HELLO WORLD

HELLO WORLD

久々の一本はこのアニメ映画

「HELLO WORLD」です。

評価:(85/100点) – これがセカイ系リバイバルへの最終回答だ!


【あらすじ】

本が大好きで内気な高校生・堅書直実は、ある日不思議なカラスと出会い、さらにそのカラスを追いかけた先で不思議な白服の男が突如空間から出てくるのを目撃する。男は未来の直実だと名乗り、この世界は作り物だと語る。そして不遇の事故により亡くなった恋人を、せめて作り物の世界でだけでも幸せにしたいとして直実に協力を強いる。かくして直実は、「同じ図書委員の一行瑠璃さんを口説きつつ来たるべき事故から命を救うという」という無茶なミッションを遂行することになった

【三幕構成】

第1幕 -> 直実とナオミの出会い
※第1ターニングポイント -> ナオミからミッションを言い渡される
第2幕 -> 直実の恋と夏祭り
※第2ターニングポイント -> 一行さんが連れ去られる
第3幕 -> 一行さん奪還大作戦


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【感想】

さてさて、大変ご無沙汰しております。きゅうべいです。たしかバットマンvsスーパーマンの時に「ブログを書くモチベーションは面白い映画が埋もれるのが嫌だから」的な話を書いたと思います。いま、まさにそんなテンションです。私がなんの変哲もない新海フォロワー風のセカイ系映画(失礼)をわざわざ書くのは、つまりそういうことなんですね。いま滅茶苦茶にテンションが上がってます。

なんでこんな面白い映画がコケるんだ!(※まだ公開3日目でコケたか知りませんが(笑))

この映画、はっきり言って宣伝というかルックがあまりにも微妙です。予告でもなんかマネキンみたいなキモいCGキャラがミニョミニョ動いてますし。でもですね、これマジで面白い。ほんと見た目で損してます。
この映画は一言で言うと「SFオタクがロマンスSFというジャンル映画を全力で作って、大量のエッセンスをぶち込みまくったお祭りのような映画」です。

この楽しさをぜひ見て体感してほしいですし、あわよくば、過去の名作ジャンル映画たちをガンガン見直してほしいです(笑)。

そんなわけで早速本題に行きます。

例によってここから先は多大なるネタバレと私の脳汁垂れまくりな妄想のオンパレードです。まだ見ていない方、正解を知っている関係者ならびに監督・脚本家の方はお気をつけください(笑)。

はじめに

いきなり確信から突きますが、本作はスパコンの中のバーチャル世界が舞台の映画です。そしてそれは一幕目ではっきりと明示されます。まぁそれが厳密には嘘だというのがこの映画の肝なんですが、そこを語るのは後にとっておきましょう。

本作はバーチャル世界の住人「堅書直実(かたがきなおみ)」を主人公にして、上位世界からやってきた未来の自分「カタガキナオミ」から与えられるミッションをこなすという構造になっています。

例えばマイケル・ベイの「アイランド(2005)」とか、ジョン・カーペンターの「ザ・ウォード 監禁病棟(2011)」とか、不朽の名作トロン(1982)とか、あとやっぱ最近だとドラマの「ウェスト・ワールド(2016)」なんかも浮かびますよね。作中でも最後の方でオマージュしていますが、「ミッション8ミニッツ(2011)」や「バニラ・スカイ(2001)」「オープン・ユア・アイズ(1997)」なんかも想起されます。

ただし、本作の主人公・堅書くんは上記名作たちで繰り返し語られてきた「バーチャル世界の住人としての葛藤」には全く陥りません。というか悩みすらしません(笑)。「おれプログラムなの?あ、そ。ほんで?」ってなもんです。その辺は尺の関係でしょう(笑)。そんな堅書くんが運命の相手・一行さんと恋に落ち、そして彼女のために上位概念たちを敵に回して戦うという大変セカイ系ど真ん中なストーリーが繰り広げられます。

セカイ系では世界を揺るがす大事件に際して「世界のすべてを敵に回しても君が好きだ!」と己の欲望に忠実に突っ走るのが王道です。

そう言った意味で本作は紛れもないセカイ系であり、「君の名は。(2016)」から始まった90年代セカイ系リバイバルのフォロワー作品の1つです。

とまぁこう書くと別に対して面白くなさそうなんですが(笑)、この作品の素晴らしいところはこのセカイ系の構造そのものを踏み台にしたところです。

バーチャルワールドで繰り広げられるセカイ系の果てに!

皆さん、「脱構築」って好きですよね(笑)?私はもう「脱構築」が好きすぎて「脱構築」って書かれた額を見ながら白飯3杯はイケます。

私、この映画がやりたかったことはまさにこの「セカイ系の脱構築」だと思うんですね。現在も公開中の「天気の子(2019)」がセカイ系そのものを再現したリバイバルであるならば、本作はそのセカイ系の向こう側、つまりポスト「セカイ系」的なところを狙った意欲作です。

本作のキーワードを無理やり1つに絞るならば、「リープ・オブ・フェイス」だと思います。これは理屈ではなく信念や信仰(※ときには愛)のために危険を顧みず飛び込むことを言います。多重バーチャル作品ではよくネタとして使われています。

例えばクリストファー・ノーランの「インセプション(2010)」ではマリオン・コティヤール扮する主人公の奥さんが「今いるのは夢の中だ。飛び降りれば目が覚めるはずだ」と言って飛び降り自殺を誘ってきますし、前述の「バニラ・スカイ」では主人公がこの世は夢だと確信して現実に戻るために高層ビルの屋上からダイブします。これはつまり、理性がどう判断したとしても信仰・信念のために飛び降りられるかってことなんですね。

本作では最後に主人公がバーチャル世界=夢から現実に戻るんですが、そのトリガーは「器(現実で起きたこと)と中身(バーチャルワールドで成長した精神)の同調」だと劇中で2度も説明されます。

そして作品を通して見ると、この直実のトリガーは「一行さんのために自分が犠牲になること」だとわかります。

物語の全容

本作のバーチャルワールドはザック・スナイダーの「サッカーパンチ/エンジェル ウォーズ(2011)」と同じアレンジをしています。すなわち「現実に起きたことが微妙に違う形で夢の中でも起こる」という法則ですね。

本作の舞台は遠い未来、おそらく2040年とかその辺りです。高校生の時に主人公・堅書直実は恋人の一行瑠璃を落雷から庇って(※そして恐らく背中に落雷を受けて)昏睡状態に陥ってしまいます。一行瑠璃は堅書を救うために昏睡で失われた精神をシミュレーションで再現して本物の肉体に「精神移植」することを思いつきます。そしてそのために、何十年もかけてバーチャルシミュレーションを作り、その中で堅書を育てようとします。彼女は「愛する恋人(=っていうか自分)のために命を投げ出す堅書君」を再現するために、バーチャルシミュレーション内でセカイ系のシナリオを展開し、そこにカラスの姿をしたガイドとして介入していきます。めでたく完全調教(苦笑)が完了して理想の堅書君が育て終わり、ついにラストで器と中身が同調してレプリカ堅書君が現世に受肉・復活します。めでたしめでたし。

一行さん怖いよ、、、(笑)。自分のために命を投げ出す恋人を作り上げるとか、この女、ヤベェやつやんけ、、、。
倫理的に言えばこれって「ペットが死んじゃったんでクローンペットを作ってまた一から飼いなおしました」みたいな話ですからね(笑)。宮崎駿が見たら「命への冒涜だ!」って言ってブチ切れしそうな案件です。SFではよくあるネタなんですけれども。

これが身も蓋もない本作の内容です(笑)。

セカイ系リバイバルへの回答

以上のことを踏まえると、この映画は「セカイ系」というジャンル自体を劇中劇として消化して、その上に伝統的な「ピグマリオンもの」を被せた意欲作だとわかります。

一応補足しときますと、ピグマリオンものってのはギリシャ神話の「ピグマリオン」を原型とした一連のジャンルでして、古くは紫式部の「源氏物語(1008)」、最近だとヴィリエ・ド・リラダン「未来のイヴ(1886)」とか、メアリー・シェリーの「フランケンシュタイン(1818)」とか、その辺のシリーズです。要は主人公が理想的な恋人や友達を育成したり創るために奮闘するっていう話です。「プリティ・ウーマン(1990)」とかね。

つまりこの映画はガラパゴス全力で日本国内で消化されてきたセカイ系というジャンルを、もう一段一般化して上に上げようとしてる実験作なわけです。

これはぜひ成功してほしいですね。個人的には完全にエヴァンゲリオン直撃世代としてセカイ系に思い入れがあるってのと同時に、その後の萌えアニメの氾濫とか一連のアイドル声優ブームとそのライブ商売の横行とか、いろいろ思うところがあります(笑)。

オタクっぽい事を言いますと、2000年代に萌えアニメ達が大増殖するなかでB級SFアニメで孤軍奮闘していたゴンゾの残党軍・グラフィニカがこれをやったってのが多いに意味があると思っています。

【まとめ】

取り留めもなくなってきたのでまとめます。

本作は「君の名は。」から始まったセカイ系リバイバルへの最終回答と言って良いかと思います。

「みんなセカイ系好きだよね?でもね、ちゃんとしたSFもいいもんだぞ!」ってな具合です。

たしかに本作はリピートしたくなる魅力に溢れています。私も多分あと2-3回は見ます。万人に受けるかって言われると自信がないですが、少なくとも「天気の子」を見た人にはこっちも見てほしいですね。ある意味「新旧そろい踏み」というか、昔ながらのセカイ系に対するポスト・セカイ系って感じのいい作品です。

劇場でかかっているうちに是非!

10月4日から今年の最注目作「ジョーカー」と「ジョン・ウィック チャプター3 パラベラム」が始まりますからね。大きなスクリーンで観れるのは今だけだと思います(笑)。

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