BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント

BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント

今日はスピルバーグの最新作

「BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント」を見てきました。

評価:(75/100点) – 安定の児童向けファンタジー


【あらすじ】

ソフィーは孤児院暮らしの女の子。不眠症で、監視の目を盗んでは夜な夜な本を読みふけっていた。ある晩の深夜3時過ぎに、ソフィーは窓の外に異様な気配を感じる。窓に近づいてはいけない。カーテンの向こうへ行ってはいけない。ルールを知りながらも興味を抑えきれないソフィーはついに窓の外を覗いてしまう。そこには、暗闇の向こうからのびる巨大な手があった、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 真夜中の出会いと誘拐
※第1ターニングポイント -> ソフィーが食べられそうになる
第2幕 -> 夢工房とBFG
※第2ターニングポイント -> 夢工房が襲われる
第3幕 -> 女王陛下とBFG


【感想】

本日は、この三連休一番の話題作、スピルバーグ最新作のBFGへ行ってきました。有楽町の日劇で見たのですが、客入りは寂しく、ほとんど私より上のおじさんと夫婦連ればかり、肝心の子供連れが全くいませんでした。スピルバーグのジュブナイルって言えば、私が子供の時は一番の大作扱いだったんですが、、、なんかちょっと時代を感じます。

これから、極力ネタバレしないように本作のいいところを書いていきたいと思います。本作は完全に児童向けですので、もし幼稚園〜小学校低学年くらいのお子さんがいる方は、ぜひ見に行ってください。100%完璧に道徳的な内容で、かつ子供には心躍るスペクタクルが満載なので、絶対人格形成の役に立ちます。もっとも、かく言う私もグーニーズとETとバック・トゥ・ザ・フューチャーとインディジョーンズで育ってひねくれましたので、あんま説得力はありません(笑)
大人の方には「おじいちゃん萌え」という新境地が待ってます(笑)

概要:父としてのET、祖父としてのBFG

本作は、「チャーリーとチョコレート工場(2005)」や「ファンタスティックMr.FOX(2011)」と同じくロアルド・ダールが原作となっています。その名に恥じぬように、本作にはいわゆる”エグい”描写は一切ありません。

主人公のソフィーは両親を亡くして、孤児院で暮らしています。仲が良いのは猫だけ。友達もいないし、先生は厳しい。そんな時、窓の外に巨人を見てしまい、誘拐されてしまいます。はじめは恐ろしかったものの、徐々に巨人に敵意がないことに気付き、ソフィーは彼の仕事を見せてもらうことになります。するとそこには、まさに子どもたちの夢が詰まった光景が広がっていました。

そう、今回のBFGは一切ソフィーに説教だったり宿題をだしたりしません。完全に甘やかしてくれて、しかも夢のような仕事をしている老人。素敵な洋服をくれる人。これ完全に田舎のおじいちゃんです(笑)。BFGは、他の若い巨人たちにいじめられている気の小さい老人で、ソフィーにとっては気の良いおじいちゃんなわけです。ソフィーはおじいちゃんのためにいじめっ子たちをなんとかしようと立ち上がります。この辺りの孤独な老人と孤独な子供の交流って言うと大傑作「グラン・トリノ(2008)」があります。ただ、本作はあくまでも子供がターゲットですので、グラン・トリノとは逆で子供が老人を助ける方向性です。

その方法というのも、きちんとBFGの「特技」と「人当たりの良さ」を最大限活用します。この辺りは本当に良く出来ています。いじめっ子に対して、殴り返すのではなく、きちんと先生に言いつけて、その上で自分の特技を使って自分なりに乗り越える。
とても教育的で道徳的な話です。

子供だましなのか、子供向けなのか

こういった児童向け映画だと、よく「大人も楽しめる子供向け作品」みたいなフレーズを聞くことがあります。では、本作はどうかというと、、、私はこれはいわゆる「子供向け映画」であり、「大人も楽しめる子供向け作品」だと思います。

実際に、本作にはいわゆる「ツッコミどころ」みたいなものが結構あります。ネタバレにならない程度にいいますと、例えば「なぜ”偉い人”が簡単に納得してくれるのか」とか、「なぜ”あんな隠れ方”で見つからないのか」とか、「なぜBFGは他の巨人とは違うのか」とか、「それができるなら最初からやっとけよ!」とかですね。映画を見ていただいたあとだと、何のことを言っているかわかると思います^^;

本作における上記のような「ツッコミどころ」は、ほとんどは「ご都合主義」的な部分なんですね。ツッコミどころって「矛盾している」「意味がわからない/通じない」「都合が良すぎる」みたいなパターンがあるんですが、この「ご都合主義」の部分については、作品のトーンでいくらでも基準を変えられます。

本作の場合、この「ご都合主義」の基準が作品冒頭からあんまりブレないんです。すなわち、いじわる巨人以外は基本的にみんな善人でみんな真剣に話を信じてくれる世界であり、そして、巨人達はステルス能力が高くて、喋ったり音を立てたりしてもあんまり人間に気付かれません。これは作品中で一貫しています。なので、「この作品はこういうもんなんでしょ」で納得できるんですね。大人だと「いやいやいや。こんな良い人ばっかじゃないでしょ」とどうしても世間ズレするんですが(笑)、でも子供向けなら「みんな基本は良い人なんだよ」でOkなんです。教育上も、道徳的にもですね。

この「納得できる基準」のリアリティラインへ大人も降りていけば、本作はまったく問題なく見られます。私は、これこそが「大人も楽しめる子供向け作品」だと思います。

いわゆる「子供だまし作品」ってこの基準がブレブレだったり、上記で言う「意味が通じない」とか「矛盾してる」箇所がやたら多いんですね。

やっぱり演出が滅茶苦茶上手い!

スピルバーグ監督作ということで、本作はやっぱりちょっと画面の作り方が古いです。古いんですが、ものすごい高度なことをサラっとやってます。

例えば映画冒頭のシーン。夜のウェストミンスター橋を赤い2階建てバスが画面の奥に向かって走って行き、カメラが左によるとビッグベンが見えます。このシーンはわずか20秒ぐらいなんですが、たったこれだけのシーンで、「舞台は真夜中のロンドン」だと一発で分かります。「橋をロンドンバスが通る」→「これはロンドンだな」。「ビッグベンが映る」→「あ、真夜中だ」。これをナレーションや字幕など一切使わずに、たった20秒程度の画で見せるわけです。ちなみに最近の映画では「ロンドンの空撮シーンに字幕で”London,UK -2016″」みたいにするのが流行りです(笑)

映画はみんな暗い中で集中してみていますから、本当は極力説明ゼリフや字幕は出さないほうがいいんですね。特に冒頭は観客の頭を使わせて、スクリーンに集中できるように持っていくべきです。この冒頭20秒たらずのシーンで、スピルバーグ監督は私たちに脳トレをさせています。ロンドンバスが出てきた、時計が写った。この2つの連想ゲームのおかげで、観客はその後のシーンでも細かいアイテムを気をつけて見るようになります。そうすると、後のシーンででてくる「夢がビンの中にはいっている」シーンでも、「あ、ワルツを踊ってるな」「あっちはドラゴンと戦ってるな」とか細かいところまで見えるんですね。この”観客をスクリーンに引き込む”テクニックはとんでもないです。

他には長回しもあります。近年のスピルバーグのアイコンといえば、リドリー・スコットがライバル心をむき出しにした「プライベート・ライアン(1998)の冒頭長回しカット」です。あれも作品冒頭の情報密度をマックスまで上げる事で観客を引き込む手法でした。今回はそのプライベート・ライアンよろしく、カメラがグワングワンに飛び交う長回しシーンが何回も登場します。全てソフィーが逃げまわるシーンであり、これがアトラクション感があってムチャクチャ楽しいです。このあたりは子供向け作品としては凄いポイント高いと思います。

【まとめ】

細かい所を書き始めるとキリがないのでまとめに入ります。本作は、子供向け作品として間違いなく普遍的な完成度をもっています。10年後でも、20年後でも、小さなお子さんに見せれば絶対教育上プラスになりますし、なにより面白いです。そういう意味では、リアルタイムで見る必要があるのかと言われるとちょっと怪しいんですが、、、でも映画界への投資だと思って是非見に行ってもらいたいです。

私なんかが書くのはおこがましいのですが、スピルバーグはこの20年ぐらいずっと「歴史的な映画監督になるにあたってユダヤ人が撮るべき作品」という義務感を背負って作品を作ってきました。そのまんまナチスとユダヤ人を描く「シンドラーのリスト(1993)」、奴隷問題を描く「アミスタッド(1997)」、再びWW2の「プライベート・ライアン(1998)」、ユダヤ人が殺されたミュンヘンオリンピック事件を描いた「ミュンヘン(2005)」、20世紀初頭のヨーロッパ史を馬の一生を通して描く「戦火の馬(2011)」、そしてアメリカの礎リンカーンの伝記「リンカーン(2012)」。これらはエンターテイメントというよりは文芸的な意味での”お堅い仕事”であり、歴史に名を残すために必要な”必修科目”なんです。彼の次回作は再び”お堅い仕事”で、19世紀にイタリアで起きたユダヤ人少年の誘拐事件を描いた「The Kidnapping of Edgardo Mortara」の予定です。スピルバーグも今年で70歳ですから、全力で頑張っても、撮れて残り十数本です。そして、スピルバーグ本人がやりたいのは「陰謀サスペンス」と「ジュブナイル」です。彼の生涯の悲願であった「タンタンの冒険」を映画化し終わった今、残りの作品で是非、超楽しいジュブナイルと、猛烈にハードなSF陰謀サスペンスを見たいんです。そのために、スピルバーグが死ぬまで彼が好きな映画を撮りまくれるように、一映画ファンとしてささやかながらお金を落としたいですし、みんなにも見てもらいたいです。

やっぱり、私の世代には、この人は特別です。

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記事の評価
スーサイド・スクワッド(感想/カットシーン訳)

スーサイド・スクワッド(感想/カットシーン訳)

今日は

「スーサイド・スクワッド」を見てきました。

評価:(30/100点) – ヤンキー軍団ヤキ入れるで!


【あらすじ】

政府の諜報員アマンダ・ウォーラーは、来るべきメタヒューマンへの対抗策として、投獄中の凶悪犯達で結成された特殊部隊「タスクフォースX(エックス)」を提案する。その第一号として、考古学者ジューンに憑依した古代の神・エンチャントレスを推薦するが、なんとエンチャントレスはウォーラーを裏切り、人類を滅ぼそうとしてしまう。困ったウォーラーは、改めてベル・レーヴ刑務所選りすぐりの6人と、お目付け役のフラッグ大佐でタスクフォースXを組織する。果たしてタスクフォースXはエンチャントレスを止められるのか?

【三幕構成】

第1幕 -> 人物紹介
※第1ターニングポイント -> エンチャントレスの反乱
第2幕 -> タスクフォースX始動!要人救出作戦
※第2ターニングポイント -> エンチャントレスが心臓を手に入れる
第3幕 -> ミッドウェイシティ駅の決戦


【感想】

本日は「スーサイド・スクワッド」を見てきました。「作りなおせ」というファン署名が全米公開3時間後から開始されたり、ワーナーが勝手に編集してデヴィッド・エアー監督と揉めたり、話題に事欠かない曰くつきの映画です(笑)。
せっかくなので、私、久々に立川のシネマシティに行って爆音上映を見てきました。個人的には、DCエクステンデッド・ユニバース作品としては、前作「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生(2016)」を全面擁護しております。ですので、当然本作も、、、と行きたいのですが、、、、フォーーーーーォーー(発狂)。

以下ネタバレは極力いたしませんが、下品な雑言が飛び交う恐れがありますので、お上品な方はご遠慮ください(笑)。

作品概要

本作は、アベンジャーズ・シリーズのマーベルに対抗したDCコミックスの「DCエクステンデッド・ユニバース(以下DCEU)」シリーズ第3作にあたります。一作目は「マン・オブ・スティール(2013)」。二作目は今年の「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生(2016)」。そして本作です。とは言え、タイトルの通り、本作はストーリーの本流ではなく外伝的な「悪役軍団:スーサイド・スクワッド」の活躍を描いています。(※描けていないという話をこのあとしますw)。
そういった意味では、本作はあまりDCEUの本筋には絡んでこない作品になりまして、関わりありそうなのはバットマン最大の敵ジョーカー&ハーレイ・クインの登場ぐらいでしょうか。ということで、正直無理に見なくてもよかったりはするんですが、一応ファンなら抑えておいて損はないでしょう。

今回のストーリーは、まさにこの「スーサイド・スクワッド(=正式名称タスクフォースX)」の結成と活躍が中心となります。ジョーカーの良き相棒「ハーレイ・クイン」、銃器の天才「デッドショット」、力自慢のワニ男「キラー・クロック」、ブーメラン使いのおじさん「キャプテン・ブーメラン」、炎使いの「エル・ディアブロ」、そしてチュートリアル要員の「スリップノット」です。ここに普通の人間でお目付け役軍人の「リック・フラッグ」が加わって軍団となります。彼らに対するは、タスクフォースX会員番号0番の魔法使い「エンチャントレス」。魔法使いvs凄腕人間&怪人ということであんまり勝ち目がなさそうなんですが、そこはヤンキー魂で乗り切ります。そう、本作のキーワードは「ヤンキー魂」です。

ヤンキー魂炸裂!でもそれ極悪人なのか???

本作は突っ込みどころの宝庫です。正直アホらしすぎて細かい矛盾はあんま覚えてないくらいボロボロです。世界の危機なのにバットマンは何やってるんだとか、そもそも悪人達に頼るほど切羽詰まってないとか、ジョーカーが自由すぎかつハーレイに執着しすぎとか、そういう細部に目をつぶったとしても、残るのはやはりど根本的なストーリー部分の不満です。

私達(とあえて言いますが)が見たかった「スーサイド・スクワッド」ってたぶん「毒をもって毒を制す」だと思います。要は、ヴィラン達があくまでもヴィランとして身勝手に行動し、だけどそれがたまたま世界を救っちゃうという話です。スーサイド・スクワッドってこれが肝なんですよ。

でも、本作では、スーサイド・スクワッドのメンバーは全員が「ヤンキー魂」をもった「アツイ男/女達」です。情に厚く、多少優先順位がおかしいながら倫理観があり、そしてきちんと団結してチームワークで敵を倒そうとする。それって、全然凶悪じゃないです。映画秘宝の監督インタビューにも載ってますが、本作は「BAD vs EVIL(悪vs邪悪)」がテーマなんですね。で、問題はこのBADが、本当にただの「ワル」であって、それ以上に魅力的なものではないという所です。情に厚いヤンキー達が、酒場でアルコールを引っ掛けながら身の上話で団結し、自己犠牲を伴いながら世界を救う。それってただのつまらないヒーローものじゃないですか。全然悪役の意味が無いです。そうすると、物語中に出てくる「来るべきメタヒューマンに対抗するために超極悪人だけを集めた特殊部隊を作る」っていうのになんの説得力もありません。いやいや、そんなのいらないし、できてないじゃんっていう。

そんなこんなで、本作は根底のコンセプトがそもそも駄目すぎます。

じゃあ開き直ってヒーローものとしてはどうよ?

では、もう悪役の特殊部隊というのを全部忘れて、ヒーローものとしてはどうでしょう? そうすると今度問題になるのは、キャラクターが立ってない上に活かす気ないだろ!っていう部分です。

例えばデッドショット。彼はどんな銃火器も使いこなし、離れた敵でも正確にスナイピングできる凄腕の暗殺者なんです。実際、冒頭のキャラ紹介では”跳弾スナイピング”という神業をやってのけます。本作ではデッドショットを俺様ヒーロー=ウィル・スミス様が演じており、出番も立ち位置も完全に主役です。そうすると、当然最後はデッドショットの神業スナイピングが勝敗を分けると思うじゃないですか? そしたらビックリ、なんとデッドショットは全然スナイピングしません(笑)。嘘でしょ、、、。

デッドショット以外でも、いわゆる”特技”を活かして活躍するのはディアブロだけなんです。彼だけは火を操って状況を劇的に打開してくれるんですが、それ以外はみんな汎用モブキャラ状態です。アメリカでもハーレイ・クインだけは「かわいい」「エロい」と大好評ですが、でもそのハーレイ・クインだって野球バットを持って格闘してるだけで、「ハーレイ・クインでなければいけない理由/ハーレイ・クインにしかできない事」が無いんですね。

これってチーム結成キャラものとしては結構致命的です。だってチームでまとまってお互いに助け合う要素が無いんですから。例えばハーレイ・クインが得意の頭脳戦でエンチャントレスを罠に嵌めて、そこをデッドショットが跳弾スナイピングするとか、なんかこう協力合体技を見せて欲しいんです。そういうのが全然ないので、結局は小物が徒党を組んでるだけに見えます。

じゃあどこを見ればいいんだよ!

とまぁコンセプトボロボロ、ストーリー滅茶苦茶、という本作において、じゃあ見せ場はどこだって話になります。そうすっとですね、やっぱり「ハーレイ・クインちゃんエロカワ!」とか「エンチャントレス(覚醒前)可愛くね?」とかっていう下品なアイドル要素に落ち着くわけです(笑)。だって、本当にもうここに逃げるしかないんですから。上にも書きましたが、ハーレイ・クインはハーレイ・クインで、ストーリー上の扱いはムチャクチャ酷いんですよ。ジョーカーといちゃついてるだけのただのバカップルですし。でも、それ以外に頼るところがないぐらい、本作は見ててシンドいです。

【まとめ】

ということで、本作で得をしたのはたぶんハーレイ・クイン役のマーゴット・ロビーとエンチャントレス役のカーラ・デルヴィーニュだけです。後はみんな損。俳優のシャイア・ラブーフによると、デッドショットにウィルス・スミスが起用されたことでストーリーを大幅に改変してデッドショットを主役級にしてジョーカーの出番減、結果としてそれを嫌がったフラッグ大佐役のトム・ハーディが降板したそうです。

参照:Movie Pilot:シャイア・ラブーフはほとんど”スーサイド・スクワッド”だった--文句(または感謝)があるならウィル・スミスに言え!
http://moviepilot.com/p/shia-labeouf-almost-had-scott-eastwoods-role-in-suicide-squad/4082099

これ、公開版を見る限りだと、最初はあくまでもジョーカーがハーレイ・クインを取り返しにくる話がメインで、エンチャントレスの件はハーレイが刑務所の外にでるためのアリバイ用のサイドストーリーだったんじゃないかと邪推してしまいました。真相は分かりませんが、一本の映画として、設定もストーリーも編集も混乱しまくっているのは間違いありません。こんな「踊る大捜査線」級にキテるハリウッド映画ってあんまり見られませんので、話の種に是非映画館で体験してみて欲しいです。私も、もしかしたら劇場の手違いで間違ったバージョンが流れていたり10分くらい間が飛んでいたかも知れないので、週内にもう一回見に行きます(笑)。


【おまけ】追加のグチ ※ネタバレあり

さて、私の熱量が高い時に登場するオマケ集のお時間です。今回は、上記文章にねじ込めなかった細々した部分について、個別にグチりたいと思います(笑)。

■ グチ1:悲報!エンチャントレスとアポカリプスがもろかぶり事件

これですね、本作で一番の悲劇的事件です。トラジティです。なんと、本作のエンチャントレスと先日の「X-MEN:アポカリプス(2016)」のヌール様はまさかのキャラかぶりをしています。

エンチャントレスが人類を破滅させようとする動機は「昔は私のことを神様扱いしてたのに、今じゃコンピュータのことを神様呼ばわりして私のことはかまってくれないんだもん。もう、私に冷たい人類なんて嫌い!死んじゃえ!」というものです。ヌール様とドンかぶり(笑)。しかもその破滅のさせ方が、なんか地面から岩みたいなのを大量に巻き上げる絵面なわけです。エンチャントレスは破壊兵器を作っていて、ヌール様(というかヌール様に同調したマグニート)は砂鉄を巻き上げて文明を破壊。やり方は違いますが、絵面はまったく一緒です。そうすると、片や広大な大地で巻き上げているヌール様と、片や地下鉄の駅で巻き上げているエンチャントレスではスケールがアホみたいに違うわけで、、、エンチャントレスが相対的にショボく見えてしまいます。まじ悲劇。エンチャントレスが悪いんじゃない!スケ―ルがでかすぎるヌール様が悪い!

制作も配給も違う会社の作品なので仕方ないんですが、この公開スパンかつ同じアメコミもので、しかもマーベルとDCでネタがかぶるという、、、本作には運もないのか(笑)。

■ グチ2:エンチャントレス出現から3日間も何やってたんだ問題

本作は、エンチャントレスがミッドウェイシティ駅を占領してからスーサイド・スクワッドが出動するまで3日間もあります。たぶん上記本文で文句をいった「バットマンは何やってるんだ」とかの問題点の多くは、このタイム感に起因します。実際、ウォーラーおばちゃんはエンチャントレスが暴れてから慌ててスーサイド・スクワッドを結成するわけで(※予め目星はつけていましたが、本人に告げるのはエンチャントレス暴走後です。)、おまえ本当に緊急事態のエキスパートなのかと小一時間問い詰めたいレベルでのんびりしています。結果として、チームの結束も唐突なら、そもそも本当にチームが必要なのかもよくわからないというアレなことになっています。「最初からスーサイド・スクワッド自体は緊急事態用に結成してあって、たまたまメンバーのエンチャントレスが今回裏切った」という筋なら全然問題なかったんですが、、、こういうのがプロット構成の難しいところです。

■ グチ3:キャラの特性を生かしてるっぽい風の場面

2回目を見ていて、キャラを立たせるのに苦労している様はうかがえました。スーサイド・スクワッドの面々が特技を活かして輝くシーンを列挙してみますと、、、

キラー・クロック
最後に水の中に潜っていって人間兵のボディガードをした。でも爆弾の設置は代わってくれない。
キャプテン・ブーメラン
ブーメランにカメラを積んでスマホで見る。ただし目立ちすぎてバレバレ&即撃墜。役には立たない。
ハーレイ・クイン
最後にエンチャントレスにお茶目なフェイクを仕掛ける。エンチャントレスがいい人過ぎて上手くいく。
デッドショット
持ち前のキャプテンシーを発揮してみんなをまとめ上げる。射程距離4kmのスナイピングは特にしない。
エル・ディアブロ
火炎で変身!見事エンチャントレス弟を食い止める。火に強いのに爆弾で死亡
カタナ
ソウルテイカーを落っことすファインプレー!
エンチャントレス
クネクネ踊りで謎の破壊兵器を作る。瞬間移動できるならそんなのいらないんじゃないか問題はスルー。

ということで、マジでアイドル(笑)。いくらでも合体技できそうなんですけどね、、、ブーメラン乱射してその間を跳弾スナイピングして死角を攻めるとか、炎とバットで”燃えるケツバット”とか、エンチャントレス弟をクロックが力で押さえてカタナのソウルテイカーで魂抜いちゃうとか、いくらでもね、、、、

【おまけ Pt2】削除シーン集・超訳版(2016年9月14日追記) ※ネタバレと妄想全開!

さて、私の熱量が超高い時に登場するオマケのオマケのお時間です(笑)。今回は、slashfilm.com で見つけた、カットシーン集についてです。戸田奈津子ばりのやっつけ超訳なのはご勘弁ください。

出典はこちら:‘Suicide Squad’ Deleted Scenes: What Was Cut and Why (http://www.slashfilm.com/suicide-squad-deleted-scenes/)

※2016年9月15日追記:
本作、「スーサイド・スクワッド」には2種類のバージョンがあると言われています。一つはもともと監督デヴィッド・エアーが考えて撮影・編集していた「オリジナル版」。もう一つは、ワーナー・ブラザーズの指示で予告業者が再編集・構成した「予告業者バージョン」です。

もともとはシリアス・テイストの作品構想がありました。まずここで、ウィル・スミスがキャスティングされたことでデッドショットの出番が大幅に増えます。これが上のまとめでのシャイア・ラブーフのタレコミです。

参照:Movie Pilot:シャイア・ラブーフはほぼ”スーサイド・スクワッド”だった-文句(または感謝)があるならウィル・スミスに言え!
http://moviepilot.com/p/shia-labeouf-almost-had-scott-eastwoods-role-in-suicide-squad/4082099

その後、2015年7月11日(土)にサンディエゴの「コミコン2015( ※アメリカ最大のオタクイベント )」で予告映像が発表されました。この予告がマジで超ナイスな感じでして、大絶賛されて「さっさと本編見せろ!」の大合唱だったんですね。悲劇だったのは、この予告が完全にコミカル・悪ふざけテイストだったことです。ワーナーの幹部がこの大絶賛に気を良くして、「スーサイド・スクワッドをコミカルよりに作りなおそう!」ということを始めます。そして、よりによって、監督のデヴィッド・エアーではなく予告映像を作った業者に編集を依頼しちゃうんですね。こうして「予告業者バージョン」が完成します。

最終的に、監督自身が編集を完了させた「オリジナル版」と「予告業者バージョン」でラッシュコンペになりまして、ワーナーとしては「予告業者バージョン」を元にして一部追加撮影をし、公開することに決めました。そして「予告業者バージョン」がはれて「劇場公開版」になります。以下のカットシーン集は「オリジナル版」でウィル・スミスの出番が増えたために監督自身がボツにした部分と、「劇場公開版」に再編集された際に業者に(勝手に)改変された部分が混ざっています。

参照:ハリウッドレポーター:スーサイド・スクワッド秘話:試写、編集合戦、こみ上げる不安
http://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/suicide-squads-secret-drama-rushed-916693

ちなみに「予告業者バージョン」を「劇場公開版」にする際の最終調整には監督自身も関わっていて、この映画に関することは自分が責任をとると言ってます。

参照:shashfilm:デビット・エアー監督は責任をとる男「(公開された)スーサイド・スクワッドは僕の作品だ」
http://www.slashfilm.com/suicide-squad-david-ayer-cut/


カット1

“In early cuts, the movie’s opening detailed June Moon’s possession by Enchantress in a real tome. Reshoots reshuffled the scene to be later in the movie in flashback form in favor of a new opening centered on Deadshot.”

訳:初期バージョンでは、映画のオープニングはジューン博士がエンチャントレスが載っている学術本を持った所からスタートしていた。公開バージョンでは、映画のオープニングはデッドショット(ウィル・スミス)を中心に作り変えられ、もともとあったジューン博士のシーンはその中のワンカットとしてちらっと映る程度になった。

さて、いきなりのウィル・スミス接待です(笑)。元のバージョンだと、あくまでも敵の予兆→オープニングへという、わりとよく見る感じの構成だったんですね。それがウィル・スミスメインになったことで、スクワッド側のキャラ紹介を優先したようです。いきなり幸先が不安です(笑)。


カット2

“Deadshot in the prison cell, watching the rain fall and thinking about his daughter.”

訳:独房の中でデッドショットが、雨が降るのを見ながら娘を思うシーンがカットされた。

お!?まさかのウィル・スミスシーン削除!甘ったるすぎるからでしょうか?


カット3

“El Diablo observing the flame of a lit match, before putting it out due to his vow to no longer use his powers.”

訳:エル・ディアブロが、マッチの火をボーッと見ながら「もう俺、炎の能力使わねぇわ」と心に誓うシーンがカット。

これ、、、あった方が良くないですか? 公開版でもなんとなく「なんかやらかして能力を使いたくないんだろうな」とは薄々気づきますが、このシーンがあればもっと実際に使った時のカタルシスがあったと思います。


カット4

“El Diablo being escorted to a training center by being placed in a tube that fills with water to quell his flames, and then unceremoniously dropped onto the ground.”

訳:エル・ディアブロが、満タンの水が入ったチューブでトレーニングセンターに護送され、ぶっきらぼうに床にぶちまけられるシーンがカット

こちらは公開版だといつもの独房の場所でドラム缶をひっくり返されてましたね。この感じだと、デッドショット以外にも「おまえの能力を見せてみろ!」みたいなパートがあったようです。これもウィル・スミスのしわ寄せでしょうか(笑)。


カット5

“Early interviews showed Captain Boomerang’s racism and sexism, but the movie is light on examples of such behaviour, which have apparently been deleted. Most of them were reportedly directed at Katana, to whom Boomerang is attracted to.”

訳:初期版では、キャプテン・ブーメランが人種的/性的な差別発言をしていたが、公開版ではカット。カットシーンの多くは、彼がいかにカタナに魅了されているかを語るシーン。

公開版でも最後の方ではブーメランがカタナを好きっぽい雰囲気が出てましたが、実際にはもっと明確に下品発言を連発してナンパしていたようです。これもブーメランのキャラ立てには大事ですよね、、、。


カット6

“Early reports indicated more backstory for Killer Croc, revealing that he entire life as a social outcast due to his physical appearance and has convinced himself that he is beautiful in his own way. Croc crossed paths with Batman while working as muscle-for-hire for numerous Gotham’s crime bosses, while secretly planning to take over one day. There were also scenes displaying his affinity for making sculptures out of discarded materials. Aside from jokes about Croc viewing himself as ‘beautiful,’ one of these were retained in the final cut.”

訳:初期版では、キラー・クロックが自分のことを本当に美しいと思っていること、そして外見によっていかに社会からのけ者にされてきたかを明らかにするバックストーリーがあった。彼はいろんな犯罪組織に筋肉担当で参加し、バットマンとも遭遇している。彼が廃材で彫刻を作るシーンもある。彼が自分のことを「美しいだろ」というシーンが一部公開版にも残っている。

ブーメランに続いて、キラー・クロックの出番も大幅カットです。っていうかこれほとんどオリジン(誕生秘話)じゃん。やっぱ初期版はちゃんとキャラを立たせようとしてたんですね。これもウィル・スミスのしわ(以下略)。


カット7

“Also deleted was a scene where he becomes sick at the helicopter escort to Midway City, throws up half-digested pieces of goat, and then eats them again, disgusting the nearby Navy Seals.”

訳:ミッドウェイシティに連れてこられるとき、キラー・クロックがヘリコプター酔いをして、食べたヤギ肉を口から出してしまい、すぐ食べ戻す。それを見た近くの海兵隊員が「うわっ」て引くシーンがカット。

キラー・クロックのカットシーン2はギャグパートです。まぁ確かにこれはいらないかな(笑)。全体的に暗いトーンだったと言われる初期版だといい感じのハズしだったのかもしれません。


カット8

“Early cuts reportedly included a passing reference to Slipknot being serial-rapist, likely to further paint him as unsympathetic to the audience ahead of his own death.”

訳:初期版では連続強姦者のスリップノットの過去を描くシーンもあったが、観衆が彼に嫌悪感を抱いて「死んで当然」みたいに思わないように、カットされた。

このカットも仕方ないかなと思います。スリップノットは完全にチュートリアル要員ってことですね。


カット9

“More scenes of Rick Flag and June Moon’s romantic relationship, including him, reading the files of the Suicide Squad recruits after Waller delivers them to him.”

訳:フラッグとジューン博士が、スーサイド・スクワッドのメンバーの履歴書を見たりするなど、ロマンティックなシーンがもっとあったが、カット。

これはいる気がします。要はフラッグがジューン博士(エンチャントレス)のことを心配していちゃついてる描写ですね。「こんな奴らと同じ部隊ってヤバいだろ、、、」っていう。


カット10

“Another scene where Flag and Moon are out on a date.”

訳:フラッグとジューン博士のデートシーンもある

これはいらないかな(笑)。確かに公開版のフラッグとジューン博士の関係性の描写はさらっとしてる気がしますが、言うなればただの設定ですしね。ただ、最後に書きますが、コレ結構「デヴィッド・エアー版スーサイド・スクワッド」を推測する上では鍵になるシーンです。


カット11

“Extended scene of Joker interrogating Captain Griggs, including the line, “I can’t wait to show you my toys,” which was in every trailer, but was removed from the movie.”

訳:ジョーカーがキャプテン・グリッグス(※牢屋番の人。カジノで裏に連れて行かれるシーンです。)に質問するシーンがカット。全てのトレイラーで使われていた「俺の玩具を見せるのが待ちきれないぜ」というセリフの一連のシーン。

これもいらないかも。ストーリーどうこうよりも、ジョーカーファンへのサービスカットですね。


カット12(回想パート)

“Joker and his men escaping after shooting up a restaurant. Harley, who is already affiliated with the Joker, follows them on a motorcycle and intercepts their car. Joker bangs his head against the glass in frustration.”

訳:ジョーカー一味がレストランで銃を乱射したあと脱出する。ジョーカー達が車で先に逃げるが、ハーレイが後ろからオートバイで追いかけ、ジョーカーの車の前に割って入る。ジョーカーはイライラして窓ガラスに頭を打ち付ける

ここからはジョーカーとハーレイの絡みが中心になります。まずはこれ。ジョーカーが本気でハーレイにイライラしてます。ジョーカー様の前に出るとは良い根性です(笑)。


カット13(回想パート)

“Joker and Harley then get into a fight, which ends with Harley pointing a gun at Joker’s face. Joker sweet-talks Harley into lowering the gun, charming her, then backhands her across the face. Afterwards, he sweet-talks her again, and they kiss.”

訳:その後、ジョーカーとハーレイが喧嘩になる。最終的にジョーカーの頭にハーレイが銃をつきつけるが、ジョーカーは甘い言葉をかけて銃を降ろさせる。しかし直後にジョーカーが裏拳でハーレイを殴る。その後、彼は再び甘い言葉をかけ、互いに幸せなキスをする。

完全にDVカップルですね。殴る→優しくなるのコンボです。


カット14(回想パート)

“Extended Ace Chemicals scene where Harley jumps into the chemicals. More bits of dialogue from Joker.”

訳:エースケミカルズでハーレイが薬剤タンクにダイビングジャンプするシーン(※白くなるシーン)で、もっとジョーカーの細切れセリフ(=一言セリフ)があった。

肝心のジョーカーのダイアログがわからないのですが、たぶんサブリミナル的な感じで変なセリフがカットインしまくるような演出だと思います。ハーレイがジョーカーに心酔して遂に見た目もジョーカーと同化する大事な場面なので、キャラ付けには重要です。


カット15(回想パート)

“Extended Batmobile chase scene with more interaction between Joker and Harley. One of the examples, presented in all the trailers, is the Joker punching the roof of his car.”

訳:バットモービルにジョーカーとハーレイが追われるシーンで、もっと多くのやり取りがあった。(ジョーカーが車の天井を殴ったり。)

これは確かにカットしていいかも。どっちかっていうとバットマンのサービスシーンですね。


カット16

“Harley using her baseball bat as a mock gun to play shoot at invisible foes.”

訳:ハーレイが見えない敵に向かって、バットを鉄砲(ライフル銃)のようにして遊ぶシーンがカット。

これはちょっとだけ公開版でもやってましたね。ハーレイの可愛さを描くシーンなので、これもカットで良いと思います。


カット17

“Extended scene of Joker breaking into the nano-bomb manufacture facility to arrange for Harley’s neck-bomb to be disabled.”

訳:ジョーカーが、ハーレイの首の爆弾を解除するために製造工場に潜入するシーンで、もっと多くのシーンがあった。

ここは公開版だとわかりにくすぎです。急に工場に潜入して、なんかタブレットで人質を見せて、おっちゃんを降参させる(ドアを開けさせる)シーンです。正直、一回目を見た時はよくわかりませんでした。これはあったほうがいいです。


カット18

“More interactions between Harley and Boomerang. Early cuts apparently included her really disliking him despite growing affectionate to all the other members of the squad.”

訳:ハーレイとブーメランの絡みがもっとあった。初期版では、ハーレイが他のメンバーと仲良くなっていくのに、ブーメランに対してだけは嫌悪感バリバリの描写があった。

これはヤンキーの慣れ合い描写です。ブーメランも意外と狂言回しとしての出番があったのね、、、。公開版だとただのムサいおっちゃんですからね、、、。


カット19

“Extended bar scene with Harley taking everyone’s orders. Deadshot calls for a shot, Katana wants whiskey, Croc and Boomerang settle for beer, Harley asks Diablo wants, and he prefers water which she jokes, “is a good idea.” The scene was featured in the trailers, but in the movie it cuts directly to Deadshot’s speech about them all almost pulling the mission off.”

訳:終盤のバーで、予告にもあったハーレイが各自の注文を取るシーンがカットされた。デッドショットはショット(※少しのウォッカを一気飲みするやつ)、カタナがウィスキー、クロックとブーメランがビールで我慢するなか、ディアブロだけは水を頼む。「(アルコールは引火しちゃうから)いいアイデアね!」とハーレイがジョークを言う。公開版ではこのシーンがカットされ、ダイレクトにデッドショットが説教するシーンへ繋がる。

久々に出ました、ウィル・スミスのしわ寄せシリーズ。確かにこれ予告にありました。この後のシークエンスでハーレイがディアブロに説教をする布石ですね。これをカットするならウィル・スミスをカッ(以下自粛


カット20

“Removed several scenes with the Joker to repaint his relationship with Harley as more loving rather than abusive.”

訳:ジョーカーとハーレイの関係性で、ジョーカーがハーレイを口汚く罵った後で愛を囁くシーンが複数回あったが、カットされた。

再びジョーカーとハーレイシリーズ。もっとしつこくDV彼氏とドM女子の描写があったようです。


カット21

“Joker and Harley get into an argument after he rescues her in the hijacked helicopter. In early cuts he reportedly pushes her out to kill her, then the helicopter gets shot down. This was apparently reworked into the helicopter getting shot down first and Joker pushing her out to save her.”

訳:ヘリコプターでジョーカーがハーレイを救い出すシーンで、旧版では、ジョーカーがハーレイを(何かの理由で)殺すためにヘリから突き落として、その後、被弾して墜落するというストーリーだった。公開版では「ヘリが被弾する瞬間にジョーカーがハーレイを突き飛ばして彼女だけは助ける」という描写に変わった。

この改変をした人は島流しの刑です(笑)。だって、本作で一番不自然な「ジョーカーが死んだくせに、ちょっと泣いてすぐスクワッドに戻るハーレイ」という描写の意味が全然違うものになるからです。初期版なら、「ジョーカーに意地悪されてちょっと拗ねてたけど、スクワッドを見つけておどけてみせるハーレイ」になるんです。こっちなら全く違和感ないです。だって、ハーレイってジョーカーに全てを捧げるメンヘラなんだから、ジョーカーが死んだら後追いぐらいするわけですよ。
これはホントなんで変えるかね、、、。


カット22

“Joker returns during the final battle in the subway station, face half-burnt from the helicopter crash, which apparently leads to a brief altercation with the Squad. He calls for Harley to escape with him but she refuses for once in order to help her friends, and the Joker escapes after throwing a live grenade at the group to cover his own escape.”

訳:ミッドウェイシティ駅の最終決戦の最中、ヘリコプター事故で顔が半分焼けただれたジョーカーが戻ってきて、スクワッドの面々と対峙し、罵り合う。ジョーカーはハーレイに「一緒に逃げるぞ!」と言うが、ハーレイは友達を助けなきゃいけないといって断る。ジョーカーは手榴弾を投げこみ、爆風に紛れて逃げる。

これをカットはいただけない!公開版だとヘリ撃墜でフェイドアウトですが、実はジョーカーはちゃんとお話全編に関わってたんですね。これカットはダメでしょう。しかも顔が半焼けという旧作ファンへのサービス付きで!(※旧作サービスってより次回作でNEW52!版ジョーカーのデザインになる伏線ですかね。顔にデスマスクを着けるバージョンの。)


とまぁザーッと見てきたわけですが、総合しますと、「デヴィッド・エアー版オリジナル・スーサイド・スクワッド」は以下のような感じです。

  • 各キャラの描写はちゃんとやってた
  • ジョーカーとハーレイのDVカップル描写濃厚
  • フラッグとジューンの恋愛要素も強調
  • ジョーカーがハーレイを取り返しに来る話と、フラッグがジューンを取り返しに行く話が連動していた

ということは、話のメインテーマはおそらく2組のカップル、フラッグ/ジューンとジョーカー/ハーレイの対比というか、”愛の形”の物語だったわけですね。フラッグもジョーカーも「彼女を救いに行く男」であるのに、片や世界を救うために一度は諦める、片や己の所有物として固執し続ける。ここにスクワッドの団結を乗っけてくると。ハーレイは自分を助けに来てくれるジョーカーとジューンを救いに行くフラッグの姿を重ねて、協力してくれるわけです。そして、世界を救うために諦めたフラッグと、顔が半焼になってでも諦めずにしつこく追ってきたジョーカーということで、相対的にジョーカーのキャラが立つ(=狂気性が浮き彫りになる)ようなストーリーになってます。DCEUの次回作以降で、ジョーカーが出てくる布石ですね。

だけどこれが、公開版ではウィル・スミスが来たことで「親子愛」が追加・強調され、そのしわ寄せで各キャラの描写が薄まり、さらに予告業者がテイストを変えて、結果としてコミカル/軽いヤンキーノリが中心になったということです。

どう考えたってデヴィッド・エアー版オリジナルのが面白そう!!!!っていうかこっちを見せてくれ!!!!



というグチでした(笑)。

※ちなみに、劇場公開版は2時間03分、デヴィッド・エアー版オリジナルは2時間45分だそうです。「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」が2時間32分なので、オリジナル版でも十分劇場公開できそうですね、、、。

※2016年10月06日追記:
なんやかんやありまして、北米で11月15日開始の配信サービスと12月13日発売のBlu-rayに、未公開映像を追加するのが決まったそうです!ジョーカー絡みが中心とのことなので、スクワッドメンバーの過去話関連はカットしたままでストーリーを微修正するような感じでしょうか? 何にせよ、ジョーカー/ハーレイの描写とフラッグ/ジューンの絡みを戻すだけでもストーリーの軌道修正できそうなので、これは期待大です!
日本だと年明け早々の発売だと思いますので、要チェックです!

参照:shashfilm:‘Suicide Squad’ エクステンデッド・カットがご家庭に来るぞ!
http://www.slashfilm.com/suicide-squad-extended-cut/

日本でも発売が決まりました。要チェック!

スーサイド・スクワッド/悪党集団、戦う。| 映画感想 * FRAGILE |
http://fragile.mdma.boo.jp/?eid=1065848

『スーサイド・スクワッド』この作風でよかったの?(映画ネタバレなし感想+ネタバレレビュー)| カゲヒナタのレビュー |http://kagehinata64.blog71.fc2.com/blog-entry-1202.html

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記事の評価
キング・オブ・エジプト

キング・オブ・エジプト

​今日は

「キング・オブ・エジプト」です。

評価:(60/100点) – 楽しいアイドル珍道中映画!


【あらすじ】

古代エジプト。太陽神ラーは2人の息子にエジプトを託す。オシリスには街を。セトには砂漠を。
それから数千年、オシリス王の治世が終わり、その息子ホルスへの禅譲が行われることとなった。ホルスの戴冠式に多くの神々が訪れる中、叔父のセトは戴冠式のまさにその場で実の兄オシリス王を殺し、ホルスの両目を奪い、王位を簒奪する。愛の神ハトホルの嘆願で一命を取り留めたホルスは、復讐を狙う、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> ホルスの戴冠式とセトの反乱
※第1ターニングポイント -> ベックがホルスの右目を取り返す
第2幕 -> セト神殿への珍道中
※第2ターニングポイント -> セトがアポピスを召喚する
第3幕 -> オベリスクの決戦


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【感想】

本日は「キング・オブ・エジプト」の字幕版を見てきました。吹き替えが凄いことになってるらしいという噂は聞いてますが、どうにも字幕派でございまして^^; 監督はエジプト生まれのアレックス・プロヤス。ブルース・リーの長男ブランドンの代表作「クロウ/飛翔伝説(1994)」で有名ですが、個人的には「ダークシティ(1998)」とか「ノウイング(2009)」とかの「オカルトちっくなトンデモ映画監督」って印象の方が強いです(笑)。ちなみに漫画「クロウ」の映像化はTBSで深夜にやってたドラマ版の「クロウ 天国への階段(1998)」のが好きだったりもします。
有楽町のスカラ座ではあんまりお客さんが入っていませんでした。650人の箱で多分40-50人くらいです。公開直後にしてはちょっと寂しかったです。

さて、本作はアメリカでぶっ叩かれまくっておりまして、イギリスでもビデオスルーの憂き目に遭っています。ですが、私はこれから(ちょっと無理やりに)全面擁護します!中身にがっつり触れていきますので、未見の方はご注意ください。欠点もいっぱいある映画ですが、すごいニヤニヤしながら観れる愉快な作品です。ぜひ劇場で!

まずは大枠から

本作に一番近いのは、昨日の「セルフレス 覚醒した記憶(2016)」のターセム・シン監督の「インモータルズ-神々の戦い-(2011)」です。っていうか世界設定はほぼ同じです。世界には太陽神ラーをはじめとして多くの神様がいまして、彼らは人間の姿(と言ってもデカい!身長3mぐらい)と獣の姿を自由に変身できます。そのエジプトの神々が統治する世界で、反乱が起きます。正当な王位継承者ながら人間を軽んじているホルスは、簒奪者セトへの復讐を図る過程で協力者の人間コソ泥・ベックと珍道中を繰り広げ、徐々に王としての責任に目覚めていきます。

本作には2つの大きな話があります。1つはホルスの復讐譚。もう1つはベックが亡き恋人ザヤを生き返らせようとする話です。この2つが良い感じに混ざり、怒涛のオカルトクライマックスへなだれ込んで行きます。

すごいヘンテコなストーリー

上の概要だけ見ると超王道ストーリーに見えるかもしれませんが、本作は実際にはすごい変なことになっています。というのも、話の要素/目的がコロコロ変わるからなんですね。

例えば復讐について。本作の劇場予告では「奪われたホルスの目を盗んで世界を救え!」みたいなフレーズが流れるのですが、実際は本作ではホルスの目は探しません(笑)。
ホルスの目は、片目分だけ2幕目冒頭でサクっと盗みまして、もう片目については「どこにあるかわからんから保留!」となります(笑)。2幕目のメインストーリーは、「ラーの”創造の水”をセト神殿の心臓に垂らすことで、セトを弱体化する」ことです。そしてそのセト神殿へ向かう途中で追っ手に襲われたり、スフィンクスが邪魔してきたりするわけです。そんでもって2幕目が終わり全部のちゃぶ台がひっくり返ると、嫌が応にも世界を救うためにセトへ特攻をかけざるをえない緊急事態が起きます。

すると今度は「実はホルスは王の自覚が芽生えると覚醒ホルスに進化して超強くなる」という話に変わるんです。2幕目はなんだったんだっていう話なんですが、気にしてはいけません^^;

このように話がコロコロ変わるので、せっかく出てきたフルアーマー・セトちゃんが、序盤でボコった片目ホルスにあっさり負けたように見えちゃいます。超弱く見えちゃうんですね(笑)。確かにストーリー上は片目がなくても王の自覚で覚醒したホルスはセトより遥かに強いことになってます。筋は通ってるんですが、プロットの問題で分かりづらくなってしまっており、もったいないかぎりです。

そんなこんなでメインストーリーは徘徊老人並みに彷徨っているわけですが、じゃあサイドストーリーのザヤの件はどうかというと、こっちはこっちで無茶苦茶です(笑)

あの世の9つの門をくぐり切ると2度と生き返らないというのをベース設定に、ホルスは「王になれたら生き返らせてやる」とベックに約束します。いろいろあって、ハトホルが死者避けの腕輪というあの世とこの世を行き来できる便利な腕輪をくれることになるんですが、なぜかハトホルはこの世のベックに置いて自分は犠牲になってあの世に行っちゃうんですね。いやいや。犠牲になるならあの世に行ってからザヤに腕輪を渡してくれよってことなんですが、この世に置いて行ってしまったばかりに、ハトホルは無駄死にで終わります。もう、ハトホルったらお茶目なんだから(笑)。そう、本作はですね、登場人物が全員お茶目すぎます。

太陽神ラー、怠慢説

トトだって冷静になればスフィンクスの謎なんてすぐ解けるのに、なぜか超テンパって2度も間違えます。

ベックだってとりあえず創造の水をたらしゃ良いだけなのに、なにを思ったか垂らし損ねます。いやいや、ホルスが嘘つきだろうがなんだろうが、セトが悪なのは確実なんだから垂らせよっていう、、、ね。

さらにはセトちゃんです。セトちゃんは神々の心臓やら脳みそやらを奪って超合神(※いい日本語訳だw)になるんですが、その目的があるならさっさとお目当の神々を襲っとけやって話です。でもセトちゃんはなぜか数ヶ月or数年は泳がしています。なんでしょうね。小悪党特有の余裕ぶっかましでしょうか(笑)。

そして極め付きは太陽神ラーです。本作のラーおじいちゃんは結構マッドサイエンティストなんですが、最後に実はスーパーパワーが使えるのが明らかになります。本人は「借りを返すぞ」とか言ってるんですが、それができるんなら先にオシリスにやれやっていう話です。そうすりゃ映画が15分で終わるのに(笑)。しかも持ってる槍が実はアポピス(キバいっぱいの大蛇)を操れるみたいな設定まで出てきて、いやいや毎晩戦ってたのはなんやねんというおかしなことになってます。ボケ防止のエクササイズだったんでしょうか?

お茶目勢ぞろい=ツッコミ不在のボケ大会

とまぁそんなこんなで登場人物が全員お茶目さん揃いな訳ですが、これがですね、だんだん面白くなってきます(笑)。さながらツッコミ不在のボケ倒し祭りです。劇中にツッコミがいない以上は観客の我々が突っ込まないといけないわけで、だんだんツッコミが忙しくなりすぎて変なテンションになってくるんですね。そうすると、だんだん登場人物たちがキュートに見えてきます。もうね、最後なんて最高ですよ。セトちゃんったらせっかくトトの知識を得たのにそれでもなおボケてますから。元がどんだけ脳筋なんだ(笑)。

ということで、映画が終わると観客のこちらにも、謎の達成感が湧き上がってきてとっても楽しくなります。

【まとめ】

そんなこんなで個人的にはとっても楽しめた映画でした。ちょっとびっくりしたのは、アメリカでの不評の中に結構「デザインがダサい」「CGがしょぼい」ってのがあるんですね。確かに神様のデザインは「牙狼」っぽいというか特撮ヒーローちっくですし、CGの動きはかなりカクカクしてます。でも、このぐらいだと正直言って邦画より遥かによくできてるんですよね^^;やっぱハリウッドのレベルは高いなというべきか、我々が邦画のCGに慣れ過ぎてるのか(笑)、ちょっとカルチャーギャップを感じました。

結構正統派のファンタジーアクション映画ですので、是非劇場へ駆けつけてください!おすすめします。

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イレブン・ミニッツ

イレブン・ミニッツ

​今日の2本目は

「イレブン・ミニッツ」です。

評価:(90/100点) – スコリモフスキ meets ファイナル・デスティネーション!


【あらすじ】

ポーランドのワルシャワ、17時。女優はオーディションのため、夫を置いて一人で監督の部屋へ向かう。自殺未遂をした女は、同棲していた彼の犬を譲り受け、別れを告げられる。学生への性犯罪で保護観察中の男は、公園でホットドッグを売る。質屋に強盗に入った男は、そこでクビを吊った店主を発見する。そして17時11分、なにかが起こる、、、。


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【感想】

今日の2本目はイエジー・スコリモフスキの最新作「イレブン・ミニッツ」です。あんまりお客さんが入っていないのはある程度予想していたのですが、さすがに同じ列のサラリーマンが焼酎と唐揚げを食べ始めたのはびっくりしました(笑)。どうみても映画オタク向けの作品なのに、なんかいいんだか悪いんだか、、、というね、、、。

映画オタク向けと書きましたが、本作はイエジー・スコリモフスキらしからぬ、とても愉快なエンタメ色の強いジャンルムービーです。ですので、是非、映画オタクの方以外にも見ていただきたいです。ここから私はこの作品をがっちり褒めちぎります。細かいネタバレはいたしませんが、どうしても具体的に書かざるを得ない部分がありますので、実際に見てから読んで頂いたほうが良いかと思います。本当におすすめですので、是非劇場で御覧ください!

これは悪趣味ジャンルムービーだ!

いきなりですが、この作品には明確なストーリーがありません。いわゆる物語的な意味での起承転結がなく、ある日の世界の「17時~17時11分」までを切り取った形になっています。なぜ「11分」というハンパな時間なのか?これは映画を見ていただければわかります。

本作には起承転結が無いと書きました。では何があるのかというと、それは「不穏な空気とカタストロフの予感」です。本作では、全編を通して、ひたすら「不穏な空気」が描かれます。明らかに悪事を考えてるっぽいエロ監督と、狙われてるっぽいちょい頭の弱いグラマラスな女優。そこに乱入しようとする左目を怪我した女優の夫。保護観察中のホットドッグ売りと、その息子で麻薬中毒のバイク便配達屋。公園で彼氏を待つのは、手首を切って家に火を付けながらそれでも生き残ってしまった女。全ての登場人物が、何か犯罪の臭いというか危険な雰囲気を漂わせており、いたるところでちょっとしたアクシデントや不吉なイベントが頻発します。空にはよくわからない”何か”が浮かび、部屋には鳩が突っ込んでくる。

群像劇である以上はいつかはこの登場人物たちは交わるわけで、それはもうこの不穏さの積み重ねで破滅するしかあり得ないわけです。いつカタストロフがくるのか?いつこの不穏さが爆発するのか? 見ている私たちはヤキモキ・ハラハラしながら、それを待ち続けます。「お!バーナーに火がついた!」「うぉ、交通事故起きそう!」「うわ、飛行機が低空で!これは9・11か!?」「え!?隕石落ちちゃうの!?アルマゲドン!?」。そういったヤキモキが5分に1回くらいやってきます(笑)。まだこない、、、まだこない、、、うぉ、、、まだだ、、、。こうやってジレている内に、いつしかカタストロフを待ち焦がれてハードルが上がりまくっている自分がいるわけです。そしてついに来る破滅の瞬間!やっときた!ガッツポーーーーズ!しかも笑えるぐらい凄いあさっての方からカタストロフがやって来ます(笑)。この開放感!エクスタシー!最高にスッキリします(笑)。もう完全に「ファイナル・デスティネーション」です。

これだけだと普通のブラックホラー・コメディなんですが、さすがにこれで終わらないのがイエジー・スコリモフスキ。ちゃんとこの後に、「でもこういう劇的な事件は、実は世界中でしょっちゅう起きているんだ。」という締めが加わり、最終的には「人生の不条理さとだからこその面白さ」という人間讃歌に着地します。私たちが出会う人やすれ違っただけの人にも、すべてその瞬間に至る人生の物語があるんだってことですね。つまり、この映画は世界で常に起きていることを、たまたま11分だけ切り取ったという形なんですね。だから起承転結もないし、ドラマが途中から始まるんです。11分っていうのは、おそらく9・11の連想、つまり破滅の時ですね。ついでにホテルの部屋番号も「1111」です。

この結末はとても良くまとまってます。なんですが、なんかこういたずらっこの無理矢理なアリバイ言い訳に聞こえるんですね(笑)。「ほら!悪趣味だけど楽しいだろ!皆好きだろ!あ、一応道徳的な内容なんで、親御さんは子供が見ても怒らないでください。」みたいな変な言い訳(笑)。

とてもお茶目で素晴らしい映画です。

【まとめ】

もうすぐ80歳になる巨匠の最新作がまさかの直球ジャンルムービーという、よくも悪くもとても驚いた作品でした。逆に言うとですね、みんなホラーコメディのことを低俗だの下品だの文句いうなよ!ってことです(笑)。巨魁スコリモフスキも認めた素晴らしいジャンルです。是非是非、「ファイナル・デスティネーション(2000)」「デッドコースター/ファイナル・デスティネーション2(2003)」「ファイナル・デッドコースター(2006)」「ファイナル・デッドサーキット(2009)」「ファイナル・デッドブリッジ(2011)」とセットで見て欲しい作品です。これホント名作です。絶対映画館で見ましょう!

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セルフレス 覚醒した記憶

セルフレス 覚醒した記憶

​今日は二本です。一本目はシャンテで

「セルフレス 覚醒した記憶」を見てきました。

評価:(75/100点) – 古き良きB級午後ロー映画


【あらすじ】

“ニューヨークを作った男”建築王のダミアンは、ガンに蝕まれ余命半年を宣告されていた。まだまだ若いもんには負けんという心意気はあるが、確実に死が近づいている。そんな折、彼の家にオルブライト博士の名刺が届く。博士は「人間の脱皮」として、魂を別の”器”へ移す研究を行っていた。人生最後の賭けとして、ダミアンは博士に依頼し、若い肉体への”脱皮”手術を行う、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> ガンとオルブライト博士
※第1ターニングポイント -> ダミアンがキドナーとして生まれ変わる
第2幕 -> キドナーの生活と手術の秘密
※第2ターニングポイント -> マデリンとアナが誘拐される
第3幕 -> ラボへの潜入


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【感想】

今日はお休みをとって二本見てきました。一本目はターセム・シン監督の「セルフレス 覚醒した記憶」です。平日昼の回なのに意外と年配の方で埋まっており、ライアン・レイノルズ人気を感じました。

良きB級アクションSF

私、何が好きってB級SFアクションほど好きなものはありません(笑)。ターセム・シン監督といえばスローモーションの面白映像と気持ち悪い変なアーティスティック映像加工が特徴なわけで、それがSFアクションとくっついたら面白く無いはずがありません!

そんなこんなでかなり鼻息荒く見てきたんですが、これですね、すごい午後のロードショーっぽいんですね(笑)。面白映像はエッセンス程度に留まっていて、全体はこれでもかっていうミニマムかつバカっぽいアクション映画。肉弾戦と1:2カーチェイスが一番お金かかってるんじゃないかってくらいの節約っぷりで、前作「インモータルズ-神々の戦い-(2011)」とは180度違います。あっちはCGバリバリ、ケレン味たっぷり、話は一直線って言う王道の大作アクションエンタメ映画でした。対する今作は、もうユーロッパコープが作ってるんじゃないかっていうくらいアホっぽい体を張ったアクションです(笑)。

話はいたってシンプル。初代「仮面ライダー」と一緒です。主人公が改造人間になって、自分を改造した(=生みの親)悪の博士をぶっ殺しに行くっていう王道のエディプスコンプレックスもの。そこにさらに父と娘の確執と修復みたいなものも混ぜ、「親殺しかつ娘との仲直り」という世のお父様の不満を綺麗さっぱり解消する作品となっております。しかも、「まさかこのまんまなんてことないだろうな、、、」と不安だった私の懸念点も、最後にきっちり落とし前つけてくれました。ターセム!あんた、わかってる!わかってるよ!(サムズアップ)
作品のテーマとターゲティングが一致しすぎていて、あざとすぎるんじゃないかと思いつつ、泣いてしまいました(笑)。

いいキャラが勢ぞろい!

本作は、正直に言うと話は全部どっかで見たようなよくある内容です。それなのにめちゃくちゃ楽しく見られるっていうのは、やっぱり俳優さんたちの強度が素晴らしいからなんですね。

特にライアン・レイノルズ。ものすごいイケメンでガタイも良いのに、場面によってはタレ目かつ寄り目でちょっととぼけて見えたり、微妙に頼りなさそうに見えるんですね。この場面場面でガラッっと変わる顔の印象が、本作のような「巻き込まれ型」のサスペンスにはとってもハマってます。困ったな〜って言いながら危なげなく敵をなぎ倒していく感じが最高です。正当なリーアム・ニーソンの後継者です(笑)。

後は敵のマシュー・グードですね。「ウォッチメン(2009)」のオジマンディアスにしても、「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密(2014)」のアレグザンダーにしても、こう何考えてるかよくわからん天才というか、淡々とモノ凄いことをやらかす雰囲気が100点満点です。無表情で目の焦点が合ってない感じですね。
もうね、この主人公と敵をキャスティングしてアクション物やろうっていう企画の時点で8割型勝ってると思います(笑)。

【まとめ】

B級アクションのお約束をちゃんと踏襲した上で安定して見せ場を供給してくれるとっても良い作品でした。大作感は全くないですから1800円出すにはちょっと、、、と思われてしまうかもしれませんが、見て損はありません。レンタルでも午後ロー待ち(※やるよね!絶対)でも良いので、ぜひ見て欲しい作品です。結構本気でオススメします!

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グランド・イリュージョン 見破られたトリック

グランド・イリュージョン 見破られたトリック

今日はレイトで

「グランド・イリュージョン 見破られたトリック」を見てきました。

評価:(20/100点) – 90億円かけたVシネマ


【あらすじ】

マジシャン義賊団・ホースメンは前作から一年間地下に潜っていた。そんな休止活動中のおり、リーダーのディランから新しいミッションを与えられる。次なるターゲットはモバイルのセキュリティ会社。個人情報を抜き取る悪巧みを暴露するため新作発表会に乗り込むホースメン達だったが、実はこれは宿敵の罠だった、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> ホースメンの新人と、1年ぶりの復帰。
※第1ターニングポイント -> マカオに飛ばされる
第2幕 -> マカオでのチップ泥棒
※第2ターニングポイント -> ディランと合流する。
第3幕 -> アーサー親子退治大作戦


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【感想】

今日は、「グランド・イリュージョン 見破られたトリック」を見てきました。たま~にある映画の日を初日にするパターンの変則公開作です。レイトショーでしたが、意外とお客さんが入ってました。
いきなりですが、本作は結構アレな感じになってまして、正直そんなに書くことが浮かびません(笑)。というかあんまりモチベーションの上がらない作品でした。なのでサラっと要点だけ書かせていただきます。

滅茶苦茶

本作は、「グランド・イリュージョン(2013)」の続編です。前作はいわゆる変人チームものとして、B級ながら結構良くできてました。手品の神様「ジ・アイ」という幻のチームに入るため、個性的なマジシャン4人組「フォー・ホースメン」がねずみ小僧よろしく上流階級をだまくらかしてお金を毟り取っていく「痛快ピカレスク映画」です。前作は、ホースメンのメンバー達のキャラクターを上手く立てながら、強烈にB級臭い「どんでん返しサスペンス」みたいなのを展開しており、楽しかったです。いわゆる「シネパトス映画」ですね(笑)。
当時乗りに乗っていたジェシー・アイゼンバーグと、一部でカルト的な人気があったウディ・ハレルソンの起用も手伝って、前作は制作費7,500万ドルに対して3億ドル近くを稼ぎ出しました。

そんな「グランド・イリュージョン」の期待の続編ですから、これはもうキャラモノに決まってるじゃん!、、、、と思っていると、なんとチームの紅一点アイラ・フィッシャーが降板しております。いきなり「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン(2011)」や「ベスト・キッド2(1986)」並の唐突なヒロイン交代劇に驚いていると、さらにですね、話の流れについていくのが精一杯なグダグダっぷり。基本的に今回はダニエル・ラドクリフ(ハリー・ポッター)が敵なんですが、この敵とのパワーバランスが凄い分かりにくいんです。前作でB級感むき出しで好評だったラストの「どんでん返し」を意識するあまり、作中に何回もどんでん返しを重ねていくため、おまえ「ワイルドシングス(1998)」か?っていうくらいの頻度で、もうなんか行き当たりばったりにしか見えないんですね。「ハリー・ポッターにはめられた!」→「でも出しぬいてやったぜ!」→「やっぱりはめられてた!」→「まだまだもっかい出し抜くぜ!」→「モーガン・フリーマンにもはめられた!」→「甘いわ!また出しぬいたぜ!」・・・・・これがもう2回くらい重なります。ワンパターンっていうよりも、なんかしつこいっていうか、適当っていうか、、、なんなんでしょう。
FBIは無能な上に何故か海外まで出張ってくるし、最高セキュリティのチップを盗むっていってるのにやってることは防犯カメラ1個で見破られるようなトリックだったり、細かいディテールも結構酷いです。

さすがになんかこの映画おかしいぞ、、、と思って調べたら、監督が変わってるんですね。前作は「トランスポーター(2002)」シリーズでお馴染みのルイ・レテリエ。対して今回は悪名高き「GIジョー バック2リベンジ(2013)」の朱 浩偉(ジョン・マレー・チュウ)。これね、、、だめだってこういうことしちゃ(笑)。どうせ誰がやってもキャラ人気でお客さんは入るからっていうこの、、、ね。

しかも、このシリーズって手品が題材ということで非常に映像化が難しいんですね。だって今の映画ってCGという名前の種も仕掛けもバリバリあるトリックを普通に使ってるんですから。スーパーマンはCGで空を飛べるし、ハリー・ポッターだってCGで姿を消せます。だから映画で手品を扱うってそもそも無理ゲーなんです。本作でも、手品の後に胡散臭い理屈が出てくるんですが、「いや、でもそれCGっしょ」というのが随所にあり結構冷めます。映画内でお盆がビジネスバッグに突然変わっても、別に驚かないんです。

そんなこんなで、作品中のホースメンの手品はほとんど魔法化しています。魔法使いチームのケイパー映画って言えば聞こえは良いんですが、ただあんまりお互いの能力を補完したりっていうチーム戦略は無いんですね。特にウディ・ハレルソン演じるメリットの催眠術は、もうなんでもアリです。あまりに便利すぎるため、敵側にも同じ能力の双子をおいちゃうくらいに(笑)。作ってる方も結構やっつけ仕事だなっていうのが露骨です。

【まとめ】

もともとがチームモノの続編なのでキャラさえ立ってればOKみたいな所はあるんですが、そのせっかくのキャラがボロボロのストーリーで完全に潰されちゃってました。あまつさえ前作を全否定するラストをもってくるって、一体この映画は誰向けなんでしょう。シーン単位では勢いがあるので、大枠にさえ目をつぶれば耐えられないことは無い、、、というぐらいのかなり厳しい印象でした。

超余談ですが、魔法使い軍団の敵が悪い顔のハリー・ポッターって時点で悪ふざけだよな、、、って感じなので、そこで爆笑できるセンスがあればいけると思います、、、。

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後妻業の女

後妻業の女

9月の映画の日は

「後妻業の女」を見てきました。

評価:(75/100点) – 大竹しのぶハンパねぇ!圧巻のブラック・コメディ


【あらすじ】

小夜子は資産家男性と結婚しては殺して遺産を奪う「後妻業」の女である。今度のターゲットは元女子大教授の中瀬耕造。いつもどおり首尾よく遺産を奪ったものの、耕造の次女・朋美は小夜子の胡散臭さに気付いてしまう。朋美は友人で法律事務所勤務の守屋に相談し、私立探偵を雇って調査することにする、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 小夜子と耕造
※第1ターニングポイント -> 耕造の死
第2幕 -> 本多探偵の調査
※第2ターニングポイント -> 本多が柏木を脅す
第3幕 -> 決着


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【感想】

今日はですね、映画の日ということで「後妻業の女」を日劇で見てきました。高齢の夫婦で4割ぐらいは埋まっていました。劇場で流れる予告の「通天閣やない!スカイツリーや!!」というアレがあまりにもアレすぎてちょっと不安だったのですが、、、これ実際に見てみるとかなり面白いです。もちろんギャグが全体的に古臭いというのはあるんですが、終盤は結構本気でツボに入りました(笑)。悪いことはいいませんので、予告でちょっと引いたかたも見たほうがいいと思います。

今回は核心部分のネタバレは無しで書いていきますので、そのあたりはご安心ください。

男と女の化かしあい

本作は、ブラックコメディとピカレスクのハイブリッド映画です。

メインストーリーとしては「男と女の化かしあい」というものです。主人公・小夜子の「後妻業」は女が男の遺産を狙って遺言を書かせた上で死ぬのを待つという”捕食”の犯罪です。しかし、本作では最後のとあるオチで「いやいや男側だってある程度そういう女側の打算は看破してるんだぞ」というのを見せます。女は男の最後を看取るかわりに遺産をもらう。男は人生の最後を楽しむために遺産を渡して女に相手をしてもらう。この両者の打算的なWin-Win関係が、本当に悪いといえるのか、、、ってなところです。要は「結婚って実際はそういう打算的な部分もあるんだよ」っという教訓話ですね。これは本当に身につまされます。

犯罪モノから怒涛のブラックコメディへ

こういったシリアスな大人の(というか高齢者向けの)ストーリーをベースにして、終盤には怒涛のブラックコメディが展開されます。もうですね、大竹しのぶ扮する小夜子の魅力が全てを掻っ攫っていきます。それも反則じゃないかというレベルで(笑)。

本作には、大勢の”小悪党”が登場します。結婚相談所・所長で小夜子に高齢者のカモを紹介する柏木。探偵の癖にいろいろ黒い本多。ホステスで柏木を金蔓にするマユミとリサ。金庫破りに、ヤクザも見る獣医。登場人物が少ないにもかかわらず、出てくる人がみんな悪党だらけです。それもわりとショボい小悪党。そんな中にあって、とにかくなんせ凄いのが小夜子です。ネコはかぶるわ、人は殺すわ、遺族にドス効かせるわ、銀行員に小芝居打つわ。もうやりたい放題です。この小夜子がですね、最初は本当にうざくてうざくて仕方ないんですが、鶴瓶演じる舟山が出てきてからは一気に人間臭くなるんですね。急にホツれ始まるんです。このギャップが凄い良くて、なんかもうこのキャラだけで全部いいんじゃないかというアイドルオーラを感じます。

序盤はわりと大人しめのピカレスク(=格好いい犯罪者もの)が展開されるのですが、だんだんギャグがひどくなってきて、三幕目は完全に悪ふざけの大ブラックコメディ祭りになります。この祭りの勢いを一身に担っているのが小夜子の実の息子・岸上博司君です。
この博司君がですね、30歳にしてニートかつキ◯ガイかつ獰猛かつ小心者という最高に頭の悪い狂言回しでして、もはや会話が通じないレベルのスーパーコントを展開して来ます。博司君が出てくるパートはことごとくウザく、ことごとく面白いです。ボケの博司君とツッコミの柏木という布陣で展開しつつも、後半は柏木に起きた”ある事”によってツッコミすら不在になり、一切収拾がつかなくなります(笑)。

このあたりは、私それこそ「マルホランド・ドライブ(2001)」のドタバタ殺し屋パートを思い出しました。ゲスな犯罪者達にしょうもない間抜けなドタバタコメディをさせることで笑い飛ばしちゃおうというスノビスト的なセンスですよね。それこそ北野武の「アウトレイジ(2010)」もそういう方向性ですし、なんかこう「90年代的日本映画の臭い」みたいなものを感じてとても良かったです。それも、序盤がシリアス/シニカルであればあるほど、後半の超絶ドタバタコメディでの「ゲスな犯罪者達への軽蔑込みの笑い飛ばしっぷり」が加速するわけで、この辺のバランス感覚は本当にすばらしいです。

【まとめ】

書き方が難しいんですが、とても日本映画らしいバランスの文芸コメディ映画でした。つい最近”ザ・ハリウッド”な某コスプレコント映画を見たばっかりだったので、余計に安心して見れたのかも知れません。こういう良作がもっと流行ってほしいです。そういう意味では、一番のネックはあの予告編ですよね(笑)。あのド下品なオヤジギャグ予告だと、じぃちゃんばぁちゃん以外は劇場に呼べないです。もっと大竹しのぶのはじけっぷりを前に出せばいいのにと、そこだけがちょっと不満でした。

ちなみにこういった内容の作品ですので、当たり前ですがポリティカル・コレクトネスとかそういう道徳的なものは一切ありません(笑)。たぶんフェミニストの方が見ると気が気じゃないくらい怒り狂うと思いますので、ご注意下さい。「君の名は。」で恋人たちのロマンチシズムに浸りきった後にはね、コレでも喰らえ!(笑)
超オススメします。

■ おまけ(ネタバレあり)

この映画は、最後のオチが本当に良いと思うんです。最後に見つけた遺書って、本来は妻である小夜子が最初に見つけてしかるべき場所にあるんですね。小夜子にもし少しでも良心があったなら、当然仏壇に手を合わせて、お線香が足りなくなって、そしてサクっと遺書を見つけて、サクっともみ消せたんです。これは、耕造の最後のテストなんですね。「お前が遺産狙いなのは感づいてるぞ。でもそれは良い。きちんと”妻”を演じてくれるなら遺産は渡す。でも本当にお金が欲しいだけなら、そりゃあげないよ」という茶目っ気たっぷりの挑戦状です。そして見事にテストに不合格という、、、耕造/小夜子共々いいキャラでした。

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君の名は。

君の名は。

大変長らくお待たせいたしました。
本日は新海誠の最新作

「君の名は。」です。

評価:(59/100点) – 新海誠のメジャー・パッケージ化大成功!


【あらすじ】

飛騨のど田舎・糸守町に住む宮水三葉(ミツハ)は、いつもどおり朝起きて学校へ向かった。しかしクラスの皆の様子がどうもオカシイ。みんな口々に「昨日の三葉は変だった」というのだ。疑問に思いながらも授業を受けていた三葉は、ノートに奇妙な落書きを見つける。「お前は誰だ?」。
その夜、彼女は不思議な夢を見る。それは憧れの大都会東京で、男子高校生・瀧(タキ)として生活する、リアリティ溢れるものだった、、、。

【作品構成】

オープニング -> 2021年東京

第一話 -> 三葉と瀧、それぞれの入れ替わり
中間CMタイム -> 瀧としての目覚め
※第一話終了 -> 入れ替わりのルール決め。

第二話 -> 入れ替わりの終わりと飛騨への旅
中間CMタイム -> 一回目のバッドエンド
※第二話終了 -> 瀧が口噛み酒を飲む

第三話 -> 瀧の彗星避難作戦
中間CMタイム -> カタワレドキの邂逅
※第三話終了 -> 隕石が落ちる

エピローグ -> 再び2021年


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【感想】

紳士淑女の皆様、大変長らくおまたせいたしました。本日は、すでに公開から3日も経ってしまいました新海誠の最新作「君の名は。」です。客席はほぼ中高生で埋まっており、明らかに見た目がアレな大人は、私も含めて10人もいませんでした。ものすごい混んでまして、夜の回かつ500キャパの大箱だというのに、最前列でも両脇に高校生っぽい観客がいました。左隣が女の子だったのですが、第3話のラストでガンガン泣き出しまして、何故かなんかちょっと申し訳なくなってしまいました。「悪い大人でゴメンよ、、、」って感じで(笑)。そうなんです。本作は大変悪い大人が作ったとってもあざとい”良い話”です。そんなところも含めまして、書きたいことがいっぱいあるので早速本題に行きましょう。

なお、以降、多大なるネタバレを含みます。未見の方はご注意ください。

まずは全体の概要から

まず、細かい話に入る前に、全体をざっくりと見ていきたいと思います。そもそもの「新海誠」という監督については「星を追う子ども(2011)」の時のブログ記事を見てください。

本作「君の名は。」は、新海誠の本来の作家性である「中二病的ロマンティックSFファンタジー」が最前面に出ています。相変わらず実写をトレースした高密度背景&CGモデルと、その上ののっぺりしたキャラ達。うざったいほどのモノローグと、かぶさるロキノン系音楽。これぞセカイ系という猛烈に閉じた関係性(今回は文字通り”己に入ってくる他者”との関係性)、そこに絡んでくる世界を揺るがす大規模な事件。すごい適当なシナリオと、めくるめく怒涛のエンディング。もうですね、「これが新海誠だ!」というエッセンスが振り掛かかりまくっており、誰がどう見ても紛れも無い新海誠印がここにあります。

私、前作の「言の葉の庭(2013)」を見ていないのでなんとも言えないのですが、なんかこう”やっちまった”感満載だった「星を追う子ども」から見事に持ち直してきたなというのが率直な感想です。

さらにですね、中身はもう完全に新海誠そのものであるにもかかわらず、外見のルックスはとっても「よく出来た普通のアニメ映画」なんですね。はっきりと、原画やキャラデザインがよく出来てます。さらにいままでのテーマであった「オタクの自己憐憫(ある意味自己完結した一方的な失恋)→大人への成長」から、本作では明確にハッピーエンドっぽい着地になっています。この辺は伊達に天下の東宝が絡んでないなと感心しました。ですから、本作は「新海誠作品の入門編」としては今のところベストです。新海誠という”超アクの強いオタク系監督”をいい感じに包んでメジャー・パッケージ化できてます。

いまから、私はちょいと文句を書きますが、そんなものはこの満員の劇場がすべて吹き飛ばす些細なことです。だって新海誠はメジャー監督への道を選んだんですから。売れた以上はこのアクの強い作家性が受け入れられたってことですから、これはもう大勝利です。

良かった所:中2病的ロマコメ要素がテンコ盛り

まずは良かった所を見ていきましょう。「君の名は。」で一番良かったのはやっぱりこの「中2病っぽさ」だと思うんですね。お互い一度も逢ってないのにお互いを好きだと思ってしまう部分とか、相手に逢うためだけに凄い遠くまで衝動的に行っちゃう感じとか、最後の猛烈に恥ずかしい告白とかですね(笑)。極め付きは三葉が髪を切って瀧と同じ髪型になるとこですね。失恋/好きな人と外見で同化するというペアルック願望。
こういう「オタクや女子学生が好きなツボ=そりゃ無いだろってくらいロマンティックな青春妄想」をことごとく抑えていて、「やっぱ新海誠は妄想力あるな~」と大感心して見ていました。はっきり言ってしまえば、本作は私自身も含めたオタクが好きなもの、そしてたぶん新海誠自身も好きな要素がゴテゴテに乗っかってるんです。そういった意味で、新海誠作品にとっては「キモい」はかなりの褒め言葉です(笑)。40歳すぎたオッサンが真顔で書いてる青春ポエムですからね^^;。

話のフォーマットはもろに「オーロラの彼方へ(2000)」ですし、二人の関係性は「ラーゼフォン(2002)」やその元ネタの短編「たんぽぽ娘(1961)」(※共に未来から恋人がやってきて片方を救う話)、彗星が降ってきて世界が滅ぶっていうのだと「トリフィド時代(1951)」とか「メランコリア(2012)」なんかもあります。入れ替わりとタイムスリップは言わずもがなの「転校生(1982)」と「時をかける少女(1983)」。思い出せないんですが、「祭りの日にデカイことが起きる」ってのもなんかよく見た覚えがあります。ラストシーンはみんな大好きな「バタフライ・エフェクト(2004)」ですよね。こういう好きだったものをコラージュして見せられると、その同世代感だけでもう細かいアラはいいかなってくらい優しい気持ちになれます(笑)。

もちろん、こういう青春妄想ストーリーって、まさに青春真っ只中の人にはビンビンに響くはずです。冷静に考えると結構無茶苦茶な話しなんですが、そんな事は気にならないくらい、後半は妄想要素の乱れ撃ちで無理矢理感動させにかかります。実際「泣いた!」「感動した!」っ子供達がいっぱいいるみたいなので、これは大成功だと思います。ツイッターに書きましたが、やってる事自体はパチンコ店やキャバクラが4つ打ち音楽で無理やり客のテンションを挙げるのと同じ原理で、「感動、カンドっ、感動、カンドっ(※”ドン・ちっ・ドン・ちっ”と同じリズムで)」ってやると何故か感動するという結構雑な手口です(笑)。予告にもあった「忘れたくない人!」「忘れちゃいけない人!」みたいなセリフの反復なんかはモロにこの典型です。
ただ、これなんか悪口みたいですが、全然悪い意味ではありません。万人受けを狙った結果だと思ったら個人的には全然許容範囲です。「あぁ、こういう事やるやる。」ってテンションです。

良くない所:作品構成について

私が見ていて一番驚いたのは、映画が始まってすぐにまんまTVアニメなオープニングが流れたところです。しかも本編のダイジェスト/見せ場の抽象イメージとしてのオープニングになっており、100%TVアニメでの作り方です。本作ですね、なんと作品構成が完全に30分アニメのフォーマットなんです。全体で110分くらいの作品なんですが、およそ1話20~30分で、エピローグだけ15分くらいの全3+1話で構成されています。なんか昔「ハナミズキ」でごちゃごちゃ書いた覚えがあるんですが、映画としてはあんまり好ましい構成ではないですね。とくに本作の場合は「テレビアニメ化」が徹底されていまして、わざわざ毎話15分目くらいに場面展開まであります。第1話だと、三葉側の視点が最初の15分で、瀧側の視点が残り15分です。ど真ん中でちゃんとシークエンスが変わります。さらにきっちり30分経つと急に入れ替わりルールの説明セリフがダーーーーーっと入りまして、エンディングのRADWIMPSが流れます。CMが入るんじゃないかと思ってハラハラしました(笑)。

CMってのは流石に冗談ですが、ではこの構成で何がまずいかというと、話が途切れちゃうところなんですね。本作での3話分は、わざわざ1話毎にストーリー/イベントが独立した仕様になってます。例えば、1話目は「二人の入れ替わりの面白さとルールを伝える回」、2話目は「急に入れ替わりが起きなくなって焦る回」。この両方共が独立しており、各話ごとにきちんと起承転結があります。これ、全体としてみると、結構無駄な描写が多いのに話が進まないのでイライラします。しかもそのしわ寄せが最後にきます。クライマックスの住民避難大作戦がすごい唐突に感じられるんです。作品の真ん中あたりから徐々にストーリーを展開させてけば良かったんですが、3話目の30分だけで作戦立案→準備→実施→結果とすべて完結させようとしているため明らかに時間が足りません。「テッシーやさやちんがよく協力してくれるな」とか、「いきなり爆破はおかしくないか」とか描写不足がそのままノイズになるんですね。これわざわざこんなTVアニメ形式の構成にしないで、普通に三幕構成に落とせば十分処理できる情報量だと思いますし、もっとスムーズに出来たと思います。正直な所なんでこんなにしたのか、あんまり意図がわかりません。1年後くらいに「3夜連続テレビ放送」とかする想定なんでしょうか?

※ 完全に余談ですが、変電所の爆破は、本作のベース元ネタ「オーロラの彼方へ」のオマージュです。

※ 2016年9月6日追記:監督インタビューを見ていたら、今回ターゲットを「学生向けにしてる」という話がありました。これ映画慣れしてない人が理解しやすいようにテレビアニメ3話連続形式にしたのかなと邪推しました。それならそれで子供舐め過ぎなので違うかもしれませんが、あくまで邪推で。

一応細かいツッコミをば

とまぁ構成にツッコミを入れたところで、次は細かいツッコミに入ります。

一番厳しいノイズは、話の根幹である「入れ替わる二人の時代が実は3年ずれてる」事にふたりとも全く気が付かないところです。二人ともiPhoneっぽい携帯電話を使っています。学校にも通ってます。そして少なくとも両方の家にはテレビがあります。バイトのシフトに入るのにカレンダーも見てます。この状況で、二人共が年号が違うって気付かない可能性がありますかね?ちょっと無理があります。教科書には必ず〇〇年度って入ってますし、そもそもなんかiPhoneの日記帳アプリみたいなのつけてますしね。ここはそもそもの話の核になる部分なので、それがガバガバなのは流石にちょっとどうかと思います。

付随するところで行くと、「三年前の日本全土で話題沸騰の天体ショー&大事故」をまったく知らない高校生ってどうなんでしょう。一回ミキ先輩とのデートで入った変な写真展でわざわざ特集コーナーまで見てるのに、まったく分からないんですね。これもちょっと無理があります。

最終盤で名前は忘れるくせに隕石が落ちることは忘れない三葉とか、アプリ上の日記は消えるのにマジックでかいた「ある言葉」は消えないとか(※たぶん消えるまでタイムラグがある設定)、初めて入れ替わった直後になんで学校へいったり電車に乗ったり日常基本行動ができるんだとか、わりとこの入れ替わり周りのところが雑な印象があります。

あとは肝心の巨大隕石ですよね。巨大隕石が落ちてきて数百人規模の被害者が出るってある意味爆弾みたいなものですから、自衛隊が迎撃しないのかな〜って言うのもちょっと思いました。分裂してから実際に落下衝突するまで結構時間ありますしね。しかも見た感じ1200年周期で落ちる恒例シリーズの第3弾っぽいので、少なくとも村長レベルで手に負える事態じゃないなと。
(※ちなみに第1弾は御神体のあるクレーター、第2弾はもとからある隕石湖。隕石同士が引かれ合うってのも一種の「結び」ですね。)
もともと真面目にSF考証をするつもりが無い作品なので別にいいんですが、お話本筋のノイズになるレベルではなんかちょっと引っかかります。

でもそんなのどうでもいいんだよ!って話。

ただ、この辺のアラは「細かいストーリーなんてどうでもいいんだよ!」で済んじゃう部分でもあります。本作ではキーワードとして「結び」というのが出てきます。劇中ではかなり便利に使っていて定義が怪しいんですが、「運命の糸」「超常的なパワーによって人やモノが結びつくこと」「時間そのもの」みたいな万能な意味で使われます。これは結構逃げワードとしての破壊力がありまして、なんでもかんでも「だって結びだし」「結びの神様が適当にやってくれたんでしょ」で終わらせる力技が可能です。運命には過程も理屈も無いですからね。作品内でこういうエクスキューズを用意しておくっていうのは本当は反則なんですが、本作に限って言えば、「“理屈”より”情(じょう)”を優先させる」という宣言にもなっているので効果的だと思います。そして、この「”理屈”より”情”を優先させる」事自体が、まさに「セカイ系」の王道ど真ん中なわけです。

基本的にいままでの新海作品も、クライマックスの「盛り上げ」をやりたいだけでそれ以外はただの前振り・舞台設定です。「秒速5センチメートル(2007)」が公開された時に、「イントロが50分ある山崎まさよしのPV」と言われましたが、相変わらずやってることは一緒です。ただ今回は「イントロが90分あるRADWIMPSのPV」にはなって無くて、ちゃんと「前振りを90分したうえでの感動の乱れ撃ち!」として抽象・一般化されています。より作家性がマイルドに表現されているわけです。実際、「秒速5センチメートル」は山崎まさよしにがっつり乗れないと厳しいですが、本作は別にRADWIMPSが好きじゃなくても大丈夫です。ただ、その分、強烈なロマンチシズムに乗る必要があります。

この映画は、2021年の東京で、三葉と瀧が喪失感を感じながら目覚めるところから始まります。本編はほぼ全てが(忘れてしまった)回想で、最終的には再び2021年に戻ってきます。ですから、この映画はあくまでもこの2人の喪失感が何かを明らかにし、そしてそれが埋まるまでの話なんですね。

結局、本作のロマンチシズムって「僕達が一目惚れをした時、または運命の人だと思った時、実は記憶を亡くしているだけで物凄い大宇宙的なバックボーンがあるかもしれない」ってとこなんです。

“運命の二人”というロマンチックなシチュエーションに乗れるかどうかだけ。そりゃバイブスに乗っかれた人は熱狂しますよね。「なんか良くわからんけど感動した!超傑作!」って。テーマ自体は普遍的といってもいいかも知れません。逆にこれに乗っかれなかった場合、どうしてもアラが気になっちゃって「なんじゃこれ?無茶苦茶じゃんか」となるわけです。

【まとめ】

本作は、本当に「新海誠作品の入門編」として最適な一本です。彼のフィルモグラフィの総決算でありながら、一方でちゃんと”大衆向け”にメジャー・パッケージ化されており、そりゃ大ヒットしてもまったく不思議ではありません。大人が真面目にみるにはちょっとアレですが、少なくともティーン・エイジャーには間違いなく記憶に残る作品になるんじゃないでしょうか?

こういう作家性の強い=アクの強い監督って、「いかにアクを損なわずに大衆化するか」っていうのが一番苦労する所です。「星を追う子ども」は大衆化を狙いすぎてただ気持ち悪くなっちゃったわけですが(笑)、本作はそのバランスが完璧だと思います。

そういった意味でも、今後の新海作品が非常に楽しみです。次作も引き続き「スレ違い続ける青春妄想ほろ苦SFラブファンタジー」をやるのか、それともまたジュブナイル的なものにリベンジするのか。監督としては次がキャリア勝負の分かれ目です。ティーン・エイジャーは是非是非、夏休みの間に御覧ください。猛プッシュオススメします。大人は夏休みが終わって落ち着いてからですかね(笑)。アルコール入ってるといい感じにアラをスルーできると思います。おすすめします。

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