昨日はキムタク主演で「コケた」「コケた」と言われまくっている
「無限の住人」を見てきました。
評価:
– コスプレ・チャンバラ劇の快作【あらすじ】
時は江戸。逸刀流を名乗る超党派集団によって街の剣術道場が次々と破られていた。ある夜、いつものように稽古を終え晩御飯を食べていた無天一流統主・浅野道場の一人娘リンの元にも、逸刀流の道場荒らしが押しかける。目の前で父を殺され母を連れ去られたリンは、両親の復讐を誓う。
それからしばらくして、父の墓の前で稽古をしていたリンの元に、不思議なオババが現れる。「やおびくに」を名乗るオババは、リンに「絶対に死なない用心棒」を雇うよう勧める。その男は、人里離れた山小屋に住んでいるという、、、。
【三幕構成】
第1幕 -> 逸刀流の道場荒らしとリンの決意
※第1ターニングポイント -> リンが万次と出会う
第2幕 -> 逸刀流剣士達との戦い
※第2ターニングポイント -> 天津影久が伊羽研水の元を訪ねる
第3幕 -> 公儀軍vs天津vs万次
【感想】
ご無沙汰しております。きゅうべいです。最近例によってあんまりブログを書いていなかったのですが、今日はこの「無限の住人」について書きたいと思います。去年の「バットマンvsスーパーマン」もそうなんですが、やっぱりこうブログを書くモチベーションが一番上がるのって「こんないい映画がコケるのか!?俺が擁護したる!!!」っていう謎の親心なんですね(笑)。そう、本作はキムタク主演で「コケたコケた」「キムタク終了」「SMAPを裏切った報いじゃ!ざまぁみろ!」みたいなトーンで語られることが非常に多いように見受けられます。でもね、君ら本当に映画みたのかと。少なくとも「娯楽アクション映画」というくくりの中では、本作はすごくオーソドックスで基本に忠実に作られた「出来の良い映画」です。そんな所も含めまして、以下全力擁護で書かせていただきます。
それではいつもの注意書きを。以下、多大なるネタバレが含まれます。どんでん返しとかを期待するようなミステリー作品ではないですが、未見の方、これから見ようと思っている方はご注意ください。いやね、本心から映画館で見たほうがいいですよ。2時間半近くある長い映画ですがあっという間に終わります。マジでオススメできる作品ですので、是非是非、未見の方は打ち切り前に劇場に滑り込んで下さい。
まずは前提とお詫びから
もしかしたらキムタクファンの方が間違って当ブログに迷い込んでしまうかも知れないので(笑)、一応私の立ち位置をハッキリさせておきます。
「無限の住人」という作品については、漫画とアニメは完全に未見で前情報も劇場予告のみです。つまりほぼまっさら。「なんかキムタクがチャンバラして三池崇史が監督なんでしょ?」ぐらいの情報量です。そして、三池崇史監督にはだいぶ好意的な立ち位置であり、「愛と誠(2012)」でさえ「三池監督の悪ふざけならこんなもんじゃね?」ぐらいのバイアスをもってます(笑)。
一方のキャストに踏み込みますと、キムタクは例のSMAP公開処刑でハッキリ嫌いになりましたし、役者としての評価は織田裕二と同じ「大根・俺様・スターアイドル」の引き出しに入ってます。福士蒼汰にも杉咲花にも、まったく思い入れがありません。というか、敵役が福士蒼汰なのに全然気付かず(笑)、なんかこの人ガリガリ・ホネホネでキモいな、、、伊勢谷のそっくりさんの韓国人俳優かな、、、と中盤まで本気で思っていました。そのぐらいの大変雑な感じです。
そんなわけでありますから、もし「キムタク格好よかった~!」「福士キュン最高!!!!」みたいなテンションの方はそっとブラウザを閉じてあげて下さい。以下「キムタクをうまく使えてたよ!」という話はしますが「演技が上手かった」的な話はありません。申し訳ございませんがご容赦下さい。
コスプレ時代劇としての説得力の出し方
さて、ここからが本題です。この作品は厳密には時代劇というよりチャンバラ劇です。ハナから「斬られても斬られても死なない男の話」っていう時点でホラー・ファンタジー要素全開ですし、開始早々の金子賢軍団vsキムタクや、道場破り=逸刀流揃い踏みの絵面が安全にコスプレ劇です。さらに話し言葉も軽い現代調ですし、武器にいたってはヘンテコな形状のものばかりです。ですから、これは相当頑張らないと説得力=リアリティが出せません。ただのデキの悪いコントになってしまいます。たぶん未見で本作を叩いていた方たちは、そういう「コスプレ時代劇」を想像していたんだと思いますし、実際に私も見る前は「どうせコスプレものでしょ」と思ってました。
ところがどっこい、、、、本作はそういったセリフや見た目といったキャラの軽さ=薄っぺらさに説得力を出させるために、とてつもなく気を使っています。わかりやすい所でいうと、いわゆる人体損壊の「グロ描写」です。「三池崇史=悪趣味節」として語られることも多いですが、コスプレ時代劇できっちり血や千切れた手足を見せるのは、それだけで十分にリアリティに貢献します。ちなみに、よく見てると同じ手首を切られるシチュエーションでも血が出る場面と出ない場面を使い分けていたりして、極力グロくならないように気を使っているのがわかります。「見た目はチャラいけど、中身は真面目なんだよ」ってことですね。さらにさらに、アクション動作一つとってもよく出来ています。本作の万次は、いくつかの武器を持ち替えながら大集団を叩きのめしていきます。その際、従来の殺陣のように「叩き切る」のではなくて「撲殺」していくんですね。日本刀は2~3人切っただけでも刃先がナマって切れなくなりますから、この「撲殺」描写はとてもリアリティがあります。殺陣の様式美ではなくて、アクションチャンバラとしての説得力に振り切ってます。実際には今からキムタクに殺陣を一から教え込むのは無理だからってのもあるんでしょうが、この選択はとても良いです。加えて、チャンバラの終盤になって疲れてくると、武器を肩に担ぐ時に「よっこらせ」って感じで背筋と振り子の反動を使ってゆっくり担ぐんですね。こういった細かい仕草・演出によって、絶妙なバランスのリアリティラインが保たれています。実際にはチャンバラの途中で急に袖から大きな武器を出したりしていて「四次元ポケットかよ!」みたいなツッコミは有るんですが、勢いがあるためそこまで気になりません。
この辺のバランス感覚は、久々に本気の三池崇史を見た気がしました。
いかに不死のヒーローを「無敵」と見えなくするか
ストーリー面で言いますと、この作品の万次は「死なないヒーロー」であり、それってつまり「セガール映画」的に大暴れできるってことなんですね。無敵のヒーローにピンチもヘッタクレもないですから、本来であればキムタクが格好良く暴れまわるだけの完全アイドル映画になっても不思議ではありません。ところが、この作品では「死なないヒーロー」=「命のやり取りの緊張感がない」=「剣の腕が鈍っている」という論理展開でもって、万次が弱いんです。これってプロレス的には非常に需要な要素です。ヒーローサイドの秘密兵器である「肉を切らせて骨を断つ」「ピンチからの大逆転」を毎試合出来ることになります(笑)。これは発明だと思います。実際、本作のチャンバラは毎回「必死剣・鳥刺し」を出しているようなもんです。反則じゃねぇか(笑)。
さらに序盤で同じ不死能力をもった海老蔵を殺すことで、「弱いだけじゃなくて万次が死ぬ可能性もちょっとはあるぞ」という実例を示し、かつ理由はよく分かりませんが「戦いを重ねることで回復に時間がかかるようになる」という演出も入ります。これによって、中盤以降にリンが万次を気遣い始める描写がすんなりと入ってくるようになります。
ご都合主義の積み重ねと言ってしまえばそれまでですが、アクションの勢いと相まってものすごくテンションを上げてくれます。
終盤のぐちゃぐちゃっぷりだけが惜しい
とまぁ以上のように、本作はとても良くできています。ただ、それが終盤の市原隼人が出てきた辺りから収拾がつかなくなっていきます(笑)。具体的には「リン・万次の復讐劇」と「幕府による逸刀流壊滅作戦」が同時並行で進みはじめ、さらに共通の敵として共闘すること無くリン・万次組と幕府軍まで対立し始めちゃうんですね。そしてこの混乱が戸田恵梨香扮するマキエの登場でピークを迎えます。そう、この映画の悪いところを一身に背負わされたのは、実はキムタクではなく戸田恵梨香です。可哀想に、、、、。
マキエは、仇役である天津影久の人間性を補足する役として登場します。でもね、(漫画はわかりませんが)この映画において天津影久にそんな補強はいらないんですよ。天津影久は爺さんの逆恨みを晴らすために復讐鬼となった狂気の剣士であり、「復讐ばっかり考えてるとロクな大人にならないよ」というリンへの反面教師なんですね。だから、こいつはとことん利己的で、他人になんて全然興味も感慨も無くて、ひたすら野心と復讐心だけで突き進む「冷たい人」が似合ってます。その点で、福士蒼汰のちょっと浮世離れした無表情な感じがとても良くマッチしてましたし、闘争心をむき出しにして戦う粗野な万次と上手く対比できてるんです。余談ですが、その意味でキムタクにとっても万次役は最高でした。万次は基本的にはただ唸って剣を振り回しているバーサーカー的な役柄でOKですからね。
この天津にマキエというサポーターが現れ、さらに罠にはめられることで中途ハンパに人間味がでてしまい、悪役っぷりがヌルくなっちゃったのは否めません。どっちらけになる万次vsマキエ戦での自分語りと相まって、戸田恵梨香は完全にババを引きました(笑)。三節棍みたいな武器は良かったんですけどね。そこにきて最終バトルで急に天津と万次が共同で公儀軍を倒すみたいな謎バトルが勃発しちゃうもんですから、「結局、天津とはなんだったのか」みたいなよくわからない事態になってしまい、エピローグの一騎撃ちを盛り下げる要因になってしまいました。シラの乱入も明らかに蛇足ですしね。エンドロールに「脚本分析」でクレジットされてる方がいたのでスクリプトドクターを入れてるっぽいんですが、「リンの復讐劇」っていう一本筋だけは死守したほうが良かったように思います。
ちなみにこの終盤の大乱闘を見ていて一番頭に浮かんだのは園子温監督の「地獄でなぜ悪い(2013)」でした。「こまけぇことはいいんだよ!祭りじゃ!!!」みたいな勢いだけで乗り切ろうとするのがそっくりです(笑)
【まとめ】
久々にブログを書いたら纏まりきらなくなってきました(笑)。もしまだ「無限の住人」を未見で、しかもその理由が「キムタクがウザいから」という人は、是非レンタルが始まったあたりで騙されたと思って見てみてください。この映画、キムタクという”アク”を完璧にコントロールしています。ツイッターにも書きましたが、こういう中身がちゃんとしている映画がワイドショー的な要素で消えていくのはなんとも寂しいものが有ります。直近で言えば「暗黒女子(2017)」なんかもそうです。不倫して新興宗教に出家しちゃった人が出ていることと、映画の出来とは関係ないですからね。
ということで、本作、大プッシュで映画ファンにおすすめしたいと思います。