雑記:脱線よもやま話 音楽の著作権を考える

雑記:脱線よもやま話 音楽の著作権を考える

うも、おはこんばんにちは。きゅうべいです。なんかJASRACが音楽教室から受講料の2.5%を著作権料として徴収しようとしているというニュースが結構話題になっております。

そこで今日は著作権について、また例によってグダグダに語っていきたいと思います。一応、私の見解というか立場を先にハッキリさせておきましょう。

JASRACが今回のように音楽教室の著作権使用料を請求・徴収するのは当然だと思います。そこに異論はありません。ただし、「音楽教室から受講料の2.5%を著作権料として徴収」という部分については断固として反対ですし、そこに大義は無いと思っています。

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ch1: そもそも著作権とは?

我々がざっくりと「著作権」といった場合、これは「コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律(平成16年6月4日法律第81号)」にかかれた権利の事を指します。

本気で大真面目に興味があるかたは、(もちろん法律ですので)政府がちゃんと国民に公示してますので、原文を読んでみて下さい。

コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律
(平成十六年六月四日法律第八十一号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H16/H16HO081.html

著作権法 (全文)
(昭和四十五年五月六日法律第四十八号)
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxselect.cgi?IDX_OPT=1&H_NAME=%92%98%8d%ec%8c%a0&H_NAME_YOMI=%82%a0&H_NO_GENGO=H&H_NO_YEAR=&H_NO_TYPE=2&H_NO_NO=&H_FILE_NAME=S45HO048&H_RYAKU=1&H_CTG=1&H_YOMI_GUN=1&H_CTG_GUN=1

以降は、相変わらず噛みくだいて雑に書いていきます(笑)。一応本職ですからあってるはずです^^;

ch1-1: 要件

まずは著作権の対象になるコンテンツを見てみましょう。

上記法律条文の第2条1項に「著作権が発生するコンテンツとはなんぞや?」が列挙されています。

この法律において「コンテンツ」とは、映画、音楽、演劇、文芸、写真、漫画、アニメーション、コンピュータゲームその他の文字、図形、色彩、音声、動作若しくは映像若しくはこれらを組み合わせたもの又はこれらに係る情報を電子計算機を介して提供するためのプログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わせたものをいう。)であって、人間の創造的活動により生み出されるもののうち、教養又は娯楽の範囲に属するものをいう。

要は「創造的活動により生み出される」「教養又は娯楽の範囲に属するもの」が「コンテンツ」だって言ってるわけです。だから、私のこの文章とか、音楽の歌詞とか、もちろん芸術的な絵画とか、こういったものが著作権の発生するコンテンツになります。私の文章が創造的かは怪しいですけど(笑)。実際、「創造的じゃない」として著作権を却下されるケースはままあります。一番有名な所だと「新聞の見出し」ですね。見出しはただ内容を要約しただけなので、著作物とは認められていません。もっと最近の身近なところだと「映画のタイトル」なんかもそうです。「映画の本編」は著作物ですが、タイトルは著作物とは認められていません。だから「君の名は(2016)」が「君の名は(1952)」の著作者から訴えられることはありません。

ちなみに「タイトルをパクられた!」として訴えるためには、著作権ではなく商標権を利用する必要があります。「登録商標」として「君の名は」がもし登録してあったら、オリジナルの「君の名は(1952)」の権利者は「君の名は(2016)」を訴えて何億円も取れます。其の話をはじめると「PPAP問題」に脱線するので今日はつまみ食いは止めておきます(笑)。

そう、いま「登録商標」の話が出ましたが、著作権は登録制ではありません。日本では著作物を作った瞬間にそこに著作権が発生します。これは超強い&著作者に有利なルールなので、そのぶん法律的な安定性に欠けます。具体的には、実際に裁判で争われない限り、あなたの著作物が「著作権の発生するコンテンツかどうか」はわからないんです。自分ではクリエイティブな仕事をしたとおもっても、裁判で「おまえの見出しにはクリエイティビティがないから著作権は与えられねぇわ。」と言われてしまう可能性があるわけです(笑)。

ch1-2: 著作権の種類

さて、そんな著作権ですが、実際には「著作権」という一つの権利ではなく、条文上で多くの「権利」が定義されており、その複合体となっています。

大まかに言って、「著作権」には「その人に一生ついてまわる著作者人格権」と「誰かと売ったり買ったりできる財産権」とに分けることができます。まずは全部をざーーーーっと列挙してみましょう。

●売り買いできない「著作者人格権」

  • 公表権(コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律 第18条1項)
  • 氏名表示権(同 第19条1項)
  • 同一性保持権(同 第20条1項)
  • みなし著作者人格権侵害(同 第113条6項)

●売り買いできる「財産権」

  • 複製権(コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律 第21条)
  • 上演権(同 第22条)
  • 上映権(同 第22条の2)
  • 公衆送信権・送信可能化権・伝達権(同 第23条)
  • 口述権(同 第24条)
  • 展示権(同 第25条)
  • 頒布権(同 第26条)
  • 譲渡権(同 第26条の2 第1項)
  • 貸与権(同 第26条の3)
  • 翻訳権・翻案権(同 第27条)
  • 出版権(同 第79条)

山ほど種類があります。私、大学の授業で暗記させられました^^; いまはもうあんま覚えておらず条文片手にカンニングしながら書いてます(笑)。

ch1-3: 著作者人格権

まずは著作者人格権を見てみましょう。これは売り買いができません。死ぬまでオリジナル作者についてまわりますし、死んだ後も残ります。

「公表権」とは著作者がボツにした作品を勝手に公表されたり、また世間への発表日を自分で決められる権利です。CDやゲームや漫画の発売日前のフライング販売は厳密に言うとアウトです。週刊少年ジャンプの早売りをしている本屋やコンビニは、漫画の作者に訴えられると負けます。

「氏名表示権」は、「作品を発表する時の名前」を著作者が自由に決められる権利です。ペンネームとかですね。ですから、某ラ○ライブの声優さんみたいに、昔でていたアダルトビデオがバレちゃった場合、「あの〇〇が昔出てたアダルトビデオ!」という宣伝をされたら訴えることが出来ます。この場合は彼女は実演家(=台本に準じてなんか演じたり喋ってる人)なので、厳密には「著作権」ではなくて「著作隣接権」の「氏名表示権」にあたります。ややこしい^^;

「同一性保持権」は、いまパーマ大佐の「森のくまさん」替え歌で揉めてるやつです。どこもかしこも揉めてばっかだな(笑)。同一性保持権は勝手に変更を加えられない権利です。これは大変面倒でして、どこまでが批評でどこからが引用パロディかでよく裁判になります。君子危うきに近寄らず。パロったりする場合は、後から訴えられないように一声かけるのが礼儀です。

「みなし著作者人格権侵害」はそのまま条文を引用しましょう。

著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。

要は、明らかに名誉を害するために使っちゃだめってことです。実際の判例がこちらのwebページに乗ってます。

知財弁護士.com
平成25年7月16日判決(東京地裁 平成24年(ワ)第24571号)
http://www.ip-bengoshi.com/hanrei/25_1/20131021.html

漫画家の佐藤秀峰さんが自分のイラストを意図しない形で政治利用されたとして訴えた裁判です。

上記の4つの権利をまとめた「著作者人格権」は、著作者に一生ついてまわります。何度も書きますが売り買いはできません。そして、第60条にあるとおり、「著作者が存しなくなった後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害にあたる行為をしてはならない」とあり、さらに116条で「遺族が著作者の代わりに訴えていいよ」となっています。ですから、厳密には遺族が相続することもできません。完全に著作者固有の権利です。

もし「”吾輩は猫である”を書いたのは実はオレだ!」とか言って「吾輩は猫である 作:山田太郎」みたいな本を勝手にだすと夏目漱石の遺族に訴えられます^^;

ch1-4: 財産権としての著作権

長くなっちゃってすみません。やっとJASRAC様が登場する場面がやってきました!

財産権としての著作権は、項目自体が全部で13個あります。こちらは著作者人格権と違い売り買いができますし、売り買いができるということは第3者に委託することもできます。ここで注目しないといけないのは、「著作者人格権」の持ち主は絶対に著作者本人ですが、「財産権としての著作権」の権利者は本人とは限らないということです。よく細野晴臣・高橋幸宏・坂本龍一のYMOが揉めていますが、「財産権としての著作権」をレコード会社に売ってしまっていると、「実際に曲を作った本人達」の意図しない形で「権利者としてのレコード会社」がベスト盤を発売することができます。本人たちにはもう権利がないのですから、それを止める手段も権限もありません。

さて、JASRACはまさにこの「財産権としての著作権」を委託管理する法人です。ただしこれは「信託」なので普通の「委託」ではありません。「財産権としての著作権」そのものを原著作者から一定期間譲り受けてJASRAC自体が正式な「財産権としての著作権者」になります。だからJASRACは直接的に著作権侵害者との裁判ができます。

元々の「財産権としての著作権者」は、「歌詞」「メロディ」「レコーディングされた演奏・唄」の権利をJASRACに委託します。JASRACは権利者との委託契約についてそれぞれの権利区分の選択制をとっています。


JASRACホームページ:お預けいただく範囲の選択について
出典:http://www.jasrac.or.jp/contract/trust/range.html

ですから、「テレビ・ラジオ放送とカラオケの利用料だけ徴収して」という契約はメニュー上は可能です。

JASRACの委託契約はホームページのデータベースから検索することができます。
http://www2.jasrac.or.jp/eJwid/

ch2: JASRACの問題点と音楽教室問題

さて、そんな「財産権としての著作権者」の強い味方であるJASRACですが、問題点が一個だけあります。それはよく言われる「本当に著作権者に分配されてるの?」という話です。結論から言うとグレーです。本来はあり得ないことですが、そこには「包括契約と按分」というこの問題で一番難しい闇があるからです。

ch2-1: JASRACの問題点

本来のJASRACの業務とは、第3者の著作物の利用に対して「財産権としての著作権者」が行う「許可・料金契約の事務作業」を代行することです。あくまでも契約の代行業ですから、そこにグレーゾーンの入り込む余地はありません。一回の契約を代行する毎にパーセンテージで手数料をハねるだけです。これならばなんの問題も起きようがありません。

しかし、JASRACには実際に何百万曲と委託されており、さらに社員はたかだか500人弱しかいません。これを一曲一曲契約代行するのは面倒くさいです。そこで、JASRACはテレビ局やラジオ局、さらにはレコード会社と「包括契約」を始めます。これは月額いくらでJASRAC信託曲が使い放題になるというパック販売です。これはJASRACの発明した最高の手抜き効率的手段です。

JASRACのホームページからこの包括契約について引用しましょう。

<演奏会の場合の計算例>
● 公演1回の使用料
定員1,000名の会場で入場料2,500円のコンサートを開催する場合、
使用料は、(2,500円×1,000名×80%)×5% = 100,000円(税抜) ですが、
年間の包括的利用許諾契約を締結すると、
使用料は、(2,500円×1,000名×50%)×5% =  62,500円(税抜) となり、
包括的利用許諾契約を締結しない場合と比較して、約4割引になります。
(注)入場料がない場合や、上記計算による使用料が「定員数×5円」又は「2,500円」を下回る場合には適用されません。

年間の包括的利用許諾契約について
http://www.jasrac.or.jp/info/create/contract.html

突っ込みどころは2箇所あります。

まず第一に、JASRACが定める上演権の値段は、何故か「1曲(=1権利)いくら」ではなく、総入場料の4%です。100曲歌おうが1000曲歌おうが全部で4%です。そうすると歌いまくれば歌いまくっただけ、著作権者に入る単価は少なくなります(笑)。謎の値引きサービスです。

第2に、JASRACと包括契約を結ぶことで、料率が総入場料の2.5%に値引きされます(笑)。著作権者にとっては同じ1回歌われただけでも、使った人がJASRACと包括契約をしてるかどうかで入ってくるお金が変わるわけです。すさまじいシステムです。代行業のくせに「抱き売値引き」してくれちゃうんですから(笑)。ちなみに今回の件で「音楽教室の売上の2.5%を請求するなら値段の根拠を示せ!」という意見をよく見ますが、正直根拠はどうでもいいんです。「財産権としての著作権」は物権ですから、別にいくらに設定しても構いませんしその根拠も必要ありません。たとえば、もしあなたが駐車場を経営する場合、別に利用価格はいくらでもいいですし、法的な制限もありません。高すぎれば誰も使いませんし、安ければ使う人が増えるってだけです。著作権使用料も同じ事です。

むかし大槻ケンヂさんが「JASRACの本社前で自分の曲をライブして使用料を払ったのに、JASRACから入金されてこなかった」という都市伝説があります。こういうのは実際にあり得て、この包括契約におけるサンプリング利用率にのっとった割り振りと最低支払い料により入金が切り落とされているパターンです。

著作権者からするとこんなにふざけた話はありませんが、一方で利用者からするとこの包括契約は悪くない仕組みです。なにせパック売りで安くしてくれますし、さらには細かい利用明細を提出する手間が省けますから。本当なら一曲一曲全部調べていつ何回演奏したかをJASRACに出して費用を請求してもらうんですが、包括なら適当に一括でドンと払えばそれで終わりです。

使う方は安くなってハッピー、JASRACも手間がかからず集金できてハッピー、著作権者はちょっと取り分が減るけどそれでも取りっぱぐれるよりはハッピー、とWin-Win-微Winな関係になっています。約1名軽く被ってますが結果オーライ。

もし一曲一曲の使用実績を全部個別に事前申請させて本気で集計すると、たぶん使用料を10倍以上にしないとそもそも経費がまかなえないんじゃないでしょうか。でも、個人的にはそっちのほうが不公平が無くて良い気がします。ライブチケットが3万円ぐらいになりますが、まぁ芸術ですからそんなもんでしょう^^; あとは完全事前承認性って手もありますよね。本来は承認を受けなきゃいけないものですから、本当は申請を待つ受け身スタイルでも良いんです。無断使用は問答無用で高額民事訴訟。これだと結構いけそうです。先ほども書いたように「財産権としての著作権」には定価もヘッタクレもないので「俺の曲は1回演奏すると1億円だ!」という設定もありです。

一方、この包括契約は大変独占力が強いビジネスモデルです。なにせ包括契約さえすればJASRAC信託曲は使い放題ですから、下手にJASRAC信託曲以外の曲を使う理由がありません。余分にお金がかかりますし、権利者を探して話をするのも面倒です。そうすると、必然的に使うのはJASRAC信託曲が中心になり、著作権者もJASRACに委託しないと機会損失が発生することになります。何年かおきに公正取引委員会が監査にはいってますよね。個人的にはこの包括だけは徹底的に潰してほしいです。そうしないとネクストーンとか他の業者が出てこないですから。

こうして、JASRACは著作権の大巨人へと成長しました。

ch2-2: 音楽教室からの徴収問題

ここまで5000文字以上を使って書いてきましたが、いよいよ本題の音楽教室からの徴収問題です。

まず、大前提として、日本の著作権には「フェア・ユース」という概念がありません。「フェア・ユース」は「商業目的ではなく」「作成される複製物が少なく」「著作物の潜在的マーケットを侵さない」場合に著作物の使用が認められる制度です。アメリカ合衆国著作権法 第107条に規程されています。

「フェア・ユース」が無い代わりに、日本における「著作権の制限」は第30条から第49条までで具体例で個別に定められています。

今回の音楽教室問題に相当するのは第38条です。

著作権法第38条第1項
公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

「音楽教育」と言われて100%善意のボランティアで子どもたちに音楽を教えてるような教育機関を想定するのは不適当です。今回JASRACが対象としているのは正に音楽塾であり「営利を目的」そのものです。当然商売で使ってるんですから、そこから使用料を取ろうという方針は当たり前です。JASRACがトチ狂って小学校の音楽授業から利用料を取ろうとしたら怒っていいですが、営利目的の私塾から取らない理由はありません。100%取るべきだと思います。

ただし、ここで想定しているのは音楽学校の教師が生徒に向けてお手本としてJASRAC曲を演奏するようなケースです。例えば、生徒側が1分に満たない楽曲のフレーズを練習として演奏した場合とか、音楽教室内の自由時間に生徒が勝手に演奏した場合は私はカウントする必要無いし払わないでいいと思います。いろいろケースはありますから、包括契約には反対です。

補足:日本には「カラオケ法理」といってその上演を「管理」「支配」し「利益が帰属」しているのは誰かによって著作権侵害の主体を判断するという判例があります。(「クラブキャッツアイ事件 最高裁昭和63年3月15日」)
これを使うと、生徒の演奏も「先生の指示(管理・支配下)」で、「教室の運営(営利目的)内」で行われていたと判断することもできます。この論法が裁判でとおれば、生徒の演奏からも上演権料が取れる可能性があります。

ポイントは「教室内が公衆か」「演奏そのものが営利目的にあたるのか」と「演奏した楽曲が楽曲足り得るのか(※要は2小節とかものすごい短くないか)」の部分です。また、もし歌詞カードや楽譜をコピーして配ってたら当然アウトです。さすがにそれは論外なので争点にならないと思います^^;

喫茶店のBGMがアウトなのと同様に、曲の演奏そのものに対価が発生していなくても、その曲を使うことによって営利に寄与していると考えられる場合には「営利目的の演奏」になります。音楽教室がクラシックやオリジナル曲などのライセンスがクリアされた曲ではなくてわざわざJASRAC信託曲(ポップスが多い)を使うのであれば、それは当然「生徒の人気につながる」「その曲が売りになる/その曲目当てに生徒が来る」「売上アップに寄与する」という考えで採用しているわけであり、「営利目的じゃない!」というのは無理筋でしょう。「先生が見本として演奏するのは”演奏技術の実演のための引用”であって曲そのものに価値を見出して聞かせているわけではない!」という意見をちょいと見かけましたが、だったら著作権フリーの曲を使えばいいわけであって、これもちょいと苦しいかと思います。もっとも、一小節だけ使って特定・個別のテクを見せるとかなら引用が認められてセーフの可能性があります。

しかし一方で、JASRACが包括契約として授業料の2.5%を取ろうとしているのはオカシイとおもいます。2.5%ってちょっと前に出てきましたよね?そう、これ、音楽教室と「ライブハウスの包括契約」を結ぼうっていうんですね。業態としては「演奏者が他人の著作物を演奏してお金を取って入場した観客に聞かせている」わけですから、ライブハウスと音楽教室の構造は一緒っちゃあ一緒です。

とはいえ、音楽教室でJASRAC信託曲をどれだけ演奏してるかっていうデータはあるんでしょうか?

個人的には、いきなり包括契約をJASRACから提案するのはオカシイと思います。まずは全部の楽曲を逐一教室に申告させて、JASRACも監査員を割り当てるか授業風景をビデオ提出させて、虚偽申告がないかをキッチリ確認する個別申請から始めるべきです。当然JASRAC側も経費がかかりますが、でもそれって本当は当たり前のことですからね^^; そこでJASRACの思惑通り信託曲がガンガン使われているならガッツリ利用料をとれますし、もしそんなに使ってないなら包括にする理由はありません。それにもし個別申告にして虚偽申告があったら、著作権侵害で訴えればたんまり賠償金がとれます。

そう、これって構造的に包括契約を申し込むのはJASRAC側ではなく教室側からじゃないと説明がつかないんです。だって包括契約って値引きシステムなんですから、お金貰う方から先に値引きを提案するのは変でしょう?そもそも著作物の利用って事後報告じゃないですから。「演奏させて下さい」「嫌じゃ」ってパターンだって当然ありえます。「使った分だけ後から払えばいいんだろ!」っていうのは本質的におかしくて、許可を受けるのが先で実際の利用/演奏は後です。

もしいま音楽教室が著作物の使用料を払わずに勝手に営利目的で演奏したり楽譜をコピーしたりしてるのが明白ならそれはただの犯罪ですから、いますぐ損害賠償請求と刑事告発をするべきです。著作権者の受託者たるJASRACはすぐにでも著作権者を守るために法的措置をとるべきでしょう。

ちなみにざっと見たところ、宇多田ヒカルさんの曲は「映画」「CM」「ゲーム」以外の利用については全てJASRACに窓口を委託していますから、今回の音楽教室の料金徴収も宇多田さんがツイッターで何を言おうが当然徴収されます。もし本当に営利目的の音楽教室に無料で使ってほしいなら、宇多田さんは上演権を全部JASRACから引き上げればいいだけですし、それはとても簡単にできます。そしたらみんな大手を奮ってバンバン使えるので、意外とレンタルや配信で回り回って儲かるかもしれません。他人のライブでカバーされる際の著作権契約を自分でやらないといけませんが、そこはソニー・ミュージックパブリッシングにぶん投げとけば、NOとは言わないでしょう。「やってくれないならユニバーサル・ミュージック・パブリッシングに権利移す」って言えば一発です^^。

それと宇多田さんは何故かアメリカのASCAP(米国作曲家作詞家出版者協会)の会員です。ですから、外圧としてASCAP経由でJASRACに対して委託者と個別の委託契約を結べるように交渉してみるのも面白いかも知れません。さすがに一人一人と個別契約だとJASRAC内でも収集がつかなくて現実的じゃないですが(笑)。

まとめ

本件は全面的にJASRACバッシングしている人が多いですが、営利目的で公衆に演奏する利用に対して料金を徴収するのは当たり前の話です。

あとはJASRACの想定/把握している今回の音楽教室における演奏が「公衆」かつ「営利目的」かどうかだけですね。

JASRACは原著作者から「信託」を受けています。「信託」には普通の「委託」と違い、顧客の利益を最大化する義務があります。ですから怠慢は許されません。法律上著作権を侵害していると見込まれる使用者とは、速やかに使用許諾契約を結び料金を徴収し、必要であれば裁判を起こさないといけません。

ただ、包括契約だけは本当に根拠不明です。たぶんJASRACを叩いている方も「音楽教室なんだからクラシックとかJASRAC信託曲以外のが多いんじゃね?」みたいなイメージが先行してると思います。私もなんとなくそんなイメージがあります。ピアノ・バイエルとか。音楽教室がいちいち著作者個人に許可を受けにまわっているとは考えづらいですから、普通なら著作権フリーのクラシックが多いんじゃないかと。ライブと同じ2.5%って言われると、ちょっとボッてる感はあります(笑)。でも実際にJASRACが信託曲を使われたと言っている以上は、本当に使われてるんでしょう。そしたら、その使用実態に則って個別曲ごとに粛々と利用料を請求し、過去分については裁判すればいいだけなんじゃないかと思います。

著作権まわりは大変面倒ですが、ざっくりの考え方は上に書いたとおりです。
個人的には是非、JASRACには大手音楽教室(ヤマハ? カワイ?)を相手に裁判して欲しいと思います。こういうのは裁判で白黒ハッキリさせないと絶対後で気持ち悪いことになりますから^^;

著作権は、著作者人格権と財産権に分かれており、人格権は問答無用で破ってはいけない。財産権は対価を払えば譲ってもらえたり許可をもらったりもできる。そう覚えておくと良いと思います。
よく「自分の曲を演奏してるのにJASRACにお金を取られる」と言っているミュージシャンがいますが、それは上演権をレコード会社/音楽出版社にすでに売っちゃったか、上演権をJASRACに委託する時に例外条項を付けなかった本人の落ち度です。もっとも、売れないバンドなんかがデビューの時に「財産権としての著作権」を有無を言わさずレコード会社に召し上げられちゃうって問題も別にあります。日本で昔からあるレコード会社と音楽出版社との資本関係問題ですね。ここに触れるといろいろヤバい話がいっぱいなので、それはまた別の機会に^^;

著作権はコンテンツ・ビジネスでは当たり前の基礎知識ですので、一度原文を読んでおいて損はないと思います。

追記

ちょいと某2ちゃんねるで「楽譜を買ってるんだからいいじゃんか!」「楽譜にも著作権料があって、演奏する時も著作権料を払うんじゃ二重取りだ!」というのを見かけたので追記いたします。

たとえば漫画を買ってきて、これをスキャンしてネットにアップロードしてバラ撒くとお縄になりますよね? だけどGoogleドライブにバックアップを取るためにアップロードするだけなら大丈夫です。

これはなぜかというと、漫画を買ったからといって「漫画という著作物」に対してユーザーが権利を取得したわけではないからです。「財産権としての著作権」に複製権がありますから、他人向けに勝手にコピーをつくる/つくらせると複製権侵害になります。上記漫画のケースだとネットワーク公開なので「送信可能化権侵害」も入ります。もし雑誌の早売りや日本未公開のアメコミだったりしたら「公表権侵害」にもあたります。さらにアメコミに勝手に日本語訳を付けていたら「翻訳権侵害」もつきます。賠償金がうなぎのぼりです(笑)

もちろん、勝手に自分でスキャンしてタブレットとかで個人的に見ている分にはまったく問題ありません。これは著作権法第30条の制限規定である「私的使用のための複製」にあたります。でもこれを非営利だろうかなんだろうが不特定多数にばら撒くと複製権の侵害になります。どこまでが「私的」なのかはグレーゾーンでよく揉めますね。家族はいいのか?離婚した嫁の再婚相手はいいのか?遠い親戚はいいのか?とかですね^^;これは裁判しないと分かりません。

これと同じで、楽譜を買ったからってその楽譜の著作権を貰えることにはなりません。買った楽譜でライブをするなら上演権に基づく契約が必要になりますし、宇多田ヒカルのCDを持ってるからって勝手にカバーアルバムを発売したらそりゃ当然に違法です。漫画だと誰でも「勝手にスキャンしてアップロードしたら犯罪だな」って分かるのに、なぜか音楽関連・楽譜だと急に感覚が変わる人がいるのは心理学的に面白い所です。もしかしたら「楽譜」→「演奏・歌唱に使うもの」→「演奏して当たり前」っていう固定観念があるからかもしれません。もちろんあくまでも「上演権」の対象となるシチュエーションが駄目なだけですので、家で勝手に弾いてる分には大丈夫ですし、ストリート・ミュージシャンでもお金を貰わない(※投げ銭もアウトです)ならまったく問題ないです。たまたま聞いてる人がいたとしても、ただの大きな独り言です(笑)。

たとえばツタヤに置いてあるレンタル用DVDは、レンタル事業に利用する為に「貸与権(※映画の場合は頒布権)」をクリアしてある(=著作権者と貸与権に関わる契約をしてありその分お金を払っている)高いDVDを使っています。中身が一緒だったとしても貸与権料が上乗せされています。これは図書館に置いてあるDVDなんかでも同様です。図書館用のDVDは「貸与権」と「上映権」がくっついた状態で販売されるものが多いです。その権利許諾料があるので、市販で3000円ぐらいのDVD作品でも、1万円ぐらいします。

冒頭の方は、たぶん「著作権」という一つの権利があると思ってしまってるんだと思います。これは「印税」という単語でくくられてしまうことからくる誤解でもあります。実際には著作権は複数の権利の複合体ですから、その一つ一つの権利に対してちゃんと許諾契約が必要です。極端な話ですが、例えば「”いい日旅立ち”を今度ライブで演奏します!」と言って「上演権」に関する契約を交わした人が、ライブで急に「いい日旅立ち~デスメタルVersion」を披露した場合、勝手にアレンジしたとして「同一性保持権」を理由に訴えられる可能性があります(笑)。あとは「上演権」の許諾だけをとってグッズとして歌詞掲載パンフレットを売っちゃったケースも当然アウトです。「上演権」と「複製権」はまったく別ですし、印刷物だと「出版権」というまた別の「複製権を独占できる権利(※ただし契約後6ヶ月以内の発売や重版など義務も負う)」もあります。ちょっと前のパーマ大佐の「森のくまさん問題」の歌詞変更なんかも「同一性保持権」を無視して勝手にアレンジしちゃったケースですね。和解おめでとうございます。

著作権は難しいですが、原理原則を把握すればすれすれの所以外はわりと納得しやすいと思います。

今回のJASRACの主張は、たぶん法的にも通ると思います。感情的に「JASRACが嫌い」っていうのは全然別の話です。

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