日曜日も1本、
「メアリー&マックス」をみました。
評価:
– マイノリティ達への優しい物語。【あらすじ】
メアリーはオーストラリアに住む8歳の少女である。働き者で家庭に無関心な父とアルコール依存症の母と暮らし、友達は誰も居ない。ある日彼女は「子供はビール瓶の底から生まれる」という噂の真実を確かめようとアメリカの電話帳から適当に選んだマックス・ジェリー・ホロウィッツに手紙を出してみた。すると数週間後、彼女の元には返事が返ってきた。こうしてメアリーとマックスの国を超えた文通が始まった。
【三幕構成】
第1幕 -> メアリーの家庭事情と最初の手紙。
※第1ターニングポイント -> マックスが返事を書く。
第2幕 -> 文通して過ごした時間とメアリーの論文。
※第2ターニングポイント -> マックスが怒る。
第3幕 -> 仲直りと渡米。
【感想】
先週の日曜日は「メアリー&マックス」を見て来ました。監督は前作「ハーヴィー・クランペット」でアカデミー短編アニメ作品賞を獲得したアダム・エリオット。そこまで大々的な宣伝はしていませんが、少ない公開館のマイナー映画な割には結構なお客さんが入っていました。
本作はいままでのエリオットの4作品「アンクル(叔父さん)」「カズン(いとこ)」「兄弟(ブラザー)」「ハーヴィー・クランペット」と同じく、一人の人物の成長・人生を描きます。画面はいつも通り暗いグレースケールで構成されており、精神的な病をもった人間や社会的弱者に焦点を当てて比較的冷めたトーンで描き、その上で人生をポジティブに見せます。
毎度毎度このパターンで来ていますので、これがエリオットの作家性なんでしょう。ちなみに過去の4作品はすべてイマジカ/BIG TIME ENTERTAINMENT版の「ハーヴィー・クランペット(REDV-00306)」に収録されています。気になる方はチェックしてみて下さい。
本作でもメアリーとマックスはそれぞれかなり壮絶な事になっています。夢も希望もないとは正にこのことで、ありとあらゆる不幸が彼女たちを襲います。しかし、それでもエリオットのキャラクター達はめげません。今回はかなり危ない所まで踏み込みますが、それでもメアリーは復活します。そしてそのシーンで流れるのが本作のテーマをそのままずばり歌った「Whatever Will Be, Will Be (ケ・セラ・セラ)」です。ヒッチコックの「知りすぎていた男」の有名な劇中歌です。ちょっと歌詞を載せておきます。
When I was just a little girl
I asked my mother what will I be
Will I be pretty, will I be rich
Here’s what she said to me
私が少女だった頃
お母さんに大きくなったら何になるのって聞いたの
可愛くなれるかな? お金持ちになれるかな?
そうしたらお母さんはこう言ったの
※Que sera sera
Whatever will be will be
The future’s not ours to see
Que sera sera
ケ・セラ・セラ
なるようになるのよ
未来の事なんてわからないから
なるようになるの
When I grew up and fell in love
I asked my sweetheart what lies ahead
Will we have rainbows, day after day
Here’s what my sweetheart said.
大きくなって恋に落ちたとき
愛しい人にこの先なにが待ってるかなって聞いたの
来る日も来る日も、虹を見られるかしら?
愛しい人はこう言ったの
※繰り返し
Now I have children of my own
They ask their mother, what will I be
Will I be handsome, will I be rich
I tell them tenderly.
今は私にも子供達がいるの
子供達は私に「大きくなったら何になるの?」って聞いたわ
格好よくなれるかな? お金持ちになれるかな? って
私は優しくこう言うの
※繰り返し
この歌がメアリーが自分の踏んだり蹴ったりな人生に絶望した崖っぷちの時に流れるわけです。あまりにもベタですが、これはエリオットが前作までで繰り返してきたテーマそのものです。アスペルガー症候群で鬱病のマックスやアル中で万引き常習犯の母親に似ていってしまうメアリーを、決して特別視するわけでもなければ過剰に擁護するわけでもなく、ただ静かに「なるようになる」と見守りそしてそこに人生の素敵さを描いていきます。
テーマとしてはこれ以上ないほど道徳的な正論ですし、じっさい今の日本の状況下で劇場でケ・セラ・セラを聞くと感慨深いものがあります。あるんですが、じゃあ映画としてどこまで完成度があってどこまで面白いかと言われると、それは別問題です。
というのも、エリオットはヒジョ~にアクの強い監督なんです。例えばものすごいナレーションを多用してきたり、あえて悪趣味な下ネタを入れてきたり、同じ変人を描くにしてもヘンリー・セリックとは違います。ヘンリー・セリックはどこか天然にクレイジーな部分が見えるのですが、それに対してエリオットはよく言えば計算されていて悪く言えばあざとく感じる部分があります。そこに乗れるかどうかが本作を気に入るかどうかのかなり大きな分かれ目だと思います。あまりにも「泣きっ面に蜂」を重ねまくってきますので、ちょっと納得しづらいですし、いかにも結論ありきで説教されている気分になります(苦笑)。
もちろんものすごい努力のたまものですし、全体的にはかなり良作の部類には入ります。見て全く損はありませんので、お近くで上映されている場合は是非劇場でご鑑賞下さい。ただ、アニメだからといって子供連れでいったりデートでみたりするような作品ではありません。ものっすごいえげつないものを浴びせられる覚悟は必要な作品です。オススメです。
※ おまけ
気になったのでメルボルンとニューヨークのエアメールの料金を調べてみたら50gまでは2.25ドル=約200円でした。これなら貧乏なメアリーでもギリギリ払えそうです。ところが、お菓子を入れると話しが変わってきます。
50g~125g : 4.5ドル=360円
125g~250g : 6.75ドル=540円
250g~500g : 13.5ドル=1080円
500g以上 : 22.5ドル=1800円
う~~~~ん。コンデンスミルクの缶を入れると1,000円を超えそうです。ちょっとメアリーでは無理かも知れません。おそらく切手は全部万引き品です。そういうことにしておきましょう。
参考:オーストラリア郵便局HP