今日は邦画2本です。まず一本目は
「ちはやふる -下の句-」です。
評価:
– これがアイドル青春スポ根映画のど真ん中じゃ!【あらすじ】
都大会制覇の報告に新(あらた)を尋ねた千早と太一は、そこでかるたへの情熱を失った新と出会う。自身の大会出場中に亡くなってしまった祖父に自責の念を持ち、新はかるたができなくなってしまったのだ。新にもう一度かるたへの情熱を取り戻させるため、千早は全国大会個人戦での活躍を土産にしようと決意する。
そのためには、高校生にしてクイーン位に君臨する若宮詩暢(わかみや しのぶ)を倒さなければならない。左利きで変速のクイックを使う詩暢を意識するあまり、千早は徐々に自分のスタイルを見失ってしまう、、、。
【三幕構成】
第1幕 -> 福井への訪問
※第1ターニングポイント -> 原田先生にクイーン・詩暢の話を聞く
第2幕 -> 打倒クイーン!千早の焦り。
※第2ターニングポイント -> 全国大会で千早が倒れ、団体戦が終わる。
第3幕 -> 全国大会個人戦。
【感想】
さてさて、本日の一本目は「ちはやふる -下の句-」です。先月末に公開された「ちはやふる -上の句-」の直接的な後編です。都大会を制した瑞沢高校かるた部の全国大会への特訓・いざ決戦というストーリーに並行して、「上の句」でポンコツになってしまった新の復活の話が描かれます。これはですね、結構歴史に残る青春スポ根映画の金字塔だと思います。ここから先は、この作品がいかに凄まじく計算されているか、そして俳優(というかアイドル)達の魅力がいかに存分に発揮されているかをがっつり褒めちぎります。
わたくしは原作・アニメとも未見のため、原作との比較はまったくできません。もしかしたら、いつもな感じで原作ファンの方から見ると「ちはやふるの魅力はそこじゃないだろ!」という不満があるのかも知れません。そういった原作ファンの方たちには申し訳ございません。ただですね、漫画原作でここまでしっかりきっちりとした映画になってるわけですから、これかなり幸せだと思います。いまこの文章はちょうど見終わって直後に映画館のすぐ横のスタバで書いてるんですが、この後2時間後ぐらいには私「テラフォーマーズ」っていう漫画原作の映画を見るんですよ(苦笑)。そんなこんなで、もろもろお察しください。
以下、いつものようにネタバレも含みます。未見の方はご注意ください。絶対映画館に行ったほうがいいですよ!
まずは「上の句」のおさらい
まずは上の句のおさらいです。ちょうど私ブログをお休みしてましたので^^;
「ちはやふる 上の句」はスポ根映画のフォーマットを完璧に踏襲した素晴らしい作品でした。場所は府中(?)あたりのちょい田舎。瑞沢高校の新入生の千早は、一年生ながら「競技かるた部」の結成に動きます。自身の幼馴染でBランクの太一を相棒に、これまた顔なじみに「肉まんくん」=Aランク西田優征を巻き込み、さらには和服の不思議ちゃん奏(かなで)と、頭脳系おたくの「机くん」駒野勉を加えます。物語は新設マイナー部活のメンバー集めというド直球でベタベタな展開にのせて、この「机くん」のアイデンティティクライシスまで描ききります。「自分は所詮は頭数あわせで期待なんてされてない」「人さえ集まればだれでも良かったんだ」。画面を見ている観客の私達も思ったこのド直球な問いかけに対して、映画はこれまたド直球の熱血スポ根でそれを返してきます。「最初は頭数あわせだった」「でも一緒に頑張った修行を通じて、弱かろうがなんだろうがもはや5人はチームなんだ」。この恥ずかしいまでのド直球が、これまた恥ずかしくて当然な青春と組み合わさって、「上の句」はそれこそぐうの音も出ないほど魅力的な青春映画となりました。「上の句」で一番すばらしかったのは、この「ド直球さ」です。邦画にしてはめずらしく、何のひねりもなく、何の小細工もなく、素直な青春スポ根を億面もなく、見せてくるんです。これね、こういう作品にはこちらもド直球で向き合わなければいけないわけで、その志だけでもう100点満点でいいんです。こういうと失礼ですが、「上の句」はまったくROBOT制作らしからぬ素晴らしい作品です。一切CGに頼ること無く、ちゃんと道具としてVFXを使いこなせています。ROBOTの他の連中(っていうか主に山崎某)に小泉監督の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぐらいです(笑)。
そして下の句へ、、、
そして本作「下の句」です。正直な所、「スポ根映画」としての「ちはやふる」は上の句でほとんど100%描き切っています。そうなると、後は細かいかるたの技術論とか荒唐無稽な新必殺技しかスポ根要素は残されていないわけで、これ結構不安でした。どうやって「下の句」を構成してくるんだろうと。安直にやるなら「上の句」のリメイクみたいな感じで同じ話を繰り返せばいいんですが、それではつまりません。公開間隔も短いですしね(笑)。
そんなこんなで実際に「下の句」を見てみますと、、、これはもう凄いとしか言いようがないです。「上の句」が「青春スポ根映画」の「スポ根」要素を重視したとするならば、「下の句」は「青春」要素を重視した構成になっています。つまり、これは正しく「上の句」「下の句」なんですね。単独でもきちんと成立しているけれども、繋がるとまた違った意味が出て完成度が高くなる。これこそまさに百人一首なわけで、「競技かるた」題材の映画として完璧な構成です。おみそれしました。
本作の主題:挫折した天才へ再生を促す熱血物語
前作・本作を通じ、「メガネ君」新はミステリアスな天才として存在しています。「上の句」では本気を出せば日本一だけど、おじいちゃんの介護のために福井に隠居した達人。そして「下の句」では「おじいちゃんの死に目に立ち会えなかった」ことを後悔するあまり自分に「かるたをやる資格がない」と引きこもってしまった世捨て人。このメガネ君にかるたの情熱をとりもどさせるため、つまりはこの競技かるたの面白さを見せつけるため、本作の千早や太一は奔走します。こういう「挫折した天才もの」って私は大好きです。古くは「ドカベン」の山田太郎(※彼は当初野球を捨てて柔道をやっていました)から脈々と続く王道的スポ根ストーリーですね。しかしこの「情熱」を見せつけようと躍起になるあまり、千早も太一も周りが見えなくなってどんどん深みにハマってしまうわけです。そこから彼女たちを救い出すのは、友人であり、ライバルです。憎まれ口を叩きながらも叱咤激励をし、サポートしてくれる彼らのおかげで、千早たちはまた一歩成長し、そしてその熱血のバトンを新へとつなごうとするわけです。
もうね、おじさんは号泣しちゃうわけですよ(笑)。千早があるライバルから「全国大会攻略法」を託されて目が覚めた次の瞬間、彼女はゆっくりと走りだし、そして全力疾走し、雨の中で泣き出すという超ウエットで超ベタベタで、そして超ムカつく演出が入るわけです。「なんじゃこの監督!甘ったるくて腹立つわ~(怒)」と思いながら、後ろに座って持ち込んだポテトチップを食べてる女子高生コンビなんて気にもせずに、号泣しちゃうんですよ(笑)。こういうね、小細工なしで真っ向勝負してくる監督って本当に貴重です。だって、これにはハリウッド超大作みたいに何十億ものお金はいらないですから。聞いてるかいテラフォーマーズのプロデューサー連中よ!あと1時間でそっちいくから待ってろよ(笑)!
本作の主題その2:スポ根としての打倒クイーン
そして本作ではついに、大ボスであるクイーン詩暢が登場するわけです。この詩暢ですね、原作ファンにはあれなのかもしれませんが、存在感が完璧です。「京都弁をしゃべる意地悪なツンデレ」という超類型的なキャラクターでありながら、松岡茉優のちょっとツリ目でネコっぽい感じの雰囲気が完璧にマッチしてます。千早の広瀬すずも、ガサツでアホっぽくて、でも目をカッぴらいた時が最高に美人で怖いという完璧な立ち振舞でした。総じてキャストたちは最高だと思います。
この詩暢がですね、画面から漏れ出る威圧感が半端無いんですね。これぞクイーンっていう。いつぶぶ漬けだされるかとビクビクしながらも、目を離せなくなると。でまぁこの詩暢は、左利きでかつ「音の出ないかるた」という必殺技を使って淡々と相手をぶちのめしていくわけです。個人的には私もぜひ淡々とぶちのめしてほしいんですが(笑)、これね、スポ根としての要素が完璧なんですね。ストーリー上は千早も「スーパー聴覚」という必殺技を身に着けているわけで、これこそ純粋に「早さと速さ」の戦いじゃないですか。聴いた瞬間の判断が早い千早と、聴いた後のかるたへ向かう動きが速い詩暢。完璧に手がマッチしたライバルに、当然ロクに対策をしていない千早は現時点で勝てるわけがないわけで、でも性質上はいつか千早が必殺技を磨けば必ず勝てるはずの手合わせであるというこの構成。お見事です。
本作の主題その3:かるた競技のキモ=心を落ち着かせること=友情であるという解釈
さらに素晴らしいのは、本作が競技かるたのポイントを「平静を保つことだ」としたうえで、「それは友情/自分が一番楽しかった思い出によってもたらされる」というこの恥ずかしいまでに愚直な発想です。これはですね猛烈に説得力があります。変に声をかけたからとか、変に新を見つけたからとかじゃないんですね。答えは己の中にあって、そしてそれとまっすぐに向き合うことで強くなれるんだというこの「静かな熱血根性論」こそ、まさに本作が成功した最大の要因であり、そして「ちはやふる 上の句/下の句」が傑作邦画として輝きを放つであろう最大の要因です。小手先の技術ではなくて、己の志が大事なんだと。聴いてるかいテラフォーマーズ!!あと20分でそっちいくから待ってろよ(笑)!
【まとめ】
ということで、本作は最高によくできた「青春熱血スポ根映画」です。なんの文句もございません。私はBD買います(笑)。なんなら上の句下の句セットの豪華ボックスをだしてくれるならそっちを買います(笑)。これね、広瀬すずも照明さんとかに文句言ってないでこれで女優として一皮むけてほしいですね。小手先じゃなくて、答えは己の中にあるんだよと。筆で書いて便所に貼っときましょう。
ということで、おすすめです!
あたしゃちょっくら火星に行ってきます(笑)。