見たい映画のスケジュールが合わなくて急遽「風が強く吹いている」を見てみました。
評価: – 前半は良かったんですが、、、はぁ。
【あらすじ】
寛政大学一年の蔵原走は学校に野宿していたところを清瀬灰二に拾われ、竹青荘に入居する。ハイジはカケルの歓迎会にて、竹青荘が実は陸上部の練成所であることを明かし、皆で箱根駅伝を目指すことを宣言する。こうして未経験者たちの陸上部がスタートした、、、。
【三幕構成】
第1幕 -> カケルが竹青荘へ入居する。そこでのあれこれ。
※第1ターニングポイント -> ハイジがみんなで箱根駅伝を目指すことを宣言する。
第2幕 -> 練習と箱根駅伝予選会。
※第2ターニングポイント -> 予選会で箱根駅伝への出場権を獲得する
第3幕 -> 箱根駅伝。
【感想】
実は私、この映画は劇場で見るつもりがありませんでした。だってどう見たって「地雷」じゃないですか(笑)。今日は別の映画を見るつもりだったんですが、ちょっと仕事の関係で時間を逃してしまいまして、せっかくだからと思い入ってみたんです。前半に関しては面白かったです。”挫折した天才”が率いる変人の集まりに”訳ありの天才”が現れて自己の再確認と実現を果たすというフォーマットは、これそのまんまドカベンです。途中語られるエピソードもステレオタイプな”熱血スポ根もの”の寄せ集めで、オリジナリティは無いものの非常によく出来ています。少なくとも予選終了までは結構良い感じでした。それだけに、、、後半のがっかりっぷりは本当に残念です。
映画の構成について
映画を見すぎるのも嫌なもので(笑)、私は映画を見ながらちょくちょく腕時計を見ます。全体の尺とイベント構成を把握するためです。物語の鍵になったりターニングポイントとなる事件の時には、おおよその時間を覚えておきます。
本作では、第一幕が約20分あってハイジがカケルの歓迎会で箱根駅伝出場を宣言します。その後、50分程度練習と予選会があって、開始75分頃に出場が決まります。残り終了までの60分はひたすら箱根駅伝開催の二日間でした。
この時間配分ですが、とってもバランスが悪いです。もし「箱根駅伝を目指す」というテーマに絞って映画を作るなら、この構成で第三幕を20分程度にすれば良いんです。極端な話、箱根駅伝のスタートと同時にエンドロールでも良いぐらいです。でも実際は、第三幕が映画の半分を占めています。つまり、今作は「箱根駅伝出場を目指して頑張る」という第1パートと「箱根駅伝でシード権獲得(10位以内)」という第2パートに完全に分かれてしまっている形になります。こんな変な構成は他に見た記憶がありません。すごく奇妙なバランスです。
第二幕までは、適当ではありますが乗り越える壁(トライアルで5,000mを17分など)が設定され、それなりにドラマが展開します。そこに過去のスポ根ものの変なオマージュやら小ネタが詰め込まれていて案外面白いです。
ところが第三幕の箱根駅伝になると、全てが安い泣き脅しになってしまいます。整合性や説得力を放棄して登場人物達がひたすら熱血・感動を繰り返してしまい、私なぞはちょっと目眩がしました。ライバル役と思われていた六道大学・藤岡と東京体育大学・榊は走ってるところがほとんど出てきません。当然競り合ったりもしません。完全にどうでもいい扱いになっています。付け加えるなら寛政大学以外の選手については藤岡と榊以外は名前すら出てきません。もっと言うと出場校の大学名さえ全部は怪しいです。区間ごとの特徴のような基礎知識は少しナレーションされますが、そもそも駅伝の面白さ・スポーツ性が全然描けていないのでナレーションの意味がありません。泣いたり感動するようなフレーズを言うためだけに箱根駅伝という舞台が利用されているため、それっぽい描写に乗れない人は置いてきぼりをくらいます。「熱出ちゃってかわいそう」「足痛くってかわいそう」とかそんなのばっかです。駅伝映画なのに駅伝をきちんと描かないってどういうことでしょう?
この映画の後半の腐りっぷりを端的に表現しているのが、最終10区でハイジがブレーキを起こすところです。画面上では21km過ぎ(残り2km強)でハイジが足を痛めて引きずりはじめました。その直前、田崎監督は10位との差が1分ちょっとだと言っています。そしてゴール後に10位の東京体育大を1秒上回ってシードを獲得したと言います。では、あれだけ偉そうにしてライバル役であった榊君は、2km以上もびっこを引いて走ったけが人よりも1分以上遅かったんですか?とんでも無い雑魚ってことですか(笑)?しかも、少なくとも画面上ではハイジがびっこ引いてる横を後続走者が追い越す描写はありません。ハイジの後ろを走っていた選手(最低4人)は全員ブレーキだったんでしょうか(笑)?
もちろんそんな筈はありません。この場面に監督の意図が全て詰まっています。つまり他のチームなんてどうでも良いんです。邪魔なんです。なぜなら、本作はアオタケの変人・10人の馴れ合いの話だからです。駅伝だってどうでもいいんです。監督にとっては別に野球でもサッカーでも何でも良かったはずです。そう考えると、第二幕までの物語の全てはこの「キャラ同士の馴れ合い」をやるための前振りだったわけです。最低です。そもそもライバル同士(カケルと榊)を同じ区間にしないのが不思議だったんです。駅伝というスポーツのハイライトである2人並んでのデッド・ヒートや心理戦を描けない段階で、監督が駅伝に興味が無いのがバレバレです。
【まとめ】
何度も書きますが前半は良かったんです。しかし尺構成を考ると、監督が本当にやりたかったのは後半の熱血ドラマと男同士の馴れ合いだったことは明白です。まさかこんなに早く「ROOKIES-卒業-」のフォロワーに会えるとは思いませんでした。可能であれば予選会が終了した時点で映画館の席を立つのが、オススメです!
はじめまして!風が強くをレンタルするか迷っていたので、感想を読ませていただきました。構成について細かく書かれていてとても参考になりました。ただ、一つだけ気になったてんがあったのでコメントさせていただきます。ラストは、ライバルとの絡みもなく、完全に駅伝を目指す仲間10人の馴れ合いだった。と、ありましたが、原作の作りが、長距離マラソンとはなんなのか、個人競技マラソンでの駅伝というチームワークの意味は、そして自分との戦い。と、原作そのものが他チームと戦うこと、駅伝の勝利をゴールとしているのではなく、走るとはなんなのかということに重点をおいて作られています。
私も一読しただけなので、よくわかっているわけではありませんが文章でそれを表現しようとした三浦さんの凄さがこの原作が評価された点なのではと思っています。なので、監督もわざと普通のスポコン映画と違う作りにしたのではないでしょうか?
とはいえ、原作好きさんには嬉しい作りかもしれませんが、映画としては原作の良さを残しつつ万人に愛される作り方をするのがベストだったんでしょうね。
いきなりの長文、失礼いたしました。
もし、気分を害されたらすみません。