後妻業の女

後妻業の女

9月の映画の日は

「後妻業の女」を見てきました。

評価:(75/100点) – 大竹しのぶハンパねぇ!圧巻のブラック・コメディ


【あらすじ】

小夜子は資産家男性と結婚しては殺して遺産を奪う「後妻業」の女である。今度のターゲットは元女子大教授の中瀬耕造。いつもどおり首尾よく遺産を奪ったものの、耕造の次女・朋美は小夜子の胡散臭さに気付いてしまう。朋美は友人で法律事務所勤務の守屋に相談し、私立探偵を雇って調査することにする、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 小夜子と耕造
※第1ターニングポイント -> 耕造の死
第2幕 -> 本多探偵の調査
※第2ターニングポイント -> 本多が柏木を脅す
第3幕 -> 決着


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【感想】

今日はですね、映画の日ということで「後妻業の女」を日劇で見てきました。高齢の夫婦で4割ぐらいは埋まっていました。劇場で流れる予告の「通天閣やない!スカイツリーや!!」というアレがあまりにもアレすぎてちょっと不安だったのですが、、、これ実際に見てみるとかなり面白いです。もちろんギャグが全体的に古臭いというのはあるんですが、終盤は結構本気でツボに入りました(笑)。悪いことはいいませんので、予告でちょっと引いたかたも見たほうがいいと思います。

今回は核心部分のネタバレは無しで書いていきますので、そのあたりはご安心ください。

男と女の化かしあい

本作は、ブラックコメディとピカレスクのハイブリッド映画です。

メインストーリーとしては「男と女の化かしあい」というものです。主人公・小夜子の「後妻業」は女が男の遺産を狙って遺言を書かせた上で死ぬのを待つという”捕食”の犯罪です。しかし、本作では最後のとあるオチで「いやいや男側だってある程度そういう女側の打算は看破してるんだぞ」というのを見せます。女は男の最後を看取るかわりに遺産をもらう。男は人生の最後を楽しむために遺産を渡して女に相手をしてもらう。この両者の打算的なWin-Win関係が、本当に悪いといえるのか、、、ってなところです。要は「結婚って実際はそういう打算的な部分もあるんだよ」っという教訓話ですね。これは本当に身につまされます。

犯罪モノから怒涛のブラックコメディへ

こういったシリアスな大人の(というか高齢者向けの)ストーリーをベースにして、終盤には怒涛のブラックコメディが展開されます。もうですね、大竹しのぶ扮する小夜子の魅力が全てを掻っ攫っていきます。それも反則じゃないかというレベルで(笑)。

本作には、大勢の”小悪党”が登場します。結婚相談所・所長で小夜子に高齢者のカモを紹介する柏木。探偵の癖にいろいろ黒い本多。ホステスで柏木を金蔓にするマユミとリサ。金庫破りに、ヤクザも見る獣医。登場人物が少ないにもかかわらず、出てくる人がみんな悪党だらけです。それもわりとショボい小悪党。そんな中にあって、とにかくなんせ凄いのが小夜子です。ネコはかぶるわ、人は殺すわ、遺族にドス効かせるわ、銀行員に小芝居打つわ。もうやりたい放題です。この小夜子がですね、最初は本当にうざくてうざくて仕方ないんですが、鶴瓶演じる舟山が出てきてからは一気に人間臭くなるんですね。急にホツれ始まるんです。このギャップが凄い良くて、なんかもうこのキャラだけで全部いいんじゃないかというアイドルオーラを感じます。

序盤はわりと大人しめのピカレスク(=格好いい犯罪者もの)が展開されるのですが、だんだんギャグがひどくなってきて、三幕目は完全に悪ふざけの大ブラックコメディ祭りになります。この祭りの勢いを一身に担っているのが小夜子の実の息子・岸上博司君です。
この博司君がですね、30歳にしてニートかつキ◯ガイかつ獰猛かつ小心者という最高に頭の悪い狂言回しでして、もはや会話が通じないレベルのスーパーコントを展開して来ます。博司君が出てくるパートはことごとくウザく、ことごとく面白いです。ボケの博司君とツッコミの柏木という布陣で展開しつつも、後半は柏木に起きた”ある事”によってツッコミすら不在になり、一切収拾がつかなくなります(笑)。

このあたりは、私それこそ「マルホランド・ドライブ(2001)」のドタバタ殺し屋パートを思い出しました。ゲスな犯罪者達にしょうもない間抜けなドタバタコメディをさせることで笑い飛ばしちゃおうというスノビスト的なセンスですよね。それこそ北野武の「アウトレイジ(2010)」もそういう方向性ですし、なんかこう「90年代的日本映画の臭い」みたいなものを感じてとても良かったです。それも、序盤がシリアス/シニカルであればあるほど、後半の超絶ドタバタコメディでの「ゲスな犯罪者達への軽蔑込みの笑い飛ばしっぷり」が加速するわけで、この辺のバランス感覚は本当にすばらしいです。

【まとめ】

書き方が難しいんですが、とても日本映画らしいバランスの文芸コメディ映画でした。つい最近”ザ・ハリウッド”な某コスプレコント映画を見たばっかりだったので、余計に安心して見れたのかも知れません。こういう良作がもっと流行ってほしいです。そういう意味では、一番のネックはあの予告編ですよね(笑)。あのド下品なオヤジギャグ予告だと、じぃちゃんばぁちゃん以外は劇場に呼べないです。もっと大竹しのぶのはじけっぷりを前に出せばいいのにと、そこだけがちょっと不満でした。

ちなみにこういった内容の作品ですので、当たり前ですがポリティカル・コレクトネスとかそういう道徳的なものは一切ありません(笑)。たぶんフェミニストの方が見ると気が気じゃないくらい怒り狂うと思いますので、ご注意下さい。「君の名は。」で恋人たちのロマンチシズムに浸りきった後にはね、コレでも喰らえ!(笑)
超オススメします。

■ おまけ(ネタバレあり)

この映画は、最後のオチが本当に良いと思うんです。最後に見つけた遺書って、本来は妻である小夜子が最初に見つけてしかるべき場所にあるんですね。小夜子にもし少しでも良心があったなら、当然仏壇に手を合わせて、お線香が足りなくなって、そしてサクっと遺書を見つけて、サクっともみ消せたんです。これは、耕造の最後のテストなんですね。「お前が遺産狙いなのは感づいてるぞ。でもそれは良い。きちんと”妻”を演じてくれるなら遺産は渡す。でも本当にお金が欲しいだけなら、そりゃあげないよ」という茶目っ気たっぷりの挑戦状です。そして見事にテストに不合格という、、、耕造/小夜子共々いいキャラでした。

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