今日は二作です。1作目は水曜公開で早くもそこそこ話題作
「ブラック・スワン」です。
評価:
– 抑圧を狂気で解き放て!!! 永遠の清純派を卒業できるのか!?【あらすじ】
ニナ・セイヤーズはバレエ団のソリスト(準主役)である。バレエ団は経営難から立ち直るために次シーズンでプリマ(主役)の交代を考えていた。タイトルは新しく振り付けし直した古典・白鳥の湖。即席のオーディションに合格したニナは念願のプリマの座を射止める。しかし、彼女は完璧主義者であるが故に感情を表に出した演技が苦手で、オデット(白鳥)の演技は出来てもオディール(黒鳥)の演技が上手く出来ない。演技監督のトマスの厳しい指導を受けるうちに、彼女の周りには不思議な事が起き始める。
【三幕構成】
第1幕 -> ニナのオーディション。
※第1ターニングポイント -> ニナがスワン・クイーンに選ばれる。
第2幕 -> ニナの苦悩と演技指導。
※第2ターニングポイント -> ニナがリリーと夜遊びに行く。
第3幕 -> ニナの開花と初演。
【感想】
今日の1本目はアカデミー主演女優賞を獲った「ブラック・スワン」です。監督はレスラーのダーレン・アロノフスキー。日本では水曜公開でしたが、平日の初動で結構観客が入ったと話題になっていました。
もしかしたら興味ある人はもうレイトショーで見ちゃってるのかも知れませんが、私の見た回はあんまり人が入っていませんでした。
本作全体のテーマ
本作はダーレン・アロノフスキー監督の前作・レスラーと同様にハンディカメラ調のドアップ画角を中心にして徹底したニナ・セイヤーズの一人称視点で描かれます。どこまでが現実でどこまでが彼女の幻覚かまったく分からないまま(※そしてそんなことはどうでもいいんですが、、、)、世界全体が彼女を追い詰めていきます。
ニナは元端役のバレエダンサーでシングルマザーの母親の夢を全て引き受け、完全なる「良い子」として才能を発揮してきます。彼女は技術的には完璧でありながらバレエへの情熱が踊りには出ません。そんな彼女が「情熱の化身」とも言うべき黒鳥を踊るために苦悩し、そのプレッシャーに耐えきれずに発狂していきます。
本作では「白鳥の湖」の一番の見所である白鳥と黒鳥の一人二役をモチーフに、がちがちの母親に管理され続け抑圧されたニナの解放を描きます。
本作が大変すばらしく大傑作であると思う一番の理由がクライマックスの強烈なカタルシスです。彼女は完全にイっちゃってますが、しかしそれこそが彼女にとっては「解放」だからです。彼女は最後彼女にとってまさに「Perfect…」な結末を迎えたわけで、それがハッピーエンドで無いはずがありません。
やってること自体はレスラーと同じだけど、、、
とまぁ最高なワケですが、メタレベルでやっていることはレスラーとほとんど同じです。つまり13歳でリュック・ベッソンにフックアップされてレオンで世界規模のアイドルになり、さらには18歳でスターウォーズEP1を撮影しながら受験勉強をしてハーバード大学に合格、何カ国語も喋れる美人で秀才なセレブという完璧超人のナタリー・ポートマン自身を役柄に投影します。「超良い子だけどいまいち”良い少女”感が抜けない」というのはまさにナタリー自身であるわけで、それがニナ・セイヤーズの実在感に貢献しているのは間違いありません。
プラスとして、本作では発狂系サイコスリラーからの明らかな引用も随所にあります。一番言われるのはおそらくロマン・ポランスキーの「反撥(1965)」と今敏の「パーフェクトブルー(1998)」だと思います。「反撥」は発狂に至るプロセスと「性的な幻覚」を重ねてくるテーマ的な部分、「パーフェクトブルー」は壁一面の絵/ポスターが話しかけたり笑ったりしてくる演出と鏡の中の自分が挑発してくる場面、プラスでお腹を刺す部分ですね。まぁほとんどそのまんまですw
左:ポランスキー監督「反撥」(1965/仏) 右:ダーレン・アロノフスキー監督「ブラック・スワン」(2010/米)
ただ、パクリまくってるから駄目だと言うことではなく、それらを使ってきちんと「抑圧からの解放」というドラマを作ってくる所がダーレン・アロノフスキーの小憎らしい所ですw こんだけ面白ければパクってようが目新しくなかろうがなんでも良いやって言う、、、それぐらい黒鳥のピルエットには強烈なカタルシスがあります。まぁ演出的にやり過ぎって話しもありますし、ちょっと吹き出しそうにはなるんですが、、、でも「成長したね!!!」って感じで微笑ましい場面です。文字通り強く羽ばたいてるのでw
この作品のずるいところは、きちんと作劇上のクライマックスと劇中劇「白鳥の湖」のクライマックスが完全にシンクロしていることです。オデットは王子をオディールに奪われたことで絶望しますが、身を投げることで終に呪いから解放されます。そしてニナ・セイヤーズは、、、、というのは見てのお楽しみです。
【まとめ】
発狂系サイコ・スリラーの新しい大傑作です。あの童顔で可愛いナタリー・ポートマンが最後には血走った目をかっぴらいて黒鳥に生まれ変わるワケで、これはもうファンならずとも感涙です。現実でも本作の振り付け担当のべンジャミン・ミルピエとよりによって出来ちゃった結婚して清純派のイメージを破ったので(笑)、間違いなく本作が彼女自身の解放にも良い方向にいったんでしょう。というわけで、これからは「レオンの子役のナタリー・ポートマン」「アミダラ役のナタリー・ポートマン」では無く、「ブラック・スワンのナタリー・ポートマン」です。間違いなく彼女の代表作です。オススメします。マジ必見。
ブラック・スワン(BLACK SWAN)/その爪先は、狂気の縁に立っていました。
ブラック・スワンBLACK SWAN/2010年/アメリカ/ダーレン・アロノフスキーその爪先は、狂気の縁に立っていました。
あらすじ:「白鳥の湖」のプリマドンナに抜擢され、スワンクイーンとしてオデット(白鳥)とオディール(黒鳥)を演じることになったナタリー・ポート…
ようやく、ブラックスワンをレイトショーで観ました。疲れました。
山岸涼子さんのバレー漫画「アラベスク」というより、同じタイトルで「黒鳥」がありますが、内容は似ています。白鳥しか踊れそうになかった清純そのものの主人公のバレリーナが、振り付け師の夫の愛情を奪った、天才バレリーナに嫉妬し、最後に黒鳥を踊るというもので、記憶に残る大好きな作品です 。この映画程には怖くはないですが、お勧めします。あまり映画と関係ありませんが思い出しました。・・・・興味のある方にご参考までに。
2011/5/31
山岸凉子さんの名作、アラベスクの内容を凝縮した感じでした。モチーフにしたのは間違い無いでしょう。
『ブラック・スワン』お薦め映画
王子役のダンサー以外の主要キャストはバレリーナではないが、それがちっとも気にならない見事な演技と編集だったので、余計なことを考えずストーリーを追うことができた。途方もない努力の賜物であろう。聖女と悪女、あなたはどちらに心惹かれるだろうか。バレリーナの執…