半分の月がのぼる空

半分の月がのぼる空

今日は

半分の月がのぼる空」です。

評価:(100/100点) - 単なるお涙頂戴では無い、難病ものの大傑作。


【あらすじ】

裕一は肝炎で入院している。ある日夜中に抜け出した罰として、看護婦の亜希子から一人の少女・里香の友達になるよう頼まれる。しぶしぶ了承した裕一だったが、次第に彼女に魅かれていく。彼女は心臓に穴が開く重病で病院を転々としており、生きる希望を失っていた。
一方、元心臓外科医の夏目はかつて妻を助けられなかったことに絶望し内科に転属していた。彼の元に院長から直接、心臓に穴の開いた少女の手術を行うよう依頼が来る。自身の体力を理由にこれを固辞する夏目だったが、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 裕一と里香の出会い。
 ※第1ターニングポイント -> 砲台山での告白。
第2幕 -> 裕一と里香の恋愛。
 ※第2ターニングポイント -> 裕一の退院。
第3幕 -> 終幕。


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【感想】

本日の1本目は「半分の月がのぼる空」です。まったく前知識を入れずに見に行ったので、ラノベの原作やアニメの存在はまったく知りませんでした。見終わってwebを見た限りだと原作ファンにはあまり好評では無いようですが、私は大傑作だと思います。
このブログでは去年の10月終わりから5ヶ月で104本の映画について色々書いてきました。その中で満点を付けたのはたったの1本、サム・ライミ監督の「スペル」のみです。今、私は再び満点をつけるに値する作品を紹介できる喜びを噛みしめつつ、そしてどこまでネタバレしていいのか怯えつつ(笑)、この大傑作を紹介させていただきます。断言しますが、「難病もの」というジャンルの中で本作を越える作品はしばらく期待できないでしょう。
文句なしの大傑作です。

作品のストーリーとテーマについて

本作はボンクラな高校生の裕一と、難病と闘うツンデレ美少女・里香の出会いから始まります。余談ですが、この”ツンデレ”という要素が非常に類型的な描かれ方をしているため、最初は正直ちょっとオタク臭い作品に見えました(←ラノベなんで仕方ないんですけどね)。里香は冷たい態度で裕一をパシリとして使い倒します。ある日、友達からの「好きな女の頼みなら何でも聞いてやれ」というアドバイスを真に受け、裕一は夜の病院を抜け出して里香を砲台山に連れて行きます。そこでの里香の独白と裕一からの告白を機に、二人の中は急接近、見ているこっちがニヤニヤしっぱなしになるような甘酸っぱい青春恋愛模様が展開されます。そしてここから「ツンデレ少女」と「難病もの」というアクの強いストーリーが、完全に類型的な形で展開していきます。はっきり言ってベタベタすぎる展開でちょっと中だるみしますが、忽那汐里のアイドルパワーで物語を持たせます。そして、第二幕の終了と同時に物語はあり得ない方向に急展開し、観客の目の前に本作の真のストーリーが放り出されます。
このストーリーが見えた途端、本作の脚本構成のあまりの見事さが浮き彫りになります。
私はこの瞬間、夏目がアパートである行動をする瞬間から、約20分間泣きっぱなしでした(笑)。仕方ねぇ~じゃんかよ!!!(逆ギレ)。こんなもん見せられたら泣くわ、普通(怒)。
ネタバレぎりぎりですが、本作は「絶望に沈む男が、亡き妻との思い出を胸に秘めて復活を果たす」話です。
おじさんはもうすぐ30歳なのでこういうのに弱いんですよ、、、。

演出と脚本の妙

開始してすぐに、私は画面のあまりのフィルムグレインの多さにちょっとびっくりしました。特に屋上で裕一と里香が初めて会うシーンや夕方のシーンは空がちょっとモアレを起こすほどのフィルムグレインの量です。そして、忽那さんの顔の輪郭がぼやけるほどソフトフォーカスを掛けています。ところが、ある場面以降、このソフトフォーカスが取れてフィルムグレインも減り、かなりシャープな画作りに変わります。観た方には分かると思いますが、コレが本作の叙述トリックを演出面からサポートしています。
そしてなんと言っても脚本面では2つのエピソードです。
1つは当然、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」です。「銀河鉄道の夜」は最初は里香と里香の母との関係性を象徴する物でした。それが段々と里香と裕一をつなぐ絆の象徴になっていきます。そして終盤、ついに裕一と里香との絆そのものに変わるわけです。この展開は本当に素晴らしいです。これこそが正しい伏線の張り方です。
もう1つは、夏目と裕一の関係性です。裕一は、院長が「体力的にもう長時間の手術は出来ない」という理由で里香の手術を断ったことで、離ればなれになる危機を迎えます。一方の夏目は、「精神的に手術はもう出来ない」という理由で手術を固辞します。この二つの境遇がシンクロした瞬間、彼らの目の前に真実が浮かび上がってきます。要はこのエピソードに気付いた時、夏目が自身を見つめ直すきっかけになるわけです。この構成は絶妙です。

子供の頃に嫌だった大人に自分自身がなってしまった事に気付いた瞬間、夏目は絶望から立ち上がる決意をするわけです。そしてかつての自分が一番必要とした大人になるために、思い出の場所で亡き妻に謝罪をします。先に進まないと行けないから悲しむのはこれ限りにする、ゴメンと。忘れるわけじゃないけど、自分は必要とされているからやらなくちゃと。

号泣に決まってるでしょうが!!!(笑)
しかもですね、本作はお涙頂戴ばかりではなくきちんとギャグも挟んでくるんです。文化祭の演劇なんてシチュエーションコメディとして面白いですし、悪友と部屋に集まって彼女自慢したり馬鹿話したりするのも凄く懐かしくって微笑ましいです。学生で時間もてあましてる時ってあんな感じです。
あと、これは少し余談ですが、忽那さんの顔にきちんとニキビの化粧(?)をしていた(orニキビを化粧で隠さなかった)のは正解だと思います。10代の上にロクに風呂も入れない入院患者なんですから、顔は多少不潔なんですよ。この辺りをきちんと描いているのは素晴らしいと思います。

【まとめ】

本作はあまりに第二ターニングポイントでの叙述トリックが凄すぎて、そこだけで全部持って行かれてしまうような部分があります。しかし、第二幕までの難病もの青春恋愛映画という部分も本当に良く出来ています。なにせ「甘酸っぱさ」のツボがよくわかっていますし、病気を小道具ではなく場面転換のリミッターとして描いています。青春映画では絶対必要な若い男女が力の限り走り回る描写ももちろんあります。青春映画としても、恋愛映画としても、そして男の復活劇としても、文句の無い完璧な出来です。
自信をもってオススメします。
劇場に行ってきんさい!!!必見やろ!!!

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