沈まぬ太陽

沈まぬ太陽

角川のビッグバジェット映画「沈まぬ太陽」を見てきました。
評価:(10/100点) – 大自然を最後に持ってくる映画にご用心


【あらすじ】

国民航空社員・恩地は労働組合の委員長としての活躍を疎まれ世界中をたらい回しにされる。そんな中、国民航空機墜落事故が発生する。遺族世話係として尽力する恩地は新会長のもとで抜擢され、会社の改革に着手していく。しかし、待っていたのは再度の報復人事であった。

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【感想】

演出ダメ、テーマダメ。以上!



と言いたいですが、それじゃこの映画と同じになってしまうので(笑)具体的に挙げていきたいと思います。
ちなみに、この映画は皆さんご存じの通り限りなく日航機墜落事故をモチーフとして描いています。それはもうモデルの人が透けて見えるレベルです。この「事実を元にしながらエンターテイメント性を上げるため大幅に設定変更・エピソード追加をした結果、政治的な意図すら透けて見える」という状況が随所で非難の的になっています。ただ、そこに踏み込むと色々面倒なので、今回はあくまでもフィクションとしての映画として意見を書きたいと思います。

それぞれのパート

この物語は「ひとりの真面目な男が周りの色々な(理不尽な)事件にめげずに信念を貫く」というフォーマットをとっています。すなわち、この映画は大前提として主人公・恩地に感情移入しなければいけません。これが演出家の腕な訳ですが、、、ご愁傷様です。何故かと言うところを全四部構成のそれぞれについて見ていきしょう。

1) 労働組合闘争編
冒頭、墜落事故から過去に戻る演出で労組闘争が描かれます。恩地は「劣悪な労働環境は労働者の集中力を削ぎ安全性を損なう」という主張で経営陣に冬のボーナス4.2月を要求します。ところが、肝心の「劣悪な労働環境」が描かれません。また「労働環境の改善」の話が無くひたすら賃上げのみ要求している姿を見るにつけ、とてもじゃないですが感情移入できません。「労組闘争って格好いい!」「勝ち取ったぞ!」という生き生きした雰囲気はガンガン伝わってきますが、なんというか草野球で頑張るおじさんを見るのと同じ感覚で、客観的に「よかったね。」レベルで止まってしまいます。明らかに描写が足りません。

2) 海外僻地勤務編
さて報復人事で海外に飛ばされる恩地ですが、ここでも描写不足が目立ちます。それは「恩地の会社に対する執着」と「海外僻地勤務の苦悩」です。たとえば「明日からイランに転勤ね」と言われて、普通の人はどうするでしょう? まず悩んで、次にどうしてもと言われたら会社辞めることも考えますよね。恩地も当然悩むんですが、彼は「2年我慢しろ」と言われて転勤を受け入れます。あまり元気とは言えない母親一人を残してです。ここで、「あれっ?」という感覚が出てきます。つまり、恩地の会社に対する愛です。彼は再三にわたって「労組の仲間のために」と口にするんですが、カラチ・テヘラン・ナイロビで具体的に労組をサポートすることはしません。いまいち会社にこだわってる描写が見えないので、「家族を振り回す自分勝手な男」にしか見えないんです。「そこまでして国民航空で働くことにこだわらなくてもよくないか?」と思ってしまいます。また、恩地の海外就労風景も少し出てくるんですが割と楽しくやってるんですね。ここは苦悩もきちんと見せてほしかったです。どうしても日本に帰りたいというエピソードが少なすぎます。唯一このパートのラストで、海外僻地勤務であるが故の人間として絶対に逃したくない事件を逃してしまう場面があります。ここで初めて海外勤務の苦悩が具体的になるのですが、直後に娘から届く手紙の「自分勝手なお父さん」「家族はバラバラです」という言葉にこそ観客は感情移入してしまいます。画面作りとしては渡辺謙に感情移入させて「こんなに頑張ってるのに、なんでわかってくれないんだろう」という共感をしないといけないのですが、残念な演出になっています。

3) 墜落事故編
この作品の一番のメインパートである墜落事故編です。恩地は遺族の側にたった誠意ある姿勢を見せ、遺族達の信頼を獲得していきます。ここがこの作品で一番共感を呼ぶ場面です。非常に正義感あふれる恩地は、まさに「あるべき日本男児の姿」として感情移入度MAXです。冗長な演出が目立ちますが、遺族の方々の空虚になってしまった絶望を表現するのであれば仕方のない事だと思います。

4) 会長室編
10分間の休憩を挟んで、映画は大きく動き出します。すなわち石坂浩二演じる新会長のもと会社の改革が行われます。「真摯な遺族お世話係」として評価を上げた恩地は新会長に抜擢され、会長室としてこの改革に携わっていきます。ここから、恩地は徐々にストーリーラインから外れて行きます。というのも、テーマが「大会社と政治とマスコミの腐敗」にシフトしていくからです。恩地が具体的に改革する様子はまったく描かれず、むしろかつての同士・行天が汚い手でのし上がっていく描写がメインになっていきます。フィクションなので当然最後に悪は失脚するのですが、「悪の行天」「善の恩地」という対比が弱い、もっというと「善の恩地」が並行で語られないため、カタルシスが少なく「淡々と失脚」(笑)していきます。ここも演出上どうかなと思います。また、美談に着地するために恩地の妻や子供との和解描写も描かれますが、海外僻地勤務編の移入度の低さが災いしてイマイチ乗れません。「頑固な親父が折れた」というより「家族があきらめた」様に見えてしまいます。

■ それらを総括すると、、、

ここまでざっと見てきましたが、一言で総評すると「描写が整理されていない」という事です。この物語は恩地に感情移入できない限りはまったく面白くないんです。極端な話、ダーレン・アロノフスキー監督の「レスラー」のように恩地の一人称視点を中心に描いても良かったのではないでしょうか?

テーマについて

本作のテーマは、僕の見る限り三つあるように思えます。
[1] 周囲に振り回される真面目な男の苦悩
[2] 大会社の腐敗、政治の腐敗、マスコミの腐敗
[3] 大自然のすばらしさ

まず[1]についてですが、労組での暴れっぷりを冒頭で見せられているので「振り回される」と言うところに引っかかりが残ります。また恩地も家族を振り回しているので、なんだかなぁ感が出てきてしまいます。でもテーマとしては良いと思うんですね。渡辺謙のしかめっ面にかなり助けられていますが少し残念です。

[2]については「浅薄」と言う言葉が似合います。後半にとってつけたように汚職・収賄・横領が起こるのですが、その絡繰りが非常にずさんでこの作品の制作者が真摯に考えてるとは到底思えません。ホテルの買い手と売り手の帳簿で値段が食い違っているってギャグですか?監査法人に対する冒涜ですよ。あまりにディティールがずさん過ぎて、真剣に受け取りづらいんです。もっと言うと、一般論としての判官贔屓感というか「よくわかんないけど政治家とか金持ちとかロクでもないんでしょ」という安いワイドショー感(笑)で終わってしまっています。しかもこれが後半のメインなので、作品全体がワイドショー感で包まれてしまいます。このテーマに手を出すのであれば、きちんと描かなければむしろ逆効果です。

[3]は正直に言って私は不愉快です。ご飯ブハッって奴です。本作のラストはナイロビに行った恩地がお遍路をする事故遺族に向けて送る手紙の朗読で終わります。きちんとメモとっていなかったのですが、要約すると以下のような感じです。

「お体大丈夫ですか?家族を失ったあなたの苦悩は私の想像を遙かに超えています。だから簡単に言葉で何かを言う資格は私にはありません。もし良かったら一度アフリカに来てください。ここの自然はすばらしいです。」

私にはこれを見て「大自然を目にすれば、自分の苦しみなんてちっぽけなものだと思って立ち直れるかもよ?」としか理解できませんでした。ふざけてるんでしょうか? 延々3時間30分やって来て結論それですか?
私の誤解の可能性もありますが少なくとも僕はこんな印象を持ったため、それまでの「つまんない映画」という評価から一気に「不快な映画」にランクアップしてしまいました。
超好意的に解釈すれば「大自然で癒されてください」とも取れるのですが、なんだかなぁ。冒頭でフィクションとして感想書くと言っておいて何ですが、これ日航機墜落事故の遺族が見たら、どう思うんでしょうか?作り手はエンターテインメントやるなら最低限のモラルをもって欲しいです。見終わった直後に、もし監督が目の前にいたら手が出そうな位に腹立ちました。

【まとめ】

冒頭に書いたとおり、演出駄目・テーマ駄目の最低ランク映画です。しかめっ面して真面目風なテーマを掲げれば社会派の良い映画になるわけではないという典型例です。社会派気取りで駄目な邦画の見本みたいです。
そういう意味で、邦画の現状を把握するという意味ではお勧めです。是非見てください。そして今のメジャー系邦画がいかに酷いことになっているかを見てください。
ちなみにほとんどの役者さんは頑張ってました。この点だけが唯一の救いです。でも政治家役の皆さんは腹から声を出し過ぎ。シェークスピアではないので、普通よりちょっと滑舌良いくらいでトーンを合わせて欲しかったです。
余談ですが、取って付けたような「癒し描写」って何とかなりませんね?最近の邦画に多すぎるんです。

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