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「シン・ゴジラ」です。
評価:
– 熱血”躁”ムービーの傑作!【あらすじ】
東京湾羽田沖で謎の水蒸気爆発が起きた。政府は緊急で会議を招集するが、海底火山か、はたまた謎の原子力潜水艦潜の事故か、まったくわからない。そんなおり、ネット上の動画サイトに現場の映像があがる。そこには巨大生物と思われる尻尾のようなものが映っていた。水生生物が陸上にあがったら自重で崩壊する。そんな希望的観測を尻目に、生物は多摩川を昇り大田区に上陸する。それは、ウツボのようにのたうち回りながら這いずる、恐ろしい怪物だった、、、。
【三幕構成】
第1幕 -> 水蒸気爆発と、謎の怪獣の上陸
※第1ターニングポイント -> 怪獣が東京湾に帰っていく
第2幕 -> 政府対応と怪獣の再上陸、矢口プランの進行
※第2ターニングポイント -> 矢口プラン改めヤシオリ作戦の準備完了
第3幕 -> 最終決戦「ヤシオリ作戦」
【感想】
昨日はレイト・ショーでシン・ゴジラを見てきました。最近あんまり長文を書きたくなるテンションの映画がなかったのですが、このシン・ゴジラはですね、久しぶりに書かざるを得ないというか、なんかこうスクリーンの熱血がそのままこっちに乗り移るような、とてもエモーショナルな映画でした。まるで劇中でゴジラが自身の熱核エンジンの放熱のために口から火炎を出すように、私も叩きつけられた「熱血」を吐き出さないとどうにも収まりがつきません(笑)
ということで、いつものお約束です。
これ以降の文章は、ほぼ最後の部分までのネタバレを多大に含みます。未見の方はご注意ください。とはいえ、本作の根幹はとてもシンプルなストーリーです。そして、一回の鑑賞で全部を拾うのは無理なほど、細かいディテール=オタクマインドでゴテゴテに装飾されています。ネタバレが作品の価値を削ぐたぐいの物ではないという言い訳をしつつ、書いていきます。悪いことは言いませんので、絶対劇場で見た方がいいです。大画面で、大音響で、このフィルムの熱量に当てられてこその作品です。
ハリウッドへの対抗=作品のピュア化という疑い(笑)
皆さん、昨年の映画を思い浮かべて下さい。「ハリウッド作品以外で世界的に大成功した作品」というと何を思い浮かべるでしょう?私がこのシン・ゴジラを見て真っ先に思い浮かべたのは、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」でした。作品の根幹にドンと大テーマを据えて、そのまわりを限りなくピュアな要素で埋め尽くす。万人への受けを狙うのではなく、監督自身が好きなもの、好きなディテールを素直に全力で押し出し、観客はその熱量を正面から”叩きつけられて”興奮する。こういうある種のアトラクション・ムービーです。
本作のテーマは「熱血からくる人間の団結力」です。ポスターに「現実vs虚構」というキャッチコピーがありますが、正直あまり敵側(ゴジラ側)は関係がありません。人間側が団結して力を発揮した時、もう勝負はつきます。
本作は、いろいろな立場の人間達がいろいろな行動原理(※もちろん保身であったり建前であったり)で動きながらも、結局は己の意思で団結し、自分にできるベストを尽くして勝利を得るという、これ以上ないほどのカタルシスにつつまれた作品です。最終盤にそれまで頼りなかった総理代理がフランス大使に頭を下げて最敬礼するシーンが映りますが、これほどまでに格好いい土下座(※土下座ではないですが、精神的には土下座ですw)はあったでしょうか? これぞ漢の信念の土下座外交です。
この「己の信念にしたがって全力で行動する」ことこそ「熱血」の根幹であり、そして各人の「己の信念」がヤシオリ作戦へと収束していくところが「シン・ゴジラ」の最大の美点です。本作に対して、人間ドラマが足りないとか、庶民の愛憎(家族愛とか)が無いとか、そういう批判が出ることが正直よくわかりません。これほど人間ドラマに溢れ、これほど人間賛歌に徹底している娯楽作品が他にあるでしょうか?
ハリウッド・メソッドに忠実な構成
本作の素晴らしさに、映画構成の完璧さがあります。本作は一見するとずーっとセリフ劇が続くように見えますが、構造が非常にシンプルでしっかりしているため、まったく飽きることがありません。
一幕目では謎の怪獣が東京湾に出現し、大田区→品川区と街を壊していきます。この時、政府の対応はというと、異例の事態で法律がないとか、どの省庁の管轄になるかとか、学者を呼んで意見を訊くとか、本当にどうでもいいプロセスに終止します(笑)。このパートは「お役所ギャグパート」としても成立していまして、まさにハリウッド・メソッドで言うところの、「笑いは一幕目に固めるべし」というセオリーそのままの構成です。
これが二幕目に入りますと、主役である矢口蘭堂が正式にゴジラ対策プロジェクトの担当に任命されて、変人たちを集めた越境特別チームを動かし始めます。このパートでは徹底して「政府本丸」と「特別チーム」の対比が描かれます。政府側が法整備を進め組織としての体裁を保ったままで「正式な対応」を進めるのに対して、特別チームは「人事査定には関係ないから忌憚なく意見して好き放題動いてくれ」と現場の個の力を頼りに研究を進めます。そして、問題の石原さとみ扮する「カヨコ」が登場します。彼女はアメリカ大統領の特使というバリバリの権威側として登場しながらも、「タメ口でいいわよ」という一言で特別チーム側の価値観であることを表明します。
ここではギャグは段々と鳴りを潜め、シリアスな展開が続きます。きちんとミッド・タ―ニングポイントで「ゴジラの再襲撃→多摩川防衛のタバ作戦」という盛り上がりもあり、そして本作一番の盛り上がりどころ、ゴジラの放射熱線が入ります。この放射熱線にしても、プロレスで言う所の「ハルク・アップ」というか、ピンチからの一発大逆転というある種のカタルシスがあります。そしてその後の闇夜に浮かぶ神々しいまでの立ち姿は、まさに「ラスボス登場」を思わせる絶望の象徴であり、これこそ「団結しないと勝てない」ことをまざまざと見せつけてくるわけです。
そして二幕目の終盤、「私は好きにした。君たちも好きにしろ。」という牧悟郎博士の遺言をキーワードに、政府側も含めた全ての人物が「自分達の意思で」団結し、そして官民一体かつ統一目的意識で組織化された「ヤシオリ作戦」が開始するわけです。
ついにやってくる怒涛の三幕目、新幹線の突撃や「無人在来線爆弾」など、”これぞセンス・オブ・ワンダー”というオタクマインドにあふれた攻撃で、スクリーンは埋め尽くされます。ここまで来ると、もはや完全に祭りです(笑)。まさにピュアな意味での「熱血」。とにかく「やっちまえ!」というテンションだけの至福の30分です。
そこまでの展開との壮絶なギャップにニヤニヤしつつ、溜めに溜めたストレスを全力で放出する最高の時間です。はっきり言って三幕目は急に頭が悪くなり、スクリーン全体が幼児退行します(笑)。このピュアさがまたぐっと来るんですね。だって「無人/在来線/爆弾」という単語の繋がりを、どの大人が会議室で思いつきますか? 好きじゃなければ出てこない単語です。いままでのシリーズで散々踏み潰されてきた在来線が、ついに復讐するこのカタルシス!そして絵面の格好良さ!
庵野監督はいわゆる熱心な「信者ファン」が多いことでも有名ですが、やっぱりこういう自分の趣味全開の熱量を臆面もなく出してくるクリーエーターは、それだけで十分に価値があると思います。だってそれこそが「作家性」っていうことですから。
【まとめ】
私はあまり熱心な特撮/ミリタリーファンではないのですが、このテンションは最高に楽しめました。もちろんゴジラフリークの方からすると「こんなのゴジラじゃない!」みたいないつものパターンになるのかもしれませんが、ある意味「作家性」が「ゴジラ」を塗りつぶしたという事ですからまったく問題無いと思います。一応形式的に指摘しておけば、本作のゴジラが何故東京を目指したのか、そして最後に何故皇居へ向かったのかは特に説明はありません。そして本作が福島第一原発事故を意識しているのも疑いようがありません。このゴジラの「目的のわからなさ」こそが恐怖であり、そして最後に「一時停止させただけで根本的な脅威は残っている」という状況に繋がります。どうしようもないものや得体のしれないものに対峙して、人間が団結する。これこそ人間賛歌どまん中ではないでしょうか?
取り留めもなくなってしまいましたが、本作は最高の大娯楽作品です。日本映画だって全力で娯楽作品つくれるんじゃん!という希望に満ちた素晴らしい作品でした。「熱血」ってある意味「過剰さ」が肝だとおもうんですね。本作の「熱血」を堪能するなら、大画面大音響が絶対必要だと思います。是非劇場で御覧ください!