今日は
「少女」を見てきました。
評価:
– 雰囲気アイドル映画【あらすじ】
高校生のユキは、親友のアツコをモデルにして小説「ヨルの綱渡り」を書き上げる。しかし小説家崩れの国語教師・小倉によって原稿を盗まれうえに雑誌へ投稿、小倉は新人賞まで獲得してしまう。怒り狂ったユキは小倉へ復讐しようとする。それが、すべての悲劇の始まりだった、、、。
【三幕構成】
第1幕 -> ユキの執筆とアツコ
※第1ターニングポイント -> シオリが転校してくる
第2幕 -> アツコの罪と夏休み
※第2ターニングポイント -> ユキが「ヨルの綱渡り」を読む
第3幕 -> アツコとユキの仲直り
【感想】
さて、今日は湊かなえ原作の最新作「少女」を見てきました。観客はほとんどおらず、私以外はみんな学生さんでした。「白ゆき姫殺人事件(2014)」は中年夫婦がいっぱいだったのでちょっとびっくりしました。まぁでも湊かなえさんの映像化したものって題材が高校生が多い印象があるので、ターゲットとしてはちょうどいいのかも知れません。
監督は三島有紀子さん。すごいテレビっぽい(というか堤幸彦っぽい)演出が多いのでテレビ系の人かなとは思いましたがまさかのNHK出身でした。不勉強ながらこの監督の作品を見るのは初めてです。
ここでいつものお約束です。本作は多少サスペンスっぽい要素がありますのでネタバレは驚きを減じてしまう恐れがあります。未見の方はご注意ください。
サスペンスじゃないよ!青春ユリユリ映画だよ!
本作は予告でがっつりサスペンスっぽい雰囲気ーーというかモロに「告白」を意識した雰囲気を出していたので、てっきり本田翼がサイコパスっぽい感じで山本美月を殺しちゃったりするのかなと思いきや、まさかの完全青春友情モノでした。
一応映画的な意味でのメインテーマは「因果応報」の話です。自尊心肥大気味な落伍者・小倉がユキの原稿を盗んだことを発端に、ユキの復讐→オグラ/セイラが自殺→セイラの親友シオリが転校→シオリがユキとアツコを焚き付ける→・・・といった形で次々にイベントが連鎖していきます。そして印象的なセリフとしてユキのおばあちゃんの「因果応報、地獄に落ちろ!」があります。その言葉通り、本作には連鎖するイベントによって「報い」が次々と描かれていきます。一部「それを因果応報って言って良いのか!?」っていう倫理的に引っかかる部分はあるんですが、大枠はこんな感じです。物凄い少ない登場人物達がウソでしょってくらい強烈に絡み合いまくっており、ご都合主義というよりはすごく”戯曲的/寓話的な”抽象性を伴っています。そんなところも含めて、たぶん監督がわざとやってるんですが、全体的に物凄い嘘くさい演出になっています。
そういった”文学的な”要素を背景にして、本作は本田翼と山本美月のダブルヒロインのユリユリした熱い友情が展開されます。ちょっと女子高生役には年齢が厳しいですが、見た目はまったく問題なくちょいとマセた高校生を演じられています。そんな”少女”が青春特有の中2病的な悩みを爆発させて悶々としているわけで、これはもう100%純アイドル映画です。ですので、この2人さえ可愛ければあとは大丈夫です!なんの問題もございません!
しかしだね、、、
しかしですね、、、、本作はあまりにも演出面が古臭いというか、ダサいというか、、、”雰囲気作り”によりすぎています。映画の冒頭と終盤を心象風景みたいな劇場のモノローグ(=寓話性の演出)にしたり、文化祭(体育祭?)の踊りを「運命の糸が絡まり始める」みたいな表現として使ったり、しかもその踊りが完全に観客不在で超無機質だったり、作品自体が中2病的な雰囲気演出のオンパレードです。これですね、最初のイントロだけなら100歩譲ってまぁまぁまぁまぁ、、、、って感じだったんですが、現実の教室シーンまでが同じ方針だったので本気でゲンナリしました。だって、学校だっていってるのに他にクラスがあるのかすらわからなくて猛烈に抽象化されてるんです。
本作はかなり文芸作品を意識しており、あんまり情報量自体は多くありません。だからこそ画作りの合う合わないが結構大事なんです。前述の通り、アイドル2人が可愛くて、全力で走ってて、思いっきり笑顔で泣き笑いしてればそれだけで十分っていう志の映画なんですが、ちょっとあまりにもあんまりかなと思います。ユキの「人が死ぬとこを見てみたい」発言とか、それで実際に難病専門の子供病院に行っちゃうところとか、そういう中2病的な痛々しさをがっつり見せながら、最終的にはそういうのを全部ほっぽり出して「だって青春だし」で片を付けてしまうあたりがとってもアレです。一応最後にこの2人の青春は「了」しないというカットで因果応報を暗喩するわけですが、それも「深くていい話だね」っていう記号としてしか役立っておらず、実際にはホラー映画で最後にオマケが付くのと一緒です(笑)。「高慢と偏見とゾンビ」のラストカットと一緒。本作のは監督の自意識が目立ちまくっており、まだ「高慢と偏見とゾンビ」の方がサービス精神でやってるだけいいかな、とも思ったりします。
ちなみに、本作はいわゆる「いろんな伏線が最後に絡まる!」みたいなものではまったくありません。細かいイベントは連鎖しているもののキャラの関係性には必然がひとつもないので、それこそ「寓話的に少人数を無理やり配置している」という類のものです。
また、ストーリーで言うとどうしてもアツコの「ストーリー上の欲求」が弱いのが気になります。彼女は流されまくっているだけで全然主体性がないんですね。だから彼女のシーンは純粋に「山本美月鑑賞タイム」以外の何物でもありません。アツコには「剣道入学なのに剣道ができない」っていう負い目と、「それによりイジメられたとしても適当に謝ってりゃいいだけだから楽は楽」という葛藤があります。葛藤はありますが、そこから欲求が生まれません。じゃあどうしたいの?っていう部分が無いんです。たまたま流れで痴漢詐欺に加担して、たまたま学校の体育の補習で老人ホームへ行って、たまたま流れでバァちゃん助けて、、、みたいに全部たまたま。唯一アツコが自分から動くのが「ヨルの綱渡りを読みたい!」とタカオに頼むシーンなのですが、ここではじめて「アツコはユキと仲直りしたかった(※というかアツコが勝手に誤解してただけ)」という意思が見てとれます。ところがこれもう2幕目の終わりなんですね。今かよ、、、ていう(笑)。これならアツコの主観シーンを丸々全部カットしちゃって、ユキをメインにして構成したほうがよかったんじゃないかなと思います。ユキには「オグラが自殺したことで人の死を目の前で見たくなる」という欲求があり、ストーリーがちゃんと転がってますから。「人の死」どころか目の前で人が刺されただけでビビって逃げ出しちゃうレベルの「中2病的格好つけ」ですけど(笑)。
でも、やっぱ可愛ければいいじゃん!!
とまぁストーリーや演出部分には不満タラタラなわけですが、一方で俳優さん達をみるとこれ本当にいい感じです。ダブルヒロインのモデルコンビは本当に現実感がないくらい見た目が整っていまして、しかも両名とも物凄い棒読み演技。こういうと悪口みたいですが、この映画の浮世離れした寓話的雰囲気にとてもマッチしています。ストーリーのわざとらしさと演技のわざとらしさが奇跡的にいい感じに合っているので、とっても魅力的です。この時点でアイドルPV映画としては十分じゃないでしょうか?真剣佑や稲垣吾郎もいつもの棒演技ですが、まったく違和感がありません。俳優陣的にラッキーなのか怪しいですが(笑)、テイストの統一はきちんと出来てます。
【まとめ】
たぶん本作に何を期待するかでバッくり評価が別れると思います。もし学園サスペンスや重々しい文芸作品を期待するなら、本作はペラッペラでとてもじゃないですが厳しいです。ただ、もし話に一切期待しないで山本美月や本田翼のファンとして見に行くなら、これはもう絶対見に行ったほうがいいです。むちゃくちゃ魅力的に撮れています。本田翼がちょくちょく菊地凛子に見えますが、それもたぶん棒読み・オカッパ・ちょい吊り目だからでしょう。なんか近作の「SCOOP!」といいこのパターンが多いですが(笑)、「なかなか俳優の魅力を引き出しつつ話も面白い!」っていうのは難しいなというのが率直な感想です。ということで、両ヒロインのファンの方は必見ですよ!両ヒロインに興味が無い映画ファンの方は、そっと記憶から消しときましょう(笑)。