イングロリアス・バスターズ

イングロリアス・バスターズ

イングロリアス・バスターズ」に行って参りました。

評価:(90/100点) – タランティーノの中二病が上手く出ました


【あらすじ】

第二次世界大戦時ナチス占領下のフランスにてユダヤ人のショシャナは”ユダヤ・ハンター”ランダ大佐に家族を殺され命からがら逃げ出した。その後、彼女はミミューと名乗り映画館の経営者として生活していた。一方、アメリカ軍のアルド・”アパッチ”・レイン中尉は特殊部隊”バスターズ”を率いてナチス狩りを行っていた。
ある日ナチスSSの英雄・フレデリック一等兵はミミューの気をひこうと彼女の映画館で主演映画のプレミア上映を行う事を企画する。それを聞きつけたアメリカOSS(戦略諜報局)はバスターズを送り込むことを決定した、、、。


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【感想】

今年は本当に(映画秘宝的な意味で)巨匠監督の新作が目白押しです。ジム・ジャームッシュ、サム・ライミと来て、ついにクエンティン・タランティーノの登場です。まさに真打ち。そして一番頭が悪い(笑)。もちろん褒め言葉ですよ。すばらしいです。

■ストーリーについて

頭が悪いと書きましたが、本作は非常に巧みな構成でストーリーが進んでいきます。本作は「キル・ビル」と同様に一章あたり約30分程度の全5章構成となっており、それぞれ下のようになっています。

  • 第一章 その昔…ナチ占領下のフランスで (Once upon a time in Nazi-occupied France)
  • 第二章 名誉なき野郎ども (INGLOURIOUS BASTERDS)
  • 第三章 パリにおけるドイツの宵 (GERMAN NIGHT IN PARIS)
  • 第四章 映画館作戦 (OPERATION KINO)
  • 最終章 ジャイアント・フェイスの逆襲 (REVENGE OF THE GIANT FACE)

そして第二章~第四章のそれぞれに独立した「主役級」がおり、それが最終章で見事に集結して事件が起きます。この章立てが少々ぎこちなく見えるのは確かですが、それが最終章で収束する時のカタルシスは爽快です。
またポスターや宣伝ではブラッド・ピット扮するアルド・レインが前面に出ていますが、本作のメインはショシャナです。そして今回もタランティーノが大好きな東映ヤクザ映画の基本プロットである「酷い目にあった女性がいろいろあって復讐する」というフォーマットに忠実です。しかしそれだけに留まらず、コラージュのように多くの映画からテイストを持ってきてごった煮になっています。はっきりとは解りませんが、おそらくタランティーノ監督の発想はこうです。


 「ナチスって最低だよね。ボコボコにしようぜ!
 そういや映画を洗脳につかったゲッペルスとかムカツクな~。
 そうだ!映画館でぶっ殺せば面白くね!?
 しかも映画フィルムでぶっ殺せばトンチが効いてていいじゃん!」


すごい中二病(笑)。でも最高です!

■タランティーノ流の悪ふざけ

“ユダヤの熊”ドニーが洞穴から出てくる場面ですとか所々に悪ふざけが満載でとても楽しめます。また、新しくキャラクターが出るときにフラッシュバックのように割り込むショート・シーンの酷さ(←褒め言葉)であったり、多用される長回しであったり、巧みな面も随所に見せます。タランティーノのよく使うストーリーと関係のない長い無駄話も健在です。もちろん軽めのゴア描写も忘れません。
しかし一方で、とても”普通”なハリウッド・エンタメ映画としても通用しています。いわゆる”秘宝ファン”の映画フリーク以外でも、それこそキネ旬しか読まないような人でも全然問題無いと思います。

【まとめ】

本作は、タランティーノの集大成的な作品でありながら、彼には珍しくこぢんまりとまとまった良作です。ですので、タランティーノの熱狂的なファンにはちょっと物足りなく感じます。でも、あんまり酷い作品(←褒め言葉)ばっかり作ってて干されても困るので(笑)、これはこれで良いのではないでしょうか。十分面白いですよ。エンニオ・モリコーネやヤクザ物の音楽が流れる度にニヤニヤできます。
最後に、映画を見る人には常識中の常識ですが、タランティーノは悪趣味で中二病で足フェチのアホです(←褒め言葉)。今回もちょっとではありますが、ついうっかり脳味噌が出たり、ついうっかり顔が蜂の巣になって崩れたり、ついうっかり足を変態的になで回したりしてしまいます(笑)。CMを見て爽快戦争活劇だと勘違いして、デートに使うのは絶対やめましょう。
私の隣で見ていたティーンの女性は、ドニーがドイツ兵を撲殺するシーンから100分近く顔を押さえてうつむいてました(笑)。絶対あとで彼氏がグチられてると思います。
タランティーノの作品は、一人でいそいそと見に行って忍び笑いするのが、オススメです。

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記事の評価
PUSH 光と闇の能力者

PUSH 光と闇の能力者

いろいろと微妙な噂を聞く「PUSH 光と闇の能力者」の微妙さを確かめてきました。
評価:(60/100点) – 最近このパターン多いですがアイドル映画としてOK。


<あらすじ>
ニック・ガントは物を操るムーバーである。あるとき彼の元に予知能力を持った少女・キャシーが現れる。あるカバンを手に入れると政府機関ディヴィジョンに捕らえられた彼女の母が救えるらしい。ニックはディヴィジョンから脱走したかつての恋人キラと共にキャシーに協力していく、、、。
<三幕構成>
第1幕 -> ニックのキャラ紹介
 ※第1ターニングポイント -> ニックが目覚めるとキャシーが睡蓮を持っている
第2幕 -> カバンを探して奔走
 ※第2ターニングポイント -> カバンがとある建築中のビルにあるのが分かる
第3幕 -> カバン捕獲作戦


<感想>
今回は「微妙でした」と一言で終わらしちゃっても良いんですが、結構良いテキストになりそうなのでCGとストーリー構成について考えたいと思います。
■ 舞台とCGについて。
本作の舞台は香港です。この「アジアでありながらイギリスっぽくもある折衷感」があんまり使えておらず、なんで香港にしたかがよく分からないのが正直なところです。おそらく俳優を欧米人で固めたいけれど中国の胡散臭い感じも出したいということだと思いますが、どうにも俳優が浮いちゃってるんですね。あきらかに風景に溶け込めておらず、隠れて逃げてるはずなのに超目立つという失笑ものの事態になってしまっています。
この溶け込めない感じはCGを使ったアクションシーンにも言えます。念力みたいな空気のゆがみが飛んでいったり、かと思えばどうかってぐらいに合成感たっぷりな閃光が散ったり、お金が掛かってるんだか掛かってないんだかよく分からない微妙なチープさを醸し出しています。いかにも「スタイリッシュなアクションだろ!」と自己主張する外連味たっぷりなカメラワークをしてくるんですが、それが一段とダサさを補強してしまっていてなんか可哀想になってしまいます。
根本的な話になってしまうんですが「超能力」を映画で表現する時にCGを使うのは結構勇気がいります。というのも、通常それは「目に見えない」物であるからです。もちろん空気がゆがむとかそういう物理現象が発生するのは良いのですが、それをやり過ぎると完全にマンガ表現になってしまうんです。同じ「超能力で相手を吹っ飛ばす」にしても、例えばスターウォーズでは単純に相手が吹っ飛んでいきます。フォース自体をCGで可視化することはしません。それは明らかに安っぽくなってしまうからです。CGを使えばはまさにお絵かき感覚でいろんな要素を画面に作ることが出来ます。でも嬉しくなってやり過ぎちゃうと貧乏臭くなってしまいます。このサジ加減と自己抑制がイマイチ崩れてしまっているように見えます。
格好良くするためには「描くこと」と「描かないこと」をバランス良く調整しないといけないという良い教訓となっています。
■ ストーリー構成について
○物語における主人公のステップアップ
とはいえ、前項に書いてきたことはあくまでも絵の安さであって、B級映画好きには特別欠点には見えません。むしろ本作で問題なのはストーリー構成についてです。
皆さん、ドラゴンボールというマンガをご存じでしょうか?よく分からない方はドラクエとかファイナルファンタジーのようなRPGゲームを想像してください。
主人公は最初かなり弱いです。ところがいろんな敵と戦ってどんどん強くなっていきます。そして最終的には世界を救っちゃったりします。
ここには二つの大事な要素が入っています。一つは主人公が成長していくという点。もう一つは敵が段々と強くなっていく点です。これは成長していく主人公がその時々で頑張らないと勝てない「自分よりちょっと強い相手」を倒していく必要があるからです。
つまり、レッドリボン軍と戦ってるときにいきなりフリーザが攻めてきたら地球は全滅しちゃうわけです。セル最終形態を倒した後に桃白白が出てきても、下手すればデコピン一発で倒せてしまうわけです。主人公の成長と敵の強さは綺麗に比例していないとシラけてしまうという事です。
映画のストーリーにもこれと同じ事が言えます。主人公は物語上いろいろな困難をクリアし、話が進んでいきます。困難は最初が一番易しく、終わりに向かってどんどん難しくなっていきます。これを次々と越えることで主人公はステップアップしていくわけです。そして最終的に大きな困難を乗り越えるカタルシスが待っているわけです。これがクライマックスです。では本作について、簡単に敵を見てみましょう。
○本作における戦闘歴
まず冒頭の市場で襲われるシーンでは中国人のウォッチャー・The Pop Girl とその弟のブリーダー・The Pop Boysが登場します。このThe Pop Girlは物語を通してキャシーに立ちはだかるライバルです。The Pop Boysは奇声を挙げて相手を流血させるという超強い能力を持っています。すなわち、このシーンはボスキャラの顔見せみたいな物です。実際にこの段階ではニックは全く歯が立ちません。
つづいての戦闘はエージェント・マックとエージェント・ホールデンをキラが翻弄するシーンです。ここではキラがプッシャーとして相手を操る能力がずば抜けていることが分かります。いきなり最強助っ人候補です。
次は飛びましてカーバーと側近ヴィクターが登場する中華料理屋のシーンです。カーバーは父親の仇(?)とも言える人物で因縁の相手です。そして側近のヴィクターはニックと同種の能力者です。すなわち、ニックにとってのライバルがヴィクターであり、ラスボスがカーバーです。やっぱり歯が立ちません。
さて、次ですが、いきなりクライマックスに飛びます。建築現場で中国マフィアとディヴィジョンとニックが入り乱れてのラストバトル、、、かと思いきや、マフィアはヴィクターと洗脳されたキラが殆ど全員瞬殺してしまい、結局ニックとヴィクターの一騎打ちになる、、、、かと思いきや、ヴィクターもThe Pop Boysの片割れに殺され、結局ニックはThe Pop Boysをちょっと竹槍もどきで殺しただけです。そして物語終了。
はい、ここまで読んでいただいた皆さんはもうお解りですね?この物語はニックが成長する様子も無ければ、成長した結果として歯が立たなかった敵を倒したりすることもありません。ストーリーの推進力がこれでもかっていうくらい不足しています。せっかく超能力者が入り乱れての大乱闘になる要素があるのに、設定を全く生かしていません。唯一正当に成長してライバルを越えるのはキャシーです。彼女は自分より能力の優れたThe Pop Girlの裏をかいて倒します。きちんと乗り越えたわけです。でも彼女だけなんです。後の人たちは成長も工夫もたいしてしません。ちなみにニックの最高の見せ場である赤い封筒配りも、あれはカーバーではなくThe Pop Girlへの対策です。みんな彼女を倒すのに夢中ですが、でも彼女はラスボスじゃないんです。駄目だこりゃ。
<まとめ>
毎度の事ながら、何故ここまで微妙なのに60点/100点かというと、それはもうハンナ・ダコタ・ファニングが可愛いからです。アイドル映画としてだったら全く問題ない出来映えです。全編通じて明らかにポール・マクギガン監督がハンナに恋をしている、フェティッシュなカット割りが続きます。ポール・マクギガンは46才で結構のっぺりした顔をしてます。、おまえその年と顔でハンナ萌えはヤバイだろとか思いつつ、堂々たるアイドル映画です。ハンナ・ダコタ・ファニングのファンなら絶対に何があろうとオススメです!

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