「パイレーツ・ロック」を見てきました。
評価: – 音楽は良いし面白いけど映画としては、、、。
<あらすじ>
1966年、イギリスBBCラジオでは週に2時間しかロックとポップが流れなかった。そんな中、海賊ラジオ局は法の届かない公海から毎日24時間、ロックとポップを流し続け、多くの国民から支持を集めていた。そんな海賊ラジオ局のひとつ「ラジオ・ロック」を舞台に、ゆるい日常をお送りする。
<感想>
面白いことは面白いんです。面白いんですが正直映画としてはかなり出来が悪いんですね。それは何故かと申しますと、結局ドラマが無いからなんです。実は上のあらすじを書くのにすごく悩みました。だって書くことが無いんです。一応映画の大枠では、「ラジオ・ロックはイギリスの風紀を乱している」として潰そうとする政府の偉い人が出てきて、彼のラジオ・ロック掃討作戦が柱になっています。なっていますが、どうでもいいというか、描写が非常に淡泊で、はっきり言って演出に全く力が入ってないんです。そんなことより熱心に描写されるのは、下品で、ユニークで、だけどすごく爽やかなラジオ・ロックのDJ達の緩い日常的な”おちゃらけ”です。
ふつう映画と言えば、一つの柱があってそこに沿うように90分なり120分かけてドラマを展開させていきます。例えば誘拐された娘を助けたり、例えば悪の親玉を倒したり、例えばお宝を奪い合ったり、なにかしら物語上のクライマックスに向けて進んでいきます。ところが、このパイレーツ・ロックにはいわゆる物語の柱がありません。あるのは魅力的なキャラクター達だけです。フィリップ・シーモア・ホフマンやビル・ナイを筆頭に、実力派が勢揃いして馬鹿な事をやりまくってます。だから間違いなく面白いんです。でもそれって映画的ではありません。
「魅力的なキャラクター達がいろいろやる」というのは、これ典型的な「ソープ・オペラ」の方式です。ソープ・オペラというのはアメリカにおける「連続ドラマの文法」の一つで、特に大きなストーリーを決めることなく魅力的なキャラクターをたくさん作って、ひたすらキャラクター同士の絡みで転がしていく劇スタイルです。今放映している作品だと、例えば「LOST」とか「HEROES」なんかが分かりやすいと思います。キャラクターごとに過去の出来事を掘り下げたり、キャラとキャラがくっついたり離れたりして際限なく話を展開させていきます。ソープ・オペラにおいては、ストーリーのクライマックスは決まっていないことが多いです。むしろ打ち切りが決まって初めてストーリーの最後を考えたりします。言ってみれば一話完結の週刊連載マンガみたいな物です。
<まとめ>
さて、以上のようにこのパイレーツ・ロックはバリバリのソープ・オペラ方式です。だから映画としては完全に駄目です。ただし舞台はすごく良いですし、キャラクター造形もなかなか魅力的です。できれば連続ドラマとして企画して欲しかったですね。連続ドラマだったら、間違いなく毎週見てたと思います。
でも少なくとも上映中につまらないと思うことは無いと思います。なにせ音楽も役者も一流揃いですから、60年代ロックが好きな方や連続ドラマが好きなかたにはオススメです。