昭和の日の2本目は
「八日目の蝉」です。
評価:
– 永作の狂気と母性全開のロードムービー【あらすじ】
秋山恵理菜は生まれてすぐに父の不倫相手の野々宮希和子に誘拐された。4歳の時に希和子が逮捕され実の両親の元に戻ったものの、結局両親とも上手くいかず、自身も大学に入って不倫に走ってしまう。そんな時、彼女のアルバイト先に千草と名乗るジャーナリストが現れる。彼女は恵理菜に誘拐されていたときの様子を聞き出そうとする。徐々に記憶を辿っていく恵理菜は、やがて希和子との”親子関係”を思い出していく、、、。
【感想】
昨日の二本目は「八日目の蝉」を見てきました。GWではほぼ唯一の邦画大型作品ですので、結構お客さんが入っていました。原作は角田光代。1993年の「日野OL不倫放火殺人事件」を元ネタにアレンジしたサスペンス小説です。去年一度TVドラマにもなっていたようですが、私はこちらはノーチェックでした。
本作の概要
さて、本作は非常に説明しづらい内容になっています。内容を簡潔にいうと、「子供の時に起きた事件で親の愛情を知らずに育った女性が、自分が妊娠したときに不安を覚えるが、過去と向き合うことで実は親の愛情を受けていたことに気付く。」という話しです。
でまぁそんな感じの話ですので、倫理的には相当きわどいことをやっています。ただ、本作では昨年の「悪人」と違ってかなり丁寧に描写を積み上げていますので倫理的な問題や描写としての不自然さはそれほど感じません。
本作は開始早々、裁判での秋山恵津子(実の母親)と希和子の供述から始まります。ここでハッキリと希和子が反省していないことと、そして恵理菜に感謝をしていることが告げられます。本作はすべての事件が終わった後に大学生になった恵理菜が回想をちょくちょく挟む形で進行していきます。そこで展開されるのが、恵理菜の家庭事情と希和子と恵理菜の逃亡生活です。
かなり序盤の段階で丈博(恵理菜の父)がいかに最低かという部分と恵津子がかなりのヒステリーかつ娘との関係でどんどん精神的に病んでいく部分が語られ、その一方で希和子には同情的に肩入れしていきます。希和子は堕胎により子供が産めなくなり、そして不倫相手の嫁からは罵倒され、ふらっと侵入した秋山家の中でたまたま赤ん坊の恵理菜を見つけて攫います。そして恵理菜に堕胎した娘につけるはずだった薫という名前を付けて実の娘として育てます。
本作のタイトル「八日目の蝉」については劇中で2回ほど言及する部分があります。一度目は夜の公園で恵理菜と千草が語り合う場面。ここでは「普通は一週間で死ぬのに八日目まで生き残ってしまった蝉はさみしい」という説明があります。そして終盤、今度は原っぱに寝そべってやはり二人が語り合う場面です。こちらでは千草が「とはいえ、八日目まで生き残った蝉は、きっと普通の蝉が見られなかった世界が見えたんだ。」と幾分かポジティブな解釈がなされます。
これは微妙に作品のテーマとはずれますが、おそらく希和子の事だと思われます。普通なら不倫がバレて子供が産めない・男不信という最悪な状態で終わるのに、そこから不倫相手の子供を攫ってしまったことで強烈な母性が目覚め、希和子は4年間だけ幸せな時間を送ります。それは希和子にとっては堕胎した娘とすごすはずだった時間の穴埋めであり、非常に利己的・自分勝手な行為です。というか犯罪ですし。
本作において、恵理菜は自分が忘れたと思っていた「育ての親」である希和子と境遇が似てくることに焦りと不安を感じています。自分も希和子と同じように妻子持ちのダメ男と浮気をし、そして希和子と同じように妊娠し、希和子と同じように男からは「今は生まないで欲しい」といわれてしまいます。そんな状態の中で、彼女は唯一の友達となった千草と共に自分のルーツを探る旅にでます。希和子の逃亡生活を追体験するように、恵理菜と千草は旅をし、そしてその土地々々で思い出を取り戻していきます。その思い出が遂にすべて戻ったとき、彼女は自分の境遇に折り合いが付くようになるわけです。
本作の良い所
ということで、本作は二重のロードムービーとなっています。
一つは「希和子と薫の幸せな親子の日々」
もう一つは「恵理菜と千草の自分探しの旅 a.k.a トラウマ克服話し」
このどちらもかなり面白いのですが、やはり尺のボリュームからしても話しの構造からしても、前者の「希和子と薫」の方が圧倒的に面白くなっています。こちらはただひたすら本当に何気ない日常を淡々と描いていきます。ちょっと舞台が某ヤ○ギシ会っぽいカルト・コミューンだったりしますが、そこで行われる親子関係は至って普通のものです。そして舞台が小豆島に移った後はより一般的なノスタルジー描写になっていきます。それは例えば「歩いても 歩いても(2008)」を見て泣いちゃうのと同じような、なんのドラマ性も無いノスタルジーの中にちょろっと見える怖さを魅力として見せてくれます。そして最後には本当に反則的な超ウェットで真っ正面な親子愛をド直球で見せてきます。ものすごいあざとく、感じ悪い演出なのですが(苦笑)、泣いちゃうのが人情ってもんです。「なんじゃこの監督、こんな甘ったるいことしやがって!!!!」と怒りながら顔は泣いてますw
後者の「恵理菜と千草の自分探しの旅」については正直な話しそこまで絶賛するほどとは思えません。一応「親子愛の認識・再確認」というのがこちらの主題なのですが、肝心の千草側の事情については具体的にはほとんど語られませんし、恵理菜についても「希和子に誘拐されていた4年間は実は幸せだった」という劇場予告でも分かる部分を受け入れるかどうかという話しになっています。結局実の両親との関係がどうこうなるわけではありませんし、希和子とどうこうなるわけではありません。正しい意味での「自分探し」だけです。そういう意味では本作はサスペンスでは無く、ジャンル的には「人間賛歌/ヒューマンドラマ」です。「人生はいろいろあるし良い事も悪い事もあるけど、でも最高!!!!」。演出のあざとさとか井上真央と劇団ひとりがダメダメだとか不満はありますが、でもここまでちゃんとやられたら褒めざるを得ません。いや面白いです、本当に。
演技はアレですが、井上真央と永作博美が顔がすごい似てるんです。目の感じですとかアゴ周りですとかそっくりです。この時点でたぶんキャスティングは大成功だと思います。
相変わらず怪演を見せてくれる永作博美はすばらしいです。この人の魅力はギョロッとして分厚いクマのある引っ込んだ目だと思います。結構危ないことを書きますが、時折ちょっとヤ○中に見えるんです。この「童顔でかわいいんだけどちょっとイッっちゃってる感じがする」のが永作博美の最大の魅力です。ちょいちょい狂気がちらついて、優しそうなのに結構怖いんです。本作でもその狂気性がそのまま母性の爆発に繋がっていきます。それが完全に物語とリンクしているので、ものすごい説得力があるんです。本当いい役者です。「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」の時と同じような怖さがあります。
井上真央もいままでより明らかにちゃんとした役で(←失礼)、それに本気で取り組もうという姿勢が見えて大変好感が持てます。芸歴は長いのにまだ「これは井上真央の役」みたいな得意技がありませんが、何かハマリ役やゴリゴリに追い込む監督に出会ったら化けるような雰囲気はありました。「ダーリンは外国人」の汚名返上傾向です。
【まとめ】
正直まったく期待しないで見に行きましたし、ぶっちゃけた話し上映時間の都合で「キッズ・オールライト」から「八日目の蝉」に見る物を変えたぐらいノーマークでした。なんか中島美嘉の大仰なテーマソングといい、予告といい、安い泣き脅し映画の匂いをビンビン感じます。実際泣き脅し気味なのは否めませんが、でもちゃんとした泣き脅しです。素直に面白い作品でした。
手放しで大絶賛!って感じではないですが、今年だと邦画の「白夜行」とためを張れるくらいの作品だと思います。拡大ロードショー中ですので、なにか別の映画を見に行ったついでにでも見ていただくと結構満足感が高いのではないでしょうか? 原作をかなりバッサリ整理していて、間違いなく原作よりもスマートになっています。とりあえずGWになにを見るかで迷ったら押さえておくと良いでしょう。オススメです。
私も観てきました。テレビドラマ「MOTER」を彷彿とさせるような内容でした。
観る前の期待度もとても大きく、最初から最後まで泣き通しでした。
希和子はとても愛情深く、献身的で、自分の身を徹して薫を守ります。
でも、それは見方を変えれば自分勝手な行動で、薫だけでなく自分の保身のためだとも言えます。ストーリー的に、希和子があまりにも美化されているからでしょう。
一方、父親の存在があまりにも薄かった事、
そして、本当の母親である悦子の苦悩の描写が足りなかったのも気にかかりました。
たとえば、悦子側からのストーリー展開もまたアリかなという気がします。
とにかく、音楽と映像がとてもよく重なり、何度も観たいと思わせる感動作でした。
早速ご対応下さり、ありがとうございます!!
いやー、かなり見てるんですね。今後も、参考にさせて頂きます!
見るなら、このブログで高得点の作品をまず見たいんですが、
得点別のインデックスとか、インデックスに得点も表示されると
尚、嬉しいです。。(^^+)
すみません、要望ばっかりで。。
でも、本当にご対応、ありがとうございました!!m(_ _)m
ご感想がとても、秀逸です!ぜひ、サイト内検索か、アップされた映画をすぐ検索できるような(題名のあいうえお順など)仕組みをお願いします!!
鋭く、的確な批評で、とても参考になります。これからもよろしくお願いいたします。m(_ _)m
八日目の蝉/子を持つ親として
八日目の蝉2011年/日本/成島出失われた4年間を取り戻す旅。
あらすじ:不倫相手の子供を中絶した野々宮希和子(永作博美)は、本妻である秋山恵津子(森口瑤子)が生んだ赤ん坊を盗み、逃亡する。希和子の不倫相手は、恵理菜の父、秋山丈博(田中哲司)である。希和?…
グランハイアットの一階の茶店でプライベートの永作博美(一人でずっと煙草をふかしていた)を間近で小一時間見てたのですが、その時感じたある種の恐怖感が、「ヤク中」というワードで今、腹落ちしました。やってるかどうかの真否はさておき、いっちゃってるのは確かです。いゃぁ、映画からそれを読み取る観察眼が本当にすごいです。