イヴ・サンローラン

イヴ・サンローラン

今月の映画の日の1本目は

イヴ・サンローラン」を見ました。

評価:(50/100点) – NHKでやりそうな良質なドキュメンタリー。


【あらすじ】

2008年6月、戦後フランスのみならず世界のファッション界を支えたイヴ・サンローランが亡くなった。このドキュメンタリーは50年に渡ってサンローランの恋人であり親友であり右腕であったピエール・ベルジェの口を通して語られるイヴの生涯と、そして彼との思い出が詰まった美術品の数々との別れの話しである。


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【感想】

今月の1本目はドキュメンタリー「イヴ・サンローラン」です。
ご存じ「YSL」が重なったロゴでお馴染みの20世紀後半のファッションを支えた重要人物、イヴ・サンローランをしのぶ物語です。とはいっても、何か劇的なドラマが待っているわけではありません。生涯イヴを支え続けたピエール・ベルジェを通じて語られる彼との静かな思い出の話しです。
大変勉強になる話しですので、公開が終わった後のDVDでも良いので見ていただいた方が良いと思います。
本作はフランスの国営放送が作ったドキュメンタリーで原題は「L’Amour Fou」です。これは「狂ったような愛」の意味です。その名の通り、本作ではピエール・ベルジェの超人的なまでの献身と、そしてサンローランの極度の鬱病を患いながらもファッションに没頭していく狂気性が静かに語られていきます。あんまりここでどうこう書くような内容の話しではありませんので「とにかく見て」としか書けないのですが(苦笑)、それで終わるのも何なのでここでは本作では語られない(=フランス人にとっては当たり前すぎて今更説明不要な)サンローランの立ち位置を書きたいと思います。

現在のファッション業界の仕組み

サンローランの功績を一言でいうと「貴族のものだった”おしゃれ”を大衆に下ろした」ということに尽きると思います。これを説明するために、そもそものファッション業界の成立の仕方を見てみましょう。
今のファッション業界の流れは以下の様になっています。
1. 有名デザイナーが新作を「コレクション」として発表する。
  (およそ年2回/ここは全てオリジナルもの)
2. コレクションの新作をオーダーメイドで金持ち向けに売る。
3. コレクションを大衆向けのサイズにアレンジしてコピーを作り世界中の直営店にならべる。
4. 有名ブランドのコレクションをパクッたデザインを中小のブランドが作りそこそこの値段で量産する。
   (だいたい2~3年遅れ/ここがいわゆる流行)
5. さらに中小のブランドが作った商品をパクってファーストファッションがさらに安値でばらまく。
だいたいこういう流れです。コレクションが発表されてから大衆服になるまではだいたい3年程度はかかります。例をあげましょう。
今年(2011年)の春の女性向けは花柄が流行ると言われていました。
参考): 夢のあるカラフルな色に注目!2011年流行色
これは4年前のパリコレクションの春夏モデルで発表されたものに由来しています。
参考): 読売オンライン:2008春夏パリコレクション…花柄 エコの合言葉
こういう風にファッション業界には明確なヒエラルキーがありまして、有名ブランドのコレクションで発表された物が時間を掛けて大衆に下りていくシステムになっています。ですので、たぶん来年の春にはユニクロやH&Mには花柄が一杯並んでいるはずです。

オートクチュールとプレタポルテ

上記で言う1番と2番の項目のことをファッション業界では「オートクチュール」と呼びます。「オートクチュール」は「オーダーメイド」とほぼ同じ意味です。つまりお金持ち向けの一点モノです。サンローランの師匠にあたるクリスチャン・ディオールもオートクチュールでしたし、基本的にサンローラン以前のファッションブランドは皆オートクチュールをメインにしていました。
ところがサンローランは自社ブランドを作ってわずか4年後には早くも「イヴ・サンローラン リヴ・ゴーシュ」という量販用(=プレタポルテ)の直営店を立ち上げます。そして軍服だったトレンチコートを一般向けにアレンジして売り出したり、当時の”現代絵画”だった抽象画家のモンドリアンの絵をそのままワンピースにのせたり、奇抜なアイデアで大衆向けの服をデザインしていきます。これらは完全に既製品で、色やサイズを複数展開したいわゆる「つるしの服」です。当時はそこまで「大衆服」というカテゴリはありませんでした。クリスチャン・ディオールやシャネルは貴族や金持ちしか買えない服でしたし、そもそも普通の人は「服にお金を掛ける」という発想がありませんでした。そこにサンローランは「デザインが同じだけど色やサイズがいろいろあるコピー品」を売る商売を始めるんです。これはサンローランの革命でした。
ところが結局2001年に「イヴ・サンローラン リヴ・ゴーシュ」はグッチに買収され、それがきっかけでサンローランは引退します。この引退会見が本作の冒頭に流れるものです。この会見にはかなり恨み言が入っています。ここで大事なのはグッチは元々デザイナーが立ち上げたブランドではなく、今で言うセレクトショップだったという点です。つまり「小売店」です。サンローランが作った「大衆に向けて服を作る」というビジネスが「小売店」を生み、そしてそのビジネスモデルの成功により市場が拡大した結果、アイデアの生みの親であるサンローラン自身のブランドが「小売店」に乗っ取られちゃったということなんです。自分が作ったビジネスに自分が喰われてしまうという皮肉な展開です。ですから、イヴ・サンローランの死というのはファッション業界にとっては本当に象徴的な出来事なんです。
現在のファッションは戦前の様に再び極端に2極化しました。いわゆるハイファッションと呼ばれる1着数万円の世界と、1着数百円からなるファーストファッションの世界です。日本で言えば「百貨店御用達ブランド」みたいな中間の市場がごっそり抜けてしまっています。身近な所で言うとワールドとかマルイ系の苦戦ですね。そしてこの中間層はまさしくサンローランが作った市場だったんです。
いまイヴ・サンローランのドキュメンタリーを見るというのは、彼の功績とファッション市場の移り変わりを考えることに繋がります。
ということで大変勉強になる映画ですので、是非劇場じゃなくても良いのでご覧下さい。オススメです。

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