二本目は
「アイガー北壁」です。
評価:
– 物語の因果律を粉砕する大自然の驚異。【あらすじ】
時は1936年。ベルリンオリンピックを二週間後に控えたドイツでは、アルプス山脈にある前人未踏のアイガー北壁が話題となっていた。アイガー北壁を初登攀した登山家は五輪会場で表彰を受けるという栄誉が与えられるのである。多くの登山家がアイガー北壁にチャレンジしようと麓に集まるが、その中に二人の若者がいた。トニー・クルツとアンディ・ヒンターシュトイサーである。これは2人のドイツ人が前人未踏の断崖に命がけで挑んだ、壮絶な死闘の記録である。
【三幕構成】
第1幕 -> ルイーゼの取材。
※第1ターニングポイント -> トニーとアンディがアイガー北壁挑戦を決め麓へ向かう。
第2幕 -> アイガー北壁登攀。
※第2ターニングポイント -> ヴィリーが重傷を負い、登攀を断念する。
第3幕 -> 引き返し道。
【感想】
二本目は「アイガー北壁」です。私は不勉強にして知らなかったのですが、50歳以上の登山家の方々にはかなり有名な事件の映画化です。公開館が少ないこともあるのでしょうがかなり観客が入っていました。
2人の友情厚い男が命を賭けた挑戦。そして麓で帰りを待つ愛する女性。荒ぶる自然とストイックなまでにヒリヒリとした緊張感ある画面構成。文句無しの傑作です。
本作では劇中何度も、お約束のように伏線めいたものが張り巡らされます。そして事あるごとにその「劇映画的な予定調和・因果律」があっさりと大自然に捻り潰されます。しかしそこにあるのは思い通りにいかないフラストレーションや悔しさではありません。その圧倒的なまでのパワーにただただ圧倒されそして為す術もない人間達が映し出されます。手に汗握る緊張感とどうしようもない無力感。かすかに見える希望とそれが閉ざされる絶望感。本作にはあらゆるサスペンス要素が完璧なまでに詰め込まれています。あっという間の120分の後で、畏怖や感動を与えてくれる映画です。
観客はルイーゼと一緒にペンションで待つしかありません。ルイーゼは暖かい暖炉の前で、我々は手の出しようがないスクリーンの前で、凍える北壁に挑戦する男達を見守るわけです。そこに映し出されるのは感情を剥き出しにして命を削る男達の戦いです。
とまぁ絶賛モードなんですが、一点だけ微妙にひっかかる部分があります。それはオーストリア人の描き方です。登山史に明るくないためもしかしたら史実なのかも知れませんが、本作においてエディとヴィリーのオーストリア隊は最低な奴らとして描かれます。トニーが独自のアイデアで引いた登攀ルートの後を尾いてきて盗みますし、アンディが歴史的なトラヴァース(横渡り)で作った渡り綱を勝手に利用したりします。そして雪崩で負傷して勝手にドイツ組に合流したあげく、足手まといになり続け終いにはドイツ組の夢を壊します。全部おまえらが悪いと言わんばかりの展開でして、ちょっとどうかと思いました。またペンションにもオーストリア人と思われる夫婦が泊まっているんですが、男の方が登山にまったく無関心で、結構嫌な奴に描かれます。政治的な意図は無いのでしょうが、ちょっと気になりました。
【まとめ】
山岳映画といえば、昨年日本でも「剱岳」がありました。「剱岳」は登山描写に関しては根性一発で風景映像のみ楽しむようなところがありましたが、本作ではその心理状況からロジックの部分までとても丁寧に描かれています。ヒューマンドラマとしてみても、スポーツドラマとしてみても、文句無しの大傑作です。おそらく山岳映画としては10年・20年経っても語り継がれる類のマスターピースになるでしょう。
全映画ファン必見の作品です。オススメです!!!