8月最後の映画は
「トイレット」です。
評価:
– 見やすくはなった荻上ワールド【あらすじ】
ある日レイの母親が亡くなってしまう。残されたのはレイと、引きこもりで兄のモーリー、学生の妹リサ、そして母が死ぬ直前に日本から連れてきた祖母・バーチャンだった。4人は一つ屋根の下で暮らしながら、交流を深めていく。
【感想】
8月の最終日は荻上直子の「トイレット」を見てきました。OLを中心にかなりのお客さんが入っていまして、男の私は若干肩身が狭かったです。
本作を語る上ではどうしても荻上直子という監督に注釈が必要になってきます。荻上監督は「ぴあフィルムフェスティバル」のスカラシップ上がりで独特の世界観を作ってくる個性派です。ここから私が書くことはあくまでも個人的な見方ですので、荻上監督の熱烈なファンの方には先に謝っておきます。
荻上監督が「かもめ食堂(2006)」「めがね(2007)」で行ったのは「なんとなくそれっぽい”雰囲気”だけを積み重ねることで生じる”癒し空間”を観客とスクリーンが共有する」ことです。ファンの方には本当にすみませんが、ハッキリ言います。これは新興宗教のミサと同じです。その独特の”癒し空間”にわらわらとメンヘラなOLの方々が引き寄せられる作品ですから、当然彼女たちの作品の評価・満足度は相当に高くなります。しかしその一方で、これは決して普遍的な何かをメッセージとしているわけではありません。だからその他の観客にとっては退屈だったり意味がわからなかったりするわけです。
私の「かもめ食堂」と「めがね」の感想は、一言で言うと「気持ち悪い」です。あまりにも押しつけがましい”癒し”に逆に身構えてしまいましたし、何より周りの女性達の異様なまでの熱気に本当にマズい宗教行事に紛れ込んでしまったような気分になりました。そういった意味では昨年の「仏陀再誕」と同じとも言えます。
さて、その中で三年ぶりの新作である本作です。当然世界観は全二作を踏襲していまして、本当に気色の悪い共同生活が唐突に始まります。引きこもりを舐めているとしか思えないモーリーのキャラ設定に心底腹がたったり、レイのあまりのステレオタイプの「いけてないギーク」っぷりに心底腹が立ったり、リサのいかにもババァの考える「イケイケな白人女子大生 a.k.a ビバリーヒルズ青春白書」っぷりに心底腹が立ったり、そしてバーチャンの「雰囲気だけミステリアスな奇人」な描き方に心底腹が立ったりしたんですが、そういったことはとりあえず置いておきましょう。
本作で全二作から大きな進歩だとおもうのは、とはいえその雰囲気を説明しようとする努力の跡だけは見えることです。つまりいままでは雰囲気だけで完全に流されていった不思議設定達に、ちょっとは意味らしきものを深読みして汲み取ってやれないこともないくらいにはなっているということです。なので、腹は立ちますが決して「まったく意味不明」というわけでは無く、「意味はあるけど下らない」というぐらいには良くなっています。全然褒めてませんがw
【まとめ】
間違いなく荻上ワールドの中では見易い(=嫌悪感が少ない)作品になっています。前2作を観ていない方は、是非「荻上ワールド入門編」としてご覧になると良いかもしれません。でもくれぐれも「癒し空間」の勧誘にだけは乗らないように注意しましょう。そこはフォースのダークサイドですw