土曜も2本です。1本目は
「洋菓子店コアンドル」です。
評価:
– 酷い話なのに説得力がハンパ無い。【あらすじ】
鹿児島で実家のケーキ屋を手伝う臼場なつめは、恋人の海千尋を追って上京してきた。海が働く中目黒の洋菓子店・コアンドルを訪ねたなつめだったが、海はたったの2日で辞めてしまっていた。行くところの無くなったなつめは、コアンドルに転がり込み住み込みのバイトを始める。
彼女の一流パティシエへの道が始まった、、、。
【四幕構成】
第1幕 -> 臼場なつめの上京
※第1ターニングポイント -> なつめ、コアンドルのバイトになる。
第2幕 -> なつめ、海君を捜す。
※第2ターニングポイント -> なつめ、海君に振られ恋より仕事を選ぶ決意する。
第3幕 -> コアンドルのチャンスと十村の苦悩。
※第三ターニングポイント -> 十村、立つ。
第四幕 -> 復活のコアンドル。
【感想】
土曜の1本目は「洋菓子店コアンドル」です。若い女性同士の二人組と中年夫婦が多く、客席はそこそこはいっていました。監督は深川栄洋。当ブログでは「半分の月がのぼる空」「白夜行」に次いで3本目です。
本作は「洋菓子店コアンドル」を舞台に描かれるソープオペラです。作品全体に明確なゴールは無く、前半と後半でまったく別のストーリーが描かれます。なので、実は昨年の「ハナミズキ」と同じように本作もテレビドラマ2話分の構成です。時計を見ていたところちょうど60分で話が切り替わりましたので、意図的にドラマ形式で構成していると思います。前半はなつめが自分を置いて上京した海君を追う物語。後半は天才パティシエ・十村のトラウマ回復話です。
個人的に私はこの作品がかなり好きです。その前提で「なんでこんな酷いストーリーの作品が好きなのか」という所で擁護方向で書きたいと思います。
この話、酷くね。
ということで、まずは客観的なところから悪口を書いていきますw
本作の何が酷いって、それはもう主役のなつめがクソアマ過ぎる所です。この女、自分勝手過ぎ。それもオマエはアスペルガーかっていうくらい他人の感情にずかずかと土足で入り込みすぎ。
これは全編通じてのことですが、なつめは全ての人から甘やかされています。コアンドルのオーナーシェフである依子は田舎からポっとでのなつめを住み込みで働かせてくれます。常連の芳川さんは、なつめの事を目に掛けてくれます。同僚の佐藤マリコはぶっきらぼうながらも、なつめの至らない部分を注意してくれます。
そういった最高な環境の中で、なつめはやりたい放題に暴走します。自意識過剰で逆ギレも当たり前な彼女は、最初から最後までかなり最低な女です。この作品中でケーキ作りの腕は上がっているかも知れませんが、人間的にはどんどん調子に乗って手が付けられなくなっています。
仕事中にサボるのは当たり前。店の材料を横領するのも当たり前。職場の雰囲気を壊すのも当たり前。二日酔いで厨房にも立ちます。でも腕前は半人前。ふつうのオーナーなら即日解雇ですw ところが依子さんはまるで自分の子供のようになつめを可愛がってくれます。こんな仏のような依子さんをして「あんな奴の行き先なんて知らない」と言わしめた海君はどれだけ社会不適合な最低男なんでしょうかw
一方で、本作のストーリーはこのなつめの強引さを引き金にして物語が転がっていきます。なつめがマリコに逆ギレしなければ海君は見つかりませんでしたし、なつめが十村を無神経に挑発しなければ十村はいつまでも立ち直れませんでした。結果オーライとは言いたくないですが、本作の構造はなつめの暴走からストーリーが始まるようになっています。
前述の通り本作はテレビドラマのフォーマットですから、たぶん連ドラでは毎回冒頭10分でなつめが問題を起こしてそこから物語が始まるんでしょう。そう考えると、物語の構成としては無しではありません。
それでも嫌いになれない理由。
個人的になつめのような女性は無理ですが(苦笑)、それでも私はこの映画が好きです。それはひとえに映画としての圧倒的な説得力です。本作を見ていて、私は深川栄洋監督の演出が好きだと確信しました。見ている間に「半分の~」を見たときの記憶も蘇ってきたのですが、この監督はカットの切り取り方と音楽の使い方が上手いです。最近の日本映画は音楽をむやみやたらに使おうとします。先日の「あしたのジョー」なんかは顕著ですが、始終BGMが鳴っていて細かい環境音が全然聞こえません。ところが本作では食器の当たる音や、クリームをかき回す音、果てはケーキを食べるときの「クチャ」としたちょっと汚い口を開く音までも聞こえます。映画慣れしていない監督は音楽をずっと鳴らしていないと不安になる傾向があるようですが、映画の観客は暗い中で集中力が上がっていますから、そんなこってりクオーターパウンダーみたいな演出は体に良くありません。
それに加えて、特に室内のシーンではあまりカメラを揺らしません。同じフレームで焦点深度を変えることで客の視点を誘導したり、俳優の顔以外を映して感情表現したりします。本作で一番カメラが揺れるのはなつめが十村を説得しにマンションの廊下に押しかける場面です。そことなつめとマリコの喧嘩シーン以外はほとんど揺れません。当たり前の事ではあるのですが、こういう基本に忠実な演出はとても映画的に説得力があります。
一方で、おそらく深川監督のクセなのでしょうが、「ここで泣け!」という場面ではピアノのBGMに併せて俳優の泣き顔を堂々と映します。この安っぽさは「半分の月~」でもありましたし「白夜行」でもありました。捻くれている私はこういう演出で逆にテンションが下がります。でも他の作品達を考えれば、このぐらいは可愛いものです。ただ十村が玄関で泣くシーンは最後背中の引きショットで終わりますから、やれば出来るはずなんです。監督のインタビュー等当たって見ないと分かりませんが、もしかしたらワザと分かりやすさを重視して安っぽく撮っているのかも知れません。
雰囲気映画といってしまえばそれまでですが、見ている間に一口も飲み物を飲まないぐらい画面に引き込まれました。
【まとめ】
調子に乗ってる自己中な女の話ですから、一般的にはあんまりオススメできるものではありませんw ただ個人的には好きですし、DVDが出たらもう1回は見たいぐらいのテンションです。映画はストーリーだけでは成立しないですし演出だけでも成立しません。でも、見た目の部分だけでも説得力ある撮り方をしてもらえれば、どんなに酷い話でも少なくとも腹は立ちにくいですし十分に集中して見ることが出来ます。ちょいちょいなつめの言動に「あ~ん?」と引っ掛かる部分はありますが、120分楽しく見ることが出来ました。こっそりとオススメします。
※書いてて気付いたんですが、これもしかして毎年必ずある「バレンタインムービー」でしょうか? カップルで行くのは絶対止めた方が良いです。見た男は十中八九、蒼井優が嫌いになりますし、過去に彼女にイラっとした記憶が鮮明に蘇ってきますw
ナツメ、ぶん殴りたいです。
個人的に好きな映画ではあるのですが、ちょくちょく出てくるナツメの依子さんと芳川さん以外の人間に対するあの自己中で横柄な態度には観るたびに苛々させられました。
正直言って気分悪くなりましたw
こんな田舎っぺでクソアマ本当に存在したらと思うと怖いです。
バレンタインにカップルで観賞しました笑。
筋金入りの蒼井優ファンとしては田舎娘が上京して、まわりをひっかき回してと王道の筋書きで楽しめました。
が、ファンとしては蒼井優の、蒼井優による、蒼井優ファンのための映画に思えて、60分過ぎごろで、彼女に悪いなとあせりました。早く江口パートになってくれと願ってしまいました。
作品的には50点、蒼井優加点50点で100点です。