評価
レヴェナント:蘇えりし者

レヴェナント:蘇えりし者

本日はアカデミー賞3部門制覇の

「レヴェナント:蘇えりし者」を見てきました。

評価:(78/100点) – 世界一暗いアイドルムービー


【あらすじ】

西部開拓時代、ミズーリ川の上流で毛皮狩りをしていた一行は、インディアン・アリカラ族に襲撃され、命からがらベースキャンプへと撤退するはめになってしまう。しかしその撤退の途中、一行の道案内をしていたグラスが熊に襲われてしまう。なんとか熊を殺したものの、彼は瀕死の重傷を追ってしまう。グラスが足手まといと判断した隊長のヘンリーは、グラスの息子のホーク、一行で最年少のブリッジャー、そして罠師のフィッツジェラルドの三人を見届人としてグラスの最期を看取るよう託し、一行を引き連れて先にベースキャンプへ向かってしまう。一行に早く追いつきたいフィッツジェラルドは、グラスに止めをさそうとする、、、

【三幕構成】

第1幕 -> アリカラ族の襲撃とベースキャンプへの敗走
 ※第1ターニングポイント -> グラスが熊に襲われる
第2幕 -> グラスが必死にベースキャンプへと戻る
 ※第2ターニングポイント -> グラスがベースキャンプへと帰還する
第3幕 -> グラスの復讐


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【感想】

それでは久々の完全新作映画、本日は公開ホヤホヤの「レヴェナント:蘇りし者」です。
レオナルド・ディカプリオのアカデミー賞主演男優賞初受賞がなにかと話題になりがちですが、撮影賞と監督賞もきっちりとっています。年明け早々ぐらいから劇場予告が流れていましたから、それだけは何十回と見ていました。なんとなく、「息子を殺されたディカプリオがトム・ハーディの一味をぶっ殺していくセガール的な復讐アクション劇なのかな?」と思っていたら、開けてびっくり完全な「大自然サバイバルもの」でした(笑。

ここでいつものお約束です。次パートからはガッツリとネタバレを含みます。本作は予告で流れていることが、ほぼ全てです。映画予告では禁じ手である「2幕目以降を見せる」というのも平気でやっており、あまつさえ密かにしれっと3幕目のシーンまで予告に入ってます(笑)。なのでネタバレもあってないようなものなのですが、念のためご注意下さい。

本作のとてもよいところ

本作には「もうこれだけで十分お腹いっぱい」という良い所が3つほどあります。

まずは、序盤というか映画の冒頭です。まるで一人称視点(POV)のようにグネングネン動くカメラの長回しワンショットで、アリカラ族の襲撃が描かれます。ここはもう臨場感満点で本当に怖いです。本気でよこから矢が飛んでこないかな~とかなりドキドキします。ここは100点満点。

そしてその次が今作最大の目玉であるクマちゃん襲撃シーンです。このクマがですね、本当に可愛くて、かつ本当に怖い(笑)。臭いを嗅ぐ仕草とか、ちょっとディカプリオをいじって転がす仕草とか、めちゃくちゃ本物っぽい(っていうかネコっぽい)リアルさがあります。これも満点。

最後にこれは全編を通してですが、やはりこの「スペクタクル感」ですね。これは「スペクタクル映画」の代名詞であるリドリー・スコットとはまた別の意味で、ものすごい威圧感のある「大自然」をきっちりと撮れています。見渡すかぎりの雪山と終わりの見えないミズーリ川。そしていつどこから襲われるかもよくわからないような木々。このスケールは本当にすばらしいです。おそらくこの映画を見て、これがアカデミー賞撮影賞を取ったことに疑問を持つ人は一人もいないのではないでしょうか?この画作りだけで、この映画のスペクタクル感は満点です。もうね、この景色を見るだけにでも映画館の大画面を使う価値があります。小学校の卒業旅行で釧路湿原を見たときの神々しさを、何故か突然思い出しました(笑)。

それで肝心のストーリーなんですがね、、、、

画作りが完璧となれば、当然次はストーリーテリングに行くわけです。でですね、これがですね、なんというかですね、、、、、、、、ひどい(笑)。

本作のテーマ「信仰心の回復」について。

プロット自体は大変シンプルで、瀕死のグラスことディカプリオが呻きながらひたすらベースキャンプを目指すという話が2時間ぐらい続くわけです。はっきりとはわかりませんが、劇中時間で1ヶ月弱ってところでしょうか? グラスは驚異的な回復力を発揮しながら、ひたすらベースキャンプを目指します。いろいろご都合主義的な展開が重なりまして、ついにベースキャンプの捜索隊が彼を見つけて2幕目が終わるわけです。

いまシレっとご都合主義と書きましたが、もちろんイニャリトゥ監督のことですから単純なご都合主義なんて、いけしゃあしゃあとはできません。劇中でこのご都合主義がなぜなのか、きちんと説明してくれます。それでもって肝心の理由ってのがですね、、、「神の祝福を受けていたから」。



そこかっていう、、、、ね(笑)。

本作では、史実というか伝説に基づいたグラスの奇跡の帰還にプラスして、明確に「信仰心」という根拠が示されます。グラスは瀕死の中で幾度と無く、亡き妻の幻と邂逅します。そして彼女の幻は、息子の復讐を求めず、ただグラスが生きる残ることのみに集中させようとちょっとしたサバイバル・トリビアを披露してくれます(笑)。しかしグラスは息子の敵討ちを生きがいとして、信仰心を抑えてあくまでも「人間の力」でサバイブしていくわけです。この悲しいスレ違いがず~っと続きます。しかし、ガーディアン・エンジェルとなった妻のおかげで、グラスは神様から祝福を受け続けます。そして最後の最後で、彼は復讐よりも信仰を選びます。それによって「超ご都合主義」ともとれる奇跡的な巡り合わせを引き寄せ、彼はアリカラ族の敵ではなくなります。そして、ラストシーンで彼は祝福を受け、幻の妻の姿を見るわけです。

このグラスの対比というほどではないのですが、劇中ではあと2名、「信仰」によって運命が変わる者がいます。一人はブリッジャー。ブリッジャーは逮捕される直前に神に許しの祈りを捧げ、そしてその祈りがとどきます。結果としてグラスの証言により無罪(減刑かも?)となります。

もう一人はフィッツジェラルドです。彼は自分勝手な糞野郎ですが、一方で彼の行動は非常に現実的かつ合理的です。信仰が非合理・非利益重視な行動であるとするなら、彼はまさにその対局の現実主義者かつ合理主義者なんです。彼は最終盤、グラスに対して復讐の無意味さを説きます。「復讐したからって息子は生き返らない。」「なんの意味があるのか? 」「命のリスクを犯すだけ無駄である」と。これは明らかに人情ではなく合理主義からくるセリフです。そしてこれによって、図らずもグラスは復讐の無意味さに気づいて信仰を取り戻すわけです。そして信仰を持たないフィッツジェラルドは、アリカラ族と偶然居合わせるという「天罰」に遭遇するわけです。彼は物語の中盤でリスの寓話をもちだして信仰の無意味さと馬鹿らしさを語りますが、結果として「信仰不足」によって地獄に落ちるのです(笑)。

大自然、神への信仰、とくれば「おまえテレンス・マリックか!?」とツッコミが入るわけで(笑)、これは例のごとく宗教の勧誘ではないかという、、、、ね。

ちなみにですが、本作の中でグラスは、ネイティブ・アメリカンと結婚した欧米人という扱いのため、一口に「宗教」といっても自然信仰とキリスト教が混ざってしまいます。この作品では、「欧米人にやられたバッファローの頭蓋骨の山」「荒廃した基督教会」が何度も登場しますので、おそらく土着の自然信仰の話かと思います。自然信仰ならば、当然雪山とか川にいる妖精さん(=この場合スピリッツでしょうか。タバコの銘柄じゃないですよ^^;)への信仰ですから、極寒サバイバルにはご利益がありそうです。

純粋なサバイバルものとしては結構頑張ってるよ!

とまぁここまで全体的なことを書いてきたわけですが、さて細部に目を向けてみると、、、これ結構よく出来ています。たとえば喉の傷を焼いて塞ぐのに火薬を喉にちょっとつけて自爆したり、たとえば背中が壊死して膿んできたのを枯れ草をつかって乾かしたり、ほかにも人工サウナで一気に全身消毒したりとかですね、「サバイバルあるある」としてのネタはふんだんに取り入れられています。極めつけは、馬の例のアレですね。マーユ(馬の油)って火傷や切り傷なんかの皮膚外傷にめちゃめちゃ効果的な「天然の軟膏」なんですね。しかも一番よく取れるのは馬の腹部です(笑)。ですから、「一晩中馬のぬくもりを全身に感じると一気に回復する」っていうあのシーンはよく出来てます(笑)。
細かいディティールは本当に凄いんです。ここまでイヤ~なリアリティを描いたサバイバルものってあんまり記憶にありません。個人的には、見ている間中「THE GREY 凍える太陽(2012)」を思い出してました。

ただですね、やっぱ長いんですわ、この映画(笑)。なんせ3時間近くあるわけで、しかもそのうち2時間くらいがディカプリオが逃げてるか呻いてるんです。たしかに「観客に、グラスのいつ終わるともしれないサバイバルの苦痛と閉塞感を擬似体験させるため」という理由はあるんですが、やっぱ圧倒的な大自然映像を2時間以上見せ続けられるってのはきついです。絵的には代わり映えしないですからね。そうすると、体感時間はどんどん伸びてっちゃうわけです。

難しいところなんですが、この映画ってたぶん「エンタメ映画」を目指してないと思うんですよね。映画って企画時点で結構明確に「賞レース用」「お金儲け用」って分けるんですが、これは明らかに前者のアート寄りな映画です。なので「ちょっと退屈」ぐらいの温度感を意図的に狙ってるような気がします(笑)。

【まとめ】

いいシーンもいっぱいあったんですが、でもやっぱり「長くて代わり映えしないな~」というのが強く出てしまいました。2回目を見たいかって言われるとあんま、、、。正直なところ、これが「監督賞」を取ったというのはあんまりしっくりきません。あえていうなら「よくディカプリオをここまで追い込んだ。ナイス演出!」ってところぐらいなので、実質的に監督賞のトロフィーもディカプリオにあげていい気がします(笑)。

これですね、大変下世話にいってしまえば「ディカプリオがこんなに頑張ってる!」というアイドル映画ど真ん中の「アイドル応援ムービー」なんですよね(笑)。でもアイドル映画としてはちょっと記憶にないくらい「暗い」し「傷だらけ」です(笑)。そういう意味では、大金をかけて強烈にスペクタクル度をあげた「私の優しくない先輩」だと思って見に行っていただけるといいと思います。
”イケメンアイドル・レオ様”からの脱却をテーマにして頑張ってきたディカプリオが、初めてアカデミー主演男優賞を獲ったのがアイドル映画だった」っていうのはなんかトンチが効いてていいですね(笑)。要チェック作品なのは間違いありません。ぜひぜひ劇場で御覧ください。

【おまけ】小ネタについて

■ ネタ1:砦のバーでの隊長とフィッツジェラルドの会話

物語の終盤で、ヘンリー隊長がフィッツジェラルドに「300ドルは必要経費(=おまえが余分な物資を買ったこと)になってる」と告げるシーンが有ります。直後フィッツジェラルドが外に出て立ち小便をしようとするもヨレヨレフラフラで、、、というシーン。ここがわかりづらいようなので私なりの解釈を。
そもそもこのご一行はクマとか鹿なんかの毛皮を半年~一年とかのスパンで採るための狩り集団です。会計上、300ドル(=当時としては田舎に農場が買えるくらい大金)を無理やり捻出しようとすると、「消耗品をいっぱい買った/使った」とするしかないわけです。隊長は上記のセリフでこの消耗品ってのを「フィッツジェラルドが罠の材料をいっぱい買った」としました。公式記録上は、ですね。
そうするとですね、実はこれは「フィッツジェラルドの罠師としてのキャリアがほぼ終了した」っていう死刑宣告なんですね。だってそんな大金を無駄な罠に使いまくるってことは、罠師としては無能極まりないですから。そんな人はだれも雇いません。しかも隊長はあくまでも隊長ですから、オーナー(=スポンサー/隊長の雇い主)が別にいるわけで、そちらから無駄に使った分の損害賠償/補填を求められる可能性もあるわけです。
これを受けてフィッツジェラルドは、完全に自分がこの一行にもういられないことを悟って、しこたまお酒を飲んで泥酔するわけです。立ちションもできないくらい。これが直接的に逃亡に繋がるんですね。つまり、フィッツジェラルドは完全に追い込まれており、逃亡は成り行き上仕方ないんです。

■ ネタ2:フィッツジェラルドのヘンリー隊長頭皮剥について

上記の会話にプラスしてグラスが生き残っていたことがわかった時点(水筒を見た時点)で、フィッツジェラルドは逃亡します。逃亡中にフィッツジェラルドがヘンリー隊長の死体の頭皮をハンニバル・レクター並に剥いでる点について「フィッツジェラルドが野蛮である」という指摘がありましたので補足をします。
このシチュエーション時には、フィッツジェラルドは追っ手が何人いるか分かっていません。当然自分の痕跡は消したいです。銃声までしちゃってるので、別の追手がいたら駆けつけるのは間違いないですから。なので、彼はアリカラ族の仕業に見せるために頭皮を剥ぐわけです。幸い、アリカラ族はフランス人から鉄砲を買ってますから、頭さえ剥いじゃえばそんなに不審な点もありません。

これが本映画のラストシーンにつながります。

■ ネタ3:フィッツジェラルドの死が切腹である点

これは大変細かいネタなのですが、フィッツジェラルドの死は「切腹」を連想させるようになってます。本作の映画音楽では、担当する坂本龍一のオリジナル・スコア以外に、同じく坂本自身が担当した「一命(※三池崇史&海老蔵のやつです)」のメインテーマがそのまま流用されています。他の映画からテーマソングをまるまる持ってくるっていうのは、つまりオマージュだったりテーマを借りてきているわけです。タランティーノと一緒(笑)。
本作でどこが一命=Hara-Kiri: Death of a Samurai かというと、これはフィッツジェラルドです。彼は自分で握ったナイフをグラスに掴まれて、腹を刺され、そこから横一文字に切られます。まんま切腹です。そしてその後、アリカラ族に頭皮を剥がれ(=頭をとられ)絶命・介錯されます。
映画上はこれはグラスによる死刑ではなくて、神の手に委ねた結果だと描かれています。絵的にはちょっと無理がありますが(笑)。
それでですね、じゃあ切腹とはなんぞやという話なんですが、外国人からみた場合これは「自分の行為の責任を潔く取ること」なんですね。つまり、フィッツジェラルドを切腹させたということは、「これは他者から悪として成敗されたのではなくて、自ら招いた責任を取らされたんだよ」という表現なわけです。ここでも繰り返し「フィッツジェラルドは悪ではなく、ただの合理主義者である」ということが強調される良いシーンとなっています。分かりにくいですが(笑)。

もっと言ってしまえば、「息子の敵討ちに行く」っていう時点で、まぁ「一命」ですよね(笑)

途中のデルス・ウザーラのパロディとかを見るにつけ、本作は結構な割合で日本映画/サムライムービーを意識してくれています。

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記事の評価
ヘイトフル・エイト

ヘイトフル・エイト

復活2回めはこちら

ヘイトフル・エイト」です。

評価:(82/100点) – 超強化型ショ○ンKの感動作


【あらすじ】

舞台は冬のワイオミング、賞金稼ぎのウォーレンは吹雪に追われるなか、馬が倒れて立ち往生してしまう。そんな時、1台の馬車が通りかかる。乗っていたのは同じ賞金稼ぎの「首吊り人」ジョン・ルース。彼は1万ドルの賞金首である女殺人鬼・デイジーを連行中であった。道中、新任保安官として街に向かうクリスも同行し、4人と御者の珍道中が始まる。
しかし、猛吹雪に追いつかれてしまった一行は、道中の”道の駅”ミニーの店で足止めを余儀なくされる。あいにくミニーは留守中であったが、そこには4人の先客がいた、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> ウォーレンとクリスが馬車に乗り込む
 ※第1ターニングポイント -> ミニーの家に到着する
第2幕 -> ミニーの家での一夜と事件発生
 ※第2ターニングポイント -> ウォーレンが撃たれる
第3幕 -> 解決編


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【感想】

こんにちは。きゅうべいです。もうすでに2番館上映になってしまっていますがご容赦ください。本日はタランティーノ・最新作にしてアメカジファン垂涎のヘイトフル・エイトです。なんでアメカジファン垂涎かと申しますと、実はこの映画、ほぼ全編の衣装があの「RRL(ダブルアールエル)」なんですね。ご存知「ラルフローレン」のカントリー・トラディショナル・ラインでして、元も子もない言い方をすれば、西部劇のコスプレ服みたいなのを高く売ってるブランドです(笑)。その「コスプレ服」が本当の西部劇に使われて、しかもそれがボロ布のようにバンバン血糊やら酒やらで汚れていくという、、、とっても贅沢なひとときを楽しめますw

いきなり「楽しめます」と書いちゃいましたが、本作は無類に面白い「雪山サスペンス」です。正確にはサスペンスってほど謎のある事件ではないんですが、いうなれば超よく出来た最上級の「古畑任三郎」って感じです(笑)。タランティーノ作品を見たことがある方はピンと来てもらえると思います。タランティーノ監督を紹介する際には、よく「過去の名作」や「B級キワモノ映画」のマッシュアップ部分が取り挙げられますが、それ以上に彼の特徴というのは「ダラダラと続く登場人物のひとりがたり & 無駄話」にあります。武勇伝であったり、脅しであったり、はたまたガールズトークであったり、いろいろパターンはあるんですが、劇中でかならず「ダラダラとした無駄話」がはいります。これって、すごく雪山サスペンスと相性がいいと思いませんか? だって、雪山サスペンスってことは基本的には舞台や登場人物が狭いわけで、必然的にみんなでしゃべりまくるしか無いわけです。
ということで、本作は「タランティーノ meets ソリッドシチュエーション」ってだけでもう勝利が約束されたようなものなんです(笑)。

ということで、お約束です。
本作は、第2ターニングポイントをきっかけに、ストーリーがガラッと代わります。ネタバレは極力しないように書きますが、しかしこの「展開」については少々書きたいと思います。もし未見の方は是非劇場にいっていただいてご覧になってからにしてください。最近は劇場公開が終わってからDVDになるまでも3ヶ月ぐらいと早いですから、もしお近くに公開館がない場合でも、是非「これはは見るべし」リストに加えていただいて、是非ご鑑賞ください。いやね、マジで面白いですよ。

話の概要

本作のタイトル「ヘイトフル・エイト」はもちろん「ちょ~イヤ~な8人」を指しています。そしてタイトルどおり、本作に登場する人物は、御者の「O.B.(オービー)」を除いて、ものすごいクセモノがそろっています。南軍・北軍の対立あり、超差別主義者のオラオラ系あり、そして明らかに口だけがうまい曲者有り。役者の豪華さもさることながら、「こんだけ揃ってて殴り合いにならないほうがおかしいわ」というレベルで強烈なメンバーがそろっています。そしてお得意の「無駄話」の数々。映画自体は約3時間と強烈に長いのですが、その長さが「早く外に出たいな~」というまさに登場人物たちが吹雪の小屋で思っていることそのまんまの共感につながり、そして三幕目の血みどろのカタルシスに繋がるわけです。

事件という事件は「コーヒーポットに毒が入れられた件」という一点のみなのですが、これを巡った心理戦の数々に、かなりぐっと引き込まれます。

この映画では、本当に「語り」だけしか出てきません。なので、登場人物みんなが喋っていることに裏付けがまったく無いんですね。もしかしたら全部本当かもしれないし、全部ホラかもしれない。ただ挑発するだけの作り話かもしれないし、照れてて真実を喋っていないだけなのかもしれない。そんな疑心暗鬼が最高潮に達するのが、まさにラストなわけで、これはもうハッタリなのかマジなのか誰にもわかりません。

でも、そんな中で、ラストシーンに出てくるある「ウソ」が、それでも人を感動させ、奮い立たせてくれるわけです。ウソを利用してのし上がってきた彼は、しかしその「のし上がった過程」は真実なわけで、、、とか書くと某ショー○K氏になってしまいますが(笑)、図らずもこの映画はそれを拠り所にした意地を見せてくれます。この映画風にいうならば、例えばショ○ンKが日本代表としてTPP議論に乗り込んでいってアメリカとか東南アジアを丸め込んできてしまったら、やっぱり英雄になれるわけですよ。たとえその基盤がウソまみれの無茶苦茶だったとしてもです。まぁシ○ーンKにはさすがに荷が重いですけどね(笑)。

それでもって、これって、よく考えるとタランティーノそのものなんですね。タランティーノって「自らが好きな過去の作品」を切り貼りして作品を作るわけで、それって作家/クリエーターとしていうなれば「ウソの作品」なわけですよ。超高次元でサノってるというかね(笑)。それでも彼の作品は観客の心を打ちます。実際にキル・ビルやイングロリアス・バスターズはもう完全にオリジナルの感動もまるごと再現してしまったわけです。そう考えると、ラストシーンのとある手紙のシーンというのは、これまさにタランティーノの独白といっていもいいかと思います。そしてタランティーノの映画で感動するのとまったく同じ構図で、やはりその手紙にも感動してしまいます。
これだけでも十分に凄いのですが、タランティーノの真骨頂はここからさらに「でもそれ偽物じゃん」という自己ツッコミまでして、まったく嫌味なく自虐ネタにしてみせる点にあります。自分の立ち位置を完璧に把握して、その上でハイクオリティな作品を量産してみせる。これをやられては他は太刀打ちできません。しかもアイデアというか元ネタは映画史そのものであってほぼ無限ですから(笑。

【まとめ】

おそらく話の筋だけであれば90分ぐらいに収まってしまいます。それはそれで面白そうではありますが、しかしこの170分という長~い時間を通じると、意外とクリスやウォーレンが愛おしく思えてくるのです。衣装やギターなどの小物までひっくるめて徹底される「古き良き西部劇サスペンスのレプリカ」は、必見の出来です。猛プッシュいたします。

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記事の評価
バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生

バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生

では四年ぶりの更新はこちら

「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」です。

評価:(60/100点)
ベン・アフレックは頑張った!あとムチムチ!!!


【あらすじ】

地上に、神が降りた。前作「マン・オブ・スティール」にて圧倒的な存在感をもって地上に降臨したスーパーマンは、異星人・ゾッド将軍の地球侵略を見事に阻止した。しかしその一方で、多くの一般市民を戦いに巻き込み、犠牲者を出すに至った。
得体の知れないスーパーマンは、熱狂的信者を生み出す一方で、同じくらい多くの恐怖と反発を招いた。そして遂に、抑止力の必要性が訴えられるようになる。
その時、あの男が遂に動き出した、、、

【三幕構成】

第1幕 -> バットマンの暴走
 ※第1ターニングポイント -> クリプトナイトの塊がメトロポリスに来る
第2幕 -> バットマンによるクリプトナイト奪取作戦と打倒スーパーマン
 ※第2ターニングポイント -> バットマンが改心する。
第3幕 -> マーサ救出作戦とドゥームズデイとの死闘


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【感想】

ということで、改めましてこんばんは。きゅうべいです。ブログ復活第1弾は「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」です。アメリカにおける「ジャンプとマガジン」的な立ち位置のマーベルとDCコミックスにおいて、全てを超越して知名度を誇るのは「スーパーマン」「バットマン」「スパイダーマン」です。日本でいう仮面ライダーとかドラゴンボールみたいな感覚ですね。話しは知らなくても、キャラクターを知らないってことはまずありません。ところがどっこい、マーベルはアイアンマンを筆頭に良作を連発し、「軽いノリで家族や恋人と楽しめるヒーロー映画」を確立してしまいました。しかも大正義スパイダーマン抜きで^^;「ダークナイト」だって面白いですが、やっぱ暗いじゃないですか。これはDCコミックスにとってはかなりまずい状況です。そんなこんなで、マーベルに対抗するために、DCもDC版アベンジャーズであるところのジャスティス・リーグを本格的に始めるわけです。余談ですが、この「DC版アベンジャーズ」という表現が、もうすでにDCコミックスにとっては屈辱なわけです(笑)。
そんな状況の中で、「マン・オブ・スティール」はかなりアレな出来になってしまったわけで(笑)、本作はまさにDCにとっての「負けられない戦いがそこにある」って環境です。プレッシャー5割り増し。7回8点差からの大逆転が求められる大事な場面。だれしも「ザックで大丈夫か?」「ノーランのが良くね?」「っていうかベン・アフレックじゃね?」と怪しい空気が流れる中、ザック・スナイダーの続投です。

さて、このお決まりのセリフを書くのも4年ぶりです。以降、本作を全力で擁護するために完全にネタバレを含みます。未見の方は、ぜひ映画館で見ていただいて、そのあとでお読みください。
また、本作は「マン・オブ・スティール」の完全な続編です。「マン・オブ・スティール」を見ていないとそもそもの話についていけませんので、映画館に行く前にまずは前作をチェックしてください。

話の概要

本作は「マン・オブ・スティール」の「一方その頃劇場」から始まります。「マン・オブ・スティール」にてゾッド将軍とスーパーマンがまさに死闘を繰り広げるそのウラで、メトロポリスにあるバットマン=ブルース・ウェインの会社ビルが倒壊し、従業員に多数の死者が出ます。ここからブルースは私怨の入り混じった「こじらせ正義感」でもってスーパーマンを敵視していくようになるわけです。
そして、その私怨を利用する悪魔レックス・ルーサーによって、ついにはバットマンとスーパーマンは戦わざるをえない状況に突入してしまいます、、、、。そう、「ダークナイト3部作(2005~2012)」の流れを否が応でも意識してしまう本作において、倫理を問う「悪魔」の役はレックス・ルーサーが背負います。レックス・ルーサーを演じるジェシー・アイゼンバーグは、今作でも早口・頭の回転激速・ちょいとイカれたサイコパスという得意芸を披露してくれます。「まんまソーシャル・ネットワークのザッカーバーグやんけ!」という話なんですが、もうなんかアイゼンバーグが出てきただけでキャラがわかるというすごい変な立ち位置になってしまいました(笑)。ある意味では藤原竜也の最終進化系かもしれません(笑)。

また、このあたりは「アベンジャーズ(1作目)」でも苦労していた部分なのですが、ヒーロー同士が戦うというのは、作劇的には非常に難しいのです。プロレスが好きな方には「チャンピオンvsチャンピオン」というとすぐにピンと来ていただけるかと思いますw

ちょいと話しが脱線しますが、「チャンピオンvsチャンピオン」というのはプロレスに古くからある様式美の一つでして、数々のアレげな遺恨を残してきた曰くつきの試合展開のことです(苦笑)。アメリカのプロレス界には昔(※といっても厳密には名前だけはいまも残ってます)NWAという業界団体がありまして、ここが多くの加盟団体を盛り上げるために「統一王者」を核とした「中央ドサ回り体制」というのを組んでいた時代がありました。要は各団体ごとに各々存在しているチャンピオンのさらに上に「NWA世界チャンピオン」という「チャンピオン・オブ・チャンピオンズ」を作って、これが全米を巡業していくんですね。そうすると、一年に一回、「世界チャンピオンがオラが街にやってくる」というイベントが有るわけです。こうしてマンネリ化しがちな団体のストーリーに刺激を加えるんです。そこで生まれるのが「チャンピオンvsチャンピオン」という型です。「世界チャンピオンは負けてはいけない」「その地方のチャンピオンもボロ負けして”格”を落としてはいけない」という制約のもと、試合を組み立てないといけないのです。そうすると、これはもうパターンが決まってきます。

1) 世界チャンピオンの反則負け
2) 接戦での両者リングアウト
3) いい試合を展開するが邪魔者が乱入して無効試合になる。チャンピオン同士が共闘して邪魔者を排除し、最後は二人でガッツポーズ&固い握手
4) 大接戦を演じるが、地元のヒーローが最後にあと一歩およばずに世界チャンピオンに負ける

世界チャンピオンが悪役(ヒール)の場合、1)のパターンが一番楽で疲れません。実際に歴代のNWA王者はヒールで1)を行うことが圧倒的に多かったです(笑)。2)はお客さんが不完全燃焼になってしまうため、ここぞの場面では使えません。3連戦等のときに、初戦で使うのが上等手段です。3)は一番みんながハッピーになるパターンです。これはどちらのチャンピオンも価値を損なうことなく善玉(ベビーフェイス)でいられるとても良い選択肢です。4)はこれもWin-Winなのですが、超疲れるという弱点があります(笑)。世界チャンピオンはほぼ毎日試合をしないといけないので、こういう30分を超えるハイスパートゲームは1年に1回くらいしかできません。これはビッグマッチ用です。

さて、では今回の「チャンピオンvsチャンピオン」、つまりバットマンvsスーパーマンはというと、、、こりゃもう見なくてもなんとなくわかると思います(笑)。その予想があっているかどうか、ぜひ劇場でお確かめください。

ちなみに、本作の元ネタのひとつである「ダークナイト・リターンズ(日本では「バットマン:ダークナイト」名義で小プロから刊行http://books.shopro.co.jp/?contents=9784796870610)」では、とある事情で両者リングアウト状態になっています(笑)。

怒涛の擁護を展開するぜ!

さて、それではいよいよ本日の本題に入ります。ここからが私のアクロバット擁護と詐欺的弁舌の腕の見せ所(笑)。では行ってみましょう!

■ 争点1:「そもそもスーパーマンが暗くね?」問題

まず見た方が一番怒っている部分についてやっつけましょう。「そもそもスーパーマンが暗くね?」っていう問題です。これはですね、、、その通りです(笑)。返す言葉もございません。マーベルの一連のアメコミ映画と比べて、本作は明らかにギャグ要素が少ないです。っていうかほとんどないです。ギャグとして成立しているのは、アクアマンの登場シーンと、バットマンがスーパーマンと戦ってる最中に「ちょ、まって、、、たんま!たんま!」ってやるシーンぐらいです。あとは全体的に超シリアスです。

これは一般論としてなのですが、マーベル系は「ノリの軽いスーパーヒーローがギャグを飛ばしながら敵をやっつける」というパターンが多く、一方のDCコミックス系は「ヒーローが頭脳的な敵の手のひらの上で踊らされて苦戦するが、正義の心でなんとか勝利する」というパターンが多いです。キャラの特性上、これ結構仕方ないんですよね。特に今回の「バットマンvsスーパーマン」はどうしたって序盤は「イデオロギー闘争」にならざるを得ないわけで、これは暗くなるしかないんです。余談ですが「イデオロギー闘争」ってのもプロレスオタクが大好きなキーワードです。脱線すると超長くなるので、それはまた別の機会に(笑)。

今回の「バットマンvsスーパーマン」で一番重要なのは、これを「リアル路線」でやるのか「コミカル路線」でやるのかという点です。そしてワーナー/DCコミックス連合は一貫して「リアル路線」を通してきました。この方向性において、本作の「暗さ」はとても重要な意味をもちます。

本作を成立させるためには、観客をバットマン側に感情移入させないといけません。プロレスにおいての「オラが街のヒーロー」はバットマンであり、スーパーマンは「よそからやってきた宇宙チャンピオン」なのです。「DC宇宙ヘビーウェイト・チャンピオン」がスーパーマンで、「DCゴッサムテリトリー・チャンピオン」がバットマンです。この構造において、スーパーマンは「敵かな~?味方かな~?」という立ち位置をキープする必要があります。真正面から戦えば、生身の人間であるブルースが目から怪光線を出す宇宙人のカル・エルに勝てるわけがないですから。

そのため、本作のスーパーマンは「得体の知れない宇宙人」である必要があります。これこそ、まさに「神のいかづち」というスーパーマンのキャラクター性なわけです。クラーク・ケントがとってもナイスガイなのは世界中の皆が知っているんですが、一方で「でもこいつちょっと、、、」と思わせるために、本作では「後光を背負って空からゆっくり降りてくるスーパーマン」という描写が多用されます。まるで天使か神が降臨したかのように、後光で表情がよく見えないスーパーマンは不気味さを漂わせています。スーパーマンの暗さは、この得体の知れなさを演出するために非常に重要です。

■ 争点2:「バットマンが敵を殺してね?」問題

一方のバットマンですが、こちらは「神」であるスーパーマンとは対照的に、泥臭いまでの人間性を見せてくれます。本作のバットマンは、少なくとも後半のとある転機を迎えるまでは、はっきりと「狂って」います。正義を遂行するためには悪人に焼きごてを押し付けて「拷問」することも厭いません。そして、映画を見た多くの方がツッコミをいれているように、序盤のバットマンは明らかに敵を殺しています。夢の中だろうが現実だろうが、バットマンは銃を撃ち、敵の車を爆破し、ぶっ殺しまくります。これはみんなが想像する「バットマン像」とは違います。

本作のストーリーの核となるのは、「オラが街のヒーロー」であるバットマンの復活劇です

映画の冒頭、ブルースの両親が殺されるおなじみの展開のあと、両親の葬式→地下(井戸?)に落ちる→コウモリと出会うというおなじみの展開があり、そしてタイトルが出ます。映画のラストでは、ブルースが世界中に散らばるヒーローを集めて「ジャスティス・リーグ」を作る決意をする所で終わります。この単純な構成において、映画の最初と最後を担うバットマンは間違いなく本作の主人公です。

映画の1幕~2幕までのブルースは明らかに狂っており、それは
「20年近く戦ってきたのに悪は一向に減らない」
「本当に自分のやりかたは正しかったのか?」
「ポッと出のスーパーマンは犠牲を多く出しているのにヒーロー扱いされている。自分も犠牲を厭わずに強行手段に出るべきでは?」

という自己葛藤の末の「正義感の極端な飛躍」によるものです。ここに及んで、バットマンは「敵を殺さずに逮捕する」というポリシーを捨て、「できるだけ逮捕するが必要ならぶっ殺す」というポリシーに切り替えるわけです。
物語の序盤で、この転向のことをアルフレッドがはっきりとセリフで嘆きます。

“That’s how it starts. The fever, the rage, the feeling of powerlessness that turns good men… cruel. ”

直訳:それ(=スーパーマンの登場)がきっかけです。熱狂、怒り、無力感、それが良い奴(=ヒーロー=バットマン)を残酷な男に変えました。

スーパーマンの登場によってタガが外れたバットマンは、しかし最終盤において、そのスーパーマン自身が「赤い血を流す存在(=全知全能の神ではない)」であり、「母親を心配する一人の良き男(=しかもお母さんの名前がたまたま自分と同じ)」であるという事実を知り、我に帰ります。そしてみんなのバットマンが帰ってきます!本作におけるバットマン最大の見せ場――マーサ救出戦において、バットマンはワイヤーガンで敵を吊るしあげ、殴って気絶させ、そして犠牲者を出すことなく(※ひそかに2人ぐらい手榴弾の自爆で死んでるっぽいですがw)事態を制圧します。そして助けたマーサにギャグを飛ばします。これこそ本作における最大のカタルシスであり、「バットマンお帰り!」という拍手大喝采のシーンなわけです。

そこから先は、ついにジャスティス・リーグとしての初戦、「ヒーロー軍団vsスーパーモンスター」に突入します。これははっきりいって蛇足みたいなものです。ストーリーの本筋はもう終わっていますから、あとは心いくまで「怪獣大戦争」を愉しめばOKです。

■ 争点3:「クリプトナイトを強奪するのにバッツが発信機つけた上でモービルで追っかけるのは変じゃね?」問題

あの場面、バットマンは「いま強奪できるならしちゃいたいけど、万が一ミスったときように発信機をつけとこう」っていうことなんですね。なので、「発信機をつけたのに追っかけるのはおかしい」ではなくて「追っかけるのにわざわざ発信機を付けるなんて、バッツはなんて用意周到なんだ!」と褒めるべきです(断言)。そうなんです。よくやったんです。さすがブルース、百戦錬磨・20年の経験が活かされたナイスチョイスです。そのあとガンぶっ放して発信機が壊れそうになってるのはギャグパートです(笑)。

■ 争点4:「バットマンとスーパーマンの戦いの端初がただのバカじゃね?」問題

返す言葉もございません(笑)。というか、バットマンがスーパーマンの話を聞いてくれなかったのが原因ではじまった「売り言葉に買い言葉」的な喧嘩である事実は否めません。でもさ、仕方ないじゃん。あの場面じゃ「殺る気マンマン」なわけで、まさか「かぁちゃん助けるの手伝って」なんて言ってくるとは思わないべさ。それにさ、スーパーマンは目から怪光線だせるわけで、一瞬でも躊躇ったら即死だからさ。そりゃ先手必勝でいくべさ。仕方ないべさ。そうさ、仕方ないだ(自己暗示)。

■ 争点5:「そもそもマーサを助けるのってスーパーマン単独で楽勝じゃね?」問題

返す言葉もございませんパート2(笑)。スーパーマンが助けを求めるぐらいだから、対スーパーマン専用の罠とか仕込んであるのかなと思ったら、まさかの何もなし(笑)。映画の冒頭でロイスを助けた時と同じやり方でスーパーマン単独で助けることができたのは間違いありません(笑)。でもさ、スーパーマンはウブな坊やだからさ、まさかレックス・ルーサーが100%ハッタリだけであんな大胆な人質の取り方をしてるとは思わないじゃないですか。ということで、あれは間抜けというよりも「さすがレックス!ハッタリだけでスーパーマンを萎えさせるなんて!」とヤツを褒めるべきでしょう。さすがレックス!そこにシビれる!あこがれるゥ!。なんか擁護がキツくなってきた(笑)。

■ 争点6:「スーパーマンが死ぬって酷くね?」問題

最後の最後にスーパーマンが殉職することについて、「これからジャスティス・リーグをやるのにいきなりメインを殺すなよ!」というツッコミが多数見受けられました。でもですね、シリーズを続けるからこそ、これは必要なんです。

これは私が勝手に呼ぶところの「勇者のジレンマ」ってやつです。

皆さん、ドラゴンクエストっていうRPGゲームをご存知でしょうか?エニックスの人気テレビゲームで、だいたいのシリーズ作品は「ど田舎の少年が勇者に成長して、魔王を倒しに行って、世界を救う」という王道ファンタジー・ストーリーです。それでもってですね、この王道ストーリーにおいて勇者にはあるジレンマが発生します。それは「魔王を倒した勇者は、魔王よりも強いうえにもはやライバルがおらず、やろうと思えば世界征服が可能である」ということなんです(笑)。ドラゴンクエストでは、このジレンマを解消するために、勇者が行方不明になったり、勇者が田舎にもどって百姓になったりします。たまに王様になるパターンもありますが、その場合は「いつまでも幸せに暮らしましたとさ」みたいなヌルい注釈がつきます(笑)。

この「勇者のジレンマ」はかなり切実な問題です。現実世界でも「革命家が独裁者になる」というパターンは世界史で繰り返されてきました。勇者は本気をだせば世界征服ができてしまうわけで、それはつまり「世界の脅威を倒したものは、すなわちそれ自身が新たな世界の脅威である」ということなんですね。

本作「バットマン vs スーパーマン」において、ドゥームズデイを倒したスーパーマンは完全に「世界の脅威」なんです。スーパーマンがいると、彼が強すぎるがゆえにこの先ストーリーが転がせなくなってしまいます。つまり、セガール映画におけるスティーブン・セガールのように(笑)、スーパーマンがいると「いつスーパーマンが本気をだすか」という点以外にストーリーが成立しないんですね。ですので、シリーズを続ける以上はスーパーマンには一旦お休みしてもらう必要があるんです。これにたいしてスーパーマンのファンの方が怒る必要はまったくありません。むしろスーパーマンを最大限に評価しているからこそ「一旦お休み」という選択肢を取らざるを得ないわけですから、最高のリスペクトを受けている証拠です。

■ 争点7:「でもさ、クリプトナイトの槍を貫通させる必要なくね?」問題

返す言葉もございませんパート3(苦笑)。本作では、「自分の胸に突き刺さったドゥームズデイの右腕」をわざわざ引き寄せて(自分に深く突き刺して)まで、スーパーマンはドゥームズデイにクリプトナイトの槍を深く突き刺し、貫通させます。でも、クリプトナイトってその形状に破壊力があるんじゃなくて触れたり近くにいるクリプトンを弱体化させるわけで、っていうことは貫通させずに体内に残しておいたほうが破壊力高いんですよね(笑)。たぶんスーパーマンも久々の熱血展開でテンション上がっちゃって判断をミスったんでしょう。スーパーマンの人間らしさが垣間見えるすばらしいエピソードです(半分泣き目)。

【まとめ】

勢いで書いていたらすでに6,000字を超えてしまったのでまとめに入ります(笑)

本作はスーパーヒーロー軍団「ジャスティス・リーグ」の序章であると同時に、実質的に「新生ベン・アフレックのバットマン」1作目です。ですので、本作は「ジャスティス・リーグ誕生の契機がきちんと描かれているかどうか」と「ベン・アフレックのバットマンは魅力的かどうか」が重要です。その点はどうでしょうか? 本作は随所でボロクソに叩かれてますが(笑)、でも少なくとも「ベン・アフレックのバットマン」と「ワンダーウーマンの太もものムチムチっぷり」についての悪口は見たことがありません!っていうか最高です!太もも最高!!!

ということで、ベン・アフレックが最高で、太ももがむっちむちで、なんの文句がありましょうか??? いや、あるはずがない(反語)。

暗い? 話が長い? バットマンとスーパーマンが戦ってない? ロイスが間抜けすぎる? そんなことはええんや!!!
太ももじゃ太もも!!!!

おすすめで~~~す。(適当)

※ちなみに、大マジな話、そろそろジョゼフ・ゴードン=レヴィットのナイトウィングがみたいので、是非ベンアフ版バットマン単独作品は「Court of Owls」原作でお願いしたいです。

※ザック・スナイダーという監督は、「300」もそうですし「ウォッチ・メン」もそうですし、もちろん「エンジェル・ウォーズ」もそうですが、あんまりお話に興味がないんですよね(笑)。”グラフィックノベルの映像化”の極北が「シン・シティ(2005)」シリーズなわけで、きっと大真面目に巨大バジェットを使ってそれをやりたかったのかなぁと。「いかに漫画を格好良く実写化するか」というオタクマインドで突き進む人なので、そういう意味ではヘンリー・カヴィルもベン・アフレックも十二分に格好いいし、いいじゃんとゆる~く思います(笑)。

【おまけ】

※さんざっぱら言われてますが、本作の元ネタは、7割が「ダークナイト・リターンズ」、2割が「キングダム・カム」、残りが「フラッシュ・ポイント(ヴィレッジブックス刊)」他って感じです。とりあえず、アメコミを掘ってみたい方は小学館集英社プロダクションの「ダークナイト」(←ダークナイト・リターンズと続編のダークナイト・ストライクス・アゲインの合本豪華版)を読んでおくと良いと思います。気に入ったら「バットマン:ゼロイヤー(The New52!)」に行くと、なんとなくイントロから読めます。リブートしたバットマン漫画は、まだ本編6巻+外伝3巻しかないので手を出しやすいです。

以下はアフィリエイト/ステマ等は一切ございませんので安心してご覧ください(笑)。

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ゴーストライター

ゴーストライター

今日は一本です。ロマン・ポランスキーの陰謀サスペンス、

ゴーストライター」でした。

評価:(90/100点) – ポランスキーの真骨頂!


【あらすじ】

主人公はエージェントのリックの紹介で元イギリス首相・アダム=ラングの自伝のゴーストライターを引き受ける。前任者が酔って船から転落死してしまってリライトが中断してしまっているという。
自伝を書くためにアダムの滞在するアメリカのマーサズ・ヴィニヤード島を訪れた主人公だったが、今度は着いて早々にアダムが違法にスパイを米国に引き渡した嫌疑で国際裁判所に告発つされてしまう。果たして自伝は無事に完成するのだろうか?そして前任者・マイクは本当に事故死なのだろうか?

【三幕構成】

第一幕 -> 主人公の抜擢とヴィニヤード島への到着
※第1ターニングポイント -> ラングが国際裁判所に告発される
第二幕 -> 主人公の調査
※第2ターニングポイント -> 主人公がライカートと出会う
第三幕 -> 解決編


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【感想】

今日は一本、ロマン・ポランスキーの「ゴーストライター」を見てきました。昨年の東京国際映画祭でも上映していましたし、さらに昨年度ベルリン国際映画祭で銀熊賞を獲っています。その評判からなのかポランスキーのネームバリューからなのか、かなりのお客さんが入っていました。テレビ映画からもどんどんサスペンス映画が減ってきていますが、やっぱり面白いサスペンスには需要があるんですね。大変嬉しい限りです。

わりと静かな陰謀サスペンス

本作はゴーストライターとして首相の近くで働くこととなった男が、前任者の謎の死を興味本位で調べて行くうちに恐るべき陰謀に巻き込まれてしまうという陰謀サスペンスです。あっけらかんとした元首相アダムにその愛人とおぼしき秘書のアメリア。それに不満で冷め切っているアダムの妻・ルース。そして政敵のライカート。たったこれだけの主要キャストながら、主人公が興味本位で首を突っ込んでしまったばっかりに発覚する事実はイングランドの政治に大きく関わる重要な陰謀です。
本作は起こることの重要性に反してとても静かに進んで行きます。主人公が実際にやることと言えば前任者の部屋で秘密の書類を見つけてしまうことと、そしてたまたま乗った前任者の車のカーナビでその足取りを追ってしまうことぐらいです。「介入型サスペンス」でありながらも 限りなく「巻こまれ型」に近い展開を見せます。
そうです。本作の素晴らしい所は、主人公はあくまでも一市民であり、終始ただのしがないゴーストライターなんです。何か驚異的な能力を発揮するわけでもなければ、特別な立場にあるわけでもありません。「たまたま」がどんどん重なっていって、 しまいには国家を揺るがす陰謀と向き合うこととなってしまいます。その過程の好奇心と戸惑いがあまりにも普通かつ下世話すぎて、どうしようもなく見ている人間の興味を惹きつけます。本当によくできたサスペンスです。

そもそもアダム・ラングってブレア元首相のパロディ、、、。

下世話という意味ではここを外すわけには行きません。本作のラングは実在のイギリス首相トニー・ブレアをパロっています。実際にブレアは「テロとの戦い」を前面に出して米国の完全追従を打ち出し当時は「ブッシュの飼い犬」とまで言われていました。イギリスの左翼に言わせればそれがロンドン同時爆破テロにつながって行くわけです。 ブレアの良し悪しは置いておくとしても、前首相のほとんど悪口に近いネタを 使って陰謀サスペンスを作れるというところが、イギリスの懐の深さというか、エンターテイメントのアコギなところです。まぁポランスキーは少女強姦罪で指名手配中で米国から34年間も逃亡してる身ですので、そりゃアメリカが嫌いなのは当然ですけど。

【まとめ】

大変愉快なサスペンス映画です。あくまでも無力な主人公を通じて、ちょっとした正義感と野次馬根性を出してしまったがばっかりに巻き込まれる大き過ぎる陰謀に終始ドキドキしっぱなしです。間違いなく映画界トップクラスのポランスキーの演出とユアン・マクレガーの良い人すぎる困り顔を是非是非劇場でご覧ください。万人に受ける必見の作品です。
オススメです!!!
いや~今週は超豊作です。

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ハンナ

ハンナ

今日も2本見て来ました。1本目は

ハンナ」です。

評価:(65/100点) – ニキータっぽいのかとおもいきや意外と淡々。


【あらすじ】

ハンナは人里離れた雪の森で父親に育てられた。世間から隔離された環境の中で彼女は父から格闘術や暗殺術をしこまれる。ある日、父は無線機を出して「このスイッチをいれればここから出て行ける。そのかわりマリッサを殺すかマリッサに殺されるかしなければ自由はなくなる。」と告げられる。迷った末にスイッチを入れるハンナだったが、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> ハンナの森での暮らし。
 ※第1ターニングポイント -> ハンナがCIAに捕まる。
第2幕 -> ハンナのベルリンへの旅。
 ※第2ターニングポイント -> ハンナがベルリンへ到着する。
第3幕 -> ハンナの出生の秘密


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【感想】

今日も今日とて2本見てきました。1本目は少女暗殺者ものの「ハンナ」です。ジャンルとしてはアクション映画だと思うんですが、小箱ながら客席は完全に満員でした。学生の夏休み最後の土日だからなのか作品人気だからなのか、ちょっとビックリしました。
本作品は少女がなんらかの組織に暗殺者として育てられる、、、というある種のジャンル映画です。このジャンルのパイオニアはリュック・ベッソンの「ニキータ(1990)」で、その後似たような設定の作品が映画のみならずアニメや漫画でも溢れかえりました。このジャンルでは「世間知らずだけれども暗殺術・格闘術に関しては超一級」という少女と普通の少年・少女とのカルチャーギャップコメディを混ぜつつも最終的には普通の少女になったりやっぱり暗殺者に戻ったりします。
では本作はどうかといいますと、、、シアーシャ・ローナンもエリック・バナもケイト・ブランシェットも魅力的ではあるんですが、どうにもいまいち淡々とした印象をうけます。一番の理由はハンナがあんまり「普通の女の子」になろうとしないことです。この手のジャンルものですと通常は途中で「普通の女の子」としての楽しみを知ってそれに憧れる過程があるのですが、本作ではずっと無表情でいまいち笑いません。唯一出てくるのが道中で出会うソフィーとの友情物語です。ですが、肝心の場面でハンナが助けにいかなかったりするので、ハンナにとってどこまで重要なのかあんまりわかりません。そうすると、ハンナが本当に不思議ちゃんにしか見えなくなってしまうので微妙に盛り上がりに欠けます。
一応本作のストーリー構造上は、「何も知らなかったハンナがソフィーと出会って友情を知るけど出生の秘密を知ることで再び暗殺者の顔にもどる」という形にはなっています。もっと思い切って中盤でハンナがキャピキャピしちゃっても良かったかなと思います。
そして肝心のアクションシーンですが、こちらはエリック・バナが面白さの大部分を牽引しています。とにかくエリック・バナ演じる父ちゃんが最高に渋くて最高に格好いいです。細身のスーツでビシっと決めながら相手をぶち殺していく姿は本当にキマっています。一方のシアーシャ・ローナンも負けじとかなり頑張っています。1対1で正面きっての戦いこそないものの、結構あいてを”こねる”動きが出来ていてかなり素質を感じました。
ただ、このアクションシーンでも実は一点だけどうしても惜しいところがあります。鉄砲にしても矢にしてもナイフにしても拷問にしても、肝心の「死ぬ瞬間」が映らないんです。相手に当たるところはカメラが別の方向を向いていてその後に死んでいる人だったりが「結果」として映ります。おそらく年齢制限を回避するためだとおもいますが、せっかくのアクション映画で肝心の所を隠してしまうのはちょっと残念でした。これもやっぱり全編通して淡々とした印象をあたえてしまう一因だとおもいます。
とかなんとかいいつつも、Wデートのシーンは本当に最高です。このシーンの腰払いだけで100点!!! そこだけって話もありますけど、、、、。

【まとめ】

シアーシャ・ローナンのアイドル性がいまいち伝わらなかった大変惜しい作品だと思います。でもシアーシャとケイト・ブランシェットが役者のタイプとして本当にそっくりというのは良い発見でした。
あんまり積極的にオススメするほどでもないかなとはおもいますが、ジャンルムービーとしては十分に及第点の出来です。やっぱり最後に天丼ギャグで”ドーン”ってタイトルが出るとテンション上がりますしね。何を見るか迷ったらおすすめです。

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シャンハイ

シャンハイ

先週の土曜日は新作を2本見てきました。一本目は

「シャンハイ」です。

評価:(55/100点) – 歴史ロマンかと思いきやB級ロマンティック・サスペンス


【あらすじ】

太平洋戦争前夜、米海軍・特殊工作員のポールは同僚で親友のコナーが殺された事件を捜査するためシャンハイへと降り立った。コナーは対日本の特殊工作員としてシャンハイに在留する日本軍の捜査をしていたのだ。ポールは捜査をする内にシャンハイの実力者アンソニー・ランティンとその妻アンナと出会う、、、。


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【感想】

先週の木曜日は米映画「シャンハイ」を見てきました。渡辺謙と菊地凛子が宣伝で全面に出ていますが、バリバリのアメリカ映画です。宣伝の割には小箱だったので、そこそこ人は入っていました。客入りの間、ギャガの話題作恒例で宣伝部が大挙して下見に来ていましたが、これだけ入っていれば上等では無いでしょうか。

映画の概要

本作は制作費40億程度で主要登場人物が4人だけの非常に小規模なサスペンス映画です。
舞台は太平洋戦争直前のシャンハイ。話は主人公ポールが親友コナーの殺された事件を捜査するためシャンハイに来る所からはじまり、やがて中国人の破壊工作員と日本軍との抗争に巻き込まれていきます。
基本的にはよくある「エキゾチック・ロマンス」系の作品です。つまり、欧米人が”良く分からない未開の地”を訪れそこでなんとなくそれっぽいエキゾチックな事件に巻き込まれつつ現地の美女とイチャイチャする類の作品です。このジャンルの代表格はもちろんみんなが大好きな「007」シリーズです。今回もやってること自体は「主人公があんまり活躍しない007」です。形式上は「介入型サスペンス(※自主的に主人公が捜査をするサスペンス)」の体裁を使ってはいますが、実際にはジョン・キューザックの困り顔と相まってかなり巻き込まれているような印象を受けます。この巻き込まれる・状況に流される感じが本作に強烈なB級ロマンスっぽさを与えています。捜査官とはいえポールは最初から最後まで後手後手にまわってしまい事件は勝手に解決しますし、何より政治情勢に対してあんまり役にたっていません。というかテロリストに荷担してますけど、、、いいんでしょうか。
歴史ものとしてみると時代考証はかなり適当ですし中国政府が撮影協力してる時点で「お察し下さい」というレベルになっていますが、ロマンス作品としては丁度良い湯加減です。あくまでもロマンス要素がメインでサスペンスはとってつけたようなオマケですのであんまり細かく突っ込んでも仕方がないかなとは思います。「ロシアより愛をこめて」のソ連の描き方とか、「007は2度死ぬ」でタイガー田中はちょっと、、、というのと一緒ですので(苦笑)。まさかこれを見て「シャンハイってこんなだったのか」とか思う人はいないと思うので。興味がある方は上海租界について本がいっぱい出てますので図書館で探してみて下さい。
前半のロマンス部分を牽引していたドイツ人の女友達・レニが中盤以降まったく出て来なくなったり(スパイがバレて別れた?)、かと思いきやそもそもポールが上海に来た根本の理由もよくわからなくなっていきますし、話はどんどん甘い方向に流れていきます。でも、細かい所を気にしないで見ていればそれなりに楽しめるかと思います。このレベルならテレビドラマで十分という話もありますけどw

【まとめ】

本作は「アメリカ人がエキゾチックな国で一夏のバカンスよろしく調子に乗る話」として結構良くできているとおもいます。こういう娯楽に大きく振ったB級サスペンスは話のアレな所も含めて楽しめます。ちょくちょく歴史描写で引っ掛かる部分はあるのですが、概ね楽しい100分でした。この100分っていうのも作品内容にあった丁度良いサイズです。
とりあえず、そこまで見たい作品が無くてフラっと寄るぐらいの感覚が一番合っているのではないでしょうか。オススメです。

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赤い珊瑚礁 オープンウォーター

赤い珊瑚礁 オープンウォーター

先週の火曜日は

「赤い珊瑚礁 オープンウォーター」を観てきました。

評価:(20/100点) – あれ? サメちゃん一匹だけ?


【あらすじ】

オーストラリアでクルーザーの買い付けをおこなっているルークは、親友のマットとその恋人スージーを夏のバカンスに招待した.。マットの妹でルークの元カノのケイトも一緒だ。初めはぎこちなかったルークとケイトだったが、だんだんと元の関係を取り戻して行く。そんな時、彼らの乗ったクルーザーが珊瑚礁に乗り上げて座礁してしまう。引っくり返ったクルーザーの上でなす術も無い一行は、近くの島を目指して泳ぐことにする。しかし、その海域はサメが出ることで有名だった、、、。

【三幕構成】

第一幕 -> クルーザーでのバカンス
※第1ターニングポイント -> クルーザーが座礁する。
第二幕 -> 終わらない遠泳とサメの出現
※第2ターニングポイント -> 残り二人になる
第三幕 -> 浮島への決死の泳ぎ


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【感想】

さて、先週の火曜日は「赤い珊瑚礁 オープンウォーター」を見てきました。公開直後でしたが、あんまり観客は入っておらず、なんかパニック映画の割には客席の温度は微妙な感じでした。
本作は1983年に実際にあった事件を元にしています。元にはしていますが、基本的には「転覆しかけたボートから泳いで逃げるうちに仲間がサメに襲われる」という大枠だけで、基本は創作ストーリーです。
本作はいわゆるモンスターパニックホラーにあたります。「グリズリー」とか「ジョーズ」とか、それこそ今度公開される「ピラニア3D」とかの同系統です。実在の動物が超大きかったりまたは超大量だったりして人間を襲うジャンルです。今回はそれがサメなわけですが、、、どうにもあんまり歯切れが良く無いと言いますか、ジャンル映画なのにカタルシスがありません。
というのもですね、本作では登場人物たちはずっと海の中で泳いだり浮かんでいるだけで武器もロクにもっていないので、ただただ逃げるしか無いんです。しかも相手は海が主戦場のサメですから、当然泳いで逃げられるわけでもないんです。そうすると、これはただただパニックになっているのを見るだけになってしまって、ものすごい単調になっちゃうんです。
ちょっと泳ぐ→サメの気配がする→パニックになる→気のせいでしたor本当にサメで襲われました
ずっとこれを繰り返しで見せられるわけで、そこには対処も何もあったもんじゃないんです。
じゃあその襲われるシーンが楽しいのかというと、これまた微妙な感じで目が泳いでしまいます。だって普通サイズのサメちゃんが一匹出てくるだけなんですもの。しかも明らかに海洋記録映像を使っていて、サメと人間が同じカメラフレームの中に収まらないんです。かなり低予算です。
実際に実話を元にはしているんですが、あまりにも低予算な雰囲気かつ盛り上がりがないため、すごくテレビの再現映像を見ているような気持ちになってきちゃいます。

【まとめ】

なんと言いますか、消化不良というかあんまり映画を見た気がしなくてちょっと残念でした。せめてなんかしら対処法を発見したりとか、なんかしら殺される順番に因果関係があったりするとよかったんですが、非常に順当かつ面白みもなく話しが進んでしまいました。来たる「ピラニア3D」に向けてテンションを上げるつもりで見に行ったんですが、残念ながら類似商法的な買い付け以上ではなさそうです。
あとですね、どうしてもこれだけは言いたいのです。予告で「その海、サメだらけ!」っていうのは本当だけど嘘。海自体にはサメだらけだけど、映画に登場するのは一匹だけです!!! 紛らわしい、いくない!
オーストラリアに憧れる方に現実を知らしめる意味でおすすめです。海さ、怖いとこだべ。

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