「なくもんか」を玉砕覚悟で見てみました。
評価:
– うすら寒いッス。【あらすじ】
下井草祐太は幼い頃母親と別れ、さらに父親に逃げられてハムカツ屋「山ちゃん」で育てられる。その生い立ちから心を閉ざし誰にでも笑顔を振りまきながら、無類のお人好しとして善人通り商店街の名物となっていく。父親代わりの山岸正徳から「山ちゃん」を継いだ祐太は、山岸の娘・徹子と結婚するも、戸籍謄本で生き別れの弟・祐介の存在を知ることになる、、、。
【三幕構成】
第1幕 -> 祐太の生い立ち
※第1ターニングポイント -> 山ちゃんに徹子が帰ってくる
第2幕 -> 祐太と徹子の日常と、弟の発見
※第2ターニングポイント -> 父親が祐介の前に現れる
第3幕 -> 祐太と祐介の関係修復と沖縄
【感想】
「舞妓Haaaaan!!!」「少年メリケンサック」「カムイ外伝」と宮藤官九郎とは相性が悪い(笑)私ですが、本作も見事に撃沈しました。とにかく作品全体に流れるうすら寒いギャグと、これでもかと言うほど畳みかけてくる内容の伴わないお涙頂戴に、130分間ずっと心の中で舌打ちが止まりませんでした(笑)。
■ 宮藤官九郎のギャグ
私、ブッチャーブラザーズは大好きです。学生の頃「ゲームWAVE」でぶっちゃあさんが出てる回は全部見てましたし、伊集院光の深夜の馬鹿力でフィーチャーされるたびに録音していました。でも、、、でもですね、、、本作のコント・シーンはひどすぎます。
本作は「笑う警官」の角川春樹のように、宮藤官九郎の「僕ってインテリでしょ。オサレでしょ。」というオーラが節々に出てきます。水田監督・宮藤脚本・阿部主演といえば「舞妓Haaaaan!!!」が思い浮かびますが、あの作品も肝心の舞妓修行の動機等がロクに描かれずにテキトーなギャグが散りばめられた酷いものでした。随所で言われているように、宮藤脚本の特徴はこの畳みかける小ネタギャグにあります。
本作で最もどうかと思うのは、劇中に出てくる「売れっ子お笑い芸人の弟」がまったく面白くないことです。画面内では爆笑されてモテモテなのに実際には全然面白くないため、猛烈な乖離感に襲われます。僕の笑いのセンスが悪いんでしょうか?でも劇場内でもまったく笑い声が起きていなかったので、客観的にもスベってると思います。この「宮藤ノリ」という猛烈なアクに乗れるかどうかが本作の全てと言って良いと思います。
クライマックスのコント・シーンなんて、最も安直な笑いである「下ネタ」ですよ?もはやストーリーテリングを放棄しているとしか思えません。カタルシスが起こるわけ無いじゃないですか。
■ ストーリーについて
ストーリーは安直で捻りが無く、よく言えば王道であり悪くいえば平板で退屈です。本作の中心になっているのは「親と子/兄弟のかたち」です。本作にはいろいろな家族関係が出てきます。父子関係で「健太と祐太(バカ親父と捨てられた子)」「山ちゃんと祐太(育ての親)」「祐太と徹子の連れ子」「大臣と認知した子」の4パターン、兄弟では「祐太と祐介(実の兄弟)」「祐介と大介(仕事上の兄弟)」と2パターン、描こうと思えばいくらでも展開できる材料はそろっています。しかし「真の家族とは?」とか「家族の形って?」みたいな所まではテーマが及びません。ただ単に連れ子が祐太を受け入れて大団円になってしまいます。残念ですが、本作の兄弟関係・親子関係は状況のハードさとは裏腹に大変浅薄に描かれてしまいます。
【まとめ】
見ている最中にいろいろと映画について考えさせられました。宮藤さんはおそらく舞台演劇ではすばらしい評価を得ているのでしょうが、やはり映画には向いていません。くだらない小ネタを重ねても、暗い中でスクリーンに集中している映画観客はあんまり笑えません。それよりは脚本でのテーマ設定だったり時間配分だったり、そういった所をもう少し丁寧にやっていただかないとやっぱり駄目映画なんです。
家族や親子関係についての映画であれば、今年「湖のほとりで」というすばらしい映画がありました。まだ掛かっている映画館もありますので、「なくもんか」よりも「湖のほとりで」をオススメします!
二時間見るには正直に厳しい内容でした。徹子が祐介に「おまえがそこまで言う笑いを見せてみろ」と詰め寄る場面がありますが、私も宮藤さんにそっくりそのまま伝えたいです。
「くだらない小ネタはいらないから、あなたが本当に面白いと思う全力の笑いを見せてくれ!」