本日は3本です。1本目は
「必死剣 鳥刺し」を見てきました。
評価:
– 殺陣は良かったけど、尺が長すぎる。【あらすじ】
海坂藩は藩主の妾・連子によって荒れ果てていた。堪りかねた兼見三左ェ門は能楽の席で連子を刺殺する。打ち首も覚悟しての行動だったが、兼見には減俸と1年の謹慎処分のみが下された。謹慎処分の明けた兼見は領内を旅して過ごすが、2年の後、彼は中老・津田によって再び藩に召し抱えられる。別家の謀反の噂を耳にした津田は、兼見の剣の腕で別家に対抗しようとしたのだ。こうして兼見は否応なく権力闘争に巻き込まれていく、、、。
【三幕構成】
第1幕 -> 連子暗殺。
※第1ターニングポイント -> 兼見に処分が下される。
第2幕 -> 兼見の閉門と回想。
※第2ターニングポイント -> 藩に召し抱えられる。
第3幕 -> 別家殿の謀反。
【感想】
本日の1本目は藤沢周平原作「必死剣 鳥刺し」です。自身の作品の映画化を嫌がっていた藤沢周平ですが、亡くなったのを良いことにバシバシ映画化されていましてちょっと複雑な心境です。「花のあと」と同様、やはり中年の方を中心にかなり観客は入っていました。
概要
話はいたってシンプルです。本作は秘剣シリーズの一編ですので、他のシリーズ作品と同様のストーリーです。すなわち、「普段は小役人だけれども実は剣の達人という男が、周囲にまきこまれて否応なく秘剣を使うハメになる」という話です。本作では、海坂藩の藩主が悪女にそそのかされて悪政を行っている状況下で、悪女を切った男が「政治を立て直そうとする藩主の従兄弟」と「権力を欲する中老」の権力闘争に巻き込まれていきます。
アレな所
話を観た方なら絶対に違和感を感じると思いますが、本作で謀反人として扱われている別家・帯屋は明らかに民衆のヒーローです。ですから、兼見三左ェ門は正義のために妾を切ったにもかかわらず、最後は仕事として悪人の味方をしてヒーローを切ってしまうわけです。兼見の価値観がブレブレです。
また、短編なりの話を2時間に伸ばした結果、中盤というか二幕目に推進力がありません。本作では一番盛り上がる妾の暗殺を冒頭にもってきて、後から回想で事情を描きます。ところがこの事情というのがまったくもって予告編を見て分かることそのものなんです。妻が死んで失う物がなくなった男が、藩のために悪女を暗殺しただけです。それ以上が描かれません。ですから、謹慎中の回想も謹慎後に「なぜ殺したのか」と方々で聴かれるシーンも、すべて無意味です。この一時間くらいは完全にストーリーが止まってしまって全てが蛇足です。そしてここで展開される、三左エ門と里尾との関係も、右京太夫と帯屋隼人正との関係も、上っ面のみでかなり適当です。両者とも、「もうこうなったらこうするしかない」っていう臨界点みたいなものが全く見えないので、雰囲気だけなんとなくな感じで流れていきます。池脇千鶴の存在感は相当なものですが、全然キャラクタ-に魅力を感じませんでした。
【まとめ】
結局、短編小説なら短編なりのボリュームで映像化するべきだったと思います。下手に尺を伸ばしたために蛇足感がかなり強く、非常に退屈な印象を持ちました。とはいえラストの帯屋との一騎打ちから続く殺陣は最高でした。本作唯一の見せ場です。結局、この秘剣シリーズは一種の出オチものなんです。「秘剣~」という技名はタイトルで分かっていて、それがどんなワザで、どんなシチュエーションでだすかが肝です。なので必然的に秘剣を出すまでの流れは全て前振りになってしまいます。要はシチュエーション作りです。本作ではあまりにそこが長すぎるために、肝心の殺陣までにだいぶテンションが落ちてしまってあまり楽しく見られません。
本作が気になった方は、原作の短編小説を読んで映画の存在は忘れましょうw それが最も幸福です。
『必死剣鳥刺し』お薦め映画
藩を現代の会社だと考えても十分納得のいく内容である。ラストの壮絶な戦いすら、我が身に置き換えることのできる方がいらっしゃるかもしれない。運命の不条理を描く大人のための時代劇。