本日は「おとうと」を観てきました。
評価:
– 大満足です。【あらすじ】
吟子は夫に先立たれ娘と姑の3人暮らしで薬局を営んでいた。娘の結婚式当日に音信不通だった吟子の弟・鉄郎がひょっこりと現れるが、よりにもよって泥酔して披露宴をメチャクチャにしてしまう。このことがきっかけで吟子のもう一人の弟・庄平は鉄郎に絶縁を宣言する。しかし吟子はどうしても縁を切れない。
暫く経って、大阪より鉄郎の恋人が吟子の元を訪れる。彼女は、鉄郎に130万円を貸したまま彼が音信不通になったと告げる、、、。
【三幕構成】
第1幕 -> 小春の結婚
※第1ターニングポイント -> 小春の披露宴
第2幕 -> 小春の離婚と鉄郎の失踪。
※第2ターニングポイント ->吟子が鉄郎に絶縁を告げる。
第3幕 -> 鉄郎の最期。
【感想】
見終わっての率直な感想は、「あ~~~~映画見た。」という満足感です。さすが山田洋次。中居正広やラサール石井の”ノイズ”が気にならないほど、とても良くできた映画です。本作には最近のエンターテイメント映画にありがちなドラマチックな展開や社会的メッセージなんかはありません。むしろヨーロッパのアート系映画に近い構造をしています。でも、実際にはそれこそが日本映画なんです。日本にだって昔はこういう良い作品があって賑わっていたんです。日本市場は今やハリウッドの映画産業に飲み込まれてしまっていますが、それでもまだ山田洋次監督のような映画人にきちんとバジェットが渡る環境があることは大変喜ばしいです。
物語の肝
本作には際だったドラマがありません。ログラインで表すならば、「ある女にはどうしようもない弟がいて彼が死んだ。」と超簡潔に終わってしまいます。要は展開しないわけです。ですが、それこそが映画の醍醐味だと個人的には思っています。ハリウッド・エンタメ映画も好きなんですが、やっぱり「いま私は映画を見た」と満腹感があるのは、この種の映画なんです。
劇中での鉄郎は考え得る中で最悪レベルの「困った家族」です。そして頭がイカレてるかと思うほど馬鹿で人間のクズです。だけれども家族は家族、吟子にとっては紛れもなく弟です。尻拭いをしてやってるのに調子の良いことばっかり言ってフラフラしているダメ男。そんな奴でも、やっぱり家族なら死ぬ間際には世話をしてやりたくなりますし心配だってします。吟子があまりにも聖人すぎると思う方もいらっしゃるかも知れませんが、家族なんて実際はそんな物なのだと思います。というか思えてきます。
それを表すのに「家族の絆」みたいな安っぽい表現は使いません。小春と旦那のイビつな関係、吟子と姑の関係、吟子と鉄郎の関係、そして吟子と小春の関係。利害を超えて憎まれ口を叩きながらも愛し合う家族が居れば、お互い支え合う親子が居て、その一方で合理的な会話以外を否定する夫婦も居ます。そのいろいろなシチュエーションを観客に見せた上で、どれが正解とメッセージを送る事も無く表現していく山田洋次監督の演出力。ただただ拍手をお送りさせていただきます。本当に素晴らしい作品です。
少々気になる点
とはいえ、気になる点が無いわけではありません。最も大きいノイズは吉永小百合さんの演技です。
断っておきますが私は女優・吉永小百合の大ファンです。だからこそ今回の棒読みで滑舌良くハキハキした文語調の台詞回しは、ちょっと信じられないレベルです。”あの”吉永小百合さんにしては酷すぎます。それと反するかのように蒼井優と鶴瓶師匠の演技は冴え渡っています。それだけに果たして演出が悪いとも思えず、もしや吉永さんが衰えてしまったのではと恐れています。映画の出演数を絞っているようですので、次の作品までの時間で修正できると信じています。
【まとめ】
「山田洋次約10年ぶりの現代劇」の煽りはまったく嘘ではありません。「博報堂DYと朝日が絡んでるから糞映画だ」と判断して観に行かないのは賢明ではありません。是非、劇場で見てみてください。
この種の映画は、観客の感想=観客の自己分析につながっていきます。山田監督が作中で意見を明確に述べていないため、観客は自分の体験や過去に読んだ物語りからモロに影響を受けます。ですので作品は自身の鏡、この作品を語るということは自分をさらけ出すことにつながります。終わったあとの満足度と友人と意見を言う材料になる作品です。
だから、悪い事は言いませんので映画館に見に行っておくべきです。オススメです!!!