おとうと

おとうと

本日は「おとうと」を観てきました。

評価:(85/100点) – 大満足です。


【あらすじ】

吟子は夫に先立たれ娘と姑の3人暮らしで薬局を営んでいた。娘の結婚式当日に音信不通だった吟子の弟・鉄郎がひょっこりと現れるが、よりにもよって泥酔して披露宴をメチャクチャにしてしまう。このことがきっかけで吟子のもう一人の弟・庄平は鉄郎に絶縁を宣言する。しかし吟子はどうしても縁を切れない。
暫く経って、大阪より鉄郎の恋人が吟子の元を訪れる。彼女は、鉄郎に130万円を貸したまま彼が音信不通になったと告げる、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 小春の結婚
 ※第1ターニングポイント -> 小春の披露宴
第2幕 -> 小春の離婚と鉄郎の失踪。
 ※第2ターニングポイント ->吟子が鉄郎に絶縁を告げる。
第3幕 -> 鉄郎の最期。


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【感想】

見終わっての率直な感想は、「あ~~~~映画見た。」という満足感です。さすが山田洋次。中居正広やラサール石井の”ノイズ”が気にならないほど、とても良くできた映画です。本作には最近のエンターテイメント映画にありがちなドラマチックな展開や社会的メッセージなんかはありません。むしろヨーロッパのアート系映画に近い構造をしています。でも、実際にはそれこそが日本映画なんです。日本にだって昔はこういう良い作品があって賑わっていたんです。日本市場は今やハリウッドの映画産業に飲み込まれてしまっていますが、それでもまだ山田洋次監督のような映画人にきちんとバジェットが渡る環境があることは大変喜ばしいです。

物語の肝

本作には際だったドラマがありません。ログラインで表すならば、「ある女にはどうしようもない弟がいて彼が死んだ。」と超簡潔に終わってしまいます。要は展開しないわけです。ですが、それこそが映画の醍醐味だと個人的には思っています。ハリウッド・エンタメ映画も好きなんですが、やっぱり「いま私は映画を見た」と満腹感があるのは、この種の映画なんです。
劇中での鉄郎は考え得る中で最悪レベルの「困った家族」です。そして頭がイカレてるかと思うほど馬鹿で人間のクズです。だけれども家族は家族、吟子にとっては紛れもなく弟です。尻拭いをしてやってるのに調子の良いことばっかり言ってフラフラしているダメ男。そんな奴でも、やっぱり家族なら死ぬ間際には世話をしてやりたくなりますし心配だってします。吟子があまりにも聖人すぎると思う方もいらっしゃるかも知れませんが、家族なんて実際はそんな物なのだと思います。というか思えてきます。
それを表すのに「家族の絆」みたいな安っぽい表現は使いません。小春と旦那のイビつな関係、吟子と姑の関係、吟子と鉄郎の関係、そして吟子と小春の関係。利害を超えて憎まれ口を叩きながらも愛し合う家族が居れば、お互い支え合う親子が居て、その一方で合理的な会話以外を否定する夫婦も居ます。そのいろいろなシチュエーションを観客に見せた上で、どれが正解とメッセージを送る事も無く表現していく山田洋次監督の演出力。ただただ拍手をお送りさせていただきます。本当に素晴らしい作品です。

少々気になる点

とはいえ、気になる点が無いわけではありません。最も大きいノイズは吉永小百合さんの演技です。
断っておきますが私は女優・吉永小百合の大ファンです。だからこそ今回の棒読みで滑舌良くハキハキした文語調の台詞回しは、ちょっと信じられないレベルです。”あの”吉永小百合さんにしては酷すぎます。それと反するかのように蒼井優と鶴瓶師匠の演技は冴え渡っています。それだけに果たして演出が悪いとも思えず、もしや吉永さんが衰えてしまったのではと恐れています。映画の出演数を絞っているようですので、次の作品までの時間で修正できると信じています。

【まとめ】

「山田洋次約10年ぶりの現代劇」の煽りはまったく嘘ではありません。「博報堂DYと朝日が絡んでるから糞映画だ」と判断して観に行かないのは賢明ではありません。是非、劇場で見てみてください。
この種の映画は、観客の感想=観客の自己分析につながっていきます。山田監督が作中で意見を明確に述べていないため、観客は自分の体験や過去に読んだ物語りからモロに影響を受けます。ですので作品は自身の鏡、この作品を語るということは自分をさらけ出すことにつながります。終わったあとの満足度と友人と意見を言う材料になる作品です。
だから、悪い事は言いませんので映画館に見に行っておくべきです。オススメです!!!

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ボーイズ・オン・ザ・ラン

ボーイズ・オン・ザ・ラン

ボーイズ・オン・ザ・ラン」を観てみました。

評価:(80/100点) – 不覚にも泣きました。


【あらすじ】

田西敏行は冴えない営業マンである。そんな彼も、会社の飲み会で植村ちはると意気投合したことから急接近、お互い好き合うも中々発展せずにいた。ある日ちはるが熱で倒れる。看病に向かった田西だが、そこでちはるの隣人にして姉御肌のしほに誘惑されてしまう。断るもののちはるに誤解され険悪になってしまう。その後、ちはるはライバル会社の営業マンとつきあい始めるが、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> ちはるとの出会い。
 ※第1ターニングポイント -> ちはると険悪になる。
第2幕 -> 田西とちはると青山。
 ※第2ターニングポイント ->ちはるの中絶手術に長谷川茜が来る。
第3幕 -> 青山との決闘。


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【感想】

素晴らしい作品でした。原作漫画は未読でしてあんまり映画も注目してませんでした。ところが、たまたま時間の都合で入ってみたところどうしてこれが拾い物でした。とにかくアホでバカでどうしようも無い男がそれでも不器用に生きていく様子が下品な下ネタとストレートなストーリーで語られます。

これ、ある意味では「(500)日のサマー」と似た構成でもあります。簡単に言ってしまえば、ウブで不器用な男が恋愛巧者の女に捕まって振り回される話です。しかし決定的に違うのは「(500)日のサマー」には救いがある(付き合って一時とはいえ幸せになる。そして恋に踏み出せるようになる。)のに対して、本作は救いがほとんどなく”苦さ”だけで出来ています。

田西はせっかく仲良くなれるはずだったちはるに誤解され完全に嫌われてしまいますが、不器用なので上手くリカバリーが出来ません。けれども必死に彼女のために一途に尽くそうとします。その一途さの向こうで、ちはるはことごとく自分勝手な女になっていきます。なんでもかんでも田西のせいにして、田西に頼りながらも他の男の事ばかり考えています。本当に腹が立つぐらい嫌な女です。それでも田西にとっては惚れた女であり彼の全てです。「僕が一生懸命になれるのは君のことだけだ」という田西の言葉の通りに、彼は彼女を最優先にして支えていきます。この健気さとラストに来る恋の盲目から醒める瞬間、それこそが本作を一級の「青春映画」へと押し上げています。

「(500)日のサマー」のトムよりもこちらに感情移入してしまうところが私のダメさ加減を如実に表していますが(笑)、絶対にオススメ出来る作品です! ごちゃごちゃ言うのも野暮なのでとりあえず見に行ってください。こんなにダメで、こんなに悲惨で、だけどこんなに清々しくなれる青春映画はなかなかありません。まさにボーイズ・オン・ザ・ラン。とりあえず溢れるリビドーのままに突っ走れってことですよ。オススメです!!!

余談ですが、松田龍平のアクションシーンが父親そっくりでびっくりしました。蘇える金狼のころの優作が好きなひとにもオススメです。もしかして翔太も、、、と思って「LIAR GAME The final Stage」とかいう100%核地雷を大股で踏みにいきそうになります(笑)。

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ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー

日曜日に「ゴールデンスランバー」を観てきました。

1月最後の映画です。

評価:(55/100点) – 伏線という名の後出しじゃんけん祭り。


【あらすじ】

青柳雅春はお人好しの宅配配達員である。ある日学生時代のサークル仲間・森田に釣りに誘われた青柳は、彼に睡眠薬を飲まされて車中で寝てしまう。目が覚めると、凱旋パレード中の金田首相がすぐ後ろの大通りを通っていた。そして爆殺される首相。車ごと爆死した森田をのこしてその場から逃亡する青柳だったが、首相暗殺容疑で指名手配されてしまう、、、。

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【感想】

え~伊坂幸太郎原作シリーズの最新作、ゴールデンスランバーです。笑う警官を観たときに初めて予告編が流れまして、「同じ話じゃん」と思ったのを強く覚えています。
本作では、陰謀に巻き込まれて首相暗殺の濡れ衣を着せられる青柳を主役に、かつての仲良しサークル仲間4人組の活躍を描きます。
が、、、全編通じて流れるジャイブ調のバックミュージックや伏線に巧妙に見せかけた時系列シャッフル、そして無内容なのにスカした演出など、笑う警官の角川春樹を連想させる作品です。
とはいえ本作はまったく駄作というわけではないと思います、頭を空っぽにして観れば面白いことは面白いですし、雰囲気に流されれば割と良さゲな所に着地します。なので、本作を絶賛する人が居ても不思議ではないと思います。ただ、、、小手先で撮ってる感じが前面に出ていてちょっとどうかと思ったりもします。

本作の気になる点

本作で気になったのは、後出しじゃんけんの多さとディティールの甘さです。
特に後出しじゃんけんについてですが、これは伏線に見せかけているだけに結構タチが悪いと思います。
私が観ていた限り、伏線として機能していたのはアイドルの整形疑惑の部分と花火のバイトをしていたところぐらいです。そのほかはほとんど後出しです。というのも、伏線は「それ単体でも物語上機能するが、後から別の機能を追加で与えられる」ことです。例えば、冒頭のプレタイトルシーン(デパートの親子)は、後からさも伏線であるかのように繰り返されますが、単なる時系列シャッフルです。また冒頭のシーンで娘が一瞬居なくなったことに意味はありません。つまり「単体では意味が無いことにあとから意味が追加された」という事です。同様に下水道の話も書き初めの話も単なる後出しです。しかし花火と整形にはその時々に意味があるため伏線たり得ています。
こういった後出しじゃんけんの多さは普段映画をあまり観ない人には「よく出来た脚本」と誤解されがちです。作り手もそれを狙っているのですが、しかし実際には全部のストーリーを決めた後に要素をばらして前半に配置しているだけなので上手いわけではありません。
伏線として機能していない物を山盛りにするあたり、もしかすると実際に脚本を書かれた方はこれでOKとおもっているのかなぁと、ちょっと心配になってきてしまいます。
ディティールについてはやはりボロボロです。なぜ晴子がカローラのバッテリを取り替えるかの根拠がないですし、なんでそのタイミングで廃車の所に青柳が来るかも分かりません。極端な話、ほとんど全ての登場人物達がエスパーではないかと思うほど、適切な場所に適格なタイミングで意味もなく偶然現れます。
また公園のシークエンスも苦笑いです。生中継のテレビ映像に写っているのに何故か警官だけが見失いますし、晴子が花火をセットするのが早すぎます。物語はまったく解決しませんし、あまつさえ何が起こったかもロクに説明されません。かと思えば検問の前で明らかに不自然に左折した車をスルーしたり、車検を通ってない車が前を通ってもスルーです。カローラだってあんなバッテリー変えただけでは動くはずはありません、最低限タイヤも変えないと、、、。そのほかにも挙げればきりがないくらい不可解な点は多々あります。ご都合主義を連発しまくってしまったがために、単にフィクションレベルが下がって(=嘘くさくなって)しまっています。

【まとめ】

上にも書きましたが、決してダメダメな作品ではありません。よく言えば「作家性の強い」、悪く言えば「オッサン臭いすかしたダサさ」のある作品ですがボケ~っと観ていればそれなりに楽しめます。ポップコーン映画という点では十分にオススメ出来ます!

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Fate / stay night UNLIMITED BLADE WORKS

Fate / stay night UNLIMITED BLADE WORKS

本日の2本目は

Fate / stay night UNLIMITED BLADE WORKS」です。

評価:(2/100点) – これはどうしたものか、、、。


【あらすじ】

冬木市では数年に一度、7人の魔術師(マスター)が使い魔(サーヴァント)を召還して殺し合う聖杯戦争が行われていた。
衛宮士郎は放課後の学校でランサーとアーチャーが殺し合う場面を目撃してしまう。目撃者としてランサーに口封じされそうになった士郎は、自覚の無いままにサーヴァント・セイバーを召還、マスターとして第5次聖杯戦争に参加することとなる、、、。


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【感想】

はじめに

え~、、、まずは恒例の言い訳から(笑)。
一応ですね、、、予習として昔のPCゲームを引っ張り出してきてやり直しましたし、「Fate/Zero」という同人ラノベもアニメイトで買ってきて読みました(←これ値段高すぎ。でも面白かったです)。このシリーズに熱心なファンの方々がたくさんついてるのも理解しています。
今回は書く内容が長くなると思いますが、一応シリーズ初見ではなく、そして信者というほどのめり込んでもいない映画好きの戯言です。もし万が一「Fateシリーズ」が大好きでこの映画に100%満足できた方がいるとするならば、それは非常に貴重で大切なことです。私も仕事柄そういう方々には大変助けられていますので。是非その想いを大事にしていただいて私のような訳のわからん若造の戯れ言なんぞ気にせずに絶賛してDVDやBDの初回限定版を一人三個ずつ買っていただければと思います。そんなあなた方のおかげで日本のコンテンツ業界は回っています。
とまぁ言い訳を書いておいて、さらにお約束の注意をば書かせていただきます。
今回、冒頭の点数を見ていただくと分かるように酷評致します。そして以下ネタバレを大量に含みます。さすがに5年前のゲームにネタバレもないとは思いますが、もし本作を楽しみで楽しみでしょうが無い「Fate/stay night」未プレイの方がいましたら直ちにブラウザを閉じてください。
そんなこんなでセーフガードを大量に貼りつつ(苦笑)、本論へと行きます。

本作の立ち位置の確認

本作は2004年に成人向けサウンドノベルゲームとして発売された「Fate/stay night」内の「UNLIMITED BLADE WORKS(=遠坂凛ルート)」を映像化/映画化したものです。非常に忠実に映像化されています。ですので、ゲームの熱狂的なファンの方にとっては「あの名場面が映画館で見られる!」というような位置で語られるような作品です。ということは、いうなれば昨年の「ROOKIES -卒業-」と同種です。作り手側が特定の層のみをターゲットにして、その中でいかに観客一人あたりの収益率を上げるかに特化した作品ということです。なのでゲームの「Fate/stay night」が大好きな人が満足して何度も劇場に入ってグッズやDVDやBDを買ってくれるならば、商業的狙いは成功です。もしかすると、映画として評価すること自体が的外れなのかも知れません。もっというと「映画という収益システムを使っているだけで、これは映画ではない」と開き直られる恐れもあります。
これから書くことは「曲がれ!スプーン」にもあった「別のメディアの作品をそのまま映像化して映画とする問題」に帰着します。ゲームでは問題の無かったものでも、それをそのまま劇場に持ってくるとどうしようも無い駄作になるという構図そのものです。

ストーリー上の問題点

本作の一番の問題点は脚本です。脚本家さんがよくエンドロールで名前を隠さなかったと拍手を送りたい程です。「アマルフィ 女神の報酬」はみんな逃げたのに(苦笑)。とにかくストーリーの構成がメチャクチャでまったく映画の体をなしていません。
いわゆるアート系映画以外には、必ず主題が存在します。そしてその主題に向かって90分なり120分なりで主人公が突き進んでいきます。それが物語(ストーリー・テリング)です。さて、本作の主題は何でしょう?
すでに観た方ならばこれは自明です。すなわち「主人公・衛宮士郎が自分自身(の行く末であるアーチャー)と向かい合うことで葛藤し成長する話」。これです。
では本作の構成はどうなっているでしょう。
作品の前半部はほとんど主題と関係ありません。これは元々のゲームの性質上の問題です。元のゲームは選択肢でストーリーが分岐していくため、ストーリーの前半部分については後からどうとでもなるような内容しか語れません。これを映画にそのまま持ってくると前半で延々と蛇足のような当たり障りのない話を見せられることになります。この時点で白けます。
さらにまずいのは、テーマ上のクライマックスであるはずの「自分自身と向き合う葛藤・対アーチャー戦」が終わった後、まったく関係無いギルガメッシュ戦を見せられる点です。無関係とは言っても、一応、士郎が自分にアーチャーと同じ能力があると気づいて「UNLIMITED BLADE WORKS」を発動するシーンはあります。ただしこれは成長にはなっていません。あくまでも「自分がアーチャーになる可能性があると自覚した」という場面であり、「自分の考えの破滅性を受け入れた」という表現です。さらにはギルガメッシュがラスボスとして登場する必然性が無いのも問題です。
本来ならばアーチャー戦で文字通り自分自身に打ち勝ってテーマを消化しなければいけません。でも作品上のクライマックスは、演出の仕方でも分かるようにギルガメッシュ戦での「UNLIMITED BLADE WORKS」を発動する場面になってしまっています。つまりクライマックスがずれてしまっているんです。これは「ゼロの焦点」にもあった症状です。そのため最後のギルガメッシュ戦が完全に蛇足になってしまいました。
結局の所、本作のストーリー上の問題は「整理不足」という言葉に要約できます。きちんと「主人公・衛宮士郎が自分自身と向かい合うことで葛藤し成長する話」にするのであれば、前半でアーチャーとの共闘と確執を描き第1ターニングポイントで決裂、中盤でアーチャーと士郎の対立を通してお互いの主張を明文化した上で残るサーヴァント達を一掃、クライマックスで聖杯を巡ってアーチャーがラスボスとして士郎と決闘するべきです。
ゲームをそのまま映画にしてしまったために話がグチャグチャになってテーマがボケボケです。映画にするのであればきちんと映画の文法で書き直す必要がありました。この部分については映画の長さは関係ありません。この手の映画でありがちな「原作を100分にまとめるためにダイジェストみたいになって話が難しくなった。三部作でやればもっと楽しめたのに。」というフォローは残念ながら本作には適用できません。いくら枝葉を詳しくしても構造上の問題は変わらないからです。むしろ100分で語りきるためにテーマを絞るべきです。極端な話、イリヤや慎二や綺礼はテーマには関係無いので出番を全部カットしても良いくらいです。

演出面について

ストーリーの壊滅的な状況と違い、アニメーションはとても良くできていると思います。良い動きをしていますし画面構成も結構きちんとしています。ですので、動きをみるアニメ映画としてはそこそこ楽しめます。しかし演出は本当に酷く、全部台詞で説明してくれるのでラジオドラマで十分なのではないかと思う程です。これは原作者の特徴でもあるのですが登場人物がみんな文語調で会話をします。そんなウザい人間は現実には居ません。さらにはアジテーションまで文語調なので、うっとうしい「中2病」に見えます。「格好つけようとしたら物凄くダサくなった」という目も当てられないシーンの連続です。これは村上春樹の”直訳調文体”を映像化する際に陥っている問題と同種です。そのまま映画に持ってきては通用しません。その雰囲気をいかに映像に置き換えるかが演出家の腕の見せ所です。
驚くことに、後半でついに画面に文字を置いてサウンドノベルそのままの演出がなされます。これにはあまりにも投げやりすぎて呆れかえってしまいました。それならば、画面にゲームのスクリーンキャプチャをそのまま100分流してた方が良かったのではないでしょうか?

【まとめ】

残念ですが、映画としてはあまりにも酷すぎます。ストーリーも演出も、ちょっと他作品とは比べようもないレベルです。
しかし冒頭にも書いたように、本作を映画として評価することに意味は無いかも知れません。ただ、それならそれでOVAでやって欲しかったです。終わった後の満員の劇場では少なくともあまりハッピーな雰囲気ではありませんでした。20世紀少年最終章の時と同じような「観なかったことにしよう」という感じで、ただただどんよりとしていました。
「ファンだからこそこの出来は許せない」となるのか「原作に忠実にやってくれてありがとう」となるかは、観た方の判断次第です。でも、ファンであれば観に行くに越したことはありません。原作ファン限定でオススメします。

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BANDAGE

BANDAGE

おととい「BANDAGE」を見てきました。

昨日書く時間がなかったので、ちょっとずれてしまいました。

評価:(70/100点) – 自主制作映画なら絶賛してたかも知れません。


【あらすじ】

高校生のアサコは親友のミハルからLANDSというインディバンドのCDをもらう。その後すっかり気に入ったLANDSのライブに出かけたアサコは打ち上げに潜り込み、あろうことかボーカルのナツにナンパされてしまう。いろいろあってアサコは音楽事務所に就職し、LANDSに関わっていくようになる、、、。


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【感想】

妄想とファンタジーに彩られた青春映画の王道的な作品だと思います。
レイトショーで見たんですが、観客は20人ぐらいで私以外は皆女性でした。終わった後にギャルっぽい3人組が「なにこれ!?ラブストーリーじゃないし、、、よくわかんない。」と言っていたのがとても印象的です。「ゆとりって怖~い」とか思ってしまいました、、、あんまり年齢変わらないと思うんですが、妙に老け込みます(笑。

基本的なストーリーについて

ギャルの方々は脇に置いておいて(笑)、ストーリー部分については非常に分かり易いです。要はアサコという平凡な女子高生が、大好きなアイドルと個人的な知り合いになって、ついには仕事でも関わるようになるけど挫折を味わって成長する話です。非常にシンプルな青春作品です。そしていうなればジャニーズ・ファンの女性の妄想の映像化でもあるわけです。
スノープリンスをボロカスに書いたので私はアンチ・ジャニーズかと思われているかも知れませんが、単に興味ないので一般俳優として評価してしまうだけなんです。そんな私から見ても、本作のファン妄想はそこまで気持ち悪い感じはしません。おそらく北乃きいが頑張っているのがすごく伝わってくるためだと思います。妄想は多いに結構じゃないですか。よく言えばナチュラルで悪く言えば超大根な赤西仁の演技も、少なくとも本作のトーンには合っています。下手だとは思いますが酷いとは思いません。クライマックスがちょっと唐突すぎる気もしますが、「青春なんだからそんなもん」という気もしまして、そこまで違和感なく楽しめました。ストーリーは結構良いです。

演出・映像について

問題はこの映像表現についてです。終始ホームビデオのようにグラグラ揺れる映像は、正直気持ちが悪くなってくると共にイライラします。要は「現実世界と地続きな作品世界」を表現するための偽ドキュメンタリーテイストを出すためなのですが、それにしても揺れすぎ。すごくオッサン臭いカット割りも含めて、非常に素人っぽい作りになっています。なので、本作はどっからどう見てもインディ映画に見えます。でも実際はジャニーズと日テレの結構お金を掛けた映画なわけです。これは良くも悪くも岩井俊二色なんですが少し気になります。でも本作の凄いところは、その「演出の下手さ」と「90年代という”ちょっと前のダサさ”」が見事に混同出来ることです。つまりわざとダサくしてるようにも見える(笑)。意図してるかどうかは分かりませんが、プロデューサーのグッドキャストだと思います。

本作の掲げる音楽問題について

演出面ではガタガタですが、やはり小林武史は音楽の人です。本作の中でも、彼のバンド観であったり音楽観が出てきます。ステレオタイプ過ぎる気もしますが、でもすごくシンプルに表現していて非常に好感が持てました。
本作の中盤にLANDSが直面する問題はロックファンの間では当たり前に言われていることです。最近ですと「OASIS問題」というヤツです。
OASISというバンドは皆さん大方がご存じのようにイギリスの超人気ロックバンドです。彼らは最初期には音響音楽としてのロックを追求していたんですが、後に大衆歌謡曲に路線変更します。この時にバンドメンバーのインタビューやファンコミュで論争が合ったわけです。一方では「音楽は芸術なんだからストイックに質を追求して欲しい」というファンが居て、でもその一方で「みんなに聞いてもらえる曲を作って有名になって欲しい/大金持ちになりたい」という感情もあるわけです。どちらも正しいことだと思います。これはロックバンドが潜在的に持っている普遍的な問題です。それはひとえに、ロックがポップスと親和性が高すぎるためです。極端な話「チャート1位が狙えるんだから、曲の質を捨てでも1位を獲りに行く」という誘惑は常にロックバンドにはつきまとっていると言えます。そこで獲りに行く人も入れば、いわゆるメジャーを離れて独自路線を突き進む人も居ます。前者がOASISであり後者がSONIC YOUTHだったりするわけです。
(この辺の音楽について興味のある方は、私の敬愛する大友良英さんのHP「JAMJAM日記、別冊 連載「聴く」」を是非ご一読下さい。)
本作のLANDSにおいては、音響派のユキヤとアルミがトラックメイカーを担い人気より質を優先しようとします。一方マネージャーのユカリは売れることを最優先します。別にどっちも正しいわけで、その間で若いバンドメンバー達が苦悩します。とてもステレオタイプでありがちな話ですが、それだけに見入ってしまいました。やはり小林武史という偉大な「歌謡曲メイカー」に語られると背筋も伸びるってもんです。
ただ、、、その割にとか言っちゃいけないんですが、、、肝心のメインテーマソング「BANDAGE」の質はちょっとどうなんでしょう?
これって劇中では「LANDSの原点」であり「質が良くって評判になった」曲のはずなんです。
そんな2010年になってテイラー・デインのパクリ聞かされても、、、ねぇ(苦笑)。そりゃ小林監督にとっては青春の曲かも知れませんが、、、テーマを考えても、もっと他にパクれるバンドがあったでしょうに。それこそOASISでもいいし、Blurでもいいし、なんならgarbageでも。いくらでも「質と人気」の天秤で「質」から「人気」に転向した人いるのに(苦笑)。それともLANDSがテイラー・デインと同じ「一発屋」であることの暗喩なんでしょうか(笑)?

【まとめ】

ネット上では割と賛否が分かれているようですが、私はかなり楽しめました。なかなか良い青春映画だと思います。出てくる女性達がみんな元気ですし小林監督の女性の趣味が良くわかります。裏テーマでもある不倫とかも含めてですね(笑)。DVDが出たらたぶんレンタルでもう一回見ると思います。
見る前はジャニーズファン専用のアイドル映画かと思っていたんですが、なかなか良いですよ。オススメです。

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板尾創路の脱獄王

板尾創路の脱獄王

今日は「板尾創路の脱獄王」を見てきました。

評価:(1/100点) – およそ考え得る最凶の映像兵器


【あらすじ】

鈴木雅之は無銭飲食をして服役中の囚人である。しかし度重なる脱獄で刑期は膨らむばかり。ついには無期懲役となるも、やはり脱獄をやめない。そんな鈴木に対して脱出不能の監獄島行きが言い渡される、、、。


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【感想】

正直な話、この映画について1分でも長く考えるのは人生の無駄使いだと思います。それほどまでに最低な映画です。ダサイ音楽。幼稚な演出。延々と続く顔面のどアップ。巧みとはかけ離れた三流お笑い芸人達のお遊戯会的投げやり演技。すべてが想像を遙かに上回るレベルのフィルムです。そしてそれが94分も続きます。
ルドヴィコ療法も真っ青な最新の映像兵器です。
そして本作を表すには一文で十分です。
「ネタ振りのためのネタ振りほどつまらない物はない。」
最後の1分がやりたいためだけに93分を見させられる。ただそれだけの映画です。っていうか映画って呼びたくないです。
こんなもん「ガキの使い~」の5分枠でやれ!!!
まだ1月ですが、今年これ以下の作品が出るんでしょうか?恐ろしいことです。
マジ金返せ。
ちなみに50人ぐらいの観客が居ましたが、最初から最後まで愛想笑いの一つも起きませんでした。
お笑い芸人としては致命傷でしょう。

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彼岸島

彼岸島

二本目の映画は「彼岸島」です。

評価:(5/100点) – 血糊の無駄使い。

【三幕構成】

第1幕 -> 明と冷の出会い。吸血鬼とのファーストコンタクト
 ※第1ターニングポイント -> 明達が彼岸島に着く。
第2幕 -> 彼岸島でのサバイバル
 ※第2ターニングポイント -> 明が師匠に弟子入りを志願する。
第3幕 -> 明と師匠一行が雅のアジトに殴り込みを掛ける


【あらすじ】

高校生の宮本明はある日チンピラに絡まれているところを不思議な女性に助けられる。彼女は行方不明になっている明の兄・宮本篤の免許証を明に渡し、彼女と共に篤を助けにある島に来て欲しいと告げる。友人5人を加えた明一行は、冷と名乗る女性と共に彼岸島へと向かう。そこは吸血鬼達の跋扈する修羅場であった、、、。


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【感想】

残念!!!
本作について実は結構期待していました。というのも、予告で見る限り近年の日本俳優映画(実際には8割方韓国映画ですが)にしては珍しく血糊を結構使っていたからです。モンスターサバイバルもので敵を切っても血の一滴もでないんじゃ拍子抜けです。TAJOMARUなんて、血しぶき一つ出て無いのに何故か刀を拭うそぶりをしたりして失笑ものでした(笑)。それを考えると少なくとも志はあると思えたんです、、、予告をみた限りは、、、予告だけは、、、。

本作の格好悪さ

本作はとても格好悪いです(笑)。身も蓋もない表現ですが、全編通じて主人公側がまともな思考回路を持ち合わせていません。唯一まともなのが兄の篤で、後の連中は本当に馬鹿ばっか(笑)。そのくせ泣き喚きだけは多いので、ものっすごいイライラします。特に中盤、仲間の一人が吸血鬼になってしまう場面は本当に酷いです。主人公の明が延々と理屈の通らないことを大声で喚きながら駄々をこねるために、心の底から早く死ねばと思ってしまいました。なにせ主人公達は全く役に立ちません。というか主人公以外は最後まで何の役にも立ちません。その主人公も、いきなりレジスタンスでもトップクラスな強さを発揮してしまい、全く成長が描かれません。
せっかく冒頭の弓道部ですごい能力を発揮しているユキもただ捕まってるだけですし、せっかく冒頭で爆薬を使っている西山もただオロオロしているだけです。加藤はただのデブですし、ポンは気持ち悪いだけで何の役にも立ちません。ケンは格好つけてるだけで、ヤンキー流のバット術は発揮されません。「漫画では活躍してるんだろうな」という片鱗を感じることは出来るんですが、しかし何の慰めにもならないほどにみんな足手まといです。
ただただテンション高く喚いて血糊を一杯使ってるだけで、やってることは非常にショボくてくだらない事です。しかも宮本兄弟は無敵じゃないかと思えるほどに頑丈で、何回致命的な傷を負わされてもケロッとしてますし、顔の切り傷も場面転換すると綺麗に無くなっていて傷跡すら残りません。
せっかく血糊でリアリティレベルをあげているのに、なんでこんな半端なことをするんでしょう?格好悪いです。

スターウォーズ病について

本作では上記の格好悪さに加えて、スターウォーズ病を発症してしまっています。ジェダイのように目隠ししてトレーニングしたり(SW EP4 新たなる希望)、コロッセオのようなところでモンスターと戦ったり(SW EP2 クローンの攻撃)、最後はラスボスと1対2のチャンバラです。(SW EP1 ファントム・メナス)
ただしCGやアクションが中途半端なため、完全にデッドコピーになってしまっています。やるならちゃんとやって欲しいのですが、、、残念です。

【まとめ】

とてつもない事になっている映画です。整合性は全くありませんしストーリー構成もグダグダです。登場人物の大半は物語に不要ですし、なにより活躍しない有象無象の味方が多すぎます。公式webサイトに「上陸者殺到中。いまだ生還者0」というキャッチコピーが出てますが、そりゃこの出来じゃ生還できません(笑)。皆さん映画館で撃沈されていることでしょう(笑)。
昨年のカムイ外伝と戦えるレベルの超絶クソ映画でした。そういえばCGレベルも似たり寄ったりです(笑)。
まったくオススメ出来る要素が無いのですが、原作ファンがネタとして見るならかろうじて100円ぐらいの価値はあるでしょうか?お金を払ってみるのは全くオススメ出来ません(笑)。
瀧本美織が可愛かったのがせめてもの救いです。でも水川あさみがエラ張り過ぎなのでプラマイゼロ(笑)。
出演者の方々にはお悔やみを申し上げます。

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釣りバカ日誌20 ファイナル

釣りバカ日誌20 ファイナル

さて2010年最初の映画はもちろんこれ。
釣りバカ日誌20 ファイナル」です。

評価:(60/100点) – ヌルい。だが、それが良い!


【あらすじ】

鈴木建設のハマちゃんこと浜崎伝助は釣りが大好きな駄目営業マンである。ところが持ち前の人望によって200億の案件を受注し、会長賞を獲得してしまう。会長はもちろんスーさんこと鈴木一之助。鈴木建設創業者にしてハマちゃんの釣り仲間だ。
祝いに訪れたスーさん馴染みの料亭「沢むら」で、ハマちゃんはスーさんが娘のように大事に面倒を見ている沢村葉子とその娘・沢村裕美を紹介される。亡くなった葉子の両親はスーさんの大親友であった。自身の老い先が短いと悟ったスーさんは、最後に葉子の父の墓参りに北海道を訪ねたいと申し出る。北海道と言えば渓流釣りの名所が目白押し。こうしてハマちゃんとスーさんの北海道旅行が始まった、、、。


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【感想】

あけましておめでとうございます。
2010年のお正月、10年代の始まりにふさわしい映画と言えば、もうこれしかないでしょう。日本最後のプログラムピクチャーにしてお正月映画・お盆映画の代名詞「釣りバカ日誌」であります。
とにかく全編を通してヌルいヌルい。微妙なギャグと古くさい演出のオンパレードで、客観的に見れば映画としてかなり如何な物かと思う出来です。
本作のメインストーリーは劇場予告にもあるとおり、沢村葉子がスーさんの隠し子ではとの疑惑と、裕美の同棲騒動から発展する沢村親子の話です。しかし正直に言って北海道および沢村親子の件は別にどうとも発展しません。極端な話、全部カットしても話は通じます。この適当な感じの脚本とヌル~い掛け合いが全編で続きます。
ここまで書くと酷い駄目映画に思えますが、でも本作はそれで良いと思いますし、それ”が”良いのです。理由は後述します。
役者の方々は全員素晴らしいです。三國さんや西田さんは言わずもがな、益岡徹さんや笹野高史さん、若手では吹石一恵さんも含めて、どなたも皆本当に素晴らしい仕事を見せてくれます。若干一名、塚本高史さんだけが浮いてますが別に出番もセリフも少ないのであんまり気になりません。そもそも演技には期待しない若い女性を劇場に呼ぶための撒き餌ですから(笑)。またカーテンコールで、本作初期のレギュラーメンバーのある方の顔が見えます。最近では健康上の理由で表舞台から離れていますので、本当にうれしいサプライズです。三國さんの本当にうれしそうな笑顔と相まって、私なんぞはこのカーテンコールだけで1000円分の価値はあると思ってしまいます。

最後のプログラム・ピクチャーということ

本作は現存する日本最後のプログラム・ピクチャーのシリーズです。プログラム・ピクチャーとは昔の劇場で二本立ての繋ぎで流れる、時間穴埋め用に適当に作られたB級映画です。ただ一概に適当=駄作とも言えませんで、もともと看板映画ではないので観客の存在を気にしないことから実験場という側面が強くありました。そして毎回独立した作品を撮り下ろすのは面倒ですから、必然的にシリーズ物が多くなります。一聴するとつまらなそうに聞こえますが、とはいえ東映のトラック野郎や不良番長シリーズはいまでも人気がありよく浅草とか神保町の単館でリバイバル上映しています。
プログラム・ピクチャーの低予算シリーズものは、「早撮り低予算」という必然から連続TVドラマのような雰囲気になっていきます。火曜サスペンスのシリーズ物をちょっとまじめに撮ったヤツと思ってもらえれば、当たらずとも遠からずです。
90年代からシネコンが日本でも爆発的に増えました。私は映画ファンとしてこのシネコン大増殖には大賛成ですし大変感謝しています。画一的な上映環境を提供してくれるシネコンのおかげで、都会だろうが田舎だろうが系列シネコンではほとんど同じフィルムが上映されます。ですので、田舎でもある程度ビッグバジェットの映画は見ることが出来ます。もちろん角川やハピネットが配給するB級ホラーや東宝の実験作は東京・大阪でしか見られませんが、それでも映画文化を考えれば田舎の映画上映機会を増やした功績は大きいと思います。一方で、経営的な面で単館に厳しくなっているのは間違いありません。私の近所の単館映画館も10年ぐらい前に2館が閉鎖してしまいました。子供の頃にドラえもんや東映まんがまつりを見に行った思い出の映画館が無くなるのは本当に寂しい物です。でもジャック&ベティや有楽町スバル座のように、大資本の後ろ盾が無いながらも差別化で頑張っている良質な映画館はまだまだあります。
ちょいと脱線してしまいました。シネコンが増えたことによる煽りは映画館だけにあるわけでは無く当然作品側にもあります。その一つが上映形態です。シネコンでは回転率をあげるために「全席指定入れ替え制」が当たり前です。一方でリバイバル上映や2番館(初回ロードショーの半年後ぐらいに余所で使ったフィルムのお下がりで上映するムーブオーバーが主流の映画館)では二本立て三本立ての自由席が主流です。朝チケットを買って入れば、いつまででも座っていられる形式です。前述のプログラム・ピクチャーはあくまでも後者の映画館でメイン作品とサブ作品の間に上映される「トイレ休憩用」の作品です。なのでシネコンでは必要ありません。このシネコン全盛の時代には、プログラム・ピクチャーが流れる環境自体が無くなってしまっています。釣りバカ日誌シリーズの終了も、三國さんのお年の問題とは別にやはりこの上映環境の問題が大きいと思います。日本最後のプログラム・ピクチャー・シリーズの終了が意味するのは、この複数本立てで新作を上映するという文化の終焉を意味します。かつてはメイン作品の看板スターで客を呼び、サブ作品で若手のスター候補を売り出すというのが常識でした。70年代の大映倒産で映画制作所とスター俳優の専属プロダクト制が終焉し、そして00年代のシネコン全盛で二本立て文化が終焉します。

【まとめ】

以上のことから、本作はある意味では日本映画文化の遺産であり、そしてプログラム・ピクチャーを象徴する作品でもあります。
適当な脚本も古くさい演出も、それ自体が一つの「型」として成立しているように思えるのです。本作はいわゆる「お正月映画」としてよりも、「最後のプログラム・ピクチャー」としての文脈を背負ってしまっています。だからこそ、ラストのカーテンコールでちょっと泣いちゃうわけです。別に良い話でも無いですし、泣くほど面白い作品ではありません。でも、こういうしょうもない作品を上映する環境が日本には存在していたんだということと、そしてそれが終わってしまったということ、それ自体が本作の価値だと思います。カーテンコールで三國さんが手を振る姿はまさに日活スターが手を振る姿であり、ひいては日本映画黄金期が手を振っているように見えてしまいます。
非常に残念な事に劇場は客入り4割ぐらいで、ほとんどが中年夫婦と老夫婦の家族連れでした。こういう作品だからこそ、是非20代・30代の人たちにも見て欲しいですし見るべきだと思います。私たちの世代は、こういう文化があったんだと言うことを子供達に話す義務があります。点数は60点としましたが全世代必見の歴史的作品です。全力でオススメします!!!
合体!!!

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