母なる証明

母なる証明

本日のハシゴ二本目は「母なる証明」です。
評価:(70/100点) – キレてるオバさんの観察記録

※今回はネタバレ全開です。公式の予告でも既に全部ネタバレしてますが、もしまっさらな気持ちで見たい人は読まないでください。


<あらすじ>
田舎町で女子高校生が殺害される。状況証拠から逮捕されたトジュン。母は息子の無実を信じ非合法な独自捜査を開始する。ついには事件の目撃者を発見するが、彼が見たのは、、、。
<三幕構成>
第1幕 -> トジュンのキャラ紹介。
 ※第1ターニングポイント -> トジュンが逮捕される。
第2幕 -> 母の独自捜査
 ※第2ターニングポイント -> アジュンの携帯電話を発見する
第3幕 -> 解決編。


<感想>
もし皆さんが映画が好きで多くのサスペンスを見ているならこの映画のオチは予告と映画の冒頭5分を見ただけで分かります。
ある人物が逮捕され、その無実を証明するために主人公が独自捜査を行うという話は過去にいくらでもあります。この場合オチは二通りです。すなわち「誰かにハメられた」か「実際に彼が犯人」かです。そして本作の冒頭でトジュンがいわゆる「知恵遅れ」であることが明らかになります。
ということで、誰がどう見ても実際にトジュンが殺したのにその事を覚えていないというのは明らかです。そしてポン・ジュノ監督も当然そういう見られ方をするのは分かっているはずです。
すなわち本作は、スクリーン上は「真犯人探し」が行われるものの、観客は真犯人なんて最初から分かっているという不思議な環境のもと上映されるわけです。ではそこで画面に浮かび上がってくるのは何でしょうか? それこそが本作のメインテーマでありタイトルにもある「母」の感情です。
思い切って断言しますが、キム・ヘギャ演じる母親に感情移入出来る人は殆どいないと思います。正確には「理解は出来るがさすがにやり過ぎ」という感想を抱くと思います。証拠もないのに被害者の葬式に殴り込んだり家宅侵入したりやりたい放題です。あげくジンテというチンピラを使って脅迫までやります。これは暴走というには余りに凄まじく、まさに狂気です。
第三幕の冒頭で、母親は事件に関わっていると見られる男を訪ねます。話を聞くと、彼がトジュンの殺人現場を目撃したのが明らかになります。しかも証言の具体性や「知らなければ創作できない」トジュンの癖などから、証言の信憑性は明らかです。そこで母親がとった行動は、、、この目撃者を殺害することです。もはや「トジュンの無実を証明する」事など問題ではなく、「トジュンを助けること」のみが目的になっていることが明示されます。
そして彼女は無実だと確信しているダウン症とおぼしき少年にすべての罪をかぶせ、トジュンの釈放を勝ち取ります。
この一連の狂気を「母は強い」と一般論でまとめてしまうのは少々微妙です。あきらかにこの母親は一般平均レベルではありません。最後の最後で、彼女は内股の「嫌なことを忘れるツボ」に自ら鍼を打って、すべてを幸福の内に閉じ込めようとします。しかし出来るはずもなく、ただただ取り憑かれた様に踊ることで全てを忘れようとします。この女の狂気は業が深く、ある種の一貫性と圧倒的な存在感を観客に叩きつけます。
すなわち本作は殺人事件を巡るサスペンスというよりは、そこで解放された一人の女の狂気に恐怖するスリラー映画です。疑いようもなくこのキム・ヘギャは怖いです。
<まとめ>
この作品はハリウッド式エンターテインメントの構成をとった「キレてるオバさんの観察記録」です。このオバさんは一筋縄ではいきません。是非皆さんも映画館で、このオバさんのキレっぷりを堪能してください。「羊たちの沈黙」のレクター博士を筆頭に、映画史には多くの「魅力的な重犯罪者」がいます。キム・ヘギャの母親は、間違いなくこの系譜に入ってくるキャラクターです。オススメです。

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