どうも、おはこんばんにちは。きゅうべいです。今日はですね、個別映画に関係なく、良い新聞記事がネットに上がってたので、それから話を膨らませたいと思います。
当該の記事は産経ネットのこちら
http://www.sankei.com/premium/news/160409/prm1604090022-n1.html
●今の日本映画にもの申す…「レベルが本当に低い!」 英映画配給会社代表が苦言
一部抜粋しますと、、、
「日本では映画は製作委員会のもので監督のじゃない。例えば、誰が監督したかみんなほとんど知らないでしょ。監督の名前を宣伝しない。英国などでは出演者には興味がない。『この映画はマイク・リーの新作』などと監督を重視する。日本では、例えば園子温(その・しおん)監督の『新宿スワン』を誰が撮ったかは95%の人々は知らない。監督は製作委員会のパペット(操り人形)なんだ」
これ実は私が随分前から言ってることでして、邦画にダメな映画が多いのって絶対製作委員会の影響なんですよ。私もここ数年、製作委員会や出資がらみの仕事をするようになって切に感じています。ということで、今日は「製作委員会」についてウダウダ書いてみます。
ちなみに上記のアダム・トレル氏は間違っています。日本に限らずハリウッドでも、映画は製作委員会のものではないですし、雇われ監督のものでもありません。プロデューサーのものです。逆に言えば、プロデューサーさえちゃんとしてれば製作委員会形式でもいい映画はできます。相当な話術と騙しのテクニックが必要ですが(汗)
■ 製作委員会方式ってそもそもどういうもの?
ch1: 製作委員会の誕生
皆さん、「製作委員会」ってどういうものかご存知でしょうか?「知ってるわい!」って方はこのセンテンスはすっ飛ばしちゃってください。
製作委員会とは簡単にいいますと「一口馬主」的な制度のことです。私は最近は映画よりもテレビアニメの製作委員会に出ることが多いので、テレビアニメ(=業界ではこれを”OAアニメ”と呼びます。)を例にとって説明していきましょう。
まず、テレビアニメを作るのにどのくらいお金がかかるでしょうか?
もちろん作品にもよるのですが、一般的には一話あたりで大体1,200万円~1,500万円くらいかかります。ちなみに深夜ドラマ(テレビ東京とかでよくやってるやつ)やU局ドラマだと、これがだいたい900万円くらいで作れます。
そうすると、1クール(=3ヶ月)分13話でだいたいトータルで1.5億~2億円ぐらいかかるわけです。ここにさらに宣伝費として、だいたい純制作費と同額弱が当てられます。そうすると、1クールのアニメを作るためのビジネスにはトータルで2億~3億円かかる計算になります。
ここで大事なのは、映画やドラマやアニメの企画会社も、所詮は「ビジネス」だということです。コンテンツビジネスというのは物凄く博打性が高いビジネスです。例えば、あるアニメの制作会社に2億円渡すとしましょう。このアニメが流行るかどうかはまったくわかりません。良い作品ができるかどうかも作ってみないとわかりません。クソ作品が出来上がった時には、当然すでに制作費は使い終わってるわけです(笑)。
ビジネス的な観点でみると、これは猛烈なリスクです。作ってみないと出来がわからないものに、何億円も突っ込んで、そして殆どの場合は大ヒットなんてしないで終わっていくわけです。大ヒットする作品なんて、年に数本ですから、これは宝くじみたいなものです。
当然、企画会社はリスクの分散をもとめるようになります。そこで、製作委員会が登場するわけです。
ch2: 製作委員会の仕組み
製作委員会の「言い出しっぺ」はほぼ9割9分の確率で「企画会社」です。前述のように企画会社は2~3億円のお金をだしてヒット作ができるかもしれない博打をします。このリスクを抑えるために、企画会社は「出来上がった作品に対しての権利をあらかじめ切り売りする」ことを始めるわけです。いうなれば、作品の先物取引です(笑)。
この企画会社のことを、製作委員会方式では「主幹事会社」と呼びます。アニメの場合には、松竹や東映、KADOKAWA、バンダイビジュアル、ハピネット、TBSなどの映画/アニメ/テレビ会社が「主幹事会社」となります。
では、「切り売りされる作品の権利」とは何でしょうか? 一般的には以下の様なものが挙げられます。
・出演権
・先行放送権
・制作権
・番組販売権
・番組販売権(海外)
・パッケージ化権
・グッズ化優先権
・書籍化権
・遊戯機/アミューズメント化権
・主題歌権
なんとなく文字を見ていただければ想像できると思います。
出演権はそのものずばり声優さんや俳優さんを出演させる権利です。たま~に武井咲とか広瀬すずとかが「ゴリ押し」と言われることがありますが(笑)、実際はこれはゴリ押しでもなんでもなくて事務所がちゃんとお金をはらって製作委員会に入ってるからなんですね。もちろんメインだけじゃなくバーターで若手も出します。
アニメの場合、先行放送権はたいていの場合アニマックスやWOWOWなどの有料放送局が入ります。番組販売権というのは先行放送されたあとの、地方局や地上波テレビ局に番組を売る時の代理店になれる権利です。ちょうどいま「ラブライブ」がNHKで放送されていますが、あれなんかまさにこの「番組販売権」のパターンです。
「パッケージ化権」というのはDVD/BDソフトを発売するときに「販売元」になれる権利です。ここはアニプレックスとか、ポニーキャニオン、ハピネット、MAGES.、キングレコードとかが入ってきます。パッケージ屋さんですね。
「書籍化権」というのは、漫画やラノベ/小説なんかが原作の場合には「原作使用権」に変わることもあります。ここにはその出版社が入ります。ノベライズやコミカライズするときの権利です。最近だと、「劇場版るろうに剣心の漫画化」とかいうアクロバティックなやり方もありました(笑)。漫画を映画にしたやつの再漫画化という、、、なんかもうよくわかりません(笑)。古くは福井晴敏の「月に繭 地には果実」という、アニメ「∀ガンダム」のノベル化だけど純文学という凄いのもありました。
「主題歌権」というのはアニメのオープニング/エンディングを決める権利です。ここはレコード会社が入ってきます。例えば、一時期ガンダムシリーズはすべてソニー・ミュージック・コミュニケーションがここに入っていました。玉置成実とかHIGH AND MIGHTY COLORとかの頃です。ここには、アニメタイアップで新人を売り込んだりしたいレコード会社がお金をだしてバーターをもらうわけです。
最後に、最近は「遊戯機化権」というのも出てきています。これは要はパチンコ台にする権利です。「パチンコ まどか☆マギカ」とかね。平和とかサンキョウとか、最近はオムロンからスピンアウトしたフリューなんかもいます。
こういった作品に付随するビジネスを行う権利を幹事会社は切り売りするわけです。一般的には、出資比率として幹事会社が総製作費の40%程度を出費し、のこりは各社3%~10%ぐらいずつの寄せ集めにして100%に持っていくようにします。最近のアニメプロデューサーの仕事は、もっぱらこの「出資スポンサーを捕まえてきて100%になるように綺麗に調整する」ことになってます(笑)。当然業界内には派閥がありますので、「あいつが出資した作品にはうちは出資しない」みたいなしがらみが山程あり、めちゃめちゃ気苦労の絶えない地味~な仕事です。
ちなみに、こういう製作委員会の企画書を見る場合、まずはじめに見るのは「幹事会社の出資比率」です。ここが、40%を切っている場合、「あ、この幹事は作品に自信がなくてバックれる気マンマンだな( ̄ー ̄)ニヤリ」と読みます(笑)。
ch3: 出資者への見返りはなに?
さて、幹事会社のプロデューサーが、睡眠を削って飲みニケーションを駆使して出資者を集め、見事出資比率の合計が100%に達成したとします。では出資者のメリットはなんでしょうか?
一番のメリットは「実際の製作に関する仕事を受注できること」です。俳優が出れば出演料が入りますし、主題歌になれば楽曲使用料が入ります。例えば、「ST○○○ ○Y ME ドラ○○ん」を例に取りましょう。この映画は製作委員会方式をとっていますが、実際に作っているのは「白組」という会社です。白組は出資して制作権をとってます。この場合、白組は製作委員会に出資をし、製作委員会はみんなから集めたお金を白組に渡して作ってもらうわけです。つまり出てったお金が戻ってきてる(笑)。この時、白組は「出資しない時と比べて利益率は減るが、出資することで絶対に受注できる」状態になるわけです。ただの値引きじゃね~かって話なんですが(笑)、これがもし、東北新社とかが出資して制作権をとったら白組には一切仕事がこないわけで、そのチキンレースが展開されるんです(笑)。
こういうのを製作委員会方式では「随伴利益」と呼びます。一般的に、随伴利益が出資金を上回る場合、制作会社は出資しない理由がありません。
こうして幹事会社は数々の付き合いのある会社に対して「仕事あげるから製作委員会に入ってよ~」というバーターを仕掛けて回るわけです。
ちなみに、製作委員会は形式上は皆がお金を出し合う「投資事業組合」ですから、得られた利益は出資比率にしたがってきちんと分配されます。されますが、「得られた利益」は当然経費が引かれた後ですので、幹事会社が「分配手数料」を先に引っこ抜いてきます。基本的に幹事会社が大損をすることはありません(笑)。ひどい商売です、、、。
■ なぜ製作委員会はクソ映画を量産するのか?
さて、それでは冒頭の話に戻ります。なぜ邦画がクソなのが製作委員会のせいなのか?これはすごく簡単にいいますと、「出資してる人たちがコンテンツにあんまり興味がないから」であり、「幹事会社は出資しやすいようなコンテンツを作るから」なんですね。順番に説明しましょう。
なぜ出資者はコンテンツに興味がないか
製作委員会は前述したように、基本的には随伴利益を目的とした実質上の「値引き」システムです。ですので、出資者にとってコンテンツの出来はさほど重要ではありません。すくなくとも随伴利益である程度ペイできてしまうのであれば、どんなクソ・コンテンツだろうが知ったこっちゃないわけです。出資者が重要視するのは、「随伴利益がいくらでるか」と「どの程度のヒットが見込めて、安全な出資ラインはどこか?」だけです。
会議室映画の誕生!
上記の「どの程度のヒットが見込めて、安全な出資ラインはどこか?」をクライアント各位に提示するために、幹事会社は出資しやすいような企画書を書かないといけません。そんなこんなで、この企画書のフォーマットというのはもう決まっちゃってるんですね。
・予定している俳優/声優は誰か?彼らの過去作はどのくらいヒットしたか?
・原作本は何部出ているか?同一作者の別作品は映像化でどの程度ヒットしたか?
・このジャンルの類似作はどの程度売れたのか?
・この制作者(監督とかブランド)の作品は過去にどの程度売れたか?
さて、これをすべて書こうとすると、どういう企画書になるでしょうか?
そりゃあね、当然似たようなものばっかになるわけですよ。今度の「テラフォーマーズ」なんかは、個人的には「13人の刺客」と「るろうに剣心」と「ミュージカル戦国BASARA」のミックス企画だと邪推しています(笑)。
この製作委員会はリスク分散という大きなメリットがある一方で、すくなくともブランニューな作品だったり、すごい新人監督だったり、はたまた超爆発的にヒットするめちゃくちゃ面白い作品なんかは生まれないわけです。
■ まとめ
ある意味ではビジネスとして成熟しているともいえるんですが(苦笑)、やっぱ「100本作って1本大成功!」みたいな超生え抜きの作品の方が面白いわけで、世界中の死屍累々の上に出てくる「100本中1本の洋画」をピンポイントで見たほうが、そりゃあ面白いわけです。
ということで、「死屍累々に感謝しつつ、面白い映画をみる」というのが、一般的な映画好きの方の一番合理的な方法だと思います。
そのために当ブログのような適当なことばっか書きまくってる脳汁が少しでもお役に立てたら幸いです。
まぁ、私のブログは嘘が8割ぐらいで、残りの2割は私の見た幻影なんですがね(笑)。
おまけ: 実際のアニメ製作委員会の出資比率
おまけです。下記が某大人気声優勢揃いアニメ(1クール)の製作委員会構成です。この作品は主幹事がやる気満々で大ヒット間違いなしの気合い入りまくりだったので、60%も出してます(笑)。宣伝費コミコミで1話あたり2,000万円×13話=2.6億で、中の上ぐらいの製作規模です。
主幹事(某有名アニメレーベル):60%(パッケージ化権、ソングタイアップ権、番組販売権)
某パッケージ会社:10%(自動公衆送信権 ※これネット配信のことです。)
某ゲーム会社:10% (ゲーム制作・販売権)
某グッズ屋:8% (販促物製造権)
某スタジオ:6% (オンエア制作・編集権 ※これがいわゆるアニメを作る所です。)
某おもちゃ屋:6% (フィギュア制作・販売権)
おまけ2(2016/8/23追記): 広告代理店関連の陰謀論
くままさんにコメントいただいたツイッターで流れてたという「制作費をスポンサーが出すじゃん?そのうち半分を「放映権」の名目でテレビ局が持ってく。残ったうち8から9割を、広告代理店が持っていく。残りカス、元の1割とか2割弱とかが、実際の制作費」という陰謀論についてちょいと長くなりそうなのでこちらに追記します。くままさんありがとうございます。
本文にも書きましたが、大前提として、製作委員会の「総製作費」は「宣伝費」と「制作費」に大きく別れます。きちんと予算配分されており、一般的には4:6ぐらいです。(※噂で聞いたレベルで当てになりませんが、シンゴジラはこれを2:8ぐらいにして中身にガッツリお金使ったらしいです)
きちんと制作費は項目分けて守られていますので、そこが「1割とか2割弱」はあり得ないです。
まず放送権ですが、優先放送権は「製作委員会から番組を優先的に買って一番最初に流す権利」なのでこのテレビ局は制作費には一切手をだしません。むしろ追加で1クール300~400万円程度を「番組放送ライセンス料」として委員会に払います。”「放映権」の名目でテレビ局が持ってく”は絶対にあり得ません。持っていく名目が無いです。ただし、「あしたから新作アニメがはじまるよ!30分特番」みたいな番宣番組を作る場合、この番組制作費を「宣伝費」として委員会に計上することはありえます。WOWOWなんかはよくやってますし、地上波でもテレビ局主幹事のアニメ映画だと必ずあります。ただ、せいぜいダイジェストに編集して声優と監督からコメントもらってくる&ちょいと聖地巡礼程度なので、こんなの高くても20万~50万ぐらいです。
次に「残ったうち8から9割を、広告代理店が持っていく」ですが、これもあり得ません。広告代理店がマックスで持っていけるのは宣伝費ワク分すべてですが、そもそもこの”宣伝費”には前述の番宣番組だったり、原作権で入っている出版社の雑誌特集(広告記事)だったり、パッケージ権で入っているパッケージ会社のチラシ・オマケグッズなんかも含まれています。劇場アニメなら前売り券のオマケや入場者特典もこの宣伝費です。広告代理店が入れるのは企業コラボぐらいですからそんなに額は行かないです。「シンゴジラをつかった商品ポスターがコラ画像みたい」とか話題になってましたが(笑)、あれはたぶん広告代理店が入ってると思います。
また、大前提として、少なくともOAアニメに広告代理店がガッツリ出資することは無いです。彼等のビジネスからすると金額が小さすぎますから。「3000万出資して1000万儲かったらラッキー」みたいなショボい商売を大手広告代理店はやりません。電博(※デンパク=電通と博報堂の合体アダ名)が本気を出すのは、ジブリとか日テレあたりが主幹事の大型映画案件だけです。そういうのは露出がハンパじゃないので企業コラボが相当数みこめますからね。
ピンバック: 雑記:脱線よもやま話 アニメーターは何故貧乏か~アニメーター志望の方への就職案内 | にわか映画ファンの駄目な日常
こんばんは。
アニメ番組をはじめとするコンテンツ1本作るのに、誰がどういう名目でどれくらいお金を出しているのが大変わかりやすく理解できました。ありがとうございます!
集められたお金の使用の内訳が今度は気になってくるのですが、どこにどう使われているんでしょうか……?
くままさん こんにちは
どこにどうってのは難しいんですが、基本的には各社に割り当てた仕事を発注する際の制作費&手数料に使われていきます。
ほとんどはOA本編の製作に当てられますし、場合によっては、マ○ロス某みたいに本編の製作費をケチってその分を声優イベントの運営費に回すこともあります。(※声優ファンはアニメの出来とは関係なく来るカモと思われてるので怒ったほうがいいです(笑))
例えば、DVDパッケージを作るなら、パッケージ製作権を持った会社がオーサリング・エンコード・DVDプレスなどの見積もりを業者から取って、それを製作委員会の場で決議としてあげます。承認されれば製作委員会の経費になり、パッケージ製作権を持った会社には手数料(お駄賃)が落ちます。
つまり、みんなで持ち寄ったお財布でそのアニメに関する全部の商売をするんです。
使うばっかじゃなくて、関連品の儲けは全て製作委員会に一回入ってそこから各社に分配されます。
儲けの大半は、例えば一番くじ/ゲーセンプライズ品へのライセンス費とか、パッケージの売り上げとか、再放送の番組販売料とかです。
早々のご返信、ありがとうございます!本編ケチってイベント運営費、確かに私が運営側ならやりかねない投資プランですww
ちょっと前にツイッターで、恐らく業界外の人と思われる方が“アニメーターの貧困問題をちょいちょい見かけ制作費をスポンサーが出すじゃん?そのうち半分を「放映権」の名目でテレビ局が持ってく。残ったうち8から9割を、広告代理店が持っていく。残りカス、元の1割とか2割弱とかが、実際の制作費”と呟いているのを見て、「そんなことってあるかー?!」と思い、質問いたしました……(そんなことがなさそう?で、安心しました)
お気が向かれたら、また業界のこぼれ話を伺えると嬉しいです。今後もブログを楽しみしております!