さてさて、雪降ったり暑かったりで体調崩してるんですが、金曜と言えば当然新作のレイトショー。
今日は「シャーロック・ホームズ」を観てきました。
評価:
– 同人にしては良くできてる、、、、でも「天使と悪魔」。【あらすじ】
ロンドンで5人の若い女性が殺される。捜査に乗り出したホームズとワトソンはブラックウッド卿を突き止め、6人目の犠牲者を危ないところで救出しブラックウッドを逮捕する。そしてブラックウッドは死刑を執行される。ところが彼が地獄から復活したという噂が流れ始める。実際にブラックウッドの棺桶を調べた警察とホームズは、その中に見たことのないミゼット(=こびと)を発見する。果てしてブラックウッドは生き返ったのだろうか? 獄中の彼が遺した「あと3件の殺人が起きる」という予言が徐々に真実味を帯びてくる、、、。
【三幕構成】
第1幕 -> ブラックウッド卿の逮捕と死刑執行。
※第1ターニングポイント -> アイリーン・アドラーがホームズを訪ねてくる。
第2幕 -> 3件の殺人事件。
※第2ターニングポイント -> ブラックウッド卿の連続殺人事件の共通点にホームズが気付く。
第3幕 -> ブラックウッド卿の野望を阻止できるかどうか。
【感想】
さてさて、本日はガイ・リッチーの最新作「シャーロック・ホームズ」です。マドンナと離婚した今となっては完全に「一発屋」扱いのガイ・リッチー監督ですが、久々にビックバジェット・エンタメ大作です。主演はアイアンマンで薬物中毒から一転ヒーロー路線へ復活を果たしたロバート・ダウニーJrです。
やはりホームズのネームバリューなのか、レイトショーでは珍しく6~7割ほどは座席が埋まっていたでしょうか?かなり混んでいました。
本作は説明不要の「シャーロック・ホームズ シリーズ」のキャラクターを使ったオマージュ作品です。予告でも分かるように、ホームズもワトソンもかなりの武闘派になっておりまして、かなりアップテンポな場面が目に付きます。
でもいまいち盛り上がらないというか、エンタメ映画の割にカタルシスがあんまりないんです。もちろんCGは結構豪華ですし目に見えた破綻があるわけではありません。この原因について考えてみます。
お話しの部分について
本作は構成が非常にしっかりしています。ブラックウッドが死刑になるまでが約25分、ホームズが謎を解くのが100分ごろ、そこからは約30分で国会→ロンドン橋でのアクションシーンです。話の構成自体には何の問題もありません。
おそらく本作に欠けているのは、「観客視点の受け皿」と「物語の推進力」です。
まず前者ですが、原作では「語り手」「常識人」としてのワトソンが読者の受け皿でした。読者はワトソンの視点からホームズの奇想天外な推理を感心出来るわけです。ところが、本作にいわゆる「一般人」は出てきません。強いて言えばレストレード警部とメアリーぐらいが平凡なキャラで、ホームズもワトソンもアイリーンもアクが強く曲者です。濃いキャラだらけにしてしまった結果、観客が完全に客観的な視点からホームズを観察してしまうんです。そうすると、次の「物語の推進力不足」問題がより加速します。
先日の「ライアーゲーム~」や「コラライン~」でもちょっと書きましたが、物語には推進力が必要です。それはほとんどの場合、キャラクターが追い詰められて何かしないといけなくなることです。本作の場合は、「レオダンの家探し」→「殺人事件の謎解き」→「テロの阻止」と目的が変わるのですが、どれも中途半端というか他人事っぽい描き方になっています。例えば、レオダンの家は割とあっさり見つかってしまいますし、その後はアクション・シーンです。殺人事件にいたっては最初の一件だけが彼が直前に会っている「見知った人」で、後の2件はあんまり関係ないためやはり他人事です。
これだと、いくら構成が良くても全然面白くはなりません。きちんとホームズを事件に絡めさせて追い詰めないといけないのですが、本作ではそこまで事件捜査をすることもなくクライマックスの100%アクションシーンに行ってしまいます。また、ブラックウッド卿が獄中で宣言する「期日」もタイムリミットの役目を果たしていません。ですので、全体を通してあまり緊迫感が無いままに漫然と物語りが進んでしまいます。
後半は推理もかなり無茶になっていきますので、推進力はどんどん低下していってしまいます。
キャラクターについて
このキャラクターについてが本作の一番の肝です。おそらくシャーロック・ホームズとワトソン博士のコンビを知らない方はほとんどいないと思います。それほどまでに古典中の古典であるシャーロック・ホームズは、名前だけでも十分なキャラクター意匠になります。なので、本作ではキャラの描き方がかなり雑です。説明しなくてもどうせみんな知ってるという前提です。その上で原作にもあったホームズとワトソンのホモソーシャル的(=男子校的)な関係を拡大し、全キャラに格闘アクション要素を足しています。終盤にホームズの「腕ひしぎ逆十字固め」とワトソンの「胴締めスリーパー」の競演がありますが、場内爆笑でした。そりゃガイ・リッチー監督は柔道黒帯ですけど、、、。
この原作の要素をグッと拡大する感じがとっても漫画っぽいんですね。なので、キャラクターについては映画単体としてはかなり残念です。原作を読んでいるのが大前提で、その上で原作とのギャップを楽しむ感覚です。このあたりが原因で見終わった後にパロディ作品っぽい印象を持ってしまいます。
【まとめ】
キャラクターの名前を借りてきてオリジナルな事をやるという点ではいわゆる同人作品っぽさがあります。ところが見た目や名前がどんなにホームズでも、映画のプロットはそのまんま「天使と悪魔(2009)」です。
もちろんエンターテインメントとして標準のクオリティは十分に保っていますので、小難しいことを考えずに楽しめる良作だと思います。
最後に一点だけ。本作の冒頭でタイトルが出た直後のシーンは、完全に「グラナダ版(=ジェレミー・ブレット版)シャーロックホームズ」のオープニングそのままです。全体のテイストも「ヤング・シャーロック ピラミッドの謎(1985)」っぽい雰囲気ですので、確実に過去作へのオマージュ感覚は入っていると思います。
もしシャーロック・ホームズが好きならば、確実に「グラナダ版TVドラマシリーズ」をレンタルしてきた方が良いです。でももしハリウッドのエンタメ・アクション映画が見たいのであれば、本作はまさしく適任です。是非、映画館へ足を運んでください。オススメです!!!
今週末ですと、「ハート・ロッカー」を見ていたたまれなくなった方のお口直しにぴったりです。