「SOUL RED 松田優作―生きているのは、お前か俺か」を見てきました。最近ドキュメンタリー多いですね。
評価: – 丁寧に語るカリスマのフィルモグラフィ
<概要>
松田優作生誕60年および没後20年の記念ドキュメンタリー。早世したカリスマ松田優作とゆかりの深いゲストスピーカー達へのインタビューを通して、人物・松田優作を考える。
<感想>
人物ドキュメンタリーの場合にはまず立場をはっきりさせる必要があります。優作が亡くなったとき、私は小学生でした。ただ記憶にはありません。私がはじめて優作の作品を見たのは、日テレで夕方再放送していた「探偵物語」です。次いでテレ東の深夜放送で「蘇える金狼」を見ました。たぶん1998年のリメイク版「蘇える金狼」の宣伝枠だったと思います。そのほかの作品については後にDVDでフィルモグラフィを追いました。
おそらく松田優作に熱狂した方々とは二世代くらい離れているかも知れません。私にとっての松田優作はそれこそブルース・リーのような「映画史には欠かせない偉大な俳優」という認識でした。ただ、いまでも「ねぇジュピターには何時につくの?」を聞いたときの衝撃は頭から離れません。
このドキュメンタリーは、一世代上の黒澤満プロデューサー(=育ての親)、仙元誠三や丸山昇一といった同世代の仕事仲間(=戦友)、浅野忠信・香川照之・仲村トオルといった一つ下の世代(=後継者)、そして龍平・翔太という実の息子(=血脈)と全四層のそれぞれから人物・松田優作を語ります。とても分かりやすい人もいれば、酔っぱらいかと思う人や何故か正統後継者を自称してヒートアップする人もいて、まさに三者三様です。誰がどのタイプかは劇場でお確かめください(笑)。
私はこの映画を見ていてクリント・イーストウッドと松田優作を重ねてしまいました。歳は違えど優作もイーストウッドも、日米それぞれの「映画黄金期」にギリギリ間に合わなかった方々です。そして間に合わなかったが故にそれを生涯追い求め続けて”最後の守護者”となった方々です。優作は旧来の映画会社とスター俳優の「専属契約・主演作量産」体制に間に合わなかったが故に、個人の情熱と努力と才能と技量によって自らスターにのし上がり、最後には「松田組」とも言うべき制作体制を作り上げました。そして、テレビ局や広告代理店が主導の「クオリティを無視したマーケットビジネス商材としての映画」が氾濫する現在から見れば、まさに「陽炎座」から「華の乱」までの異様でいびつな優作のフィルモグラフィこそが「日本映画が燃え尽きる直前の最期の輝き」に見えるのです。前半生の狂気を身体で表現できるカリスマ・アクションスターから、後半生の姿や仕草で人間味と陰を表現する超演技派時代まで、非常に幅広い松田優作を系統立てて見ることが出来ます。そしてまるで「一人黄金期」と言っても差し支え無いほどの強烈なカリスマ性と自分勝手さによって、どんな役であったとしても鮮烈な印象を残していきます。
松田優作はもはや映画の教科書にでてくる「歴史的人物」になりつつあります。しかし、彼の情熱や映画に対する真摯な態度、そして何よりも圧倒的なまでの威圧感と存在感は今なおまったく色褪せていません。むしろ現在の邦画が酷くなりすぎて、優作の生きた当時よりも輝きを増しているかも知れません。ビッグバジェットのスポコン邦画なんて見てる場合ではありません。是非、映画館で「RED SOUL~」を見て、そして帰りの足でレンタルショップに行って「蘇える金狼」「野獣死すべし」「華の乱」を借りてください。まったく古びない感動を味わえること請け合いです。全力でオススメします!
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