エンジェル ウォーズ

エンジェル ウォーズ

土曜は一本、

エンジェル ウォーズ(サッカー パンチ)」を見てきました。

評価:(70/100点) – さすがザック!!! オタク丸出しのダークファンタジー!!


【あらすじ】

母の遺産を全て継ぐことになったベイビードールと妹は、継父に逆恨みされ命を狙われる。妹は継父に殺され、ベイビードールはその殺人の罪を着せられ(※)レノックス・ハウス精神病院に入れられてしまう。
継父に買収されたレノックス・ハウスのブルー・ジョーンズは、ベイビードールにロボトミー手術を行って廃人にしようとする。ベイビードールは果たしてレノックスから脱出することができるのだろうか?
※ http://www.metacafe.com/watch/6185190/exclusive_six_minutes_of_sucker_punch/
  何度かこのシーンを見直してるんですが、ベイビードールが撃った弾が誤って妹に当たっている様な
  演出にも見えます。その場合普通に逮捕されただけです。

【三幕構成】

第1幕 -> レノックスへの入所とロボトミー手術
 ※第1ターニングポイント -> ベイビードールが始めてダンスを踊る。
第2幕 -> 脱出作戦。
 ※第2ターニングポイント -> 脱出作戦がばれる。
第3幕 -> 結末。


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【感想】

今週の土曜日は信頼できるバカ(笑)、ザック・スナイダー監督の最新作「エンジェル ウォーズ」を見てきました。新宿ピカデリーでは半分ぐらいの座席が埋まっていたと思います。アメリカでは漫画オタク狙い撃ちなマーケティングをして見事に興行的に大コケしていますが、日本ではファンタジー色を前面に出して上手い具合にその辺りはぼかしています(笑)。とはいえ、アイドル声優ユニットのスフィアを吹き替えのメインどころに起用して、ちゃんとオタクを狙い撃ちにしてはいます。このマーケティングがすごい嫌だったので(笑)、あえて字幕上映に行ってみました。なんですが、字幕公開館が少なすぎです。3D映画以外でここまで吹き替えに偏重しているのはかなり異例です。

ここでいつものお約束です。本作にはいわゆる”オチ”がつきます。オチが付くんですが、構造上そのオチを前提にしないと色々と説明が出来ません。ここ以後、直接的なネタバレが含まれます。未見の方はご注意下さい。とりあえず本作は確実に面白い映画ですので是非見に行って下さい。かなりオススメです。

本作の構造

いきなりネタバレから話しを始めたいと思います。
本作はデヴィッド・リンチ監督の「マルホランド・ドライブ(2001)」と同じ構造をしています。要はある少女の夢見心地な走馬燈の話しです。それを時系列で見てみましょう。

物語はベイビードールが過去形で喋るモノローグから始まります。冒頭は台詞無しで彼女がレノックス精神病院に入れられるまでの経緯が描写されます。そして開始7分~8分ぐらいには彼女は椅子に縛られロボトミー手術(※目の上に長い釘を刺される治療)を受けます。その釘がささる瞬間に突然舞台が変化し、売春宿の話しが始まります。ロボトミー手術自体は夜の出し物の舞台で、縛られていたのはスイートピー。スイートピーは唐突に「やめやめ!!」と宣言し、そこから舞台がガラッと変わります。ベイビードールは夜の舞台で踊るダンスの練習をさせられ、その踊りの最中に突如迷い込んだ夢の中で老人に「5つのアイテムを探して自由を勝ち取れ」と教えられます。必要なアイテムは「地図」「炎」「ナイフ」「鍵」、そして最後だけが謎。ベイビードールはスイートピーを含めた4人の仲間と共に、この売春宿からの脱出を謀ります。本作はこの4人+1人の脱出作戦がメインになります。色々あって物語の終盤、舞台は再びレノックスに戻りロボトミー手術を受けた直後のベイビードールが映されます。そしてそこで事の真相が明らかになります。

この物語はベイビードールがロボトミー手術を受ける瞬間の頭の中を描写しています。彼女は妹を助けられなかった自責の念とレノックスに入ってからブルー・ジョーンズに受けた虐待によって、そのとき既に頭がおかしくなってしまっています。これにより彼女の走馬燈(=回想)は彼女の妄想によって実在の登場人物や舞台の設定が変わってしまっています。実際にレノックスで起きた出来事がそのまま歪んだ形で描写されていますので、これは夢の様なものです。現実の人物が彼女の印象によって別の設定で登場してきます。この回想の中で語られる出来事に「スイートピーとロケットという姉妹の話」があります。このエピソードで、ベイビードールがこの姉妹を助けることを自分の「運命」と割り切ったことが伺えます。自分の妹を助けられなかったことを悔いた彼女がいかにレノックスの中で振る舞い、そして受け入れたのかが明らかになります。

最後の最後、エピローグとして登場するスイートピーのバス停シーンはまるでベイビードールの見た妄想です。なぜならバスの運転手として登場する老人は唯一ベイビードールの回想の中のさらにファンタジーシーンだけで登場する人物で、彼女に助言を与える人物、すなわち彼女自身の意識の投影だからです。そして本作は完全にベイビードールの一人称視点であることも言及しないといけません。本作の妄想シーン以外は全て彼女の見た(=見られる)シーンで構成されています。このあたりは冒頭でベイビードールが鍵穴から継父が妹を襲いに行くのを見るシーンで印象づけられます。

ということを踏まえると、本作は病んだハッピーエンドだということになります。妹を助けられず継父に嵌められた少女が、精神病棟からの脱出を試み、そして仲間が犠牲になりながらもスイートピー(=精神病院にいれらている姉妹の姉。)だけを脱出させることに成功します。ベイビードールはロボトミー手術を受け、その瞬間に自分の人生を「自身の境遇に似たスイートピーを助けるためのものだった/彼女が主役だった」と割り切って納得します。そして壊れた心の中で、スイートピーが脱出した後で見事に故郷に戻るというハッピーエンドの妄想に閉じこもります。もちろん実際にどうなったかは分かりません。誰かを逃げそうとしたのは間違いないですが、本当に逃げられたのかもしれないですし、妄想かもしれません。

この辺はオリジナル版(143分バージョン)の「未来世紀ブラジル」とも同じです。

ザック・スナイダーの頭の悪さ(笑)。

という基本的なフォーマットを言い訳に使いつつ、本作は予算の限りをアクションとパンチラにつぎ込んできます(笑)。いきなりフェティッシュなコスチュームでパンツをチラチラ見せながら刀を振り回してゾンビをぶっ殺しまくるわけで、これは完全に言い訳できません(笑)。

パっと見ただけでも、ベイビードールは押井守の「Blood The Last Vampire(2000)」、最初のファンタジーシーンは純オリエンタルな「鬼武者(2001/Play station)」、その次のナチスとの戦争シーンはスチームパンク風の「ナチス・ゾンビ 吸血機甲師団(1980)」「処刑山 -デッド・スノウ-(2009)」に「サクラ大戦(1996/Sega Saturn)」のロボット付き、さらに中世ファンタジー風の「ドラゴン・ハート(1996)」「ロード・オブ・ザ・リング(2001~2003)」、その後の暴走列車は「スパイダーマン2(2004)」や「バットマン ビギンズ(2005)」「ファイナルファンタジー7(1997/Play Station)」のような近未来風な舞台で「スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス(1999)」風の対アンドロイドのチャンバラ活劇。きちんとやりたいことをぶち込んだ上で好きなように予算を使っています。まさにオタクの夢可愛い女の子達に可愛いコスチュームを着せて好きなようにゾンビやロボットをぶち殺すアクション映画を撮る。70億円もかかったあまりにもスケールがでかい中二病ですが、ある種の到達点という感じがして大変好感が持てます。というか画面からもハッキリとザック・スナイダーがはしゃいで居るのが分かります(笑)。

本作は「ガフールの伝説(2010)」という本当に酷い企画の映画を撮ってきっちりと利益を出してみせたザック・スナイダーへのワーナーブラザースからのご褒美の意味合いが強いです。

WB:「よくやったザック。予算をやるから好きな映画を撮って良いぞ。」
ザック:「マジッスか!?じゃあアクションものやらせて下さい!!!! パンチラとゾンビ多めで!!」

ってなもんです。まぁいいんじゃないですか、、、楽しそうだし(苦笑)。一応本作全体という意味での一番の元ネタはイギリスのロックバンドコンビ「ユーリズミックス」のセカンドアルバム「スイート・ドリームス」です。本作のレノックス・ハウスの名前もこのユーリズミックスのアニー・レノックスから取ってますし、冒頭でそのままずばりこの曲が流れて「レノックス・ハウス」の門が映るというコントみたいなシーンもあります(笑)。

ザックの素晴らしい所はこういう元ネタを一切隠さないことです(笑)。クリストファー・ノーランやダーレン・アロノフスキーは元ネタを指摘されてもしらばっくれるのですが、間違いなくザックはそこからオタク話に花が咲くタイプです。つまり生粋の良い人。クエンティン・タランティーノとかJ・Jエイブラムスみたいな明るいリア充オタクです(笑)。

【まとめ】

とりあえず男の子は見に行って下さい。苦笑しながらも微笑ましく見られること必至です。大傑作というわけではないですが、ザック・スナイダーが趣味丸出しで好きなことを好きなようにやっているそのテンションの高さは感じとれると思いますし、そのテンションがフィルムから否応なく漏れ出しています。ちょっと吹き替えを見に行く気力はないですが、字幕版であれば終了前にもう一回ぐらいは見に行こうと思っています。こういう無駄使いなバカ映画は無駄に大きなスクリーンで見た方が面白いに決まってますから(笑)、DVD待ちと言わずに劇場に駆けつけましょう。オススメです。

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