イップ・マン-序章-

イップ・マン-序章-

日曜日の3本目は

イップ・マン-序章-(葉問)」です。

評価:(90/100点) – ヘンテコな歴史風アクション映画の傑作。


【あらすじ】

中国の佛山は武家(=道場)が乱立するカンフーの盛んな地である。武家通りには多くの道場が開かれ切磋琢磨している。1935年、佛山に金山找と名乗る道場荒らしが現れる。数々の武家を破り最強を自負する金山找だったが、茶屋の主人に「佛山最強の葉問師匠を倒さずにどうする」と挑発され、葉問の家を訪ねる。しかし葉問は道場を開かず、妻と幼い一人息子に愛想をつかれながらも自己修練に励む日々を送っていた、、、。

【三幕構成】

第1幕 -> 葉問と廖師匠。
 ※第1ターニングポイント -> 佛山に金山找が現れる。
第2幕 -> 金山找の道場破りと葉問。
 ※第2ターニングポイント -> 1937年、日中戦争が勃発する
第3幕 -> 日本占領下の佛山と三浦将軍の武芸修練。
 ※第三ターニングポイント -> 葉問が日本人空手家10人をまとめて倒す。
第四幕 -> 葉問vs三浦将軍


[スポンサーリンク]

【感想】

日曜の3本目は「イップ・マンー序章ー」です。新宿武蔵野館の夕方の回でしたが、キャパ133人で100人近く入っていたでしょうか。「イップ・マン2」よりも入っていました。「イップ・マン2」に武蔵野館で5,000人入ったら「イップ・マンー序章ー」を公開するという元も子もないキャンペーンをやっていまして、その結果の本作上映です。本当に5,000人入ったのかは知りませんが(笑)、フィルム1巻なら公開してペイできると見込めたというのは非常に大きいと思います。

一応前提:そもそもこれは事実ではない

まず第一の前提としてそもそもこの話は「伝記物」っぽい体裁の完全フィクションです。本作は「伝記物」の雰囲気を見せながらナショナリズムを喚起する作りになっています。プルース・リーの「ドラゴン怒りの鉄拳」等を見ていれば戦時中~戦後すぐを舞台にした香港カンフー映画で嫌味な日本人が敵役なのは常識です。確かに渋谷天馬演じる佐藤はあまりにあんまりというか、「出っ歯でカメラぶら下げてるチビな日本人像」そのまんまでちょっと腹立つんですが、映画の出来とは関係無いので政治的な部分は目を瞑りましょう。あくまでも「イップ・マン2」のあまりにあんまりな調子扱いてる白人・ツイスターを見るときのような生暖かい目で微笑ましく見ましょう。
一応、葉問の本当の略歴をざっとまとめておきましょう。
葉問は1893年、広東省・佛山の裕福な家庭の次男として生まれます。兄と姉が1人ずつ、妹が1人の6人家族です。13歳で陳華順師匠の詠春拳に入門します。15歳で香港に引っ越すと、セント・ステファンズ高校というお坊ちゃん学校に入学します。10年後の1918年、葉問は佛山に戻り警察官になります。そして警察官の傍ら、仲間に内々で詠春拳を教え始めます。そしてこの内弟子達が広東省に散らばり、詠春拳葉問派を広げていきます。
1937年に日中戦争が始まると、彼は家族と共に弟子の一人・郭富(クォック・フー)を頼り疎開します。そして1945年、終戦と同時に佛山に戻り警察官に復職します。しかしわずか4年後の1949年、中国内戦で共産党が南京を制圧すると、裕福だった葉問は共産党に財産を没収されてしまいます。路頭に迷いかけた葉問は、学生時代を過ごした香港へ逃げます。当時内戦後の食糧難で物価が高くなっており、香港に来たものの葉問は大好きなアヘンが買えませんでした(苦笑)。そこで彼はついに内弟子だけでなく本格的な詠春拳の道場を開き収入を得ることにします。この時葉問は56歳。「イップ・マン2」の舞台はまさにここです。ドニー・イエンが若すぎてピンと来ませんけど。 ちなみに「イップ・マンー序章ー」や「イップ・マン2」で葉問が吸ってたタバコっぽいものはアヘン入りですw
いろいろ弟子をとったり香港詠春拳体育会を設立したりとかありまして、1972年にガンで亡くなります。79歳でした。
ということで、本作のように1937年の日本占領下の佛山で葉問が誇りをかけて戦うというのは全くのファンタジーです。実物はその頃にはいち早く弟子の所に逃げています。この辺りをもって「中国共産党のプロパガンダ映画だ!」と非難するのはたやすいですが、本作はあくまでもエンタテイメント映画です。それは宇宙戦艦ヤマトに「65,000トンの巨大軍艦大和が空を飛ぶわけないだろ!」というのと同じなので気にするだけ野暮です。
あくまでも本作は葉問というカンフー界の有名人を題材にして、それこそ「ドラゴン怒りの鉄拳」がそうであったようにナショナリズムという分かりやすく燃える展開をベタに乗せた作品です。

テーマは一緒。語るスタイルが別。

いきなりですが、実は本作の内容は「イップ・マン2」とあまり変わりませんw 両作品ともに最終的には友情と愛国心のためにイケ好かない外人をぶちのめします。違いがあるとすれば、「イップ・マン2」が「ロッキー4/炎の友情」と同じプロットでそのまんまハリウッド映画の作りをしているのに対して、「イップ・マンー序章ー」は前半・後半でガラッと話しが変わるヘンテコな構成になっている点です。
本作の前半・道場荒らしの件と後半・三浦大佐の件はまったく別物でなんの繋がりもありません。ですが、それを「日中戦争」という歴史的事件に乗せることで「歴史物」っぽさを演出しています。適当な歴史年表をググって見てもらえれば分かりますが、歴史年表はいわゆるストーリーの本筋としての事件の他に直接本筋とは関係無い事件がちょくちょく挟まってきます。この年表の雑多煮な感じと、前半・後半でガラッと話しが変わる感じが非常に相性が良いです。言うなれば年表の箇条書きを見ている感覚です。「1935年、佛山に道場荒らしが現れる。」「1937年、日中戦争が勃発する」というような事です。
ストーリー構成としてはヘンテコながら、この「本当の歴史っぽい」という一点において、この構成は大いに効果的です。
さらに本作は時間軸とイベントの配置が見事です。前半の舞台は言うなれば活気あふれる「ヤンチャな佛山」です。ここでは夫婦漫才的なギャグがどんどん入ってきますし、悪役として登場する道場破りの金山找もコミカルで熊さんっぽい魅力を放っています。画面は彩り豊かで、爆竹や青空が花を添えます。
しかし、これが後半になると一転して超シリアスな展開になっていきます。ギャグが入る余地は無く、色あせて粉塵が舞う黄色い荒廃した佛山が舞台の大半を占めます。室内のシーンでも全体的に暗く黒く、画面からは否応なく鬱屈したプレッシャーがにじみ出てきます。そしてこの鬱屈に合わせて、どんどん葉問も感情を表情に出すようになります。前半では全く無かった葉問が怒鳴り散らすシーンが繰り返され、彼のカンフーも寸止めではなく実戦仕様で相手を破壊するようになります。こういったスクリーン自体が鬱屈した中にあって、ラストのあるイベントの直後から急に画面に色が戻り始めます。その見事さとカタルシスたるや並のアクション映画ではありません。
歴史物っぽさと相まって、気付いたら「佐藤なんざやっちまえ!!!」と葉問を応援しています。で、ふと我に返って「あれ?なんだこの反日描写。チッ。」とかなるわけですw

【まとめ】

前述したように本作はあくまでもフィクションなので日本人に対する犬畜生的な腹立つ描写は気にしないのが一番です。三浦も佐藤も「敵役」以上の何者でもありませんから。ただ冷静に考えると「三浦って普通に弱くね?」とか、「葉問師匠が武器を練習する描写がないのに棒術上手すぎじゃね?」とか気になるところは出てきてしまいます。
これは推測ですが、「イップマンー序章ー」で比較的真面目な「伝記風アクション映画」をやってヒットしたため、続編「イップ・マン2」ではより分かり易くエンタテイメント性を重視したキャラもの作品にしたという流れだと思います。見やすさで言えば「イップ・マン2」の方が格段に上ですが、見易いというのは「話しが軽い」というのと表裏一体なので(苦笑)、是非どちらも見ていただきたいと思います。
そしてさすが柔道・黒帯の池内博之。もう日本の男子若手アクション枠はアンタに任せます!!!! G.J. !!!!!
オススメかって言われれば、そりゃもうオススメしないわけにはいきません。とりあえず「孫文の義士団」の前にドニー・イエン分を補給しておきましょう。オススメです!!!

[スポンサーリンク]

記事の評価

トラックバック用URL:

http://qbei-cinefun.com/ip-man/trackback/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です