アンノウン

アンノウン

土曜の2本目は

アンノウン(2011)」でした。

評価:(65/100点) – 安心と信頼のダークキャッスル印


【あらすじ】

バイオテクノロジー学者のマーティン・ハリス博士は妻リズと共に学会に出席するためベルリンに来ていた。無事会場のホテル・アドロンに着いたものの、空港に忘れ物をしたマーティンは一人タクシーを拾って空港に戻ろうとする。しかしその途中、彼は交通事故にあって昏睡してしまう。
それから4日後、目を覚ました彼は朦朧とした意識の中でやっと思い出したホテルへと向かう。しかし妻は自分の事を知らないと言い、さらにまったく別の人間がマーティン・ハリス博士を名乗っていた。
彼は交通事故で記憶が混乱してしまったのだろうか? 彼はいったい何者なのか?


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【感想】

土曜の2本目は「エスター(2009)」のジャウム・コレットセラ監督の新作「アンノウン」です。予告を見るだにB級臭がプンプンしますw その臭いにつられたのか、結構中高年のお客さんが入っていました。
サスペンスですのでネタバレ無しで行きたいと思います。
本作は前半と後半でまったくテイストが違います。前半はどちらかというとサイコスリラー風味なんですが、ある出来事をきっかけに急にアホな力技のサスペンス映画になります。でまぁ前半からダークマンの頃のようにちょっと猫背でガシガシ歩くリーアム・ニーソンが待ってましたとばかりに暴れまくるわけで、これがつまらないはずがありません。
直接的に連想されるのは昨年の「パリより愛をこめて」。それとリュックベッソンの一連のバカ・アクション映画です。全体的に投げっぱなしな感じですとか、実は凄い人という体裁の脇役が出てくるのに妙に薄っぺらい感じですとか、結局身内だけで全部完結してる感じですとか、そっくりですw
こういう「ド」が付くほどのB級映画は細かい事を考えずにポップコーンを食べられるかどうかが勝負ですので、これはもう大変すばらしいポップコーン映画に仕上がっています。だって俺たちのアニキが困り顔でモテモテなんですよ!!!! だってダイアン・クルーガーがちょっとヤンキーっぽくってイケイケなんですよ!!! パスポートを持ってない外人が事故って昏睡してるのに警察は調べに来ないのかとか、一流ホテルのドアマンがVIP客の顔を忘れるわけ無いとか、webサイトの画像を差し替えたってキャッシュで分かるしそもそもプロがそんな証拠になる痕跡を残さねぇよとか細かい所は一杯ありますが、一切気になりません。
超最高!!! 超楽しい!!! 超オススメです!!!!



って浮かれられれば良いんですけど、でもたぶんこれってリーアム・ニーソンが元々アマチュア・ボクサーでアクション俳優(アイドル)だっていう前提を分かってないとただのハチャメチャな映画に見えてしまうかも知れません。その辺はバットマン・ビギンズ以降でかなりアクション畑に戻ってましたのである程度は大丈夫かと思います。
タレ眉毛で困り顔なのに超強いというギャップがリーアム・ニーソンの一番の魅力なので、本作はまさしくバッチリの企画です。だからやっぱ最高!!!! 超楽しい!!! 超オススメです!!!!
っていうぐらい大味な感想がぴったりな映画です[emoji:i-229]

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孫文の義士団

孫文の義士団

水曜日は久々にレイトショーで

「孫文の義士団(原題:十月囲城)」をみました。

評価:(70/100点) – 「長坂橋仁王立ち」が5回も見られるなんて!!!


【あらすじ】

時は1906年。西太后の圧政が吹きすさぶ清朝から逃れるため、民主革命を志す本州人達はイギリス領香港へと渡ってきていた。そんな時、日本へと逃げ延びていた革命運動の首謀者にして革命団体・中国同盟会の創設者・孫文が香港を訪れるとの情報が流れる。そして孫文の渡航に合わせて清の本土からも各地の革命指導者達が集合し会議が開かれるという。
しかし、この情報は西太后にも伝わっていた。西太后は反政府分子を一網打尽にするため、500人からなる暗殺集団を差し向ける。一方の革命家たちは香港で護衛団を結成する。孫文の滞在時間はわずか1時間。護衛団は果たして一時間を持ちこたえることが出来るのか、、、。


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【感想】

水曜日は昨年の香港電影金像奨のグランプリ作品、「孫文の義士団」です。レディースデーだからなのか香港スター全員集合だからなのか、女性の一人客が結構居てちょっとビックリしました。カンフー映画なのに、、、。
最近は「*****版エクスペンダブルズ」という表現が非常に多くて大変喜ばしい限りですが(笑)、本作も「香港版エクスペンダブルズ」の名に恥じぬオールスターっぷりを披露してくれます。ちょい役なのにいきなりサイモン・ヤムが出てきたり、いつも以上にヘタレなドニー・イエンや浮浪者のレオン・ライ、敵のパシリでストライクフォースのカン・リーまで出てきます。そして話しのフォーマットも昨年の「十三人の刺客」に似ています。少数対多数の集団戦をメインにして、それまでの過程を前振りとしての前半でさらっと見せます。
ただ、「十三人の刺客」と比べればまだ丁寧に前振りをしている方だと思います。本作の話しの軸は数々の親子関係です。革命に賛同しながらも息子にはまっとうな人生を臨むリー・ユータン。酒とギャンブルにおぼれて娘と会えなくなったシェン・チャンヤン。両親が自分のせいで死んでしまったリウ・ユーパイ。父の弔い合戦に挑むファン・ホン。育ての親の恩に報いるために命を賭けるアスー。革命家のシャオバイと破門僧ワン・フーミン以外の全ての護衛団は親子関係を動機として行動します。この辺はきちんと統一されていますし、きちんと描く部分を整理していて頑張った跡が見えます。
ところが、、、やっぱりアクションの繋ぎ方がちょっとワンパターン過ぎます。なにせ本編である「孫文の滞在1時間」が始まってからというもの、「刺客が襲ってくる」→「護衛団の誰か一人が仁王立ち」→「護衛が敵を決死で食い止めるが力尽きる」→「次の刺客が襲ってくる」というパターンを延々と見せられます。たしかに一回一回のシチュエーションは非常にテンションが上がりますし、特にドニー・イエンはやっぱり圧巻のクオリティです。ただ、、、ただですね、、、、全体的にワイヤーを使いすぎなのとカメラの動きで誤魔化しすぎで、正直なところアクションについてはおしなべて中の上っていう位のクオリティです。
なんというか、、、せっかく豪華なメンツを使ってお祭り的なエンタメ映画を作っているのに、いまいち絶賛しきれない感じなんです。もちろん所々演出上で上手い部分はあるんです。孫文が1905年に死んでいないのは誰でも知っていることなので、物語は途中で「孫文の影武者を守れるかどうか」という話しにスライドしてちゃんと最後までハラハラさせる展開にしますし、孫文ほどの大メジャー人物に興味が移らないようにワザと孫文の顔を最後の最後まで映さなかったり、工夫の跡は結構見られます。とはいえあんまりテンションが振り切れるような熱血展開も無いまま、気付いたらなんとな~く終わっています。決め絵は本当に格好良いんです。レオン・ライが鉄扇を持って階段で仁王立ちするのなんか鳥肌ものの格好良さです。
なにが物足りないかと考えると、キャラクターとアクションの説得力だと思います。本作では護衛団同士の連携があんまりありませんので、どうしても一種のシチュエーション演舞に見えてしまうんです。「ここから5分はクリス・リーの時間」とか「ここからはレオンの出番」となっているため、前後とのつながりが全然ありません。そうするとそこまでの流れが一切関係なく俳優のプロモーションタイムが始まっちゃうんです。それでいてアクションを誤魔化してるのはさすがにちょっと厳しいです。

【まとめ】

全体的には面白いですし、概ねエンタメ映画としては良く出来ています。個人的にアクションを期待しすぎていただけのような気もしますが少々物足りなさが残ってしまいました。さすがに「十三人の刺客」と比べるのは厳しいですが、面白い映画なのは間違いないですし歴史を知らなくてもシンプルなエンタメ構造なので十分に楽しめます。オススメかどうかと言われれば、それはもう当然オススメです。アクションはニコラス・ツェーも出ている新作「新・少林寺」に期待しましょう。オススメです。

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エンジェル ウォーズ

エンジェル ウォーズ

土曜は一本、

エンジェル ウォーズ(サッカー パンチ)」を見てきました。

評価:(70/100点) – さすがザック!!! オタク丸出しのダークファンタジー!!


【あらすじ】

母の遺産を全て継ぐことになったベイビードールと妹は、継父に逆恨みされ命を狙われる。妹は継父に殺され、ベイビードールはその殺人の罪を着せられ(※)レノックス・ハウス精神病院に入れられてしまう。
継父に買収されたレノックス・ハウスのブルー・ジョーンズは、ベイビードールにロボトミー手術を行って廃人にしようとする。ベイビードールは果たしてレノックスから脱出することができるのだろうか?
※ http://www.metacafe.com/watch/6185190/exclusive_six_minutes_of_sucker_punch/
  何度かこのシーンを見直してるんですが、ベイビードールが撃った弾が誤って妹に当たっている様な
  演出にも見えます。その場合普通に逮捕されただけです。

【三幕構成】

第1幕 -> レノックスへの入所とロボトミー手術
 ※第1ターニングポイント -> ベイビードールが始めてダンスを踊る。
第2幕 -> 脱出作戦。
 ※第2ターニングポイント -> 脱出作戦がばれる。
第3幕 -> 結末。


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【感想】

今週の土曜日は信頼できるバカ(笑)、ザック・スナイダー監督の最新作「エンジェル ウォーズ」を見てきました。新宿ピカデリーでは半分ぐらいの座席が埋まっていたと思います。アメリカでは漫画オタク狙い撃ちなマーケティングをして見事に興行的に大コケしていますが、日本ではファンタジー色を前面に出して上手い具合にその辺りはぼかしています(笑)。とはいえ、アイドル声優ユニットのスフィアを吹き替えのメインどころに起用して、ちゃんとオタクを狙い撃ちにしてはいます。このマーケティングがすごい嫌だったので(笑)、あえて字幕上映に行ってみました。なんですが、字幕公開館が少なすぎです。3D映画以外でここまで吹き替えに偏重しているのはかなり異例です。

ここでいつものお約束です。本作にはいわゆる”オチ”がつきます。オチが付くんですが、構造上そのオチを前提にしないと色々と説明が出来ません。ここ以後、直接的なネタバレが含まれます。未見の方はご注意下さい。とりあえず本作は確実に面白い映画ですので是非見に行って下さい。かなりオススメです。

本作の構造

いきなりネタバレから話しを始めたいと思います。
本作はデヴィッド・リンチ監督の「マルホランド・ドライブ(2001)」と同じ構造をしています。要はある少女の夢見心地な走馬燈の話しです。それを時系列で見てみましょう。

物語はベイビードールが過去形で喋るモノローグから始まります。冒頭は台詞無しで彼女がレノックス精神病院に入れられるまでの経緯が描写されます。そして開始7分~8分ぐらいには彼女は椅子に縛られロボトミー手術(※目の上に長い釘を刺される治療)を受けます。その釘がささる瞬間に突然舞台が変化し、売春宿の話しが始まります。ロボトミー手術自体は夜の出し物の舞台で、縛られていたのはスイートピー。スイートピーは唐突に「やめやめ!!」と宣言し、そこから舞台がガラッと変わります。ベイビードールは夜の舞台で踊るダンスの練習をさせられ、その踊りの最中に突如迷い込んだ夢の中で老人に「5つのアイテムを探して自由を勝ち取れ」と教えられます。必要なアイテムは「地図」「炎」「ナイフ」「鍵」、そして最後だけが謎。ベイビードールはスイートピーを含めた4人の仲間と共に、この売春宿からの脱出を謀ります。本作はこの4人+1人の脱出作戦がメインになります。色々あって物語の終盤、舞台は再びレノックスに戻りロボトミー手術を受けた直後のベイビードールが映されます。そしてそこで事の真相が明らかになります。

この物語はベイビードールがロボトミー手術を受ける瞬間の頭の中を描写しています。彼女は妹を助けられなかった自責の念とレノックスに入ってからブルー・ジョーンズに受けた虐待によって、そのとき既に頭がおかしくなってしまっています。これにより彼女の走馬燈(=回想)は彼女の妄想によって実在の登場人物や舞台の設定が変わってしまっています。実際にレノックスで起きた出来事がそのまま歪んだ形で描写されていますので、これは夢の様なものです。現実の人物が彼女の印象によって別の設定で登場してきます。この回想の中で語られる出来事に「スイートピーとロケットという姉妹の話」があります。このエピソードで、ベイビードールがこの姉妹を助けることを自分の「運命」と割り切ったことが伺えます。自分の妹を助けられなかったことを悔いた彼女がいかにレノックスの中で振る舞い、そして受け入れたのかが明らかになります。

最後の最後、エピローグとして登場するスイートピーのバス停シーンはまるでベイビードールの見た妄想です。なぜならバスの運転手として登場する老人は唯一ベイビードールの回想の中のさらにファンタジーシーンだけで登場する人物で、彼女に助言を与える人物、すなわち彼女自身の意識の投影だからです。そして本作は完全にベイビードールの一人称視点であることも言及しないといけません。本作の妄想シーン以外は全て彼女の見た(=見られる)シーンで構成されています。このあたりは冒頭でベイビードールが鍵穴から継父が妹を襲いに行くのを見るシーンで印象づけられます。

ということを踏まえると、本作は病んだハッピーエンドだということになります。妹を助けられず継父に嵌められた少女が、精神病棟からの脱出を試み、そして仲間が犠牲になりながらもスイートピー(=精神病院にいれらている姉妹の姉。)だけを脱出させることに成功します。ベイビードールはロボトミー手術を受け、その瞬間に自分の人生を「自身の境遇に似たスイートピーを助けるためのものだった/彼女が主役だった」と割り切って納得します。そして壊れた心の中で、スイートピーが脱出した後で見事に故郷に戻るというハッピーエンドの妄想に閉じこもります。もちろん実際にどうなったかは分かりません。誰かを逃げそうとしたのは間違いないですが、本当に逃げられたのかもしれないですし、妄想かもしれません。

この辺はオリジナル版(143分バージョン)の「未来世紀ブラジル」とも同じです。

ザック・スナイダーの頭の悪さ(笑)。

という基本的なフォーマットを言い訳に使いつつ、本作は予算の限りをアクションとパンチラにつぎ込んできます(笑)。いきなりフェティッシュなコスチュームでパンツをチラチラ見せながら刀を振り回してゾンビをぶっ殺しまくるわけで、これは完全に言い訳できません(笑)。

パっと見ただけでも、ベイビードールは押井守の「Blood The Last Vampire(2000)」、最初のファンタジーシーンは純オリエンタルな「鬼武者(2001/Play station)」、その次のナチスとの戦争シーンはスチームパンク風の「ナチス・ゾンビ 吸血機甲師団(1980)」「処刑山 -デッド・スノウ-(2009)」に「サクラ大戦(1996/Sega Saturn)」のロボット付き、さらに中世ファンタジー風の「ドラゴン・ハート(1996)」「ロード・オブ・ザ・リング(2001~2003)」、その後の暴走列車は「スパイダーマン2(2004)」や「バットマン ビギンズ(2005)」「ファイナルファンタジー7(1997/Play Station)」のような近未来風な舞台で「スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス(1999)」風の対アンドロイドのチャンバラ活劇。きちんとやりたいことをぶち込んだ上で好きなように予算を使っています。まさにオタクの夢可愛い女の子達に可愛いコスチュームを着せて好きなようにゾンビやロボットをぶち殺すアクション映画を撮る。70億円もかかったあまりにもスケールがでかい中二病ですが、ある種の到達点という感じがして大変好感が持てます。というか画面からもハッキリとザック・スナイダーがはしゃいで居るのが分かります(笑)。

本作は「ガフールの伝説(2010)」という本当に酷い企画の映画を撮ってきっちりと利益を出してみせたザック・スナイダーへのワーナーブラザースからのご褒美の意味合いが強いです。

WB:「よくやったザック。予算をやるから好きな映画を撮って良いぞ。」
ザック:「マジッスか!?じゃあアクションものやらせて下さい!!!! パンチラとゾンビ多めで!!」

ってなもんです。まぁいいんじゃないですか、、、楽しそうだし(苦笑)。一応本作全体という意味での一番の元ネタはイギリスのロックバンドコンビ「ユーリズミックス」のセカンドアルバム「スイート・ドリームス」です。本作のレノックス・ハウスの名前もこのユーリズミックスのアニー・レノックスから取ってますし、冒頭でそのままずばりこの曲が流れて「レノックス・ハウス」の門が映るというコントみたいなシーンもあります(笑)。

ザックの素晴らしい所はこういう元ネタを一切隠さないことです(笑)。クリストファー・ノーランやダーレン・アロノフスキーは元ネタを指摘されてもしらばっくれるのですが、間違いなくザックはそこからオタク話に花が咲くタイプです。つまり生粋の良い人。クエンティン・タランティーノとかJ・Jエイブラムスみたいな明るいリア充オタクです(笑)。

【まとめ】

とりあえず男の子は見に行って下さい。苦笑しながらも微笑ましく見られること必至です。大傑作というわけではないですが、ザック・スナイダーが趣味丸出しで好きなことを好きなようにやっているそのテンションの高さは感じとれると思いますし、そのテンションがフィルムから否応なく漏れ出しています。ちょっと吹き替えを見に行く気力はないですが、字幕版であれば終了前にもう一回ぐらいは見に行こうと思っています。こういう無駄使いなバカ映画は無駄に大きなスクリーンで見た方が面白いに決まってますから(笑)、DVD待ちと言わずに劇場に駆けつけましょう。オススメです。

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記事の評価
イップ・マン-序章-

イップ・マン-序章-

日曜日の3本目は

イップ・マン-序章-(葉問)」です。

評価:(90/100点) – ヘンテコな歴史風アクション映画の傑作。


【あらすじ】

中国の佛山は武家(=道場)が乱立するカンフーの盛んな地である。武家通りには多くの道場が開かれ切磋琢磨している。1935年、佛山に金山找と名乗る道場荒らしが現れる。数々の武家を破り最強を自負する金山找だったが、茶屋の主人に「佛山最強の葉問師匠を倒さずにどうする」と挑発され、葉問の家を訪ねる。しかし葉問は道場を開かず、妻と幼い一人息子に愛想をつかれながらも自己修練に励む日々を送っていた、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 葉問と廖師匠。
 ※第1ターニングポイント -> 佛山に金山找が現れる。
第2幕 -> 金山找の道場破りと葉問。
 ※第2ターニングポイント -> 1937年、日中戦争が勃発する
第3幕 -> 日本占領下の佛山と三浦将軍の武芸修練。
 ※第三ターニングポイント -> 葉問が日本人空手家10人をまとめて倒す。
第四幕 -> 葉問vs三浦将軍


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【感想】

日曜の3本目は「イップ・マンー序章ー」です。新宿武蔵野館の夕方の回でしたが、キャパ133人で100人近く入っていたでしょうか。「イップ・マン2」よりも入っていました。「イップ・マン2」に武蔵野館で5,000人入ったら「イップ・マンー序章ー」を公開するという元も子もないキャンペーンをやっていまして、その結果の本作上映です。本当に5,000人入ったのかは知りませんが(笑)、フィルム1巻なら公開してペイできると見込めたというのは非常に大きいと思います。

一応前提:そもそもこれは事実ではない

まず第一の前提としてそもそもこの話は「伝記物」っぽい体裁の完全フィクションです。本作は「伝記物」の雰囲気を見せながらナショナリズムを喚起する作りになっています。プルース・リーの「ドラゴン怒りの鉄拳」等を見ていれば戦時中~戦後すぐを舞台にした香港カンフー映画で嫌味な日本人が敵役なのは常識です。確かに渋谷天馬演じる佐藤はあまりにあんまりというか、「出っ歯でカメラぶら下げてるチビな日本人像」そのまんまでちょっと腹立つんですが、映画の出来とは関係無いので政治的な部分は目を瞑りましょう。あくまでも「イップ・マン2」のあまりにあんまりな調子扱いてる白人・ツイスターを見るときのような生暖かい目で微笑ましく見ましょう。
一応、葉問の本当の略歴をざっとまとめておきましょう。
葉問は1893年、広東省・佛山の裕福な家庭の次男として生まれます。兄と姉が1人ずつ、妹が1人の6人家族です。13歳で陳華順師匠の詠春拳に入門します。15歳で香港に引っ越すと、セント・ステファンズ高校というお坊ちゃん学校に入学します。10年後の1918年、葉問は佛山に戻り警察官になります。そして警察官の傍ら、仲間に内々で詠春拳を教え始めます。そしてこの内弟子達が広東省に散らばり、詠春拳葉問派を広げていきます。
1937年に日中戦争が始まると、彼は家族と共に弟子の一人・郭富(クォック・フー)を頼り疎開します。そして1945年、終戦と同時に佛山に戻り警察官に復職します。しかしわずか4年後の1949年、中国内戦で共産党が南京を制圧すると、裕福だった葉問は共産党に財産を没収されてしまいます。路頭に迷いかけた葉問は、学生時代を過ごした香港へ逃げます。当時内戦後の食糧難で物価が高くなっており、香港に来たものの葉問は大好きなアヘンが買えませんでした(苦笑)。そこで彼はついに内弟子だけでなく本格的な詠春拳の道場を開き収入を得ることにします。この時葉問は56歳。「イップ・マン2」の舞台はまさにここです。ドニー・イエンが若すぎてピンと来ませんけど。 ちなみに「イップ・マンー序章ー」や「イップ・マン2」で葉問が吸ってたタバコっぽいものはアヘン入りですw
いろいろ弟子をとったり香港詠春拳体育会を設立したりとかありまして、1972年にガンで亡くなります。79歳でした。
ということで、本作のように1937年の日本占領下の佛山で葉問が誇りをかけて戦うというのは全くのファンタジーです。実物はその頃にはいち早く弟子の所に逃げています。この辺りをもって「中国共産党のプロパガンダ映画だ!」と非難するのはたやすいですが、本作はあくまでもエンタテイメント映画です。それは宇宙戦艦ヤマトに「65,000トンの巨大軍艦大和が空を飛ぶわけないだろ!」というのと同じなので気にするだけ野暮です。
あくまでも本作は葉問というカンフー界の有名人を題材にして、それこそ「ドラゴン怒りの鉄拳」がそうであったようにナショナリズムという分かりやすく燃える展開をベタに乗せた作品です。

テーマは一緒。語るスタイルが別。

いきなりですが、実は本作の内容は「イップ・マン2」とあまり変わりませんw 両作品ともに最終的には友情と愛国心のためにイケ好かない外人をぶちのめします。違いがあるとすれば、「イップ・マン2」が「ロッキー4/炎の友情」と同じプロットでそのまんまハリウッド映画の作りをしているのに対して、「イップ・マンー序章ー」は前半・後半でガラッと話しが変わるヘンテコな構成になっている点です。
本作の前半・道場荒らしの件と後半・三浦大佐の件はまったく別物でなんの繋がりもありません。ですが、それを「日中戦争」という歴史的事件に乗せることで「歴史物」っぽさを演出しています。適当な歴史年表をググって見てもらえれば分かりますが、歴史年表はいわゆるストーリーの本筋としての事件の他に直接本筋とは関係無い事件がちょくちょく挟まってきます。この年表の雑多煮な感じと、前半・後半でガラッと話しが変わる感じが非常に相性が良いです。言うなれば年表の箇条書きを見ている感覚です。「1935年、佛山に道場荒らしが現れる。」「1937年、日中戦争が勃発する」というような事です。
ストーリー構成としてはヘンテコながら、この「本当の歴史っぽい」という一点において、この構成は大いに効果的です。
さらに本作は時間軸とイベントの配置が見事です。前半の舞台は言うなれば活気あふれる「ヤンチャな佛山」です。ここでは夫婦漫才的なギャグがどんどん入ってきますし、悪役として登場する道場破りの金山找もコミカルで熊さんっぽい魅力を放っています。画面は彩り豊かで、爆竹や青空が花を添えます。
しかし、これが後半になると一転して超シリアスな展開になっていきます。ギャグが入る余地は無く、色あせて粉塵が舞う黄色い荒廃した佛山が舞台の大半を占めます。室内のシーンでも全体的に暗く黒く、画面からは否応なく鬱屈したプレッシャーがにじみ出てきます。そしてこの鬱屈に合わせて、どんどん葉問も感情を表情に出すようになります。前半では全く無かった葉問が怒鳴り散らすシーンが繰り返され、彼のカンフーも寸止めではなく実戦仕様で相手を破壊するようになります。こういったスクリーン自体が鬱屈した中にあって、ラストのあるイベントの直後から急に画面に色が戻り始めます。その見事さとカタルシスたるや並のアクション映画ではありません。
歴史物っぽさと相まって、気付いたら「佐藤なんざやっちまえ!!!」と葉問を応援しています。で、ふと我に返って「あれ?なんだこの反日描写。チッ。」とかなるわけですw

【まとめ】

前述したように本作はあくまでもフィクションなので日本人に対する犬畜生的な腹立つ描写は気にしないのが一番です。三浦も佐藤も「敵役」以上の何者でもありませんから。ただ冷静に考えると「三浦って普通に弱くね?」とか、「葉問師匠が武器を練習する描写がないのに棒術上手すぎじゃね?」とか気になるところは出てきてしまいます。
これは推測ですが、「イップマンー序章ー」で比較的真面目な「伝記風アクション映画」をやってヒットしたため、続編「イップ・マン2」ではより分かり易くエンタテイメント性を重視したキャラもの作品にしたという流れだと思います。見やすさで言えば「イップ・マン2」の方が格段に上ですが、見易いというのは「話しが軽い」というのと表裏一体なので(苦笑)、是非どちらも見ていただきたいと思います。
そしてさすが柔道・黒帯の池内博之。もう日本の男子若手アクション枠はアンタに任せます!!!! G.J. !!!!!
オススメかって言われれば、そりゃもうオススメしないわけにはいきません。とりあえず「孫文の義士団」の前にドニー・イエン分を補給しておきましょう。オススメです!!!

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グリーン・ホーネット

グリーン・ホーネット

2本目のアクション映画は

「グリーン・ホーネット」です。

評価:(30/100点) – 一瞬だけ楽しい気もするけど支離滅裂で意味不明。


【あらすじ】

ブリット・リードはボンボンの遊び人である。ロサンゼルスで新聞社を経営する父・ジェームズに構ってもらえなかったことからグレてしまい、豊富な私財を悪用してやりたい放題遊びほうけている。
ある日、ブリットが遊びから帰ると、父が庭で蜂に刺されて死んでいた。図らずも2代目社長となったブリットは、父のお抱えドライバー・カトーと一緒に父の銅像の首を切るイタズラをする。それがテレビ報道されるやいなや、彼は自らを覆面の悪党グリーン・ホーネットとして新聞で大々的に取り上げ、マッチポンプ的に有名人になっていく。「悪人に見せかけた正義のヒーロー」を目指すブリットとカトーは、やがてロスの犯罪王・チュドノフスキーに目を付けられてしまう、、、。


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【感想】

本日の二本目は「グリーン・ホーネット」です。今週公開の作品の中では間違いなく一番規模の大きい3D娯楽大作ですので、結構なお客さんが入っていました。
私が大好物なアメコミ・ヒーロー・アクションなのですが、本作は全然テンションが上がりませんでした。なのでさらっと流したいと思いますw
見ていて一番困惑したのは、そもそもブリットとカトーが「悪人(ヴィラン)のふりをする」という部分の描写と説得力の薄さです。ブリットとカトーは、「正義のヒーローは悪人に一般人を人質に取られたら手も足も出ない。でも悪人なら敵も人質なんて考えない。超クールなアイデアだ!」みたいなことを言うのですが、そもそも本作内でやった悪い事は銅像の首を切っただけです。それ以外はマフィアの麻薬工場をつぶしたぐらいで全然描写がありません。あとはちょっと警官とカーチェイスしたぐらいでしょうか。せっかくブリットがマッチポンプで「グリーン・ホーネットは街の脅威だ」みたいな記事を出させているにも関わらず、全然驚異に見えません。ですから、その後の行動がまったく意味が分からないですし、キャラクター達の「行動理念/行動基準」がグラグラです。
そうすると全体が行き当たりばったりのようにしか見えないため、せっかくのアクションもどうでもよく見えてしまいます。そのアクションもスローモーションを多用した非常にミュージックビデオっぽい作りでして、3Dとの相性は最悪です。実は上映途中で3Dメガネを外してみたのですが、まったく問題無く普通に見えていてちょっとビックリしましたw なんか全体的に志しが低いというか、いまいち「作り手が本気で笑わせよう/楽しませよう」としているように見えないんです。一応グリーンホーネットとカトーのコンビは「ボケとツッコミ」「バカと天才」のデコボコ・コンビになってはいるんですが、その二人のキャッキャとした感じ以外は見終わった後なんの印象も残っていません。キャメロン・ディアスもクリストフ・ヴァルツも完全に無駄使いです。
直前に見た「イップ・マン」が面白すぎたというせいがあるとは思いますが、最後まで冷めた見方をして入り込めませんでした。3Dもまったく意味がありませんので、どうしても見る場合には2D字幕で十分だとおもいます。

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イップ・マン 葉問

イップ・マン 葉問

本日はアクション映画2本です。いぇ~~~い!!!
1本目は

イップ・マン2(葉問2/宗師傳奇)」です!

評価:(95/100点) -「ロッキー4/炎の友情」を再び!!!


【あらすじ】

日本兵から逃げ延びた葉問は、広東省から香港へと移り住んできた。独立系新聞の編集長である梁根を頼り場所を借りた葉問は、建物の屋上を利用して詠春拳の武館を開く。しかし弟子はまったく集まらない。
ある日、血気盛んに葉問に挑み掛かってきた黄梁を倒すと、彼は弟子入りを志願してくる。一番弟子となった黄梁は友人達を次々と紹介し、やがて葉問の武館はそれなりの規模になっていく。ところが香港の武館には組合があり、洪家拳武館の洪震南が全ての武館から上納金を集めて統治イギリス軍との仲介をおこなっていた、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 葉問が詠春拳武館を開く。
 ※第1ターニングポイント -> 黄梁の救出
第2幕 -> 葉問と洪震南とイギリス軍
 ※第2ターニングポイント -> 洪震南がツイスターと対決する。
第3幕 -> 葉問vsツイスター


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【感想】

本日の1本目は昨年大ヒットした香港映画「イップ・マン2」です。何故か日本では宣伝のリベロが「2」であることを微妙に隠していますが、歴とした「イップ・マン」の続編です。主演はご存じ香港アクション界2大スターの片割れドニー・イェンです。同級生のジェット・リーに比べて日本では不遇な扱いを受けていますが、間違いなく当代きってのスーパースターです。カンフー映画はあまりお客さんが入らない印象があるのですが今日は客席が7割方埋まっていました。とても素晴らしいことです。

私たちの目頭を熱くさせる漢同士の熱き友情

恥ずかしながら映画の後半は涙が止まらずに上手く見えていなかったのですが(苦笑)、本作は香港版「ロッキー4/炎の友情」といってもいいぐらい素晴らしい友情物語です。それはもちろんドニー・イェンとサモ・ハン・キンポーなわけです。方やジェントルマンとして知られ温和で頭も切れる詠春拳のイップ・マン。方や豪傑であり一見すると武館を仕切るヤクザのように見えながらも、実は誰よりも中国武術を愛するが故にイギリス軍の暴虐に耐え続ける洪家拳のハン・チュンナン。この二人が対立しながらも、そして決して表立って和解はしないながらも、お互いを認め合い静かに友情と信頼を深めていきます。その描写たるや本当にロッキーとアポロを彷彿とさせ、それだけで目頭が熱くなっていきますw
私達映画オタクの感覚からすれば(苦笑)、兄貴肌で傍若無人として知られるサモ・ハン・キンポーと、超ナルシストであるが故にジェントルマンなドニー・イェンという組み合わせが、そのまんまハン・チュンナンとイップ・マンに重なるわけです。それはつまり、香港アクション界の曲者スーパースター2人がきっと撮影中に幸せな時間を過ごしたのだろうという予感とともに、やっぱり目頭が熱くなりますw
そう。本作は完全に漢と書いて「おとこ」と読む漢人たちの繰り広げる、友情と誇りの物語です。本作に女・子供はイップとハンの家族以外はほとんど出てきません。その家族達も決戦の場には同席しません。漢達が自身と国家と民族の誇りを掛けて戦う場に、家族は不要です。あくまでも家族は「帰るべき場所」であり、誇りと尊厳は命をかけて守るべきものです。そのイップとハンの決意との対比として描かれるタイラー・ツイスターのなんとまぁ軽いことよ(苦笑)。
彼は絵に描いたような「調子コいてる嫌味な外人」像を存分に発揮し、同情の余地が無い完全なる悪として映画に華を添えます。前作で空手家・三浦将軍を演じた池内博之よりも明らかにマッチョなツイスターは、それだけで一目で分かるほど「細身vsマッチョ」「香港vsイギリス」「カンフーvsボクシング」「平和主義者vs荒くれ者」という対立構造を強調してきます。それがより一層、細身でちっちゃいドニー・イェンの凄みを引き出していきます。
本作において、ドニー・イェンは都合8回の対決で武術を披露します。最初の二回は素人相手のいわばデモンストレーション的な手合わせ。次の一度は本作内で唯一武器を使用する魚市場での2対多数の大乱闘。そして達人との三回の戦いと、ハンとの一騎打ち。最後に対ツイスター戦。最初から最後まで無敵の強さを見せながらも、ドニーの人間的な魅力と華麗さによって、ワクワクというよりは惚れ惚れとするアクションを披露してくれます。実は個人的な2010年ベスト10の隠れ4位がカンフー映画をパロディ的に脱構築した「ギャランツ~シニアドラゴン龍虎激闘」だったのですが、本作のようなド直球でハイレベルなカンフー映画を見せられると改めてその魅力というか凄みに恐れ入る気分です。やれアクション映画はもうタイの時代だなんだと言っていますが、私達にはまだドニー兄貴がいるんです!!!

【まとめ】

間違いなく香港アクション映画の歴史に残る名作です。五年後、十年後になっても間違いなくアクション映画の定番として長く見られることになるでしょう。こんな素晴らしい作品を映画館でやっているわけですから、これはもう行かないわけにはいきません。絶っっ対に損はしません。行っとくべきです。というか必須です。自信を持ってオススメできます。
カンフー最高!!!!!!!

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記事の評価
キック・アス

キック・アス

本日は満を持して

キック・アス」を見ました。

評価:(100/100点) – 男は思い立ち、調子に乗り、挫折し、決意を胸に真の英雄になる!!!


【あらすじ】

コミックオタクで冴えないデイヴ・リズースキーは思い立ち、ebayで買ったコスチュームと靴を身につけヒーロー・キックアスになった。彼はパトロール中に偶然遭遇した車上荒らし達を止めようとするが、返り討ちに会ったあげく、朦朧としたところを車に撥ねられて全身を骨折してしまう。しかしそんなことで彼のヒーロー熱は冷めなかった。神経麻痺により痛みを感じなくなった彼は、生まれ変わったヒーロー・キックアスver2としてギャング達に襲われた男を助け、一躍スターになる。
そんな彼はある日意中の彼女・ケイティからヤク中の男に付きまとわれていると相談を受ける。キックアスの衣装に身を包み、意気揚々と男のアジトへと向かうデイヴだったが、、、、。。

【三幕構成】

第1幕 -> キック・アスの誕生と挫折。
 ※第1ターニングポイント -> キック・アスが人気者になる。
第2幕 -> ビッグダディとヒットガール。
 ※第2ターニングポイント -> ビッグダディが殺される。
第3幕 -> 復讐。


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【感想】

本日のレイトショーは満を持して「キック・アス」です。マーヴェルのアイコン・レーベルから発売されたコミックスが原作ですが、連載当初から映画化を前提に作られていたため、どちらが原作というよりは同時制作のような形になっています。アメリカでの評判や9月の「第3回したまちコメディ映画祭in台東」での先行上映の大評判ぶりからか、連日TOHOシネマズ川崎ではソールドアウト状態でまったくチケットがとれなくなっています。今日もレイトショーだというのに一列目以外は完全に満席でした。

話の概略

本作は一応カテゴリとして「コメディ」となっていますが、笑える要素が多いというだけで内容自体はいたってシリアスかつ王道なヒーローものに仕上がっています。作中では何度もバットマンやスパイダーマンを意識した台詞が登場します。つまり、この作品内では現実の私たちと同じように「ヒーローもの」の映画やコミックがあって、そういった内容を前提とした上で「ヘタレなオタクが真のヒーローになるまで」を重たいテンションと残酷な描写と、そして時折混じる笑いによって手際よく描いて見せます。
本作の主人公・デイヴはごく平凡で冴えない学生です。彼は毎日オタク友達と漫画カフェに入り浸り、女友達もいなく、バカ話をして過ごしています。そんな彼がガッツだけでスーパーヒーローになっていくわけです。そこには当然血も流れますし、苦悩も経験します。悪者達を華麗で無邪気に殺すヒットガールを目の前にして、彼は恐怖し一度はヒーローになることを捨てようとします。しかし暴力の連鎖は止まらず、マフィアとビッグダディ達との抗争に嫌でも巻き込まれてしまい、ついには逃げられない状態にまで追い込まれます。当初気軽にヒーローを目指していた彼は、スパイダーマン・ピーター・パーカーの台詞である「力には責任が伴う」と言う言葉を引用し、「力が無くても責任はあるんだ」と考えるに至ります。そして平凡な彼は、精一杯の正義感と勇気でもって、ついには真の意味でスーパーヒロイン・ヒットガールの相棒になります。
この物語は、私たちと同じ平凡な人間が「ヒーローになりたい」という無邪気な夢から調子に乗ってしまったことで本物の復讐劇に巻き込まれ、やがては挫折や痛みを知って真のヒーローに生まれ変わるまでを軽やかで残虐で誠実に描きます。本作は英雄譚であり、そこにはマッチョもスーパーマンも超人も居ない、平凡な人間達のあがきと苦悩とそして最後に訪れる真のヒーローへのカタルシスが詰まった大傑作です。

原作グラフィックノベルについて

原作グラフィックノベルは小学館集英社プロダクションから邦訳版が出ています。2008年2月から2010年2月まで全8冊の小冊子で刊行されたコミックスをまとめたものです。実際にグラフィックノベルと映画を比較すると、プロットはほぼ一緒でもまったく内容・印象が異なる作りになっています。
グラフィックノベル版と映画版の決定的な違いは、デイヴの性格設定とビッグダディ達の動機付けの部分です。
グラフィックノベル版ではデイヴはギーク特有の嫌味で根暗な部分が前面に出てきます。グラフィックノベルにおけるデイヴは、正義のために立ち上がるというよりはむしろ名声や優越感のためにヒーローになりたがります。彼が明確に「正義」を意識して行動を起こす場面は、火事に遭遇する第5話の1カ所のみです。このため、全体を通して自虐的で選民的な、感じの悪いオタク少年の自己憐憫が中心になります。
そしてビッグダディの部分です。こちらは映画版とはまったく異なります。ビッグダディはただのコミックオタクであり、自身がヒーローになるために勝手にストーリーを妄想してギャングに突っかかっていきます。そしてその自分の夢に娘を巻き込みます。こちらの設定は本当に救いやカタルシスがありません。ビッグダディはダメ人間のままで死にますし、デイヴも流されるだけ流されて手ひどい目に遭います。ただ、唯一ヒットガールにとっては、「親の敵討ち」という父の妄想が現実になるわけで、そこでまさに漫画的なヒロインに”一瞬だけ”なります。しかしヒットガールは何を得るでもなく鬱屈した日常へと戻っていきます。
グラフィックノベル版におけるテーマを考えるとすれば、それは「ヒーローなんて居るはずがない」という現実と絶望であり、しかしその一方で時折奇跡的に「ヒーローになってしまう瞬間がある」という幻です。
一方、映画版においては作りがぐっとシンプルかつエンターテイメント寄りになっています。ビッグダディ達とフランク・ダミコ・ファミリーの抗争や因縁は本物ですし、その中でキックアスが右往左往して巻き込まれながらも真のヒーローへと成長するのも本当です。そしてヒーローもののお約束であるヒロインとのラブロマンスもあります。これは「整理した」というよりは「エンターテイメントとして再構成した」と言った方が近いかも知れません。原作ファンには「原作の鬱屈した感じが無い」と言われてしまうかも知れませんが、私は映画版のストーリーの方が好きです。

【まとめ】

全男子必見のヒーロー・ムービーです。冒頭のモノローグで「一度は考えたろう?スーパーヒーローになりたいって。」というデイヴのセリフがあります。そう、私たちは子供の頃には誰もがウルトラマンになりたかったし仮面ライダーになりたかったはずです。でも当然現実にはなれるわけもないですし、実際に悪党(※例えばヤクザ)を敵に回したらとんでもないことになるんです。本作の主人公は、ヒーローになるためにひたすら根性で歯を食いしばります。ヒーローが実在した場合に起こりうる「悪党を惨殺する」という恐怖に駆られ、そしてその責任の重さを実感し、しかし彼はそれでも正義を信じて立ち上がります。これは「もし現実にヒーローが存在したら」という私たちが一度は夢見たことのあるファンタジーに現実を突きつけた上で、それでももしかしたら居るかも知れないという希望を残す堂々たる「英雄誕生譚」です。
是非劇場の大きなスクリーンでご鑑賞下さい。タイツを着たヒーローが苦手な人でも絶対に見て損はありません。近年稀に見る少年の成長物語の大傑作です。オススメです!

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記事の評価
トロン:レガシー

トロン:レガシー

金曜のレイトショーは川崎109のIMAXで

「トロン:レガシー」を見て来ました。

評価:(50/100点) – 嫌いじゃないけどかなり単調。


【あらすじ】

デリンジャーからスペースパラノイドの権利を奪還し出世街道にのったケヴィン・フリンはエンコム社のCEOとなった。しかしその数年後、ケヴィンは息子のサムに「明日ゲームセンターへ行こう。」と約束して仕事へ向かったのを最後に消息を絶ってしまう。
それから20年後、エンコム社の大株主でありながら自堕落に過ごすサムの元に父の盟友アランが顔をだす。アランはケヴィンから預かったポケベルに着信があったことを告げ、サムにケヴィンがかつて経営していたゲームセンターに行くよう説得する。サムがゲームセンターへ行くと、そこには隠し通路があった、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> エンコム社への侵入
 ※第1ターニングポイント -> サムがグリッドへ行く。
第2幕 -> サム達の旅。
 ※第2ターニングポイント -> サムがケヴィンのディスクを奪い返す。
第3幕 -> 結末


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【感想】

今秋の金曜新作レイトショーは往年の珍作SF映画「トロン」の続編、「トロン:レガシー」です。ロビン・フッドと並ぶお正月大作映画ということもあって、レイトにも関わらず川崎IMAXはチケット完売でした。久々に完全に埋まった劇場です。

前作「トロン」とその影響

本当にいまさらなんですが、一応のおさらいということでさらっと書いてしまいます。1982年に公開された「トロン」は興行的にはコケました。偶然コンピュータの中に入ってしまったフリンが、その世界の独裁者を倒し”ある証拠”を探すために、盟友トロンと共に戦います。かなり一本調子な話なので面白いかと言われると微妙ですが、特筆すべきはそのアイデアです。それは「コンピュータの中に入る」という部分と「コンピュータ内のデジタル世界を擬人化する」という部分です。透過光エフェクトのような蛍光灯のような独特なレトロSFテイストのアニメで合成された服は、まさに「センス・オブ・ワンダー」という名前がぴったりなワクワクを誘います。今見ると非常にショボいCG風景も、コンピューター内部の表現としては大変刺激的です。そしてなによりテンションが上がるのがライトサイクル戦です。コンピューターゲームをそのまま映像化したシーンは、まさにCG映画かくあるべしという素晴らしい物でした。
そしてこの2つのアイデアはその後「ニューロマンサー(1984)」、「攻殻機動隊(原作1991年)」と受け継がれ、さらにその影響下で「マトリックス(1999年)」が誕生し、それがさらに影響して今年の「インセプション」まで繋がります。「何かに入ってしまう」という類の作品は「ネバーエンディング・ストーリー(原作1979年)」や「ナルニア国物語(原作1950年)」のようなファンタジー色の強いものが多かったのですが、「トロン」のガジェット的な格好良さと相まって、一気にSFのトレンドの一つとなりました。もちろんアシモフの「ミクロの決死圏(1966)」のようなSFもあるにはありましたが、SFでありながらもファンタジーよりの描画になっています。コテコテのSFとして「トロン」は間違いなくエポックメイキングな作品でした。面白さは別にしてですけれど(苦笑)。ちなみに私は作品としてはともかくガジェットや世界観だけはかなり好きです。始めて見てから20年近く経っていますが、今でもちょくちょく見直しています。

本作のお祭り感とがっかりポイント

ここからが本題です。「トロン」という作品はCG表現のエポックメイキングとして確固たるブランド力を持っています。その続編を今作ると聞いた時点で、やはりSFファンとしては「3D表現のエポックメイキング」を期待するわけです。予告で見せる電脳世界や光るディスクはそれだけで十分にワクワクさせるものでした。
しかし、、、結果としてはまったくエポックメイキングが出来ていません。それどころか、3Dの意味すらほとんどないような演出が散見します。
本作で最も3Dを演出として利用しているのは、サムがグリッドに入る話の展開点です。そこまでの現実世界は2Dで描かれているのに対して、グリッドに入ると急に世界が3Dで広がります。これは「オズの魔法使い(1939)」でオズの国に行くとそれまで白黒だった画面がカラフルになるのと同じです。古典的な演出ではありますが、3D映画としては至極まっとうな使い方だと思います。事実、開始から1時間ぐらいは大いに楽しめます。ディスク戦、ライトサイクル戦、そして父との再会。旧作のファンならば燃えないわけがありません。
ところが、ここから先、驚くほど単調な世界と単調なストーリーになります。ただひたすら黒に蛍光白・蛍光赤が入るだけの世界。そして出口を目指すという一本調子なストーリー。ケヴィンはただの「オビワンっぽい賢者(=メンター)」として万能感を見せつけ、敵のボス・クルーはボスとは思えぬ軽さで最前線に飛び出し続けます。途中これでもかと言うほど他作品のパロディを入れ続け、あげくラストでは「そんな力があるなら最初から使えよ!!」というチート行為でもって難局を打破します。そして極めつけは前作の準主役・トロンの扱いの軽さです。本当に誰得としか言えないほどひどい扱いです。

【まとめ】

全体的には、前半の最高に楽しい60分を後半の酷いとしかいいようが無い60分で帳消しにしてしまった感じです。つまりフラットな50点というよりは、前半100点と後半0点で相殺の50点ですw そう考えると東京国際映画祭で本作の前半30分だけを先行上映したのは大正解です。
ちなみに、IMAXには本作は大変よく合っています。重低音で本当に椅子が揺れますから、グリッドに入った直後に陸橋みたいな輸送機が降りてくるシーンは迫力満点です。
また、ダフト・パンクのBGMもかなり良く出来ています。本人達もちゃっかりカメオ出演していますので、そういった見せ場も楽しみに劇場に足を運ぶのは手だと思います。ヒロインもオリエンタル感があって本当可愛いですし。
諸々の条件が揃っていただけに「惜しい」という言葉がどうしても頭から離れません。

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