トゥルー・グリット

トゥルー・グリット

月曜の春分の日は1本、

トゥルー・グリット」を見ました。

評価:(90/100点) – 小規模ながら屈指の出来。


【あらすじ】

マティ・ロスはまだ14歳の少女である。彼女の父・フランクは酒場の喧嘩に巻き込まれ殺されてしまった。マティはアーカンソーのフォートスミスに父の遺体を引き取りに訪れる。しかし彼女にはもう一つの目的があった。悲嘆にくれる母や兄弟を見た彼女は、父の仇討ちを出来るのは自分だけだと決心していたのだ。彼女はフォートスミスで屈指の暴力保安官”ルースター”・コグバーンを50ドルで雇い、父の仇トム・チェイニーが逃げ込んだインディアン・チョクトー族居留地へと向かう、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> マティとコグバーン、ラボーフとの出会い。
 ※第1ターニングポイント -> マティが川を渡る。
第2幕 -> チョクトー族居留地での旅。
 ※第2ターニングポイント -> ラボーフが追跡を諦める。
第3幕 -> トム・チェイニーとの遭遇と仇討ち。


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【感想】

月曜日は話題の西部劇トゥルー・グリットを見て来ました。監督はお馴染みのコーエン兄弟。日本では先月に前作「シリアス・マン」が公開されたばかりで立て続けの新作となります。今年のアカデミー賞では「英国王のスピーチ」に次ぐ10部門でのノミネートでしたが、結局一つもタイトルを取れませんでした。しかしアメリカでの評判は素晴らしく、私が見た回も7~8割は埋まっていました。月曜は繁華街の人通りが少なかったので、これは結構な入りだと思います。
本作は同名の映画「トゥルー・グリット(1969: 邦題「勇気ある追跡」)」のリメイクです。基本プロットは同じですが、本作ではよりマティをメインにしてキャラクターが立つようになっており、またラストも単純なハッピーエンドでは無く情緒を前面にだすようにアレンジされています。
さて、本作の何が凄いかというと、これはもう主演のジェフ・ブリッジスの溢れんばかりの人間力と、ほぼ無名ながらジェフを食ってすらいるヘイリー・スタインフェルドです。もともとの「勇気ある追跡」自体も言ってみればジョン・ウェインのアイドル映画だったわけですし、だいたい50年代・60年代の西部劇は大きくはアクション映画の一ジャンルでありアクション・スターを見るためのアイドル映画だったわけです。このあたりの事情はまったく日本の時代劇と同じで、例えば市川雷蔵だったり勝新太郎だったりのように数ヶ月に一度は主演映画が公開されるようなスターがおり、そのための薄味で定型的なストーリーが量産されていきます。「勇気ある追跡」もそういった作品の中の一つですが、他の有象無象との違いは役者達の掛け合いの凄さでした。トム・チェイニー役に名脇役ジェフ・コーリー、トムのボス・ラッキー=ネッドにはロバート・デュバル、さらには重要な情報を漏らす下っ端ムーン役でデニス・ホッパー。錚々たる悪党を向こうに回して豪傑を絵に描いたようなジョン・ウェインが突撃します。これに加えて「古き良きウェスタン」という言葉がぴったり来るような分かりやすい話と分かりやすい構図、そしてエンターテイメントとしての恋愛未満の恋の予感も入れてきます。まさにオリジナル版は「これぞ入門」と太鼓判を押せるほどオーソドックスな西部劇です。
そしてそんな古典をリメイク(正確には同一原作の再映画化)するわけですから、ここには当然「西部劇復興」「エンターテイメントの王道としての古き良きアメリカ映画」というものが入ってくるしかありません。それを象徴するのが、劇中でオーケストレーションされて何度も流れる1887年の賛美歌「Leaning on the everlasting arms(=永遠の/神の腕に抱かれて)」です。この歌の歌詞は以下のようなものです。

なんという一体感 なんという神が与え給うた喜び
永遠の腕に抱かれて
なんという祝福 なんという平穏
永遠の腕に抱かれて
全ての危機から安全で安心な
永遠の腕に抱かれて
なにを心配することがあろうか なにを恐れることがあろうか
永遠の腕に抱かれているのに
我が主のすぐ側で 平和に恵まれているのに
永遠の腕に抱かれて

拙訳ですみません。まさに本作のマティにぴったりな賛美歌の古典です。
本作のストーリーは非常にシンプルな復讐劇です。父の仇を追いかけて、曲者の凄腕保安官とちょっと間抜けなテキサスレンジャーとしっかりものの少女が珍道中を繰り広げます。そんなシンプルな話しだからこそ、こういった音楽であったり、道中の会話であったり、そういう細部が非常に重要になってきます。
このストーリーの大きなテーマは「復讐」と「正義」です。酔っ払って人を殺したトム・チェイニーは当然悪ですし、仇討ちをするマティに理があるのは明らかです。しかしその仇討ちのためにマティがやることは、例えば死体を引き渡して取引したり、直接悪ではない下っ端を死に追い詰めることです。そして全てのエンディングで彼女に残される物はなんでしょう?そういったものを全て踏まえた上での前述の「Leaning on the everlasting arms」なんです。彼女はラスト直前で誰かに抱きかかえられていませんでしたか?そしてそれは彼女にとってどういう意味があったのでしょう?
そう考えると、エンドロールでこのテーマが流れた時、これはやっぱりちょっぴり泣いちゃうわけです。
ラボーフの笑いあり、コグバーンの熱血単騎突撃あり、そしてマティの執念あり。これで文句を言ったらバチがあたるぐらい盛りだくさんのエンターテイメントです。そこにきちんと古典西部劇の情緒まで入れてくるわけですから、これを褒めずして何を褒めるかってぐらいの出来です。
とりあえず絶対見た方が良いですし、見なければ後悔すること請け合いです。大大プッシュでおすすめします!
※それとサントラも買った方が良いです。これ本当にいいですよ。

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