今日はついに公開された
「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」を見てきました。
評価:
– 傑作ヒーロー・アクション・サスペンス!【あらすじ】
スーパーヒーロー機関「S.H.I.E.L.D.」が崩壊し、アベンジャーズたちは草の根でヒーロー活動を続けていた。しかし活動中に民間犠牲者が出続ける事態に、ついに各国から抑止力の必要性が提示されるようになる。提案された「ソコヴィア協定」と名付けられた国際協定は、事実上アベンジャーズを国連軍に組み込むものであった。メンバー間でも賛否が分かれる中、協定を強行する国連とトニー・スターク。しかし調印のまさにその日、ウィーンの国連会議場がテロにより爆破されてしまう、、、。
【三幕構成】
第1幕 -> ラムロウ鎮圧とソコヴィア協定
※第1ターニングポイント -> 国連会議場が爆破される
第2幕 -> キャプテン・アメリカの事件捜査
※第2ターニングポイント -> シベリアのハイドラ基地へ着く
第3幕 -> トニー・スタークの合流と事件の真相
【感想】
ということで、今日は待望の「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」です。なんか宣伝だと「アベンジャーズ3」じゃないかというくらいキャプテン・アメリカのことがスルーされてますが(笑)、れっきとした「キャプテン・アメリカ3」です。とはいえ本作の主題はキャプテン・アメリカの行動理念の源と、そしてアベンジャーズの一時的な分裂です。今後のアベンジャーズシリーズに影響を与えるのは間違いありません。もうシリーズ13作目なので大丈夫だと思いますが、いきなり本作を見てもなんのこっちゃかと思いますのでご注意ください。また、以降はガンガンネタバレを含みます。未見の方はご注意ください。先に感想だけ書いちゃいますと、本作は凄く良くできたサスペンスの上にヒーロー要素を振りかけた傑作です。ぜひぜひGWは劇場へダッシュです!
二つのテーマ
本作には二つのテーマがあります。
一つは活動中に民間人を巻き込んでしまうヒーローの苦悩であり、これはまんま「バットマンvsスーパーマン」にもあったテーマです。「悪との戦いなんだから巻き込まれる人がいたとしても確実に被害は少なく済んでいるはず」というヒーローの心理の一方で、被害者側からすれば個人はあくまでも個人でしかないわけでやりきれないという、いつものですね。これが発展して今回はアイアンマン=トニー・スタークとキャプテン・アメリカ=スティーブ・ロジャースのイデオロギー闘争となります。
もう一つはテロ事件を巡るサスペンスです。国連会議場が爆破され、現場では爆弾を積んだバンに乗ったウィンター・ソルジャー=バッキー・バーンズが目撃されます。果たして犯人はバッキーなのか?それとも誰かの陰謀か?この事件をめぐり、バッキー逮捕に乗り出すトニーと、バッキーの無実を信じて匿いながらも独自調査をするスティーブの衝突が描かれます。
前者のテーマはもちろんスーパーヒーローもの特有の倫理観を取り上げたものですが、後者のサスペンス要素は独立した映画としても十分に通用する素晴らしいものです。前作の「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」も陰謀サスペンスでしたが、本作はさらにクライムサスペンスとして十分な完成度を持っています。やっぱりルッソ兄弟は凄いです。本当にマーベルは良い監督を見つけてくるのが上手です。
テーマ1:ヒーロー問題について
まずは一つ目のテーマであるヒーローの倫理観問題についてです。これは過去作のキャラクター性・ストーリーを踏まえた素晴らしいものになっています。
スティーブは、一作目「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー」において、ヒョロヒョロなモヤシ男ながら、国/みんなの役に立ちたい一心で米軍志願兵となります。そして超人化計画を経てキャプテン・アメリカになっての初陣は、ヒドラ軍に捕らえられたバッキーを助けるために、上官の反対を押し切って勝手に単独で敵地潜入を行うというものです。両方とも「誰かに命じられたから」ではなくて、自らの意思で進んで行ったわけです。だからこそ、バッキーから「キャプテン・アメリカの部下はごめんだけど、モヤシのスティーブのためなら一緒に戦う」と言われるわけです。
二作目の「ウィンター・ソルジャー」ではスティーブは自分の信念に従って政府を敵に回して戦います。そして遂にS.H.I.E.L.D.内に潜伏したネオヒドラの存在を突き止め、ヒドラの殲滅に動くわけです。
基本的にスティーブ・ロジャースは己の正義感と信念に従って行動する人間であり、その意味では紛れもなくアベンジャーズの精神的支柱であり、まさしくキャプテンなんです。本作での劇中でも、民間人に犠牲が出たというニュースをみて落ち込むスカーレット・ウィッチ=ワンダ・マキシモフに「犠牲者を気にしすぎて止まってはいけない。」と諭します。確かにラムロウに生物兵器が渡って大量殺人が起きるよりは遥かに被害が少なかったのは間違いないですから。
では一方のトニー・スタークはと言うと、彼は非常に自己中心的で我が道を行く人間です。もっとも、自己中心的と言っても誤解されやすいだけの照れ屋さんで、根はただの技術オタクなんですけどもね(笑)。彼は「アイアンマン」「アイアンマン2」「アイアンマン3」「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」と、毎度毎度アイアンマン・スーツを敵に取られたり技術を悪用されたりしてピンチに陥ります。頑張り屋さんなんですが、結構裏目にでるんですね(笑)。彼は徹頭徹尾自分の意思でやりたい放題やってきたんですが、それの積み重ねにより遂に本作では自分のうかつさに懲りているんです。だから冒頭、「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」のソコヴィア最終決戦で犠牲になったという学生の親から糾弾を受け、ショックを受けてしまうんです。すくなくともウルトロン計画についてはほとんどトニーの責任ですから。明確に「おまえが将来のある若者を殺したんだ」と言われてしまって、しかもインテルに就職が決まってる技術屋だったと知って、完全に自分に重ねちゃったわけです。
これがスティーブとトニーのイデオロギー闘争に発展します。スティーブはいままでも己の意思/正義に従ってきましたし、それを変えるつもりはまったくありません。むしろ「己の正義」以外の第3者の政治にアベンジャーズの力を利用されることを懸念します。この辺は第1作「ザ・ファースト・アベンジャー」においてハイドラ(=ナチス)の全体主義と真っ向勝負をしたからこその教訓なわけです。トニーはその真逆で、失敗続きの自分のことがもう信用出来なくなっています。そして誰かに管理されたいと望むわけです。そうすれば責任も分散されますしね。これは言ってみれば自営業者とサラリーマンの違いみたいなもんです(笑)。
このイデオロギー闘争は、当然決着するわけがありません。これは普遍的なテーマであり、現実世界だってどちらかに統一されるなんてありえないですから。
このスタンスの違いにより、本作でアベンジャーズが2つに分裂してしまいます。
テーマ2:ウィーン国連会議場テロ事件のサスペンス要素
そしてこのヒーロー問題を振り掛けるベースとなるのが、第一ターニングポイントでおきる国連会議場のテロ事件です。現場で取られた写真にはウィンター・ソルジャー=バッキー・バーンズがバッチリ写っており普通に考えれば犯人なのは間違いありません。しかし、スティーブは己の信念にしたがってバッキーの無実を信じ、解明に乗り出します。
本作でもっとも大事な事件は、第一幕に来るスティーブの永遠の恋人・ペギーの死です。スティーブはもともと第2次世界大戦の時の人であり、北極で氷漬けになって70年の時を超えました。スティーブを「キャプテン・アメリカ」ではなく「モヤシのスティーブ」として知っているのは、おばぁちゃんになったペギーと、スティーブと同じく冷凍睡眠されて若い状態でいるバッキーだけです。スティーブにとって「モヤシのスティーブ」こそが自分の原点であり真の姿なわけで、それを知っているこの2人はとても特別な存在です。本作の冒頭でペギーが亡くなったことにより、バッキーは名実ともに「唯一無二の親友」となったわけです。それは「キャプテン・アメリカ」として親交のあるトニーやブラック・ウィドウ=ナターシャ・ロマノフよりも遥かに大切です。だからこそ、彼はリスクをとってでも、バッキーを信じることを選ぶんです。
一方、本作において、トニー・スタークのコンプレックスも描かれます。トニーは技術者としても人間としても偉大な父親に猛烈なコンプレックスを抱いており、同時にまともに会話をすることなく父を亡くしてしまったことに深い後悔を持っています。そして、若かりし父と交流のあったスティーブに対して嫉妬に近い感情を持っています。スティーブのトレードマークである「ヴィブラニウムの丸盾」はまさしく父・ハワード・スタークの創造物であり、それはつまり自分には残されなかった父の形見なんです。そして父と同じようにスティーブと親交をもち、父と同じようにスティーブの真面目さを信頼してもいます。だからこそ、再三再四、トニーはスティーブに協力を依頼します。
このサスペンスパートについては要素を抽出すると、とてもわかり易くなります。
「テロ事件が起きて、警察官である主人公の親友が犯人と疑われる。主人公は警察仲間の必死の説得を無視し、親友を匿って真犯人の独自捜査を開始する。一方、警察仲間は彼なりに独自捜査をすすめ、そして遂に真犯人が別にいることを突き止める。しかし、真犯人の目的は、この3名をある場所へおびき出し、破滅させるためだった、、、」。これですね、いわゆる悪魔型サスペンスのオーソドックスなスタイルなんです。倫理観の暴露を目的とした犯人が、複数の罠を仕掛けてキーマンを集め、最終的に破滅を呼びこむというやつです。
監督のルッソ兄弟もインタビューで元ネタを言っちゃってますが、これモロにデヴィッド・フィンチャー監督の「セブン(1995)」なんです。
本作は、物凄く高いレベルで「キャラものエンターテイメント」と「犯罪サスペンス」を融合させています。これはとてつもない構成力です。ルッソ兄弟は凄すぎます。
もちろんヒーローアクションとしてもバッチり面白いよ!
そんななか、本作ではヒーローアクションもきっちり見せてくれます。まずは冒頭のラゴスでの対ラムロウ戦。チームアクションとしてきっちり連携を取りながら、スティーブ、ワンダ、ナターシャ、ファルコン=サム・ウィルソンが大活躍します。全員に見せ場が用意されており、特にファルコンの子機=レッドウィングの存在とスカーレット・ウィッチの念力が描かれます。このパートは本当に最高です!個人的にはナターシャのルチャ・リブレっぽい戦い方が大好きで、そこだけで100点満点つけたいくらいです(笑)。
さらには目玉の一つとなっている中盤の空港での6vs6のチームバトルですね。どう考えてもヴィジョンとスカーレット・ウィッチが強すぎるのでどうするのかと思いきや、ここでも見事にみんなに見せ場を用意してくれました。特にですね、ここはアントマンとスパイダーマンが大活躍するのが堪りません。途中ウルトラマンのパロディを入れたり、スパイダーマンをちゃんと軽口を飛ばしながら若者っぽい無鉄砲さで暴れさせたり、笑いを随所にいれながらの素晴らしい配分です。予告でも話題になったウォーマシンの例のシーンはどう考えてもおかしいんですが(笑)、勢いで全然気になりません、どんまいどんまい。ファルコンに直撃してたら消し飛んでたようにしか見えず、明確な殺意が見えるんですがドンマイドンマイ(笑)。
あとですね、途中のカースタントでのブラックパンサー=ティ・チャラはめちゃくちゃかっこいいです。今回のブラックパンサーの戦い方って、爪や蹴りを多用しながら回転しつづけるというカポエイラ系の動きなんですね。これ本当にいい動きをしてます。本作のキーマンの割にはいまいちティ・チャラがお話し上の存在感がないんですが、単独作品がいまからとても楽しみです。
基本的にキャプテン・アメリカって身体能力が超強いだけですし、アイアンマンだって中年のおっさんが手からビームが出る鎧を着てるだけですから、この二人の戦いって地味になりがちです(笑)。でも脇をこれだけ多種多様なメンバーが囲んでくれて、さらにはストーリー上も強烈に盛り上がる場面でタイマン(正確には最初2vs1ですが^^;)が始まるわけで、これは盛り上がらないわけがありません。
正直、このクオリティでバットマンvsスーパーマンを見たかったな~とちょっと遠い目になります、、、、。
【まとめ】
本作はですね、サスペンスとして一級品、ヒーロー・アクションとしても一級品、熱血ものとしても一級品、そしてシャロン・カーターもスカーレット・ウィッチもブラック・ウィドウもみ~んなエロ格好いい。つまり文句がありません!
そりゃね、ラスボスがたかが個人のくせに有能すぎるし行き当たりばったりだろとか、なんでシベリアの基地にビデオが残ってると確信してるんだとか、そもそも最重要テロ犯の精神鑑定医が小細工なしに入れ替わりってセキュリティがザルすぎるだろとか、突っ込みどころは結構あります。でもですね、いいところがありすぎてあんまりノイズになりません。このままのクオリティで、ルッソ兄弟にはぜひ「アベンジャーズ:インフィニティー・ウォー」に突っ込んでいただきたいものです!
ということで、GWはぜひこの一本!超おすすめです!
※もしアベンジャーズシリーズをひとつも見たことがないという方がいたら、最低でも「アイアンマン1」「キャプテン・アメリカ1~2」「アベンジャーズ1~2」は見てからのほうが良いです。最低限この5本で、トニーとスティーブのイデオロギー闘争の背景がわかります。
【おまけ】
最後の「スタークが知らなかった過去」の件でスティーブやナターシャはなんで知ってたんだという話ですが、これ「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」の中盤、スティーブとナターシャがハイドラの秘密基地を発見してドクターゾラ(のAI)を起動するシークエンスで、ドクターゾラが喋ってます。いかにS.H.I.E.L.D内にハイドラが入りこんだのかっていう説明を喜々として語る自慢話のパートです。当時はシレっと流されてましたが、こんなところも伏線だったんですね。